著者
橋口 一弘 若林 健一郎
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.123, no.1, pp.24-29, 2020-01-20 (Released:2020-02-05)
参考文献数
16

アレルギー性鼻炎の治療選択肢は近年増加してきたが, 薬物治療の中心となるのは第2世代抗ヒスタミン薬である. 抗ヒスタミン薬は第1世代と第2世代に分類されるが, 基本的な構造は共通である. 第1世代抗ヒスタミン薬の特徴として, 脂溶性が高く組織移行性が良好である. このため中枢移行しやすくなり, 眠気などの副作用を起こす. また H1 受容体に対する選択性が低いため, ムスカリン受容体, セロトニン受容体などアミン受容体に共通構造を持つほかのアミン受容体にも結合をする. 口渇, 食欲増進などの副反応はこのためである. こういった不要な反応を軽減することを目的として第2世代抗ヒスタミン薬が開発された. 第2世代抗ヒスタミン薬の特徴として, 脂溶性が低下し血中タンパク結合が多くなった. このため組織移行性が悪くなったが, 中枢移行が少なくなり眠気などの副作用が減った. H1 受容体に対する選択性が高くなったことから, ほかのアミン受容体への結合が少なくなり, 第1世代抗ヒスタミン薬で見られた副反応が減ってきた. 一方で組織移行性の低下なども見られることから, その効果には個人差があることも理解しておく必要がある. 近年経口剤ではなく, 投与経路を変更した貼付剤の抗ヒスタミン薬が開発されてきた. さまざまな投与法の選択肢が増えてきたことで, 第2世代抗ヒスタミン薬の特徴を理解し, 患者満足度を上げるように使用することが大事である.
著者
若林 真美 高橋 麻奈 磯 博康
出版者
日本国際保健医療学会
雑誌
国際保健医療 (ISSN:09176543)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.51-68, 2022 (Released:2022-06-16)
参考文献数
51

2020年、世界的な新型コロナウイルス感染拡大に対して、異例のスピードで「新型コロナウイルス感染症のワクチン(以下、新型コロナワクチン)」の開発が進んだ。そして、2021年、高所得国を中心に、高いワクチン接種率を達成した。その一方で、低/中所得国におけるワクチン接種率は、2022年1月時点でも低く、世界のワクチン格差が浮き彫りになっている。  新型コロナワクチンを世界全体に公平に供給する国際的な枠組みであるCOVAXファシリティに関して、本稿ではそのワクチン供給の仕組みを説明するとともに、①COVAXファシリティを通じた供給とワクチン寄付・供与をめぐる課題、②太平洋島嶼国を事例としたワクチン供給、③太平洋島嶼国の脆弱性に焦点を当て、ドナー国からのワクチン支援のあり方に関して論じる。  COVAXファシリティという枠組みによって、2021年2月に低/中所得国でのワクチン供給が開始され、また高所得国が買い占めたワクチンの寄付が実現できた。しかしながら、ワクチン供給の「公平性」は実現できたとは言い難い状況となっている。  太平洋島嶼国14か国の間でもワクチン格差が存在する。太平洋島嶼国は、国土の拡散性・狭隘性・離散性および国際市場からの遠隔性といった共通の課題を抱える。ワクチン接種率が高い国では、2国間援助やワクチン寄付等により、必要十分なワクチンが供給され、ほぼ対象年齢全員にワクチン接種が完了している、もしくは2022年内に完了予定である。しかしながら、キリバス、ソロモン諸島、バヌアツといったワクチン供給が十分であっても、効果的にワクチン接種に結びついていない国では、ワクチン損失が多く起こっている可能性がある。さらに、パプアニューギニアのように、基本的な保健医療水準が低い国では、健康危機における短期的に大規模な保健医療支援が行われたとしても、ワクチン接種向上に結びつかない可能性もある。  新型コロナウイルス感染症が流行して、2年以上が経過しようとしている。今後、ワクチン接種の向上を目指すには、供給支援から、ワクチン接種体制や基本的な保健医療サービス支援等も含めた中長期的な支援にシフトしていく必要がある。
著者
若月 裕樹
出版者
電気通信大学
巻号頁・発行日
2021-03-25

