著者
牧野 俊郎 若林 英信
出版者
京都大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

本研究は,熱工学の立場から人間の生活環境と地球の自然環境のほどよい共生を図ることをめざす萌芽的な研究である.人間の生活環境の改善はわれわれの当然の希望であり,とりわけ日本の蒸し暑い夏を快適に過ごすための努力はあってよい.ところが,その生活環境の快適さを実現するために空気調和機器(エアコン)をもってすれば,その使用電力分が地球大気に熱として放出され,さらにその電力生産にともなう熱が大気に放出されて,地球の温暖化を促進する.すなわち,エアコンに頼って快適さを追求しつづける限り,生活環境と地球環境との共生は難しい.本研究の要点は,(1)壁によるふく射冷却と(2)水蒸気を呼吸する壁である.電力よりは自然の自律制御機能に依存して人間の快適さを追及することである.本研究では,夏に涼しく冬に暖かい生活・暮らしの実現に貢献できる技術の開発のために,ふく射伝熱と水蒸気を呼吸する高熱伝導性の多孔質体に注目する.自律的な生活環境制御機能をもつ生活空間の壁をバイオマスの暖かさをもって実現することをめざす.このような人間生活と自然現象を見つめる熱工学研究の萌芽が育つことの社会的意義は大きいと考える.平成19年度(初年度)は,室内の生活空間における伝導伝熱・対流伝熱・ふく射伝熱・相変化をともなう熱・ふく射・物質輸送(heat, radiation and mass transfer)現象を考察し,その現象をよりよく制御するための生活環境自律制御型の高熱伝導性・高吸湿性の室内壁ユニット(第一壁)の開発を行った.すなわち,まず,計10種の第一壁の試料を作製した.次に,測定装置を作製し,第一壁の(有効)熱伝導率・(全垂直)放射率・平衡(質量)含水率を測定した.
著者
河田 惠昭 田中 聡 林 春男 亀田 弘行
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1996

まず、時間帯ごとの総数死者数および負傷者数の時間変化については、NHKの生活活動調査結果による在宅率などを用い、かつ阪神・淡路大震災のデータを適用して、6つの原因によるものを推定した。その結果、各原因別に時間帯ごとのピークが見出せたほか、被害者総数としては、午前8時前後に最大のピークがあるほか、昼食時や夕方のラッシュアワー時にも大きくなることが見出され、また、兵庫県南部地震が起こった午前5時46分は決して幸運な時間帯でないことが明らかとなった。ついで、被害極限の方法については、間接被害に大きく分けて経済被害と人的被害があり、後者は人命の社会的価値の喪失として位置付けられることを示し、総被害学の評価方法を提案することができた。まず、経済被害としては、阪神・淡路大震災による兵庫県の電力使用料とGRPとの関係から、およそ2兆円と推定され、現象的には復興がすでに終わっていることを示した。また、人的被害の定量化では、平均寿命とGRPとの相関と交通事故による死者、重傷者、軽傷者への保険金支払いなどのコストの比較を用いて、阪神・淡路大震災を解析したところ、およそ2兆円になり、かつこの瞬間的な影響が18年間継続し、その間の総被害額がおよそ10兆円に達することを見出した。したがって、人的被害を軽減することが総被害額を大きく減らすことにつながるという論理が証明され、被害極限には自主防災組織による人命救助の役割が大きいことを見出した。これらのデータをGISに載せ解析することを可能としたが、これまでの町丁目単位ではなく各家屋単位での計算が可能なように次世代GISを開発することを試み、その構築に成功した。これによって、被害者数などを推定しようとすれば、現状の地震動による地盤のゆれの特性(加速度や速度)の評価がまだまだ改良の余地があることを見出した。
著者
渡邉 正義 今林 慎一郎 小久保 尚
出版者
国立大学法人横浜国立大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2005

イオン液体はイオンのみからなる液体であり、不揮発性、熱安定性、不燃性、高イオン伝導性などの特徴を有するため、水、有機溶媒に続く第三の溶媒として認められつつある。本研究では、「イオン液体の自己解離性を表すパラメータ」を評価する方法を確立し、これをイオン液体の「イオニシティー」と定義した。イオン液体の性質はこのイオニシティーと密接に相関し、この値が高いイオン液体は上記のような典型的イオン液体としての性質を示すことを見出した。またイオンニシティーの評価に基づき、新しい材料やデバイスのための新型溶媒・電解質として設計された機能性イオン液体を開発した。
著者
中嶋 英昭 湊 久美子 林 喜美子 斎藤 八千代
出版者
和洋女子大学
雑誌
和洋女子大学紀要. 家政系編 (ISSN:09160035)
巻号頁・発行日
vol.40, pp.161-170, 2000-03
被引用文献数
1

