著者
熊川 寿郎 森川 美絵 大夛賀 政昭 大口 達也 玉置 洋 松繁 卓哉
出版者
国立保健医療科学院
雑誌
保健医療科学 (ISSN:13476459)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.136-144, 2016 (Released:2017-05-18)
参考文献数
25

日本においては第二次世界大戦以前より年金保険及び医療保険制度が運営されてきたが,農業従事者や自営業者などのインフォーマルセクターの一部は未加入にあった.戦後の高度経済成長の中でインフォーマルセクターの問題を解消すべく,₁₉₆₁年に年金及び医療の国民皆保険を達成した.皆保険制度導入後の日本の歴史は,まさに高齢化対策の歴史と重なるものである. 日本は介護保険制度導入後も,超高齢社会のニーズにより適うためにケアの統合とプライマリケア・地域医療の強化を図っており,2₀₁₄年には「地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律」が成立した.この法律は可能な限り住み慣れた地域で,自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるよう,地域の包括的な支援・サービス提供体制(地域包括ケアシステム)の構築を推進している.また,老年学及び老年医学の分野においてFrailty(フレイル)の概念が重要になってきている.Frailty(フレイル)とは高齢期によく見られる症候群であり,転倒,生活機能障害,入院,死亡などの転帰に陥りやすい状態である.Fraily(フレイル)を経て要介護状態になる高齢者が多く,その対策は地域包括ケアシステムの新たな重要課題である.厚生労働省は2₀₁₆年度より高齢者のフレイル対策を新たに実施する. 地域包括ケアシステムを構築し,各地域においてその質を向上させるためには,現在の地域資源のみならず,環境の変化により今後生まれてくる未来の地域資源をも戦略的に活用することが非常に重要になる.また同時に,地域資源の情報と実際のケアを結びつけるためのコーディネート機能の強化も必要となる.地域社会処方箋は,地域包括ケアシステムにおける非専門的サービスと専門的サービスを繋げる戦略的マネジメントツールである.同時にそのツールを活用することにより,地域資源のコーディネート機能を強化することができる.
著者
森川 美絵
出版者
国立保健医療科学院
雑誌
保健医療科学 (ISSN:13476459)
巻号頁・発行日
vol.58, pp.355-361, 2009-12

貧困低所得者への社会福祉の支援の中心的制度は,生活保護である.生活保護における相談援助活動の評価には,「自立支援プログラム」の事業評価という次元と,生活保護担当職員による被保護者への個別的な相談援助活動の評価という,2つの次元が存在する.自立支援プログラムは,その数も種類も増加している一方で,多元的な自立支援の効果を測定するための指標が,整備されていない.貧困緩和へのアプローチの鍵となる概念である,参加,帰属,つながり,エンパワメント等の観点から,対象者の状態を把握しうる指標・尺度を適用し,事業の効果を測定することが,求められる.個別的な相談援助活動については,要・被保護者の権利保障という観点から,援助のプロセスそのものの質が問われる.現状では,要・被保護者の主体性の尊重につながる行為が,標準的な活動として定着していない.プロセスごとの「標準的な質を保証するための活動指標」を整備した上で,そうした指標にもとづき援助者自身が定期的に活動を自己点検する機会を確保していくことが,求められる.さらに,地域における包括的な支援・ケアの実現を目指すのであれば,個別の事業や援助者の活動の評価にとどまらず,複数の事業の連携により実現される地域単位の福祉状態を評価する手法や,そこで鍵となる連携やコーディネート機能を評価する手法の開発が,必要とされる.
著者
粕川 正充 角田 博保 森 裕子
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.34, no.5, pp.1198-1205, 1993-05-15
参考文献数
3
被引用文献数
10

R.JoyceとG.Guptaは個人認証を行う場合に、個人ごとの特徴をあるキーが打たれてから次のキーを打つまでの時間(以下、これを打鍵間時間と呼ぷ)に求め、その個人差を判定の基準とした個人認証手法を提案した。また筆者らはこの手法を改良し、新JG手法と呼ぷ別方式を提案した。さらに解析を進めて打鍵間時間の分布を調べるうちに、筆者らは連続多打鍵間の打鍵間時間の変動が、それを構成する個々の打鍵間時間の変動よりも小さくなる場合があることを見いだした。以下、この現象をアルペジオ打鍵と名付ける。このアルペジオ打鍵を利用することによって、JoyceとGuptaの提案した方法よりも効率的な個人認証手法を考案することができた。本論文では考案した手法について、JG手法、新JG手法との比較のもとに説明し、実験を通じて新手法の優位性を検証する。
著者
森下 正康
出版者
和歌山大学
雑誌
和歌山大学教育学部教育実践総合センター紀要 (ISSN:13468421)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.87-100, 2001

