著者
福本 恵美子 川崎 浩二 林田 秀明 古堅 麗子 北村 雅保 福田 英輝 川下 由美子 飯島 洋一 齋藤 俊行
出版者
有限責任中間法人日本口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.176-183, 2007-07-30

指しゃぶりは約半数の乳幼児が経験していると報告されており,その習慣化は歯列に大きく影響を与える.本研究の目的は,指しゃぶりの誘発とその習慣化の要因を明らかにすることである.3歳児健康診査を受診した3歳児(36〜47か月)512名を対象とした横断調査をもとに,指しゃぶりの開始と習慣化に関連する要因について分析した.対象者の36.3%が指しゃぶりを経験していた.3歳児健康診査時において指しゃぶりが習慣化している児の割合は,全対象者の15.8%,指しゃぶり経験者の43.5%であった.指しゃぶり開始の要因解析結果から,有意であったものは「郡部」と「兄弟姉妹の指しゃぶり有」であり,オッズ比はそれぞれ1.67(p<0.05),3.05(p<0.001)であった.指しゃぶり経験者における,その習慣化にかかわる要因解析では,「郡部」「弟妹の妊娠無」「母乳終了月齢12か月未満」で有意な関連が認められ,オッズ比はそれぞれ2.56(p<0.05),5.00(p<0.05),6.14(p<0.001)であった.以上の結果から,指しゃぶりの開始には「郡部」「兄弟姉妹の指しゃぶり有」が誘発要因として挙げられ,指しゃぶりの習慣化を防ぐためには母乳栄養を少なくとも生後12か月までは継続することが重要であることがわかった.
著者
石井 拓男 加藤 一夫 榊原 悠紀田郎
出版者
Japanese Society for Oral Health
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.78-102, 1982 (Released:2010-10-27)
参考文献数
333
被引用文献数
2

日本における歯牙フッ素症の疫学調査に関する文献338件を収集し, その中から歯牙フッ素症のフィールド調査に関する248件の報告について考察を行った。我国において, 歯牙フッ素症の調査報告は, 宮城県以外の46都道府県でみとめられたが, 長期間連続的に調査された地区は22県内の36地区であり, そのうち同一調査者, 研究機関によって追跡調査されたところは12県内15地区であった。さらに水質の改善から, 歯牙フッ素症の減少, 消滅まで追跡し報告のされた地区は, 熊本県阿蘇地区, 山口県船木地区, 岡山県笠岡地区, 愛知県池野地区の4地区のみであった。飲料水中のフッ素濃度の測定が一般的になったのは1950年頃からで, それ以前の報告52件中, 実際にフッ素の確認のあった7件以外はフッ素の裏づけの無いものであったが, 追跡調査及び結果の内容から歯牙フッ素症と認められるものが31件あった。1950年以降でフッ素濃度の記載のないもの20件とフッ濃度0.3ppm以下で歯牙フッ素症の発症を報告しているもの11件計31件のうち, 迫跡調査が無く, その結果の内容からも歯牙フッ素症との確認がむつかしいものが11件あった。今回収録した文献の中で, 最も高濃度のフッ素の報告は美濃口ら ('56) による滋賀県雄琴での23pgmであった。このほか10PPm以上の報告が3件あった。日本の歯牙フッ素症の報告は1925年福井によって発表されて以来およそ60年の歴史があるが, 1950年から1960年の10年間に, 全体の報告数の55%が発表されており, 1つの流行現象のあったことが認められた。またその調査報告は, 単に歯科領城に留まらず, 医科及びその他の研究機関で幅広く実施されていたことも認められた。
著者
相田 潤 安藤 雄一 柳澤 智仁
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.66, no.5, pp.458-464, 2016 (Released:2016-12-08)
参考文献数
40
被引用文献数
7

