著者
神橋 一彦
出版者
立教大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2021-04-01

国や地方公共団体の設置する公共施設は、日常社会における私人の表現や集会の場として重要な存在となっている。もっとも、そのような公共施設の使用をめぐっては、単なる施設管理にとどまらない、当該施設において行われる表現・集会の内容や事実上の波及効果などをめぐって、使用不許可などの規制がどこまで許容されるかといった法的問題が生じ、現に紛争も起きているところである。本研究は、かかる問題を検討するにあたっては、行政法における公物法・営造物法と憲法における人権論との間の理論的架橋が必要であるとの認識の下、比較法的な研究をも踏まえ、この両法分野を総合した統一的な公共施設法の構築を試みるものである。
著者
瀬山 淳一郎
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

人工物(画像)の写実性(本物らしさ)が人間の判断に影響を与えうることはよく知られており、そのような影響に言及した仮説に「不気味の谷」がある。この仮説は、高い写実性を持つロボットや人形が、観察者に不快感を与えるであろうと主張している。本研究では不気味の谷の検討を出発点として、より広い意味での写実性判断に関わる心的プロセスの解明を目指した。心理実験の結果、写実性の判断のために視覚系が利用している情報は、「本物らしさ」よりもむしろ「作りものらしさ」であることを示すデータが得られた。
著者
冨樫 剛
出版者
フェリス女学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

Carpe diem(今日の花を摘もう=今という時間を楽しもう)という古代ローマ以来の思想・文学的主題が16-17世紀のイギリスにおいて受容され、流行した際の政治・社会的背景を明らかにした。その背景とは、宗教改革以降英語聖書・祈祷書の広まりとともに厳格化したキリスト教信仰、カルヴァンらの予定神学とともに広まった来世に対する関心や不安、ローマ・カトリック教会を悪と見なす黙示録的終末論であり、またこれらを手段としてなされた社会論争・闘争であった。詩人たちは、来世でなく現世の、正しさではなく楽しみの重要性を説くべく、カルペ・ディエム詩を書いたのである。
著者
柳 長門 本島 厳 高山 彰優
出版者
核融合科学研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

磁場閉じ込め方式核融合炉の燃料供給のために、高温超伝導リニアカタパルトを用いた革新的なペレット射出方式を提案している。これは、真空チューブ中に敷設した永久磁石のレール上で高温超伝導薄膜を用いた超小型の「磁気浮上列車」を電磁加速し、最終的に10 km/sの射出速度を得ることをターゲットとしているものである。本課題は、その原理実証を行う研究である。これまでに、電磁加速を行うための電磁石コイルについて製作・改良を行うとともに、スイッチング回路も製作・改良して、超伝導磁気浮上列車の連続的電磁加速が安定に行えるようになった。現状、列車の浮上と加速にはREBCO系高温超伝導バルク材を用い、電磁石コイルは直径100 mm、長さ120 mmのアルミニウム製ボビンに直径1 mmの銅線を各1000ターンずつ巻いたものを合計8個製作した。直流電源から接続したIGBT半導体素子を用いた高速スイッチング回路の構築と改良を行い、レーザ・光センサとマイコンを用いた自動制御システムが完成した。これらを用いて、円形レールにおいて、長時間の連続加速が行えるようになった。一方、将来のシステムについての検討を並行して進めた結果、数百m/sに至る高速走行を実現できた際は現在の制御システムでは原理的に応答が追い付かなくなることが判明した。そこで、当初の目標とした磁場閉じ込め核融合炉のための超高速燃料ペレットの供給ではなく、慣性核融合炉のための比較的低速の燃料ペレットの供給に対して有望となるよう、速度の最終目標は100 m/s程度とするも、高精度の速度制御をめざすことに方針転換した。一方、高温超伝導薄膜に誘起される電流と磁場の空間分布に関する数値計算を進め、特に、複数の電磁石を用いた場合の連続加速が扱えるようになった。併せて、高温超伝導バルク材に誘起される遮蔽電流と電磁加速の関係も定量的に明確となった。
著者
河野 稔明
出版者
国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2020-04-01

