著者
池田 智子 鈴木 康江 前田 隆子 原田 省
出版者
日本母性衛生学会
雑誌
母性衛生 (ISSN:03881512)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.129-138, 2011-04
被引用文献数
1

本研究の目的は,(1)高校生における月経痛と関連する因子の実態調査,ならびに(2)リラクセーション法による月経痛の軽減効果を検討することである。実態調査は,高校生1,339名を対象に無記名自記式質問紙法で実施した(有効回答953名)。その結果,月経痛がある者は865名(90.8%)で,日常生活に影響があるとした者は448名(51.8%)であった。月経痛に関連する因子として,睡眠状態の不良(オッズ比:1.43,95%Cl:1.06〜1.92),生活上のストレス感(オッズ比:1.42,95%Cl:1.06〜1.90),冷えの自覚(オッズ比:1.84,95%Cl:1.40〜2.41)などが見出された。そこでストレス感と睡眠に着目し,呼吸法とアロママッサージ併用によるリラクセーション法の月経痛軽減への効果を検討した。月経痛のある高校生で研究協力の得られた者を無作為に介入群(16名)と対照群(16名)に割り付け,介入群にはリラクセーション法を実施した。介入群では,対照群に比べ月経1日目,2日目の月経痛は有意に軽減し(P<0.05),日常生活への影響は2日目で有意に減少した(P<0.05)。POMSの緊張-不安が有意に低下した(P<0.05)。リラクセーション法の実践により月経痛の軽減効果が示され,有効な対処法として活用できると考えられた。
著者
前田 英作
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. WIT, 福祉情報工学 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.102, no.319, pp.23-28, 2002-09-12

Vapnikによって提案された統計的機械学習手法であるサポートベクトルマシン(SVM)は,様々な問題に適用されてその有効性が検証されつつある.このSVMの大きな特徴の一つは,特徴空間の次元に比べてサンプル数が少ない場合,即ちいわゆるサンプルの分布がスパースな場合にも高い汎化性能を示すことにある.既存の機械学習手法の多くにおいて弱点とされていた高次元特徴空間における汎化性能の問題を克服したことで,パタン認識技術の適用領域は大きく広がった。本稿では,パタン認識技術の新しい応用先としてバイオインフォマティックスと自然言語処理を取りあげ,現在研究を進めている具体的な課題としてDNA発現解析と質問応答システムについて紹介する.また,それらを取り巻く環境,今後の課題についても触れる.
著者
田村 善蔵 森岡 朋子 前田 昌子 辻 章夫
出版者
公益社団法人日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.43, no.4, pp.339-346, 1994-04-05
被引用文献数
5 24

フルオレセイン(F)とスルホンフルオレセイン(SF)のpH0からpH10までの5×10^<-6>M水溶液の吸収スペクトルを解析した.SFはH_2SF, HSF^-及びSF^<2->からなり, 酸HAの解離定数をK_a=α_<H+>[A^-]/[HA]とするとき等吸収点の波長における吸光度からpK_<a1>=3.10,pK_<a2>=6.25であることが分かり, さらにHSF^-のスペクトルが求められ, 三つの分子種がすべてキノノイド構造をもつと推定された.FはH_3F^+, H_2F, HF^-及びF^<2->からなり, 二つの等吸収点に共通な波長における吸光度からpK_<a2>=4.20であることがわかり, さらに試行錯誤によってHF^-とH_2FのスペクトルならびにpK_<a3>=6.39とpK_<a1>=2.24が求められた.またH_2Fが一つのラクトノイド分子種と二つのキノノイド分子種の10 : 3 : 2の混合物であると推定された.
著者
小村 健 鈴木 晴彦 竹内 洋介 原田 浩之 前田 顕之 嶋田 文之
出版者
Japan Society for Head and Neck Cancer
雑誌
頭頚部腫瘍 (ISSN:09114335)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.49-54, 2001-03-25
被引用文献数
3 1

