著者
森 俊文 松本 早代 井本 佳孝 四宮 寛彦 和田 哲 友成 哲 谷口 達哉 北村 晋志 六車 直樹 高山 哲治
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.55, no.5, pp.254-258, 2014-05-20 (Released:2014-05-30)
参考文献数
15
被引用文献数
1 1

症例は21歳,フィリピン人女性.18歳までフィリピンにて生育,以降日本に在住.呼吸困難の精査目的で撮影したCT検査で肝臓内に網目状模様を認め,日本住血吸虫症を疑い血清抗体価を測定したところ高値であった.プラジカンテル40 mg/kg/日を投与し,6カ月後に抗体価は低下した.本邦では,新たな日本住血吸虫症はみられなくなったが,輸入症例や陳旧症例の報告が散見される.非流行地域において特徴的な肝画像所見を呈したことにより発見された本症の1例を報告する.
著者
古山 準一 高木 秀雄 森園 竜太郎 水尾 仁志 岡本 宏明
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.64, no.9, pp.430-436, 2023-09-01 (Released:2023-09-11)
参考文献数
23

60歳台,男性.X-12日から全身掻痒感を自覚.X-10日 某皮膚科受診しエピナスチン塩酸塩,ジフルコルトロン吉草酸クリームを処方された.X-8日 前医内科受診しAST 217 U/L,ALT 400 U/Lと肝機能異常を認め,IgA-HEV抗体(-)だった.X-1日 同院再診し肝障害の増悪を認め,X日 当科入院.IgA-HEV抗体は入院時未施行でX+7日に施行したIgA-HEV抗体が(+)と判明した.保存血清による精査の結果,IgG,IgM,IgA-HEV抗体およびHEV-RNAは,各々,X-8日(-),(-),(-),(+:subgenotype 4c)であり,X+2日(+),(+),(+),(+)であった.発症早期ではIgA-HEV抗体が陰性となることが稀にあり他の原因が否定的で肉などの喫食状況によってはIgA-HEV抗体の再検,HEV-RNAの検査を施行すべきであると考えられた.
著者
田所 智子 谷 丈二 琢磨 慧 中原 麻衣 大浦 杏子 藤田 浩二 三村 志麻 小野 正文 森下 朝洋 正木 勉
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.107-119, 2022-03-01 (Released:2022-03-08)
参考文献数
27

免疫チェックポイント阻害薬(Immune Checkpoint Inhibitors;ICI)による免疫関連有害事象(immune-related Adverse Events;irAE)では従来の化学療法と異なるマネジメントが要求され,特に肝障害においてはステロイドや免疫抑制剤の開始時期や難治例への対応など様々な問題がある.当院においてICIを投与された370症例を対象としirAE特にirAE関連肝障害の臨床的特徴について検討した.全irAEの頻度は41.1%,Grade2以上のirAE関連肝障害の頻度は5.1%で,良好な腫瘍縮小効果を認め,他のirAEを合併した症例が多かった.ガイドラインに準拠した治療にて多くの症例が軽快したが,死亡例および難治例もあり,これらの治療過程ではサイトメガロウイルス感染症が問題となっていた.難治例について症例提示し,当院での治療方針について報告する.
著者
酒井 正俊 飯田 三郎 森下 愛文 吉田 健 橋口 治 赤星 玄夫 藤仙 重俊 相良 勝郎 佐藤 辰男
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.28, no.9, pp.1238-1243, 1987-09-25 (Released:2009-07-09)
参考文献数
20
被引用文献数
2 1