生活習慣病の予防や改善に有効な運動は有酸素運動であり,それは呼吸循環系の機能向上を目指して行う運動で,最大酸素摂取量の多少で評価できる。そこで,一般女子学生を対象にトレッドミル歩・走行を行わせ,呼吸循環系機能の応答について計測した。比較のため運動部員(バスケットボール部,ソフトテニス部)についても同様に測定し,さらに15-25年前の報告とも比較した。心拍数は安静値から運動部と有意な差があり,その差は中等度の負荷でさらに広まり,一般学生・テニス部・バスケット部の間にそれぞれ約10拍/分ずつの差があった。最高心拍数は一般学生・テニス部・バスケット部それぞれ184・191・181拍/分で,運動遂行時間はそれぞれ11分20秒・12分26秒・12分56秒で,バスケット部はまだ余力がある状態かもしれない。最大酸素摂取量は一般学生34.5・バスケット部47・テニス部41ml/kg・分で,運動部との間に有意差が認められた。また15-25年前の一般学生と比較しても若干低い値であった。心拍数と酸素摂取量の関係式から考察するとバスケット部は他の群より大きく左方移動した直線で,テニス部と15年前の一般学生がほぼ同様の傾向,そして今回の一般学生は最も右寄りに位置しており,同一負荷に対して循環系がより多く負担を強いられている状態と言える。以上の結果から,今回の一般学生の呼吸循環系機能は運動部員に比較して,さらに15-25年前の一般学生と比較しても低く,日常生活の中に有酸素運動を取り入れる努力をし,呼吸循環系の機能改善を計らなければ,将来の生活習慣病が心配される。
著者
若林 攻 河野 均 佐藤 幸治 BRASS Sussan NICOLAUS Bea BOGER Peter SUSSANE Bras BEATE Nicola PETER Boger BEATE Nicoau 小川 人士 BOGER Pecter
出版者
玉川大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1996

当該研究グループの既往研究によって得られている,“Peroxidizing除草剤の作用機構:クロロフィル生合成過程のProtoporphyrinogen-IX oxidase(Protox)阻害,Protoporphyrin-IXの蓄積,エタン発生を伴うチラコイド膜の破壊,光合成色素の減少"と言う,所謂Peroxidizing植物毒性作用を説明するために,当該研究グループ提案中であった“活性酸素が関与するラジカル反応によりチラコイド膜が破壊される"とする機構の構築と確認する検討を行いこれに成功した。次に,前記の帰結の発展応用研究に当たる「ポルフィリン代謝の制御」に関する検討を行い,植物の生長調節,藻類を利用した水素生産,活性酸素の制御による疾病治療等に応用が期待される基礎的データを得た。研究成果は以下((1)〜(5))に纏められる。(1) HPLC-lsoluminol化学発光を原理とする全自動脂質分析システムを用い,protox阻害剤処理後に生ずる過酸化脂質を測定し,活性酸素が関与するチラコイド膜破壊の機構を明らかにした。(2) 緑色植物細胞系を用いて,Protox阻害剤によるチラコイド膜破壊作用を緩和させる薬剤を見出す検討を行い,光合成電子伝達系阻害剤がチラコイド膜破壊作用を緩和させることを見出した。(3) クロロフィル生合成能を有する植物培養細胞(馴化Nicotiana glutinosa,Marchantia polymorphaその他)を用いた生理活性試験を行い,上記の[1],[2]を含むPeroxidizing植物毒性作用が緑色植物の葉緑体中で普遍的に起こることを確認し,Peroxidizing除草剤の作用機構を明らかにした。(4) 得られた生理活性データに関して定量的構造-活性相関解析を行い,光存在下で活性酸素を発生させチラコイド膜破壊を誘導する新しい強力なprotox阻害剤の分子設計と合成に成功した。(5) Peroxidizerと光合成電子伝達阻害剤が藻類の光合成明反応に及ぼす効果を確認し,その結果を藻類の水素生産制御に応用する可能性を見いだした。
著者
原 美弥子 林 陸郎 鈴木 牧彦 飯田 苗恵 小林 万里子
出版者
群馬県立県民健康科学大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

