著者
高野 進 小俣 政男 大藤 正雄
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.1-4, 1990-01-25 (Released:2009-07-09)
参考文献数
19

輸血を受けた187例の患者(肝炎発症群83例,非発症群104例)に使用された1148単位の輸血製剤の献血時GPT値を調べ,輸血後肝炎発症との関係を調べた.献血時GPT値26単位以上の献血者から得た血液を輸血された患者は25例あった.このうち肝炎が発生したのは16例で輸血後肝炎発症群の19%を占めたのに対し,肝炎が発生しなかったのは9例で非発症群の9%に過ぎず,GPT値26単位以上の血液は肝炎発症群に多く使われでいた.一方GPT値10単位以下の血液のみの輸血を受けた例は肝炎非発症群に多かった.これより献血時GPT値25単位以下の血液のみを輸血に使用することにより輸血後肝炎の発生が減少する可能性が示唆された.
著者
滝川 一
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.42, no.6, pp.277-280, 2001-06-25 (Released:2009-03-31)
参考文献数
10
被引用文献数
3
著者
東浦 晶子 西村 貴士 吉田 昌弘 西村 純子 橋本 眞里子 柴田 陽子 藤原 葵 由利 幸久 高嶋 智之 會澤 信弘 池田 直人 榎本 平之 今村 美智子 三好 康雄 廣田 誠一 飯島 尋子
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.62, no.10, pp.647-655, 2021-10-01 (Released:2021-10-06)
参考文献数
41

症例は70歳代女性.近医で多発骨転移を伴う乳癌と診断され当院紹介受診となった.パクリタキセル(PTX)による化学療法中にAST 201 U/L,ALT 35 U/LとAST優位のトランスアミラーゼ上昇を認めた.腹部超音波検査,腹部造影CT検査では異常所見は認めなかったため,PTXによる薬剤性肝障害を疑い薬剤の変更,中止をしたが肝機能障害は改善しなかった.超音波エラストグラフィによる肝硬度検査を施行したところ,TE(Transient elastography)39.1 kPa,VTQ(Virtual touch quantification)2.73 m/s,SWE(Shear wave elastography)2.54 m/sと著明な上昇を認め,肝生検を施行し,特殊型乳癌の1つである浸潤性小葉癌の肝転移と診断された.肝硬度が高値になる稀な原因として微小転移性肝癌があげられた.
著者
名和田 義高 濱田 晃市 斎藤 聡
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.53, no.7, pp.409-416, 2012 (Released:2012-08-09)
参考文献数
23

症例は24歳女性.18歳時より飲酒を開始し,飲酒量は増加し,2011年3月にアルコール性肝炎で他院に入院し保存的加療で改善した.その後も飲酒を継続したところ,同年6月に食欲低下・全身倦怠感が,さらに黄疸・発熱が出現し,当院を受診した.意識は清明なるも,発熱,AST優位の血清トランスアミナーゼの上昇,血清総ビリルビンの高度上昇,ALP・γ-GTPの高度上昇,プロトロンビン時間著明低下,CTにて高度脂肪化を認め,文部省高田班の診断基準に基づき重症型アルコール性肝炎と診断した.ビリルビン吸着療法,プレドニゾロンの投与を行い肝機能の改善を認めた.第30病日のCTで脂肪肝の改善を認め,第50病日に施行した肝生検では重症型アルコール性肝炎回復期の所見で,第72病日に退院となった.本邦の症例報告例の中では,最も若年で発症した重症型アルコール性肝炎かつ救命例であり飲酒量の詳細把握をしえた貴重な症例と考え報告した.
著者
山本 博之 田中 篤 北川 諭 鈴木 高祐 藤田 善幸 丸山 正隆
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.44, no.11, pp.579-585, 2003-11-25
参考文献数
22
被引用文献数
3 1