市販鎮痛剤の乱用によると考えられる劇症肝炎の39歳女性の1救命例を報告した.20歳頃より生理痛・頭痛のため,ブロム剤を20錠/日服用していた.36歳時,突然頭痛,全身痙攣を来たし,近医にて頭部CT上脳萎縮を指摘された.以後,セデスAを多い時で40錠/日服用するようになった.1週間来の全身倦怠感,頭痛,下痢に気付き,肝障害・prothrombin時間の延長あり,劇症肝炎を疑われ昭和60年8月18日当院に入院した.血漿交換,glucagon・insulin療法により救命し,第26病日の腹腔鏡下肝生検では急性肝炎再生像であった.しかし,第12病日よりJackson型の痙攣が出現し,第80病日の頭部CTで前頭葉の萎縮を認めた.劇症肝炎の成因として,IgM-HBc抗体およびIgM-HA抗体は共に陰性であることより,乱用していた鎮痛薬に含まれるacetaminophenの関与が推測された.脳萎縮はすでに3年前にみられており,稀であるがブロム剤によるものと思われた.
著者
舛石 俊樹 酒井 義法 細谷 明徳 鈴木 健一 伊藤 剛 鎌田 和明 水谷 佐和子 村野 竜朗 相馬 友子 永山 和宜 草野 史彦 田沢 潤一 鈴木 恵子
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.52, no.7, pp.461-467, 2011 (Released:2011-08-18)
参考文献数
20

症例は23歳女性.38℃台の発熱・倦怠感・嘔気・関節痛が出現したため,当院救急外来を受診した.インフルエンザ迅速診断キットでインフルエンザA型陽性のためインフルエンザウイルス感染症と診断された.また,血液検査ではトランスアミナーゼの著明な上昇とPTの低下を認め,急性肝炎重症型の診断で当科に緊急入院した.与芝らの劇症化予知式により劇症化の可能性があると判断し,劇症肝炎に準じて血漿交換療法・ステロイドパルス療法を施行した.第2病日よりトランスアミナーゼ・PTの改善を認め,第12病日退院した.肝障害の成因として薬物性肝障害の可能性は否定できなかったが,臨床経過からは新型インフルエンザ(以下A/H1N1 pdm,PCR法で診断)感染が成因である可能性も否定できなかった.A/H1N1 pdm感染による高サイトカイン血症を契機に急性肝炎重症型を発症したと考えられる1例を報告する.
著者
脇田 隆字
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.62, no.4, pp.202-203, 2021-04-01 (Released:2021-04-07)
参考文献数
5
著者
杉山 文 海嶋 照美 坂宗 和明 田中 純子
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.33-40, 2018-01-20 (Released:2018-01-29)
参考文献数
7
被引用文献数
2

広島県および全国において肝炎医療コーディネーター(肝炎Co)の活動実態について調査した.広島県の調査では,看護師(医療機関肝炎Co)は【患者としてすでに通院・入院しているキャリア】に,保健師(自治体肝炎Co)は,【感染を知っても継続受診をしていないキャリア】に接することが最も多く,看護師と保健師では活動の内容にも相違がみられた.全国の肝炎Coにおいても,所属機関や職種によって活動実態に相違が認められた.肝炎Coは所属機関や専門性によって接するキャリアが異なることから,医療機関所属の肝炎Coは「医療の相談,精神的ケア」,自治体所属の肝炎Coは,「受検・受療促進・フォローアップシステムへの登録勧奨」など活動内容を分離し,その役割を明確にすることが必要と考えられた.また,全国の医療従事者における肝炎Co養成制度の認知度は3-4割と低く,周知活動をさらに進める必要性が示唆された.
著者
乾 あやの 小松 陽樹 日衛嶋 栄太郎 十河 剛 永井 敏郎 藤澤 知雄
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.51, no.8, pp.457-459, 2010 (Released:2010-09-02)
参考文献数
5
被引用文献数
1

Since the national program of immunoprophylaxis against perinatal transmission of hepatitis B virus (HBV) was started in 1986, the HBV carrier rate in children was dramatically decreased. However, the cases of failure of the prevention still exist. In this study, we retrospectively analyzed the reasons of 56 cases of the failure of the prevention after the initiation of national program. Seventeen (31%) were not received the immunoprophylaxis of the national program by mistake. Seven (12%) were received the inappropriate doses of schedule. Our national program is relatively complicated compared to the method adopted by almost all other countries. Because of the universal vaccination program is easy to finish the schedule, we should consider converting our prevention schedule to the universal vaccination program.
著者
本間 雄一 原田 大 日浦 政明 成田 竜一 阿部 慎太郎 田原 章成
出版者
The Japan Society of Hepatology
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.51, no.11, pp.615-619, 2010-11-25
被引用文献数
1

