著者
福原 晴夫
出版者
新潟大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

1.北日本を中心とした分布調査により、日本海側ではチョウセンコツブムシが淡水にまで生育地を広げているが、太平洋側では別の種(キスイコツブムシ)が淡水域に侵入している可能性が指摘された。2.汽水域(阿賀野川)でのチョウセンコツブムシの生活史の特徴は、年2回の繁殖期があり、夏世代と秋世代の間の繁殖が行われた。3.淡水域(越口の池)では、秋世代の存在が明らかではなく、異なった年次の春世代の間で繁殖が起こり、一年目は雌として2年めは雄として繁殖を行うことが明かとなった。4.性転換にともなうステージの違いをタイプとして明らかにし、生活史の経過を詳細に解明することが出来た。5.チョウセンコツブムシの成熟期におけるサイズの比較を汽水産、淡水産で行ったが、傾向は明らかではなかった。また交尾前ガードの雄と雌にはサイズ同類交配の傾向がある地域もあった。6.チョウセンコツブムシのサイズ同類交配の成立に関する実験では、雄の大型雌の選択、乗っ取り、雌の取り換えなどが関係することが明らかとなった。7.淡水および汽水に生息するチョウセンコツブムシの繁殖形質の比較を行い、淡水では卵の小産化の傾向が明かとなった。8.淡水産と汽水産との遺伝的分化の程度を検討するため、アイソザイム分析を行っているが、変異酵素の探索中で、淡水適応における遺伝的分化が今後の大きな課題となる。
著者
坂井 貴行 忽那 憲治 井内 健介
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

我が国の大学等には,優れた科学技術の研究成果が多く存在するものの,多くの研究成果は商業化まで至っていない.大学等における産学連携・技術移転はイノベーション創出に極めて重要であると考えられており,科学技術の研究成果を産み出す「研究者」と研究成果の商業化の担い手である「産学連携実務者」の考え方,取り組み方はイノベーション創出可否の鍵になると考えられる.本研究では,研究成果の商業化に関わるステークホルダーである「産学連携実務者」と「理系研究者」とに着目し、日本において何が商業化の課題・制約となっているのか,その心的要因を明らかにし,更に欧州の分析結果と比較して我が国が抱える科学技術研究成果の商業化における問題点を明らかにすることを目的としている.平成30年度は,産学連携実務者を対象に,Quadruple Helixモデルによる6Pマーケティングミックスを用いて大学等の研究成果の商業化に対する意識調査(アンケート調査)をおよび分析を行った.平成31年度は、平成30年度に実施した研究成果は論文として取り纏め、産学連携学会誌『産学連携学』に投稿し、acceptされた。また同様のモデルを用いて、大規模大学と中小規模大学の理系研究者を対象に、大学等の研究成果の商業化に対する意識調査(アンケート調査)を実施し、理系研究者が自身の研究成果の商業化に対してどのような意識を持ち,何が商業化の制約になっているかを分析した。
著者
坂井 貴行 忽那 憲治 井内 健介
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2021-04-01

日本の産学連携組織(大学等の産学連携部門・TLOなどの技術移転機関)においては、成果・収入を経年的に向上させている優良組織とそうでない衰退組織の二極化の傾向がある。本研究では、大学・研究機関における産学連携組織の成功要因を精査するために衰退する要因に着目し「衰退しない要因」を導出する。インタビュー調査により、これまで積極的に取り上げてこられなかった衰退に関するデリケートな情報を体系的に収集し、組織に関する一次データを用いた質的比較分析を実施することで、大学・研究機関・TLO等の産学連携組織のガバナンスの在り方など、我が国の抱える大学・研究機関における産学連携組織の問題点を明らかにする。
著者
若曽根 健治
出版者
熊本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

