著者
石井 寛海 阿南 雅也 森 淳一 山口 豊
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.46, pp.H2-225_1-H2-225_1, 2019

<p>【症例紹介】変形性膝関節症(以下,膝OA)患者の人工膝関節置換術(以下,TKA)後の理学療法は,下肢筋力トレーニング,関節可動域運動,歩行練習などが一般的に行われている.大腿四頭筋の筋力は,TKA後の最初の数週間にてTKA前よりもより低下するとされており,その筋力低下はTKA後数年経っても完全には解決できていないことが報告されている.TKA後の大腿四頭筋の筋力低下の原因は,単独で生じる筋萎縮のみならず,手術侵襲,術後安静,および関節原性筋抑制(以下,AMI)も挙げられる.また,膝OA患者の神経筋系の特徴として,膝周囲筋群の共同収縮が挙げられる.膝OA患者は歩行時の膝関節周囲筋の共同収縮が増大するとの報告があり,膝関節の病態を取り除いたTKA後の歩行でも報告されている.そこで今回、膝OA後のTKAを施行した症例に対し,膝関節周囲筋の共同収縮に着目し,質的な筋機能の改善を目的として介入した症例を報告する.</p><p> 症例は80歳,女性.数年前より膝関節痛のため階段昇降や長距離歩行が困難となった.1年前に左膝TKA施行し,今回は急性期病院にて右膝TKAを施行し術後3週で当院へ入院された.主訴は,「膝が曲がるようになってほしい、バスに乗りたい.」であった.</p><p>【評価とリーズニング】当院入院1週間後に初期評価を実施した.右膝関節可動域は他動運動で膝屈曲120°/膝伸展−5°,自動運動では屈曲105°/伸展-5°.右膝関節屈曲時に術創部,大腿直筋の伸張痛あり.NRSは2/10,圧痛は無く軽度の熱感あり.膝伸展筋力はMMT4レベル.Extension lagは陰性.共同収縮の評価は座位での膝伸展運動時における共同収縮の指標であるCo-Contraction Index(以下,CCI)とした.表面筋電計NORAXON(酒井医療)を使用し,膝伸展運動時の筋電図を計測した.被検筋は外側広筋(以下,VL)・内側広筋(以下,VM)・外側ハムストリングス(以下,LH)・内側ハムストリングス(以下,MH)・腓腹筋外側頭(以下,LG)・腓腹筋内側頭(以下,MG)とした.CCIはFalconarらが推奨する算出方法にて,VMとMH,VMとMG,VLとLG,VLとLG間で算出した.CCIは値が大きい程より共同収縮が強いことを示し,膝関節伸展運動時のCCI(%)は,VM:MHは57,VM:MGは33,VL:LGは76,VL:LGは64であった.</p><p>【介入内容および結果】質的な筋機能の改善を目的に,端座位での膝伸・屈曲展運動を10回3セット実施した. 膝下垂位から3秒間で膝最大伸展位になるように膝伸展運動を行い,その後3秒間で膝下垂位となるように膝屈曲運動を意識して行うように指導した.その他,理学療法内容として関節可動域運動や歩行練習,階段昇降練習を1週間実施した.</p><p>結果,関節可動域やNRS,MMT, Extension lagに変化はなかった.膝関節伸展運動時のCCI(%)は,VM:MHは57→41,VM:MGは33→17,VL:LGは76→54,VL:LGは64→33と全てにおいて減少した.</p><p>【結論】本症例では,質的な筋機能の改善のために端座位での単関節運動による開放的運動連鎖(以下,OKC)のトレーニングを行った.特に,膝伸展筋である大腿四頭筋を求心性収縮と遠心性収縮にて選択的に促通した.その結果,初期評価時に共同収縮は高い数値を示していたが,1週間後には軽減していた.先行研究では,TKA後1ヶ月での大腿四頭筋の筋活性化は,筋力の大きさと同様に術前よりもさらに低下するとされている.介入期間を考慮すると,主動作筋である大腿四頭筋と拮抗筋であるハムストリングスの相反抑制を正しく再学習することで共同収縮の改善に至ったのではないかと考える.このことから,TKA後には筋力トレーニングによって量的な改善を促すより,質的な改善を目指すことで質的な筋機能の向上が期待できることが明らかになった.しかしながら,実際に随意的な筋活性化が改善されたかどうかは,本症例では明らかにできてはいない.今後,共同収縮と随意的な筋活性化の関係性や共同収縮を効果的に改善する運動療法を模索・検証していきたい.</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に基づき当該病院の倫理審査委員会の承認(A0017)と被験者の同意を得て実施した.</p>
著者
榊原 仁作 永井 慎一 森 淳 竹谷 和視 堀田 芳弘
出版者
日本生薬学会
雑誌
生薬学雑誌 (ISSN:00374377)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.p317-324, 1986-09