口腔の健康格差解消が日本の健康政策や国際的な学会で述べられている.しかし日本人の全国的なライフステージごとの口腔の健康格差の実態は不明である.そこで政府統計調査データを利用した横断研究を実施した.平成17年の歯科疾患実態調査と国民生活基礎調査のデータセットをリンケージさせ,3,157人のデータを解析した.社会経済状況の指標に等価家計支出を用いた.共変量として性別,年齢,居住地域類型を用いた.幼児期(1~5歳,N=116),学齢期(6~19歳,N=353),成人期(20~64歳,N=1,606),高齢期(65歳以上,N=1,082)ごとの層別解析を行った.幼児期では乳歯う蝕経験の有無,学齢期では永久歯う蝕経験の有無,成人期では進行した歯周疾患(CPIコード3以上)の有無,高齢期では無歯顎かどうか,を目的変数として用いた.ポアソン回帰分析を用いて,等価家計支出が低いほど歯科疾患を有したり無歯顎である関連が存在するかを検討した.解析の結果,成人期の歯周疾患(p=0.001)および高齢期の無歯顎(p<0.001)で,等価家計支出が低いほど統計学的に有意に有病者率が高い傾向が認められた.学齢期の永久歯う蝕経験については,統計学的に有意ではなかったものの,等価家計支出が低いほど多い傾向が認められた(p=0.066).対象者数が少なかったためか,乳歯う蝕経験については明確な傾向は認められなかった.今後,口腔の健康格差を減らすため社会的決定要因を考慮した対策がより一層必要であろう.
著者
岩﨑 正則 福原 正代 大田 祐子 藤澤 律子 角田 聡子 片岡 正太 茂山 博代 正木 千尋 安細 敏弘 細川 隆司
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.73, no.1, pp.42-50, 2023 (Released:2023-02-15)
参考文献数
24

男性労働者における主食の重ね食べ(1回の食事で炭水化物の供給源となる主食を2種類以上同時に食べること)と歯周病の関連を明らかにすることを目的に横断研究を実施した.福岡県内の一企業で行われた定期健康診断にあわせて実施した歯科健診,食事調査,質問紙調査に参加した539名の男性従業員(平均年齢47.9歳)のデータを用いた.歯科健診では10歯の代表歯の歯周ポケット深さを計測した.食事調査では1日あたりの炭水化物摂取量を推定し,摂取量上位20% を多量摂取と定義した.そして4 mm以上の歯周ポケットを有する歯数を目的変数とし,主食の重ね食べの頻度「1日1食以上」「1日1食未満」を説明変数とする負の二項回帰モデルを用いて両者の関連を解析した.さらに,主食の重ね食べの頻度が高い者には炭水化物を多量に摂取している者が多く,歯周病へ影響を与えているとの関連を仮定し,一般化構造方程式モデリング(GSEM)を用いて3者の関連を分析した.解析対象集団の14.8%が1日1食以上の主食の重ね食べをしていた.主食の重ね食べの頻度が1日1食未満の群と比較して,1日1食以上の群では4 mm以上の歯周ポケットを有する歯数が有意に多かった(発生率比=1.47,95%信頼区間=1.10–1.96).GSEMを用いた分析の結果,主食の重ね食べの頻度が高いことは炭水化物の多量摂取と関連があり,主食の重ね食べが歯周病に与える影響の一部は炭水化物の多量摂取を介していることが示された.
著者
栃原 義人 岩本 一人
出版者
Japanese Society for Oral Health
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.16, no.3, pp.125-128, 1966 (Released:2010-10-27)
参考文献数
5

Relation between commencement of menstruation and tooth development in ninety-one girls in a primary school in Kumamoto City who were in the 6th Grade in 1965 was studied, with resultsas follows:1. In early cases, menstruation begins at 9 years and 11 months of age; menarche increases from about 11 years and occurs in large numbers during 11 years and 10 months and 12 years and 3 months. That is, 34.07% of the girls had the menses before they finish primary school.2. Dental condition at the time of menarche was as follows:a) In general three or more second molars had erupted before menarche. Its percentage was 77.41%. At least the bilateral second molars on the lower jaw had erupted before the first visit of the menses in all the case.b) Presence of remaining deciduous teeth was investigated, with the result that 80.65% of the subjects had no deciduous teeth in their jaws. Even if there was any, it was supposed to be not more than one.It was considered that, along with the growth in stature, degree of tooth development may be used as an indication of the time of menarche.
著者
松本 勝 深井 智子 安井 利一 向笠 和夫 金子 憲司
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.208-215, 2004-07-30 (Released:2017-12-23)
参考文献数
15