舌全摘出例の中には術後の誤嚥を防止するために喉頭全摘出術を併施せざるをえない症例がある。今回, 舌全摘出例における喉頭保存の限界について舌周囲の合併切除範囲との関係から検討した。<br>舌全摘出例における喉頭保存の条件としては, 心肺機能が良好で, 喉頭保存に対するモチベーションが高いことに加え, 上喉頭神経が温存され, 下顎骨の連続性が確保あるいは再獲得され, 中咽頭切除が一側壁までに限局することが挙げられた。また喉頭保存例では喉頭挙上術, 喉頭形成術, 輪状咽頭筋切断術等の誤嚥防止策が有効であるが, 甲状舌骨筋神経の温存は喉頭挙上術を補完する上からも重要と考えられた。
著者
小村 健 原田 浩之 前田 顕之
出版者
一般社団法人 日本口腔腫瘍学会
雑誌
日本口腔腫瘍学会誌 (ISSN:09155988)
巻号頁・発行日
vol.12, no.4, pp.391-395, 2000-12-15 (Released:2010-05-31)
参考文献数
7
被引用文献数
3 3

顎関節部の悪性腫瘍は極めてまれであり, 顎関節に原発するもの, 周囲組織に発生し顎関節に進展するもの, および顎関節に転移するものに大別される。症状は他の顎関節疾患に類似しているが, 進行は急速である。診断には詳細な病歴聴取, 視診, 触診, CT, MRI, 99mTcや67Gaシンチなどの画像診断が必須であり, 確定診断には生検ないし細胞診を必要とする。その中で超音波ガイド下穿刺吸引細胞診は有用である。治療は, 原発性腫瘍では拡大手術が第一選択となり, 経耳下腺的アプローチが有用である。進展性や転移性腫瘍では原発腫瘍の状況により放射線治療, 化学療法あるいは手術を選択し, 転移性腫瘍でもQOLの向上のための手術を検討すべきである。
著者
前田 美香
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

脊髄運動神経は、その軸索が脊髄を脱して移動していく一方で、細胞体は脊髄の内に留まり情報を受け取る必要がある。その仕組みを知る目的で、ゼブラフィッシュ胚で運動神経と移動中の神経冠細胞に発現する接着分子Tag1に注目し、研究を行った。Tag1が発現していない場合、神経冠細胞の軸索への異常な配列や細胞死、異常なSchwann細胞の分化が起こり、さらにこのような胚では運動神経細胞体の軸索からの脱落が観察された。魚類の運動神経細胞体の保持には、Tag1を介したSchwann前駆細胞の軸索への配列が重要な役割を果たしており、ニワトリやマウスと同様に神経冠由来細胞が関わっている事がわかった。
著者
河本 美津子 荒川 秀俊 前田 昌子 辻 章夫
出版者
公益社団法人日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.40, no.10, pp.537-542, 1991-10-05
被引用文献数
3 1

還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)を高感度に測定することを目的として酵素サイクリング法によりNADHを増幅させ, 化学発光法で測定する方法を検討した.酵素サイクリングに用いた酵素反応系はリンゴ酸デヒドロゲナーゼ/アルコールデヒドロゲナーゼ系で, 生成したリンゴ酸を過剰量のNADP^+とMalic enzymeによりNADPHとし, 既報の方法に従ってイソルミノール/ミクロペルオキシダーゼによる化学発光法で測定した.最適条件下でのNADHの検量域は0.01〜5pmol/assayで, 酵素サイクリングを用いない既報と比較して約1000倍感度が向上した.本法をアルカリホスファターゼの酵素活性測定に適用したところ0.036〜18amol/assayの検量域で既報と比較して約50倍感度が向上し, その精度は3.9〜6.3%(相対標準偏差)であった.更に本法を17α-ヒドロキシプロゲステロン(競合法)及びヒトじゅう毛性ゴナドトロピン(サンドイッチ法)酵素免疫測定法に応用した.
著者
亀 節子 前田 〓子 戸田 静男
出版者
関西鍼灸大学
雑誌
関西鍼灸大学紀要 (ISSN:09129545)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.1-12, 2005-05-03

