著者
嶋田 豊 後藤 博三 引網 宏彰 関矢 信康
出版者
富山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究の目的は、脳虚血による神経細胞障害に対する和漢薬(漢方薬)の保護作用とその作用機構をin vivoの基礎研究によって明らかにすることである。スナネズミー過性脳虚血モデルを用いて、漢方薬の経口投与の海馬CA1領域の錐体細胞の遅発性神経細胞死に対する効果、脳虚血後の海馬及び皮質における過酸化脂質(LPO)、一酸化窒素(NO)代謝物、スーパーオキサイド(O_2^<-・>)とヒドロキシルラジカル(HO^・)消去活性、ならびに抗酸化酵素活性に及ぼす効果について検討した。漢方薬は虚血7日前から、最長で7日後まで投与した。その結果、漢方方剤・釣藤散あるいは生薬・釣藤鈎の経口投与は、虚血7日後の海馬CA1領域の錐体細胞の遅発性神経細胞死を抑制した。また両者とも、虚血後の海馬におけるLPOとNO代謝物の生成を抑制した。虚血を行わない実験で、釣藤散あるいは釣藤鈎の経口投与は、海馬及び皮質ともにO_2^<-・>及びHO^・の消去活性を増強し、虚血後も海馬及び皮質ともにO_2^<-・>及びHO^・の消去活性を増強した。抗酸化酵素活性については、スーパーオキサイドディスムターゼ(SOD)、カタラーゼ(CAT)及びグルタチオンパーオキシダーゼ(GSH-Px)を測定した。虚血を行わない実験では、海馬及び皮質ともにCAT活性が上昇したが、SOD及びGSH-Px活性は変化がなかった。虚血後のCAT活性は、釣藤散あるいは釣藤鈎投与によって海馬及び皮質ともに増強を認めた。以上の成績より、一過性脳虚血モデルにおいて釣藤散あるいは釣藤鈎の経口投与は遅発性神経細胞死に対して保護作用を有し、その機序の一つとして脳内のCAT活性の増強を介する抗酸化作用の関与が示唆された。
著者
平田 雅博
出版者
青山学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

日本におけるイギリス史の研究史は、国内史それも事実上イングランド中心であり、民族的にはアングロサクソン民族中心、人種的には白人中心にイギリスの歴史が叙述されてきたが、植民地を含んだ帝国史、ケルト地域(ウェールズ、スコットランド、アイルランド)なり、ケルト民族、非白人を含んだ枠組みがなかなか提示されてこなかった。近年、帝国史の枠組みの提示によって、強固だった国内史の狭い枠組みもようやく本格的に再検討されつつあるし、ケルト周辺を含み込んだ枠組みの提示によってイングランド中心の枠組みも克服されつつある。しかし、残された「非白人」を包摂した枠組みの提示はいまだ不十分でしかない。本研究は、研究代表者が従来から取り組んでいる「帝国史」の枠組みを設定した上で、「非白人」の観点を取り入れて、一次史料によって、イギリスにおける黒人史研究に取り組んできたことの成果である。研究全体としては、在英黒人の存在や実態を扱った面と在英黒人をめぐる意識の問題として人種差別主義の歴史を扱った面に分けた。前者では、時期的は一八世紀末を限定しながらも、空間的にはイギリス国内にとどまることなく、アメリカとアフリカを含めた分析をしている。後者では複雑きわまりない人種差別主義の歴史を捉えるの有効な「長期的展望」を取り入れて、黒人に対する意識の歴史的変遷を検討した。17世紀から20世紀まで、人種の悪魔学、プランター利害に立つ人種差別主義、疑似科学的人種差別主義、二〇世紀の「文化のレイシズム」と区分して、順次検討した。
著者
王 伸子
出版者
専修大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

日本語教育における音声指導について、学習者が取り組める活動として、プロのナレーター等が活動広報のために作成する「ボイスサンプル」に着目して、その教材化と効果について研究した。その成果を、学科における口頭発表、雑誌への論文発表でおこない、国内外でのワークショップも実施し、招待講演も実施することができた。また、ボイスサンプルの教材化についてのホームページを開設し公開した。大きな成果としては、所属大学でナレーションのボイスサンプルを日本語表現として学ぶ専門科目「日本語表現論1」を開設できた。この研究を通じ、ナレーターとのパイプができたので、引き続き日本語教育の教材作成の研究にも繋げていく計画である。
著者
MCKAY EUAN
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

