著者
松田 兼一 平澤 博之 織田 成人 仲村 将高
出版者
山梨大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

液体換気(liquid ventilation,LV)とは特殊な液体であるフルオロカーボンを酸素ガスの代わりに人工呼吸に用いる全く新しい人工呼吸法である.液体を用いて人工呼吸することによって肺洗浄効果及び虚脱肺拡張効果が期待され,重症呼吸不全の肺酸素化能を改善することができる.一方,液体を用いることから,施行中の人工呼吸器の操作条件が呼吸生理に与える影響はガス呼吸とは異なる可能性がある.そこで今回LVを有効かつ安全に施行するための基礎的検討を行った.まず.成熟ラットを用い,従来の酸素ガスを用いた従量式人工呼吸管理を小動物用人工呼吸器を用いて行った.これをコントロール(GasV群)とした.GasV施行中,操作条件を種々変更し,各操作条件に対する血行動態,血液ガス分析値の変化を検討した.次に,フルオロカーボンをラットの肺内にあらかじめ注入した後,従来の酸素ガスを用いた従量式人工呼吸管理(LV)を行った.これをLV群とした.GasV及びLV施行中,操作条件を種々変更し,各操作条件に対する血行動態,血液ガス分析値の変化を検討した.次に,先のデータを用いて,分時換気量(MV)と呼吸回数(RR)および吸気呼気時間比(I:E)を種々変化させたときのGasVとLVにおけるPaCO2,PaO2の変化の違いを検討した.操作条件の影響はGasV群に比しLV群では大きく,その影響はMVが低い場合により顕著となった.このことよりLVにおける人工呼吸器の操作条件に対するPaO2,PaCO2の変化はGasVとは全く異なるため,LVを安全かつ有効に施行するためにはPaO2,PaCO2をモニタリングしながら操作条件を決定する必要があると結論された.今後はFIO2などの操作条件を変更させ,さらに検討する予定である.
著者
山田 剛史 村井 潤一郎 杉澤 武俊 寺尾 敦
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究の目的は,心理統計担当教員間で共有できるテスト問題の項目データベースの開発を行うことであった。具体的な成果は,(1)これまでの研究成果(基盤研究(C)課題番号:17530478)を発展させ改良を加えた,心理統計テスト項目データベースの開発,(2)データベースのユーザビリティについて,全国の心理統計の講義を担当する大学教員を対象にした試験的運用,基礎データの収集を計画した,といったことをあげることができる。
著者
五十嵐 理慧 武永 美津子 中山 利明
出版者
聖マリアンナ医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

臨床応用可能な神経系DDS製剤の開発を目ざして脳神経細胞由来神経栄養因子(brain derived neurotrophic factor, BDNF)とレシチン誘導体を結合したレシチン化BDNF(PCBDNF)を合成し検討した。まずBDNFの薬理活性が報告されているC57BL/KSJ-db/dbマウスにおける摂食抑制効果、血中グルコース抑制効果、体重増加抑制効果で検討した結果、PCBDNFはBDNFそのものに比較して著明な薬理効果の増強が見られた。用量で比較するとPCBDNFはBDNFそのものより20倍も活性が増強していることが示唆された。その薬理効果増強の機序が何に起因するのかを検討したところ血中半減期の長さに起因するのではなくPCBDNFの高い細胞親和性によることが示唆された。またIn vivoでの検討により中枢神経系への集積性が高くなっていることが観察され血液脳関門(BBB)の通過性が高くなっていることが示唆された。さらに神経系細胞であるPC-pAB1細胞を用いて活性化MAPKをウエスタンブロッティングで追いかけたところPCBDNF添加PC-pAB1細胞は持続的なMAPK活性化を示し、レシチン化によってBDNFに新たな機能が付加されていることが示唆された。持続的なMAPK活性化は細胞を分化の方向に誘導するとされており、これらが薬理効果の増強と大きな関係を持つと考えている。また最適レシチン導入数の同定のために有機合成したPCBDNFについて結合部位と結合数を分析したところ、結合部位は平均的に導入され、平均導入数はBDNF一分子あたりおおよそ3分子のレシチン誘導体が結合していることが判明した。
著者
伊藤 元己
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

