著者
小島 拓 芳澤 享子 小野 由起子 倉部 華奈 加納 浩之 齊藤 力 小林 正治
出版者
特定非営利活動法人 日本顎変形症学会
雑誌
日本顎変形症学会雑誌 (ISSN:09167048)
巻号頁・発行日
vol.25, no.3, pp.234-240, 2015-08-15 (Released:2015-09-12)
参考文献数
21
被引用文献数
3

We present three cases in whom mental disorders appeared after orthognathic surgery.The first case was a 35-year-old female who had a history of depression. After the operation, a manic state appeared and she was diagnosed with bipolar disorder. Her medicine was changed from an antidepressant to a mood stabilizer, after which her mental condition stabilized.The second case was a 34-year-old male. He could not accept the appearance of his postoperative face, and it took about three months for him to finally accept his new appearance.The final case was a 37-year-old female. She could not accept the appearance of her postoperative face because it was not what she had expected. She began to complain about her face and became depressive, and was finally diagnosed with major depressive disorder. After administration of an antidepressant, her mental condition gradually improved.We must take into consideration the possibility that patients will develop mental disorders after orthognathic surgery, and adequate explanation and patient assessment before the operation are therefore important.
著者
武藤 崇 唐岩 正典 岡田 崇宏 小林 重雄
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.31-42, 2000-09-30 (Released:2017-07-28)

本研究は、広汎性発達障害幼児に対する適切な排尿行動の形成を目的とした。そのトイレット・マネイジメント手続きは、短期集中ホーム・デリバリー型の支援形態で実施された。まず、両親に対するインフォームド・コンセント(説明と同意)と、機能アセスメントに基づく援助計画が立案された。次に、その計画に基づいた援助がスタッフと親によって実施された。その結果、マネイジメント援助期において、定時排泄機会の設定間隔を12日間で20分間から50分間まで延ばすことが可能となった。さらにマネイジメント維持期の最終段階で排尿間隔が平均140分まで延び、自発的なトイレへの移動も観察された。また、本援助に対する両親の満足度は非常に高かった。今後は、このような支援形態での援助手続きの伝達方法をさらに検討する必要性が示唆された。
著者
太田 朝子 林 真未 宮﨑 明子 前田 哲生 越智 沙織
出版者
日本皮膚科学会大阪地方会・日本皮膚科学会京滋地方会
雑誌
皮膚の科学 (ISSN:13471813)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.187-193, 2022 (Released:2022-12-07)
参考文献数
13

症例 1 は81歳,男性。下腿の貨幣状湿疹に対して外用加療中であった。COVID-19 ワクチン初回接種翌日に瘙痒を伴う顔面紅潮や躯幹四肢の紅暈を伴う漿液性丘疹が出現,既往の下腿湿疹が増悪し,血清 TARC 値は 1,383 pg/ml であった。抗ヒスタミン薬内服とステロイド外用 2 週間後に皮疹は治癒し,血清 TARC 値は正常化した。症例 2 は22歳,女性。初診 3 週間前より両側足首の湿布接触皮膚炎に対する外用治療中,COVID-19 ワクチン 2 回目接種後に足背の瘙痒と紅斑が出現,顔面・躯幹四肢に播種状紅斑丘疹が拡大し,血清 TARC 値は 2,090 pg/ml であった。プレドニゾロン 15 mg/日内服,ステロイド外用10日後に紅斑はほぼ色素沈着となり,血清 TARC 値は正常化した。症例 3 は74 歳,女性。喘息の既往あり。急性胆管炎に対し抗菌薬を投与した10日後,COVID-19 初回ワクチンを接種し, 2 日後に接種部位同側の四肢に瘙痒を自覚,躯幹四肢に播種状紅斑が出現,血清 TARC 値は 3,862 pg/ml であった。ステロイド外用 3 週間後に紅斑は退色し,血清 TARC 値は正常化した。 過去にワクチン接種後に TARC 高値を伴った皮疹の報告例はなく,本症例は患者背景やワクチンが関与し,Th2 優位な皮膚免疫応答を誘導した可能性が示唆された。 (皮膚の科学,21 : 187-193, 2022)
著者
小林 優子
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.281-297, 2022-11-30 (Released:2022-11-30)
参考文献数
30