これまでにデキストラナーゼ配合歯磨剤の歯垢抑制効果についての報告はいくつかあるが,その歯磨剤の形状はペースト状あるいは液状であった.本研究は,デキストラナーゼを配合した洗口剤の歯垢付着抑制効果を検討する目的で,健康な成人82名を対象として二重盲検法によるGood clinical practice (GCP)に準拠した臨床研究を実施した.試験洗口剤は,17.5単位/gデキストラナーゼを配合し,対照洗口剤としては,試験洗口剤から有効成分を除去した洗口剤を用いた.歯垢抑制効果については,歯垢の付着状況および,菌数測定試験により評価した.初診時のPlaque score において最大値が4を有する者で,1週間洗口後の診査時に,試験洗口剤使用群において対照群と比較して有意に低いPlaque score 値を示した.試験洗口剤は,歯垢付着量が多い被験者においてより有効であると考えられた.各歯面におけるPlaque score の平均では,洗口開始後3日目においては,各歯面でのPlaque score の差はほとんど認められなかった.しかし,5日目以降のPlaque score は,すべての対象歯面において試験洗口剤が低い値を示しており,1週目においては対照群との差が広がる傾向が認められた.菌数測定試験においても洗口開始後1週目で細菌数の少ない被験者が増加する傾向を認めた.デキストラナーゼを配合した洗口剤の歯垢抑制効果は,口腔清掃状態の悪い者においてより有効性が高く,また,その効果は使用日数とともに高まることが示唆された.
著者
境 脩 筒井 昭二 佐久間 汐子 滝口 徹 八木 稔 小林 清吾 堀井 欣一
出版者
Japanese Society for Oral Health
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.116-126, 1988 (Released:2010-10-27)
参考文献数
23
被引用文献数
3 2

In 1970 a weekly fluoride mouthrinsing program using 0.2% neutral NaF solution was initiated in the elementary schools of Yahiko District, Niigata Prefecture, Japan (F<0.1ppm in drinking water). The same program was started at the juniour high school in 1973 and a daily fluoride mouthrinsing program was started in 1978 at all four nurseries in the district. Therefore at present, such programs start at the nursery school level and continue to the 3rd grade in the junior high school within an individual school system.We investigated the benefits to the permanent teeth from this 17-year school-based fluoride mouthrinsing program. This report presents the effects of ongoing supervised fluoride mouth rinsing program on caries prevalence of permanent teeth according to the age of starting the fluoride mouthrinsing program.A baseline examination for schoolchildren in 1st-6th grades was conducted in 1970, before the mouthrinsing program began. An examination conducted in 1978 presents the data of children who participated in the program since their entrance into the elementary school, that is, at the age of 6. An examination conducted in 1987 presents the data of children who participated in the program since the age of 4 in the nursery schools.The DMF person rate in all grades decreased from 72.8% in 1970 to 41.6% in 1978 and 27.6% in 1987.The DMFT-index in all grades decreased from 2.27 in 1970 to 1.39 in 1978 and to 0.48 in 1987. The differences in caries prevalence were 38.8% and 78.9%, respectively, and were statistically significant (p<0.001).The school-based fluoride mouthrinsing program produced high caries-preventive effects. Especially, the program started from the nursery level provided higher caries prevention when the 1st molar teeth erupted.The younger the children were when they entered the program, the longer that they rinsed, the greater were the accumulated benefits.
著者
山岸 敦 加藤 一夫 中垣 晴男
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.13-21, 2007-01-30 (Released:2018-03-23)
参考文献数
21
被引用文献数
3

