著者
番匠谷 友紀 濱上 知宏 松井 大作 永嶋 太 小林 誠人
出版者
一般社団法人 日本外傷学会
雑誌
日本外傷学会雑誌 (ISSN:13406264)
巻号頁・発行日
pp.34.4_05, (Released:2020-09-18)
参考文献数
16

目的 : 四肢外傷に対する止血帯の適応は, 外傷性切断や血管損傷がある場合とされるが, 病院前診療で血管損傷の有無を評価することは容易ではない. 本研究はドクターヘリ (以下, DH) における止血帯の適応を明らかにすることを目的とした. 方法 : DHで止血帯を使用せず病院搬入後に止血帯を使用した症例を, 病院搬入時の創部出血の有無で搬入時出血群と搬入時止血群の2群にわけ, 救急車内でのバイタルサイン等を比較した. 体幹部外傷合併症例は除外した. 結果 : DHで止血帯を使用せず病院搬入した12例のうち6例で搬入時に創部出血を認めた. 搬入時出血群は, 搬入時止血群と比較し, 救急車内でのshock index (以下, SI) が有意に高く (1.40 vs.0.76 (p=0.03) (カットオフ値1)), 全例に血管損傷を認めた. 結語 : 救急車内でSI≧1の四肢外傷症例は血管損傷がある可能性が高く, DHで止血帯使用を考慮する必要がある.
著者
小川 夏美 Chau Bui Thi Bao 小林 誠 草野 都 粉川 美踏 北村 豊
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
pp.NSKKK-D-23-00044, (Released:2023-08-08)

本研究では電動石臼を用いた湿式微粉砕機により調製したスパイスペーストの特性と香気成分放出挙動を明らかにした. コリアンダーシードからペーストを調製し, 粉砕回数および固形分比が粒子径や分離率に及ぼす影響を調べたところ, 粉砕回数を増やすことで粒子径は小さくなり, 分離率も減少することがわかった. 固形分比は粒子径に対して有意な影響を及ぼさなかったが, 固形分が増えることで分離率が減少し, ペーストの安定性が向上した. ペーストの蛍光顕微鏡画像からは, ペースト中に油滴が分散していることがわかり, 湿式粉砕によりコリアンダーシード中の油分が放出されていることが明らかになった. コリアンダーシードペーストの香気成分放出挙動を明らかにするために, ペーストを加熱した際にヘッドスペースに放出されたβリナロールおよびカンファーを定量し, 乾式粉砕したコリアンダー粉末と水を混合した粉末液と比較した. ペーストからの香気成分放出量は粉末液と比べて少なく, また分離率が低く, 安定性の高いペーストほど香気成分の放出量が少なかった. これらの結果から固形分や油滴の分散性やペースト特性が香気成分の放出挙動に影響を与える可能性が示された.
著者
利部 なつみ 千葉 史 両角 和恵 小林 誠一 矢内 勝
出版者
一般社団法人 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
雑誌
日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 (ISSN:18817319)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.145-153, 2022-04-28 (Released:2022-04-28)
参考文献数
14