精神保健福祉法に基づき警察官などから通報された事例について、通報への対応や通報対象者への事後支援の振り返りと方針の検討を定期的に行っている、一政令指定都市の取り組みをベースにした研究である。記録の分析と取り扱う情報の検証を踏まえて、通報事例データベースの構築を目指す。これを活用することで、地域で精神保健の支援ニーズを抱えた人々に、自治体がより適切な支援を届けることが可能になると期待される。
著者
花村 克悟 西野 近
出版者
岐阜大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

本研究は多孔質体内部の超断熱燃焼を用いてメタンを水素に変換する直接改質(部分酸化改質)についてその反応特性を理論的及び実験的に明らかにすることを目的としている。メタンと空気と水蒸気の混合気は周期的に流動方向を反転させながら、多孔質体内部に供給される。これにより混合気は多孔質体を通過する間に予熱される。一方中央部に設置されたNi系多孔質触媒内部で反応を終えた生成ガスが多孔質体出口に達する前にその顕熱は多孔質体に蓄熱される。そして、流動方向が反転するとこの蓄熱された熱エネルギーは混合気の予熱に供される。このエネルギー循環によって、火災最高温度が理論燃焼温度(断熱燃焼温度)を上回り、燃料過濃可燃限界を超える当量比約5まで可燃限界が拡張された。この時、供給されたメタンの約90%が水素へと転化され、生成ガス中には40%以上の水素が含まれることが明らかとなった。さらに、系全体のエネルギーバランスから、燃焼反応熱の約90%が改質反応熱に費やされることがわかった。さらに、反応処理速度を表す空間速度(SV値)が2600/hと従来の管式加熱炉に比べて5倍以上となることから、極めて効果的に水素が生成されることが明らかとなった。
著者
花村 克悟
出版者
岐阜大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

本研究は、高分子における赤外線の吸収過程および熱への緩和過程を、赤外域に拡張された温度変調分光法を用いて光学的に把握することを目的としている。水冷された銅の研磨表面に厚さ1μmのポリスチレン薄膜を付着させる。この表面にパルス状のCO_2レーザー光(波長10.6μm)を照射し、加熱すく。このパルス光は、シンクロナスモーターに取り付けられた、可変スリットを有する歯車により得られる。パルス幅は2μs、パルス間隔は14μsである。この周期で、ポリスチレン薄膜は加熱・冷却を繰り返す。これに連動して、同じ歯車でパルス光となったHe-Neレーザー光(波長3.39μm)が同じ加熱面に照射される。この反射光強度が検出器により測定される。この時、歯車に垂直に入射するCO_2レーザー光をその接線方向へ平行移動させることで、2つのパルス光の時間遅れが設定できる。この時間遅れを300ナノ秒毎にパルス間隔時間(1周期間)まで変化させた実験の結果、ある特定の時間遅れにおいてのみ反射光強度が高くなった。この立ち上がりから、完全に初期の値まで戻る時間はおよそ2μsであり、この近傍で2つのパルス光が同調していることがわかった。すなわち、温度変調分光法が赤外域においても利用できることが明らかとなった。さらに、パルス光の時間遅れに関する時間分解能は3×10^<-7>秒であり、数百ナノ秒オーダーの加熱過程が光学的に検出できることを明らかにした。なお、CO_2レーザーの振動数はポリスチレン内のベンゼン環にあるC=C-Hの面外変角振動に近い振動数であり、He-Neレーザーの振動数は2つのベンゼン環の間にあるH-C-Hの伸縮振動に一致している。本実験の時間遅れに関する時間分解能は振動の緩和時間10^<-9>〜10^<-7>秒オーダーに極めて近いことから、本実験においてレーザー光吸収後の熱への緩和過程が捉えられる可能性が示唆された。
著者
長沼 洋一 長沼 葉月 名城 健二 牧野 晶哲 米村 美奈
出版者
東海大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究では、障害学生修学支援も含めたキャンパスソーシャルワーカー(以下CSW)の活用実態を明らかにすると共に、管理者の効果評価とCSW自身の活動評価を組み合わせ、実践の評価を行うことを目的とした。CSWの配置は3年前と比べてほぼ倍増していたが障害学生修学支援コーディネーターへの有資格者の活用はまだ少なかった。CSWはプランニングやモニタリング、個別支援に業務時間を割いている時には管理者の高い効果を得ていた。また学外機関との連携に積極的なCSWは管理者から多くの側面で効果を評価されていた。
著者
若曽根 健治
出版者
熊本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

