著者
黄 錫炯 辻野 嘉宏 都倉 信樹
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.1003-1011, 1995-04-15
参考文献数
10
被引用文献数
1

オブジェクト指向プログラミングにおいて、品質の良いプログラムを作成するためには、プログラムの性質と構造などを厳密に理解した上でプログラムの複雑さを減らすための方法を考える必要がある。オブジェクト指向プログラムでは、プログラムの複雑さはクラスの間のメッセージ転送より発生するクラス間の相互依存関係に起因する。この考え方に基づいて、クラス間の不必要な相互依存関係を減らすためのプログラミングスタイルに関する規則としてデメテノレの規則(TheLawofDemeter)が知られている。しかし、その定義が非常に暖味であるため、いろいろな解釈が生じる恐れがあり、実際にプログラムに適用する際には問題がある。本論文では、従来の非形式的なデメテルの規則を実際のプログラムに適用、評価するために、クラス間の関係として継承と集約、そして関連などの諸定義を行い、それらを用いてデメテルの規則を定式化する。またデメテルの規則の判定アノレゴリズムと、デメテルの規則に違反したプログラムに対する変換方法について述べる。
著者
永野 忠聖 岩下 香織 鴨下 亜衣 辻 友美
出版者
新潟人間生活学会
雑誌
人間生活学研究 (ISSN:18848591)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.101-106, 2015-03

食品添加物の安全性についての評価は一般的に単独でおこなわれることが多いため、Lau らは複数の食品添加物の組み合わせによる神経芽細胞腫への効果について検討をおこない、神経突起の成長阻害が2 種類の品添加物( ブリリアントブルーFCF と L- グルタミン酸、キノリンイエローとアスパルテーム) の同時投与により相乗されることを示した。本研究では、Lauらがおこなっていない2 種類の組み合わせである、アスパルテームとブリリアントブルーFCFそれぞれの単独投与と共投与を初代培養神経細胞に対しておこない、神経細胞への生存作用について検討をおこなった。また、食品添加物と注意欠陥・多動性障害(ADHD)との関連性がこれまでに指摘されており、ADHD においてGABA 抑制伝達が減弱するとの報告もあることから、本研究では、GABA 抑制性神経細胞に対して免疫組織化学的手法を用いて検討をおこなった。ブリリアントブルーFCF を単独で10nM、72 時間添加したとき、大脳皮質初代培養神経細胞の細胞数は有意に減少していた。また、ブリリアントブルーFCF 10nM、アスパルテーム5μM の濃度で共投与した時にGABA 抑制神経細胞の割合が有意に減少していた。これらの結果は、高濃度のブリリアントブルーFCF が神経細胞に対して生育阻害に働き、また、高濃度のアスパルテームと組み合わせた時に、特にGABA 抑制細胞に対して阻害的に働くことを示唆する。
著者
山下 勝 篠原 かおる 辻 智子 岸本 正直 大森 孝一
出版者
耳鼻咽喉科臨床学会
雑誌
耳鼻咽喉科臨床 (ISSN:00326313)
巻号頁・発行日
vol.95, no.7, pp.673-677, 2002-07-01 (Released:2011-11-04)
参考文献数
11
被引用文献数
4 3

We treated 265 patients (270 ears) with idiopathic sudden deafness by intravenous corticosteroid hormone administration. Complete recovery occurred in 31% of patients, definite improvement in 17%, slight improvement in 19%, and no improvement in 33%. Prognostic factors for better hearing were as follows: younger age, absence of vestibular symptoms, hearing loss configuration without high tone impairment, mild initial hearing loss, and early initial treatment after onset. In the past 10 years, only three reports analyzing more than 200 patients were found in the Japanese literature. All papers reported complete recovery in approximately 30%.
著者
遠又 靖丈 寳澤 篤 大森(松田) 芳 永井 雅人 菅原 由美 新田 明美 栗山 進一 辻 一郎
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.3-13, 2011 (Released:2014-06-06)
参考文献数
16
被引用文献数
8

