著者
佐藤 英晶
出版者
帯広大谷短期大学
雑誌
帯広大谷短期大学紀要 (ISSN:02867354)
巻号頁・発行日
no.51, pp.47-56, 2014-03-31

平成25年9月に発表された特別養護老人ホームへの入所を要介護3以上とする入所要件の変更など、介護保険制度における施設サービスの利用抑制や費用負担の見直しなどが進んでいる。高齢者人口の増大に伴う施設サービスニーズの拡大と介護保険料の高騰や社会保障給付費の増大という需給バランスをとりながら、福祉的理念を保った制度運営が求められる。しかし、一連の制度改革の方向性は、特別養護老人ホームの施設整備を抑制するなどにより、いかに介護保険給付費の増大を抑制するかという前提の下に進められている。特別養護老人ホームの入所要件の厳格化については、国が議論してきた内容そのものに大きな誤謬があることが、各種のデータ等から明らかになった。こうした財政的事情優先の制度改革は需給バランスの偏りや福祉的理念を欠き兼ねない問題を含んでいることが示唆された。
著者
熊谷 浩一 田中 尚人 佐藤 英一 岡田 早苗 Kumagai Koichi Naoto Tanaka Eiichi Satoh Sanae Okada 東京農業大学大学院農学研究科農芸化学専攻 東京農業大学応用生物科学部菌株保存室 東京農業大学応用生物科学部生物応用化学科 東京農業大学応用生物科学部生物応用化学科 Department of Agricultural Chemistry Tokyo University of Agriculture NRIC Tokyo University of Agriculture Department of Applied Biology and Chemistry Tokyo University of Agriculture Department of Applied Biology and Chemistry Tokyo University of Agriculture
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.274-282,

長崎県対馬市は南北に長い島であり,対馬のそれぞれの農家ではサツマイモを原料とした固有の伝統保存食品である『せんだんご』を小規模に製造している。 せんだんごは,水で戻し,捏ねた生地を麺状に加工して茹であげ『ろくべえ麺』として食される。 ろくべえは,原料であるサツマイモ単体では生じ得ない食感を有していることから,せんだんごの製造工程に着目した。 せんだんごの製造には,"芋を腐らせる(発酵させる)"工程,それを丸めて数ヶ月に及ぶ軒下での"寒晒し"の工程があることから,島内各地域の「せんだんご製造農家」を訪問し,製造方法の調査を行った。 その結果,これら両工程にはカビなどの微生物が繁殖しており,黒色カビが繁殖した場合は味が悪くなるという理由からその部位が破棄され,白色や青色カビが繁殖した部位の製造が続行される。 このことから微生物の働きがあってせんだんごとなり,さらにろくべえ麺特有の食感が与えられると推察した。 さらに,せんだんご製造に重要な働きをすると考えられる微生物を特定するにあたり,数年にわたり島内の調査を重ねた結果,基本的にはせんだんご製造工程には3段階の発酵工程(発酵1(浸漬),発酵2(棚板に広げて発酵),発酵3(ソフトボール大の塊で発酵))と洗浄・成型工程の2工程4区分に分けられることが確認された。Sendango is an indigenous preserved food derived from sweet potato that is traditionally made in Tsushima, Japan located between the Korean Peninsula and Kyushu. The local people process a noodle called Rokube from Sendango and eat it with soup, fish or chicken. Rokube has a unique texture similar to konyaku, and unlike that of cooked sweet potato. There are two or three fermentation processes involved in Sendango production; therefore, we inferred that the unique texture of Rokube may result from the fermentation process. Sendango is manufactured in several farmhouses on the island ; however, the manufacturing process varies among districts. We investigated each local Sendango manufacturing process and determined the microorganisms involved in fermentation. The investigation of Sendango manufacturing procedures was carried out in three towns, Toyotama, Izuhara, and Mitsushima, by interviews and observations between December and February each year from 2008 to 2011. The processes consist of three main fermentations. In Fermentation-1 (F1), sliced or smashed sweet potatoes were soaked in cold water for 7-10 days. Gas production and film formation were observed during F1. In Fermentation-2 (F2), the soaked sweet potato pieces were piled to a thickness of 5-20cm for 20-30 days. Intense propagation of filamentous fungi was observed during F2. In fermentation-3 (F3), softball-sized lumps were formed on the sticky sweet potato by fungi. The sweet potatoes were left outside for approximately 1 month. The lumps gradually hardened by drying. Many fungal mycelia were observed on the surface of potatoes and inside the lumps during F3. The three aforementioned fermentation processes were used for Sendango production in two towns (Toyotama and Izuhara). In Izuhara, smashed sweet potatoes were placed in sandbags knit with plastic strings, and the bags were soaked in the flowing river water. The sandbags collected from the river water were left on the river bank for 20 days. F2 was carried out in sandbags. In Mitsushima, Sendango production consisted of two fermentation processes, F1 and F3. The fermentation process occurs over a long time period. The propagation of filamentous fungi was particularly intense during F2 and F3. It is thought that filamentous fungi are indispensable for Sendango production. We characterized the microorganisms participating in Sendango production based on this investigation.
著者
武田 清賢 濱田 靖弘 本間 富士夫 小川 まどか 佐藤 博紀 花野 翔眞 板野 愉朋 熊本 功 佐藤 英男 相馬 英明 佐伯 英樹
出版者
公益社団法人 空気調和・衛生工学会
雑誌
空気調和・衛生工学会大会 学術講演論文集
巻号頁・発行日
vol.2015, pp.73-77, 2016