ドイツ中世後期の騎士および市民のフェーデには同時代人の「はげしい情感」(ホイジンガ)の動きがあった。これは「名誉に敏感で傷つき」易いことと、表裏の関係にあった。暴力現象の背後には、名誉に拘泥し、身分に拘る、騎士や市民の繊細さが潜んでいた。他方で、フェーデには他の様々の問題が絡む。フェーデの考察は、中世ヨーロッパに関する1つの総合史的考察とならざるをえない。このことは、フェーデの1つの担い手であった都市ひとつをとってみても、よくわかる。都市を周域と切り離して隔離的に取り上げることは、できないのである。関係的状況の考察をもっと押し進めていかねばならない。日本中世との比較法社会史的考察も、中世ヨーロッパの法的制度の特質を浮き彫りにする。比較史的考察の必要性は今後高まろう。その場合類似だけに注目するのでなく、むしろ相違に目を向ける必要がある。これによって、本当の意味で類似性にも理解がいく。フェーデの現象には、蓄積された富に与かろうとする、騎士の志向が働いていた。この志向は、フェーデによって権利を主張し、暴力を正当化しようとしたところからわかる。他方で、騎士による権利主張の理由や正当化の根拠については、史料からは見えにくい。このことは、騎士の権利主張や権利正当化には、必ずしも十分な理由・根拠がなかったことを思わせる。市民には、富の形成・蓄積について実績があったが、騎士にはこれがない。じつは、このことを、誰よりも騎士自身がよく知っていたのではなかろうか。時代と共に、フェーデによって富の蓄積に関与しようとすることが、もはや意味をなさなくなる。このことに騎士は気づくのではないか。これは、上級権力者--領邦君主--によるフェーデ権の集中化・独占化と表裏の関係にある。時代は、こうして1つの変化を見せるのである。
著者
山下 高明
出版者
鹿児島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

眼球形状は顔形と同じように個人差があり、身長と同様に成長期に大きくなる。大きな眼球は近視になり、小さな眼球は遠視となる。今回の研究では、栄養状態の良い児ほど、眼球が大きくなることが判明した。このことから、日本における近視増加の一因が、栄養状態の改善により身長とともに眼球も大きくなったことであることが裏付けられた。さらに眼球の形状にはパターンがいくつか存在し、緑内障、黄斑円孔などの眼疾患の発症・診断に影響することがわかっているが、小学生の時点ですでに眼球形状のパターンは決定していることも判明した。
著者
山西 倫太郎 板東 紀子 木本 真順美
出版者
徳島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

我々は、これまでにマウスに高ビタミンEとともにβ-カロテンを摂取させた場合には、抗原斐与により誘導されるIgE抗体の産生が低下し、そして1型ヘルパーT細胞活性が亢進していることを報告している。本研究では、β-カロテンカ晩疫系に対してこのような影響を及ぼすメカニズムを解析することを目的とした。そこで、まずβ-カロテンを摂取したマウスの脾細胞およびそこに含まれる抗原提示細胞を実験材料に種々の検討を行った。また、マウスマクロファージ培養細胞RAW264を用いて、培地にβ-カロテンを添加することにより、β-カロテンの作月のより詳細な分析を行った。β-カロテンを摂取したマウスでは、β-カロテン投与量に応じて脾細胞のβ-カロテン蓄積量が増加し、それに呼応してグルタチオン量が亢進していることを竜出した。その際、グルタチオン合成酵素mRNA量が増加していることも突き止めた。さらに、脾臓細胞のプラスチック付着画分(抗原提示細胞リッチ画分)において、抗原呈示に関与するシステインーカテプシンの活性が亢進していることが判明した。培養細胞実験系では、細胞へのβ・カロテンの蓄積後、細胞膜の脂質過酸化が起こり、その後グルタチオン量の増加が生じるという時間的関係性が明らかとなった。以上より、β-カロテンはそのredox activityにより田胞内のグルタチオン合成を亢進させ、それに由来する還元性に基いて抗原呈示を活性化させるというメカニズムが強く示唆された。今回の研究によって、β-カロテンの免疫調節における作用機序が明らかとなったわけであるが、それにより、どのような場合に、β-カロテンの摂取による効果的な免疫賦活が見込めるのかを判断することができるようになる。この成果は、健康増進の観点からβ-カロテンやそれを含む緑黄色野菜・果物の効果的な摂取を企図する場合に、役に立っ知見であると見込まれる。
著者
市川 千恵子
出版者
茨城大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

