著者
信原 幸弘
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

心は環境に対する主体の適応を促進するための装置であるという目的論的機能主義の立場から、心の自然化を試みた。とくに志向性と意識の自然化をめぐる諸問題の解決を目指した。その結果、以下のような成果が得られた。1.信念や欲求のような命題的態度とよばれる心的状態は構文論的構造をもち、論理的な推論に従う点に特色がある。しかし、コネクショニズムによれば、脳状態はそのような構文論的構造をもたず、力学的なパターン変換に従う。このことから、命題的態度は個別に脳状態に対応せず、たかだか全体論的に対応するにすぎないことが言える。ただし、意識的な命題的態度に関しては、発話ないし脳の運動中枢の興奮パターンとして個別的に実現されていると考えられる。2.命題的態度は合理性に従うことをその本質とする。そして合理性は一群の規則として体系化できないという意味で非法則的である。従って、命題的態度の目的論的機能は非法則的な合理的機能ということになる。このことから、行為の理由となる信念と欲求は必ずしもその行為の原因とは言えないという、行為の反因果説を支持する論拠が得られる。しかし、このような反因果説につながる非法則的な合理的機能はコネクショニズム的なメカニズムによって実現可能であり、けっして自然化不可能な機能ではない。3.知覚や感覚のような意識的な心的状態はそれに特有の感覚的な質を備えているが、この感覚質は意識的な心的状態の内在的な性質ではなく、その志向的内容に属する性質であると考えられる。このことから、痛みの経験のようなふつう非志向的と解される心的状態も実は志向的であり、痛いという性質は身体の客観的な性質であると考え直す必要が出てくるが、そのような再解釈は十分可能である。
著者
岩竹 淳 図子 浩二 北田 耕司
出版者
石川工業高等専門学校
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究は,疾走能力とジャンプパフォーマンスとの関係について明らかにしようとし,特に立五段跳の0-3歩(プレス型ジャンプ力)および3-5歩(スイング型ジャンプ力)について着目した.実験の結果,疾走能力上位者は,プレス型およびスイング型ジャンプ力がともに高いことが示された.プレス型ジャンプ力は,垂直跳や立幅跳のパフォーマンスと強い関連を示した.スイング型ジャンプ力は,ドロップジャンプのパフォーマンスとより高い関連を示した.したがって,立五段跳パフォーマンスを高めるには,長い時間と短い時間で脚が発揮する力を向上させることが必要になる.本研究の知見は,疾走能力の改善に有益なものと考えられる.
著者
新川 拓也
出版者
大阪電気通信大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

乳児の吸啜時における舌の運動機能を解明するために、小型力センサを複数個内蔵した人工乳首を開発し、PCをベースとした舌-人工乳首の接触圧をリアルタイムで計測できるシステムを構築した。計測を行った結果、それぞれの力センサからは、舌の蠕動様運動を示す単振動に近い圧力波形が観測され、起因する吸啜周期は1秒間に約2回であった。また、低出生体重児においては、成長に伴って圧力の値に変化が見られた。
著者
香川 実恵子
出版者
松山東雲女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

153園の保育所等から聴き取り及び観察を行い、115園の年齢毎の子どもと保育者の支援についての観察記録を得るとともに、食に関する100の事例を収集した。これらを分析し、年齢毎の特徴や違いを明確に捉え、事例で多かった「好き嫌い」等への対応策などを資料にまとめた。また、多目的型子育て支援活動(「イクメン企画:パパと一緒にクッキング」、英語遊びを取り入れた「English Kitchen」、低年齢児対象の「おいしい楽しい食育広場」)などを3年間継続的に企画実施し、好評を得た。さらに、愛媛県と連携した地域食育活動を推進し、「愛媛食育かるた」を始め郷土の食を取り扱う新しい教材を製作・配布した。
著者
竹ノ上 ケイ子 佐藤 珠美 辻 恵子
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