<p>This study aims to develop an operation control method for residential CHP (Combined Heat and Power) systems with BD (Buffer Device) and PV (Photovoltaics). Energy saving and operation properties of SH (Smart House) were analyzed through demonstration experiments.</p>
著者
佐藤 英雄
出版者
和歌山大学教育学部
雑誌
和歌山大学教育学部紀要 教育科学 (ISSN:13425331)
巻号頁・発行日
vol.58, pp.67-73, 2008-02

現在の中学校は第二次大戦後に義務教育化されたが、それ以前は、高等小学校と旧制中等学校が並立していて、そこでの数学のカリキュラムを単純に対比して言えば、高等小学校では実用的色彩が濃く、旧制中等学校では学問的色彩が濃かった。新制中学校の数学のカリキュラムは基本的には旧制中学校のそれを受け継いだ。大戦後の小学・中学の新義務教育体制のもとでは、さらに、小学校算数科と中学校数学科のカリキュラムを、それ自体としてどのように位置づけるかということとともに、それらの連接関係をどのように捉えるべきかが問題となる。現在に至るまで、カリキュラムの改編は続いている。特に注意すべきは、ある内容が小学校算数に移されたり、中学校数学に移されたりしている。これは算数は数学の前段階、あるいは、数学は算数の発展段階とする考えに基いている。換言すれば、算数と数学は難易度は異なるものの、同質のものであると看做されている。著者は算数と数学は連接関係はあるが、必ずしも同質ではなく、そこにおける思考の型が異なると考える。ここで思考の型と言って、思考の質という言葉を避けたのは、そう言うと数学が算数の上位にあると解されかねないからである。それゆえ、中学校数学の指導に当たってば、思考の型の変換を教師の側が十分に意識しなければならないと考える。本稿では、このような視点で、本稿は中学校数学の「数と式」と「図形」領域について論ずる。なお、本稿は和歌山大学教育学部での講義「数学科教育法A」の概要である。
著者
村山 優子 齊藤 義仰 西岡 大 佐藤 英彦 向井 未来
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. LOIS, ライフインテリジェンスとオフィス情報システム (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.113, no.43, pp.113-119, 2013-05-09

本予稿では,本研究では,災害発生直後から必要な当事者間の意思疎通である緊急時のクライシスコミュニケーションを災害コミュニケーションと呼び,関連する研究課題を4件紹介する.災害から4ヵ月後に,被災者が避難所から移動した仮設住宅では,未だに立地条件の悪さから不便な生活が続いている.今回,無人の商店システムを運用した結果を報告する.また,復旧時には,情報の提供や取得に通信環境が整わない間,twitterが活用された.しかし,誤報も多く,その解決のために,何故,人は,他人のツイート・メッセージを転送(リツイート)するかを調査したので,報告する.また,復興状況を逐次確認できる定点観測のシステム,復興ウォッチャーについて報告する.さらに,津波の脅威を後世に伝えるための試みの,オンライン津波資料館の研究課題を述べる.以上,実践的な災害コミュニケーション支援の研究課題を紹介する.
著者
佐藤 英善
出版者
早稲田大学法学会
雑誌
早稲田法学 (ISSN:03890546)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.1-62, 1988-05-25
著者
柴田 弘文 SAXONHOUSE G DENOON David INTLIGATOR M DRYSDALE Pet 韓 昇洙 PANAGARIYA A MCGUIRE Mart 井堀 利宏 猪木 武徳 福島 隆司 高木 信二 舛添 要一 八田 達夫 安場 保吉 佐藤 英夫 PANAGARIYA Arvind CHEW Soo Hong HON Sue Soo
出版者
大阪大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1988