本研究は1)在宅心臓病患者を対象に気功(採気体操)・太極拳による運動プログラム介入の安全性および有効性を検証する、2)地域支援型心臓リハビリテーション展開の基盤として運動継続の場を地域に設定することを目的とした。目的1)では調査研究機関の前橋赤十字病院研究倫理委員会において研究許可を得て、調査を開始したところである。研究対象者は急性心筋梗塞で、入院期間に不整脈等の合併症がなく200m歩行負荷を終了した患者を選定基準とした。退院後12週間の介入前後に心循環応答、ホルター24時間心電図による自律神経活動、包括的健康度(健康関連QOL尺度:SF-36)等を評価する。平成21年5月現在、研究協力者1名(68歳、男性)を調査介入中である。今後の研究継続により研究参加数を増やし、非監視型心臓リハビリテーションとして本研究運動プロブラムの有用性を明らかにしていく。目的2)では群馬県立県民健康大学および前橋市商工会議所との共同企画事業の一環として平成19年より地域住民を対象に「気功・太極拳教室」を開始した。平成20年は12回開催し、その教室卒業者を母体に地域住民が主体的に気功・太極拳を行う場を地域の自治会館内に設定し、グループ活動(1回90分/週)を開始した(平成20年7月発足)。その中で研究協力者16名に採気体操ビデオ(DVD)を配布し自宅での12週間継続状況を調査した。研究協力者は平均年齢64.9歳、男2名、女14名、服薬加療中は8名(高血圧・心臓病・糖尿病・高脂血症・メニエール病)、運動習慣ある5名、運動習慣ない11名であった。グループ活動中断者2名(腰痛悪化、仕事の都合)を除く参加者14名の体操実施は84日に対して平均36.4日実施率43%で、100%、98%実施者が各1名だった。今後は実施率の低い者に対する認知行動科学的介入方法を検討する必要がある。
著者
林 農 神近 牧男 若 良二 原 豊 田川 公太朗 河村 哲也 山田 廣也
出版者
鳥取大学
雑誌
地域連携推進研究費
巻号頁・発行日
2000

本研究は、世界各地の乾燥地で運転可能な風車と風力発電を開発することを目的として着手した。得られた研究業績の多くは、その取り組みの容易さから、サボニウス風車と直線翼垂直軸風車の数値シミュレーションにまず成果を得た。風車の性能試験は風洞実験施設の設計と建設に時間を必要としたこと、新技術風車もまた設計と試作に時間を必要としたので多くの研究業績を得るまでには至らなかった。この研究期間の内に挙げることができた研究業績は次のように分類することができる。(1)直接研究:サボニウス風車、垂直軸風車の数値シミュレーション、風洞実験など(2)関連研究:(a)沙漠に関する研究(b)風力発電に関する研究:(i)風況精査に関する研究(ii)風車の要素技術に関する研究本研究のために開発した風洞は、風車研究用風洞として世界に稀な特性を有する風洞である。すなわち、動翼ピッチ可変式の軸流送風機により定常風のほかに自然風のように時間とともに風速が変動する風を吹かせられる風洞であり、脈動風、突風、瞬間風の3種類の変動風パターンを発生することができる。この科学研究費補助金は地域連携を推進するための助成金であるので、地域の産学官連携に携わる人達、鳥取大学と共同研究を望む人達、流体力学の分野で活躍する研究者達、風力発電を事業化しようとする自治体の人達など、鳥取大学を訪れる多くの人達に沙漠環境風洞を見学する機会を提供した。さらに、本研究費の趣旨に則って、地域の企業との産学連携を積極的に推進するために多くの共同研究を受け入れ、鳥取県、NEDOや企業などからの委託研究も積極的に受け入れた。さらに、本研究は、最終年・平成14年度に文部科学省の21世紀COEプログラムに採択された鳥取大学「乾燥地科学プログラム」の自然エネルギーグループに研究が引き継がれる幸運が重なることになった。したがって、地域連携推進研究費で設計し試作した新技術風車は、その風車の改良を含めて、乾燥地科学プログラムのなかで、詳細な特性試験と再設計を繰り返して完成品へと導かれることになる。
著者
小林 康宏 知野 豊治 吉田 隆幸 松田 賢一
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. LQE, レーザ・量子エレクトロニクス
巻号頁・発行日
vol.96, no.520, pp.13-17, 1997-02-14
参考文献数
8
被引用文献数
3