本研究は,日本の高等学校で行われている探究活動においてNOSが言及される場面を明らかにした。そのために,自然科学の探究を行う生徒2名と人文社会科学の探究を行う生徒2名を対象に,1年間の探究活動中の発話を記録し,質的データ分析ソフトウェアを用いて質的に分析した。NOSの要素のうち「主観性」,「科学と社会」,「科学の中の社会・文化」に着目して分析したところ,いずれの生徒においても「目的に合わせた方法」や「研究の蓄積」などのサブカテゴリーにおいて発言に深まりが見られた。このことから,NOSの指導を意識していない日本の探究活動においてもNOSについて学ばれる可能性を指摘することができる。一方で,「科学内部の社会的プロセス」や「科学者間のコミュニケーション」についてはほとんど言及されておらず,言及されるNOSには偏りがあることが明らかになった。また,これ以外のNOSについても探究活動の進捗に合わせて質的な深まりが見られた。こうした質的な深まりは,探究する領域の違いや指導形態の違い,生徒の個人的な経験や関心に影響を受けることが明らかになった。
著者
谷中 かおる 東泉 裕子 松本 輝樹 竹林 純 卓 興鋼 山田 和彦 石見 佳子
出版者
特定非営利活動法人 日本栄養改善学会
雑誌
栄養学雑誌 (ISSN:00215147)
巻号頁・発行日
vol.68, no.3, pp.234-241, 2010 (Released:2010-10-05)
参考文献数
13
被引用文献数
2 2

大豆中のイソフラボンは構造的にエストロゲンと類似しており,弱いエストロゲン様作用を発揮する.2006年に,内閣府食品安全員会は特定保健用食品から摂取する大豆イソフラボンの上限量を,通常の食事に上乗せして30mg/日と設定した.しかしながら,大豆イソフラボンや大豆たんぱく質が含まれている,いわゆる健康食品には イソフラボンの許容上限量が設定されなかった.そこで我々は,大豆が原料となっている加工食品,特定保健用食品を5品目含む健康食品10品目について,大豆たんぱく質と大豆イソフラボン含有量をそれぞれ酵素免疫測定法(ELISA)と高速液体クロマトグラフ(HPLC)法で測定した。8品目における大豆たんぱく質量は表示の90-118%が確認され,ジュニア選手用のプロテインパウダー2品目においては表示の約半分量が定量された.大豆たんぱく質を含む特定保健用食品中には表示の90-122%の大豆イソフラボンが検出された。一方,表示のない大豆たんぱく質強化食品2品目には一回摂取目安量当たり30mgを超える大豆イソフラボンが検出された。このような食品をジュニア選手が過剰に摂取しないよう注意する必要があると考えられた。(オンラインのみ掲載)
著者
若林 秀隆
出版者
日本静脈経腸栄養学会
雑誌
静脈経腸栄養 (ISSN:13444980)
巻号頁・発行日
vol.28, no.5, pp.1045-1050, 2013 (Released:2013-10-25)
参考文献数
25
被引用文献数
4

高齢者では軽度の侵襲や短期間の安静臥床でも廃用症候群を認めやすい。高齢者の廃用症候群の約9割が低栄養であり、廃用症候群は安静臥床と低栄養の両者による病態といえる。廃用症候群では二次性サルコペニアを認めることが多く、サルコペニアの原因の適切な評価と対応が重要である。高齢者の廃用症候群では低栄養、低アルブミン血症、悪液質を認める場合に機能予後が悪い。そのため、早期離床や機能訓練だけを行うのではなく、リハビリテーション栄養管理を行うことが重要である。侵襲の異化期の場合、関節可動域訓練や呼吸訓練だけでなく、座位、立位、歩行訓練を実施する。侵襲の同化期では筋力増強訓練や持久力増強訓練を行う。飢餓の場合、筋力増強訓練や持久力増強訓練は禁忌であるが、安静臥床も除脂肪体重がより減少するため不適切である。悪液質の場合、抗炎症作用のあるエイコサペンタエン酸や運動療法が有用な可能性がある。
著者
桃田 哲也 伊藤 誠子 小林 謙 三舛 信一郎 国屋 輝道
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.25, no.5, pp.453-458, 1993-09-01 (Released:2011-08-10)
参考文献数
20

