著者
高梨 知揚 西村 桂一 辻内 琢也
出版者
公益社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.196-203, 2014 (Released:2015-08-06)
参考文献数
12
被引用文献数
1

【目的】本研究は、 在宅療養支援診療所の医師を対象として、 在宅緩和ケア領域における鍼灸師との連携の実態を明らかにすることを目的とする。 【方法】在宅でのがん緩和ケア実績のある在宅療養支援診療所 297 施設を対象とした。 郵送法による自記式質問紙調査を行い、 回答は診療所所属の医師に依頼した。 質問紙は、 鍼灸師と連携をして在宅緩和ケアを実践している施設数、 連携の現状、 および情報共有の実態と方法を把握する内容とした。 【結果】294 施設中 98 施設から回答を得た (回答率 33.3%)。 現在鍼灸師と連携して末期がん患者のケアを実践しているのが 14 施設 (14.3%)、 過去に連携をしたことがあるのが 9 施設 (9.2%) であった。 鍼灸師と連携してケアする患者の症状は、 疼痛、 吃逆、 浮腫、 腹水、 便秘等が挙げられていた。 鍼灸師と連携することによるメリットについては、 「症状の緩和」、 「患者の満足度の向上」、 「患者のモチベーションの向上」 などの記述が見られた。 鍼灸師との情報共有の有無について、 「必ず共有する」 が 7 施設 (50%)、 「状況に応じて共有する」 が 7 施設 (50%) で、 「情報共有しない」 施設は無かった。 今後の在宅緩和ケアにおける鍼灸師との連携についての考えを尋ねたところ、 全体のうち 「積極的に連携したい」 が 9 施設 (9.2%)、 「状況によっては連携を考える」 が 65 施設 (66.3%) であった。 【結論】本研究より、 在宅緩和ケア領域において、 在宅療養支援診療所医師と鍼灸師とが連携している施設が 14.3%存在することが判明した。 また、 連携により症状緩和だけではない患者ケアが実践できる可能性が示唆された。 一方で、 鍼灸師が在宅緩和ケアの現場に関わるためには、 患者情報やチームとして行われているケアの状況を適切に把握する必要があり、 医師をはじめとした他職種と連携を図り情報共有する為の環境整備を推進すべきであると考えられた。
著者
辻村 英之
出版者
地域農林経済学会
雑誌
農林業問題研究 (ISSN:03888525)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.241-251, 2003
被引用文献数
1

Based on the recognition that the current dominant trade never alleviates the poverty of small producers in developing countries, fair trade (FT) which intends to support producers has been developed.Though some recent studies have gone into a discussion of methods to evaluate FT by the absolute criteria of 'fairness', this study attempts to relatively evaluate whether or not FT can improve 'unfairness' of the current dominant trade, which will be clarified by this paper.As far as primary commodities are concerned, theoretical studies on the 'unfairness' of the trade date from the theory of the North-South problem in the 1960s. This paper is written with the aim of advancing a framework for analysis of unfair trade of primary commodities produced in developing countries by adoption of various theories such as the North-South problem, the World-System, the Food-System and the pricing mechanism for agricultural products. What is more, a part of results of the case study (Tanzanian coffee) from within the framework and an evaluation example of FT will be shown.
著者
長嶺 章子 石井 恵子 石井 博子 石橋 葉子 糸日谷 章子 柴辻 純子 水村 明子 山中 和穂
出版者
学校法人 植草学園短期大学
雑誌
植草学園短期大学紀要 (ISSN:18847811)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.29-43, 2019 (Released:2019-03-28)

本稿は、短期大学保育者養成課程1年生のピアノの授業(保育の表現技術Ⅰ(音楽表現))を対象に試み た、習熟度別指導の実践報告である。この授業は必修科目であり、1クラス約50名の学生に対し、8名の教 員による個別指導を実践している。履修者の習熟度は、初学者から長期間にわたって学習している者まで多 様である。以前は、各グループ内に多様な習熟度の学生が混在するグループ編成を採用していた。この編成 においては指導時間の公平性や学習者心理への影響等において課題があった。そこで本実践では、習熟度が 同程度の学生によるグループ編成を試みた。その結果、指導時間の不平等が是正され、各自の習熟度に適し た内容で指導することが可能となった。さらに、学修上の配慮を必要とする学生に対し、より適した支援を することも可能となった。
著者
辻 孝三
出版者
公益社団法人 高分子学会
雑誌
高分子 (ISSN:04541138)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.256, 1991-04-01 (Released:2011-10-14)
参考文献数
9
著者
伊藤 致 深澤 浩 内藤 滋人 窪田 彰一 伊藤 幸子 平辻 知也 鶴谷 英樹 関口 誠 河口 廉 高間 典明 磯部 直樹 瀬田 享博 櫻井 繁樹 安達 仁 外山 卓二 星崎 洋 大島 茂 谷口 興一
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.33, no.Supplement5, pp.68-73, 2001-12-31 (Released:2013-05-24)