基板裏面に形成したガイド穴を用いた垂直共振器型面発光レーザ(VCSEL)とシングルモードファイバとの結合効率について計算による基礎検討を行った。我々はこれまでに4×3のVCSELアレイに対するガイト穴を用いたパッシブアライメントにより、マルチモードファイバとの結合において平均81.3%の結合効率を達成している。この結合方法をシングルモードファイバに適応する場合、計算の結果、80%の結合効率を得るためにはレーザと裏面ガイド穴との距離を100μm程度、アライメントのずれを±1μmにまでする必要があることが分かった。
著者
小林 篤人 窪野 隆能
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. EMD, 機構デバイス
巻号頁・発行日
vol.97, no.329, pp.1-6, 1997-10-17
参考文献数
8
被引用文献数
1

小形の電磁継電器で発生する開離不能故障を防止することを目的として、試作したAu接点に接触力を印加した状態でしゅう動を与え粘着力の測定を行った。その際、接触面積を推定する目的でしゅう動前後および粘着力を測定するために接点を引き離していく途中で接触力がゼロになったときに接触抵抗の測定を行った。その結果から、しゅう動回数が増加しても接触面積がある値以上に増加しないことおよびこのときの接触面積を用いて計算した見かけの応力が結果的にミーゼスの降伏条件を満足することを示した。また、降伏応力、引張り強さおよび摩擦係数から粘着力を推定する方法を提案した。
著者
森林 敦子 Wells Jeffrey D. 倉橋 弘
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.129-135, 1999
参考文献数
21
被引用文献数
2 4

センチニクバエの休眠蛹は20℃, 短日の条件下で成虫, その幼虫を飼育すると得られる。東京で採集したセンチニクバエの休眠蛹を20℃で2ヶ月間置きその後一定の期間低温(4℃)に置いた。その後27℃に移し休眠蛹が覚醒し成虫羽化までに要した日数, 雌雄の確認, 及び生存率を羽化率より検討した。その結果羽化までの日数は低温期間の長さによって変わることが明らかになった。このハエの休眠覚醒に最適な低温期間は3ヶ月で14日後から10日間の間で89%が羽化した。しかしそれ以上低温期間が長引くと羽化率が低下し7ヶ月で13%, 8ヶ月以上ではそれが0%になった。東京の10月, 11月は短日で平均気温が16℃から13℃あり, その後12月, 1月, 2月と5℃を割る低温が続く。3月になると平均気温が5℃を越えるようになる。4月, 5月と気温が上昇し実際ニクバエが野外で見られるようになる。得られた実験結果は, 今回使用した東京産の休眠するセンチニクバエが東京の環境に適応していることを示していると思われる。またこれらの実験結果からセンチニクバエの北限についても考察した。
著者
橋本 洋志 坪井 利憲 大山 恭弘 苗村 潔 天野 直紀 石井 千春 小林 裕之
出版者
東京工科大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005

本研究の目的は,日常生活で現れる手の動き(箸や鉛筆の使い方,玉遊び等)を時系列データとして取得し,動きの特徴を表す特徴量を抽出して保存する(アーカイブ(archive)と称す)とともにこの特徴量をハンドガイド(写真参照手に装着して自動制御によりワイヤー型アクチュエータで5本の指を動かす)に送ることにより,ハンドガイドを手に装着した人間に,力覚として手の動きそのもののインストラクションを行えるようにすることにある。本年度では,前年度までの実験結果を基にして,次の成果を得た。● 指関節角度の時系列データに対する主成分分析法により,第1主成分が,動きの巧みさの指標となりうること,また,指関節角度の時系列データのうち,箸使いでは,人差し指と中指の間の角度に対する標本分散が,箸使い上手さの指標となりうることがわかった。● 玉回しでは,親指を含めた3本の指先関節が周期的に動くことが上手さの鍵となることがわかった。また,手の動きに関連して,副次的に次の知見を得た。● 手の力覚を用いて,人間の周囲にある障害物環境を認職できるという視覚の代替感覚を実現できることを明らかにした。● 人間がレクリエーションの一環として太極拳の動作を行うとき,手先の動きが重要であることが判明した。これは上手に動こうとするときの指標として,手先でバランスをとったり,スムーズな動作移行のときに手先反動を用いているためで,人間の動作と手の動きとの関連性に注目することが必要であることがわかった。以上の知見をもとに,指先のみならず手先の動きがしなやかになるようなインストラクションディスプレイのプロトタイプを構築し,臨床実験を通してその高い利便性・使用性を立証した。さらに,指先のモーションアシストデバイスを試作し,指の感覚とその動かし方に関する幾つかの知見を示した。
著者
小林 真也
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. D-I, 情報・システム, I-コンピュータ (ISSN:09151915)
巻号頁・発行日
vol.79, no.2, pp.69-78, 1996-02-25
参考文献数
12
被引用文献数
9