私たちはバルプロ酸ナトリウム (VPA) 投与中に急性膵炎を繰り返した症例を経験した.症例はてんかんのためVPA投与約4年後に急性膵炎を発症した.一度は保存的療法により短期間で合併症もなく軽快したため, その後もVPAを服用させていた.しかしその2カ月後, 再度急性膵炎を発症した.胸水貯留も認め播種性血管内凝固症候群 (DIC) も併発したが, 保存的療法で軽快した.VPAによる急性膵炎と考え, 抗けいれん剤を変更し, 現在のところ急性膵炎の発症を見ていない.VPAによる急性膵炎の報告は比較的少ないが, 電撃的な経過で死に至ることもありVPA治療中には十分注意が必要と思われる.
著者
高林 未央
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学:美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
vol.30, pp.217-228, 2009-03-21 (Released:2017-06-12)

漫画表現において幾多も存在する漫画技法の中でも,背景技法は時間や空間,感情,雰囲気など多彩な効果を持ち,様々な方法で使われている。本論では漫画を鑑賞し,読み解くための手がかりとして,まず,漫画技法における背景の歴史と役割を考察し,現代の漫画で使われている背景技法の種類や特徴を示した。次に現代の漫画の四作品について,背景技法における作品ごとの傾向や割合を調べた結果,物語の方向性や傾向,時代,作者によって割合が違ってくることを明らかにした。そして附属中学での授業実践や大学院での予備的な模擬授業を踏まえ,漫画の背景に着目した中で,同一図柄に対し背景技法を変化させた資料を見せることで背景技法の効果を理解させ,制作へと移る授業モデルを提案した。
著者
衛藤 恵美 今岡 信介 森 淳一 若林 秀隆
出版者
一般社団法人 日本臨床栄養代謝学会
雑誌
学会誌JSPEN (ISSN:24344966)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.10-16, 2022 (Released:2022-08-25)
参考文献数
43

要旨:【目的】回復期リハビリテーション(以下,リハと略)病棟に入院した80歳以上の脳卒中患者の転帰に口腔機能がどのように影響するか明らかにする.【対象と方法】80歳以上の脳卒中患者241例を退院先が在宅か施設かで群分けし,基本属性,医学的属性,入院時および退院時の機能的自立度,口腔機能を後ろ向きに検討した.また転帰先への影響因子とカットオフ値を検討した.【結果】在宅群は,入院時ROAG得点は,有意に低値であり,入院時FIM運動項目,認知項目,退院時FIM総得点,FIM運動項目,認知項目は,有意に高値であった.多重ロジスティック回帰分析の結果,入院時ROAG総得点(オッズ比1.19)とFIM運動項目(オッズ比0.96)が在宅退院に影響を及ぼす関連要因として抽出された.またカットオフ値は,入院時ROAG総得点(≦13点)とFIM運動項目(≧30.1点)であった.【結論】入院時の口腔機能から,在宅退院が困難と予測される高齢脳卒中患者の抽出と目標設定に寄与する可能性がある.
著者
徳田 和宏 竹林 崇 藤田 敏晃
出版者
三輪書店
巻号頁・発行日
pp.1009-1013, 2019-08-15

