著者
久保田 雄也 赤井 久純 平田 靖透 松田 巌
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.74, no.9, pp.646-651, 2019

<p>磁性は自然科学で長年注目されてきた研究分野であり,さらにその技術応用は現代社会においてなくてはならないものとなっている.実験研究においては光をプローブとし,磁気光学効果を介して固体の磁性を調べる手法が19世紀より広く用いられている.さらに,多種元素を組み合わせた接合界面や超格子薄膜などがスピントロニクスの研究分野で近年注目を集めている背景を受け,吸収端での元素選択性と共鳴現象を利用した軟X線領域の磁気光学効果が,それら埋もれた磁性層を調べる有用な手法として期待されている.しかし,これまで軟X線領域で行われてきた研究では,磁気光学効果の一部である磁気円二色性(magnetic circular dichroism, MCD)にしか着目できておらず,もう一つの磁性パラメータである磁気旋光性も観測できる新しい測定手法と包括的な議論が求められている.</p><p>別の磁気光学効果として,可視光領域で発展してきた磁気光学カー効果(magneto-optical Kerr effect, MOKE)がある.MOKEとは右図にあるように,直線偏光の光を磁性体に照射したとき,反射光がMCDにより楕円偏光となり,さらに偏光角が磁気旋光性により変化する現象である.このときの偏光角の変化分をカー回転角といい,楕円偏光の楕円率とともに磁性情報を持つ.これら二つの物理量を測定するため,入射光の偏光を連続的に変調させる光学遅延変調法が利用されてきた.このMOKEにおいて入射光の波長を軟X線領域の磁性元素の吸収端に合わせることで,元素選択性を付加できるとともに,共鳴効果により可視光を用いるよりも巨大なカー回転角を観測でき,高精度な測定が可能であることが最近わかってきた.しかし,これまでの共鳴MOKE測定では偏光変調が可能な軟X線光源が存在しなかったため,主にカー回転角にのみ注目し,楕円率は比較的測定が困難であった.</p><p>以上の背景を受け,両者が測定可能な軟X線領域の手法として,分割型クロスアンジュレータの特性を活かした連続型偏光変調軟X線磁気分光法の開発を目指し,世界で初めてその実現に至った.分割型クロスアンジュレータに含まれる電磁石移相器へ周波数<i>ν</i>の交流電流を加えると,左右の円偏光が<i>ν</i>で連続的に切り換わるような偏光変調光源を実現できる.その光源を磁性体に入射すると,楕円率が<i>ν</i>成分として,カー回転角が2<i>ν</i>成分として得られ,ロックイン手法と組み合わせることでカー回転角と楕円率を同時にかつ精密に測定できる.この光学遅延変調法共鳴MOKEをFeナノ薄膜に対して実施し,高効率なカー回転角と楕円率の同時測定が軟X線領域において成功した.さらに,カー回転角と楕円率が同時測定可能ということは物質固有の誘電率テンソルの非対角項を完全に決定でき,物質中の電子構造や光学遷移を考察できる.実際にこのFeナノ薄膜に対するMOKE測定で得られた結果から,磁性情報を持つ誘電率テンソルの非対角項を実部虚部ともに完全に決定でき,第一原理計算による理論値と良い一致を示すことができた.</p><p>本研究において,元素選択性,バルク敏感,高感度,誘電率の決定というメリットを持ち,物質評価や理論計算に非常に有用な測定手法の開発に成功したと言える.今後,希薄磁性体や埋もれた磁性体を対象としたさらなる研究展開が期待できる.</p>
著者
久保 吉人
出版者
日本ベンチャー学会
雑誌
日本ベンチャー学会誌 (ISSN:18834949)
巻号頁・発行日
vol.31, pp.47-61, 2018-03-15 (Released:2020-09-12)
参考文献数
49

本稿は、高級扇風機と呼ばれる新市場形成を、ほぼ同時期に成し遂げた家電ベンチャー企業2社の事例研究を通じて、次のようなことを明らかにした。両社の共通点は、「風の質感」改善のために、羽根車やモータを「新技術」へ置換することで、高級扇風機という製品カテゴリーを創出した点にある。その中で、2つの企業のデザインに対する思考には、次のような違いがあった。バルミューダは、新しい多翼二重構造の羽根開発に成功したにもかかわらず、「実用性への考慮」から既存の扇風機の外観デザインに固執した。しかしながらダイソンは、空気誘引技術を採用し、外観から羽根車を排除することに成功、羽根のない扇風機という「意味の急進的な変化」においてドミナントデザインには従わなかった。また本稿は、成熟市場での新市場形成プロセスにおいて、同じ戦略を採用した両社のその後の経営成果についても分析を行った。その結果、市場参入時にドミナントデザインに従ったか否かは、新市場形成には関係が無かった。しかし、その後の製品展開が異なることを明らかにした。
著者
久保田 耕平 渡邉 花奈 川上 華子 深津 武馬 棚橋 薫彦
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.129, 2018

