著者
安田 従生 谷岡 利裕 中澤 公孝
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

これまで、酸化ストレスと酸素摂取能力(体力レベル)の関連性は、侵襲的な方法(血液、筋組織等)で評価されてきた。その間、唾液等を用いた非侵襲的な方法も試みられていたが、精度の高い定量的分析が困難であった。しかしながら、近年、唾液を用いた非侵襲的な方法でミトコンドリアDNAコピー数の検出が高い精度で可能になりつつあり、学校体育・スポーツ現場で応用できる機会が到来している。その点で、DNA損傷・修復能力と酸素摂取能力に基づいた唾液中ミトコンドリアDNAコピー数の定量化により、生徒の体力レベルやストレス耐性を迅速にかつ簡易的に特定することができれば、部活動水準を至適レベルで設定することが可能となる。
著者
長坂 猛 田中 美智子
出版者
宮崎県立看護大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

睡眠の内容と、翌日のパフォーマンスに関するデータ(情報の処理能力、疲労度、眠気)の相関を調べることによって、睡眠と翌日の活動についての評価を試みる。日常的な生活の中で測定を実施し、心拍や唾液中のホルモン物質の変動から、翌日のパフォーマンスを推測することをめざす。
著者
三浦 要
出版者
金沢大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

古代ギリシア快楽主義の検討を通じ,特に,原子論者デモクリトスの快楽主義が一般的解釈に反し倫理的理論として肯定的に評価できること,同じ快楽主義のキュレネ派との相違点が顕著であるエピクロスの規範的倫理学説が,個人の閉じた生での幸福の実現を目標にしているかぎりで公的倫理の基礎を与えない点で限界を有すること,そして,快楽と人間とが親和的であるという快楽主義的洞察が真理であるからには,快楽主義が個人倫理の源泉を考える上で依然として有効性をもっていることを考察した。
著者
高橋 弘毅 黒木 由夫 白鳥 正典 千葉 弘文 工藤 和実 黒沼 幸治
出版者
札幌医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

本研究は急性肺障害でのToll様受容体(TLRs)の役割を明確にし、肺コレクチン、SP-Aによる抑制効果を臨床薬に応用する基盤的研究である。ブレオマイシン(BLM)投与SP-A ノックアウトマウスは野生型よりも死亡率が高く、肺内炎症性サイトカイン産生が増強された。BLM刺激でラット肺胞マクロファージから炎症性サイトカインが誘導され、SP-A添加で有意に抑制された。sTLR2遺伝子導入HEK293細胞では、BLM刺激でNF-kBが誘導された。BLMはsTLR2と直接結合し、それはSP-Aで阻害された。以上より、BLM誘導シグナルはTLR2依存性で、肺コレクチンはその阻害効果をもつことが示された。
著者
小林 亜子
出版者
埼玉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究は、フランス革命期に採択された公教育組織法が革命戦争による併合地や姉妹共和国にどのように施行されたかを明らかにしようとするものである。これらの問題については、刊行史料が存在しないためフランス本国においても未解明であったが、本研究では未刊行の重要な史料群を発見し、それらの分析から、革命後半期の総裁政府期に成立した公教育組織法が併合地にも施行され、併合地や姉妹共和国の教育状況が本国に詳細に報告されていたことを解明した。さらに、総裁政府期の共和国と革命戦争をめぐる近年の革命史の研究動向とも関わる新たな知見を導き出し、フランスの国際シンポジウムで報告し、日本でも国際研究集会を主催した。
著者
松山 睦美 中島 正洋
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

放射線誘発甲状腺癌でのAutophagy(AP)の関与を調べるため、ヒドロキシクロロキン(HCQ)200mg/kgを6週齢雄性Wistarラットに照射前3日間経口投与し、4Gy全身/局所照射後、非照射非投与群、非照射HCQ群、照射非投与群、照射HCQ群に分け、甲状腺の急性期放射線応答と慢性期の腫瘍発症率を調べた。急性期では増殖細胞数の低下とAP関連遺伝子の低下が認められた。腫瘍は、非投与照射群が14/15(93.3%)、HCQ群は9/13(69.2%)で、HCQ群が低値だった(p=0.097)。HCQ前投与により腫瘍発生の抑制の可能性が示唆されるが、さらなる検討が必要である。
著者
永宗 喜三郎
出版者
国立感染症研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