症例は45歳,男性.2008年12月下旬より両側下肢から始まる皮疹が出現し,全身へ拡大した.肝機能障害を認め,HBs抗原120.4 S/Nで,IgM-HBc抗体は1.4 indexと軽度上昇,HBe抗原202.3 S/CO,HBe抗体0.0%,IgG-HBc抗体は原液96.0%,200倍希釈16.4%でありB型急性肝炎と診断した.また経過から皮疹はB型急性肝炎に伴うGianotti-Crosti症候群と診断した.入院にて,肝炎の改善とともに皮疹の消退を認めた.Gianotti-Crosti症候群は小児に多く,成人では比較的稀と認識されているが,成人での報告もある.近年,本邦では稀であった成人のB型急性肝炎からの慢性化が増加しており,B型急性肝炎を適切に診断することは重要である.肝炎の症状が軽微な症例もあるため,Gianotti-Crosti症候群のように特徴的な症状をみた場合は注意が必要である.<br>
著者
田中 篤 高橋 宏樹 根津 佐江子 上野 義之 菊池 健太郎 渋谷 明隆 大平 弘正 銭谷 幹男 Lorenzo Montali Pietro Invernizzi 滝川 一
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.51-59, 2009 (Released:2009-03-02)
参考文献数
32
被引用文献数
1 1

疲労は原発性胆汁性肝硬変(PBC)患者の主要症状の一つとされており,近年欧米では臨床上の重要な問題としてPBC患者の疲労に関する報告が相次いでいるが,日本人PBC患者における疲労症状の実態は不明である.われわれは疲労症状の評価尺度として頻用されるFisk Fatigue Severity Score(FFSS)の日本語版をback translation法によって作成し,日本人PBC患者166名を対象としてその妥当性を統計学的に検証した.クロンバックのα係数は0.900を超えており,評価尺度の内的整合性は良好であった.SF-36との間にも高い相関が存在し,ことに疲労と関係の深い「活力」「日常役割機能(身体)」との間に最も強い相関がみられた.主因子法による探索的因子分析ではphysical, cognitive, socio-relational, socio-emotionalと推定される4因子が抽出され,これらによって結果全体の66%が説明可能であった.以上より今回作成した日本語版FFSSの妥当性が検証された.今後これを用いて日本人PBC患者の疲労症状について詳細に検討する予定である.
著者
金子 由佳 金城 美幸 渡辺 秀樹
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.64, no.11, pp.550-558, 2023-11-01 (Released:2023-11-10)
参考文献数
19

胆管浸潤や胆管圧排による閉塞性黄疸を伴う肝細胞癌に対する内視鏡的胆道ドレナージの有効性について検討した.2008年1月から2023年3月までに閉塞性黄疸を呈した肝細胞癌は20例だった.男性16例,女性4例で,平均年齢は75±8歳,門脈浸潤は,Vp0/Vp2/Vp3=13/3/4例,ステント挿入例は16例であった.閉塞性黄疸の改善の有無で全生存期間(OS)を比較すると,黄疸改善例では良好なOSを認めた(p<0.001).プラスチックステント7例,自己拡張型金属ステント9例で両者のOSに明らかな有意差を認めなかった(p=0.218).ドレナージ前後のT.Bil値で有意差を認めた(p=0.001).肝予備能の低下した進行期の肝細胞癌の閉塞性黄疸に対する内視鏡的胆道ドレナージは有用であり,患者の全身状態を考慮しながら検討すべきである.
著者
池田 公史 澁木 太郎 平 知尚 井上 佳苗 山口 将太 福士 耕
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.64, no.11, pp.540-549, 2023-11-01 (Released:2023-11-10)
参考文献数
26