宮城県石巻市は,沿岸漁業地域で喫煙に対して非常に寛容的な地域性があった.2006年の市民を対象とした調査では,40歳以上のCOPD罹患率がNICE Studyで示された有病率より1.5倍高いことがわかった.しかし,COPD診療の医療体制は全く整備されていなかった.このような背景から,2009年に石巻地域COPDネットワーク(略称ICON)が設立された.宮城県北東部における,地域完結型・循環型の医療連携システムである.COPDの診断・治療の標準化と役割分担を効率的かつシームレスに行うだけでなく,多職種が連携してCOPD患者を包括的に評価し,個別的に介入する患者教育プログラムの展開に重点を置いている.2021年8月現在,登録医療機関は79件,登録患者数は累計833名,継続中の患者は645名となっている.これまで,医療連携及び,多職種連携による患者教育の検証を行い,得られた成果・課題を連携に反映させてきた.今後も,COPD医療連携と患者教育の実践・検証を継続し,本学会の発展に貢献していきたい.
著者
横畠 和宏 森国 麻里 小林 誠治 西森 大地 安井 正顕
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1212, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに】劇症型心筋炎は急性心筋炎の中でも重篤な臨床経過をたどるが,回復すれば遠隔期予後は比較的良好とされている。基本的治療は炎症極期における循環動態の破綻を的確に補助し,自然治癒を待つとされており,長期間不動状態となるが,その後の心臓リハビリテーション(以下,心リハ)経過の報告は少ない。今回,劇症型心筋炎症例に対して炎症極期離脱後より介入し,退院後も継続して心リハを行った症例を経験したので報告する。【方法】症例は51歳男性,感冒症状持続にて当院紹介入院。入院後急激に心機能低下,Vfを認めICU入室し,IABP,PCPS導入,大量γグロブリン療法,カテコラミン治療開始となる。2病日にLVEF10%,CCI0.7L/min/m2となった。7病日より左室壁運動は徐々に改善を認め,8病日PCPS離脱,10病日IABP抜去,14病日人工呼吸器離脱,15病日より心リハ開始となった。バイタル,自覚症状をモニタリングしつつ離床を開始した。介入当初より四肢骨格筋の筋力低下を認め,離床に併行して筋力トレーニングを実施した。18病日より歩行開始,23病日に500m連続歩行可能となり病棟ADLは自立,24病日よりエルゴメーターによる有酸素運動を開始した。28病日にCPXを施行し32病日に自宅退院となった。運動耐容能低下や労作時の易疲労は持続しており,退院後2ヶ月間週1回ペースで心リハを行い,運動,生活指導を継続,CPXにて運動耐容能の再評価を行った。【結果】心リハ介入前LVEF20%,CRP1.36mg/dlと左室収縮能,炎症反応は炎症極期に比べ改善傾向であり,退院前LVEF55%,退院2ヶ月後LVEF62%と左室収縮能は正常化した。心リハ介入前後でBNP1102.7→19.6pg/dlと改善を認めた。CPXは退院前AT8.6ml/min/kg,VE/VCO2 slope38.7,退院1ヶ月半後AT11.6ml/min/kg,VE/VCO2 slope28.7と改善傾向を認めたが,end pointは下肢疲労感であった。【考察】本症例は劇症型心筋炎による左室収縮能の低下における末梢循環不全に加えて,炎症極期における鎮静・筋弛緩剤の使用,長期不動によるdisuse atrophyを認めており,筋力や運動耐容能の低下を来たしていた。ICU生存退室者において筋力が著明に低下していることが報告されており,本症例においても同様の筋力低下が問題点に上げられた。本症例の心リハを進める上で,左室収縮能や炎症反応などの疾患特有のリスク管理のもとの離床プログラムに加えて,早期から継続的な筋力トレーニングの実施が,機能障害やQOLの低下予防に有用であったと考えられる。炎症極期離脱し,左室収縮能は退院時には改善を認めたが,筋力低下や運動耐容能の改善には時間を要し,退院後の心リハ継続の重要性を示唆する症例であった。
著者
小林 誠
出版者
公益財団法人 国際交通安全学会
雑誌
IATSS Review(国際交通安全学会誌) (ISSN:03861104)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.81-87, 2018-10-31 (Released:2018-11-01)

離島はわが国の領域、排他的経済水域等の保全、海洋資源の利用、多様な文化の継承、自然環境の保全等、重要な役割を担っている一方、四方を海等に囲まれ、人口減少が長期にわたり継続、生活に必要な物資等の輸送費用が他の地域に比べて多額となっているなど、他の地域と比較して厳しい自然的社会的条件にある。こうしたことを踏まえ、政府は離島振興法などの法律を制定するとともに、離島振興に必要となるさまざまな施策を講じている。資源エネルギー庁においては、離島における重要な移動手段となる自動車用燃料等、生活に必要不可欠な物資である石油製品の安定的な供給かつ低廉化を図る取り組みを行っている。
著者
小林 誠 北川 隆夫 藤下 雅敏 吉本 静雄 久保西 一郎 新谷 憲治 田口 博国 三好 勇夫 園部 宏
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.72, no.10, pp.1384-1390, 1983
被引用文献数
2