フッ化ナトリウム(NaF)とモノフルオロリン酸ナトリウム(MFP)は,ともに歯磨剤に配合されるう蝕予防の有効成分として最も広く用いられている.本研究の目的は,日常のセルフケアにおいてフッ化物配合歯磨剤の使用を考慮し設定した条件下で,エナメル質耐酸性に及ぼすNaFとMFPの作用の違いを明らかにすることであった.950ppmFに調整したNaFまたはMFPの水溶液で1日2回3分間,エナメル質を処理し,それ以外はpH4.5の脱灰液に浸漬した.この操作を22日間行った後,試料のミネラル量の変化(ΔZおよびLd)をX線マイクロラジオグラフ(XMR)により定量した.その結果,NaF処理群は,MFP処理群より有意に高い耐酸性を示した(ΔZ: NaF<MFP, Ld: NaF<MFP). 22日間のフッ化物処理による耐酸性層の構造を明らかにするため,pH4.0の脱灰液で6日間処理したところ,NaFとMFPのXMR像には大きな違いがあった.NaF処理群は,表面付近に限定して耐酸性を示す100μm程度の層が得られた.一方,MFP処理群は表層付近の耐酸性がNaFに比べ劣るものの,経時的にエナメル質内部に深くまで浸透し,300μm程度の耐酸性を形成した.したがって,今回の条件における耐酸性付与に関するNaFとMFPの作用は互いに対照的であり,その特性に合わせた応用が望まれる.
著者
藤田 恵未 犬飼 順子 中垣 晴男 向井 正視
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.280-285, 2013-04-30 (Released:2018-04-06)
参考文献数
21

多様化した生活習慣や高齢社会に伴い口腔内に象牙質が露出した者は多い.しかし象牙質の酸蝕症と飲料の関係は明確ではない.本研究では飲料が象牙質の酸蝕に与える影響を歯の酸蝕症の評価方法の一つであるヌープ硬さにより検討した. ヒト象牙質をオレンジジュース,グレープフルーツジュース,ヨーグルト飲料,炭酸飲料,蒸留水の5種試験飲料に浸漬し,経時的に試料のヌープ硬さを測定した.また,浸漬30分後の試料は二次電子像観察を行った.結果は経時的に一元配置分散分析およびTukey HSDの多重比較を行った. 各飲料別のヌープ硬さは浸漬2分後は飲料間に有意差はなく,5分後では蒸留水とグレープフルーツジュース間,および蒸留水と炭酸飲料間で有意差があり,15分後では蒸留水と炭酸飲料間,蒸留水とオレンジジュース間,および蒸留水とヨーグルト飲料間に有意差が認められた.また,30分後では飲料間では有意差は認められなかったものの,すべての飲料は蒸留水と有意差があり,二次電子像も異なっていた. 象牙質はエナメル質と比較して結晶構造や化学的性状が異なり硬度が小さく,耐酸性が低いため,pH値の低い飲料に浸漬すると飲料の種類によらず速やかに脱灰が開始し,飲料間のヌープ硬さに有意差がなかったと考える.したがって,清涼飲料水は象牙質の酸蝕症の要因となるため,象牙質の露出した者には象牙質の酸蝕症予防として,緻密な歯科保健指導が必要であると考える.
著者
葭原 明弘 深井 浩一 両角 祐子 廣富 敏伸 宮崎 秀夫
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.51, no.5, pp.822-827, 2001
参考文献数
21
被引用文献数
7