『古写本鍼灸秘書 全』は、独立した内容の三部から成立しており、第一部は、禁忌や経穴を中心とした治療法、第二部は、針治諸虫論、第三部は、中世の病理観や鍼の治療法が記されている。内容、及び字体から判断して、17世紀初頭の写本であると認められるが、この時期は、我が国独自の近世医学の興隆期に相当する。現代では、1989年に開催されたジュネーヴのWHO本部での会議の結果を受け、経穴や経絡を巡って、ほぼ世界共通の認識がなされている。しかし、経穴に関しては、依然流動的な要素もあり、また逆に、有効な治療穴でありながら、時代の波の中に消えてしまった経穴の存在も考えられ得る。従って本写本は、医史学的研究の対象としてばかりでなく、現代の正穴との比較、更には有効と思われる治療法の発掘という見地からも、価値を有すると考えられる。そこで、この写本の翻字を試みた。
著者
小野智司 前田浩志 中山茂
雑誌
画像の認識・理解シンポジウム(MIRU2011)論文集
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.1705-1706, 2011-07-20

ユーザとシステムとが協調して最適化を行う協調型進化計算を用いて,画像処理フィルタを設計する方式を提案する.本方式を利用することで,探索の序盤に専門家によるフィルタ構造の設計を行い,探索の中盤以降にシステムが詳細な構造や閾値の調整を行うような探索が可能となる.逆に,探索の序盤から中盤にかけてシステムがフィルタを自動的に設計することで,利用者の発想を支援し,探索の終盤に利用者がフィルタ構造を手動で調整することも可能となる.
著者
柳下 正治 石川 雅紀 廣瀬 幸雄 杉浦 淳吉 西村 一彦 涌田 幸宏 岡山 朋子 水野 洋子 前田 洋枝 松野 正太郎
出版者
Sociotechnology Research Network
雑誌
社会技術研究論文集 (ISSN:13490184)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.49-58, 2004
被引用文献数
1 1

本稿では, 科学技術振興機構の社会技術研究プログラム「循環型社会」において採択された「市民参加による循環型社会の創生に関する研究 (2002~05年) 」として2002~03年度に実施した「ステークホルダー会議」を報告し, その結果の評価を試みる. 本研究では, 市民参加プロセスとして参加型会議「ハイブリッド型会議」を採用した. ハイブリッド型会議はステークホルダー会議と市民パネル会議から構成される. ステークホルダー会議では, 名古屋のごみ減量化取組に係わった多くのセクターの代表者の参加の下, 目指すべき循環型社会を考えるための多様な論点を検討し, それを評価軸に用いて名古屋のごみ減量化取組の評価を行うとともに, 更に名古屋が目指すべき循環型社会を具体的に検討するための要件を抽出した.
著者
奥田 誠一 前田 忠信 松澤 康男 稲泉 三丸 福井 糧 菅原 邦生
出版者
宇都宮大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

1.環境保全型農業に関する研究:病害虫防除のための新技術開発のため,有用土壌微生物を利用した土壌病害の防除法を検討するとともに,害虫の生息種及び生態について比較研究した.在来家畜の飼養管理技術に関して,卵用の在来種である紹興鴨種畜場を調査した.飼料は専用の配合飼料と川に生えているホテイアオイなどを用い,排泄物は川に流すという粗放的であるが,立地条件を生かした飼養管理を行い,3人で8000羽を管理していた.現状では環境保全型農業に近い方式であるが,多数羽飼育が求められたときの対応は今後の課題である.2.遺伝資源の開発と利用に関する研究:イネの多収技術,高品質化に関わるハイブリツドライスについて,中国では既に作付の約50%がハイブリッド品種で占められており,籾収量で1t/10a以上のかなりの多収が予想される.採種のために,細胞質雄性不稔維持系統を4列,回復系統を1列の5列-1m幅で繰返し栽植され,種子収量は150〜300kg/10a程度であるので1/100〜1/200の採種圃場が必要と推定される.浙江省から安徽省にかけての河川沿いの中山間地〜山間地では,河川敷から緩やかな斜面における水田と山の裾野部の畑にトウモロコシ,大豆,サツマイモが栽培され,トウモロコシの後に麦を入れ3年4作の輸作体系が取られ,農家の自給食糧を持続的に確保し得る生産方式が認められた.その他,ゴマ,ヘチマ,小菊(薬用茶)などの作付もあり,茶は近年の輸出用茶の需要拡大に伴い新植園が多く,きつい斜面でも開墾されていた.
著者
不二門 尚 日下 俊次 大鳥 安正 細畠 淳 三好 智満 前田 直之
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