花の形態形成遺伝子を解析した成果として、ABCモデルと呼ばれる花の形態形成モデルが提唱され、広く受け入れられている。その後の研究で、特殊な花の形態をしているイネ科の植物にもABCモデルが成り立つことが示され、今では、ほとんどの被子植物にほぼ当てはめることができると言われている。ドクダミの花は3本の雄しべと3枚の合成心皮からなり花被をもたない。しかし、総苞片と呼ばれる花序の基部に白く大きな花弁状の形態をもつ器官がある。これは、花序の最下部につく苞葉が変化したものといわれている。今回、特にこの総苞片の形態形成にABCモデルで示されるような花弁形成のメカニズムが関与しているのか、それとも独自の進化の過程で獲得した異なるメカニズムで形態形成がなされているのかを調べることに焦点を当てた。そこで、ドクダミより花器官の形態形成に関与すると思われるMADS-box遺伝子を単離し、遺伝子系統樹を構築し各遺伝子の相同性の検討を行なった。また、定量的RT-PCRやin site hybridizationにより各遺伝子の発現を調べた。その結果、ドクダミの総苞片でAP1グループ、PIグループ、AP3グループ、SEPグループに属する遺伝子の発現が確認された。これらの遺伝子発現の組み合わせは、シロイヌナズナにおいて花弁の器官決定を行なうのに必要十分なものであることが明らかになっている。ドクダミの花弁状の器官でこれと同様の発現様式を示したことは、形態学上、花弁とは異なる総苞片の形態形成において、花弁形成同様のメカニズムが働いている可能性を示唆するものである。
著者
栗林 均
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究では、清朝の公用語であったモンゴル文語について、官製の満洲語辞典(清文鑑)、官製史書、および档案(政府公文書)等の「官用」モンゴル文語文献資料の言語的特徴を明らかにした。これに基づき、17世紀以降のモンゴル文語を、木版刷の仏教経典に用いられた「古典式」モンゴル文語と、規範からはずれる「世俗的」文献に分ける従来の捉え方に対して、「官用」のジャンルを加えて「近世モンゴル文語」という枠組みで捉え直した。研究の基礎資料として作成した各種「清文鑑」と官製史書を含むモンゴル文語のデータベースに基づき、テキストデータと原本の画像データをリンクさせた資料検索システムを構築してインターネットで公開した。
著者
小田部 夏子 原田 浩司
出版者
国際医療福祉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

書きの困難さの背景には、運動覚性記憶能力や文字の中にまとまりを見つける能力に問題があるのではないかと考え、それを確かめること、さらに運動覚性記憶に問題がある場合は運動感覚に問題がないかを確認することを目的とした。運動覚性記憶は運動覚性書字再生、音読課題で測り、文字の中にまとまりを見つける能力はまとまりを見つける課題を作成し、読み書き困難児と定形発達児に実施し比較した。運動感覚は手の関節位置覚を再現法にて評価し、先行研究で得られた値と比較した。その結果、読み書き困難児に運動覚性記憶の形成に問題がある者が多く運動感覚が不良であること、まとまりを見つける能力が書きに影響していることが示唆された。
著者
田口 雄一郎 服部 新 栗原 将人 斎藤 毅 玉川 安騎男 安田 正大 平之 内俊郎
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

ガロア表現のモジュライ空間の構成やその性質について研究し、幾つかの基本的な成果を得た。また、これに関連して、ガロア表現についての幾つかの結果を得た。即ち、(1)かなり一般の完備離散附値体のガロア表現のガロア固定部分空間の消滅定理(今井の定理の一般化)とその岩澤理論への応用、(2)ガロア表現の合同に関する結果とその Rasmussen-玉川型の非存在定理への応用、(3)代数体の幾何学的なガロア表現のヘッケ体が、多くの(例えば或る場合には密度1の)有限素点について、そのフロベニウスの跡で生成される事の証明、(4)ガロア表現の像のザリスキー閉包の連結成分の個数の上からの評価、等を得た。
著者
原田 浩二 小泉 昭夫 皆田 睦子
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