「贖罪と刑罰」の問題は人類史上、社会と文化とに<埋め込まれた>存在である。この点では、他の諸問題と比べて、格段の重みを持っていた。「贖罪と刑罰」は種々の文化要素、宗教、呪術、法、経済、権力、裁判、習俗などと深く結びついていて、容易に分け難い存在であった。始原的には、「贖罪」は宗教、呪術と結びついており、非行によって生じた共同体の穢れを払い、神の(神神の)怒りを解くための、共同体内部的儀式として営まれていた。従って、いわば「内部的」刑罰-「国津罪」の系統に属していた。「贖罪」思想をこうした宗教的違反、軍事的違反、性的タブー違反の系列(穢れの思想)から解放したのは、ヨーロッパ中世初期(8-9世紀)において裁判権力者の、地域における「平和」維持の志向であった。この志向を背景になって、裁判不出頭者や判決不服従者にたいする「アハト」(追放)の刑罰(公的刑罰)が登場してきた。こうして「贖罪」観念はヨーロッパにおいてしだいに個人主義化し、世俗化する。非行者本人が謝罪をおこなったり、非行者の親族友人が放免を請願したりすることを契機に、裁判権力者は非行者を恩赦に付したり、巡礼行を課したりして、刑事司法の中に、新らしい意味の「贖罪」観念を導入していった。中世後期から近世初期の時代(14世紀から17世紀)には、糺問的職権的司法がしだいに広がっていくものの、いまだ当事者主義裁判が影響力を行使していた。糺問的職権的司法が制度的定着を見る以前の、刑事司法のきわめて流動的、混乱的時代に、当事者本人の「贖罪」思想を背後にした、殺人の和解やウァフェーデの誓約がある一定の役割を果たしえたのには、理由があった。
著者
中桐 昭 早乙女 梢 足立 陽子 杉本 直人 畑 秀和
出版者
鳥取大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

淡水域および汽水域の低酸素環境に適応した真菌類の取得を目指し、2段階低酸素分離法や低酸素釣菌法で菌を分離し、培養性状を調べた結果、分離株の多くは高酸素菌(好気性菌)であったが、少数ながら、低酸素菌や中酸素菌(微好気菌)も分離できた。さらに、嫌気~微好気~好気の各条件で生育が変わらない広範囲菌が分離され、これらは低酸素環境に適応して生息できる菌類と考えられた。水生菌類では、淡水域からはSigmoidea sp.、汽水域からはLulwoana spp.などが高または高~中酸素菌として見いだされた。これらは未記載種と考えられ、新たな低酸素分離法により、未知の菌が取得できた可能性がある。
著者
塚原 直樹
出版者
宇都宮大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

本研究では、「カラスがディストレスコールのどの音響的特徴を忌避するか?」を明らかにする。動物の声帯模写を得意とする演芸家の協力を得た鳴き真似などにより、ディストレスコールの音響的特徴を変化させた音声を用意し、カラスに聞かせ、忌避行動が誘発された音声とそれ以外を比較することで、忌避行動の誘発に重要な音響的特徴を炙り出す。本研究は、知能が高いとされるカラスの認知能力や、音声コミュニケーションに関する種を超えた普遍性に迫り、動物心理、行動生態、行動進化に関わる学術的価値の高い発見につながることが期待できる。また、カラス被害を防ぐ方策の開発に繋がり、応用研究と直結する社会的意義の高い研究課題である。
著者
榎原 博之
出版者
関西大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

近年、ディープラーニング(深層学習)が注目されており、様々な応用分野に利用されている。一方、組合せ最適化問題は応用範囲が広く、厳密解法だけでなく、近似解法、特にメタヒューリスティックスの研究が盛んである。本研究では、ユークリッド型組合せ最適化問題に対してディープラーニングを応用した近似解法を提案する。ランダムに生成した大量の問題例に対して最適解もしくは最良解を画像としてディープラーニングにより学習させ、出力として得られた画像データから評価値を算出する。学習により得られた評価値を従来の距離による評価値の代りにヒューリスティック解法に適用することにより、学習により得られた評価値の有効性を計算機実験により検証する。計算機実験の結果、提案手法は先行研究より優れた性能を示した。その成果は情報処理学会論文誌(Vol.60, No.2, pp.651-659, Feb. 2019)に掲載された。上記の手法は教師あり学習のため、大量の教師データが必要であり、大規模な問題例の教師データを大量に用意することは困難である。そこで、教師データを必要としない強化学習に注目して、報酬と学習方法を工夫し、計算機実験を行っている。この成果は、情報処理学会論文誌に投稿中である。さらに、学習方法を修正し、出力画像から各経路の評価値を算出するのでは無く、次に選ぶべき頂点座標を評価する手法を提案した。この手法は従来手法より解の局所的な点で優れていることを示した。この成果は、2019年11月にアメリカオレゴン州ポートランドで開催されたIEEE 31st International Conference on Tools with Artificial Intelligence (ICTAI)で発表している。
著者
相良 博典 知花 なおみ 沼尾 利郎 中島 宏和
出版者
獨協医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