目的 介護保険制度の二次予防事業の対象者把握には,25項目の基本チェックリストを用いている。しかし,基本チェックリストによる要介護認定の発生予測能を実地に検証した報告は少ない。本研究の目的は,基本チェックリストの各項目や各基準について,要介護認定の新規発生に対する関連の程度とスクリーニングの精度を検証することである。方法 2006年12月に宮城県大崎市の65歳以上の全市民を対象に,基本チェックリストを含む自記式質問紙を配布した。有効回答者のうち要介護認定の情報提供に同意し,基本チェックリストの回答項目数が 2 項目以上で,ベースライン時に要介護認定を受けていない者を 1 年間追跡し,死亡•転出した者を除外した14,636人を解析対象とした。解析には性•年齢の影響を補正するために多重ロジスティック回帰分析を用い,基本チェックリストの各項目と二次予防事業の対象者の選定に用いられる各分野の該当基準に該当した場合のそれぞれで,1 年間の新規要介護認定発生のオッズ比と95%信頼区間(95%CI)を推定した。また各分野に関して,感度と特異度を算出し,Receiver operating characteristic (ROC)分析を行った。結果 二次予防事業の対象者の選定基準に該当する者は5,560人(38.0%),1 年間の要介護認定発生者は483人(3.3%)であった。基本チェックリストの全項目が,要介護認定発生と有意に関連した(オッズ比の範囲:1.45~4.67)。全ての分野の該当基準も,要介護認定発生と有意に関連した(オッズ比の範囲:1.93~6.54)。そして「二次予防事業の対象者」の基準のオッズ比(95%CI)は3.80 (3.02–4.78)であった。各分野のうち,ROC 曲線下面積が最も高かったのは「うつ予防•支援の 5 項目を除く20項目」であり,7 項目以上を該当基準にすると,「二次予防事業の対象者」の基準を用いた場合に比べ,感度は変わらないが(7 項目以上を該当基準にした場合77.0%,「二次予防事業の対象者」の基準を用いた場合78.1%),特異度は高かった(それぞれ75.6%,63.4%)。結論 基本チェックリストの各項目や各基準は,その後 1 年間の要介護認定の新規発生の予測に有用であった。しかし,項目や分野によって関連の強さや予測精度は異なり,基準値には改善の余地があった。
著者
今橋 聡 鍋坂 信也 中里 俊二 河辻 輝之 本川 禎久
出版者
社団法人 日本印刷学会
雑誌
日本印刷学会誌 (ISSN:09143319)
巻号頁・発行日
vol.45, no.5, pp.397-413, 2008

The market and technical developments for flexo printing system in Japan was behind to Europe and America. Today's market share of flexo printing in Japanese printing industry is only 9% and most field of flexo printing is occupied by corrugated cardboard printing and paper bag printing. Flexo printing has a lot of advantages, such as the use of environment-friendly inks, suitability to printing with many varieties of small lot and short delivery date and energy saving high speed printing. Printing quality in flexo printing has improved and come to be almost comparable with gravure printing or offset printing thanks to technical innovation namely high-performance printing press, high-quality ceramic anilox roll, chambered doctor-blade system, digital plate-making system and so on. Recently in Japan much interest for flexo printing process has been increased especially in flexible packaging industry, due to current environmental issues and demand for cost reduction. At present some issues for expanding of flexo market have been pointed out. These include cost reduction of materials and machines, improvement of performance of water based on flexo ink, and development of prepress technology suitable for flexo. Flexo printing is expected to be improved in performance, replace gravure printing in flexible packaging industry and offset printing in carton industry and be used in new markets in near future. It has been pointed out that the combination of flexo printing with other printing systems, such as offset printing and gravure printing will lead to creation of new demands and new markets.
著者
柴田 大輔 河合 望 中町 信孝 津本 英利 長谷川 修一 青木 健 有松 唯 上野 雅由樹 久米 正吾 嶋田 英晴 下釜 和也 鈴木 恵美 高井 啓介 伊達 聖伸 辻 明日香 亀谷 学 渡井 葉子
出版者
筑波大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2012-06-28

現在の西アジア諸国において戦争・政争を引き起こす重要なファクターとしてイスラームの政教問題が挙げられる。西アジア政教問題の重要性は万人が認めるところだが、一方でこの問題は単なる現代情勢の一端として表層的に扱われ、しかも紋切り型の説明で片付けられることも多い。本研究は、文明が発祥した古代からイスラーム政権が欧米列強と対峙する近現代にいたる長い歴史を射程に入れ、政教問題がたどった錯綜した系譜の解明を目指した。ユダヤ・キリスト教社会、紋切り型の説明を作ってきた近現代西欧のオリエント学者たちが西アジアに向けた「眼差し」も批判的に検討したうえで、西アジア政教問題に関する新しい見取り図の提示を目指した。
著者
辻 威彦 籠谷 和弘 梅本 善明 松尾 雄志
出版者
日本食品化学学会
雑誌
日本食品化学学会誌 (ISSN:13412094)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.60-66, 2020 (Released:2020-08-31)
参考文献数
18