Pneumocystis carinii(Pc)肺炎は専ら免疫不全状態にある患者に発症する.最近CMV感染あるいは麻薬の常用が,同性愛の男性の免疫不全の原因となる可能性が指摘されている.我々は異常な性習慣や麻薬歴のない健康成人女性に発症したPc肺炎の1例を報告する.症例は37才の女性で,主訴は労作時呼吸困難.両側性びまん性胸部陰影の精査のため入院した.患者は10年間縫製業に従事しており,入院5ヵ月前の胸部X線像は正常であつた.入院第10病日に高熱が出没するようになり,次第に低酸素血症と胸部陰影が増強したため,経気管支肺生検を施行した.メテナミン銀染色で肺胞腔内に充満するPcの虫体を認めたので, TMP-SMZの内服を開始した.投与後5日目に下熱し,その後8週間で胸部陰影は全く消失し, Po<sub>2</sub>も正常化した.入院後間もなく患者は腋窩部と下腹部を中心に疥癬に罹患していることが判明し,皮膚病変は成人ではまれとされる皮下トンネルの形成が著明であつた.血清学的にCMVに対する抗体は陰性で,末梢血リンパ球数, T細胞数, B細胞数, PHAとPWMに対するリンパ球幼若化反応,末梢血単球と好中球の貧食能,免疫globulin値はすべて正常であつたが, PPD皮内反応は陰性であつた.細胞性ならびに液性免疫能が正常でかつ基礎疾患のない婦人にPc肺炎が発症した理由は明らかでないが,トンネル形成が著明な疥癬が合併したことを考えると,本例に何らかの免疫不全が存在したことは否定できない.
著者
久野 純治 坂田 清美 丹野 高三 坪田(宇津木) 恵 田鎖 愛理 下田 陽樹 高梨 信之 佐々木 亮平 小林 誠一郎
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.68, no.4, pp.255-266, 2021-04-15 (Released:2021-04-23)
参考文献数
50

目的 大規模自然災害後の被災地では生活不活発病が問題とされ,それに伴う転倒予防の必要性が高まっている。本研究では東日本大震災後の被災高齢者の新規転倒要因を明らかにすることを目的とした。方法 2011年度に岩手県沿岸部で実施された大規模コホート研究(RIAS Study)に参加した65歳以上の高齢者のうち,転倒や要介護認定,脳卒中・心疾患・悪性新生物の既往がなく,2012~2016年度までの調査に毎年参加した1,380人を対象とした。本研究では毎年の質問紙調査で一度でも転倒したと回答した者を新規転倒ありとした。新規転倒要因には,2011年度実施した自己記入式質問票,身体計測,および,握力検査から,自宅被害状況,転倒不安,関節痛,認知機能,心理的苦痛,不眠,外出頻度,既往歴(高血圧,脂質異常症,糖尿病)の有無,飲酒状況,喫煙状況,肥満度,握力を評価した。新規転倒の調整オッズ比(OR)と95%信頼区間(CI)を,年齢と居住地域を調整した多変数ロジスティック回帰分析を用いて算出した。その後,前期高齢者と後期高齢者に層化し,同様の解析を行った。結果 5年間の追跡期間中,参加者の35.5%(男性31.9%,女性37.9%)が新規転倒を経験した。新規転倒と有意に関連した要因は,男性では認知機能低下疑い(OR[95% CI]:1.50[1.01-2.22]),女性では認知機能低下疑い(1.82[1.34-2.47]),不眠(1.41[1.02-1.94]),脂質異常症の既往(1.58[1.11-2.25]),過去喫煙(4.30[1.08-17.14])であった。年齢層では,後期高齢女性で自宅半壊(7.93[1.85-33.91]),心理的苦痛(2.83[1.09-7.37])が有意に関連した。結論 男女ともに認知機能低下,女性では不眠,脂質異常症の既往,過去喫煙が新規転倒要因であった。後期高齢女性では自宅半壊と心理的苦痛が新規転倒要因となった。大規模自然災害後の転倒予防対策では従来指摘されている転倒要因に加えて,環境やメンタル面の変化にも注意する必要があることが示唆された。
著者
森野 杏子 小林 誠一 赤羽 武弘 玉渕 智昭 矢内 勝
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.105, no.7, pp.1282-1286, 2016-07-10 (Released:2017-07-10)
参考文献数
9