「堕ちた女」の感傷的な表象や、慈善活動の救いの対象としての受動的な存在としてではなく、自律した生を模索する下層階級女性の姿を、マーガレット・ハークネス(1854-1923)の著作を中心に考察した。ハークネスの語りには、下層階級女性を物語の声の主体としながらも、中流階級的なまなざしが介在する。その一方で、労働者階級女性の経済的脆弱さ、政治的声の獲得の困難さを提示する際には中流階級的価値観に対する批判と抵抗を潜ませる。自らの権利の模索としてのストライキへの参加に、慈善活動における階級差を基盤とした女性の関係とは異なり、労働者階級女性の連帯の萌芽と、彼女たちの政治的覚醒のあり様を見出すことができた。
著者
堀井 謹子
出版者
奈良県立医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

動物は、新奇物体に遭遇した際、その危険性や情報を、リスクアセスメントと呼ばれる行動を介して得ようとする。今回、マウスを用いた実験により、視床下部のPeFAと呼ばれる領域の神経細胞が、新奇物体に対するリスクアセスメントや、新奇物体に対する積極的防御行動とされる埋める行動(burying)の制御に関与することが明らかになった。burying行動の亢進が認められる自閉症モデルマウスBTBRを用いて、新奇物体試験を行った結果、物体近傍の滞在時間におけるリスクアセスメント行動の割合が低下していることが明らかになった。また、PeFA神経細胞の投射先である中隔の構造もコントロールマウスと異なっていた。
著者
河上 康子 山崎 一夫 大橋 和典 中浜 直之
出版者
大阪市立自然史博物館
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

ダンダラテントウは赤道地方から中緯度地域に広く分布し,1910年-1990年にかけて,気候の温暖化に伴い九州地方から関東・北陸地方へ分布を拡大した.本種は鞘翅の斑紋型に黒色から赤色の多型があり,分布北限に近い高緯度ほど黒い型が多く,低緯度ほど赤い型が多いクラインを示す.本研究では本種の21地域232個体のミトコンドリアCOI領域620bpを解読し,分布北限地域では遺伝的多様度がやや減少していること,遺伝的集団構造は2つの系統があることを解明した.ふたつの系統のうち片方は古くから分布している琉球以南で割合が高く,もう片方の系統は分布北上後の本州での割合が高かった.
著者
亀田 健治 村上 正基 森 秀樹
出版者
愛媛大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