1999年の歯科疾患実態調査によると,5〜14歳で歯肉に所見のある考は47.4%に達している。歯肉炎は主に歯間乳頭部から初発することから,歯肉炎予防にはデンタルフロスの使用が重要と考えられる。本調査の目的は,デンタルフロスを用いた歯科保健指導による歯肉炎の改善と口腔保健行動の変容について評価するものである。対象者は新潟県M小学校の5年生39人(テスト群),Y小学校の5年生18人(コントロール群)であった。テスト群には給食後のブラッシングに加え,上下顎前歯部にデンタルフロスを使用するよう歯科衛生士が指導した。診査はベースライン時(2000年5月)および6ヵ月後に,同一1名の歯科医師が行い,上下顎前歯の歯間乳頭部を対象にPapilla Bleeding IndexおよびPlaque Indexの要訣を用いた。ベースラインにおける一人平均出血部位数,歯垢付首部拉数およびデンタルフロスの家庭での使用率に,2群間で有意な差は認められなかった。一人平均出血部拉数は,テスト群では4.67(SD=3.01)部位から3.03(SD=2.70)部位に減少したのに対し,コントロール群では4.59(SD=2.50)から5.41(SD=3.43)に増加した。6ヵ月間の変化量の差は統計学的に有意であった(p=0.003,Mann-Whitney U検定)。一人平均歯垢付着部位数は,テスト群では4.64(SD=3.02)部位から3.41 (SD=2.68)部位に減少したのに対し,コントロール群では,5.12(SD=2.93)から6.41(SD=2.62)に増加した。6ヵ月間の変化量は,統計学的に有意だった(p=0.008,Mann-Whitney U検定)。さらに,6ヵ月間でデンタルフロスを新たに家庭で使用するようになった者は,テスト群で51.5‰コントロール群で22.2%であった(p=0.023,χ^2検定)。今目の結果は,デンタルフロスの使用を取り入れた歯科保健指導により歯肉炎が抑制されたこと,さらに対象学童の行動変容が起きたことを示している。本プログラムは学校歯科保健活動に組み入れることが比較的容易であり,また今後広く普及が可能な方法と考える。
著者
佐久間 汐子 清田 義和 中林 智美 高徳 幸男 石上 和男 宮崎 秀夫
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.55, no.5, pp.567-573, 2005-10-30 (Released:2018-03-23)
参考文献数
14
被引用文献数
1

新潟県三島町では, 1歳児を対象に3歳まで6カ月ごとのフッ化物歯面塗布(F塗布)とフッ化物配合歯磨剤(F歯磨剤)の配布による家庭内応用を組み合わせたう蝕予防事業を実施した.本研究は, 本事業の有効性, F塗布とF歯磨剤の受け入れやすさの比較, F歯磨剤の付加的効果について評価することを目的とした.対象児は, 当該町の1990年度〜1998年度の3歳児健康診査, 1997年度〜2001年度就学児健康診査の受診児である.う蝕有病者率は有意に低下し, 3歳児では事業開始前の42〜47%から17%に, 就学児では同様に73%から51%に低下した.また, 就学児を個人別に分類すると, 事業参加群の1.54本に対し, ほかの2群は3本以上であった.受け入れやすさについては, F塗布の定期受療児の割合83.6%に対し, F歯磨剤を1日1回使用した幼児の割合は55.2%であった.F塗布の定期受療児でF歯磨剤の「1日1回使用」群と「使用せず」群との3歳児および就学児の有病者率の比較は, 就学児で有意差が認められた.さらに, 就学児のdf歯数を目的変数とする段階式重回帰分析で, 有意な説明変数は「1〜3歳までF歯磨剤を使用せず」のみであった.以上より, F歯磨剤の付加的効果が示唆された.乳歯う蝕予防対策としては, 受け入れやすさを考慮すると, 6カ月ごとのF塗布を基本にF歯磨剤の使用を付随する形で指導することが望ましいと考えられる.
著者
村田 貴俊 藤山 友紀 ラハルジョー アントン 尾花 典隆 宮崎 秀夫
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.190-195, 2002-07-30 (Released:2017-12-15)
参考文献数
16
被引用文献数
3