<p> クワガタムシ科の雌成虫は腹部末端付近に菌嚢を持ち、その中に種々の微生物が存在することが明らかになっている。中でも白色腐朽材食性のクワガタムシは分類群に特異的なキシロース発酵性の共生酵母(<i>Scheffersomyces</i>属)を保持している。 演者らは、日本産ルリクワガタ<i>Platycerus</i>属全10種15分類群の各地の個体群から共生酵母を分離した。ルリクワガタ属の遺伝的距離と共生酵母の遺伝的距離をpartial Mantel testによって比較したところ、ホストのクワガタの遺伝的距離および共生酵母の遺伝的距離はそれぞれ産地の地理的距離と有意に相関していた。また、地理的距離の影響を除去すると、共生酵母の遺伝的距離とホストのクワガタの遺伝的距離は有意に相関していた。また、クワガタの系統樹と共生酵母の系統樹は完全に一致しているわけではなかった。これらのことから、日本産ルリクワガタ属とその共生酵母は、完全ではないものの、共進化していることが明らかになった。本講演ではこれらの進化プロセスやその要因に関する仮説を解説する。</p>
著者
門馬 綱一 池田 卓史 長瀬 敏郎 栗林 貴弘 本間 千舟 西久保 勝己 高橋 直樹 高田 雅介 松下 能孝 宮脇 律郎 松原 聰
出版者
一般社団法人日本鉱物科学会
雑誌
日本鉱物科学会年会講演要旨集 日本鉱物科学会 2014年年会
巻号頁・発行日
pp.36, 2014 (Released:2019-03-20)

千葉県南房総市荒川から、千葉石と共生して産出した未命名シリカ鉱物について、新鉱物bosoite「房総石」として国際鉱物学連合新鉱物命名分類委員会の承認を受けた。房総石はケージ状骨格構造中にメタンやエタンなどのガス分子を含み、構造H型のガスハイドレートと同形構造である。
著者
小久保 達信 長岡 伸一 寺前 裕之 長嶋 雲兵
出版者
日本コンピュータ化学会
雑誌
Journal of Computer Chemistry, Japan (ISSN:13471767)
巻号頁・発行日
vol.18, no.4, pp.169-175, 2019 (Released:2020-01-28)
参考文献数
9

分子動力学プログラムLAMMPSは,分散並列処理により高い効率で実装されており,スーパーコンピュータ「京」でも,大規模なノードを使ってもよくスケールし,高性能を発揮している.LAMMPSの さらなる高速化を目指し,Mod -FixLan機能で利用されている乱数ルーチンのSingle Instruction Multi Data (SIMD/ベクトル) 化及びOpenMPでのスレッド並列化によるさらなる高速化の実現を試みた.乱数生成は逐次処理のアルゴリズムが基本でありSIMD化及びOpenMPによる並列化の難しい部分の高速化を新たに実装した.特に乱数ルーチンの実装の改良によって,全体で46%程度の性能向上が観測された.まだまだ,LAMMPSには高速化の余地がある.
著者
久保田 正 佐藤 武
巻号頁・発行日
vol.6, no.3, pp.11-17, 2008 (Released:2011-03-05)

1998年1月31日午前9時に東海大学海洋学部の近くの三保海岸に、体長約90cmの深海魚の生きたミズウオが打ち上げられた。著者の一人(佐藤)は、本種が波間から打ち上がってきた瞬間に偶然に遭遇し、その躍動的な姿を連続して撮影することができた。これらの連続した生態写真の影像は初めてのものであり、本種の生態学的研究の一環として貴重な知見となるものである。
著者
三宅 崇智 宇野 喜之 小野 信幸 雪丸 敏昭 久保 敏哉 長山 昭夫 浅野 敏之
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集B2(海岸工学) (ISSN:18842399)
巻号頁・発行日
vol.74, no.2, pp.I_85-I_90, 2018 (Released:2018-11-10)
参考文献数
2
被引用文献数
2

指宿港海岸では,突堤,離岸堤,護岸,養浜を組み合わせた面的防護工法による整備が進められている.これらの施設を整備するにあたって,地域の重要な観光資源である「天然砂むし温泉」を含む温泉地下水環境の保全が重要な課題となっている.本研究では,養浜が温泉地下水に及ぼす影響を評価することを念頭に,潮汐に伴う温泉地下水の変動特性を把握することを目的として地下水位と温度に関する4季の連続観測を行った.観測結果は,平面的かつ断面的に整理し,経時的な変化を把握した.その結果,上げ潮の時間帯では,温泉水の下に海水が浸透し,砂浜内部の温泉水が陸側に押し上げられる様子を確認した.下げ潮の時間帯では,温泉水が砂浜内部の表層を流下する様子を確認した.
著者
久保田 武
出版者
日本地理教育学会
雑誌
新地理 (ISSN:05598362)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.3-12, 1992