皮膚再生医療を推進するため、三次元培養皮膚の作製法を改良することを我々の研究目的の主とする。我々はこれまでに羊膜を併用して三次元培養皮膚を作製することにより、簡便に三次元培養皮膚を作製できる方法を確立していること報告している。培養皮膚の作製法はここ数年である程度の確立を認め、熱傷などに対する保険適応治療とし て、ベンチャー企業などからも患者角化細胞を用いた培養表皮が供給されるようになり、これによる自家移植が可能となった。しかしながら未だ三次元培養皮膚 内での付属器の再生には至っておらず、今後マウスモデルに代わる実験モデルを目指す上で、表皮及び真皮内に付属器(汗腺、毛包、脂腺)を再現することは非常に重要な課題である。我々は三次元培養皮膚内にエクリン汗腺の構築(表皮内汗管、真皮内汗管、真皮内汗腺分泌部)を最終目的とする。これまで、臨床検体からの真皮内導管細胞・腺房細胞の分離培養し、エクリン汗腺由来細胞の性質の検討をした。真皮内汗管細胞に対して増殖促進、抑制する 因子の条件を検討し、エクリン汗腺由来細胞の増殖能、また、エクリン汗腺由来の他分化能について、現在検討中である。我々はこれまで角化細胞の無血清培養法の開発、培養表皮シート自己移植の有効性の検討および保存液開発に伴うセンター化の確立を達成している。これら培 養表皮シート移植法の開発と並行して、三次元培養皮膚作製法の確立、臨床応用における有用性の検討の結果、三次元培養皮膚は培養表皮シートと比較して生着 性に優れていることを見いだしている。今回我々が提案するこの研究の最大の目的は、既存の培養法を使用して三次元培養皮膚を作製するのみならず、将来の基 礎研究及び臨床応用に十分に貢献できる品質の三次元培養皮膚モデルの作製を目指すものである。
著者
木原 淳一
出版者
島根大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

イネごま葉枯病菌を用いて、近紫外線及び青色光照射によって発現が増加する50以上の新規光環境応答遺伝子を明らかにした。そして、光受容体の候補となりうるオプシン様遺伝子、及び、青色光受容体(BLR1)の制御を受ける遺伝子等を見いだした。イネごま葉枯病菌の分生胞子形成は太陽光の照射条件に依存しており、宿主植物への感染に対する寄生戦略が推察された。また、紫外線防御に関連するメラニンの植物病原糸状菌における役割を明らかにした。
著者
島岡 まな
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

いわゆる矯正困難者に対する効果的な刑事制裁について、フランス刑事法の状況を調査した。フランスでは2002年以降のサルコジ内相、2007~2012年のサルコジ大統領の下で数多くの治安維持立法、再犯防止立法がなされた。それに基づく刑事政策を性犯罪、薬物犯罪者などについて調査したが、前者に関する電子監視や矯正プログラムも中途半端に終わっており、2012年のオランド政権誕生による政権交代後は、厳罰化も再犯防止には逆効果であると評価され始めている。薬物犯罪者に対する治療命令は一定程度効果をあげている。高齢犯罪者については、刑務所を避ける人道的政策が行われており、日本も見習うべきだと思われる。
著者
松尾 秀哉
出版者
龍谷大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

本年度はベルギーの現地において、本研究の中心的な問いである「テロの巣窟化および発生」と「連邦制度」の関係について有識者のインタビューにより仮説を補完することが大きな課題であった。8月にベルギーを訪問して、ルーヴェン大学のDimitri Vanoverbeke氏や元首相のスピーチライターであり、中東研究者であるKoert Debuf氏へのインタビューを進めることができた。両者とも単純に連邦制導入(やしばしば言われる経済格差と貧困)で巣窟化を論じることには反論する立場であった。特にテロ研究について詳しい後者は、貧困ではなく、またベルギーの政治制度に問題があるわけではなく、テロリストになる側の心理学的要因に注目していた。彼によれば、中東からの移民(2世、3世)は、西欧の暮らしにおいてなんらかのアイデンティティクライシスに陥り、心理的退行が生じる。そのアンカリングとして、ムスリムの場合、イスラームに固着していくと言う。この議論自体非常に興味深いもので、彼がそれを論じた書物を翻訳して日本に紹介することとなった(現在翻訳中。コロナによって生じた行動制限によって進行が遅れているが、この夏には入稿したい)が、本研究においては、論破すべき先行研究となった。彼らとの議論において有益だったのは、特に後者のクルト氏がスピーチライターを務めていた首相ヒー・ヴェルホフスタット時代の新自由主義的改革(国家公務員などの人員の整理、合理化)によって中央が行政能力を著しく落としている可能性があるという点である。ちょうどその時期は、9/11後の時期、つまりベルギーに国際テロ組織の拠点ができていった時期と重なる。この点に注目することで、より実証的な「制度(改革)とテロ対策」の関係について論じることができると思われた。
著者
川上 紳一 大野 照文 高野 雅夫 酒井 英男 石渡 良志
出版者
岐阜大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