我々はアピコンプレクス門原虫がいくつかの植物ホルモンを産生し、増殖の制御に用いている可能性を見出した。本研究ではそれらうち、サイトカイニンがトキソプラズマに与える影響についてさらに詳細に検討した。サイトカイニンには植物が自然界で生合成しているものと人工合成されたものに大別でき、いずれも細胞分裂の促進、光合成の活性化、葉緑体の分化・増殖といった作用を持つ。そこでそれぞれのサイトカイニンをトキソプラズマの培養中に添加し、原虫の増殖率を測定したところ、天然サイトカイニン(trans-zeatin)は、高等植物の知見から期待されるとおり原虫の増殖が促進したが、合成サイトカイニン(thidiazuron)は逆に原虫の増殖を阻害した。この増殖調節は高等植物での知見と同様、ある特定のサイクリンの発現量に依存していた。また通常原虫内に1つしか観察されないアピコプラストの数が、trans-zeatin処理により劇的に上昇し、逆にthidiazuron処理により消失した。更にELISAによる結果から、原虫はサイトカイニンを産生しているものと思われた。以上の結果からトキソプラズマにおいて植物ホルモンであるサイトカイニンは、ある特定のサイクリンの発現を制御することで、原虫の細胞周期自体と、細胞周期の進行と厳密にリンクしているアピコプラストの分裂のタイミングを調節しているものと考えられた。
著者
鹿 錫俊
出版者
大東文化大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究は、蒋介石ら中国要人達の日記と関係国公文書との相互検証に基づき、公文書の制約性からくる虚像を是正すること、日中戦争期の中国の実像を復元すること、新資料を提供すること、という目的の実現を試みた。三年にわたる研究期間において、本研究は著書、論文の出版と国際学会での発信によって、「抗日」と「防共」の優先順序をめぐる蒋介石の葛藤、対ソ認識と抗日戦堅持との関連、対ドイツ政策の変遷、戦時外交の多面相、私文書と公文書の相互検証による研究の在り方、といった一連の問題について新しい知見を提示し、学術研究の深化に寄与した。
著者
松本 逸郎 土屋 勝彦
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

1.抗卵白アルブミン抗体で受動感作した後に、アルブミン抗原でイヌの脳内肥満細胞を刺激した。脳内肥満細胞の刺激でACTHを介して副腎皮質ホルモンが、交感神経を介して髄質ホルモン分泌が亢進した。Compound 48/80で脳内肥満細胞を刺激しても副腎髄・皮質ホルモンが上昇し、抗利尿ホルモンやレニン分泌も亢進した。これらの反応は正中隆起部の肥満細胞が脱顆粒しヒスタミンを放出し、CRF分泌をへて下垂体-副腎皮質系と交感神経-副腎髄質および腎傍糸球体細胞系を活性化するとともに、下垂体後葉をも賦活した結果であり、脳内肥満細胞が抗原センサーとなり得ることを示唆している。2.副腎の肥満細胞は内包するヒスタミンやPAFを放出し、副腎皮質ホルモン分泌を高めるので副腎の肥満細胞はI型アレルギー発症時に亢進した皮質ホルモン分泌により炎症を抑制し、生体防衛に働く可能性がある。腹腔内の炎症ではエンテロクロマフィン細胞と肥満細胞に含まれるセロトニンやヒスタミンが内臓求心性神経を介して炎症情報を脳へ伝え発熱し、摂食や行動を抑制し体力の温存と炎症からの回復を計り生体防衛に寄与していることが分かった。3.GlucocorticoidはLPS誘発の発熱、摂食抑制などの炎症を抑制する。脳内でも末梢にでも居住する肥満細胞はアレルゲンに反応して脱顆粒し、Chemical mediatorを放出しストレスホルモンを分泌亢進する。このことは肥満細胞誘発のアレルギー症には皮質ホルモン分泌亢進で、アナフィラキシーショクに対してはカテコールアミン、レニン、ADH分泌亢進で、呼吸不全に対してはEpinephrineと皮質ホルモン分泌亢進で対抗し,ネガティーブフィードバック的に炎症の進行を抑制する可能性が明らかになった。
著者
末盛 浩一郎 安川 正貴
出版者
愛媛大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