20R-Dihydroouabain (20R-DHO) and 20S-dihydroouabain (20S-DHO) were synthesized by reduction of ouabain (G-strophanthin) and separated by reversed phase high performance liquid chromatography. The relationships between the stereochemical structures and pharmacological activities of 20R- and 20S-DHO were studied by the use of isolated guinea-pig papillary muscle and renal Na^+, K^+-ATPase. 20S-DHO was more inotropic (pD_2: 5.0, 100% increase in contractile force at 3.0 x 10^<-5> M) and more inhibitory (pIC_<50>: 5.9) than 20R-DHO (pD_2: 4.6, 100% increase in contractile force at 1.0 × 1O^<-4> M, pIC_<50>: 5.5). On the other hand, both R and S compounds inhibited the positive inotropic effect of their parent compound ouabain; the potency of inhibition by 20S-DHO was greater than that by 20R-DHO. These results suggest that the pharmacological differences in 20R- and 20S-DHO may depend on the strength of hydrogen bond between the carbonyl oxygen and Na^+, K^+-ATPase receptor.
著者
佐藤 康男 森 淳
出版者
日本管理会計学会
雑誌
管理会計学 : ⽇本管理会計学会誌 : 経営管理のための総合雑誌 (ISSN:09187863)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.3-22, 1998-03-31 (Released:2019-03-31)

本稿は会計情報システムのうち,管理会計情報システムの予算管理情報システムにおける会計情報システム上のデータベースモデルの問題点に焦点を絞り,データウエアハウス(Data Warehouse)の適用可能性について論述している.近年の著しい情報システムの発達が会計情報システムに大きな影響を与えている.情報技術の進歩が特にデータベースシステムに対して決定的に影響を及ぼすことでこれまで当然とされていたリレーショナルデータベース(Relational Database)を核とした情報システムに疑問が投げかけられている.会計学は財務会計と管理会計のという二つの分野に分類することができるが,会計情報システムもまた,財務会計情報システムと管理会計情報システムという二つの分野に分類することができる.この二つの大きな違いは,財務会計情報システムでは財務データを扱うが,管理会計情報システムでは財務データに加えて非財務データを含めて扱わなければならない点である.したがって予算管理情報システムは財務データだけでなく,非財務データを取り扱うことができなければ評価価値は相対的に大きく低下する.一般に会計情報システムにおいてデータベースはすなわちリレーショナルデータベースが当然とされていたが,リレーショナルデータベースに向く業務はいわゆるOLTP(Online Transaction Process)としての業務であり,予算管理のようなOLAP(Online Analytical Process)に分類される業務にリレーショナルデータベースを適用することに関して様々な技術的問題が存在する.管理会計情報システムのうち特に予算管理情報システムが多元的な情報を必要としており,これに適しかデータベースを考えると現在の情報システムにおけるデータベースモデルとしてはデータウエアハウスが最も適したデータベースである.データマイニングツール(Data Mining Tool)がまだ十分に成熟してはいないが,今後はこのデータウエアハウスが管理会計情報システムの核となるであろう.
著者
小林 聡 森 淳和 安川 慎二 伊澤 幸甫 藤井 康一
出版者
日本獸医師会
雑誌
日本獣医師会雑誌 (ISSN:04466454)
巻号頁・発行日
vol.69, no.12, pp.747-751, 2016

<p>8カ月齢,避妊雌,体重4.6kgのイタリアン・グレーハウンドが右側の前肢跛行を主訴に紹介来院した.X線及びCT検査において右側前腕の重度変形を認めた.過去に橈尺骨骨折の治療履歴があったことより骨折時の外傷に起因する前腕変形であると診断した.変形が重度であり,従来のコンピュータ画面上での三次元立体構築像のみを使用する変形矯正方法ではランドマークの設定が行いにくく,術中の矯正程度の判断が困難で術後にアライメント不良が生じる可能性があった.そのため,CTデータより3Dプリンターモデルを作成し事前にシミュレーション手術を実施し,骨切り部分の確認やインプラント形状設定を行い矯正が問題なく実施できることを確認した後,実際の手術を行った.術後の経過は良好で骨癒合が認められ患肢の使用も良好であった.</p>
著者
森 淳子
出版者
耳鼻咽喉科臨床学会
雑誌
耳鼻咽喉科臨床 (ISSN:00326313)
巻号頁・発行日
vol.91, no.9, pp.963-970, 1998-09-01 (Released:2011-11-04)
参考文献数
21
被引用文献数
3 2