(1)網膜色素変性モデル動物に対する、経角膜電気刺激の神経保護効果。経角膜電気刺激が視細胞に対して神経保護効果があるかどうか、遺伝的に視細胞が変性するRCSラットを用いて検討した。網膜電位図(ERG)を用いて、電気生理学的に検討したところ、生後3週から1週間に1回計4回電気刺激を行った群の網膜は、電気刺激していない群の網膜に比べて、光に対する反応が大きく、網膜機能の低下が遅延していた。また、視細胞の核が存在する外顆粒層(ONL)の厚みを電気刺激群と非電気刺激群で比較した結果、電気刺激群の網膜のONL厚は、有意に厚かった。以上の結果から、経角膜電気刺激は視細胞に対しても神経保護効果があることがわかった。(2)視神経症の症例に対する経角膜電気刺激の臨床研究。経角膜電気刺激治療を行った、虚血性視神経症12例13眼、外傷性視神経症7例7眼、視神経萎縮群8例8眼に対して、擬似光覚(phosphene)閾値、電気刺激に対する瞳孔反応の起こる閾値電流量(縮瞳閾値)、視野の面積(V/4)および視力の関係を検討した。その結果、中心部におよぶphosphene閾値は視力と相関し、周辺および中心phosphene閾値は縮瞳閾値と相関した。周辺phosphene閾値は視野の面積と相関した。また、視力の改善と中心phosphene閾値は相関した。これらの事実から、視力には中心phosphene閾値に反映される中心部の網膜機能が関係し、視野の広さには、周辺phosphene閾値に反映される周辺部の網膜の機能が反映されることを示された。また、他覚的な指標として、縮瞳閾値はphosphene閾値と相関することから、自覚的応答が不明確な場合、瞳孔反応検査は有用と考えられた。
著者
夏目 長門 酒井 映子 山中 克己 大塚 隆信 千田 彰 中垣 晴男 小島 卓 服部 正巳 前田 初彦 森田 一三 井上 誠 吉田 和加
出版者
愛知学院大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

モンゴル国において3年間に5回にわたり調査を行うとともにモンゴル人スタッフに通年依頼して調査を行った。その結果、(1)モンゴル人口唇口蓋裂発現率は、0.07%であった。(日本人口唇口蓋裂0.2%)(2) 961名の妊婦の母体環境調査を行った。(3)モンゴル人の口唇口蓋裂遺伝子レポジトリーでは、1, 999名の試料を入手できた。
著者
高谷 好一 マツラダ Mattulada 深沢 秀夫 田中 耕司 古川 久雄 前田 成文
出版者
京都大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1989