本研究は、ナミビアで採集した縞状炭酸塩岩の解析に基づいて、スノーボール・アース仮説を検証することである。現生代後期の氷河堆積物を覆う縞状炭酸塩岩は温暖な気候で堆積したものと考えられており、地質学における大きな謎であるとされた。氷河堆積物と縞状炭酸塩岩の組み合わせは、地球表面が前面的に凍結したとすると合理的に説明ができる。しかし、そのようなことは気候学的にありえないとされてきた。申請者らは、ナミビアで採集したラストフ縞状炭酸塩岩の化学的分析を行い、縞の解析から堆積速度の見積もりを試みてきた。層厚14mの縞状炭酸塩岩は、酸素、炭素同位体比からみて、3つの区間に区分されることが明らかになった。酸素同位体、炭素同位体比の変動は、スノーボール・アース仮説から導かれる論理的帰結と合致しているものと解釈された。現生代後期の炭酸塩岩の堆積環境の解析に、酸素同位体比が利用できることを世界に先駆けて示すことができた。一方、縞の解析では、区間2にメートルオーダーの明瞭な堆積サイクルが認められていた。このサイクルは、カルサイトに富んだ部分とドロマイトに富んだ部分の繰り返しで特徴づけられる。それぞれのサイクルには、ミリメートルスケールのラミナがあり、メートルスケールの堆積サイクルには、約1500枚のラミナが含まれていることが明らかになった。ラストフ縞状炭酸塩岩のラミナが1年ごとの環境の繰り返しを反映していることを論じた。一方、ナミビアのマイエバーグ縞状炭酸塩岩にはミリメートルスケールの縞とセンチメートルスケールの縞が形成されている。このような縞が潮汐リズムを反映したものである可能性を指摘した。この解釈によるとマイエバーグ縞状炭酸塩岩の堆積速度は、約25cm/年となる。これらの縞の解析から縞状炭酸塩岩に記録された炭素同位体比の変動の時間スケールは、数1000年であると見積もられた。これは新生代古第三紀の突発的温暖化事件(LPTM)における炭素同位体比の変動の時間スケールに比べ、一桁近く小さいことになる。以上の結果を総合すると、われわれが採集した氷河堆積物を直接覆う縞状炭酸塩岩の地球化学的特徴は、スノーボール・アース仮説と符合していることが明らかになった。
著者
遠藤 幹夫
出版者
信州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

本研究は3年計画であり、うち第一段階(主に第1年度~第2年度を想定)として、「国会会議録検索システム」の委員会審議会議録より、戦後~現在までの附帯決議を全数抽出し、その中から、「次の法改正の内容を実質的に指示する項目」を拾い出して分析することを予定している。また第二段階(主に第2年度~第3年度を想定)として、中央省庁の国会担当部署の担当官、法案作成の担当官、国会事務局の附帯決議作成担当官、政党事務局の調整担当、国会議員や秘書などの附帯決議作成に関与する関係者からヒアリングを行い、幾つかの具体的な立法例をもとに、実態的なメカニズムを分析することを予定している。このうち第一段階の附帯決議データベース作成について、2019年度(研究第2年度)においては、「国会会議録検索システム」からの抽出プログラムの作成は完了し、国立国会図書館が提供する「日本法令索引」によるデータ照合プログラムの作成を進めた(このデータ照合プログラムにより、国会会議録検索システムから抽出した附帯決議データの、手作業での修正・チェック作業が大幅に省力化できる)。また、並行して、第二段階である関係者へのヒアリングとして、中央省庁の国会担当、法案作成担当等数名にアプローチし、国会における法案審議の最新情勢について聴取した。併せて、論文執筆に必要な文献収集、国立国会図書館における過去の専門誌等のデータ収集を進め、読み込みを進めた。