マルチプロセッサシステムでは, 処理速度を最も速くするためにどのように各プロセッサにタスクを割り当てていくか, つまりタスクスケジューリングが重要な問題である. 実際のマルチプロセッサシステムのタスクスケジューリングではプロセッサ間の通信にも時間がかかり, 個々のタスクの処理時間のみならず, 通信時間も考慮しなければならない. 本論文ではこの問題に対する最適解への近似精度の高い一方法を提案する. 提案方式は, リストスケジューリングの一種であり, 各タスクの処理時間のみによって決定されるプレプライオリティと, タスクとプロセッサごとに求められる通信削減時間によりタスクプライオリティリストを決定する. 各タスクのプレプライオリティの値はそのタスクに依存する複数のタスク依存系列のうちの最長パスの長さである. また, 通信削減時間とは, 他のプロセッサで実行した場合に必要であるがプライオリティを求めようとするプロセッサで実行する場合には必要のない通信の時間である. 常微分方程式の数値解法の一つであるRunge-Kutta 法と, FFTの二つのプログラムを対象に, 完全網システムにおいて従来方式との比較を行い提案方式の優位性を示す. また, 不完全網システムに対しても提案方式が良好な割当てを行えることを示す. 更に, 乱数を用いて生成したタスク集合に対しても, 提案方式が優れていることを示す. また, 割当てに要する時間を実測し, 提案方式が問題の規模に対して多項式時間で解けることを示す.
著者
山下 隆男 塚本 修 大澤 輝夫 永井 晴康 間瀬 肇 小林 智尚
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本研究では,地球温暖化による気候変動に伴い巨大化する台風,ハリケーン,サイクロンを対象として,わが国の主要湾(大阪湾,伊勢湾,有明海・八代海),メキシコ湾およびベンガル湾における,高潮,高波,強風,豪雨、洪水に関する災害外力の上限値を評価することを目的とする。このため,以下の3研究課題について,各々のサブテーマを分担課題として研究を進め,災害外力の上限値解析を行った。(1)スーパー台風(ハリケーン・サイクロン)の数値モデル(2)台風と海洋との相互作用(3)スーパー台風による災害外力の上限値解析。最終年度に得られた成果をまとめると、以下のようである。1.海水温の上昇により、熱帯性低気圧がどの程度巨大化するかを、地上風速、降雨量とについて数値的に検討した。海面水温の2度の上昇は海面風速(せん断応力)降水量(陸上および海上)に極めて甚大な影響を及ぼすことを示した。2.台風と海洋の相互作用では、台風による海水混合で台風が弱体化する機構を示した。さらに、海上の降水量、河川からの出水により海洋表層の淡水成分が増加すれば、成層構造が強化され、台風による海水の混合過程が弱まれば、台風が減衰しにくくなる可能性を示した。3.災害外力の評価では、沖縄県において台風の巨大化を考慮した高潮ハザードマップを作成し公表した。4.気候変動の捉え方として、地球の平均気温のように指数関数的に増加するトレンドとしての上昇以外にも、太平洋、大西洋、インド洋等の海洋振動の影響による数十年周期の変動(ゆらぎ)を、適応策において考慮することの重要性を指摘した。
著者
石川 裕彦 植田 洋匡 林 泰一
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

