著者
辻本 聡
出版者
日本ブリーフサイコセラピー学会
雑誌
ブリーフサイコセラピー研究 (ISSN:18805132)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.1-13, 2019-10-31 (Released:2019-11-09)
参考文献数
31

神経言語プログラミング(Neuro-Linguistic Programming: NLP)は人間のコミュニケーションや学習の仕方,それに基づいた治療の方法論が体系化されたもので,誰しもが優れた結果を得るために活用できるとされている。しかし,技法が発展する中,本来は来談者の内的体験を重視する治療姿勢であったはずが,方法論が手順化されているために治療者の援助が単純化され,来談者の体験が軽視されているという問題が指摘されている。また,中には複雑な技法もあるため,治療者が行使する特殊な技能とみなされやすく,来談者の主体的な活用が困難になるということも生じる。本稿では,改めてNLPの概説に触れた上で,フラッシュバックによって外出困難となった事例を提示し,NLPの基本とされるモデルやツール,技法の活用で改善に至った経過を報告し,来談者自ら実施できる効果的なNLP治療について考察した。事例からは,1)症状を「体験様式」として再構成する,2)「地図」による見立ての共有,3)技法の「練習」,といった工夫によって,来談者と共同したNLPの実践が可能となり,基本的な技法でも治療効果を高めることができると同時に,NLPが本来志向する「来談者自らが活用可能」という目的を果たせることが示唆された。
著者
藤崎 夏子 尾辻 真由美 簑部 町子 肥後 あかね 後藤 隆彦 赤尾 綾子 三反 陽子 中村 由美子 田上 さとみ 中重 敬子 小木曽 和磨 郡山 暢之
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.9, pp.666-669, 2013-09-30 (Released:2013-10-30)
参考文献数
5

糖尿病治療において,簡易血糖測定器での自己測定による血糖値のモニタリングは有意義である.様々な要因で測定値が影響を受けることが知られているが,外用品を原因とする報告は認められない.我々は,高濃度のアスコルビン酸と各種還元物質を含有した輸入ハンドクリームによって,血糖値が偽低値を示した2型糖尿病の症例を経験し,健常成人10名での血糖値への影響と簡易血糖測定器における比色法と酵素電極法との間での差異について検討した.血糖値は,クリーム塗布前に比して塗布後に,比色法で有意な低値(p=0.005),酵素電極法で有意な高値(p=0.005)が確認された.流水洗浄で塗布前と有意差の無いレベルに回復したが,アルコール綿での拭き取りでは不充分であった.血糖自己測定においては,還元物質を含有する外用品使用の有無についての問診や,それらの影響に関する知識と流水での手洗いの重要性の啓蒙が必要である.
著者
新田 真弓 安部 陽子 佐々木 美喜 千葉 邦子 髙田 由紀子 辻田 幸子 古谷 麻実子 鶴田 惠子
出版者
一般社団法人 日本看護研究学会
雑誌
日本看護研究学会雑誌 (ISSN:21883599)
巻号頁・発行日
vol.44, no.5, pp.5_763-5_776, 2022-01-20 (Released:2022-01-20)
参考文献数
36

目的:病院に勤務する女性看護職の妊娠継続を困難に感じた体験を明らかにする。方法: 平成27年〜29年度日本学術振興科学研究費補助金(基盤研究(C)15K11569)「病院看護職の個人および職場の特性と妊娠・出産に関する階層モデル」第1段階の面接調査で収集したデータの2次分析を行なった。結果:7名の語りから,【妊娠前と同じように働くことを自分に課してしまう】【業務の中で母児ともに危険にさらされる】【切迫早産の不安を抱えながら,子宮収縮抑制剤内服の副作用に耐えて働く】【妊娠による体調変化を相談しても,これまで通りの働き方が求められる】【上司の言動で,働き続けることがつらくなる】のテーマが抽出された。結論:看護職者は周囲に迷惑を考慮し妊娠前と同様に業務を遂行しようとしていた。一方で診療報酬による制限や人材不足により妊婦の負担軽減が難しい状況があることも示唆された。
著者
奥山 亮 辻本 将晴
出版者
法政大学イノベーション・マネジメント研究センター
雑誌
イノベーション・マネジメント (ISSN:13492233)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.141-156, 2020-03-31 (Released:2020-03-31)
参考文献数
45