肝細胞癌の薬物療法はソラフェニブ,レンバチニブなどの分子標的治療薬に代わり,アテゾリズマブ+ベバシズマブやデュルバルマブ+トレメリムマブといった免疫療法が主流となった.免疫療法が有効でない場合や免疫療法の適応がない場合に分子標的治療が選択される.年齢,Performance status,肝予備能,治療効果,有害事象などを考慮の上,治療法の選択が必要である.現在,Early stageでは根治治療の周術期治療,Intermediate stageでは肝動脈化学塞栓療法との併用療法,Advanced stageの一次治療,二次治療では新たな薬剤や併用療法などの開発が行われており,どのStageでも薬物療法が行われるようになった.これまで局所療法が主体だった肝細胞癌の治療も,薬物療法の併用療法が積極的に試みられるようになり,新たな治療開発は,薬物療法が中心となって行われている.
著者
清水 創一郎 佐藤 賢 伊藤 健太 喜多 碧 相原 幸祐 舘山 夢生 阿部 貴紘 柴崎 充彦 山崎 節生 深井 泰守 飯塚 賢一 滝澤 大地 新井 弘隆 井出 宗則 浦岡 俊夫
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.63, no.12, pp.530-537, 2022-12-01 (Released:2022-12-12)
参考文献数
35
被引用文献数
1

COVID-19に対するワクチンが開発され,感染抑制や重症化防止に大きく貢献している.その一方で副反応も生じ,肝障害の報告も世界で散見されつつある.ワクチンによる肝障害のメカニズムは,自己免疫性機序などの報告があるものの,不明な点が多いのが現状である.今回,1回目のワクチン接種後に肝障害を来し,2回目のワクチン接種で更に肝障害が悪化し,ワクチンによる因果関係を強く疑い,ワクチンによる薬物性肝障害と診断した10代の女性の症例を経験した.本邦におけるCOVID-19に対するワクチンによる肝障害の報告はあるも,論文化された報告は1例もなく,貴重な症例と考えここに報告する.
著者
村川 美也子 星川 恭子 中川 美奈 田中 聡司 由雄 祥代 須田 剛生 阿部 和道 黒田 英克 飯島 尋子 日本肝臓学会キャリア支援・ダイバーシティ推進委員東部会ワーキンググループ
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.64, no.10, pp.476-486, 2023-10-01 (Released:2023-10-12)
参考文献数
8

第44回日本肝臓学会東部会のキャリア支援・ダイバーシティ推進委員会関連企画の一環として,学会参加者を対象にキャリア支援・学会・SNSに関するアンケート調査を実施し,238名(男性78%,女性22%,40歳未満21%)から回答を得た.「希望するキャリアを継続する際の大きな障害」について最多回答は「時間的な余裕」(61%),次いで「支援体制の不備」(43%)であり,「キャリア支援・ダイバーシティ推進において重要だと思うこと」は「働く環境の整備」(58%)が最多だった.また,学位の取得や留学については肯定的な意見が多かった(学位81%,留学75%).必要な学会の取り組みとしては,学術集会・教育講演会のハイブリッド開催(74%)や単位更新のweb化(51%)の要望が多かった.さらにSNSを利用している割合はFacebook 44%,Twitter 32%であり,Twitterは若い年代で多かった.
著者
小森 敦正
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.64, no.10, pp.466-475, 2023-10-01 (Released:2023-10-12)
参考文献数
42

原発性胆汁性胆管炎(primary biliary cholangitis;PBC)は,慢性進行性自己免疫性肝疾患である.2000年代になりPBC診療の焦点は,ursodeoxycholic acid(UDCA)不応例に向かっている.Bezafibrateおよびobeticholic acidのadd-on投与が確立し,UDCA不応例の治療も進歩しているが,次世代add-on薬の開発,ならびにdual add-on療法の評価など,add-on不応例の一掃を目標とした試みが現在も展開されている.一方で,抗ミトコンドリア抗体陰性PBCおよびPBC-自己免疫性肝炎overlapの診断,治療反応と予後の予測,患者報告アウトカム(掻痒症)への対応と治療にも進歩がみられるが,課題も残っている.PBC診療の進歩とアンメットニーズ,次世代個別化医療への展望について概説する.