著者
井上 清俊 金田 研司 木下 博明
出版者
大阪市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

肝臓において、類洞壁星細胞が活性化し線維化を生じるに伴って細胞質型のプリオン蛋白(PrPc)を発現することをヒントとし、肺の線維化におけるプリオン蛋白の発現について基礎研究および臨床研究を行なった。基礎研究として肺組織におけるプリオン蛋白産生細胞の解析を、肺線維症モデルを作成し免疫組織化学的手法を用いて行なった。正常肺では細気管支に多く分布し小顆粒を有するクララ細胞の細胞質にPrPcの発現が認められたが、核と顆粒には発現は認められなかった。ブレオマイシンの細気管支投与によって作成した線維化肺では、終末細気管支の周囲の線維化巣において細気管支が増殖し、増殖細気管支はPrPc陽性のクララ細胞に覆われていた。また、PrPc陽性細胞は、肺胞管の上皮と肺胞の再生した上皮にも存在していた。また、線維化巣にはα-smooth muscle actin陽性の筋線維芽細胞が多数存在していたが、PrPc陽性細胞とはその分布は異なっていた。これらの所見より、肺胞が障害を受けた際、クララ細胞が増殖し終末細気管支から腺房に遊走し、肺の幹細胞として増殖し損傷を修復する可能性と、肝と肺の筋線維芽細胞のheterogeneityの可能性を示唆している。臨床研究は、当病院において原発性肺癌症例で放射線療法と化学療法を施行した後、外科的治療を行なった摘出標本を用いて、プリオン蛋白発現を指標とした至適放射線量と範囲および術式の再評価を行なうことを目指した。摘出した標本においては、免疫組織化学的手法およびPCR法を用い検討じたが、放射線療法終了後約6〜8週経過し線維化が完成した為か、明らかなプリオン蛋白陽性細胞の増殖は認めなかった。今後はプリオン蛋白の発現が最も顕著と思われる時期、すなわち放射線療法の影響が強く存在し、明らかに線維化が完成する以前の肺組織を対象として、再度検討する予定である。
著者
金子 邦彦
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

生命現象の本質を適度に抜きだした力学系モデルを設定し、そこでの現象を解析することを通して、どのような条件のもとで、生命現象の特性があらわれるかを明らかにし、そのための論理を探った。(1)細胞分化システム:細胞内の化学反応ネットワーク、拡散相互作用、増殖だけによって、分化発生が起こることを示してきたが、この時にカオス的なダイナミクスを持って分化するような反応ネットワークを持った方が集団として速く増殖でき、選択されてきたことを示した。幹細胞から、分化、決定していく不可逆性が、多様性やカオスの減少として記述されることを示した。(2)空間的相互作用を含めた細胞分化モデルを解析し、チューリングの形態形成理論とは異なる型のパタン形成が生じることを示した。さらに、細胞内部のダイナミクスに基づいて位置情報が生成し、安定なパタンが維持されることを示した。(3)総分子数が少なく、ゆらぎが多い系では、コントロール的役割を持つ少数の分子と多様増殖をになう分子への分離過程が生じることを示し、デジタル情報を担う遺伝情報と代謝への役割分化を捉えた。(4)少数個の分子での反応系では、連続極限の力学系にゆらぎを加えた系とは本質的に異なる相への転移が起こることを見出し、その機構を求め、細胞内でのシグナル分子の性質との関連をも議論した。(5)ダーウィン進化論の枠の中でも相互作用によって表現型が分化すると、それが遺伝的進化を促しうることを示し、その成立条件調べ、特に、これまでの進化理論で説明されにくい、発生と進化の関係、進化のテンポの非一様性などを議論した。(6)時間スケール、空間スケールの異なる力学系が相互作用したときに速いスケールが遅いスケールに連鎖的に影響を与えるケースを探り、記憶、履歴構造を持つ力学系の原型を探索した。(7)分子内のモードが分化し、分子の一部に長時間エネルギーを蓄える構造が出現することを明らかにした。その時間が蓄えたエネルギーEについて、指数関数的に増大し、この緩和時間が余剰Kolomogorov-Sinaiエントロピーに逆比例することを示した。さらにこうして蓄えられたエネルギーを変換して利用するモデルを構築した。これは分子モーターの原理のひとつを与えると思われる。(8)この他、力学系ゲーム、関数力学系という新しい分野の開拓、計算の力学系的研究なども行った。
著者
金子 正幸 葭原 明弘 伊藤 加代子 高野 尚子 藤山 友紀 宮崎 秀夫
出版者
有限責任中間法人日本口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.26-33, 2009-01-30
被引用文献数
6