重症熱性血小板減少症候群(Severe fever with thrombocytopenia syndrome; SFTS)は2011年に中国で初めて報告された新興感染症である。我が国でも2013年に初めて患者が確認され、致死率が10~30%と極めて高い。有効な治療法が確立されておらず、病態解明と治療法の確立は喫緊の課題である。本研究の目的は臨床像の病態解明により予後改善を目指すことである。
著者
斉藤 修
出版者
長浜バイオ大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究では、渋味の分子機構解明に向け「味覚神経上ではTRPA1とTRPV1が緑茶カテキン(EGCG)を感じる渋味センサーであり、それらが活性化されることが渋味感覚を導いている。」という仮説を立て研究を進めた。結果、調製後時間経過し酸化したEGCGのみが、TRPA1、TRPV1、更に培養感覚神経を活性化すること、更に酸化EGCG溶液中のTheasinensin Aが、それらの活性化を引き起こす物質の一つであることを突き止めた。また、酸化EGCGへの各動物種のTRPチャネルの応答性の違いからキメラ解析を行い、両TRPチャネルとも6回膜貫通部位に酸化EGCG応答に重要な部位が存在することが判明した。
著者
矢口 博久 溝上 陽子
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

現在,産業界では広くCIEが1931年に制定したXYZ表色系が用いられているが,この等色関数は短波長域で実際の観測者より低い感度を持っているという問題がある。そこで,CIEは2006年に錐体分光感度である錐体基本関数(CIE2006LMS)を,さらに2015年に錐体基本関数に基づくXYZ型の表色系(CIE2015XYZ)を発表した。本研究では,この新しい表色系を観測者条件等色の問題解決と個人差,特に異常3色覚の色の見えのシミュレーションに応用した。
著者
浅古 泰史
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2020-04-01

政治経済学・公共選択論の主な数理モデルは、米国の政治制度を強く意識したものが多い。しかし、二大政党制や大統領制など、米国の政治制度は欧州やアジアの民主主義国から見れば特殊なものである。政治制度の在り方が政策の意思決定過程に与える影響を考えるうえで、米国以外の政治制度を想定した研究が必須であると言える。そこで本研究では、日本や欧州などの議院内閣制を分析する理論的枠組みを構築していくことを目的とする。特に、議院内閣制の特徴の1つである内閣不信任決議、および首長が有している議会解散権に着目する。
著者
樋口 善博 村上 尚 谷井 秀治
出版者
金沢大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

アストログリアのモデル細胞として培養型C6ラットグリア細胞腫株を用い、このGSHの枯渇下によるアポトーシスの過程で、本研究では不飽和脂肪酸とくにアラキドン酸のアポトーシスに及ぼす影響を調べた。ラットグリア細胞腫はグルタミン酸で細胞内GSHを枯渇誘導すると、細胞内活性酸素が増え、かつ脂質メディエーターであるアラキドン酸からの12-リポオキシゲナーゼ代謝過酸化物を含む脂質のラジカル連鎖反応による過酸化が増大することで細胞膜強度が低下し、同時にアポトーシス関連酵素の失活もしくは減少を来たした。染色体DNAでは、細胞内活性酸素OHラジカルによってグアニン塩基が水酸化反応を受け酸化反応による8-hydroxy-2-deoxyguanosine(8-OH-dG)産生の増加が認められた。一方でDNAの酸化反応を引き起こしながらネクローシス様の細胞死を誘導増進することが明らかになった。紫外線による細胞死誘導において、アラキドン酸またはその過酸化物がどのような役割をしているかを、グルタチオン(GSH)枯渇による細胞死誘導の過程で観察された染色体DNAの断片化及び特定の細胞内生理活性物質の変動を調べ、比較検討した。初期段階で活性酸素非依存性の巨大DNA断片化を引き起こし、カスパーゼの活性化を伴うアポトーシスと考えられ、アラキドン酸はDNA断片化を増長させながら紫外線照射による細胞死を促進し、アラキドン酸またはその過酸化物によってその細胞死の一部はNAD,ATPの枯渇を伴うネクローシスに転換されるものと示唆された。これらのGSH枯渇誘導及び紫外線誘導細胞死の実験結果より、グリア細胞腫におけるGSH枯渇誘導での細胞死は、つまり活性酸素関与の場合のその機構はネクローシスであり、活性酸素非依存の場合はアポトーシスによる機構が働くと示唆された。
著者
太田 深秀
出版者
国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