症例は35歳男性. 入院10カ月前から防風通聖散を服用していた. 入院3カ月前にはじめて肝機能異常が出現. 入院6週間前に近医受診, この時点で肝機能障害は増悪していたが, 5種の薬剤を新たに投与され, 防風通聖散はそのまま服用していた. 入院1週間前から黄疸・皮膚掻痒感が出現したため当院へ入院となった. 防風通聖散, および併用薬は入院前日まで服用していた. 入院時ALT 2996IU/<i>l</i>, AST 7174IU/<i>l</i>, T. Bil 15.1mg/d<i>l</i>, PT 30.6%であり, 第2病日肝性昏睡2度となったため劇症肝炎急性型と診断, 血漿交換および血液濾過透析とステロイドパルス療法を開始した. この結果意識清明となり肝機能も急速に改善したが, その後黄疸が遷延し, 肝機能は薬剤中止後4カ月に正常化した. 本症例ではもともと防風通聖散による薬物性肝障害が存在し, そこへ併用薬の影響が加わって最終的に劇症化に至ったものと考えられた.
著者
本杉 宇太郎
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.59, no.8, pp.407-414, 2018-08-20 (Released:2018-09-14)
参考文献数
22
被引用文献数
1
著者
阿部 敏紀 相川 達也 赤羽 賢浩 新井 雅裕 朝比奈 靖浩 新敷 吉成 茶山 一彰 原田 英治 橋本 直明 堀 亜希子 市田 隆文 池田 広記 石川 晶久 伊藤 敬義 姜 貞憲 狩野 吉康 加藤 秀章 加藤 将 川上 万里 北嶋 直人 北村 庸雄 正木 尚彦 松林 圭二 松田 裕之 松井 淳 道堯 浩二郎 三原 弘 宮地 克彦 宮川 浩 水尾 仁志 持田 智 森山 光彦 西口 修平 岡田 克夫 齋藤 英胤 佐久川 廣 柴田 実 鈴木 一幸 高橋 和明 山田 剛太郎 山本 和秀 山中 太郎 大和 弘明 矢野 公士 三代 俊治
出版者
The Japan Society of Hepatology
雑誌
肝臓 = ACTA HEPATOLOGICA JAPONICA (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.47, no.8, pp.384-391, 2006-08-25
被引用文献数
18 56

極く最近まで殆んど不明状態にあった我国のE型肝炎の実態を明らかにする目的で,我々は全国から総数254例のE型肝炎ウイルス(HEV)感染例を集め,統計学的・疫学的・ウイルス学的特徴を求めてこれを解析した.その結果,[i]HEV感染は北海道から沖縄まで全国津々浦々に浸透していること;[ii]感染者の多くは中高年(平均年齢約50歳)で,且つ男性優位(男女比約3.5対1)であること;[iii]我国に土着しているHEVはgenotype 3とgenotype 4であるが,後者は主に北海道に偏在していること;[iv]年齢と肝炎重症度との間に相関があること;[v]Genotype 3よりはgenotype 4による感染の方が顕性化率も重症化率も高いこと;[vi]発生時期が無季節性であること;[vii]集積症例全体の約30%は動物由来食感染,8%は輸入感染,2%は輸血を介する感染に帰せしめ得たものの,過半の症例(約60%)に於いては感染経路が不明のままであること;等の知見を得た.<br>
著者
古賀 俊逸 八戸 義明 大河内 一雄 平山 千里 井林 博
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.16, no.3, pp.153-159, 1975

胆汁うっ滞の指標として有用な血清中のリポ蛋白X(LP-X)の検出法に関して臨床的応用を目的として検討を加えた.抗LP-X血清は胆汁うっ滞患者血清より分離した低比重リポ蛋白(LDL)分画でウサギを免疫して作製した.LP-Xの検出は寒天ゲル電気泳動法により行ない,泳動後LP-Xは特異抗血清による沈降反応,Dextran sulfate沈澱法,Sudan black染色法の3法により観察した.その結果,LP-Xの検出感度に影響する因子は使用する寒天および寒天ゲルの調製法にあり,上記3種の観察法ではその検出感度に差を認めなかった.とくにDextran sulf-ate法は簡便であり判定も容易であった.<BR>臨床的には肝内性および肝外性の胆汁うっ滞を来す各種疾患でLP-Xが証明された.またLP-X陽性患者につき,血清ビリルビン,アルカリ性フォスファターゼ,コレステロール,GOTなどの肝機能検査成績を検討し,LP-Xの成因につき考察を加えた.
著者
横須賀 収 小俣 政男 多田 稔 細田 和彦 田川 まさみ 伊藤 よしみ 大藤 正雄
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.178-181, 1989-02-25 (Released:2009-07-09)
参考文献数
8
被引用文献数
1