近年、LGBT(Lesbian、 Gay、 Bisexual and Transgender)に代表される性的少数者に関する権利拡大の動きは日本を含めて世界的にみられる。本研究では、大学に通うLGBT当事者に対してインタビュー調査を行い、かれらが大学生活において抱える具体的な困難やニーズを質的に明らかにする。その結果から、LGBTに対する大学のサポート体制や学生の主観的体験が学生の精神健康度や学業の動機づけにどのように影響するかについて仮説を生成し、Web調査にて量的に仮説を検証する。本研究の結果から、LGBTを含む多様性に開かれた大学環境を実現するうえで有益な知見を提示できると考えられる。
著者
天池 庸介 増田 隆一 佐々木 瑞希 中尾 稔
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2021-04-01

近年、北海道において都市に定着するキツネ(“都市ギツネ”)の個体数が増加しており、キツネと野ネズミを宿主とする寄生虫エキノコックスのヒトへの感染リスク増加が懸念されている。そこで本研究では、都市部におけるエキノコックスの感染リスク評価とその伝播メカニズムの解明を目的として、都市ギツネと野ネズミを対象に生態遺伝学的および疫学的調査を実施し、個体群密度や分散パターン、地域毎のエキノコックス感染率などを明らかにする。本研究の成果は感染症予防対策の構築に寄与する。
著者
窪田 三喜夫
出版者
成城大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

本研究は瞳孔径拡張と脳波という心理生理学的要素と学習効果との関連を扱う日本で初めての研究である。本実験計画は瞳孔径を拡大させ、mismatch成分情報に基づく視覚訓練をさせて、無意識的に文法や語彙を学 習できる方法を検証する点で先駆的である。更に学習後30分後に再学習させる「過剰学習」と学習習熟度に応じて復習間隔を次第に大きく「間隔反復法」を組み合わせる研究を行う。文法と単語の学習効果が1週間で現れ、1年後もその言語記憶が維持される過程を探求する複合的な研究は、世界にも先端的なプロジェクトと言える。
著者
香村 一夫 山田 正人 大和田 秀二
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

地球上の資源は有限である。よって、消費・廃棄された資源を回収し再利用することは持続可能な社会をつくるために必須である。わが国は工業が盛んで多様な金属類から家電製品をつくり、製品の多くは、使用後、処分場に廃棄された。しかし、リサイクル法制定以前に埋立てられた処分場の浸出水にはメタル類はほとんど検出されない。本研究では、埋立層に含まれる「レアメタル」に焦点をあて、それらの含有量と化学形態を明らかにした。さらに、濃集ゾーンを特定する非破壊手法を確立するとともに、埋立層に含まれるレアメタルを物理的に濃縮する方法を検討した。資源の少ない日本では、埋立層からのレアメタル回収は国家戦略といえる課題である。
著者
宮田 潤子 濱田 裕子 川田 紀美子 藤田 紋佳 森口 晴美 小幡 聡 桐野 浩輔
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2021-04-01

排泄障害が原因で女性としての自尊心に傷を負いながら成人に至る患者に対する支援を考える。その第一歩として、総排泄腔遺残症という排泄障害と性機能障害を合併する稀少難病の患者を対象として研究に取り組む。患者・家族、医療従事者が求める支援を明らかにし、全国的な支援体制構築の促進、支援の均てん化に繋げることを目指す。第一段階は患者・家族、医療従事者を対象にアンケート調査を行い、各々のニーズを明らかにする。第二段階として、第一段階の結果をもとに、患者・家族らによる闘病体験手記を出版する。患者の苦悩を広く公にし、現状に沿った情報が行き届かない全国の患者・家族へ患者側の視点による情報提供を行う。
著者
橋本 弘司 米田 哲也 國安 明彦
出版者
熊本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

本研究は、新たなMRI技術(位相差強調画像化法:PADRE)を用いて、脳内のamyloid beta沈着によるアルツハイマー型認知症による味覚障害を非侵襲かつ早期に見出す診断法の確立を目的とした。ヒトamyloid beta遺伝子導入トランスジェニックマウスのPADRE像と組織染色像とを比較した結果、鉄、老人斑の量、位置ともに月齢に応じた正の相関がみられた。トレーサー実験の結果、ラット大脳皮質味覚野は従来の味覚野および味覚野に接した背側、尾側からも投射があることが分かった。また、リッキングテスト装置の改良に取り組み、効率的な味覚行動実験プロトコルを検索した。
著者
中井 靖 藤本 清秀 三宅 牧人 堀 俊太 森澤 洋介 大西 小百合
出版者
奈良県立医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