今日のいじめや不登校,学級崩壊などの問題行動の背景に,自己制御機能の発達や思いやり,攻撃性の問題が関与していると考えられる。これまで子どもに対する母親の影響について検討してきた。今回は,主として父親の態度がどのような影響を与えるか,さらに父親の態度と母親の態度の組合せパターンが子どもの自己制御機能等の発達にどのような影響を与えるかを検討した。和歌山県下の市部と郡部の計5つの幼稚園と保育園から3,4,5歳児を対象に,担任教師と母親,父親に評定を求めた。子どもについては,自己抑制,自己主張,思いやり,攻撃性の4特性に関して担任教師に評定を求め,養育態度については,受容,統制,矛盾,実権について,母親父親それぞれに自己評定を求めた。すべてのデータがそろった489名について分析した。主要な結果は次の通りであった。(1)男子について,母親が愛情豊かな場合あるいは父親が愛情豊かで統制がゆるやかな場合,思いやりが形成される。女子について,愛情豊かで統制がゆるやかな父親の場合は自己抑制が発達する。それに対して,冷たくて厳しい母親の場合は女子の自己抑制が育たず攻撃性が高くなる。また,冷たくて厳しい父親の場合は女子の思いやりが育たず攻撃性が高くなる可能性がある。(2)母父の態度の組合せパターンについてまとめると次のようになる。両親の暖かい受容的な態度は女子の自己抑制の発達にとって重要である。それに対して,両親の冷たく拒否的な態度は子どもの攻撃性を高める。(3)両親共に統制がゆるやかな場合,女子の自己抑制の発達にプラスの影響を与えるが,男子の自己主張の発達にマイナスの影響を与える。また,母親だけが厳しく統制的な場合は子どもに高い攻撃性を形成させる。(4)両親共に矛盾しない一貫した態度をもっている場合は,男子の自己抑制や自己主張の発達にプラスの影響を与える。(5)自己主張は,男子の場合は父親が,女子の場合は母親が子育ての実権を持っている方が発達する。両親が実権を持っている場合には,男子の自己制御や思いやりの発達に対してマイナスの影響を与える可能性がある。
著者
村上 斉 松本 光史 井上 寛暁 森下 惟一 梶 雄次
出版者
日本養豚学会
雑誌
日本養豚学会誌 = The Japanese journal of swine science (ISSN:0913882X)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.137-148, 2008-09-05
参考文献数
27
被引用文献数
1

本研究では、色落ち海苔の有効利用の一つとして飼料原料としての利用を考えて、肥育豚への給与が飼養成績、栄養素の利用性、背脂肪厚の発達および豚肉の抗酸化特性に及ぼす影響を検討した。試験では、LWD交雑種の肥育豚去勢8頭(2腹、平均体重55kg)を対照と海苔の2区に割り当て、8週間の飼養試験を行った。対照区の豚には、肥育の前期(体重50-80kg)と後期(体重80-110kg)にトウモロコシ・大豆粕主体飼料を調製して不断給与した。一方、海苔区の豚には、対照区の飼料に色落ち海苔2%を添加した飼料を不断給与した。体重と採食量は毎週測定した。肥育前期と後期の最終週にCr2O3を用いたインデックス法により栄養素の消化率を測定した。また、飼養試験の0、2、4、6、8週目に採血と背部P2位置(最終肋骨接合部における正中線より65mmの部位)における超音波画像解析を行い、血漿中脂質過酸化物と背脂肪厚の推移を測定した。さらに、飼養試験終了後、食肉処理場でと畜して、ロース(胸最長筋)を採取し、無酸素条件で凍結保存した後、解凍後0、2、4日間冷蔵保存のロース中脂質過酸化物を測定した。その結果、対照区に比べて海苔区では、肥育前期の採食量は有意に低下する(P<0.05)ものの、増体量に差はみられず、飼料効率は向上する傾向を示した(P=0.08)。肥育後期の飼養成績に両区間で有意差はみられなかった。肥育前期において、海苔区では、乾物消化率は有意に上昇したが、肥育後期では、両区間に差はみられなかった。測定したP2部位の背脂肪厚に両区間で有意差はみられなかったが、と畜後の格付けにおいて海苔区では厚脂による格落ちは少なかった。血漿中脂質過酸化物の推移を試験前の値と比較してみると、対照区では有意な変化はみられないが、海苔区では0週目に比べて6および8週目に有意に低下した。解凍後に冷蔵2、4日間保存したロース中脂質過酸化物の値を解凍直後の値と比較してみると、対照区では有意な上昇がみられるが(P<0.05)、海苔区では有意な上昇はみられなかった(P=0.06とP=0.09)。
著者
高橋 佳苗 長尾 能雅 足立 由起 森本 剛 市橋 則明 坪山 直生 大森 崇 佐藤 俊哉
出版者
一般社団法人 日本薬剤疫学会
雑誌
薬剤疫学 (ISSN:13420445)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.11-20, 2011 (Released:2011-10-05)
参考文献数
27
被引用文献数
3 3