Polymerase chain reaction (PCR)法はpolymerase反応を繰り返し行うことにより目的とするDNAを倍倍に増幅する方法であり,著者らはこのPCR法を用いてHBVDNAを検出した.1pgから10-7pgまで希釈したクローン化HBVDNAに対して30から50サイクルPCRを行う事によりエチジウムブロマイド染色でウイルス1個のレベルに相当する10-6pgのクローン化HBVDNAを検出しえた.更に増幅したDNAがHBVDNAに相補性を有することをSouthern blot法により確認した.また実際の血清中のHBVDNAな検索する事によりHBs抗原陽性例では,HBe抗原陽性5例中5例,HBe抗原抗体陰性2例中2例,HBe抗体陽性10例中8例にウイルスDNAが検出されたが,HBs抗原陰性例6例では検出されなかった.HBe抗体陽性例においても高頻度に微量のウイルスが存在する事が示された.

2 0 0 0 OA 麻疹肝炎の3例

著者
川上 万里 梅川 康弘 西下 千春
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.51, no.6, pp.285-291, 2010 (Released:2010-07-02)
参考文献数
19

2008年3~4月にわれわれは3例の成人麻疹を経験し,そのいずれもが肝障害を伴っていた.症例は19歳女性,26歳男性,33歳女性で,発熱と全身倦怠感のため受診し,初診時あるいは経過中全身に紅斑が認められ,麻疹と診断した.3例とも血液検査においてAST,ALT,LDHの増加とIgM型麻疹ウイルス抗体の出現が認められた.成人例は小児例とは異なり,高率に肝障害を伴うといわれている.急性肝障害の鑑別診断にあたり麻疹も念頭におく必要がある.
著者
前久保 博士 松嶋 喬 長瀬 清 小林 紀夫 大屋 隆介 白井 修 柏木 道彦 大谷 宣人 平井 堅博 武田 茂 田村 康史 上畠 泰 洞田 克己 武田 良一 小林 正伸 小山 稔 吉田 義一 山崎 康夫 斉藤 永仁 吉田 純一 白石 忠雄 岡田 文彦
出版者
The Japan Society of Hepatology
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.20, no.9, pp.912-918, 1979
被引用文献数
1

肝予備能力判定のための検査法として注目されつつあるグルカゴン負荷後の血漿cAMP濃度の経時的変動な観察した,グルカゴンは生理食塩水に溶解後1μg/kgな経静脈的に投与し,投与前,10, 15, 20, 30分後に採血し血漿cAMP濃度を測定した.健康成人,回復期の急性肝炎,慢性肝炎,肝硬変とも負荷10分後に血漿cAMP濃度は最高となり以後漸次低下した.空腹時血漿cAMP濃度は健康成人に比べて肝硬変で高く,慢性肝炎でも高い例が多かったが,各症例の差が大きく診断的意義は少なかった.グルカゴン負荷後の血漿cAMP濃度は,肝硬変で10分後健康成人に比べて上昇は少なかったがその差は有意でなく,また慢性肝炎では健康成人に比べて高い例が多かった.したがってグルカゴン負荷10分後の血漿cAMP濃度の空腹時濃度に対する比を算出すると肝硬変では健康成人に比べて有意に低く慢性肝炎では高かったので,両疾患の鑑別に本試験が有用と考えられた.
著者
江林 明志 井上 和明 高橋 和明 渡邊 綱正 山田 雅哉 安田 宏 三代 俊治 与芝 真彰
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.60-64, 2009 (Released:2009-03-02)
参考文献数
25
被引用文献数
3 4

E型肝炎ウイルス(HEV)はアジア・アフリカにおける流行性肝炎の重要な原因で,一般にはself-limitedな経過を取るが,妊婦では重症化しやすく致死率が高く胎児の合併症も多いとされる.今回我々は本邦で初めて妊娠中のHEV感染により急性肝炎重症型に陥った邦人妊婦例を経験した.本例はインドに長期滞在して帰国後2週間で発症し,入院時の血清よりgenotype 1のHEV RNA(JHN-Kan07R,AB447389)が検出された.抗ウイルス治療開始後速やかに肝機能は回復し,早産であったものの周産期の合併症もなく,母児共にその後は順調な経過をとった.
著者
船木 直也 五十嵐 省吾 籏原 照昌 榊原 耕子
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.29, no.5, pp.619-627, 1988-05-25 (Released:2009-07-09)
参考文献数
15
被引用文献数
3

