著者
高橋 豪仁
出版者
奈良教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

日本のプロ野球には、私設応援団や後援会が存在する。それは、近代社会におけるスポーツイベントが創出したスポーツファンによって形成された、応援のための自発的集団である。本研究の目的は、私設応援団「神戸中央会」の参与観察を通して、「全国広島東洋カープ私設応援団連盟」と「近畿カープ後援会」の設立経緯と活動状況を明らかにすることである。1.下位文化研究の視点から私設応援団の参与観察を実施した結果、球場における示威的コミットメントや選手との距離の近さが彼ら独自の勢力資源となり、スタジアムでの典型的な応援行動である旗振りやリードは応援団の社会的勢力を儀礼的に象徴化する機能を有することが推察された。そして、官僚制やヤクザ的な擬似的家制度が、これらの彼ら独自の行動様式や価値基準に取り込まれており、官僚制は近代社会の主流から取り込んだものであり、擬似的家制度は社会の周辺部分に位置づけられた親文化である。ここに、応援団の下位文化の多層性を見ることができ、私設応援団の下位文化は、応援に関する彼ら独自の価値基準や行動様式に官僚制や擬似家制度をドメスティケイト(domesticate)することによって創られているのである。2.近畿カープ後援会の設立母体であった近畿広島県人会は、戦後の復興期において広島と大阪の間の物流のパイプ役として機能しており、広島県から近畿圏への労働力のスムーズな移動に貢献していた。目に見える形で広島との繋がりを意識することのできるスポーツ観戦は、広島県人会のメンバーにとって、大阪の広島県人としてのアイデンティティを確認する場であった。カープ後援会設立のための共感の共同性を作り出したものは、単なる故郷に関する共通の記憶ではなかった。それはカープによって上演されたV1の物語であり、広島から大阪に出て来て働くという共通の体験を再帰的に映し出す社会的ドラマとなっていた。
著者
高橋 直
出版者
学術雑誌目次速報データベース由来
雑誌
心理學研究 (ISSN:00215236)
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.94-101, 1996
被引用文献数
1

This study examined the effect of trash-receptacle availability on littering behavior in a naturalistic setting, namely a shopping mall. The procedure employed was an ABAB design, with (A) a baseline period, (B) an intervention period, (A) a second baseline period, and (B) a second intervention period. During the intervention periods, receptacles for empty cans and bottles were placed next to every trash receptacle that had been in place. The arrangement had a highly significant effect on littering behavior. For the first intervention period, a 22% reduction in litter was obtained, and it was reduced 34% for the second period. It seems that receptacles themselves were a powerful cue to induce people to deposit their litter. Conditions for findings of applied behavior analysis to generalize to more realistic every-day situations were also discussed.
著者
松田 元 吉永 明里 白土 みつえ 山内 格 高橋 康一 中村 幸雄 鈴木 正彦
出版者
杏林医学会
雑誌
杏林医学会雑誌 (ISSN:03685829)
巻号頁・発行日
vol.20, no.4, pp.417-424, 1989-12-30 (Released:2017-02-13)

われわれは子宮脱の手術術式として主として膣式子宮全摘出術と前・後腔壁縫縮術を施行している。今回,子宮脱手術症例52例にアンケート調査を行い,回答を得た43例に対して術後長期予後に関する検討を行い,次の知見を得た。1)37例は,脱垂状態が改善したが,膣壁の膨隆といった極く軽度のものを含めると6例が再発を訴えた。2)排尿異常を訴えた36例中29例は改善し,残り7例は術後も症状の持続を訴えたが,うち5例は経過観察のみで症状は消失した。3)術後新たに3例が尿失禁を訴えた。4)性交障害を訴えた6例中2例は改善し,2例は症状が持続し,2例は無回答であった。5)術後後遺症として新たに2例が性交障害を訴えた。以上から大半の症例は術後予後はほぼ良好と思われるが,尿失禁,脱垂の再発,あるいは性交障害等,術後障害を残す症例も認められ,手術術式に関して若干の改善の余地があるものと思われた。
著者
山田 嘉重 木村 裕一 高橋 昌宏 車田 文雄 菊井 徹哉 橋本 昌典 大木 英俊
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.237-247, 2021 (Released:2021-06-30)
参考文献数
55