82歳,男性.I型呼吸不全を認め,当科入院となった.肝硬変,肝細胞癌の既往があることから,慢性肝疾患に伴う肺内シャントの存在を疑った.肺血流シンチグラフィー,100%酸素吸入法によるシャント率測定,コントラスト心エコーにより肺内シャントの存在が証明された.呼吸不全の原因を肝肺症候群と診断し,在宅酸素療法を導入した.慢性肝疾患患者における呼吸不全の原因として,肝肺症候群を念頭に置く必要がある.
著者
小野寺 克洋 玉田 勉 村松 聡士 村上 康司 奈良 正之 小松 理世 小林 誠 山田 充啓 杉浦 久敏 一ノ瀬 正和
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.105, no.3, pp.540-546, 2016-03-10 (Released:2017-03-10)
参考文献数
8

38歳,女性.多関節痛を自覚後,急速にぶどう膜炎,発熱,咳嗽,体重減少,肺門リンパ節腫脹などを認め,気管支鏡検査,ガリウムシンチなどでサルコイドーシスと診断した.急性サルコイドーシスのLöfgren症候群のうち結節性紅斑を伴わないvariant formが考えられた.全身ステロイド治療を開始し症状は速やかに改善した.本症候群は本邦で稀であり,全身症状の強いサルコイドーシスでは鑑別に挙げる必要がある.
著者
小林 誠 渡邊 定元
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集 第51回日本生態学会大会 釧路大会
巻号頁・発行日
pp.18, 2004 (Released:2004-07-30)

北海道の黒松内低地帯には,日本の冷温帯域の主要構成種であるブナ(Fagus crenata)の分布北限域が形成され,以北(以東)の冷温帯域には,ミズナラなどの温帯性広葉樹と針葉樹とからなる針広混交林が広く成立している。この現在のブナの分布域と分布可能領域との不一致については,様々な時間・空間スケール,生態学的・分布論的研究アプローチによってその説明が試みられてきている。 植生帯の境界域においてブナや針広混交林構成種には,どのような生態的特徴,個体群の維持機構が見られるのだろうか?植生帯の境界域におけるこれら構成種の種特性を明らかにすることは,植生帯の境界域形成機構の解明に際して,重要な知見を与えるだろう。これまで渡邊・芝野(1987),日浦(1990),北畠(2002)などによって,北限のブナ林における個体群・群集スケールの動態が明らかになりつつある。本研究ではこれら従来の知見を基礎とし,最北限の「ツバメの沢ブナ保護林」における調査によってブナとミズナラの動態を検討した。 ツバメの沢ブナ林においてブナ林は北西斜面に,ミズナラ林は尾根部に成立し,両者の間には混交林が成立している。1986年に設定された調査区の再測定と稚幼樹の分布調査から,(1)ブナとミズナラの加入・枯死傾向は大きく異なり,ブナは高い加入率と中程度の枯死率で位置づけられたが,ミズナラは加入・枯死率ともに小さかった。(2)ブナの稚幼樹はブナ林内・ミズナラ林内においても多数見られ,ブナのサイズ構造からも連続的な更新が示唆されたが,ミズナラの稚幼樹はほとんど見られなかった。(3)ブナは調査区内において分布範囲の拡大が見られたが,ミズナラには見られないことなどが明らかになった。これらのことは,分布最北限のブナ林においてブナは個体群を維持・拡大しているのに対し,ミズナラの更新は少なく,ブナに比べ16年間における個体群構造の変化は小さいことが明らかになった。
著者
今里 雅之 林 恒男 田中 精一 上田 哲哉 竹田 秀一 山本 清孝 武藤 康悦 磯部 義憲 上野 恵子 山本 雅一 小林 誠一郎 羽生 富士夫
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.80-84, 1990-01-01
被引用文献数
5