ゲーム人工知能の性能は人工知能研究の達成度の指標となっている.これまで,様々なゲームの人工知能が開発されてきたが,開発が未発達のゲームも多々ある.そのようなゲームの1つであり,一般的に難易度が高いゲームとして知られるローグライクゲームを題材に本研究では2つの目的で大規模ニューラルネットワークを用いた強化学習を行った.1つめは既存の人工知能が獲得する収益の期待値の推定を行う学習,2つめはランダムプレイヤを開始点とする人工知能の強化学習である.ここで既存の人工知能には著者が卒業論文執筆のときに制作した人工知能を用いた.大規模ニューラルネットワークには残差ネットワークと呼ばれる構造を用いた.多くの畳み込み層を構造に持つ深層ニューラルネットワークが様々な分野で成果をあげたことは有名だが,畳み込み層を重ねすぎると学習が安定しなくなってしまうという欠点があった.この残差ネットワークは非常に多くの畳み込み層を重ねても問題が起きにくいという画期的な手法である.また,このニューラルネットワークにはローグライクゲームの特徴ともいえる非常に多くの値を特徴として入力しており,マップなどの平面的な情報だけでなく,時間方向も考慮した3次元畳み込みなども行った. 結果として,既存人工知能が獲得する収益の期待値推定に関しては,ニューラルネットワークは学習によって高い推定精度を獲得した.推定精度を決定係数にして計測したところ,おおよそ0.97に達していた.一方で,ランダムプレイヤを開始点とする人工知能の強化学習については学習がうまくいかなかった.ランダムプレイヤよりも良いプレイヤは強化学習によりもたらされなかったが,ハイパーパラメータや学習手法の比較検討を行い,著者が試行錯誤した過程で得た大規模ニューラルネットワークやQ学習におけるいくつかの知見をまとめた.
著者
豊田 威信 浮田 甚郎 大島 慶一郎 若土 正暁 村本 健一郎
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.77, no.1, pp.117-133, 1999-02-25
被引用文献数
5

1996年と1997年の2月上旬、オホーツク海南西部の海氷域内部において、パトロール砕氷船「そうや」に乗船してアルベドの観測を行った。アルベドは船首部に上向き、下向きの短波放射計を取付けて測定した。同時に、海氷密接度および氷厚を、ビデオ観測データの解析により定量的に評価した。水平スケール数kmを対象とした解析の結果、アルベドと海氷密接度は良い相関が見られることが分かった。回帰式をもとに、海氷のアルベド(密接度100%)は95%の信頼区間で0.64±0.03と見積もられた。従来、極域定着氷上で測定された値よりもやや小さい値が得られたのは、低緯度海氷域内では海水や日射などの影響により、海氷上の雪粒子が成長しやすいためと推定される。観測値の回帰直線からのずれは、危険率1%で太陽天頂角と、危険率5%で氷厚と統計的に有意な相関が見られ、海氷密接度と太陽天頂角を変数とする重回帰式も導出された。重回帰式において、偏回帰係数はどちらも統計的に有意であるが、アルベドは太陽天頂角に比べて海氷密接度とより強い相関関係にあることが分かった。重回帰式と観測値との差異は氷厚あるいは雲量よりも主として海氷の表面状態の違いによって生じたものと推定される。これらの結果から、海氷上の積雪が海氷域のアルベドに及ぼす影響が大きいことが示唆された。一方、dark nilas(暗い薄氷)で覆われた海面上で停船した期間中に得られた短波放射データから、氷厚1〜1.5cmのdark nilasのアルベドは0.10、氷厚2〜3cmでは0.12と見積もられた。
著者
薗田 将樹 若林 邦江 田村 奈穂 石川 俊男
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.56, no.5, pp.453-459, 2016 (Released:2016-05-01)
参考文献数
15