【目的】陽性F波を呈する逆行性通常型心房粗動の心電図学的特徴を検索することで,回路の推測が可能か否かを検討した.【対象】陽性F波を呈する心房粗動と診断され,心臓電気生理検査を施行,起源が逆行性通常型および左房起源型心房粗動と診断された連続17症例.【方法】興奮波が三尖弁輪部を時計方向に旋回し,冠静脈洞入口部位での心房ペーシングでconcealed entrainment現象を認めた例を逆行性通常型心房粗動(R群:13例),心内電位で冠静脈洞遠位の左房から右房側へ興奮伝幡を認め,右房ペーシングでconcealed entrainment現象を認めなかった例を,左房起源型心房粗動(LA群:4例)と診断した.これら2群でのF波を比較した.【結果】1)V1のF波は,R群で陰性F波を,LA群では陽性F波を有意に認めた(R:81.8%,LA:0%,p<0.05).2)V6のF波は,R群で陽性F波を,LA群では陰性F波を有意に認めた(0.9%,LA:25%,p<0.05).3)I誘導では両群ともすべて陽性F波を認めたが,aVL誘導では関連はなかった.4)両群のF波成分を比較したところ,F波高はR群が高い傾向(R:0.22±0.06mV,LA:0.13±0.06mV,p=0.0503)にあり,F波幅はR群が有意に長かった(R:144±36mse,LA:92±24msec,p<0.05).5)肢誘導R,S波高に両群で有意差はなかった.【結語】1)陽性F波を呈する非通常型心房粗動は,V1およびV6誘導のF波を検討することで旋回が逆方向性通常型心房粗動なのか左房起源型心房粗動なのか推測できることが示唆された.2)F波成分は,左房起源型心房粗動では波形が小さく,その上降部と下降部が左右対称であったのに対し,逆方向性通常型心房粗動では,緩徐に上がり,急峻に下がるF波が特徴であると思われた.
著者
江島 晶子 戸波 江二 建石 真公子 北村 泰三 小畑 郁 本 秀紀 薬師寺 公夫 阿部 浩己 村上 正直 齊藤 正彰 鈴木 秀美 大藤 紀子 戸田 五郎 門田 孝 申 惠ボン 山元 一 中井 伊都子 馬場 里美 西方 聡哉 須網 隆夫 愛敬 浩二 徳川 信治 前田 直子 河合 正雄 菅原 真 辻村 みよ子 根岸 陽太 村上 玲
出版者
明治大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究は、グローバル化する世界における法のありようとして、「憲法の国際化」と「国際法の憲法化」という現象における両者の接合面に注目し、人権実施における問題点を明らかにしながら、より実効的な人権保障システムに関する理論構築を目指した。その結果、「憲法の国際化」と「国際法の憲法化」の接合面において比較憲法と国際人権法の積極的接合関係を観察することができ、人権保障の実効性を高める新たな人権保障システムを構築することは可能であり、そこでのキー概念は多元性、循環性、非階層性であることが析出できた。
著者
辻森 樹 原 智美 進士 優朱輝 石坂 知裕 宮島 宏 木村 純一 青木 翔吾 青木 一勝
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-03-14