近年の国民の清潔志向を反映し,各種アンケート調査でも,口臭を気にしている人が多く存在する。また,口臭の抑制,予防を目的とした洗口剤が広く市販,使用されている。しかし,本邦で市販されている洗口剤の多くは臭気物質のマスキング効果を主としており,口臭の主な原因である揮発性硫化物の検出を抑える成分は含まれていない。そのため,洗口直後でさえも,高濃度の揮発性硫化物(VSC)の検出が認められることが多い。われわれは,内外の研究報告から塩化亜鉛を取り上げ,塩化亜鉛を含む洗口剤によるVSCの検出抑制効果について検討した。口腔内気体中にVSCが検出される人のなかから,同意を得られた成人男性8人を対象とし,0.1%塩化亜鉛洗口剤および偽剤による洗口前後において,口腔内気体中のVSCを,炎光光度検出器付きガスクロマトグラフ,記録計,自動試料注入装置からなる分析システムを用いて測定し,この洗口剤の効果を二重盲検法,交差研究により検討した。その結果,この洗口剤によって,顕著なVSC濃度の減少が認められ,少なくとも90分間は口腔内からのVSCの産生を抑制した。このことは塩化亜鉛を含む洗口剤が優れた口臭抑制効果をもつことを示しており,本邦でもこのようなVSCの検出を抑制する洗口剤の流通が望まれる。
著者
相田 潤 小林 清吾 荒川 浩久 八木 稔 磯崎 篤則 井下 英二 晴佐久 悟 川村 和章 眞木 吉信
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.66, no.3, pp.308-315, 2016 (Released:2016-06-10)
参考文献数
41

フッ化物配合歯磨剤は成人や高齢者にも,う蝕予防効果をもたらす.近年,一部の基礎研究の結果をもとに,フッ化物配合歯磨剤がインプラント周囲炎のリスクになる可能性が指摘されている.しかし,実際の人の口腔内やそれに近い状況での検証はない.本レビューではフッ化物配合歯磨剤がインプラント周囲炎のリスクになるか評価することを目的とした.疫学研究および6つの観点から基礎研究を文献データベースより収集した.疫学研究は存在しなかった.基礎研究の結果から,1)pHが4.7以下の酸性の場合,フッ化物配合歯磨剤によりチタンが侵襲されうるが,中性,アルカリ性,または弱酸性のフッ化物配合歯磨剤を利用する場合,侵襲の可能性は極めて低い,2)歯磨剤を利用しないブラッシングでもチタン表面が侵襲されていた.歯磨剤を利用するブラッシングでフッ化物の有無による侵襲の程度に差はない,3)チタン表面の侵襲の有無で,細菌の付着に差はなかった.フッ化物の利用により細菌の付着が抑制された報告も存在した,4)実際の口腔内では唾液の希釈作用でフッ化物濃度は低下するため侵襲の可能性は低い,5)フッ化物配合歯磨剤の利用により細菌の酸産生能が抑制されるため,チタンが侵襲されるpHにはなりにくくなる,6)酸性の飲食物によるpHの低下は短時間で回復したことがわかった.これらからフッ化物配合歯磨剤の利用を中止する利益はなく,中止によるう蝕リスクの増加が懸念される.
著者
渋谷 耕司
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.51, no.5, pp.778-792, 2001-10-30 (Released:2017-12-08)
参考文献数
68
被引用文献数
5

特別な歯科疾患のない健康な成人男性の呼気あるいは口腔内気体(口気)中の臭気成分の分析ならびにその主成分の発生要因について検討した。1.口臭の強さが異なる健常な成人男性の呼気から15種類の低級脂肪酸,揮発性窒素化合物あるいは揮発性硫黄化合物(VSC)が検出された。そのうち,不快臭がある呼気および口気にはVSCのうちメチルメルカプタン(CH3SH)が常に認知閾値に対して高濃度で存在し,かつ官能評価値(不快度)の高低とよく対応したことから,これが不快臭の主要な成分であることが確認された。2.呼気,口気および唾液気相に含まれるVSCの組成を比較検討した結果,不快臭すなわちCH3SHの主な発生部位が口腔であること,また,唾液,歯垢,舌苔の培養実験の結果から,これらの発生には主に嫌気性微生物が関与していること,その基質としてL-メチオニンが重要であることが示された。さらに,口腔各部位の清掃によるCH3SHの産生能低下の比較結果から,舌背が主要な発生部位であることが知られた。3.CH3SH産生への関与を明らかにするため,口腔微生物17菌属42菌種71菌株を調べたところ,歯列病関連細菌であるPorphyromonas,FusobacteriumおよびSpirochetesに高い産生能が認められた。また,主要な舌苔常在菌の1つであるVeillonellaの一部も高い産生能を示し,健常人における口臭の発生に密接にかかわっていることが示唆された。
著者
高橋 雅洋 岸 光男
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.137-147, 2006
参考文献数
35
被引用文献数
4