水分子の拡散現象を利用して生体組織の性質を画像化する拡散強調画像は、超急性期脳梗塞を敏感に描出できることから1990年代後半に急速に臨床応用が進んだ。また、近年開発された拡散尖度画像は従来の指標と比較して微細構造変化を鋭敏に捉えることが可能であると考えられている。我々は健常被験者や大うつ病制障害患者、双極性障害患者を対象にこの拡散尖度画像を用いて精神疾患に特徴的な局所脳形態変化を明らかにした。また精神疾患モデルマウスを用いた研究として大うつ病性障害モデルラットを対象に [11C]PK11195を用いた検査を行い、うつ病モデル化前後での脳内炎症の差異をPETにより明らかにした。
著者
井上 主税
出版者
奈良県立橿原考古学研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究では、朝鮮半島初期鉄器時代~三国時代の鉄・鉄器生産遺跡出土の倭系遺物について検討した。その結果、紀元前2~1世紀には、倭人たちが東南部地域で鉄器生産に関与していた痕跡が認められた。一方、紀元後3~4世紀には東南部地域の鉄・鉄器生産遺跡で、5世紀以降は西南部地域の鉄・鉄器生産遺跡で倭系遺物が出土しているものの、遺構には直接伴っておらず、出土量からみても倭人たちの活動痕跡は限定的なものであった。そのため、現時点では多量の鉄器が副葬された古墳時代の様相から想定される、鉄素材をめぐる朝鮮半島との関連性とは必ずしも一致しない面が認められる。
著者
広瀬 雅樹 井上 義一
出版者
独立行政法人国立病院機構(近畿中央胸部疾患センター臨床研究センター)
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

B細胞活性化因子であるBAFFおよびAPRILが自己免疫性肺胞蛋白症 (APAP)患者血清および気管支洗浄液中で健常者および肺疾患コントロールと比べ過剰産生されていることを明らかにし た。肺局所のPAP病変域においてもマクロファージがBAFFおよびAPRILを発現していることを免疫組織学的に確認した。B細胞活性化因子の過剰産生を認めたことより、B細胞自体の増加も考えられたが、APAP病態におい てB細胞が顕著に増加していることは認められなかった。以上の我々の結果は、APAP治療には全肺洗浄、GM-CSF吸入、B細胞活性化因子抑制という集学的治療の必要性を示唆するものであると考える。
著者
平田 構造 中西 正恵 中井 昌子 安坂 友希 吉田 美奈子
出版者
神戸女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