症例は50歳男性で,主訴は心窩部痛である.胃潰瘍の診断とともに,超音波検査で肝右葉に蜂巣状内部構造を有する比較的境界鮮明な直径7cmの腫瘤を認めた.Computed tomography(CT)では腫瘤は低吸収域で造影後には菊花状で各花弁にあたる部位の辺縁が濃染される特異な像を呈した.腹部血管造影では,腫瘍血管や圧排所見はないが毛細管相で腫瘍濃染像を認めた.腫瘍マーカーは正常であった.腫瘍の穿刺吸収細胞診では,白色の濃汁の中に線維性組織が吸引されたが炎症性変化のみで悪性所見は認めないため厳重な経過観察とした.2年後,画像的に腫瘤の増大が認められ,悪性腫瘍が否定できないために拡大肝右葉切除術を施行した.病理学的にinflammatory pseudotumorと診断された.肝原発の本疾患は文献上17例の報告しかなく,経過を追い増大を認めた症例はいまだ報告されていない.ここに文献的考察を加え報告する.
著者
森髙 初惠 小林 誠 卯川 裕一 提坂 裕子 不破 眞佐子 佐川 敦子 小野 高裕
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集 平成26年度(一社)日本調理科学会大会
巻号頁・発行日
pp.191, 2014 (Released:2014-10-02)

【目的】食塊の粘性率や密度などの物理的性質は、口腔から胃への安全な食塊の移送に影響を与えるため、嚥下機能低下者の安全な嚥下のためには重要である。水溶性あるいは不溶性の食物繊維は添加する食品のレオロジー特性やテクスチャー特性を変化させるため、安全な嚥下を確保するために他の食品と共に用いられている。本報告では、野菜ジュースの嚥下時の舌と硬口蓋の接触様相に及ぼすニンジンピューレの影響について検討した。【方法】ニンジン搾汁とリンゴ搾汁の同量混合ジュースにおいて、ニンジン搾汁部分を加熱後粉砕したニンジンピューレで0~30%置換して試料とした。被験者は21~23歳の女子学生20名とし、硬口蓋に5個の感圧点を配列した極薄型センサシートを貼付した。感圧点の位置は、硬口蓋正中部前方部・中央部・後方部と2点の硬口蓋後方周辺部とした。野菜ジュースの嚥下時の接触開始時間、ピーク出現時間、舌と硬口蓋の接触最大圧などを求めた。【結果】舌と硬口蓋の接触開始は硬口蓋正中部前方部が最も早く、次いで硬口蓋正中部中央部であり、硬口蓋正中部後方部および後方周辺部が最も遅く、この傾向は20%および30%ジュースで明確であった。舌と硬口蓋の最大接触圧の出現時間は、舌と硬口蓋の接触開始の順位と同じ傾向であった。硬口蓋正中部後方部および硬口蓋後方周辺部においては、30%ニンジンピューレ添加野菜ジュースの最大接触圧は0%ニンジンピューレ添加野菜ジュースよりも有意に大きかった。すべてのチャンネルの平均最大接触圧は、30%ニンジンピューレ添加野菜ジュースで最も大きく、次いで10%と20%ニンジンピューレ添加野菜ジュースであり、0%ニンジンピューレ添加野菜ジュースでは最も小さかった。
著者
小林 誠 渡邊 定元
出版者
日本森林学会
雑誌
日本林学会大会発表データベース 第114回 日本林学会大会
巻号頁・発行日
pp.98, 2003 (Released:2003-03-31)
参考文献数
3