平成18年度より,地域支援事業の一環として口腔機能向上事業が実施されている.本調査の目的は,口腔機能向上事業が高齢者の口腔の健康維持・増進に与える効果を検討し,今後の事業展開のための指針を得ることである.対象者は65歳以上の高齢者で,基本健康診査を受診し,厚生労働省が示す特定高齢者の選定に用いる基本チェックリストの「半年前に比べて固い物が食べにくくなりましたか」「お茶や汁物等でむせることがありますか」「口の渇きが気になりますか」の3項目すべてに該当する55名である.対象者に対して,口腔衛生指導や集団訓練としての機能的口腔ケアからなる口腔機能向上事業を,4回または6回コースとして3ヵ月間実施した.口腔衛生状態,口腔機能およびQOLについて事業前後の評価を行った.その結果,反復唾液嚥下テスト(RSST)積算時間は,1回目:事前7.5±5.6秒,事後5.6±3.1秒,2回目:事前16.2±9.7秒,事後12.4±6.9秒,3回目:事前25.7±14.7秒,事後19.4±10.9秒と改善がみられ,2回目,3回目について,その差は統計学的に有意であった(p<0.01).口腔機能についてはその他のすべての項目について,統計学的に有意な改善がみられた.本調査より,新潟市における口腔機能向上事業は,高齢者の摂食・嚥下機能をはじめとした口腔機能の維持・増進に有効であることが認められた.
著者
金谷健一 マイケル・J・ブルックス
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会研究報告コンピュータビジョンとイメージメディア(CVIM) (ISSN:09196072)
巻号頁・発行日
vol.2000, no.7, pp.57-64, 2000-01-20
被引用文献数
2

運動する未校正カメラで観測したオプティカルフローを特徴づけるフロー基礎行列から焦点距離とその変化速度、およびカメラの運動パラメータを計算するアルゴリズムを示す。まずオプティカルフローのエピ極線条件を導き、それを表すフロー基礎行列を定義するとともに、その分解可能条件を示す。次にフロー基礎行列を画像座標系の回転に対応する2次元回転群の既約表現で表す。シューアの補題により、これは複素数の範囲で1次元相対不変量に簡約される。これを用いると解が簡潔な代数的公式として表せる。最後に解が不定となる退化の条件を解析する。We describe an algorithm for decomposing the fundamental matrices that characterize optical flow observed by an uncalibrated camera in motion into the focal length and its rate of change and the camera motion parameters. We first derive the epipolar equation for optical flow and define its flow fundamental matrices. We also derive their decomposability condition. Then, we express them in terms of irreducible representations of the two-dimensional group of rotations associated with image coordinate rotations. According to Schur's lemma, they can be reduced to one-dimensional relative invariants with weights in the domain of complex numbers. We show that the solution can be easily obtained in a simple algebraic form in terms of them. Finally, we analyze the condition for which the solution is indeterminate.
著者
若松 宣一 後藤 隆泰 足立 正徳 井村 清一 林 憲司 亀水 秀男 飯島 まゆみ 行徳 智義 柴田 俊一 堀口 敬司 金 昇考 土井 豊 森脇 豊
出版者
一般社団法人日本歯科理工学会
雑誌
歯科材料・器械 (ISSN:02865858)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.165-177, 1990-03-25
被引用文献数
2