創薬は典型的なサイエンス型研究開発であり、基礎研究が新薬創出に大きく貢献してきたことは繰り返し指摘されている。しかしながら、医科学の基礎研究は主に生体機能の解明を目指してなされており、創薬を一義的に狙ったものではない。このことは、基礎研究で明らかにされる多数の新規生体分子や生理的機序といった科学的知見の中から、実際に創薬に結びつく分子やメカニズムを正しく選別する能力(本稿では「創薬標的選定能力」と呼ぶ)が創薬研究者に極めて重要であることを意味する。しかしながら、この「創薬標的選定能力」の概念は、これまでの研究では殆ど考慮されてこなかった。本稿では、日本発の革新的創薬事例を取り上げ、その研究プロセスの詳細な分析より、基礎研究成果の中から適切な創薬標的となる分子やメカニズムを選択する研究者の「創薬標的選定能力」が、創薬研究の競争優位を生むことを述べる。また、「創薬標的選定能力」の醸成には、生体機能を解明する医科学基礎研究への理解に加え、疾患の発症機序や先行薬剤の作用機序に対する深い理解と洞察が必要なことを述べる。本研究がもたらす学術的、実務的意義についても論ずる。
著者
岩田 祐子 桑山 健次 辻川 健治 金森 達之 井上 博之
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.221-231, 2014
被引用文献数
3

我が国で最も乱用されているmethamphetamineの塩酸塩について,押収されるまでの薬物の起源と履歴(原料,合成ルート,製造方法等)が反映されている薬物プロファイルを明らかにする薬物プロファイリングのこれまでの研究成果を報告する.アルカリ性下で有機溶媒を用いて微量成分を抽出しガスクロマトグラフィーを行う微量成分分析では,微量成分をよく検出・分離する条件を決定し,複数の内部標準物質を添加することにより,保持時間の補正精度を高めた.また,キャピラリー電気泳動法によるキラル分析では,覚醒剤や覚醒剤原料等のアンフェタミン型興奮剤9種を良好に分析する方法を確立し,methamphetamineに微量に含まれる原料ephedrine等もキラル分離して検出することが可能となった.さらに,methamphetamineの安定同位体比質量分析において,資料の関連性の評価基準を設定し,結晶ごとの測定の有効性を示した.各分析により,より詳細なプロファイルが得られ,異同識別や起源と履歴の推定に,より多くの情報が得られるようになっている.
著者
秋山 由美 齋藤 悦子 榎本 美貴 辻 英髙 近平 雅嗣 吉田 昌史
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.87, no.6, pp.721-725, 2013-11-20 (Released:2015-02-18)
参考文献数
13

3種のBordetella 属菌(B. pertussis,B. parapertussis,B. holmesii)の同時検出をコンベンショナルPCR 法で試みた.4 種の挿入配列遺伝子(IS481,IS1001,IS1002 およびhIS1001)を増幅ターゲットとする 4 組のプライマーを混合したマルチプレックス法で,選択的な検出が可能となった.検出限界は 3 種の Bordetella 属菌の各 DNA 濃度として 5fg/μL であった.なお,低濃度のB. pertussis とB. holmesii の確認には,LAMP 法も併用した. 本法を 2012 年度に感染症発生動向調査の定点医療機関から百日咳疑いで搬入された病原体検査の 42 検体(咽頭ぬぐい液 23 件,鼻腔ぬぐい液 19 件)に適用し,12 検体から B. pertussis を検出した.このうち 8 検体は,保育所を中心とする集団発生事例のものである.病原体サーベイランスにおいて,本法は 3 種の Bordetella 属菌の検査を同時にかつ低コストで行うことができた.
著者
辻原 万規彦 青井 哲人 恩田 重直 今村 仁美
出版者
日本建築学会
雑誌
日本建築学会計画系論文集 (ISSN:13404210)
巻号頁・発行日
vol.87, no.792, pp.464-475, 2022-02-01 (Released:2022-02-01)
参考文献数
10
被引用文献数
5