85歳高齢者,歯周組織の健全な若年成人(以下,健常者)およびその中間年齢層にあたり,歯周治療後のメインテナンスのために定期受診している者,合計292名から舌苔を採取し,菌種特異的PCR法により,4種の歯周病原性細菌と2種のミュータンスレンサ球菌を検出し,検出率を比較した.また,85歳高齢者と健常者においては歯科疾患関連細菌の検出と口腔内状況との関連を検討した.結果を以下に示す.1.無菌顎者の舌苔からの4種の歯周病原性細菌の検出率は低かった.また,有歯顎高齢者を含むその他の被験者群中では,健常者からのPorphyromonas gingivalis, Treponema denticolaの検出率が有意に低かった.これらより,歯周病に罹患していない者,歯周病感受性がない者の舌苔は,歯周病原性細菌の棲息部位となりにくいことが示された.2.健常者において舌苔と歯垢からの歯科疾患関連細菌の検出状況を比較したところ,T. denticola以外の細菌で,舌苔と歯垢からの検出に関連が認められた.さらに歯周病原性細菌に関しては,舌苔からの検出率が歯垢より高く,いずれか一方から歯周病原性菌が検出された場合には,主として舌苔からであった.これらの結果から,舌苔は口腔他部位への細菌の供給源であると同時に受容部位としても働き,さらに口腔他部位の細菌叢と相互に関連し合って,口腔全体の細菌叢を構成しているものと考えられた.
著者
山中 すみへ 田中 界治 田中 久雄 西村 正雄
出版者
Japanese Society for Oral Health
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.26, no.4, pp.307-313, 1977 (Released:2010-03-02)
参考文献数
31

歯科診療においてアマルガムは重要な充填材料であるが, アマルガム使用による水銀の環境汚染が新たな問題となってきた。とくに最近, 河川や魚介類の水銀汚染が社会問題になり, 排水基準も5ppb以下に規制されるようになった。そこで, 歯科診療における各ステップの排水や排水口のスラッジ, 周辺の土壌などの水銀濃度を分析して, 歯科診療による水銀の排出, 環境への汚染の実態を調べた。バキューム管で吸引され。汚物水, うがい水, ユニット直下の排水, そして歯科診療所の最終排水と大量の流水に希釈されるに従って排水中水銀濃度が減少しているが, 排水を通じての水銀の放出は決して少なくはないことが明らかとなった。とくに最終排水中水銀濃度は平均値で11.3ppbであり, ほとんどの歯科診療所は現在の排水基準値の5ppbを上まわっていた。また歯科診療所周辺の土壌中にも比較的高い水銀濃度を認め, さらに排水口のスラッジでは10600ppmと非常に高く排水中の水銀を濃縮していることを示した。以上のことから歯科診療から排出された無機水銀は, メチル水銀に変換する危険性が余りないとはいえ, 排水を通じて環境への水銀汚染は, 土壌やスラッジヘの蓄積によりかなり高濃度となっていることが明らかとなったので, 対策の必要性を改めて確認した。
著者
大橋 たみえ 石津 恵津子 小澤 亨司 久米 美佳 徳竹 宏保 可児 徳子
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.51, no.5, pp.828-833, 2001-10-30 (Released:2017-12-08)
参考文献数
19
被引用文献数
3