目的 : 摂食障害は慢性難治性の疾患で, さまざまな身体合併症がみられる. その中でも腎機能障害がしばしば認められる. 今回, 当院の入院摂食障害患者の腎機能障害についてretrospectiveに調査検討を行った. 方法 : 対象は2010年4月~2013年11月までに当科に入院した摂食障害患者で, 書面で研究の同意を得た198例 (ANbp 93名, ANr 52名, BNp 32名, EDnos11名) であった. 対象の病型, 入院時年齢, 入院時BMI, 罹病期間, 生化学所見を診療録より調査し, 欠損値のある症例を除いた計149例に対して, 統計学的手法を用いて病型別に検討した. 結果 : 149例のうち, 慢性腎臓病 (chronic kidney disease : CKD) を合併していた入院摂食障害患者数を調べたところ, 38.3% (57/149名) であり, 病型別の割合はANbp : 58.4% (45/77名), ANr : 18.4% (7/38名), BNp : 19.2% (5/26名), EDnos : 0% (0/8名) であった. 各病型のeGFR (estimated glomerular filtration rate) はANbp : 中央値 ; 54.3, 四分位範囲 (39.4~74.8), ANr : 中央値 ; 76.8, 四分位範囲 (62.2~92.0), BNp : 中央値 ; 77.7, 四分位範囲 (61.7~89.8), EDnos : 中央値 ; 78.7, 四分位範囲 (74.2~92.9) であった. ANbpはANr, BNp, EDnosに比較してeGFRの有意な低下がみられた (p≦0.05). ANbpで, eGFRとBMI, eGFRと罹病期間の項目間で有意な相関がみられた (eGFRとBMI : r=0.38, p<0.01, eGFRと罹病期間 : r=0.44, p<0.01). また, BNpでeGFRと罹病期間の間に有意な相関がみられた (eGFRと罹病期間 : r=−0.60, p<0.05). 各病型のeGFRにおいて, 低カリウム (K) 血症 (K<3.5mEq/l) の有無の群間でMann-WhitneyのU検定を行ったところ, ANBpとBNpで群間に有意差がみられた. 考察 : ANbpでは摂食障害の他の病型と比較して, eGFRの統計学的に有意な低下がみられた. また, ED患者においてBMI低値, 長期間の罹病期間, 低K血症がCKDのリスクとなるという結果であった. 結論 : ED患者の腎機能障害は頻回に遭遇する病態と考えられ, 腎機能保護を考慮した治療が必要である. 特にANBpにおいては高度の腎機能障害のリスクが高いため, 早期よりの評価・介入が望ましい.
著者
鈴木 保之 若山 文規 近藤 慎浩 田茂 和歌子 谷口 哲 大徳 和之 皆川 正仁 福井 康三 福田 幾夫
出版者
Hirosaki University Graduate School of Medicine,Hirosaki Medical Society
雑誌
弘前医学 (ISSN:04391721)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2-4, pp.79-86, 2006 (Released:2021-09-21)
参考文献数
15

背景: 人工心肺を使用した開心術後の肺障害あるいは ARDS (急性呼吸促迫症候群)は重篤な術後合併症であり,発生頻度は 1 % と低いものの ARDS を発症した場合の死亡率は非常に高いことが知られている.このような症例の急性肺障害は SIRS に伴うものとされ,その病態に好中球の動態及び好中球エラスターゼが深く関与している.対象と方法: SIRS に伴う肺障害に対して 2002年より好中球エラスターゼ阻害剤であるシベレスタットナトリウム (エラスポール) が導入された.我々は,人工心肺を使用した大動脈弓部置換術あるいは開心術で術後に生じる肺障害を軽減できるという仮説をたて,今回その効果について後方視的に検討した.エラスポールと投与したのは6例 (1例解離性大動脈瘤の保存的治療例を含む),コントロールとして 2002年以前の解離性大動脈瘤手術例のうち肺障害を認めた症例とした.肺障害の指標として P/F比,術後挿管期間,ICU滞在期間,その他血小板白血球数,CRP の変化を比較した. 結果: P/F比はエラスポール投与群で術後4日目より改善したのに対してコントロール群では術後2日目に悪化した後改善傾向を認めなかった (p<0.05) (P/F比,肺障害<300, ARDS<200).血小板数はエラスポール群でコントロールに比べて高い数値を示したが統計学的には有意差を認めなかった.その他の指標 (手術成績,術後挿管期間,ICU滞在期間,白血球) は両群間に有意差は認めなかった. 結語: 特に重症の心大血管手術例に対して術後肺障害を予防する上でエラスポールの有効性が示唆された.
著者
若名 咲香
出版者
美学会
雑誌
美学 (ISSN:05200962)
巻号頁・発行日
vol.71, no.1, pp.133-144, 2020 (Released:2022-02-16)