Objective:It is well known that the use of benzodiazepines is associated with falling in elderly people, but there have been few researches focused on changes in the dose of benzodiazepines and falls. If the association between changes in the dose of benzodiazepines and falling becomes clear, we may take an action to prevent falling.In this study, we investigated the association between changes in the dose of benzodiazepines and falling among elderly inpatients in an acute-care hospital.Design:Falling generally results from an interaction of multiple and diverse risk factors and situations, and medication history of each subject must be considered in this study. We conducted a case-crossover study in which a case was used as his/her own control at different time periods. Therefore covariates that were not time-dependent were automatically adjusted in this study.Methods:Subjects were patients who had falling at one hospital between April 1, 2008 and November 30, 2009. Data were collected from incident report forms and medical records. Odds ratio for changes in the dose of benzodiazepines were calculated using conditional logistic regression analyses.Results:A total of 422 falling by elderly people were eligible for this study. The odds ratio for increased amounts of benzodiazepines was 2.02(95% Confidence Interval(CI):1.15, 3.56). On the other hand, the odds ratio for decreased amounts of benzodiazepines was 1.11(95%CI:0.63,1.97).Conclusion:There was an association between increased amounts of benzodiazepines and falling. Hence, it is considered meaningful to pay attention to falling when amounts of benzodiazepines are increased to prevent falling in hospitals.
著者
千貫 祐子 高橋 仁 森田 栄伸
出版者
日本静脈経腸栄養学会
雑誌
静脈経腸栄養 (ISSN:13444980)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.615-618, 2013 (Released:2013-04-24)
参考文献数
9
被引用文献数
1

セツキシマブはEGFRを標的とするヒト/マウスキメラ型モノクローナル抗体で、本邦では大腸癌の治療薬として用いられている。近年、米国において、セツキシマブによるアナフィラキシーの原因がgalactose-α-1, 3-galactose (以下、α-galと略) に対する抗糖鎖抗体であることが報告され、これらの糖鎖がウシやブタやヒツジなどの哺乳類に豊富に存在するため、これらを摂取した時にもアナフィラキシーを生じることが報告された。筆者らの施設で経験した牛肉アレルギー患者についてセツキシマブ特異的IgEを測定したところ、いずれも高値を示し、牛肉特異的IgE値と相関関係が認められた。このことから、セツキシマブ投与前に牛肉特異的IgEを測定することによって、α-galが原因となるセツキシマブのアナフィラキシーを未然に防ぐことが出来る可能性がある。
著者
駒木 伸比古 佐藤 正之 村山 徹 森田 実 小川 勇樹
出版者
[三遠南信地域連携研究センター]
巻号頁・発行日
2017-09-30

本図説を作成するにあたり,以下の助成金を利用しました。・文部科学省「共同利用・共同研究拠点(越境地域政策研究拠点)」(代表者:戸田敏行)・日本学術振興会科学研究費「ポストまちづくり三法時代における大規模集客施設の越境地域政策に関する地理学的研究」(代表者:駒木伸比古)・日本学術振興会科学研究費「民主主義の規模と行政の自律的裁量」(分担者:村山徹)
著者
亀甲 博貴 森 信介 鶴岡 慶雅
雑誌
ゲームプログラミングワークショップ2016論文集
巻号頁・発行日
vol.2016, pp.28-35, 2016-10-28