肺サーファクタントは主に肺胞II型上皮細胞で合成、分泌される脂質・蛋白質複合体で肺胞被覆層を形成し肺胞表面の気相・液相界面の表面張力を低下させることにより呼気時における肺胞の虚脱を防いでいる。また、サーファクタント蛋白には感染防禦、免疫制御などの多彩な機能があ乱気管支喘息の本質的異常は、中枢部気管支粘膜における好酸球性炎症とそれに続発する気管支の機能障害と考えられてきたが、最近、多くの研究から、好酸球性炎症は末梢気道や肺胞領域でも起こっていることが明らかになってきた。この領域における炎症の存在は肺サーファクタントに影響を与える可能性があり、逆に、サーファクタントの異常が炎症反応に影響を及ぼすことも考えられる。今回、喘息における肺サーファクタントの異常の有無、肺サーファクタントが喘息病態に及ぼす影響、サーファクタントの合成・分泌細胞である肺胞II型上皮細胞の好酸球性炎症への閧与の有無を明らかにする目的で、以下の研究を行った。1.モルモット慢性喘息モデルにおける肺サーファクタントに関する研究、2.気管支喘息患者の肺サーファクタント関連蛋白に関する研究、3.好酸球のinterleukin(IL)-8に及ぼすSP-Aの影響についての研究、4.肺胞II型上皮細胞によるIL-16の産生に関する研究を行った。その結果として喘息肺では、その病態の強さに応じて肺サーファクタントの量的、質的、機能的異常が起こっている可能性があること、そのサーファクタント異常は、肺胞・末梢気道の開存性に影響を与えるばかりでなく、その領域の炎症反応をも修飾する可能性があることが示された。肺サーファクタントの正常化も、特に末梢気道優位型の喘息では治療目標の1つになる可能性がある事を示唆したものである。
著者
高田 仁 加藤 浩介 松橋 俊彦 中川 功一 松行 輝昌
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

科学技術商業化の類型として、実践的教育プログラムの有効性に着目する『教育モデル』を確立するために、その教育効果と商業化促進効果、満たすべき要件等を明らかにすることを試みた。その結果、プログラムをきっかけにステークホルダーへの働きかけと共感の獲得が商業化プロセスの前進に有効である可能性を見出した。また、プログラム受講者の教育効果を分析した結果、異なるバックグラウンドの受講者が受講を通じて活発な知識交換を行うことを明らかにした。以上から、科学技術商業化の『教育モデル』の概念化を試みたところ、Galison(1997)の提唱する「トレーディング・ゾーン」を援用して説明できる可能性を見出した。
著者
村田 浩平
出版者
九州東海大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