歯の切削に件って発生する飛散粉塵には種々の口腔内細菌が付着している可能性があり,歯科医療従事者への細菌曝露の原因となり,歯科診療室汚染につながる。そのため,特に発生源での切削粉塵の除去対策が重要である。本研究では,歯の切削に件う飛散粉塵濃度を測定した結果1〜2μmの粒度のものが最も多く,次いで0.5〜1,0.3〜0.5, 2〜5, 5μm以上の順であった。本研究で使用した口腔外バキュームでは,0.3μm以上の粉塵粒子の80%程度を除去可能であり,歯の切削時における飛散粉塵の除去に有効であることが示された。また,口腔外バキュームの吸引口の設置位置,方向による除塵効果を3条件について比較検討し,切削部位の上方5cmの位置に縦方向に設置した条件において最も除塵効果が高いことを確認した。
著者
玉木 直文 松尾 亮 水野 昭彦 正木 文浩 中川 徹 鈴木 雅博 福井 誠 谷口 隆司 三宅 達郎 伊藤 博夫
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.66, no.3, pp.316-321, 2016 (Released:2016-06-10)
参考文献数
19

糖尿病や腎機能と歯周病との関連についての研究は数多く行われてきたが,これらの疾患のバイオマーカーと歯肉溝液中の炎症関連バイオマーカーとの関連についての研究は少ない.本研究では,歯肉溝液中の炎症関連バイオマーカーと糖尿病・腎機能マーカーとの関連性について検討を行うことを目的とした. 市民健診参加者と糖尿病治療の患者を対象とした.対象者の歯肉溝液を採取し,アンチトリプシンとラクトフェリン濃度を測定した.また,糖尿病コントロール指標として糖化ヘモグロビン(HbA1c),腎機能マーカーとしてクレアチニンと推算糸給体濾過量(eGFR)を測定し,これらを従属変数とした重回帰分析を用いて,それぞれの関連性を検討した. その結果,炎症関連歯肉溝バイオマーカーと血清のすべての検査項目において,年齢・性別調整後の平均値は市民健診受診者と糖尿病患者の間で統計学的な有意差があった(p<0.001).また,糖尿病などに強く関連する交絡因子である年齢や性別などの調整後でも,歯肉溝中の炎症関連バイオマーカーは糖尿病・腎機能マーカーとも関連することが認められた.本研究の結果から,客観的に評価された歯肉溝バイオマーカーと糖尿病や腎機能マーカーとの間には有意な関連があることが示され,医科−歯科連携における健診ツールとして,歯肉溝液中のバイオマーカーの測定の有用性が示唆された.
著者
長谷 晃広 相田 潤 坪谷 透 小山 史穂子 松山 祐輔 三浦 宏子 小坂 健
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.276-282, 2015-04-30 (Released:2018-04-13)
参考文献数
11
被引用文献数
1

近年,歯学部において「将来設計に関する教育(以下,キャリア教育)」が実施されているが,これまでその効果を全国的に検証した研究はほとんど報告されていない.そこで本研究は,全国の研修歯科医を対象として 1)将来設計およびキャリア教育受講の実態把握とその関連性の検討ならびに,2)具体的な志望進路の実態把握を目的とした.2,323名に対し自記式調査票を郵送し1,590名から回答を得た(回収率68.4%).主要な変数に欠損のない1,428名のデータで解析を行った.「将来設計を描けている」と回答した者は212名(14.8%)であった.将来設計を描けていると回答する者の割合はキャリア教育受講経験を有する群で高く(p=0.015),性別,年齢,婚姻状態,出身大学,親の職業を調整したうえでもその関連は支持された(prevalence ratio=1.18, 95%信頼区間=1.08-1.29, p<0.001).希望する進路の最多回答は,研修直後および研修修了5年後では診療所勤務(570名:39.9%および723名:50.6%),研修修了10年後では診療所の開業(705名:49.4%)であった.本研究より,キャリア教育は将来設計を描くにあたり有効である可能性が示唆され,約半数の研修歯科医が10年後以降には歯科診療所を開業したいと考えていることが明らかになった.