Nunakawaite' (strontiojoaquinite) is an orthorhombic variety of strontiojoaquinite [Sr2Ba2(Na,Fe)2Ti2[Si4O12]2O2(O,OH)2·H2O]; it is a rare joaquinite group mineral that is only found in a riebeckite-bearing albitite in the serpentinite-matrix mélange of the Itoigawa–Omi area. The mineral was originally named after 'Princess Nunakawa' (nunakawa hime) in the Japanese Shinto mythology 'Kojiki'.'Nunakawaite' is characterized by remarkably high Ba, Zr, Nb, Zn, LREEs, MREEs, and enriched in U (35.8–721 µg·g-1), Pb (2.2–31 µg·g-1), and Th (7.42–2365 µg·g-1). LA-ICPMS analyses show highly variable U/Pb (238U/206Pb = 9.245–68.98) and Pb (207Pb/206Pb = 0.0758–0.756) isotope ratios, and the scattered trend define an isochron line with a lower intercept at 89.19 ± 1.07 Ma. The 'nunakawaite' U–Pb age confirms that the 'nunakawaite'-hosted riebeckite-bearing albitite formed at late Cretaceous. This implies that the serpentinite-matrix mélange unit with early Paleozoic jadeitites and late Paleozoic blueschist, eclogite and amphibolite was reactivated by a significantly younger tectonic event.In-situ Sr-Pb isotope analyses show two different isotope trends between Sr-rich accessory minerals in riebeckite-bearing albitite ('nunakawaite' and ohmilite) and those in jadeitite (itoigawaite, stronalsite, vesvianite, Sr-rich epidote). The Sr-Pb isotopes also support the idea that the riebeckite-bearing albitite formed by a fluid-induced metasomatic event different from the jadeitite-forming metasomatism at early Paleozoic. The formation of riebeckite-bearing albitite at ~90 Ma is coeval with late Cretaceous granitic intrusion of the Omi area (youngest zircon U–Pb: 90.8 ± 1.1 Ma: Nagamori et al. 2018). The granitic intrusion might have acted an important role in the formation of 'nunakawaite'. In other words, reactivation of metasomatic mineralization in the Paleozoic serpentinite mélange is recorded in the Cretaceous riebeckite-bearing albitite.
著者
辻 英明 水野 隆夫
出版者
The Japan Society of Medical Entomology and Zoology
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.185-194, 1973 (Released:2016-09-05)
被引用文献数
7 8

本邦中部で越冬する能力を調べるために, 27℃または20℃で飼育したチャバネ, ワモン, クロ, ヤマトの4種のゴキブリを, 冬の平均気温に類似させた5.5℃条件下で長期間冷蔵する実験を行なった。またあらかじめ15℃に保ちその後5.5℃に移すことも試みた。チャバネゴキブリとワモンゴキブリの卵鞘は20日間の冷蔵で死亡し, 40日の15℃予備飼育さえも有害であった。幼虫や成虫では15℃予備飼育は冷蔵に対する耐性を高めた。しかし最も耐性のある終令幼虫と成虫に予備飼育期間28日を与えても30日間の冷蔵で死亡し, 予備飼育100日間でも40日間の冷蔵に耐えられなかった。また20℃で増殖を阻止されているチャバネゴキブリ成虫および発育の遅延しているワモンゴキブリの終令幼虫は, 共に40日間の冷蔵によって死亡した。したがって, これらの種が本邦中部の戸外や無加温の建物の中で3カ月にわたる冬を越えることはきわめて困難と思われる。クロゴキブリでは, 一定期間の予備飼育がすべてのステージの冷蔵に対する耐性を高めた。すなわち, 予備飼育28日間でかなりの老令幼虫が90日間の冷蔵に耐え, 約半数の卵鞘が予備飼育40日間で冷蔵80日間に耐えた。しかし成虫と若令幼虫は60日以下しか耐えられなかった。同様にヤマトゴキブリでは, 予備飼育28日間ですべての令期のほとんどすべての幼虫が120日間の冷蔵に耐え, 成虫でも90日の冷蔵に耐えた。卵鞘は予備飼育40日間のあとでも冷蔵40日で死亡した。この種では老令幼虫と成虫は予備飼育なしでも90日間の冷蔵に耐えた。ゴキブリのひそむ場所の冬の最高最低温度は平均温度とそれほどかけはなれたものとは考えられないので, これらの結果はクロゴキブリとヤマトゴキブリが本邦中部の戸外および無加温の建物の中で越冬できることを示しているといえよう。ヤマトゴキブリの2令と終令にみられる特異的な発育遅延は冷蔵によって消去され, 休眠の特性を示した。クロゴキブリの2令でも20℃で休眠様の発育遅延があるが, その幼虫を直接冷蔵した場合60日間で全部死亡した。しかし予備飼育を経過させた場合については未調査である。
著者
山内 直人 赤井 伸郎 石田 祐 稲葉 陽二 大野 ゆう子 金谷 信子 田中 敬文 樽見 弘紀 辻 正次 西出 優子 松永 佳甫
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2009