西太平洋上で発生し日本付近まで北上してきた台風は、中緯度の大気の傾圧性の影響を受け、その構造が徐々に変化する。この過程で、さまざまなメソ擾乱が発生し、災害発生の原因となることが多い。本研究では、数値シミュレーションにより台風を再現し、その構造変化、メソ擾乱の発生、気象災害との関連を調べた。不知火海の高潮災害や豊橋の竜巻等の災害をもたらした1999年の台風18号は、日本海で一旦弱まった後再発達をとげたが、この様子を数値モデルで再現することに成功した。そして、再現結果を解析することにより、最盛期の台風の上層に形成される負渦位偏差が台風衰弱に重要であること、再発達期には対流圏上層のトラフにともなう正の渦位とのカップリングが生じ、これが再発達の要因となっていることを解明した。さらに、豊橋市付近で発生した竜巻に着目した数値計算を行い、竜巻発生場所の周辺で、対流潜在位置エネルギー(CAPE)とストーム相対ヘリシティ(SREH)との積であるエネルギーヘリシティ示数(EHI)が大きな値を持つことが示された。これは、将来、台風に伴う竜巻発生を予報できる可能性を示唆した者である。近畿地方、特に奈良盆地に大きな強風害をもたらした1998年の台風7号に関しては、消防署等も含むさまざまな期間から集めた気象観測データを解析し、台風に伴う地上風を詳細に調べた。これらの強風は、台風の背面で発生していること、強風域はバンド状のメソ降水系に対応していることを明らかにした。さらに、この強風域は台風の循環と中緯度の西風との号流域にから発生していることが数値実験で示された。秋に襲来する台風にともないしばしば観測される時間スケールの短い急激な気圧低下(pressure dip)に関しても、その発生頻度や性状を観測データからあきらかにするとともに、その発生メカニズムを数値シミュレーションで明らかにした。
著者
福田 央 日吉 智 砂川 英之 田中 健太郎 藤田 仁 山根 雄一 若林 三郎
出版者
公益社団法人日本生物工学会
雑誌
生物工学会誌 : seibutsu-kogaku kaishi (ISSN:09193758)
巻号頁・発行日
vol.79, no.8, pp.299-302, 2001-08-25
被引用文献数
3

清酒もろみの原料利用率の向上を目的とし, セルロース, キシラン, およびペクチン溶解酵素といった, いわゆる植物細胞壁溶解酵素が, 清酒もろみの並行複発酵に及ぼす影響を検討した.セルロース, キシラン, およびペクチン溶解酵素を有する市販酵素剤の添加により, 蒸米の溶解およびアルコール発酵は顕著に促進され, またアルコール収得量も増加し, 原料利用率の向上が得られた.さらに, 麹菌を小麦フスマを基質とした液体振盪培養に供して得られた培養上清液よりアミラーゼ・プロテアーゼを除いた粗酵素液を調製し, もろみ発酵試験に供した.この結果, もろみ発酵・原料利用率ともに顕著に向上し, 酵素剤添加区の最高値に匹敵する結果を得た.調製した粗酵素液は著量のセルロース, キシラン, およびペクチン溶解活性を有することから, これらの植物細胞壁溶解酵素が, 清酒もろみでの蒸米の溶解・糖化に対する促進効果を有することが強く示唆された.
著者
Mafi Shaban Ali VANG Le Van 中田 恵久 大林 延夫 山本 雅信 安藤 哲
出版者
日本農薬学会
雑誌
日本農薬学会誌 (ISSN:1348589X)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.361-367, 2005-11-20
被引用文献数
2

ミカンハモグリガの処女雌抽出物をGC-EADおよびGC-MSにて分析し, ランダムスクリーニングですでに雄の誘引物質として見出されている(7Z,11Z)-7, 11-hexadecadienal (Z7,Z11-16:Ald)が真の性フェロモン成分であることを確認した.第2成分の探索を目的にZ7,Z11-16:Aldに関連化合物を混合しカンキツ園で誘引試験を行ったところ, 共力効果は認められず, いくつかのモノエン化合物はZ7,Z11-16:Aldの誘引活性を強く阻害することが明らかになった.さらに, 合成フェロモンを用いた交信撹乱技術を確立するため, 以下の2つの実験でZ7, キャップを配置した.誘引される雄蛾の数はコントロールに比べ低下せず, 明瞭な定位阻害効果は認められなかった.一方, Z7,Z11-16:Aldを1本当たり60mg封入したポリエチレンチューブを圃場に配置した実験では, 本種の卵や幼虫の新葉における密度低下を認めるに至らなかったが, モニタリングトラップへの雄の定位が強く阻害される結果を得た.すなわち, 無処理区では7月から9月の間に一晩当たり27〜127頭の雄蛾が誘引されたのに対し, 1ha当たり500本あるいは1300本のチューブを処理した圃場では, 雄蛾はほとんど誘引されなくなった.