本研究は,1992年にコンケン大学と九州東海大学間で調印された学術交流協定に基づき,タイ国の環境保全型農業における生物的防除に関する研究を1999年から2001年の3年間に渡りタイ国東北地方において実施したものである.研究期間中,九州東海大学からのべ4名を派遣し,調査を実施すると共にコンケン大学からのべ4名を招聰し,九州東海大学において調査法に関する研修を実施した.タイ国では,環境保全型水田,野菜圃場における害虫および天敵相に関する調査と,穀物貯蔵庫におけるポストハーベスト害虫の被害状況に関する調査を実施し,以下の結果を得た.1.タイ国東北部の天水田における有力天敵の1つであるキクヅキコモリグモは,雨期に冠水する水田では個体数が少ないこと,コンケン周辺の灌慨地域に個体数が多いこと,個体数の増減に水管理が大きく影響を及ぼしていることを明らかにした.2.タイ国東北部の環境保全型水田における主要害虫相を明らかにすると共に,天敵相が多様であることを明らかにした.3.タイ国東北部におけるウンカ・ヨコバイに対する捕食寄生性天敵の寄生率は,概して低いが,地域差も見られることを明らかにした.4.トビイロウンカ寄生菌を同定し,天敵としての評価に関する実験を実施し,トビイロウンカ防除に有望な天敵であることを明らかにすると共に,簡便な培養法を開発した.5.ポストハーベスト害虫相に関する調査を実施し,タイ国東北部のコメの主要害虫による被害状況を明らかにすると共に,被害の原因として,農村部のコメの乾燥および仮集積所における貯穀害虫の侵入防止および防除が重要であることが明らかになった.
著者
門田 和雄 村松 浩幸
出版者
宮城教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

アメリカを中心とした諸外国で実践が広がりつつあるSTEM教育の取り組みに,3Dプリンタやレーザー加工機等のデジタル工作機械を活用したデジタルファブリケーションを取り入れて,日本の新学習指導要領の内容を踏まえた日本型STEM教育システムの開発を行った。先駆的に取り組んでいる台湾におけるSTEM教育の実地調査等を踏まえて,日本国内において3Dプリンタの教育利用に関する講習会やワークショップなどを行い,学校現場で実施可能な内容をまとめた。
著者
武藤 徳男
出版者
県立広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

ヒトモデルとなるビタミンC生合成不能ラット(ODS ラット)を用いて、脳内ビタミンC動態と神経細胞に対する作用を解析した。加齢・老化・酸化ストレス負荷を反映するビタミンC半欠乏群(潜在的ビタミンC欠乏群)では、血液や臓器中のビタミンC濃度は顕著に減少したが、脳内のビタミンC濃度は減少傾向のみであった。このことから脳内におけるビタミンC保持機構の存在が示唆された。またビタミンCは未分化神経細胞の神経分化を有意に促進し、また酸化障害に対しても防御効果を示した。以上のことから、ビタミンCは脳内に特異的に保持され、神経細胞の維持・再生に寄与する必須栄養成分であることが実証された。
著者
渡部 諭 澁谷 泰秀 吉村 治正
出版者
秋田県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究の目的は、社会情動的選択性から予想される要因を含めて、高齢者のネットワーク形成に影響を与える要因の分析である。未来展望・QOL・自己効力・関係の満足度・関係に要する時間・関係の類似性・持続期間・サポートのバランス・サポートの種類・紐帯の強度等に関する調査を高齢者275名に対して行いREGM分析を行った結果、関係の持続時間と関係の満足度が大きな要因であることが明らかになった。
著者
高橋 文治
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

一九六七年、上海市郊外嘉定県の明代墳墓から、成化年間(一四六五-八七)の刊行にかかる一二冊の版本が発見された。それら一二冊は墓主の枕元に積んであったといい、一一冊は「説唱詞話」と呼ばれる唱導文学の通俗的な読み物、残る一冊は『白兔記』という演劇の台本であった。本研究は、この『白兎記』について、校本を作成し、それに訳註を付すことを目的とした。『白兔記』は、五代後漢の高祖劉知遠とその妻李三娘、息子咬臍郎の生き別れと再会を描く演劇であり、古くから四大南戯の一つに数えられてきた、初期の戯文の代表作である。劉知遠と李三娘、咬臍郎の悲歓離合は恐らく歴史事実ではなく、劉知遠の祖先の沙陀突厥が佛教とともに中国にもたらした物語原型に歴史上の劉知遠が当てはめられたものであろう。この物語は、まず金朝時代に『劉知遠諸宮調』という作品を生み出し、次の元朝期には『新編五代史平話』と元雜劇「李三娘麻地捧印」(佚)を生んだ。この「李三娘麻地捧印」はやがて南に渡り、同じく元朝期に、中國南方系の演劇形態に改編され、いわゆる「南戯」へと姿を変えたのである。こうして生まれたのが恐らく南戯『白兔記』であった。『白兔記』の版本として従来知られていたのは、毛晉の汲古閣が刊行した六十種曲本と、金陵唐氏が萬暦年間に刊行した富春堂本の二種があった。成化本『白兎記』が発見されることによって、成化本と汲本・富春堂本がいかなる関係かあきらかになった。また、成化本『白兎記』は南戯の比較的古いテキストに属するばかりではない、実は今日知られる最古の版本でもあった。成化本『白兔記』は單に『白兔記』の演變を考える上で重要なのではない、南戯そのものの發生や展開、初期の形態・臺本を知る、中國演劇史に不可欠の資料であり、また、白話文學史、白話史、書誌學の各分野にも不可欠の資料である。この成化本『白兎記』に、本研究は今日望みうる最高の注釈とを施し、校本・訳・註をまとめた「成化本『白兎記』の研究」が汲古書院から2006年に上梓される。
著者
西村 勉 大寺 祥佑 田辺 健一郎 中谷 英仁
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2020-04-01