肝細胞癌6例,転移性肝癌5例を含む剖検肝組織中のIII型コラーゲンを組織中のIII型コラーゲンN-末端ペプチド(P-III-P)のRIA法による定量と,ヒト胎盤由来III型コラーゲンに対するモノクローナル抗体を用いて免疫組織化学染色により検討した.組織重量当りのP-III-P量は正常肝0.24±0.21μg/g Tis,非担癌硬変肝1.83±0.72μg/g Tis,肝細胞癌腫瘍組織0.511±0.272μg/g Tis,腫瘍壁4.39±6.32μg/g Tis,非癌硬変部分4.45±7.34μg/g Tis,転移性肝癌腫瘍組織1.13±1.13μg/g Tis,腫瘍壁2.36±3.93μg/g Tis,非癌肝組織0.0646±0.0690μg/g Tisであった.肝細胞癌6例中4例の腫瘍組織,5例の非癌硬変部,及び転移性肝癌5例中1例の腫瘍組織と2例の非癌部にIII型コラーゲンに対する染色性が認められた.担癌肝組織では腫瘍組織は勿論,非癌部においてもコラーゲン産生が腫瘍の存在により影響を受けている事が想像された.
著者
丸川 洋平 大石 尚毅 水腰 英四郎 辻 宏和 山下 竜也 鍛治 恭介 中本 安成 金子 周一
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.45, no.7, pp.354-359, 2004-07-25 (Released:2009-03-31)
参考文献数
11
被引用文献数
1 1

46歳男性. 痛風にて平成13年7月より benzbromarone(商品名: ユリノーム) を処方された. 平成14年1月に肝機能障害と黄疸が出現し, 劇症化が危惧され, 当院紹介入院. ウイルス感染, 自己免疫疾患, 代謝性疾患が否定され, 本薬剤による薬物性肝障害と診断した. 入院後, 肝性脳症が出現し, 劇症肝炎の診断にて人工肝補助療法を開始したが, 肝不全が進行し死亡した. 死亡時の肝組織像では軽度の炎症細胞浸潤を認め, 薬物性肝障害に矛盾しない所見であった. 本薬剤による肝機能障害の発生機序は不明とされているが, 今回の症例にて本薬剤と中間代謝産物の血中濃度測定を行ったところ, いずれも著明な高値を示したことより, 薬物代謝異常が原因である可能性が示唆された. また, 本症例のように服用開始6カ月以降でも重篤な肝機能障害を発症するため, 長期にわたる肝機能検査が必要であり, 異常を認めた場合には薬剤の減量, 中止を考慮することが重要と考えられた.
著者
山本 訓史 徳原 太豪 西川 正博 西澤 聡 西岡 孝芳 野沢 彰紀 高橋 亮 渡邊 芳久 和田 力門 若狭 研一 久保 正二
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.164-174, 2012 (Released:2012-04-03)
参考文献数
44
被引用文献数
2 14

症例は60歳代,男性.8年前に肝細胞癌に対し肝部分切除術が施行された.平成23年2月の精査で肝S4/8とS6に再発が認められたため手術予定となった.糖尿病のコントロールが悪くHbA1cが8%台と長期間高値であったため術前にdi-peptidyl peptidase-IV(以下DPP-4)阻害薬内服によりコントロールを行った.DPP-4阻害薬内服前の腫瘍最大径はダイナミックCTでS4/8が5.0 cm,S6が2.5 cmであったが,内服開始3週間後のダイナミックCTでは腫瘍最大径はS4/8が2.5 cm,S6が2.0 cmと縮小した.AFPとPIVKA-IIはDPP-4阻害薬内服後に著明に低下した.病理組織学検査で肝細胞癌内に著明なリンパ球浸潤を認め,免疫組織化学染色で浸潤リンパ球はCD8陽性T細胞であった.免疫応答が強く関与していると考えられる肝細胞癌自然退縮の1例を経験した.
著者
宮崎 慎一 野田 裕之 森田 照美 甲斐 弦 大廻 あゆみ 小林 富成 長嶋 茂雄 高橋 雅春 水尾 仁志 岡本 宏明
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.57, no.11, pp.606-613, 2016-11-20 (Released:2016-11-29)
参考文献数
26
被引用文献数
3