金属表面にコーティングする場合と同様な方法で作製したハイドロキシアパタイト(HAP)セラミックスの破壊応力に与える水の効果を評価するために, 四点曲げ試験を0.5mm/minの条件で空気中(20℃, 相対湿度73%)と蒸留水中(37℃)で行った。そして得られた強度データを2-パラメータワイブル統計を用いて解析した。各条件において, 曲げ強さのデータは単一モードのワイブル分布に従った.このデータの表面欠陥モデルを仮定したワイブル解析は, 空気中でワイブルパラメータm=7.8, σ_0=26.2MPaと蒸留水中でm=8.1, σ_0=18.5MPaを与えた.曲げ強さの平均値は空気中で27.3MPaと蒸留水中で18.2MPaであった.この結果より, 水のような腐食性環境が定応力速度で測定される破壊応力に影響を与えることは明らかである.この影響は試料が破壊するよりも低い応力レベルで起こるサブクリィティカルなクラックの成長が原因であると考えられる.また, 本研究で推定したワイブル分布関数を用いて, 試料の寸法と試料中の応力分布が破壊応力の平均値に与える影響を予測した.
著者
金子 美博 谷口泰一
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会研究報告アルゴリズム(AL) (ISSN:09196072)
巻号頁・発行日
vol.2004, no.109, pp.9-15, 2004-11-05

ネットワーク構造のシステムにおいて,ある頂点のbetweenness値は,他の2頂点間の最短路に,その頂点がどの程度深く関わっているかを示す尺度の一つである.一般的に,全点対最短路問題を解けば,頂点数nのグラフに対して,O(n3)でbetweenness値は容易に求められる.本報告では,無向の区間グラフを扱う.考察の結果,そのようなグラフでの1個の頂点のbetweenness値をO(n)で求めるアルゴリズムを提案する.In a network system, the betweenness of a vertex is one of measures that shows how deeply that vertex relates to shortest paths between other vertices.Generally,based on all pair shortest path algorithms,we can easily obtain all betweenness for graphs with n vertices in O(n*n*n) time complexity. In this report, we deal with betweenness of vertices on undirected interval graphs.We propose an O(n ) algorithm to calculate betweenness of one vertex on such graph with n vertices.
著者
金 基民 李 濬煥 中川 正雄
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. CS, 通信方式 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.104, no.721, pp.63-68, 2005-03-08

本稿では、直交周波数分割多重(OFDM)変調方式に複数のアンテナを利用するMIMO(Multi Input Multi Output)を適用した無線システムにおいて、時間/周波数同期とチャネル推定を検討し、新しいプリアンブルを提案する。MIMO-OFDMでの同期は複数の信号が混ざった状態において時間/周波数の同期が行われ、同期処理してからチャネル推定は送信アンテナから受信アンテナまでの各々チャネル分離し行う。そのため、プリアンブルは相関特性がよく、各送信アンテナからの信号が分離できるように設計する必要がある。計算機シミュレションで従来プリアンブルと提案プリアンブルの同期特性とチャネル推定特性を比較した。計算機シミュレションの結果により、提案方式は同期特性で同程度、残留周波数オフセットの条件でチャネル推定ではよい特性を得られることが確認された。
著者
金 基民 李 濬煥 中川 正雄
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. SIP, 信号処理 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.104, no.719, pp.63-68, 2005-03-08

本稿では、直交周波数分割多重(OFDM)変調方式に複数のアンテナを利用するMIMO(Multi Input Multi Output)を適用した無線システムにおいて、時間/周波数同期とチャネル推定を検討し、新しいプリアンブルを提案する。MIMO-OFDMでの同期は複数の信号が混ざった状態において時間/周波数の同期が行われ、同期処理してからチャネル推定は送信アンテナから受信アンテナまでの各々チャネル分離し行う。そのため、プリアンブルは相関特性がよく、各送信アンテナからの信号が分離できるように設計する必要がある。計算機シミュレションで従来プリアンブルと提案プリアンブルの同期特性とチャネル推定特性を比較した。計算機シミュレションの結果により、提案方式は同期特性で同程度、残留周波数オフセットの条件でチャネル推定ではよい特性を得られることが確認された。
著者
金田 芳孝 甲斐 明 酒徳 治三郎
出版者
社団法人日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科學會雜誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.83, no.9, pp.1417-1422, 1992-09-20
被引用文献数
2