膀胱癌細胞を鉄で処理すると癌細胞が増殖し、5-アミノレブリン酸(ALA)で処理すると細胞増殖が抑制された。ALAを投与すると、膀胱癌細胞のミトコンドリアにおける鉄の発現が低下し、さらに、膀胱癌細胞内のフェリチン(鉄の蓄積)の発現が低下した。これは、膀胱癌細胞が増殖するために必要な鉄が、ALAによってミトコンドリア内で利用され膀胱癌細胞内での鉄が減少し、膀胱癌細胞の増殖が抑制される可能性が示された。このことはALAが新たな膀胱癌に対する治療薬となる可能性が示唆された。
著者
大野 瑞男
出版者
東洋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

江戸幕府の財政史料は明治政府に引き継がれなかったために散逸が甚だしく残存量も少ない。そのためその研究は勝海舟・向山誠斎・大田南畝らが編纂した史料と、第二次大戦後発見・紹介された史料を利用するが、分散的で多岐にわたり利用しにくい。この現状を打破するために、江戸幕府財政史料の全てを調査し、最も良質な底本をもって原稿を作成、原本照合と校訂、索引作業および史料学的研究を行った。江戸幕府財政史料は財政改革に際してその資料として作成されることが多く、大老・老中を勤めた大名家に控写本として残された史料をも調査して、全史料の性格、位置づけ、相互関係を検討し、江戸幕府財政史料の構造ないし組織について体系化を試みた。調査・収集対象は、東京大学史料編纂所所蔵「近藤重蔵関係資料」「維新史料引継本」「向山誠斎雑記及雑綴」、国立国会図書館所蔵「収蔵大原」、国立公文書館内閣文庫所蔵「看益集」、同大田南畝「竹橋蠧簡」 「竹橋余筆」「竹橋余筆別集」、大河内元冬氏所蔵・国文学研究資料館受託「大河内家記録」、豊橋市美術博物館受託「大河内家記録」、姫路市立城郭研究室所蔵「酒井家記録」、徳川恒孝氏所蔵「徳川宗家文書」、笠間稲荷宮司塙東男氏所蔵「笠間牧野家文書」、彦根城博物館所蔵「彦根藩井伊家文書」、首都大学東京図書情報センター所蔵「水野家文書」、江戸東京博物館所蔵勝海舟編「吹塵録」、三井文庫所蔵旧大蔵省文書写本、大阪市史編纂所史料、神宮文庫史料、その他で、新たな史料の発見もあり、それらを複写し、既刊の活字本との照合・校訂を行い、釈文原稿を作成し、人名註、解説、史料解題、索引(人名・地名)、史料編年一覧を付し、大野瑞男編著『江戸幕府財政史料集成』(上下2巻・吉川弘文館・2008年)として出版を行った。本研究の成果は全てここに凝縮されている。
著者
北村 繁 伊藤 伸幸 柴田 潮音
出版者
弘前学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

従来、中米・エルサルバドル共和国中部に位置するイロパンゴ火山で4世紀頃に巨大噴火によって、広い地域で火山灰が厚く堆積し、当時の古代メソアメリカ文明は壊滅的な影響を被ったとされてきた。本研究では、火山灰の堆積状況を現地で調査した結果、壊滅的な被害を被ったのは、火砕流が到達した火山から40km 程度の範囲、および、土石流が流下したレンパ川下流域などに限られ、それ以外の地域では、火山灰の堆積量が少なく、壊滅的な影響が生じなかった可能性が高いことが明らかとなった。
著者
中村 一基
出版者
武庫川女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