安全保障問題の近年の急変転は目をみはるものがある。当国際学術研究の第1年目は東西冷戦下で資本主義と社会主義の二大陣営の対立から生まれる安全保障上の緊張とそれを突き崩そうとする潜在的な両陣間の貿易拡大の欲求が共存するもとでの安全と貿易の関係を探るべくスタ-トした。ところが第2年目には、ベルリンの壁の崩壊と共に東西の対立が氷解し、自由貿易の可能性が拡大して、もはや安全保障に対する考慮は必要なく、この研究課題も過去のものになったかとさえ見えた。しかし、東西の対立の氷解が直ちに全ての対立の霧散に向かうものではなかった。民族間の局地的対立はかえって激化し、更に貿易でなく直接支配によって原油資源を確保しようとする試みは湾岸戦争を引き起こした。世界の政治の経済の根本問題が貿易と安全保障の問題と深く関わっていることを最近の歴史は如実に物語っている。本研究課題が世界経済の平和的発展の為の中心的課題であることが再度認識された。しかし貿易と安全保障の相互関係の分析に正面から取り組んだ研究は少ない。分析のパラダイムがまた確立されていないことにその理由がある。従って当研究では基礎的分析手法の開発を主目的の一つとした。先づ第一に柴田弘文とマックガイヤ-の共同研究は安全保障支出によって平和が維持される効果が確率変数で与えられるとして、安全保障支出がもたらす一国の厚生の拡大を国民所得の平時と有事を通じての「期待値」の増大として捉えて経済モデルを開発した。このモデルは例えば国内産業保護策と、安全保障支出は代替関係にあることを示唆することによって、貿易と安全保障の相互依存関係の理論的分析の基礎を提供することになった。柴田は更に備蓄手段の大幅な進歩から有事に当たっての生活水準の維持のためには全ての国内産業を常時維持することよりも安価な外国商品を輸入し、有事に備えて備蓄することの方が、効率的である点に注目して、安全保障費支出、国内産業保護、備蓄の三者の相互関係を明らかにする理論を構築した。更に柴田はパナガリヤと共同研究を行い、貿易と安全保障支出及びそれらが二敵対国の国民厚生に及ぼす効果を説明する理論を構成した。井堀は米国の防衛支出のもたらす日本へのスピルオ-バ-効果の日米経済に及ぼす影響についてのマクロ経済学的分析を行った。安場は東南アジア諸国の経済発展がアジア地域の安全保障に与える効果を研究した。佐藤は貿易と安全保障が日米の政治関係に及ぼす効果を国際政治学的に分析した。オ-ストラリヤのドライスデ-ルは近年の日本の経済力の著しい増加が太平洋地区にもたらす効果を分析した。八田はチュ-の協力を得て安全保障のシャド-プライズについての数学的理論を構築した。第2年目に基本理論の深化を主に行った。パナガリアは1990年9月に再び渡日して柴田と論文「Defense Expendtures.International Trade and Welfare」を完成した。更にチュ-ス-ホングは8月に来日し、柴田と共同研究を行い「Demand for Security」と題する共同論文の執筆を開始した。本研究の研究協力者である岡村誠は農業問題と安全保障の関係の分析を行って論文を執筆した。第3年目には理論の応用面への拡張に努力した。猪木は国の有限な人的資源を民需から軍需活動に移転することから起こる経済成長への負の効果と、軍関係機関での教育がもたらす人的資源の高度化から生まれる正の効果を比較する研究を行なった。井堀利宏は貿易関係にある二国間の安全保障支出を如何に調整するかの問題について理論的分析を行い論文を完成した。この三ヶ年に亘る日米豪の研究者による共同研究の結果、今まで国際経済学者によって無視され勝ちであった安全保障と貿易の相互維持関係を分析する基礎となる重要な手法を幾つか確立すると云う成果が得られたと考える。世界経済の安定的な発展のためには貿易と安全保障の相互関係についての深い理解が不可欠である。この共同研究課題で得られた知見を基礎として、更に高度な研究を続行することが望まれる。
著者
得丸 定子 佐藤 英恵 郷堀 ヨゼフ
出版者
上越教育大学
雑誌
上越教育大学研究紀要 (ISSN:09158162)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.257-268, 2010-02-28