ビッグデータの時代に入り、ビッグデータの構築・解析による成果を実社会へ還元することが課題となっている。台湾では、医療保険データが標準化され、一元的に管理されており、そのデータを用い、台湾の中国医薬大学では、7年間で1,000本以上の論文を出版し、実社会に大きなインパクトを与えつつある。日本においてもレセプト情報・特定健診等情報データベースが構築されている。本研究では、台湾及び日本の医療保険データを中心とするビッグデータを用い、宇宙要因、気象要因、大気要因とヒトの疾患の発症との関連性を検証し、自殺及び関連イベント、虚血性心疾患、及び脳血管疾患の発症予測モデルを構築する。
著者
河野 由美
出版者
自治医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

低出生体重児では注意欠如多動症(ADHD)や自閉スペクトラム症 (ASD)などの発達障害に類似した特異的な行動発達を高率に認めるといわれる。その原因はいまだ不明だが、子宮内、新生児期の高度なストレスによるエピジェネティクスの関与も疑われる。ストレス反応には、ヒトGR 遺伝子(NR3C1)のほかに、コルチゾール不活化酵素である11β- hydroxysteroid dehydrogenase 2遺伝子(11βHSD2) 、セロトニントランスポーター遺伝子(SLC6A4)などが関与していることが知られている。本研究では、この3つのストレス反応関連遺伝子のメチル化解析を行うことを目的とした。2019年度では前年度に引き続き、1) 研究機関で運用している「NICU入院児の検体保存バンク」の試料を用いて前出遺伝子のメチル化解析を行うこと、2)妊娠経過、在胎期間、出生体重の周産期情報、NICU入院期間中にみられる合併症、治療についての臨床情報を用いることについて、対象の選択と同意取得を行った。新たに「NICU入院児の検体保存バンク」での試料保存している12名から同意を得た。昨年度分とあわせて18名25検体からDNAを抽出した。先行文献からセロトニントランスポーター遺伝子(SLC6A4)の解析領域候補として5'UTR領域の20CpGのメチル化率を測定することとした。先行研究で解析したヒトGR 遺伝子(NR3C1) プロモーター領域の15CpG サイトとあわせて、現在第1回目のメチル化解析をバイサルファイトシークエンスにより行っている。また対象となる18名の周産期・新生児情報を後方視的に診療録から取得し、昨年度作成したデータベースに情報を追加した。
著者
高原 健爾 前川 孝司
出版者
福岡工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