冬虫夏草は古来より中国において滋養強壮薬として用いられており、また、その特有の成分としてコーディセピン(3' -deoxyadenosine)を含有している。平成18年度は、コーディセピンの生体内分解酵素であるアデノシンデアミナーゼの阻害剤である2' -deoxycoformycin(DCF)を併用することによりWECS及びコーディセピンの抗がん作用がどの程度増強されるかをin vitroにおいて検討した。その結果、WECS及びコーディセピンの抗がん作用はDCFの併用により著しく増強され、WECSで約3倍、コーディセピンで約300倍有意な活性亢進が認められた。平成19年度は、マウスメラノーマ細胞をC57BL/6Crマウスの足蹠皮下に接種するin vivo自然がん転移モデルを用いて、WECSのがん転移抑制作用をモデルマウスの生存日数延長により検討した。その結果、in vitroにおいてWECSの抗がん作用を3倍増強させたDCFは、腹腔内投与により単独あるいはWECSとの併用のいずれにおいてもがん転移抑制作用を示さなかった。一方、WECS 10mg/kgをがん細胞接種日から7日間連続1日1回及び原発巣切除翌日から7日間連続1日1回腹腔内投与したマウスの生存日数は、がん細胞接種後53日以内に全例が死亡した対照マウスと比べて有意に延長された。また、WECS 10mg/kg投与マウスの6匹中3匹はがん細胞接種後110日以上生存し、さらに、体重減少や脱毛などの副作用は観察されなかった。なお、WECS3mg/kgの投与量では、有意ながん転移抑制効果は認められず、WECS 100mg/kgの投与量では、対照マウスに比べて有意な体重減少が認められた。従って、WECSを臨床応用するためには、有効成分を出来るだけ絞り込み、抗原性を押さえ込んだ注射剤として開発することが、最も有力な方法であると結論付けられた。
著者
澤 敬子 南野 佳代 江口 聡 岡野 八代 藤本 亮 渡辺 千原 中山 竜一
出版者
京都女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本研究の目的は、日本のロースクールにおけるジェンダー法学教育のあり方を模索する基本資料として、アメリカロースクールの著名なジェンダー法学教育担当者に対し、ジェンダー法学がロースクールで教えられるようになるまでの軌跡、現在の教育においての課題等をインタビュー調査することにある。主たる調査結果は、「ジェンダーの視点を法学教育に生かすための諸課題-米国フェミニズム法学教育者インタビュー調査から」(『現代社会研究』8号、pp.49-66、2005)で発表し、本科研報告書においても、この研究をもとに、日本における課題を検討している。調査により、アメリカにおいてジェンダー法学教育は、現在、ロースクールにおいてほぼ制度化され、特化されたジェンダー科目として、および/または実定法学の授業での論点として教えられていることが明らかになった。調査における注目点として、ジェンダー科目を最も習得するべきである学生が、ジェンダー科目が選択科目である限り履修しないこと、特化されたジェンダー科目と実定法学での論点として教える二方法のバランス、学生の多様なニーズにどのように答えて授業を行なうか、教育担当者のエンパワメントや研究推進など横の連携の方法などであった。本研究では、これら課題に対する米教育者らの対応についても調査している。とりわけ、教え方のバランスと選択履修の問題は、日本のロースクール教育においても既に重要な論点であり、米国での取り組みは、ロースクール授業に限らない「大学におけるジェンダー法教育」全般を視野に入れた教育としての取り組みの必要性を示唆している。
著者
伊藤 公一 吉村 博幸
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

携帯電話やPHSなど,人体近傍で使用される携帯無線機器の普及に伴い,機器の設計開発という観点から,人体によるアンテナ特性への影響を定量的に評価する必要性が高まってきている.一方,これら機器より発生する電磁界が人体へ及ぼす影響を定量的に評価する必要性がより高まってきている.しかしながら,実際に人体を用いてこれら評価を実験的に行うことは困難である.このため,人体の電気的および形状的特性を考慮した数値解析用および実験用人体モデルを構築するとともに,これらモデル用いたシミュレーションによる検討方法およひ実験的検討方法の確立が必要不可欠である.このような背景を踏まえ,電磁波の人体に関する影響評価のための標準人体ファントムの開発に関する研究を行った.平成10年度は,マイクロ波帯用生体等価固体ファントムを開発し,これを利用した人体と高周波近傍電磁界との相互影響評価システムを考案した.また,人体頭部リアルモデルファントムを開発し,実際にSAR評価を行った.平成11年度は,前年度開発したファントムの保存性を高めるべく,グリセリンを主成分としたマイクロ波帯用生体等価固体ファントムを開発した.また,警察,消防,放送分野等で用いられる150MHz帯アンテナと人体との相互影響評価について検討を行った.以上の成果により,人体と高周波近傍電磁界との相互影響評価するための簡便なシステムを構築できた.また,保存性に優れたマイクロ波帯用生体等価固体ファントムを開発できた.携帯無線機器の設計開発,およびこれら機器より発生する電磁界が人体に及ぼす影響を定量的に評価する際,本成果が活用されることを期待したい.今後の課題として,本評価システムの高精度化およびファントムのさらなる改良を目指す.
著者
深町 晋也
出版者
立教大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