核家族化, 個人化の進んでいる現代では, ペットは単なる飼育動物の域を超え「コンパニオン・アニマル」と呼ばれ, その親密な存在の死に伴う「ペットロス」という用語は, 学校教育現場でも用いられつつある。ペットの死に伴う感情やその死への関わりは, ティーチヤブル・モーメントとして「いのち教育」の好機である。しかし, それらの言葉の背後にある心情やその理解については, 十分に認識されていない現状である。ゆえに, いのち教育の一環としてのペットロスについての基礎的知見を得るために, 本調査を行った。結果として, 心理尺度では"協同努力型人生観""多彩型人生観""信仰型人生観""金銭重視型人生観"の4因子が抽出された。"協同努力型人生観"は最もペットロスに陥りやすく, "金銭重視型人生観"はペット葬に反対であり, 女性の方が男性よりもペットロスに陥りやすい結果が示された。自由記述では, 「ペット葬賛成」派が約6割を占めた。「ペット葬反対」派も回答としては反対ではあるが, その記述を考察すると「賛成」派であった。ペット喪失悲嘆から立ち直った契機としては「時間の経過」が最多であり, 先行研究で見られない記述として, 「ペットについての知識, ペットロスについてあらかじめ勉強しておく, 心の準備をしておく」が得られた。本調査により, 人生観や性別とペットロスとの関係性や, ペット葬の必要性への認識, ペット飼育の知識やペットロスについて事前学習の重要性が示され, 「いのち教育」の一環としてのペットロス学習の意義が得られた。
著者
原 千陽 佐藤 英夫 村松 周子 淺田 美咲 伊部 亜紀子 水澤 満智代 山口美沙子
出版者
一般社団法人 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
雑誌
日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 (ISSN:18817319)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.291-296, 2016-08-31 (Released:2016-09-15)
参考文献数
15
被引用文献数
2

【背景と目的】慢性閉塞性肺疾患(以下COPD)は全身の併存症による病態の悪化にも注意が必要であるが,さらに不安や抑うつを高率に合併することが指摘されている.そこで,Patient Health Questionnaire-9(以下PHQ-9)を用いてうつ病性障害の合併に関して検討した.【対象と方法】定期通院している88例の患者を対象として,COPDアセスメントテスト(以下CAT)とPHQ-9を実施した.【結果】27例,30.6%にうつ病性障害の合併が疑われた.26例はCATスコア10以上のグループであった.うつ病性障害合併群は有意にCATスコアが高く,より増悪頻度が多かった(ハイリスク).睡眠薬の服用頻度はうつ病性障害合併群で50%あった.呼吸リハビリテーションと抗うつ薬の処方により呼吸困難の軽減が得られた症例を経験した.【結語】CATスコアが高値である場合,COPDの病態悪化以外にうつ病性障害の合併も念頭に入れる必要がある.呼吸リハビリテーションや薬物療法の他に,患者とのコミュニケーション機会の増加や訪問看護等の活用も,不安や抑うつの軽減に寄与すると考えた.
著者
佐藤 英二
出版者
日本数学教育史学会
雑誌
数学教育史研究 (ISSN:13470221)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.1-12, 2022 (Released:2023-11-13)