This paper analyses John William Waterhouse’s female flower pickers in his works; ‘Gather Ye Rosebuds While Ye May’ (1909), Narcissus (1913) and Flora (c. 1914). Comparing Waterhouse’s works and the myth of Persephone clarifies that some descriptions remind the myth of Persephone in his works. For instance, some narcissuses, which were picked by Persephone immediately before she was abducted to the underworld by Hades, are drawn in some of Waterhouse’s works. Thus, Waterhouse’s female flower pickers overlap with the image of Persephone. Additionally, in the late 19th century Britain, a new idea of ‘Dark’ Greece was advocated. This view of Greece contains anxiety and grief as opposed to Winckelmann’s immaculate and idealised view of Greece. Persephone symbolises fertility and death, and she embodies the idea of ‘Dark’ Greece. Waterhouse knew this idea through Greek Studies by Walter Pater and The Golden Bough by James Frazer. In Waterhouse’s works, an ominous of rape, tension, anxiety and chaos are suggested by representing the scene just before the rape of Persephone, and his works resonant with the ‘Dark’ Greece. Thus, Waterhouse’s images of female flower pickers link with the myth of Persephone and evoke the ‘Dark’ Greece.
著者
宮崎 由樹 伊藤 資浩 神山 龍一 柴田 彰 若杉 慶 河原 純一郎
出版者
一般社団法人 日本人間工学会
雑誌
人間工学 (ISSN:05494974)
巻号頁・発行日
vol.56, no.6, pp.222-230, 2020-12-15 (Released:2021-12-11)
参考文献数
17

顔を細く・小さく見せることに対する日本人の関心は高いが,どのような要因が顔の見かけの大きさを左右するかについては未検討な点が多い.本研究は,顔全体のサイズ知覚に,どの顔部位のサイズ情報が関与するか検証することを目的とした.そのためにまず,女性・男性顔132画像において,20箇所の顔部位の縦幅や横幅を計測した.また,その計測サイズとそれらの画像毎に評定された見かけの顔サイズ評定値との相関を算出した(研究1).その結果,顔全体のサイズ知覚には,顔画像の性別に関係なく,顔面上部(額の長さ等)にくらべて顔面下部のサイズ(頬の広さや顎の長さ等)が強く正相関していた.この結果に基づき,顔面下部を衛生マスクで遮蔽し,顔面下部のサイズ情報を観察できなくすることで,顔のサイズ知覚が変わることも実証した(研究2).これらの結果は,顔全体のサイズを判断する際,顔面下部のサイズ情報が重要な手がかりとして用いられていることを示している.
著者
古池 若葉
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.45, no.4, pp.367-377, 1997-12-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
39
被引用文献数
1 2

The purpose of this study was to clarify the kinds of strategies utilized to depict emotions in drawings and their developmental processes. Children aged 5, 6, 7, 9 and 11 (N=187), were asked to create a series of drawings depicting emotions (happy, sad, angry) in trees, and to report on their strategies. Drawings and reports were analyzed in relation to how children operated their knowledge when drawing. Two major findings were as follows.(1) Five kinds of strategies were identified from the reports: facial expressions (e. g., crying face for sad), gestures (e. g., drooping for sad), image scheme (e. g., a small tree for sad), emotion-evoking situations (e. g., a tree injured by a woodcutter for sad), and symbols (e. g., a tree in the rain for sad). These suggested that children utilized their knowledge toward emotions when drawing.(2) Drawings were scored in terms of the reported strategies and combination of the strategies. The results showed that as children grew they added more and more strategies to their repertoire, and depicted emotions while using more and more strategies.
著者
松山若冲 編
出版者
文林堂
巻号頁・発行日
vol.巻2, 1879
著者
若木 重行 谷口 陽子 岡田 文男 大谷 育恵 南 雅代
出版者
国立研究開発法人海洋研究開発機構
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2021-07-09