Ginger (Zingiber officinale) rhizomes have been reported to exhibit multiple efficacies on human health. In this paper, we found that n-hexane extract from ginger rhizomes (ginger oil) exhibited the inhibiting abilities against monoamine oxidase A (MAO-A) and B (MAO-B), which catalyze the oxidative deamination of monoamine neurotransmitters, by using an in vitro luminescencebased method. To characterize the compounds responsible for the inhibiting abilities against MAO-A and MAO-B, all fractions from reversed-phase chromatographies were subjected to the luminescence assay. As a result, we isolated five compounds from ginger oil by nuclear magnetic resonance (NMR) spectroscopy and mass spectrometry. The half-maximal inhibitory concentration (IC50) measurement using purified compounds revealed that (ⅰ) 6-, 8-, and 10-gingerols had strong inhibiting ability against MAO-A, whereas they showed weak inhibiting ability against MAO-B. (ⅱ) IC50 values of 6-, 8-, and 10-gingerols against MAO-A were calculated to be 175.7±11.0 μM, 54.6±2.0 μM, and 113.4±4.7 μM, respectively. (ⅲ) Furthermore, we revealed that 1-dehydro- [6]-gingerdione (compound 1) and diacetoxy-[6]-gingerdiol (compound 2) were contained in the ginger oil. (ⅳ) The compound 1 showed strong and selective inhibiting ability against MAO-B with IC50 of 6.77±0.45 μM, which was 10 times stronger than that against MAO-A. (ⅴ) The compound 2 showed weak inhibiting ability against both MAO-A and MAO-B. These findings suggest that the compound 1 having strong inhibiting ability against MAO-B could lead to the development of functional food materials intended to improve brain function.
著者
﨑山 威 辻野 亮
出版者
奈良教育大学自然環境教育センター
雑誌
奈良教育大学自然環境教育センター紀要 = Bulletin of Center for Natural Environment Education, Nara University of Education (ISSN:21887187)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.1-7, 2020-03-31

奈良県吉野郡の大峯山系大普賢岳と和佐又山周辺の2調査地で、中・大型哺乳類相と特に優占種と予想されるニホンジカCervus nipponの出現季節変化を明らかにした。大普賢岳地域は2018年5月から2019年8月までの16ヶ月間、和佐又山地域は2018年5月から2019年7月までの15ヶ月間、赤外線センサー付き自動撮影カメラを使用したカメラトラップ法を用いて調査したところ、大普賢岳地域では、2,564日の延べカメラ稼働日数で、ニホンジカ1,535頭 (79.7%) をはじめ11種1,927頭が撮影され、和佐又山地域では、1,030日の延べカメラ稼働日数で、ニホンジカ343頭 (58.8%) をはじめ10種583頭が撮影された。優占していたニホンジカの季節変動を見ると、大普賢岳地域では5月から8月まで撮影頻度指標 (RAI:Relative Abundance Index) が高くてそれ以外の月は低く、和佐又山地域では9月と10月にRAI が高く、それ以外の月では低かった。ニホンジカは、高標高での積雪や堅果などの果実類の利用可能量に合わせて標高間を移動していることが示唆された。
著者
仲辻 真帆
出版者
日本音楽学会
雑誌
音楽学 (ISSN:00302597)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.32-49, 2019 (Released:2020-10-15)

東京音楽学校本科(現在の東京藝術大学音楽学部)において体系的な作曲教育が開始されたのは、1931(昭和6)年のことである。時勢に鑑みて、文部省令により「作曲部」が設置された。東京音楽学校の作曲教育は、日本における創作領域の人材育成に大きく寄与してきたにもかかわらず、これまで本格的な研究がなされてこなかった。本論文は、この本科作曲部の最初期の様相解明を目的としている。 1932年より本科作曲部の入学者が募集され、設置当初は毎年2~3人の作曲専攻の学生が入学した。信時潔、片山頴太郎、下總皖一、呉泰次郎の他、外国での研鑽を終えたばかりの細川碧や橋本國彦、ドイツ音楽を体得していたK. プリングスハイムも指導にあたった。ドイツやウィーンの音楽理論の教授が根幹にあったが、和歌への作曲や律旋法・陽旋法など日本の伝統的音階に基づく作曲も実施されていた。教員たちが自ら翻訳したテクストを用いるなど独自の音楽理論を展開していたことも明らかとなった。 本研究では、学校資料に基づいてカリキュラムや試験問題を提示するとともに、1930年代に在学していた学生たちの手稿資料を活用して授業内容を検証した。とりわけ自筆譜、日記、書簡からは、ソナタの作曲に苦悶しながら、朝夕問わず日々習作を書いて作曲修得に励んでいた学生たちの様子が浮き彫りとなった。S. ヤーダスゾーンの『和声学教科書』が受験勉強に用いられていたこと、作曲部の授業でS. クレールやH. リーマンの和声論が教授されていたことも判明し、そこから昭和初期の和声教育の一端が見出された。 研究対象とした1930年代は、社会状況が激しく変化した時期である。作曲部の学生たちも軍事訓練への参加や戒厳令下での合唱練習を経験していた。ただし戦争の影響はまだ大きくなく、設置当初の作曲部では充実した授業が実施されていた。初期卒業生の記述からは、新体制の中で豊かな作曲教育を享受していたことがわかる。
著者
山中 康彰 辻野 亮 鳥居 春己
出版者
奈良教育大学自然環境教育センター
雑誌
奈良教育大学自然環境教育センター紀要 = Bulletin of Center for Natural Environment Education, Nara University of Education (ISSN:21887187)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.21-30, 2021-03-31