2019年度は,反応モデルの構築で大きな進展が得られた。粒子1つのミクロ的な反応のシミュレーションのモデル基盤が構築できた。具体的には,アコースティック・エミッション(以降AE)法により,亀裂が生じた際に発生する弾性波であるAEを水素発生時に測定することができた。その結果に基づいて,水素発生のファクターと考えられるき裂進展のシミュレーションモデルを構築した。実験では,あまり実績が得られなかった。これまでに設計した水素発生制御のファジィルールをさらに検討し,100[W]の燃料電池では,より精度良く水素発生を制御できるようになったものの,実験者の操作ミスにより発生装置の接続部等に変形・亀裂が生じ,一時的に充分な実験を行えない状況になった。一方,1[kW]燃料電池では,水素漏れが発生し,修理に時間がかかった。修理後に実験を行った。その結果,一部に改善が見られたものの,水素発生容器内の圧力が高いにも関わらず,燃料電池の出力が800[W]程度でダウンしてしまうという状況が続いている。大きな出力が得られないので,システムの検証実験が十分に行えないでいる。原因の一つとして,水素発生を増加させるために,送水量を増やすことでタンク内の温度低下が起こり,一時的に水素発生が抑制されることが確認できており,送水温度を上昇させるための方策を検討した。また,自動制御だけでなく,手動で水素発生の調節を行えるようにしており,余計な電力を使うことなく水素発生できるように改造した。
著者
上條 祐司 青山 俊文
出版者
信州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

本研究は、腎障害動物モデルに PPARαアゴニストを投与することで、糸球体および尿細管保護効果を示すか検討し、ヒトへの臨床応用の前段階としての有益な基礎情報を得ることを目的とした。2011 年に腎内 PPARαの活性化が蛋白尿による尿細管毒性を抑制できること、2012 年には、ラット Thy1 腎炎において腎内 PPARα活性化により糸球体腎炎の病勢が抑制されることを発表した。これらの研究成果から、 PPARα活性化は腎細胞保護に有益であることが示唆された。
著者
大田 典之 藤野 裕士 後藤 幸子
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

免疫細胞に対する代表的な鎮静薬であるベンゾジアゼピン系薬物の影響を解析する過程でヒトとマウスの細胞に対する影響を評価した。ヒトのマクロファージの細胞株であるTHP-1とマウスの単球マクロファージ細胞株であるRAW264用いた解析を進めた。ベンゾジアゼピンの代表として水溶性の鎮静薬であるミダゾラムを用いた。ミダゾラムはLPSによってTHP-1, RAW264に生じる炎症性サイトカインの分泌と副刺激分子の発現が抑制された。ミダゾラムの作用分子であるGABA受容体ともう一つの作用分子であるTSPOの関与を解析した。TSPOの分子を欠損させた細胞株を作成してTSPOの関与を分子レベルで明らかになった
著者
松元 賢
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

我が国の食用アスパラガス病害の90%以上は植物病原菌による病害で、中でも、アスパラガス茎枯病は一旦罹病するとその根絶は極めて困難であるにも関わらず、食用アスパラガス種内には病気に強い品種が見つかっていない。アスパラガスでは耐病性品種の育成が強く望まれているが、本植物は多年生で交雑しにくく、品種育成には多大な年数がかかり、かつ、アスパラガス品種内には耐病性形質が存在しないなど、耐病性品種育種のハードルは極めて高い。申請者らの研究チームは、日本産アスパラガス植物の一種であるハマタマボウキと食用アスパラガスとの交雑種が、茎枯病に耐性があることを世界で初めて明らかにした。研究対象となるハマタマボウキは、日本固有種の一種で九州北部沿岸のみに自生する希少種であるため、生息域は限定的で非常に狭く、本植物の病害記載が存在しないことから、病害に強い植物であると認識されていた。しかし、近年の現地調査と昨年度の病害調査から、罹病化したハマタマボウキを発見しており、複数種の植物病原菌類によって複合的に感染している背景を明らかにした。これらの結論は、従来のハマタマボウキがもっている病気に強いという認識を覆すことを示唆した。同様に、ハマタマボウキ自生地近隣は、九州の食用アスパラガスの大生産地であることから、アスパラガス属植物間の相互感染による新規病害の発生や病害の進展化、希少種の生息域の減少が懸念される。さらに、ハマタマボウキの持つ耐病性のポテンシャルから、育種研究を目的とした乱獲や国外への流出が耐病性品種の育種の障害となる可能性が示唆される。そこで、本年度は、ハマタマボウキの植物病原菌によって発生する病害の生物的防除を目的に、ハマタマボウキの根圏に生息する微生物を分離し、根圏微生物の拮抗性を利用した生物的防除の可能性について検討した。