本稿では将棋の解説文において示すべき指し手の推定手法を提案する.人間が付与した解説文中に現れる指し手符号と実際のゲームの状態空間との対応付けを行うことによって得られた,解説木という概念によって示された人間による解説文中に現れる指し手を教師として,解説すべき指し手の予測モデルを学習する.また,これによって得られた予測モデルと探索結果を組み合わせることで解説されるべき指し手の予測を行う.指し手の予測モデルは精度の大幅な向上は実現できなかったが,解説文中に現れる指し手は棋譜中の指し手とは異なる性質を持っており,提案手法によってその性質を獲得しうることを示した.またこの予測モデルと探索結果を組み合わせることで一部の解説木の生成が可能であることを示した.
著者
亀甲 博貴 浦 晃 三輪 誠 鶴岡 慶雅 森 信介 近山 隆
雑誌
ゲームプログラミングワークショップ2013論文集
巻号頁・発行日
pp.36-43, 2013-11-01

将棋の対局を観戦する上でコンピュータ将棋プログラムの形勢判断は有益な情報である.自然言語による局面の解説をプログラムが行えるようになれば,より有益な情報を提供できると考えられる.本稿では将棋の解説文を生成するモデルを提案し,その根幹である局面からの特徴語生成について調査した.学習の対象とする文を,意味でクラス分けする分類器を学習しその予測を用いることで限定した.しかし特徴語生成はF 値0.38 と,期待されるほどの精度では行えなかったものの,解説文の生成においては,特定の局面については正しい文を生成できることが分かった.
著者
香川(田中) 聡子 中森 俊輔 大河原 晋 岡元 陽子 真弓 加織 小林 義典 五十嵐 良明 神野 透人
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第40回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.2003146, 2013 (Released:2013-08-14)

【目的】室内環境中の化学物質はシックハウス症候群や喘息等の主要な原因,あるいは増悪因子となることが指摘されているが,そのメカニズムについては不明な点が多く残されている。イソチアゾリン系抗菌剤は塗料や化粧品・衛生用品等様々な製品に使用されており,塗料中に含まれるこれら抗菌剤が室内空気を介して皮膚炎を発症させる事例や,鼻炎や微熱等のシックハウス様症状を示す事例も報告されている。本研究では,侵害受容器であり気道過敏性や接触皮膚炎の亢進にも関与することが明らかになりつつあるTRPイオンチャネルに対するイソチアゾリン系抗菌剤の活性化能を検討した。【方法】ヒトTRPV1及びTRPA1の安定発現細胞株を用いて,細胞内Ca2+濃度の増加を指標としてイオンチャネルの活性化能を評価した。Ca2+濃度の測定にはFLIPR Calcium 5 Assay Kitを用い,蛍光強度の時間的な変化をFlexStation 3で記録した。【結果および考察】2-n-octyl-4-isothiazolin-3-one (OIT)がTRPV1の活性化を引き起こすことが明らかになった(EC50:50 µM)。また,TRPA1に関しては,2-methyl-4-isothiazolin-3-one (MIT),5-chloro-2-methyl-4-isothiazolin-3-one (Cl-MIT),OIT,4,5-dichloro-2-n-noctyl-4-isothiazolin-3-one (2Cl-OIT)及び1,2-benzisothizolin-3-one (BIT)が顕著に活性化することが判明し,そのEC50は1~8 µM (Cl-MIT, OIT, 2Cl-OIT, BIT)から70 µM (MIT)であった。これらの物質が,TRPV1及びA1の活性化を介して気道過敏性の亢進等を引き起こす可能性が考えられる。諸外国においてはこれら抗菌剤を含む製品の使用により接触皮膚炎等の臨床事例が数多く報告されており,我が国でも近年,冷感効果を謳った製品の使用による接触皮膚炎が報告され,その原因としてイソチアゾリン系抗菌剤の可能性が指摘された。これら家庭用品の使用により,皮膚炎のみならず,気道過敏性の亢進等シックハウス様の症状が引き起こされる可能性も考えられる。