- 著者
-
山田 康弘
- 出版者
- 国立歴史民俗博物館
- 雑誌
- 国立歴史民俗博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Japanese History (ISSN:02867400)
- 巻号頁・発行日
- vol.178, pp.57-83, 2012-03-01
縄文時代の埋葬人骨出土例を精査してみると,一個体として取り上げられた事例の中に別個体の部分骨が入っていることがある。これらの中には,頭蓋や下顎,四肢骨といった大型の部位が入っていることがあり,偶発的な混入とは考えがたいものも存在する。このような事例の多くは,これまで単独・単葬例として取り扱われてきたが,当時の人々が意図的に別個体の部分骨を合葬しているのだとすれば,それは単独・単葬例とはまた異なった,別の一葬法として認知されるべきであろう。本稿において,筆者はこのような事例を部分骨合葬例と呼び,葬法の一類型として認定するとともに,そのあり方と意義について検討を行った。その結果,このような事例は関東地方南部を中心として8 遺跡・21 例存在し,単葬の男性に女性の部分骨が入れられている事例が目立つことや,大人と子供の組み合わせの事例も存在すること,埋葬小群内にあってその構成要素となっていることなどが判明した。また,その意義を考察するために従来の合葬例の研究および死生観の研究,すなわち合葬例の被葬者は,基本的には血縁関係者同士であると考えられること,縄文時代の死生観として系譜的な死生観があり,当時の社会構造においてその基礎をなす系譜的関係は,この死生観に沿った形で存在したことなどを踏まえて,本稿では部分骨合葬例の意義を,血縁関係を含めた何らかの社会的関係性を持つ者同士で行われたものであり,その意義を系譜的な関係性を確認・存続するためのものであったと推察した。