本研究は、「ソーシャル・キャピタル(社会関係資本)」の定量的把握および統計的分析からその経済社会的効果を分析し、政策的意義について検討・評価することを目的としたものである。 研究の成果を通じて、抽象的概念であるソーシャル・キャピタルの定量的把握に関する手法を開発、新しいソーシャル・キャピタル指標を提示し、それを用いた実証分析を行うことが可能となった。また、これまで十分に解明されてこなかったソーシャル・キャピタルの日本的特徴を把握し、多様な政策対象とソーシャル・キャピタルとの関係性に関する理論的、実証的示唆を得るとともに、ソーシャル・キャピタルの社会的意義や政策的インプリケーションに関する検討課題や論点を整理した。
著者
辻丸 光一郎
出版者
国立研究開発法人 科学技術振興機構
雑誌
情報管理 (ISSN:00217298)
巻号頁・発行日
vol.45, no.8, pp.544-552, 2002 (Released:2002-11-01)

バイオテクノロジーの分野では,ヒトゲノム解読が終了し,現在はタンパク質の構造と機能の解析にステージが移行し,ポストゲノムの時代となった。ゲノム・ポストゲノム研究の進展に伴い,知的財産の重要性が高まっているが,それとともに新たな問題が生じている。ゲノム・ポストゲノム研究では,遺伝子の配列やタンパク質の三次元構造座標データ等の情報が重要であるが,現在の特許制度では保護できない。また,ゲノム情報を用いた医薬品開発(ゲノム創薬)では分業化が進んでおり,これに伴いライセンスの問題もある。本稿では,ゲノム創薬と特許の関係を説明し,新たに生じている問題に言及する。
著者
高辻 俊宏
出版者
Journal of Radiation Research 編集委員会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.41, 2010

長崎の黒い雨の科学的記録は限られている。その記録によれば、黒い雨は爆発後約20分後に爆心から約3km東にある西山地区で降り出した。爆発時は風速約3m/sの南西の風であったと報告されている。しかし、<SUP>239,240</SUP>Puと、<SUP>137</SUP>Csの有意な汚染は主として爆心から真東の地域に見つかっている。西山地区の<SUP>239,240</SUP>Pu濃度と外部線量率は、広島の黒い雨地域よりはるかに高かった。降雨は爆心近くの多くの地点で報告されている。少し遠いが、爆心から北西約19 km の大村海軍病院では、爆発後約10分で天気雨が報告されている。しかし、雨は黒くなかった。<BR> 黒い灰と微軽量物が爆心から真東の地域で降り、それは、爆心から10 kmにまで届いたと報告されている。畑は微軽量物で薄白くなり、サトイモの葉には指で字が書けたと報告されている。<BR> 原爆被爆者として公式認定されなかった人々は、西山地区を含む広い範囲に爆発直後、強い放射性降下物があったはずだと主張して、日本政府に認定を求める訴訟を起こした。西山地区における爆発1時間後からの人体への最大外部積算線量は、約0 .4 Gyと見積もられた。また、ホールボディカウンタによる測定や染色体の調査では、高線量内部被ばくの兆候はなかった。しかし、外部線量の直接測定は爆発後48日目から始められ、ホールボディカウンタによる測定と染色体の調査は1969年に始まった。当時の西山地区住民の多くは地区で育った野菜を食べ、西山水源池の水を飲んでいたものと思われる。西山水源地の水を毎日飲んでいた当時の一人の住人は、爆発1年後から、のどが腫れ、痛み出したと言っている。爆発後初期の内部被ばくの評価が重要である。
著者
佐々木 雅也 荒木 克夫 辻川 知之 安藤 朗 藤山 佳秀
出版者
公益財団法人 日本ビフィズス菌センター
雑誌
腸内細菌学雑誌 = Journal of intestinal microbiology (ISSN:13430882)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.1-8, 2005-01-01
参考文献数
21
被引用文献数
1