2019年度は、前半の期間を中心として、日常的迷惑行為の中でも特に親密圏における問題事象の研究を行った。その基本的な柱は4つに分けることができる。第1の柱は、前年度に引き続き、両親間における子の奪い合いと拐取罪の成否に関する研究である。前年度までに行ったドイツ語圏を中心とする広汎な比較法的検討の成果として、2019年度は、我が国におけるこの問題に関する最高裁判例の分析を行いつつ、なお解決されていない問題点を明確化し、その解決のための方法論的基礎を模索する論稿を公表した。第2の柱は、前年度に引き続き、家庭内における児童に対する性的虐待を中心とした性犯罪に関する研究である。2019年5月に、国立臺灣大学における招待講演・ディスカッションを行い、台湾における問題状況との比較検討の上、我が国の家庭内における性的虐待の問題点について分析した。第3の柱は、2019年5月に開催された日本刑法学会第97回大会のワークショップにおいて、児童虐待に対する刑事法的規制のあり方につき、親の有する懲戒権との関係で分析を行い、また、そうした研究の成果を公表した。従来、親の懲戒権は一定の限度での子に対する体罰をも許容するものと解されてきたが、児童虐待防止法の改正による体罰禁止規定の導入を受けて、こうした懲戒権にいかなる制約が生じ、また、それが刑法上の違法阻却事由にいかなる影響を与えるのかといった点について、比較法的分析や我が国の判例・裁判例分析を通じて一定の結論を示した。第4の柱は、日常的迷惑行為の刑法的規制を考える上で重要となる刑事立法学に関する研究である。ドイツにおける麻疹予防接種「義務化」を巡る議論を丹念に渉猟することで、親の有する子に対する権利・義務と子に対する予防接種「義務」との緊張関係について分析・検討を加えた論稿を公表した。
著者
安楽 誠 小田切 優樹 上釜 兼人
出版者
崇城大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

慢性腎不全モデルを利用した検討において,天然糖類であるシクロデストリン(CD)において,その包接能による尿毒症物質インドキシル硫酸の血中濃度低下が観察された.さらに天然多糖であるキチンを部分的に脱アセチル化したカチオン性高分子であるキトサンナノファイバー(CSNF)においてもキトサン粉末と比較して顕著なインドキシル硫酸の血中濃度低下に加えた血中抗酸化効果も観察された.そこで,CDとCSNFを素材とした薬物含有ゲルを作成した結果,CDの包接能による薬物の高い封入率とCDNFとCDの静電相互作用による薬物の徐放化が観察された.今回作成した複合ゲルの腎不全などの病態への応用が今後期待される.
著者
須永 和博
出版者
獨協大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2020-04-01

近年東南アジアでは、国内観光市場の成長を背景に、空洞化が進んでいた地方都市・旧市街の歴史的景観がノスタルジー消費の対象として再発見されるといった現象がみられる。こうした動きは、アートやデザイン、建築など「創造階級」に属する若年都市中間層の移住や観光産業への参入をもたらし、一部の地域では「創造都市」としての様相を示すようになってきている。本研究では、プーケット旧市街をはじめとするタイ国内の複数の地方都市・旧市街を事例に、創造都市化に伴うローカル・コミュニティの再編の過程について明らかにしたい。
著者
角田 晃一 関本 荘太郎 伊藤 憲治
出版者
独立行政法人国立病院機構(東京医療センター臨床研究センター)
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

簡易赤外線トポグラムを用いて、日本語で育った人間と、非日本語環境で育った人間における虫の声の処理機能違い「角田理論」の証明がなされた。 (Acta Otolaryngol. 2016)さらに、現在Science誌やNature誌で盛んに指摘されている、中枢の神経活動測定における再現性の問題に対処すべく被検者の姿勢による脳活動計測への影響の検証を行い、1)姿勢変化の影響が脳生理学研究において再現性に大きな影響をもたらすこと、2)研究にあたっては姿勢の安定が基本であり標準化すべきである。以上の2点を明らかにし、 Neuropsychiatry 2017 7 (7), 739-744 に発表した。
著者
石森 大知
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究は、ソロモン諸島におけるバハーイー教徒とキリスト教徒の共生関係を考察するものである。バハーイー教徒は、改宗後もキリスト教徒の諸儀礼や行事に参加している。そこには2つの論理がみられる。1つは、彼らは自らを「見えない存在」とする実践を行っていること。もう1つは、彼らは「宗教(lotu)」と「伝統」を異なるものとみなし、後者の領域に親族的な事柄を置くことで、既存の社会関係の維持を図っていることである。これらの論理が村落部における二者間の共生関係の基盤にあることが明らかとなった。