The purpose of this paper is to examine the area development process on the Zhuoshui river basin in Taiwan between the 1900s and 1910s using the change-over of restricted zone for raw material collection. Initially, some small improved traditional sugar manufacturing plants were established by Taiwanese capitalists. For each, they also acquired small restricted zones for raw material collection and constructed a push-car railway network. Next, some new larger sugar mills were constructed by Japanese capitalists. For each, they also acquired larger restricted zones for raw material collection and constructed a narrow-gauge railway network.
著者
稲葉 利江子 高比良 美詠子 田口 真奈 辻 靖彦
出版者
一般社団法人 日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
pp.45085, (Released:2022-01-12)
参考文献数
16

2020年度新型コロナウィルス感染拡大防止のため,大学教員は否応なくオンライン授業に取り組むことになった.オンライン授業において授業効力感を得られた場合,多くの授業が対面授業に戻った後も,部分的にオンライン授業やICTツールを継続的に利用していく可能性がある.そこで,本研究では,大学教員のオンライン授業における授業効力感に着目し,「ソーシャルサポート」,「学生の受講態度」,「授業内のICT利用量」の3要因からの効果を明らかにすることを目的とした.具体的には,2020年7月〜8月に大学教員向けに実施したアンケート調査を基に,オンライン授業における授業効力感が,「指導方略」,「学生の状況把握」,「学生の活動促進」の3因子からなることを明らかにした.その上で,「ソーシャルサポート」,「学生の受講態度」,「授業内のICT利用量」の影響を検証するため,階層的重回帰分析を行った.その結果,講義,演習・実習,ゼミ・セミナーという授業形式に依らず,「学生の受講態度」が教員のオンライン授業における授業効力感の向上に全般的に影響を及ぼすことが明らかとなった.
著者
辻 雅晴
出版者
公益社団法人 日本生物工学会
雑誌
生物工学会誌 (ISSN:09193758)
巻号頁・発行日
vol.99, no.6, pp.314-317, 2021-06-25 (Released:2021-06-25)
参考文献数
25
著者
辻 英史
出版者
法政大学公共政策研究科『公共政策志林』編集委員会
雑誌
公共政策志林 = Public policy and social governance (ISSN:21875790)
巻号頁・発行日
no.2, pp.117-130, 2014-03

ドイツでは2000年代以降,市民参加を拡大する試みが続けられている。参加政策と総称されるこの試みは,市民の行政参加やボランティア活動を促進するため,法的条件整備だけでなく政治文化や社会福祉制度,国家の役割にいたるまで全面的に改革しようとするものである。本稿は,このようなドイツの現状を踏まえて,ドイツの市民参加がどのようなものであったのか,その実態を歴史をさかのぼって検証することで,現代の参加政策の立ち位置を探ろうとするものである。19世紀におけるドイツの市民参加は市民層を中心とし,社会福祉領域に中心があった。民間では社会改良主義的な関心の強い民間福祉団体が活躍し,都市自治体ではエルバーフェルト制度の名で知られる名誉職官吏による公的救貧事業が盛んにおこなわれた。このような市民参加の「古典主義時代」は,第1次世界大戦前後を境に大きな変化を遂げた。より教育と訓練を受けた専門職の比重が高まり,各民間団体や自治体は国家の社会福祉システムのなかに組み込まれる傾向が強まった。こうして市民参加の専門職化と組織化を特徴とする社会国家と呼ばれる社会福祉体制が形成され,その後のナチ期や戦後の西ドイツにおいても基本的に維持されてきた。1960年代から70年代にかけて,西ドイツでは新しい市民参加のスタイルが出現した。それは1968年に頂点を迎えた学生運動をはじめとする対抗文化や政治的批判運動の時期を経て,1970年代には,新しい社会運動と呼ばれる平和・環境・ジェンダーなどの問題を扱うオルターナティヴな志向を持つ市民グループが叢生した。このような「参加革命」と呼ばれる現象により,1980年代以降草の根民主主義型の政治文化が社会のなかに広まっていった。このような歴史的概観から見ると,現代ドイツの参加政策は20世紀初めから続いてきた社会国家型の市民参加のあり方を改め,1970年代以降の新しい社会運動に見られるような現状批判的・改革主義的なエネルギーを公的な領域に吸い上げることを目指していると考えられる。その試みの歴史的な評価はなお今後の課題である。
著者
春木 伸裕 佐藤 篤司 杉浦 正彦 呉原 裕樹 辻 秀樹
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.487-490, 2010-03-31 (Released:2010-05-11)
参考文献数
15
被引用文献数
4