This study examined the validity of the criticism of unit studies of mathematics education circa 1950, entailing the analysis of Yoshinobu Wada's objection to Hiraku Toyama's opinion. The result reveals the following aspects. First, when compared to academic achievement surveys circa 1940, no structural decline in academic achievement was observed during the early postwar period. The decline in academic achievement demonstrated by Shunichi Kubo was a temporary phenomenon noted immediately after World War II. Second, unit studies were criticized on the grounds that they overlooked the systematic features of mathematics. However, Wada refuted this theory by highlighting the logic that develops in children as a system. The legitimacy of Wada's logic was rooted in the arithmetic education reform implemented before the war. Third, the premise of the theory’s acceptance, which states that unit studies overlooked systematic features and its inheritance to this day, was a misreading of Wada's discourse and the 1951 Course of Study. Fourth, in the 1958 revision of the Course of Study, the principle of curriculum organization shifted from experience- to discipline-oriented learning. This shift could be understood as a change that required teachers to become increasingly aware of clarifying goals and systematizing content and simultaneously maintain the traditional educational philosophy.
著者
種村 健太郎 古川 佑介 大塚 まき 五十嵐 勝秀 相崎 健一 北嶋 聡 佐藤 英明 菅野 純
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第39回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.S5-5, 2012 (Released:2012-11-24)

個体の胎生期-幼若期の脳は、その発生-発達段階にある。その期間に、遺伝子という設計図を元にして、脳の基本構造が出来ると共に、神経活動(主に神経伝達物質とその受容体を介した神経シグナル)による微調整がなされ、脳が完成に向かう。すなわち、脳は「活動」しつつ、その「形態・機能」を完成させていく。従って、この時期の神経作動性化学物質の暴露による神経シグナルのかく乱は、一時的な神経症状を呈するだけに留まらず、脳構造や神経回路の形成過程に影響を及ぼす危険を高める。そして、こうした影響が不可逆的に固定されたまま成長した結果、成熟後に遅発性行動異常等の脳高次機能障害として顕在化することが危惧される。しかしながら、従来の神経毒性評価手法は成熟動物への化学物質投与による急性~亜急性の、痙攣、麻痺といった末梢神経毒性を主対象としており、遅発性の中枢神経機能に対する影響評価への対応は、比較的に立ち遅れてきた。こうした問題に対して、我々は、マウスを用いて、①神経作動性化学物質の胎生期~幼若期暴露、②複数の行動解析試験を組み合わせたバッテリー式の情動-認知行動解析による行動異常の検出、及び③行動異常に対応する神経科学的物証の収集、により遅発性の中枢神経毒性検出系の構築を進めてきた。 本シンポジウムでは、モデル化学物質として、イボテン酸(イボテングダケ等の毒キノコとされる一部のテングタケ属に含まれる)を用いた解析として、幼若期(生後2週齢)における単回強制経口投与による、成熟期(生後12~13週齢時)の不安関連行動の逸脱、学習記憶異常、情報処理不全といった異常行動と、それと対応する海馬の形態所見、及び遺伝子発現プロファイルについて紹介する。さらに、遅発中枢影響としての異常発現のメカニズム解明を目的とした、イボテン酸投与後の遺伝子発現変動解析結果についても議論したい。
著者
佐藤 英明
出版者
神戸大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1995

(1)アメリカの連邦遺産税と比較した場合、現在のわが国の相続税の下での非居住者への相続税は、無制限納税義務者たる居住者の場合ときわめて相違点が少ないという特徴が浮かび上がってくる。これは諸控除等の適用に関して顕著であるが、その他、日本の相続税負担がかなり重いことを考えると、租税回避に対応する規定等を整備する必要が強調される。(2)日本が現在結んでいる唯一の相続税条約であるいわゆる日米相続税条約は、相続される財産の所在を条約によって細かく決定し、それをもとに両国の課税権を決定していくという発想にもとづく所在地型条約である。しかし、1970年代以降は、被相続人の住所地をまず決定し、それをもとに各国の課税権の範囲・内容を決定していく住所地型条約が、国際的には一般化してきている。(3)わが国のように相続人の住所地によって制限納税義務者と無制限納税義務者とを区別する相続税法を有する国が、アメリカのように被相続人の国籍および住所地によって両者を区別する遺産税制の国と、住所地型条約を締結する場合には、相続人等に無制限納税義務を課す国がない場合が生じる可能性や、一見対等に見える条約により、わが国の課税権が実際上大きな制約を被る可能性が存在する。後者の問題を回避するためには、国内法において、特別な場合には、被相続人の住所地が日本である場合にも相続人に無制限納税義務を課す制度を設けることが必要であるが、そのような対処を行なうにあたっては、わが国の相続税法が遺産取得税という考え方にもとづいていることとの関係で、慎重な検討が必要である。