本研究計画は、これまで実施した科学研究費による海外学術調査、「熱帯島嶼域における人の移動に関わる環境形成過程の研究」(昭和55ー59年度)および「マレ-型農耕文化の系譜ー内発的展開と外文明からの変容」(昭和61ー63年度)、の研究成果を統合・総括するために計画されたものである。上記の調査によって、東南アジア島嶼部、スリランカ、南インド、マダガスカルなどのインド洋をとりまく諸地域が古くからの東西交流・民族移動によって共通の農耕文化要素をもつことが明らかになってきた。本計画は、上記二つの調査をとりまとめ、東南アジア、インド、マダガスカルにわたる、いわば「環インド洋農耕文化」ともよべる、この地域に共通の農耕文化の性格を明らかにし、海域世界の人の移動と農耕文化展開との関係を総合的に解明しようとして計画された。研究計画は、若干の補足調査を必要とするスリランカ、南インドへの分担者1名の派遣と、これまでの国外の共同研究者を招へいしての研究集会の開催、および調査成果の刊行の準備作業からなる。まず、補足調査については、分担者田中が10月21日から11月12日の派遣期間のうち前半はスリランカ、後半は南インドに滞在して調査を行い、スリランカでは分担者のジャヤワルデナが調査に参加した。スリランカでは、南西部ウェットゾ-ンの水田稲作における水稲耕作法について精査し、とくにマレ-稲作と共通する水牛踏耕や湿田散播法の分布と作業の由来などについて聴取調査を行った。また、稲品種の類縁関係からマレ-稲作との関連をさぐるための資料として、在来稲の採集・収集を行った。南インドの調査は、タミ-ルナドゥ、ケララの2州を中心にスリランカと同様の調査を実施するとともに、インジ洋交易の中継点となったカリカット、ゴアなどの港市都市を観察した。国外の分担者マツラダおよびジャヤワルデナをそれぞれ約1週間招へいし、分担者との共同研究とりまとめの打ち合せを行うとともに、平成2年1月19日と20日の2日間にわたり研究集会を開催した。研究集会では、各分担者が以下の研究報告を行い、各報告の検討と共同研究成果のとりまとめについて協議された。高谷:環インド洋をめぐる自然環境と人の移動史前田:マダガスカルとマレ-の農耕儀礼古川:環インド洋におけるアフリカ農耕とマレ-農耕田中:環インド洋に共通する稲作技術とその分布深沢:マダガスカル、ツィミヘティ族の村落、農業と牧畜マツダラ:東南アジア島嶼部の漂海民バジョウとその生業ジャヤワルデナ:スリランカ・マレ-の移住、その歴史と現在調査成果の刊行については、上記の研究報告を各分担者の責任において関連の学術雑誌に報告することが研究集会で確認された。また、研究成果を単行本として出版することが計画され、その第一段階として分担者古川が東南アジア島嶼部の低湿地に関するモノグラフをとりまとめた。これは平成2年秋に出版の予定である。
著者
真木 太一 善 功企 守田 治 新野 宏 前田 潤滋 野村 卓史
出版者
九州大学
雑誌
特別研究促進費
巻号頁・発行日
2006

台風0613号は9月10日にフィリピン沖で発生し、石垣島に接近した後、東シナ海を北東進して佐世保市付近に上陸し、大きい被害を与えて玄界灘から日本海に抜けた。風速は石垣島で69.9m/s、長崎県で50m/sを越えた。佐賀県唐津市の大雨は、台風が2000kmも離れていた時の前線刺激に起因する。豪雨と土砂災害の特徴が解明された。竜巻が宮崎県や大分県で5個発生し、特に延岡市では、列車の転覆被害があり、3名の死者が発生した。佐賀・長崎県を中心に潮風害が非常に激しく、米の作況指数が佐賀地域で42であり、潮風害と海岸からの距離との関連性が調査され、指数関数的に減少し15kmまで及んだ。台風時の降雨が少なく、長崎県での潮風害樹木の特徴が塩分付着との関連性から評価された。潮風害と人工衛星リモートセンシング画像評価による植生指数・健全度(NDVI)の低下との関連性が解明された。潮風害に強い防風林樹種が選定された。延岡市の竜巻はF2と評価され、長さ7.5km、最大幅200mであった。竜巻の被害特性は、屋根瓦などの二次的飛散物による増加があり、市内・住宅地での被害が大きく、突風による被害増大の関連性が評価された。また、屋根のケバラ付近の固定強度に問題があることが判った。アンテナ支線の避雷コイルの破損状況からの竜巻の特徴が解明された。宮崎県の竜巻発生頻度の多さと積乱雲発生との関連性やレインバンド中の積乱雲のモデルによるシミュレーションが評価された。竜巻発生への地形の影響の関与が調査され、半島や島の影響が空気力学的に裏付けられた。長崎県での停電、長崎・北九州の海上空港の台風害の特徴が裏付けられた。台風による高齢者や障害者の不便と支援の在り方の対応特性が提示された。台風と文教施設、農業用施設ハウスの被害から被害発生要因と対策が考察された。暴風・竜巻等によるリスク低減対策がアンケート調査や建築物の被害評価基準の問題点が指摘された。