The outline of this paper is to report how the author, as principal of Haneda High School in Tokyo, has managed to persuade the Tokyo Metropolitan Education Board authorities to build a new type of swimming pool which makes effective use of solar energy with the help of his geographical and meteorological background.<br>The more details are as follows:<br>By comparing the data of sensible temperature of the Haneda Air Port, only two kilometers from the author's high school, with those of AMeDAS station of Nerima which is located much more inland of Tokyo, the author found the fact that the level of sensible temperature of Haneda is substantially lower than that of Nerima in early summer and early autumn during 1985-1987 (cf. Fig. 3-Fig. 8)<br>This finding definitely influenced senior officials of the Tokyo Education Board, and they permit the school to build a pool with a movable and transparent roof.<br>As an indication of sensible temperature, the author used the cooling power originally derived from A, Hill (1923). It is given by the following equation.<br>Cooling Power=(0.13+0.47&radic;v)(36.5-t) for v&ge;1.0m/sec&hellip;&hellip;(1)<br>Cooling Power=(0.20+0.40&radic;v)(36.5-t) for v&ge;1.0m/sec&hellip;(2)<br>v: wind Velocity (m/sec)<br>t: temperature (&deg;C)<br>There are two reasons why the author used this equation. Firstly, it is relatively simple and is easy to calculate (cf. (1), (2)) Secondly, the grading of the cooling power is simple, too (cf. Table 1). The authorities concerned can easily understand what these data mean even without sound Knowledge of geography and meteorology.<br>As for the reason why sensible temperature at Haneda is much lower than at Nerima is very clear. It is mostly accounted for by wind velocity and not by temperature (cf. Table 5).<br>Finally, the author thinks it profitable and effective to have a roofed swimming pool for all schools in most parts of Japan, where the swimming season in schools coincides with two cool rainy seasons; the one is in early summer called &ldquo;Baiu&rdquo;, and another comes in early autumn called &ldquo;Shurin&rdquo;, On the other hand, the hottest season of mid-summer is the only suitable season for swimming, but it is unfortunately the period of school vacation.
著者
矢羽田 彩乃 北川 雄一 大窪 歩 大久保 喬平 曽我 公平 大島 朋子 竹村 裕
出版者
一般社団法人 日本機械学会
雑誌
ロボティクス・メカトロニクス講演会講演概要集 2020 (ISSN:24243124)
巻号頁・発行日
pp.2P1-F12, 2020 (Released:2020-11-25)

This study shows the possibility of plaque detection by near-infrared hyper spectrum imaging (NIR-HSI) and machine learning without plaque stain. While the plaque stain shows where the plaque is, the plaque stain leaves color and may cause anaphylaxis. Near-infrared images are obtained from the plaque cultured teeth by NIR-HSI. RGB images of stained teeth are obtained and superimposed on the near-infrared image. The G channel of the RGB image is corrected to label the spectral data plaque or no plaque. Learning and prediction were performed by Artificial Neural Network. The proposed method showed that plaque could be detected without staining about 70% accurate.
著者
高橋 春樹 中川 隆雄 仁科 雅良 須賀 弘泰 西浦 輝浩 出ロ 善純 小林 尊志 澁谷 美穂子 佐藤 隆幸 西久保 俊士
出版者
一般社団法人 日本温泉気候物理医学会
雑誌
日本温泉気候物理医学会雑誌 (ISSN:00290343)
巻号頁・発行日
vol.72, no.1, pp.50-55, 2008 (Released:2013-03-14)
参考文献数
17

Content We investigated 76 cases during the 6-year period from 1999 to 2005 in which a patient who developed a consciousness disorder while bathing was brought to the Emergency and Critical Care Center of Tokyo Women's Medical University Medical Center East. In. 86% of the cases the patient was in cardiopulmonary arrest, and they had a group of diseases with a poor prognosis in which the outcome was death, even the 6% of the patients who were resuscitated.The most common age group was the 70-to 79-year group, which contained 46% of the patients, and those 70 years of age and older accounted for 70% of the total.  Examination was possible in 16 cases, and the most common category, in 10 of them, was “drowning/suspicion of transient ischemic attack”. Adequate examinations were not performed on the patients who died in the outpatient department. Moreover, because the autopsy rate was low, it was impossible to make a definitive etiological diagnosis. However, the fact that “many were elderly persons whose autonomic nervous system's regulatory function is reduced” and that “the incidence was highest during the winter (53% during the 3 months from December to February)” suggests involvement of cardiovascular and cerebrovascular diseases secondary to changes in blood pressure. Many preventive measures have been described in the literature, and improvement in the resuscitation rate is expected as a result of becoming familiar with. and thoroughly implementing them. All 10 cases that occurred in public baths, where the time before discovery should have been short, were cases of cardiopulmonary arrest, and it is impossible to clearly explain why resuseitation attempts failed in all 10 of them. In order to identify the causative diseases we think it would be worthwhile to consider 1) performing a whole-body CT examination after confirming death, and 2) perforrning open-chest cardiac massage (only in patients brought to the hospital within a short time).