A total of 889 patients with olfactory disturbance who were examined at the Olfaction Clinic of Osaka City University Hospital from January 1982 to December 1996 were studied retrospectively using clinical records in order to investigate the relationship between the patient characteristics and prognosis. Etiologically the characteristic variables of head trauma and congenital olfactory disturbance were most strongly associated with poor prognosis. Among patients with rhinosinusitis and head trauma, the characteristic variables of female patients, those with a short period of olfactory disorder, and those with high olfactory acuity before treatment showed faster improvements in olfactory disturbance. None of the characteristic variables had any influence on prognosis in the patients with viral infection. The age and presence of abnormal smell sensations similarly did not have any significant influence on prognosis. Improvement was recognized in most patients within 6 months. Hence, patients with olfactory disturbances should be treated for at least 6 months.
著者
内田 慎一 藤森 淳 浦辺 徹郎 砂村 倫成 坪野 公夫 須藤 靖 三河内 岳 佐藤 哲爾 二宮 哲平
出版者
東京大学大学院理学系研究科・理学部
雑誌
東京大学理学系研究科・理学部ニュース (ISSN:21873070)
巻号頁・発行日
vol.44, no.6, pp.5-9, 2013-03

退職にあたって/内田慎一先生を送る/定年の今送る「手紙~拝啓十五の君へ~」/浦辺徹郎先生を送る/時代はまわる/坪野公夫先生を送る/宮本正道先生を送る/前へ!/定年後の8万時間
著者
大森 淳郎
出版者
NHK放送文化研究所
雑誌
放送研究と調査 (ISSN:02880008)
巻号頁・発行日
vol.69, no.11, pp.2-25, 2019

『国民歌謡』『詩の朗読』『物語』等々、1920~30年代の大阪中央放送局を舞台に奥屋熊郎が開拓した番組は枚挙に暇がない。野球中継やラジオ体操を初めて実現させたのも奥屋だった。この稀代の放送人・奥屋熊郎の哲学の核心は、放送の「指導性」である。当時、ラジオで最も人気が高かったのは浪花節だったが、奥屋の考えでは大衆は浪花節が好きだから浪花節の放送を聴くのではない。ラジオが放送するから浪花節を好きになるのである。「ラジオがラジオ大衆を作り出す」のである。放送によって大衆文化の向上を実現しようとした奥屋は、「(放送は)時代文化の特質を容易に変質させる力でさえある」とまで言うのだ。 だが、奥屋の「指導性」の強調の仕方に私たちはある既視感を覚える。本シリーズ第3回で焦点を当てた逓信省の田村謙治郎は満州事変から日中戦争へと向かってゆく時代の中で「ラヂオは最早、世情の流れに引き摺られてプログラムを編成する時代ではない」のであり「民衆をして追随せしむる」ものでなければならないと主張していた。 大衆文化の向上を目指す奥屋の「指導性」と、国民を戦争協力に導こうとする田村の「指導性」は、やがて近接し重なりあってゆくことになる。 奥屋が全力を傾注した慰安放送(今で言う娯楽番組)は、戦争の時代、どう変質していったのか。前編では、奥屋熊郎の出発から見てゆく。
著者
須藤 浩孝 伴 和敏 西脇 健二 河本 裕司 森 淳英 迫 和博 岡本 隆太 稲毛 亮太 川北 裕司 松岡 智生 今井 匡弘 北野 修二
出版者
一般社団法人日本PDA製薬学会
雑誌
日本PDA学術誌 GMPとバリデーション (ISSN:13444891)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.1-10, 2012 (Released:2012-06-29)
参考文献数
8

無菌製剤製造に用いる陽圧型アイソレータにて,高生理活性物質を扱う場合,堅牢な封じ込めを行うハード面と同時に漏れを確実に捉えるソフト面(運用)が重要である。そこで,微粒子可視化装置を用い,陽圧型アイソレータ内でラクトースを噴霧した際にどのような飛散挙動を示すのか,また,実際に粉体をリークさせた際に周囲にどのように飛散して行くのかを確認した。これによりアイソレータの何処から漏れるリスクが高いのか評価することが出来,且つ実際の製造作業において,どの位置にどの程度サンプラーを設置しリークの有無を管理するが良いかをシステマチックなリスクマネージメントが可能となった。
著者
森 淳子 宇都宮 彬 鵜野 伊津志 若松 伸司 大原 利眞
出版者
公益社団法人大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.73-89, 1997-03-10
被引用文献数
14