目的 : SARS-CoV-2感染予防は, COVID-19流行を阻止するために非常に重要である. そのため, 手指の消毒と個人防護器具 (PPE) の装着に加えて新たな予防対策を講じる必要性がある. その予防策の候補の一つとして, エピガロカテキンガレート (EGCG) を代表とするカテキンの使用が挙げられる. 分子ドッキング法により, 選択的にSARS-CoV-2スパイクタンパク質とEGCGが結合することで, スパイクタンパク質とACE2受容体との結合を抑制する可能性が報告されている. 本研究では, SARS-CoV-2スパイクタンパク質に対してEGCG単独, 4種混合カテキンおよび緑茶が実際にスパイクタンパク質とACE2との結合抑制に効果を有するのかを調べることを目的とした. 材料と方法 : 本研究では, 異なる状態のカテキン (EGCG, 4種混合カテキン, 粉末緑茶) を使用した. 溶液の濃度はEGCG溶液 (EGCG) と4種混合カテキン溶液 (4KC) で1, 10, 100mg/ml, 2種類の緑茶溶液Ⅰ (PWA) と緑茶溶液Ⅱ (PWB) では1, 10mg/mlとした. SARS-CoV-2スパイクタンパク質抑制スクリーニングキットを使用し, TMB基質で発色後の撮影とELISAによる検討を行った. 結果および考察 : 各種抑制溶液において100mg/mlの濃度が最もSARS-CoV-2スパイクタンパク質とACE2との結合抑制効果が強く, 濃度の減少に比例して抑制効果が減少するのが観察された. それぞれの結合抑制率の割合は, EGCGでは12~89%, 4KCは11~88%, PWAでは10~47%, PWBでは11~47%であった. 本研究結果において, EGCGだけでなく4KCやPWA, PWBでもスパイクタンパク質とACE2との結合抑制効果を有することおよび, その結合はカテキンの濃度に依存することが判明した. 結論 : 本研究によりEGCG単独だけではなく, 4種カテキン混合状態および粉末緑茶溶液においてもSARS-CoV-2スパイクタンパク質とACE2との結合に対して濃度依存的に抑制効果を有することが確認された. カテキン配合溶液は, SARS-CoV-2感染に対する新たな予防法の一つとなることが期待される.
著者
徳永 紘平 高橋 嘉夫 香西 直文
出版者
一般社団法人日本地球化学会
雑誌
日本地球化学会年会要旨集 2019年度日本地球化学会第66回年会講演要旨集
巻号頁・発行日
pp.193, 2019 (Released:2019-11-20)

福島第一原子力発電所事故によって放出された放射性ストロンチウム(Sr)は、海水中の他の元素の影響を受けやすいため従来の鉱物や樹脂を用いた処理が難しく、福島の海水を含む汚染水からの有効な除去技術は未だ開発されていない。本研究では、これら多種の放射性核種に対する新規の除去法として、バライト構造の一部をカルシウム(Ca) などの不純物で置換させ、結晶構造に不安定性を与えたバライト試料(Ca部分置換のバライト試料)を利用した、放射性Srの新しい固定化法の開発を行った。
著者
井田 秀行 高橋 勤
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.92, no.2, pp.115-119, 2010 (Released:2010-06-17)
参考文献数
30
被引用文献数
2 5

2004年よりブナ科樹木萎凋病によるナラ枯れが顕在化している長野県飯山市では, 1750年にも同様の被害が発生していた。当時の様子は古文書に, 「神社の社叢において, 多数のナラ樹の葉が夏頃から変色し始め, 秋にほとんどが萎凋枯死した。虫は樹幹に加害しており駆除の手段がない」と記されていた。また, 対処法として, 被害発生の翌年, 直径19∼35 cm程度のナラ樹35本が売却され, 売上金が社殿の修復料に充てられたことや, 他の枯死木から約500俵 (約9.4 t) の木炭が作られたことが記されていた。これらの状況から, 当時の被害はカシノナガキクイムシが病原菌Raffaelea quercivoraを伝播して発生するブナ科樹木萎凋病による被害であると考えられる。すなわち, カシノナガキクイムシは江戸時代以前から我が国に生息しており, ブナ科樹木萎凋病は社叢のような大径木が多い立地で発生を繰り返していた可能性が高い。
著者
高橋 幾 小野島 昂洋 梅永 雄二
出版者
NPO法人 日本自閉症スペクトラム支援協会 日本自閉症スペクトラム学会
雑誌
自閉症スペクトラム研究 (ISSN:13475932)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.41-49, 2021-02-28 (Released:2022-02-28)
参考文献数
12