本研究では、考古遺物としての漆工芸品の漆塗膜の理化学的分析より漆工芸品の製作地を推定するための方法論を提示することを目的とする。その実現のため、漆・下地・顔料などの漆塗膜の各成分の分離、ならびに分離した微少量の試料に対する多元素同位体分析を実現するための分析化学的手法開発を行う。漢代漆器・オホーツク文化期の直刀に対して、開発した手法による分析と蒔絵の種類・製作技術の解析などの情報を統合し、総合的に製作地の推定を試みる。
著者
若島 孔文 松井 博史
出版者
立正大学心理学研究所
雑誌
立正大学心理学研究所紀要 (ISSN:13482777)
巻号頁・発行日
no.1, pp.43-67, 2003-03-20

本研究では、若島・佐藤・長谷川(2000) による情報回帰速度モデルのシミュレーションを行った。具体的には集団の中のある個人と、その他の集団成員全体との間の行動パターン得点の増減を計算している。ここではある個人が他の集団成員全体の異なった行動パターンを取ることにより、その個人の行動パターン得点は集団成員全体の行動パターン得点に行動パターン変容係数λを乗じた値が減じられると仮定した。同様に集団も行動パターン得点を減らすが、情報回帰速度モデルの提案に従い、減少は遅延される。この計算は社会心理学における少数派/集団影響の研究に類似した状況を扱っているが、よりマクロなダイナミクスを明らかにしようとするものである。最後に心理療法家、特に家族療法家がある個人に課題を課す際に、そこからシステム全体の変容を見込むことができる条件についての提案が示された。
著者
黒川 修行 菊池 法大 秋山 駿介 阿部 由佳 瀨川 琴子 千葉 卓 土井 妥剛 若生 成 犬塚 剛 池田 晃一 木下 英俊 前田 順一
雑誌
宮城教育大学紀要
巻号頁・発行日
vol.55, pp.199-207, 2021-01-29

運動後の手掌冷却がその後の持久的運動のパフォーマンスに及ぼす影響について明らかにすることを目的とした。運動習慣のある男子大学生10名(20〜22歳)を対象者とした。1回目の多段階漸増負荷試験後に,回復期に手掌冷却を実施した時としなかった時で,2回目の漸増負荷試験の結果と1回目との変化を比較した。手掌冷却はバケツにためた10〜15度の冷水に手を浸漬した。手掌冷却により回復安静期における鼓膜温は有意に低下した。これは冷却部の放熱量が大きくなり,冷やされた血液が身体の深部に戻ることで深部体温が下がったため,深部体温と相関のある鼓膜温が低下したと考えられた。また、手掌冷却により走行距離や最大酸素摂取量の有意な低減抑制が認められた。これは、深部体温の低下により,蓄熱容量が増大したためであると解された。最大酸素摂取量は中枢性疲労により低下する。手掌冷却により蓄熱容量が増大し,中枢性疲労が抑制されたため最大酸素摂取量の低減抑制が起きたと考えられた。運動後の手掌冷却はその後の持久的運動パフォーマンスの低減を抑制し,バケツにためた冷水に手掌を10分間浸漬する程度でも十分な効果が得られると示唆された。
著者
若林 嘉浩
出版者
国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2020-09-11

ヒツジやヤギなどの雄効果フェロモンは、雄から分泌されて雌の繁殖中枢を活性化させ、性腺刺激ホルモン放出ホルモン/黄体形成ホルモン分泌促進を介して卵巣活動を賦活化する作用をもつ。これまでにヤギ繁殖中枢の神経活動変化を指標としたフェロモン活性生物検定手法を用いて、このフェロモンの主要分子の同定と活性化される脳内の繁殖中枢が、弓状核キスペプチン神経系であることを明らかにした。本研究では、雄効果フェロモンをモデルとして、未だ詳細が不明であるフェロモンの受容部位、脳内での情報伝達経路、繁殖中枢における効果発現機構に焦点を当てて、反芻動物の繁殖機能亢進作用を持つフェロモンの作用機序の全貌を解明する。