Abstract:【目的】近年,急性期からの上肢麻痺に対する集中練習も有用とされつつある.今回,練習量確保のため病棟看護師と協働して行う病棟実施型のconstraint-induced movement therapy(CI療法)を開始したので,これらの結果について報告する.【方法】病棟実施型のCI療法を実施した脳卒中 8例について,介入前後におけるFugl-Meyer Assessment(FMA),Motor Activity Log(MAL)のamount of use(AOU)とquality of movement(QOM),Canadian Occupational Performance Measure(COPM)における満足度,遂行度を測定した.【結果】FMA,MALのAOUとQOM,COPMの満足度と遂行度のすべての項目において,有意な改善が認められていた.また,効果量についても全項目において大きな改善を認める結果であった.【結論】急性期からの病棟実施型のCI療法は,学習性不使用の防止や実生活での麻痺手を使用する行動変容に寄与できる可能性があり,中・長期予後によい影響を与える可能性が示唆された.
著者
小林 和子
出版者
富山大学
雑誌
高岡短期大学紀要 (ISSN:09157387)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.121-129, 1998

ヨーロッパ大陸のほぼ中央に位置し,周囲をドイツ語,フランス語,イタリア語の三つの大言語文化圏に囲まれたスイスは26の州から成る連邦制の多言語国家である。13世紀末の3州の同盟に始まる建国以来,連邦の機能はあくまでも強大な近隣大国の支配を排除するための政治的結束であった。強い自治権をもつ州や,この下の小さな地域共同体が文化的同一性の基盤となりそれぞれの歴史・伝統を形成してきた。このような国家の形成原理に加え,高い山々,河川・氷河・湖などの自然地理的障壁が言語を含む各地方の独自の文化の保存を促した。四つの言語圏に分かれ,三つの公用語を制定し,しかも主要言語内の方言格差が大きく必ずしも相互理解が容易でない,といった複雑な多言語状況に加え,近年の産業構造の変化,経済のグローバル化などに伴う他の諸言語の使用拡大といった社会言語的変化も見逃せない。本稿では,今日の多言語国家スイスの言語状況を分析するとともに,学校教育における言語教育の課題と動向を考察する。考察の焦点は特に初等学校段階で必修とされている第二言語教育と近年早期導入の実施や検討がなされている英語教育にあてられる。
著者
若林 秀隆
出版者
一般社団法人 日本フットケア学会
雑誌
日本フットケア学会雑誌 (ISSN:21877505)
巻号頁・発行日
vol.16, no.4, pp.171-176, 2018-12-25 (Released:2018-12-25)
参考文献数
7

【要旨】フットケアを要する足病患者では,低栄養やサルコペニアを認めることが少なくない.そのため,足病患者にはリハビリテーション(以下,リハ)栄養の考え方が重要である.リハ栄養とは,国際生活機能分類による全人的評価と栄養障害・サルコペニア・栄養摂取の過不足の有無と原因の評価,診断,ゴール設定を行ったうえで,障害者やフレイル高齢者の栄養状態・サルコペニア・栄養素摂取・フレイルを改善し,機能・活動・参加,QOL を最大限高める「リハからみた栄養管理」や「栄養からみたリハ」である.質の高いリハ栄養の実践には,リハ栄養ケアプロセスが有用である.特に従来からの栄養ケアマネジメントに存在しない,リハ栄養診断とリハ栄養ゴール設定のステップが重要である.リハ栄養介入では,レジスタンストレーニングと BCAA(分岐鎖アミノ酸)を近いタイミングで摂取することが望ましい.一方,リハ薬剤とは,フレイル高齢者や障害者の機能・活動・参加,QOL を最大限高める「リハからみた薬剤」や「薬剤からみたリハ」である.すべての足病患者に低栄養,サルコペニア,ポリファーマシーの存在を疑って,必要な場合にはリハ栄養とリハ薬剤を実践してほしい.
著者
庵本 直矢 稲垣 亜紀 柏木 晴子 竹林 崇 花田 恵介
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.78-85, 2022-02-15 (Released:2022-02-15)
参考文献数
21