移動スキルは発達障害者の充実した地域生活にとって重要であり、運転免許取得は公共の交通機関が整っていない地域においては活動範囲の拡大につながる。しかし、日本では発達障害者の運転免許取得に関する研究は少なく、その実態は未だ明らかでない。そこで、本研究は発達障害者が運転免許取得の際に抱える困難と必要とされる支援を探索的に検討することを目的に、発達障害に特化したコースを設置しているA自動車教習所の教習データの分析、および同コースの指導員への聞き取り調査を行った。教習データの分析から発達障害者は(1)技能教習・卒業検定では、定型発達者より多くの時間を要する人の比率が高いこと、(2)技能教習では、不器用さや般化の困難などの発達性協調運動症(以下DCD)の特性との関連が指摘された。また、聞き取り調査からは、(3)指導員が技能教習で問題と感じていることは、視野・操作・般化の3つの「運転技能」の領域および「指示理解」「運転への不安」であったこと(4)支援の工夫では、運転技能への課題と併せて「指示方法の変更」「情報収集・連携」「心理面への配慮」の対応がとられていること(5)定型発達群も技能教習で問題となるところは発達障害群と変わらないことなどが明らかとなった。これらの結果に基づき発達障害者の運転免許取得において求められる支援を議論した。
著者
高橋 哲也 森沢 知之 齊藤 正和
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.28, no.4, pp.267-276, 2021-07-01 (Released:2021-07-01)
参考文献数
29

要約:2018年度に「早期離床・リハビリテーション加算」が新設され,集中治療における理学療法が注目されている。集中治療における理学療法への期待は,早期離床,気道クリアランス,身体機能の改善,合併症の予防など多岐にわたる。ICU退出後にも,患者の呼吸機能の低下,身体機能の低下,認知機能の低下,生活の質の低下は長期に及ぶことから,集中治療後症候群(postintensive care syndrome, PICS)対策も重要な役割である。2020年,筆者らは「Minimum standards of clinical practice for physical therapists working in intensive care units in Japan」を発表した。これは集中治療に関わる理学療法士の質保証を促すだけでなく,集中治療チームにおいて理学療法士の仕事に対する理解を深めたり,集中治療で働く専門職の卒後教育ツールとして活用も期待できる。集中治療における理学療法士の役割は明確であり,集中治療における理学療法士の役割を確実に果たすためにも,理学療法士は自ら質向上に努めることが重要である。
著者
高橋 清久
出版者
公益財団法人 日本学術協力財団
雑誌
学術の動向 (ISSN:13423363)
巻号頁・発行日
vol.8, no.4, pp.13-19, 2003-04-01 (Released:2009-12-21)
参考文献数
18
著者
相川 達也 小島 眞樹 宮本 久仁子 上野 ちさと 高橋 雅春 岡本 宏明
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.49, no.8, pp.352-361, 2008 (Released:2008-09-10)
参考文献数
44
被引用文献数
3 3

67歳の男性が結婚40年後にC型急性肝炎を発症した.その妻(68歳)がC型慢性肝炎患者であり,C型肝炎ウイルス(HCV)RNAが高力価陽性(>5,000 KIU/ml)であった.両者のHCV遺伝子型はともに1b型で,NS5B領域の1,087塩基長の配列において99.7%の一致率を示した.それに対し,これまでに報告されているHCV/1b株との一致率は最高でも96.7%に過ぎなかった.分子系統樹解析によっても,夫婦の持つHCV株は一つのクラスター(bootstrap値:100%)を形成し,同一株である可能性が強く示唆された.詳細な病歴聴取を行ったが,性交渉(月1, 2回)以外の感染経路はいずれも否定された.高齢夫婦間の感染には加齢に伴う生体側因子が関与していると考えられるが,高齢化社会を迎え,HCV感染者頻度の高い高齢者層でかかるHCV感染が起こる可能性を念頭に置く必要があると考え報告する.
著者
高橋 竜太郎 池田 心
出版者
情報処理学会
雑誌
情報処理学会研究報告. GI, 研究報告ゲーム情報学 (ISSN:21888736)
巻号頁・発行日
vol.2018-GI-39, no.10, pp.1-7, 2018-02-23

将棋や囲碁,麻雀など多くのゲームでコンピュータプログラムが十分強くなり,より複雑なゲームやより高次な目的に関心が移りつつある.「ぷよぷよ」 は二十年以上遊ばれる人気の落ちものパズルゲームであるが,これも近年十分強いコンピュータプログラムの作成が達成された.本研究では,“連鎖構成” というこのゲームの中心的課題の一つに着目し,連鎖構成を身につけられれば楽しめる一方でこれができずに上達を諦めてしまう人が多い現状を解決したいと考える.そのためには,連鎖構成に特化した問題群,いわゆる 「なぞぷよ」 「詰めぷよ」 を沢山与えることが有効であると考える.人手により多くの良い問題が作成公開されているが,プレイヤごとの技術レベルや嗜好に合わせた問題が自動で無数に作成できれば,ぷよぷよを続ける人が増えることが期待できる.我々は,ランダム生成検査方式と,逆向き生成方式の二つのなぞぷよ作成法を試みる.さらに,作成された問題の 「難しさ」 「面白さ」 「役立ち度」 などを推測する関数を機械学習によって構成することを試みる.これらにより,プレイヤのレべルや好みにあった問題だけを提示するシステムを提案する.