鳥取県の山間部に居住する92歳の一人暮らしの男性が急性E型肝炎を発症した.患者には海外渡航歴や輸血歴はなく,発症前3カ月以内の豚レバーやホルモン,猪や鹿などの動物の肉や内臓の喫食歴,魚介類の生食の既往も無かった.しかし,7~8年前から猪胆(乾燥した猪の胆囊)を猟師より入手し,胆囊粉末を冷水に溶き,その胆汁液を生薬として飲用していたことが判明した.飲み残しの胆汁液はなかったが,保管されていた猪胆18個中7個からHEV RNAが検出され,患者から分離された3a型HEVと塩基配列が99.8%一致するHEVが同定された.加えて,リン酸緩衝液で溶出した10%胆汁液のHEV RNAタイターが4.6×105 copies/mlに達するものもあり,猪胆からの感染が強く疑われた.猪の肉やレバーの喫食後のE型肝炎症例はこれまでに多く報告されているが,猪胆が感染源と考えられる症例の報告は今回が初めてである.
著者
綾田 穣 石川 哲也 奥村 明彦 大橋 知彦 松本 英司 佐藤 顕 堀田 直樹 福沢 嘉孝 各務 伸一
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.10-15, 2006 (Released:2006-11-24)
参考文献数
13
被引用文献数
1 1

症例は53歳, 女性. 骨粗鬆症に対し, リセドロン酸ナトリウム (sodium risedronate hydrate : SRH) が投与され, その約6カ月後, 全身倦怠感が出現. 血液検査で肝胆道系酵素の著明な上昇を認めたため, 当科に入院となった. SRHによる薬物性肝障害を考え, DDW-J 2004ワークショップの薬物性肝障害診断基準案に基づいて診断を進めた結果, 病型は胆汁うっ滞型で, スコアは, (+6) : 「可能性が高い」と判定された. 肝生検では, 肝実質のび慢性のロゼット形成や胆汁栓, 軽度の門脈域の拡大などの所見が得られたため, 本剤による薬物性肝障害と診断した. 特徴的な組織像により肝生検が診断の一助となった, SRHによる薬物性肝障害の1例を経験したため, 文献的考察を加え報告する.
著者
有尾 啓介 水田 敏彦 八田 美幸 熊谷 貴文 河口 康典 江口 有一郎 安武 努 久富 昭孝 尾崎 岩太 藤本 一眞
出版者
The Japan Society of Hepatology
雑誌
肝臓 = ACTA HEPATOLOGICA JAPONICA (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.46, no.11, pp.658-662, 2005-11-25

症例は13歳の男児. 海岸でアメフラシ (学名<i>Aplysia kurodai</i>) の卵を生で摂取後, 持続性の嘔吐と肝機能障害が出現した. 入院時 (摂食後3日目) AST661IU/<i>l</i>, ALT1186IU/<i>l</i> と肝障害がみられ, ウイルスマーカー陰性で, 他に肝障害を起こしうる原因がないことからアメフラシの卵の摂取による急性肝障害と診断した. 安静, 輸液, グリチルリチン製剤静注により自覚症状, トランスアミナーゼ改善し, 併発症なく入院18日目に退院となった. 肝病理組織では散在性に肝細胞の巣状壊死とリンパ球, 好中球の浸潤を認めた. 水棲生物の中には外敵から身を守る生体防御機構としての有害物質を保有しているものがいる. アメフラシは日本中の海岸のいたるところに生息し, その卵塊は一見摂食可能な印象を受けるが, アプリシアニンという毒性物質を含有しており, 摂食により肝障害を起こす可能性がある.
著者
高橋 徹 松本 純
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.18, no.6, pp.408-418, 1977-06-25 (Released:2009-07-09)
参考文献数
23
被引用文献数
1

肝硬変症ならびに先行病変の立体構造においては,実質域の三次元ネットワークが骨格をなしていることを既に発表した(肝臓;18/5, 1977).このネットワークの位相幾何学的性質を利用して病変の移行関係を解析する方法を考案した.それは臓器中のネットワークの連結数p1の総値を求め,これをパラメーターとして病型の遠近関係を推察する方法である.種々の型の慢性肝病変の6例にこの方法を適用し,とくに慢性肝炎から肝硬変症の成立過程を重点的に考察した.解析の結果,総p1値は前者で610万,乙型肝硬変で10万と推定された.この大きな差からみて,慢性肝炎から乙型への移行は構造の連続変形のみでは説明困難であり,肝壊死を媒介とする連結関係の離断が必要と考えられた.一方,門脈型肝硬変での総p1値は635万と慢性肝炎に近く,慢性肝炎からの像の連続変形すなわち「削り取り」的進展に際しては,この型の肝硬変に向うものと推察された.