環境汚染物質ペルフルオロオクタン酸(PFOA)はヒト体内に蓄積しやすい。成人の血清中濃度はPFOAより炭素鎖の長い化合物が急速な増加が認められた。動態パラメータを算出し、一般集団での曝露量を与えて、血中濃度シミュレーションを行った。動物実験ではリン脂質輸送分子MDR2の発現量とPFOA胆汁濃度が相関する。MDR1欠損マウスでは腎臓からのPFOA排出量が低下し、MDR1分子がPFOAの排出に関与することを示した。マイクロアレイの結果MDR1が誘導されていることが分かった。
著者
関塚 剛史
出版者
国立感染症研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

腸管内バクテリオファージを効率的且つ簡便に回収する方法を考案し、新規バクテリオファージのゲノム配列を確定した。抗菌薬多剤併用療法を実施した潰瘍性大腸炎患者の治療前後の腸内細菌叢解析をメタゲノム解析により行い、抗菌薬多剤併用療法開始前の活動期に多く存在する細菌種、及び、治療後の寛解期で多く存在する細菌種が確認された。更に、phageome解析を行ったが、各患者で多様なパターンを示し、治療前後での共通性は認められなかった。しかし、個人の治療前後でのファージ組成は大きく変化していた。回収したファージを用いた細菌叢への感染実験を行ったが、供与したファージの増加は認められなかった
著者
長谷川 博史
出版者
島根大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究は、中世の山陰地域の流通構造について、西日本海水運との連関性を追究することによって、明らかにした。たとえば、富田城下町は、戦国大名尼子氏の拡大によって、16世紀前半に急速に発展し、鉄の加工を通して内陸部と海を結びつけた。また、杵築門前町は、16世紀後半に、石見銀山の開発の影響を受けて急速に発展し、鉄の積み出し港としても重要な役割を果たしたので、内陸部と海を一層強く結びつけた。
著者
中川 成美
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究は1990年代に新たな分析理論として出発したクィア理論を、日本文学研究の上に照らしだし、新たな批評理論の可能性と実践を、国際的な共同研究のもとに実施したものである。クィアネス(クィア性)を作品批評の一つの軸と設定することによって、文学批評の地平は大きく変化していく。本研究で開催したワークショップや講演会、シンポジウムはその一面を拓いていったものと考える。特に1)ジェンダー配置の不等性2)災禍と女性配置3)クィア理論と情動理論の融合、についての、新しい知見を得たことが主たる成果である。
著者
阪口 正二郎
出版者
一橋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究は、憲法上の権利を制約する政府の行為の合憲性を判断する基準としてのヨーロッパの比例原則とアメリカの違憲審査基準の比較を行い、①両者の違いはアメリカの違憲審査基準の特殊な歴史的起源から説明できること、②両者はともに規制の合憲性を憲法上の権利と政府の利益の衡量によって判断する利益衡量という考え方を共有していること、③政府の行為の帰結に着目する利益衡量という手法を政府の行為理由に注目する方法によって補完する必要があり、それは実際に可能であることを明らかにした。
著者
川崎 修 神長 百合子 中村 敏子 岡 克彦 町村 匡子 林田 清明
出版者
立教大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

フェミニズムを「現代市民社会論」の一環としてとらえ直すことを通じて、女性や家族をめぐる様々な問題を検討し、同時にポスト近代における新たな政治のあり方について研究を進めた。具体的には、以下の三つの観点から共同研究およびそれらの統合を行った。<1 基礎的研究>昨年度に続き、法学・政治学・現代正義論・政治思想史・法思想史・文学の各分野において,女性がどのように位置づけられてきたかを検討した。そこでは、多くの分野において女性をめぐる様々な問題が充分に検討されずに、理論的にも死角となってきていたことが明らかになった。この死角を埋めるべく、市民論・権利論などの視角から、女性や家族をめぐる問題を法や政治に取り込むためことを目指して研究を進めた。その過程で、女性や家族をめぐる諸問題は、それ自体として検討することは言うまでもなく、国際化と多文化主義の流れのなかで他のマイノリティーがかかえる問題とも関連させた上で、理論化すべきであることが強く意識されるに至った。<2 応用的研究>女性の政治参加のあり方・社会保障制度における女性の位置・差別と女性の問題・韓国の婚姻制度における諸問題・多文化主義と国家の中立性などの観点から、具体的な問題をとりあげ、既存の制度がかかえる問題点を明らかにするとともに、現代により相応しい制度のあり方の設計をも射程に入れた研究を行った。その過程で、個別の制度の検討・評価だけではなく、国際比較や比較法的研究や、例えば社会保障制度と民事的な扶養責任の関係などこれまで別の領域と見なされてきた問題・制度の間での比較・検討など、より多角的な研究が必要であることが痛感された。<3 研究の統合>今年度は,助成額が少額であったため、札幌・東京・名古屋を相互に訪問するなどの研究交流や、研究代表者・研究分担者が一堂に会しての研究会等は行えなかった。従って、情報の交換・各自の研究の統合は専らインターネット等を介してのものとなった。
著者
水野 啓
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