春日山原始林 (奈良県奈良市) において哺乳類相とニホンジカCervus nippon の生息密度を明らかにするために、スポットライトセンサス法とカメラトラップ法、糞粒法の3種を用いて野外調査を行った。スポットライトセンサス調査を2009年11月~2010年12月に56回、カメラトラップ調査を2009年12月~2010年12月に行い、ニホンジカ、イノシシSus scrofa、ムササビPetaurista leucogenys をはじめとした哺乳類14種が確認できた。スポットライトセンサス法と糞粒法によるニホンジカの推定生息密度は、それぞれ28.5頭/km2と66.6 頭/km2 (2010年12月)であった。ニホンジカの推定生息密度と撮影頻度指数は冬期の1月が最も高く (2010年1月、推定生息密度50.0 頭/km2、撮影頻度指数105.5)、その他の季節は低かった (平均推定生息密度24.6頭/km2、平均撮影頻度指数12.2)。ニホンジカの推定生息密度と撮影頻度指数には有意な正の相関が見られた(ρ= 0.795、p= 0.012、N= 13)。
著者
辻 大介
出版者
社会学研究会
雑誌
ソシオロジ (ISSN:05841380)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.3-20, 2018-06-01 (Released:2021-07-10)
参考文献数
33

日本では、二〇〇〇年代に入ってインターネット上で排外主義的な言説が急速な広がりをみせ、ネット右翼を母体とする「在特会」のようなヘイト団体の活動が深刻な社会問題となるに至った。インターネットが排外主義者を結びつけ、活動を促進させる触媒の役割をはたすことは、先行研究でも確認されている。しかしながら、そうした一部の活動家集団だけでなく、一般層に対しても、ネット利用は排外意識を高めるような因果的作用をおよぼすのだろうか。このことを計量的な社会調査データをもとに分析した検証例はきわめて少ないうえに、それらもネット利用と排外意識が正の相関をもつことを見いだしたにとどまり、因果の向きは明らかでない。 そこで本稿では、二〇一七年一一月に実施したウェブ調査データをもとに、操作変数法を用いた双方向因果モデルに よって、[i]ネット利用が排外意識を強めるのか、それとも、[ii] 排外意識の強い者ほどネットをよく利用するのか、因果の向きを分析した。その結果、[i]の向きのパスは有意な係数値を示し、正の因果効果が認められたが、[ii] の向きのパスは有意でなく、因果効果は支持されなかった。また興味深いことに、ネット利用は反排外的な意識を高める因果効果も同時に有していることが確認された。追加分析の結果から、この相反的な二方向への同時効果は、情報や他者への選択的接触によって生じている可能性――すなわち、排外意識を先有傾向としてもつ者は、ネット上で排外主義的な情報や他者により多く接触することによって、その影響をより強く受け、反排外意識をもつ者はその逆であること――が示唆された。
著者
久保田 陽子 伊田 昌功 伊藤 宏一 加藤 浩志 辻 芳之
出版者
近畿産科婦人科学会
雑誌
産婦人科の進歩 (ISSN:03708446)
巻号頁・発行日
vol.66, no.3, pp.257-264, 2014