1990年から1992年, 九州北部の2地点(対馬と福岡県小郡)においてエアロゾル観測を実施した。大気中での寿命が長く広域汚染の原因と考えられる硫酸粒子(サルフェート)については両地点において一致した挙動がみられた。一方, 硝酸粒子(ナイトレート)とアンモニア粒子は観測地点周辺の影響を受け, 内陸に位置する小郡では, 離島の観測地点である対馬に比べ両イオンの濃度が高かった。1991年6月と1992年2月に両地点でS0_4^<2->を中心に高濃度現象がみられた。1992年2月の観測データのイオンバランスの解析から, 対馬では酸性のNH_4HS0_4粒子の存在が示された。この2つのエピソードを中心に, 観測データとトラジェクトリー解析により輸送過程の解析を行った。1991年6月は典型的な梅雨期の気象条件であった。九州北部地域が梅雨前線の南部に位置する場合には太平洋高気圧下で低濃度, 北部に位置する場合には高濃度となった。これは, 大陸・朝鮮半島の大発生源から排出された汚染物質が前線の北部に滞留・変質しつつ前線付近に北西の気流によってもたらされたことが一因と考えられた。これらの結果は, 梅雨期においても大陸起源の高濃度の汚染物質の長距離輸送が生じることを示している。一方, 1992年2月に観測されたサルフェートなどの高濃度現象は, 西高東低の気圧配置下において北西季節風によって大陸からもたらされたと考えられる。低気圧は北緯23〜30。付近の日本の南岸を次々と通過し, その後に中国大陸東岸付近に高気圧が張り出し西高東低の気圧配置が出現している。この条件下で吹き出した北西風により大陸からの高濃度汚染物質が九州北部に輸送されたと考えられ, 冬型の気象条件下での高低気圧の通過が長距離輸送の要因であることが示された。
著者
田代 優秋 森 淳
出版者
公益社団法人 農業農村工学会
雑誌
農業農村工学会誌 (ISSN:18822770)
巻号頁・発行日
vol.84, no.5, pp.365-370,a1, 2016

<p>農業農村整備事業における環境配慮は原則化によって法的根拠も得られ,社会全般としては「環境配慮はよいこと」という捉えられ方をしているが,現場では今なお揉めてしまう。本報では,環境配慮を巡るこれまでの議論を整理しながら,環境配慮の「現場の難しさ」が生産現場において当事者間の立場や考えの違いによってうまれるしっくりこないモヤモヤとした感情と捉えた。その改善のためには俯瞰的な事例の分析と,難しさを二項対立で解くのではなく農家にとって「不公正性の問題」で捉える必要性を指摘した。</p>
著者
藤森 淳
出版者
物性研究刊行会
雑誌
物性研究 (ISSN:07272997)
巻号頁・発行日
vol.73, no.2, pp.167-188, 1999-11-20

この論文は国立情報学研究所の電子図書館事業により電子化されました。

1 0 0 0 OA 研究ニュース

著者
藤森 淳 酒井 広文 宮原 ひろ子 横山 祐典 小林 修 青木 秀夫
出版者
東京大学大学院理学系研究科・理学部
雑誌
東京大学理学系研究科・理学部ニュース
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.10-14, 2008-09

半導体スピントロニクス材料の複雑な磁性/気体分子の向きを揃える新手法を開発/樹齢2000年の屋久杉を使って太陽活動の歴史を探る/樹齢2000年の屋久杉を使って太陽活動の歴史を探る/水中での有機合成における革新的技術を開発/鉄系新高温超伝導体の理論を提唱
著者
藤森 淳 吉田 鉄平
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.62, no.11, pp.815-821, 2007-11-05

高温超伝導の舞台は強い電子間クーロン相互作用がもたらす異常な金属状態である.なかでも異常な「擬ギャップ」は,超伝導転移温度T_cを超えた高温からフェルミ準位上の状態密度が減少する現象であるが,その起源はまだ明らかではない.最近の角度分解光電子分光(ARPES)実験により,擬ギャップ状態で残ったフェルミ面の一部が「フェルミ・アーク」として観測されている.固体物理学の常識では考えにくいこの現象を理解するため,理論・実験両面で精力的な努力が行われている.本稿では,興味深いフェルミ・アークに関するこれまでの研究状況を整理し,この異常な電子状態の理解が超伝導発現機構の解明にどうつながるか展望を述べる.