ブナは冷温帯の標徴種とされ、その分布の北限は北海道南部黒松内低地帯に存在する。北海道における冷温帯領域と、冷温帯の標徴種であるブナの北限が一致しない事実は、現在に至るまで様々な説が提唱されてきているが、いまだ定説は存在しない。現在ブナ林の最北限は「ツバメの沢ブナ保護林」であり、黒松内低地帯を越え、孤立した標高約600mに成立するブナ純林である。ツバメの沢ブナ林における林分構造の調査(真山ら1988)は、1986年以降行われておらず、本研究では1986年の調査資料を基に、ツバメの沢ブナ林における林分構造、およびその16年間の推移変化を解析することを目的とした。また、ブナ個体群の動態から、急傾斜地における齢構造の連続性、ブナの分布北限域における樹齢の短命化・今後の動向を検討した。 調査地は、ブナ林分布の最北限に位置する、北海道蘭越町ツバメの沢ブナ保護林である。尾根部にはミズナラ林、北西斜面の急傾斜地にはブナ林が成立し、地形に対応した優占樹種の交代がみられる。調査は2002年6月および8月に、1986年に標高600mの等高線上に設定された水平推移帯状区(10m×190m)を使用した毎木調査、また保護林内におけるブナの胸高直径の再測を行った。これらの調査は、北海道上川支庁真山良氏からご提供いただいた1986年当時の調査資料を基に、帯状区の再現およびブナ各個体の識別を行った。また階層構造の解析には、出現した樹木の樹高を、当該群落における最高樹高の相対値であらわし、それを基に群落を5階層に分ける、渡邊(1985)の順位係数を用いたSynusiaの解析を行った。 水平推移帯状区において、北海道における林冠層構成種(M1-Sy構成種(渡邊1985))の階層分布をみると、尾根部に成立するミズナラ林においては、ミズナラ、ダケカンバが林冠層を獲得し、ブナは中間層までしか階層をすすめていなかった。しかし、ブナ林が成立する北西斜面の急傾斜地に向かうほど、ブナが林冠層に出現し、かつ各階層に連続的に存在し、後継木も多数存在していた。 またブナの直径階分布は、小径木が多数存在し、各直径階に連続的に存在するL字型分布を示したのに対し、ミズナラは小径木をほとんど欠き、ある直径階にモードを持つ分布型を示した。このように、急傾斜地においてブナのサイズ構造は連続し、連続して更新していることが示唆された。またブナは個体数が他種に比べ圧倒的に多いが、胸高断面積合計(BA)がミズナラの約40%程だったことからも、ブナの小径木の多さが伺えた。また、直径階分布の16年間の変化として、ブナは26個体が新規進界個体だったのに対し、ミズナラは1個体のみで、ブナ個体群の変化は著しかった。 ツバメの沢ブナ林における16年間のブナ個体群の動態として、直径成長量の頻度分布は、平均5.205cm、モード5.5cm、歪度0.162と、正規分布に似た分布型を示した。本州における同様の調査によると、分布はL字型分布をとることから(村井ら編1991)、直径成長量のモードは分布の北限域において高いほうへとシフトしていることが明らかとなり、相対的に成長の良い個体が多いことが伺えた。また、各直径階における成長量の平均値を表すと、ほとんどが5cm付近にあり、北限域におけるブナの肥大成長は、生育期間を通じてほぼ一定に持続されることが明らかになった。このことから、急傾斜地におけるブナのサイズ構造の連続を、齢構造の連続と置き換えることが可能となり、μ+1σ、μ、μ-1σの3つの成長パターンにおいて、樹齢の推定を試みた。その結果、枯死木のほとんどが胸高直径70から80cmだったことから、樹齢190から250年程度で枯死していくことが推定された。このことから、ブナの最高樹齢は、本州中部の分布の中心に比べ、北限域において低下していることが示唆された。 このようなツバメの沢ブナ林の様態から、更新阻害などブナにとっての生育難は見受けられず、またブナは北西斜面の急傾斜地において、個体群の再生産を持続的に行っていた。連続的な更新に起因する個体群の拡大は、ツバメの沢ブナ林域での分布拡大の可能性を示唆した。