同一部位に長期に嵌頓した尿管結石では,ESWLにより破砕されたにもかかわらず,微細砕石片と尿管狭窄が長期に残存し,水腎・水尿管症の残存あるいは悪化する症例が時に認められる.そのような5例5腎単位について,経皮的(4)あるいは経尿道的(1)バルーン拡張術を実施した.拡張にはバルーンダイレーショソカテーテル(7fr、拡張径6mm拡張バルーン長4/10cm Bard杜)を使用した.拡張術後,尿管ステント(7/8. 2fr.)を4〜8週間留置し,尿管ステント抜去後4〜8週間にて腎盂造影を実施した.4例4腎単位において残石片の排出と水腎・水尿管の著明な改善をみた.1例1腎単位では砕石片の残存はあるものの,水腎・水尿管の改善が認められた.すなわち5例全例に有用な結果が得られた.結石摘出術は不要であった.本法の有用性の確立には,さらに症例を重ねることと,より長期の経過観察が必要である.
著者
矢満田 健 羽生田 正行 宮澤 正久 吉田 和夫 金子 和彦 天野 純
出版者
日本肺癌学会
雑誌
肺癌 (ISSN:03869628)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.175-181, 1996-04
被引用文献数
1

症例は51歳男性で1983年6月23日左肺癌にて左上葉切除術およびリンパ節郭清が施行された.組織学的には高分化型腺癌でpT2N0M0,stage Iの診断であった.その後肺再発にて,初回手術の3年6ヵ月後に左下葉部分切除術を,その4年8ヵ月後に左のCompletion Pneumonectomyを,さらにその1年9ヵ月後に右肺上葉の部分切除術をと,3回の肺再発にて初回手術を含め合計4回の肺切除を施行した.本症例は組織学的所見を考慮し,すべて初回手術時の再発肺癌と診断したが,再発に対する積極的な再手術により本例のように比較的良好な予後を呈する症例が存在するので,呼吸機能の評価で可能であれば,積極的な外科治療が必要と思われる.
著者
冨田 京一 金村 三樹郎 黒岡 雄二 諸角 誠人 河村 毅 福島 範子
出版者
社団法人日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科學會雜誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.80, no.9, pp.1374-1377, 1989-09-20
被引用文献数
1

経過観察中,inverted typeのtransitional cell carcinomaの異所性再発がみられたinvertedpapillomaの症例を経験した.症例は24歳男性で1982年10月23日無症候性肉眼的血尿を主訴として当科受診.膀胱鏡検査にて内尿道口に表面平滑な小指頭大の腫瘍がみられ,全体像が膀胱鏡検査では把握できないため,膀胱高位切開にて腫瘍を切除した.組織学的検査にてinverted papillomaと診断された.その後19カ月,35カ月,43カ月,53カ月後に異所性再発を繰り返し,その度に経尿道的に切除した.組織学的検査にて大部分が内反構造を伴うtransitional cell carcinomaであった.inverted papillomaは一般的には良性疾患として扱われているが,悪性化および再発の可能性が存在することから他の膀胱腫瘍と同様に術後の経過観察が必要と考えられた.
著者
織田 翔子 坂口 直 金谷 晴一 吉田 啓二
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. SCE, 超伝導エレクトロニクス (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.106, no.11, pp.39-44, 2006-04-13
被引用文献数
2

我々はマイクロ波帯における送受信機の小型化・高性能化のため、超伝導薄膜上にアンテナとフィルタを設計しフィルタを整合回路として用いる設計法を提案し、研究を進めてきた。今回はアンテナとして波長に対して十分短いダイポールアンテナを用い、任意の出力インピーダンスをもつ半導体チップに対する整合法を提案、設計し、電磁界シミュレータによる性能予測を行った。また、超伝導以外の導体を用いる際のアンテナ効率についても電磁界シミュレータにより評価を行った。
著者
藤田 明 金井 弘行 山本 佳男
出版者
一般社団法人日本機械学会
雑誌
ロボティクス・メカトロニクス講演会講演概要集
巻号頁・発行日
vol.2003, 2003

本研究では移動プラットフォームの機動性とアームの作業性を併有する移動マニピュレータを複数台用いて, 共通の対象物を協調搬送する作業を取り扱う。リーダ・フォロワーのシナリオに基づき, フォロワーに相当する移動マニピュレータが可操作性の概念に基づき個々の姿勢を維持しながら作業を遂行する様子をシミュレーションと実機実験から評価する。
著者
金子 日威
出版者
立正大学
雑誌
立正大学文学部論叢 (ISSN:0485215X)
巻号頁・発行日
vol.55, pp.105-107, 1976-03-25