腸管粘膜細胞の増殖・分化は,消化管ホルモンなどの液性因子や食餌由来の腸管内増殖因子などにより巧妙に調節されている.腸管内の増殖因子として,ペクチンなどの水溶性食物繊維には顕著な腸粘膜増殖作用があり,それには発酵性と粘稠度が関与している.発酵により生じた短鎖脂肪酸,特に酪酸は大腸粘膜細胞の栄養源であり,腸管増殖因子としても作用する.一方,酪酸には抗炎症作用があり,傷害腸管の修復にも関与する.これらは,デキストラン硫酸(DSS)にて作成した潰瘍性大腸炎モデルにおいても確認されている.さらに,酪酸産生菌である <i>Clostridium butyricum</i> M588経口投与によってもDSS大腸炎の炎症修復が確認された.一方,発芽大麦から精製されたGerminated barley foodstuff (GBF)は,潰瘍性大腸炎モデルなどによる基礎研究の成績をもとに臨床応用され,優れた臨床成績から病者用食品として認可されている.また,レクチンにも食物繊維と同様の腸粘膜増殖作用があるが,これらは腸内細菌叢に影響を及ぼすことなく,おもに腸粘膜への直接的な増殖作用とされている.これらの増殖因子は傷害からの修復にも寄与するものと考えられる.<br>
著者
柴辻 優樹
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2021年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.70, 2021 (Released:2021-03-29)

研究の背景自然災害後における社会経済的に不利な人々の居住地移動パターンについては、世界各地の事例をもとに多くの研究が行われている。Elliot and Pais (2010)はHurricane Andrew後の人口の空間的再分配を分析し、社会的に脆弱な人々は災害発生前に発展していなかった地域に集中する傾向を指摘した。Kawawaki (2018)は東日本大震災後の人口移動要因について分析し、Elliot and Pais (2010)と同様の傾向が見られることを指摘した。本研究では、日本において特に経済的困難に陥りやすい母子世帯の移動に着目し、東日本大震災後の移動傾向を分析した。分析方法とデータ分析には2項ロジットモデルを用いた。被説明変数は、震災前後で同じ住所に居住していれば1、そうでない場合は0とし、被災地からの移動の傾向を分析した。対象は子供のいる核家族世帯の世帯主もしくは代表者(以下、世帯主)とした。分析では母子世帯(離別・死別・未婚の母と20歳未満の子のみの世帯)の母についてダミー変数を用いた。被災地はKawawaki(2018)が用いた岩手県・宮城県・福島県の沿岸の38市区町村と定義し、震災前に被災市区町村に居住していたかを表すダミー変数を用いた。データは国勢調査の調査票情報(2015年)を用いた。各世帯の移動の有無は5年前常住地をもとに、2010年の常住地が2015年と同一住所である場合は1、そうでない場合は0とする。説明変数は母子世帯ダミー、2010年被災地居住ダミーに加え、両変数の交差項を用いる。その他のコントロール変数は年齢、年齢の2乗項、女性ダミー、2010年時点の子供の数、2010年時点の6歳未満の子供の有無ダミー、外国人ダミー、2010年常住地の人口区分ダミー(5万人 or 20万人以上)、その他2010年常住地の地域特性(失業率、人口密度(対数)、離婚率、転出超過率、平均収入、自治体の歳出決算総額に占める民生費率、民生費に占める児童福祉費率)を用いる。分析結果の概要限界効果の推定値より、被災地に居住していなかった世帯主と比較すると2010年の被災地居住世帯主は、2015年も同じ住所に留まる確率が約14.4%低いこと、母子世帯の母はほかの世帯主と比較すると同じ住所に留まる確率が約0.6%低いことがわかる。交差項の限界効果推定では、被災地に居住していた母子世帯の母は、被災地居住のほかの世帯主と比較すると、同じ住所に留まる確率が約6.7%高い結果となった。以上の結果から、東日本大震災の影響を受けた地域に居住していた母子世帯は子供のいる核家族世帯と比較して、同じ地域に居住し続ける傾向が強いことが示唆される。参考文献Elliot, J. R. and Pais, J. 2010. When Nature Pushes Back: Environmental Impact and the Spatial Redistribution of Socially Vulnerable Populations. Social Science Quarterly 91: 1187-1202.Kawawaki,Y. 2018. Economic Analysis of Population Migration Factors Caused by the Great East Japan Earthquake and Tsunami. Review of Urban & Regional Development Studies 30: 44-65.謝辞データは統計法に基づき、独立行政法人統計センターから「国政調査」(総務省)の調査票情報の提供を受け、独自に作成・加工したものであり、総務省が作成・公表している統計等とは異なる。本研究は日本学術振興会特別研究員奨励費(課題番号:20J22386)の助成を受けた。ここに謝意を表する。
著者
松崎 秀夫 財満 信宏 岩田 圭子 小川 美香子 辻井 正次 瀬藤 光利 土屋 賢治 伊東 宏晃 間賀田 泰寛
出版者
浜松医科大学
雑誌
新学術領域研究(研究課題提案型)
巻号頁・発行日
2009