衣服の快適性には吸湿性能が重要な因子である。吸湿性の高い衣服では、蒸発した汗の吸湿に伴って衣服が吸着を発生することが布吊を用いた実験結果でよく知られている。しかし、吸着熱が衣服を着用する人体に及ぼす温熱生理的な影響に関する研究は極めて少なく、これまで皮膚温、体温と主観的申告(温冷感)の測定に限られていた。そこで本研究では、汗の吸湿に伴う吸着熱が体温調節反応にどのように影響するのかについて、検討を行うことを目的とした。実験はできるだけ類似の物性値を示すが、吸湿性の高い綿100%(C)と、吸湿性の低いポリエステル100%(P)を用いた衣服を着用した健康な成人女子を被験者として行なった。被験者は室温27.2℃、湿度50%の人工気候室で椅座安静にして、水温35℃の水槽内に下肢を10分間浸漬した後、水温を41℃まで15分かけて上昇し、その後は同温を45分間維持した。この間の温熱生理反応を測定した。実験中、衣服内水蒸気圧、衣服表面水蒸気圧、全身水分蒸発量はCとPの間に有意な差は認められなかったが、衣服に覆われた部位の平均皮膚温、皮膚血流量、服表面温度、衣胆内温度はCとPの間に発汗開始後に有意な差が観察された。別に行った実験衣服のみの吸着熱を測定した結果では、室温27.2℃不変の状態で湿度のみ50%から95%まで上昇させて衣服表面温度を測定したところ、では2.3℃の上昇を示したがPでは0.4℃であり、吸湿によりCがPより有意に大きな吸着熱を示した。以上の結果から吸湿性の高い衣服は水蒸気を吸湿することにより多量の吸着熱を発生しすることが明らかとなった。着用実験でもヒトが発汗を開始すると皮膚から蒸発する多量の汗を吸湿してC衣服に吸着熱が発生するため、皮膚血流量の増加、皮膚温の上昇、温冷感が暑い側の申告をするなどの体温調節反応が明らかに生じることが判明した。
著者
西野 友年
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

有限温度密度行列繰込み群(DMRG)では、有限温度の一次元量子系を表現する筒形の二次元古典系に「切れ目」を入れて密度行列を構成することが、一般的に行われている。この場合、系のトポロジーが平面とは異なるので、従来から行われて来た単純な密度行列構成が、フリーエネルギー最小の意味において必ずしも最適ではないことが判明した。その理由は、筒を「回り込む」形の情報伝達が正しく取り込まれないからである。同様な困難は三次元古典系にも現れる。そこで本年度はDMRGの基礎に立ち返って、テンソル積で表現された変分関数を改良するという視点から、三次元古典系に対する有効な密度行列構成方法を検討した。その結果として、補助的な自由度を持ったテンソル積型変分関数を最適化する基本方程式を得ることに成功した。また、角転送行列繰込み群(CTMRG)を用いると、この方程式を数値的に解けることが判明した。以上のようにして得られた、新しい密度行列変分法(TPVA)を三次元Ising模型およびPotts模型に応用し、相転移温度や潜熱の測定などを行い、モンテカルロ法の結果と比較し得るデータを得た。他方、CTMRGを16vertex模型に適用することによって、これまでに調べられていなかったパラメター領域での相図を確定した。
著者
通山 由美
出版者
姫路獨協大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

Neutrophil extracellular traps(NETs)は、好中球のクロマチンが網状構造に変化して病原微生物を捉える生体防御機構である。近年、NETs成分が血小板を刺激して血栓症を誘発することが新たな病態として注目されている。本研究では、NETs形成の分子機構の解明、血小板血栓を惹起するNETs成分の同定、さらに血栓症の早期診断法の開発を目ざしている。これまでの研究で、1)質量分析法によりNETs形成過程に特異的な翻訳後修飾を含むタンパク質を見いだし、2)遺伝子編集技術(CRISPR/Cas9)を利用して候補タンパク質のノックアウト(KO)型好中球モデルを作成した。そこで令和1年度は、KO型好中球モデルを用いてNETs形成への影響を解析するとともに、NETs形成で放出される分子の中で、血小板を刺激する候補分子を探索した。具体的には、ヒト白血病細胞株、HL60を親株として、PDIファミリータンパク質のP4HB、プロテインS100ファミリータンパク質のプロテインS100A8およびS100A9、チロシンキナーゼ、SykのKO細胞について取り組んだ。HL60および各分子のKO型HL60細胞を、ATRA(All-trans retinoic Acid)刺激で好中球様に分化し、1)好中球に特有の分葉核の形成および補体受容体の発現、2)食作用に伴う活性酸素の産生量、3)NETs形成により放出されるタンパク質について解析した。その結果、1)P4HB-KOにより核分葉が抑制されること、2)Syk-KOにより活性酸素産生が抑制されること、3)親株であるHL60では、NETs形成に伴い、プロテインS100A8とS100A9が、炎症性サイトカインと共に放出されることを見出した。今後さらに解析を進めて、NETs形成機構の解明、血小板血栓を惹起するNETs成分の同定をめざす。