症例は1型糖尿病で通院中の55歳女性で,インスリン注射を3日前から自己中断し意識障害を呈し入院となった。血液検査にて糖尿病性ケトアシドーシスと診断し治療を開始した。翌日38℃の発熱と腹部膨満を訴えたため,緊急CTを施行した。腹水,門脈ガス,広範な腸管気腫を認め,腸管壊死による急性腹膜炎と診断し緊急手術を施行した。開腹すると,回腸末端の約200cmの回腸が分節的に壊死しており,S状結腸も暗紫色を呈し虚血に陥っていた。上腸間膜動脈および下腸間膜動脈は本幹から末梢まで拍動を触知できたことから,非閉塞性腸管膜虚血症(nonocclusive mesenteric ischemia: 以下,NOMI)と診断し,壊死した腸管の切除と下行結腸に人工肛門を造設した。NOMIは主幹動脈に器質的閉塞がないにもかかわらず,腸管に虚血あるいは壊死を生じる予後不良の疾患で,自験例は著明な脱水と,高血糖による高浸透圧が増悪因子となり,NOMIを発症したものと考えられた。
著者
山辻 知樹 猶本 良夫 高岡 宗徳
出版者
川崎医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

胃癌の治療に用いられるシスプラチンの腎毒性を防ぐために大量輸液・強制利尿が行われQOL低下を招く。5-アミノレブリン酸(ALA)は多くの生理作用を示すが、シスプラチン腎障害ラットモデルでALAの腎障害抑制効果が報告された。我々はALAによる新規腎障害予防法の確立を目指し臨床第I相試験を開始した。対象:切除不能・再発胃癌症例。主要評価項目:腎障害防止補助剤としてのALAの安全性。副次評価項目:腎障害抑制効果。方法:ショートハイドレーション法によるSP療法に加えALAを内服。安全性評価、外来移行率、相対用量強度を算出。【結果】2017年12月現在8例登録。Grade3以上の有害事象は認めず。
著者
辻村 敬三
出版者
日本教科教育学会
雑誌
日本教科教育学会誌 (ISSN:02880334)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.41-50, 2013 (Released:2020-01-26)
参考文献数
6

本研究は,文学的な文章を読む指導における範読について,実際に行われている状況を調査によって把握し,範読時にどのような学習活動を伴わせることが効果的であるかについて,実験を通して検討することを目的とした。調査からは,範読のねらいが,内容の大体を理解させることと,物語を享受させることの2つに分かれている状況がとらえられた。また,範読時の学習活動は様々な内容が混在しており,ねらいとの関連性が十分意識されていない状況であることが確認された。実験からは,平均得点については,範読時の学習活動による顕著な差は認められなかったが,得点分布状況からは,「大事だと思う言葉や文に線を引きながら聞かせる」ことが,学力低位の児童に効果があることが示された。以上のことから,範読を行う際には,ねらいと指導方法の関連性を明確にした上で,児童に「線を引く」などの具体的な学習活動を行わせることに効果が期待できることが示唆された。