自閉症者血清中の脂質VLDL分画の低下から(1)自閉症者血清中の脂肪酸解析、(2)脂肪酸所見に基づく自閉症動物モデルの確立とその解析、(3)動物モデルを用いた新規自閉症治療法を検討した。その結果、VLDL分画の低下に関連の深い脂肪酸としてω6脂肪酸を含む6種類の脂肪酸を見出した。ついでCD38KOマウスに自閉症者同様の血清中脂質VLDL分画・ω6脂肪酸の低下を認め、血中ω6脂肪酸の低下を出生直後に補うと社会認識行動の修復につながることを見出した。VLDLR-Tgラットにも多動と組織中のアラキドン酸の欠乏が示された。
著者
辻田 右左男
出版者
奈良大学
雑誌
奈良大学紀要 (ISSN:03892204)
巻号頁・発行日
no.9, pp.p61-74, 1980-12

ハヅクルートは,わが国では,まだ,ほとんど知られていない名前である.筆者自身もかれの名前だけはかすかに知っていたが,かれが現在に至るまで,地理学の上に大きく,根強い影響力をもつ学者であることを数年前まで明らかにしえなかった.ではRichard Hakluyt(1552-1616)とはいかなる人物であったろうか.かれは,まず,シェクスピアと同時代の,偉大な地理学者の1人であった.つぎに聖職者ハックルートHakluyt,Preacherとしぼしばかれが自署したように,かれは職業的には僧侶であったが,なによりも重要なのは,倦まずたゆまずその一生をかけて,イギリスはじめ近隣諸国の航海文書を収集し,地理学の聖典Bibleともいうべきみごとな『航海記』を後世に遺したことである.17世紀後半から始まるイギリスの領土的拡大,大植民帝国の建設はこの書物の存在に負うところが多い.従来,ハックルートならびに『航海記』Principal Navigationsが,わが国の地理学で不問に付されていたのは,明治中期以後の日本の近代地理学が,まずフンボルト,リッター,ラッツェルを生んだドイツに傾斜し,のちブラーシュによって代表されるフランス学派に左祖したことに遠因が求められる.いずれかといえば,イギリスの地理学は地味であり探検地理,商業地理など実用面を重んじ,理論的でないという理由で,わが国ではこれを軽視する風潮があったことは否めない.たしかに,地理教育の上では,福沢諭吉などの提唱によりイギリスに範を求めた事例も少くはないが,学問としてはイギリスの地理学は敬遠され,当然のこととして,ハックルートのような地理学の巨匠の姿が見失われ勝ちであった.筆者はこの小文において,敢えてこの未知の巨人に接近し,シェクスピアの劇作に匹敵するという偉大な業績,散文で書かれたイギリス国民の叙事詩prose epic of the English Nation と呼ばれる『航海記』の一断面を明らかにしてみたいと思う.
著者
河村 葉子 辻 郁子 杉田 たき子 山田 隆
出版者
[日本食品衛生学会]
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.170-177, 1997-06-05
参考文献数
11
被引用文献数
4

ステンレス製器具及び食器からの鉄, クロム, ニッケル, 鉛及びカドミウムの溶出について検討を行った. 溶出した鉄, クロム, ニッケルにおいては, 溶出溶媒では水<4%酢酸<0.5%クエン酸, 溶出条件では室温24時間<60℃30分間<95℃30分間<沸騰2時間の順に, 溶出量が多くなった. 市販及び使用中の器具及び食器について, 4%酢酸で60℃又は95℃30分間の溶出試験を行ったところ, 新品では鉄50~1,110ppb, クロム5~28ppbの溶出が認められたが, 使用中の製品では検出頻度, 検出値ともに低く, 繰り返しの使用により溶出量が低下するものと考えられた. また, 鉛は使用中の製品1検体から検出されたが, 25ppbと微量であった. 一方, カドミウム及びニッケルはいずれの製品からも検出されなかった.