今回,脳出血後に上肢麻痺を呈した2症例に対し,脳卒中後の上肢麻痺に対してエビデンスが確立された介入を麻痺手の状態に合わせて行った.また,得られた上肢機能や使用行動の改善と白質のFractional Anisotropy(以下,FA)の変化の関連性を検討した.結果,2症例ともに上肢機能や使用行動の改善が得られ,FAでは鉤状束のみが両者とも向上した.そのため,上肢機能や使用行動の改善に伴って,運動機能に関わる皮質脊髄路の可塑的変化が生じる可能性は低いと思われた.一方で,報酬系に関わる鉤状束の可塑的変化が生じる可能性が示された.
著者
小林 敦子 田中 堅一郎
出版者
The Japanese Association of Administrative Science
雑誌
経営行動科学 (ISSN:09145206)
巻号頁・発行日
vol.25, no.3, pp.185-199, 2012 (Released:2013-08-27)
参考文献数
20
被引用文献数
1 2

The purpose of this study was to examine the influence on the mental health of female workers in Japanese organizations in terms of two dimensions of gender harassment (i.e., omission and commission) toward women committed by men, as well as by other women. A questionnaire was administered to a sample of 200 Japanese working women. It revealed the following: (a) Female workers who desire to get promoted perceived discomfort in experiencing omission and commission. (b) The frequency of experiencing omission and perceiving discomfort of commission had negative effects on their mental health through OPD. (c) The frequency of experiencing omission had a direct negative impact on their mental health. (d) The perceived discomfort of commission had a direct positive impact on their mental health.
著者
芸林 民夫
出版者
札幌大学
雑誌
比較文化論叢 : 札幌大学文化学部紀要 (ISSN:13466844)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.A1-A30, 2004-03-31

2003年11月のインドでの2週間の研究活動を通して、特に印象に残ったのはカジュラホの神殿を飾る性的な彫訓群だった。疑問は、このような彫刻がなぜ神殿という聖なる建築物を飾るのか。カジュラホだけではなく、インドのいたるところの神殿に西洋の目で見れば「汚い」性的な表現が多いので、性に対するインドと西洋の違いを探ることにした。結論として西洋とインドの大きな違いは、インドの宗教と神話には、当たり前のように、男女の神々が現在まで国民の宗教活動の対象になっている。それに対して、西洋の神は一人の「父神」であり、「母神」はいない。そのために、性は宗教の中からは排除され人間の社会でもタブー視されるようになってしまった。インドでは「男根」の意味の「リンガム」や女性の「外陰部」の意味の「ヨニ」は崇拝の中心になる。現在インドでは多くの神々の中で一番人気のあるシバ神の神殿の聖なる場所で神体として「リンガム」が拝められている、その近くには必ず女性の本源シャクテイの象徴「ヨニ」が一緒に信者の崇拝を受けている。西洋の世界では、「リンガム」や「ヨ二」のような物を神とすること、または、神と関係あることは、タブー以上に冒涜になる。シバ神と奥さんパルバティ神の性交は理想的な愛の表現であり、パルバティ神は若いインド人女性たちの憧れの的である。同じように、西洋でポルノとして見られている「カマ・スートラ」は、インドでは結婚前の女性に理想的な結婚生活の手引書として渡されることもある。「悟り」(ヒンズ教では「モクシャ」)への道として、ヒンズ教の中に在るタントラは性行為を含めて、人間のあらゆる欲を清めながら実行する。特にタントリック・ヨーガの中では、性行為の「アーサナ」(ヨーガの種々の姿勢)は悟りに導くとされている。西洋の世界では、人間の死んでからの世界は「天国」で、「悟り」や「涅槃」ではない。しかし、「天国」に達するために、罪のない人生を過ごすことが条件であり、「性行為」=「罪」という考えが多く、「天」に到達する一番の妨げになる。それに対してインド(また仏教を含めてインドから始まった宗教)では、輪廻から開放する「涅槃」が目的で、性欲を含めて人間のあらゆる欲をルールにのっとって清めることにより達する。要するに、父神しかいない西洋では、性行為はタブーとされ(自然の世界では当然行われているが、神に対する良心の呵責の原因となる。)、インドでは、父親の神もいるが当然母親の神もいるから、性行為はいとも自然なことであり、そこが世界の始まりとされている。