東アフリカで近年生産が拡大しているバニラについて,タンザニア北西部をはじめとする研究地域において(1)栽培環境条件の把握と栽培適性評価,(2)作物導入に伴う資源利用形態の変化と農家経済への影響,(3)作物の流通実態および普及政策の効果を明らかにすることで,各地域におけるバニラ導入・普及過程の特徴とその効果・影響を多面的に評価するとともに,農村開発における新規作物導入の課題と展望を考察した。
著者
森田 都紀
出版者
京都造形芸術大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

昨年度までの史料調査をふまえ、今年度は、主に一噌流宗家伝来の史料から重要と思われるものの解析を進めた。具体的には、『一噌流笛秘伝書』(早稲田大学演劇博物館蔵)、『矢野一宇聞書』(早稲田大学図書館蔵)、『笛の事』(法政大学鴻山文庫蔵)、『一噌流笛唱歌付』(早稲田大学演劇博物館蔵)、『貞享三年符』(早稲田大学演劇博物館蔵)、『順勝院噌善手記』(早稲田大学演劇博物館蔵)、『能学(ママ)秘伝書』(早稲田大学中央図書館蔵)、『寛政三年平政香笛唱歌』(法政大学鴻山文庫蔵)などをはじめとする、初世から八世までの代々の宗家の影響下にて成立した諸史料である。役者個人の忘備録として記されたものと、子孫や弟子に伝承するために記されたものとがあり、史料により性格は異なっている。またその内容も、由緒や芸談を記すものから、唱歌付や頭付等の演奏を記した楽譜の類まで幅広い。そこで、研究対象史料の性格を明らかにするために、史料の基本事項のデータベース入力を進めた。また、それと平行して、由緒や芸談等に記された記事の内容と、唱歌付や頭付を読み解くことで明らかになった演奏実態とを照合し、両者の記述を相互補完する形で演奏技法の具体相を総合的に検証しようとした。以上により、流儀としての演奏技法が成立する道筋の一端を窺えたが、一方で、史料数に制約があることと、伝書によっては記述が断片的であることなどによって、歴史的変化を体系的に考察できず、まとまった成果につながらなかった。
著者
野津 寛 納富 信留 吉川 斉 葛西 康徳
出版者
信州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2020-04-01

近現代日本における古代ギリシア演劇研究および受容の諸相を追究し、古代ギリシア演劇研究および受容・上演が将来進むべき方向性を示唆するため、私たちの基盤研究(基盤C 17K02590)を発展的に継承する。(1)近現代日本における古代ギリシア演劇の受容の実態調査。(2)わが国の古代ギリシア悲劇の受容と上演の活動全体が、能など日本固有の伝統演劇の諸要素の積極的活用の有無という根本的な選択の相違によって、受容の2大類型に分類できることを明らかにする。(3)西洋人による古代ギリシア悲劇と能の比較研究について、宗教学的・人類学的な比較対照研究の伝統という観点から日本における研究・受容の在り方を問う。
著者
宮田 淳 酒井 雄希 河内山 隆紀
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

妄想すなわち誤った信念の形成には「結論への飛躍バイアス」と呼ばれる認知的バイアスが関わり、これは健常者にみられる「保守性バイアス」の裏返しと推定されるが、その神経基盤はよく分かっていない。本研究では、妄想の形成機序およびその神経基盤を、認知的バイアス課題および構造的・機能的な脳領域間結合解析を用いて解明することを目指した。結果、健常者における脳白質の統合性(構造的結合性)と保守性バイアスが正の相関を示した。また統合失調症において、脳の機能的結合性と結論への飛躍バイアスとが負の相関を示した。これらの結果により、妄想に関わる認知的バイアスの神経基盤が明らかとなった。