日本では諸外国に比し硬膜外麻酔を用いた無痛分娩の普及率は著しく低いが,当院では分娩例の約半数に無痛分娩を施行している.今回,2010年7月から2011年12月の間での無痛分娩症例において,後方視的に自然分娩例と比較し分析することにより,無痛分娩が分娩や新生児に与える影響を明らかにすることを目的とした.無痛分娩群では自然分娩群と比較して,回旋異常発生率・陣痛促進剤使用率・吸引分娩施行率・分娩所要時間(分娩第1期・分娩第2期)が有意に上昇したのに対し,緊急帝王切開移行率・分娩時総出血量は両者で有意差を認めなかった.新生児への影響に関しては,Apgar score,臍帯血pHには有意差を認めなかった.臍帯血BEにおいては両群間で有意差を認めるも,ともに正常値の範囲内であり,以上より無痛分娩が新生児へ悪影響を及ぼすことはないという結果になった.無痛分娩による母体合併症として,当院では2例の硬膜穿刺後頭痛を経験したが,いずれも保存的治療のみで症状は軽快し,うち1例では次回分娩時にも無痛分娩を希望した.以上より,分娩帰結に差がないことを考えれば,痛みのない分娩を選択でき得ることは妊婦にとって大きな助けになると思われる.〔産婦の進歩66(3):257-264,2014(平成26年8月)〕
著者
寺田 勝彦 藤田 修平 田端 洋貴 脇野 昌司 松本 美里 辻本 晴俊 菊池 啓
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.B1304, 2007 (Released:2007-05-09)

【はじめに】ヒトの直立二足立位・歩行を獲得するには,ヒト上科に属するチンパンジーなどの霊長類モデルとの機能形態比較や,central pattern generator(CPG)を考える必要がある.今回,それらの観点からの介入法により,歩行機能を再獲得した症例について報告する.【症例】37歳,女性.既往歴:34歳の時にTh11脊髄出血.PT介入により,自立歩行獲得.36歳の時に坐位姿勢不良,立位保持・歩行は不可能となる.介助した立位姿勢は,頭部を前方へ突き出し,躯幹上部を前屈させ,両肩甲帯挙上・後退,上肢外転,股・膝屈曲した霊長類の立位postural synergy(PS)を取る.本院の神経内科病棟に入院となるが,CT・MRIの画像診断,神経伝導速度,血液・生化学検査で異常は認められなかった.なお,本症例には公表する旨を伝え,同意を得た.【PT評価および介入】原始的立位PSと姿勢筋トーヌスおよび神経テンションテスト,神経・筋の触診から,副神経,肩甲背神経,長胸神経,胸背神経,肋間神経,腸骨下腹神経,閉鎖神経,坐骨神経,大腿神経,総腓骨神経,脛骨神経および橈骨神経,正中神経,尺骨神経の神経緊張の増大とmobilityの低下が認められた.また端坐位姿勢から,CPGが賦活されにくい脊髄動力学の異常が観察された.そのために,霊長類モデルのナックル姿勢・歩行,垂直木登りのPS・MSとの機能形態や神経・筋比較から,ヒトの歩行機能の獲得に必要な介入法を模索した.先ず神経モビライゼーションの導入と脊髄動力学の改善をヒトの正常発達の順序性に則した肢位と正座・胡坐で施行し,それらのPSを獲得し直立二足立位PSに繋げた.次にステップ肢位でのPSを獲得し,歩行のmovement synergy(MS)に繋げた.神経モビライゼーションの手技は,バトラーの手技で対応できる方法はそれに準じた.手技の無い体幹の神経である肋間神経,腸骨下腹神経は水平かつ後方に,副神経・長胸神経・胸背神経は中枢から末梢に向かって動かした.それらの神経との繋がりが強い神経系は,相互にテンションを高め走行に沿って上から圧を加えた.脊髄動力学の改善は,Louisの報告を基に行った.またステップ肢位は,前下肢を足関節背屈位とした.【結果】PT施行前は坐位・立位保持,独歩不可能であるが,施行後は安定した坐位・立位姿勢保持可,ロフストランド杖歩行20m可,独歩も5m程度であるが可能となる.【考察】原始的な立位PSが優位な症例では,ヒトの直立二足立位・歩行は獲得されない.今回の介入法により,原始的PSを誘発する神経系の緊張の軽減とmobilityの改善および脊髄動力学の改善を得ることで,腰椎前弯を呈した直立二足立位PSが可能となった.更にステップ肢位でのPS獲得により,flexion reflex afferents(FRA)からの求心性情報が,CPGを構成する介在ニューロン網の活動を高め,多シナプス性に左右下肢の屈筋と伸筋の律動的な活動を生み出し, ヒトの歩行MSが再獲得された.