自然流産した日本人女性とその配偶者の喪失,悲嘆の実態を把握し,実状に合った援助システムを考案することを研究目的とした。平成14年度は,面接調査に着手し,流産前後のカップルの状況や受けた援助の実際,課題等を把握した。援助の試みとして,インターネットのホームページ:http//web.sfc.keio.ac.jp/〜takenoue/「流産を経験された女性&男性のためのページ」を作成し情報提供とインターネットやメールを介した援助を開始した。平成15年度は,神奈川県かながわ女性センターにおいて面接による聞き取り調査と相談活動を開始し,その指導の際に使用するリーフレットを作成した。また,インターネットのホームページに見る流産後女性たちの喪失,悲嘆の実態と癒しについての調査を行い,流産・早産に関するインターネットのホームページ数が増加傾向にあり,インターネットを介した援助の可能性があることが明らかになった。平成16年度は,流産体験者の会(ポコズママの会)の創設とその活動の支援を行った。この体験者の会のサポートを受けてインターネットのホームページ経由でアンケート調査を行った。その結果,病院・産院での援助・配慮が不十分であること,万人に合う援助はあり得ないので援助の個別化が必要であること,流産体験者同士の情報交換や支え合いが有効であること,インターネットのホームページを介した援助による効果が得られる可能性があることなどが明らかになった。これらの研究成果は国内外の学会で発表した。今後は本研究で得られた知見を医療現場へ還元するとともに,医療者と患者(体験者)が協力して,医療施設以外でも自然流産後の女性と配偶者らの意志を尊重し,彼らの持てる力を発揮してもらい,地域社会を巻き込みながら現実のビーズに合った援助システムを創りあげていく必要があると考えており,研究を継続する予定である。
著者
石幡 直樹
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

フェミニズムの鼻祖とされるウルストンクラフトのテクストから、「進歩」を共通項として成立する国家と女性の類似性を抽出して、その意味と相互の影響関係を分析した。未開状態から文明社会への「進歩」は、豊かで不安のない生活と高度な精神活動による文化を生み出す。しかし、『北欧紀行』に見られるように、スウェーデンやデンマークの自然と接したことで、彼女は、単純な進歩史観には疑問を呈するようになる。彼女の逡巡は、近代国家の成立と自らの女性としての表象とを重ね合わせつつ、「進歩」の功罪を問い直す懐の深い思索を重ねたことの証であり、ラディカルな女権論者としてのウルストンクラフト像の別な側面を示している。
著者
小林 健史 橋本 竜作
出版者
北海道医療大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究は専門家の少ない地域において住民参加型授業を通して、特別支援教育体制を構築することを目的とした。我々は住民参加型授業を活用した介入を通して、教員をエンパワメントしつつ、さらに簡便かつ効率的に相談者が地域に存在する社会資源を活用しやすくするツールを作成し支援を行った。その結果、社会資源の少ない地域に合致した特別支援教育体制構築の手がかりが示された。
著者
足立 吉隆 森戸 茂一 佐藤 尚
出版者
独立行政法人物質・材料研究機構
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

マルテンサイトパケットは互いに複雑に入り組んでいること、その界面は特定の晶癖面を持っていること、またブロックも入り組んだ構造を持っていることが明らかとなった。すべてのブロックは旧オーステナイト粒界に接していた。さらに、三次元像の定量化を位相幾何学および微分幾何学の観点から行うに当たって、種数、オイラー評数、ガウス曲率、平均曲率といったパラメータを導入して、形態の定量化への可能性を検証した。その結果、これらのパラメータを使うことによって、複雑な実際の金属組織形態の定量化が可能であることを示し、今後の新しい3D定量材料組織学構築への布石となるものと期待される。
著者
石塚 亙 木村 憲喜 中村 文子 横山 正樹
出版者
和歌山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究の目的は、「実験工作キャラバン隊」の活動を通じて、児童生徒に科学に触れて科学に夢を感じる機会を提供し、体験型学習の効果を検証するとともに、大学院生・学部学生が実験工作教室の実践を通じて得る理科教育の能力の向上を評価し、実験工作教室のテーマに宇宙に関わる体験学習のコンテンツを加えてひとつの特色とし宇宙を通じて科学的な感動や夢を与えることを目標としながら、体験学習の科学的内容の高度化・教材化と科学コミュニケーション能力を持った学生の養成を行うことである。実験工作教室に参加した子どもの数は、以前からの取り組みを含めて10,000人に達し、平成25年度のアジア・太平洋物理学会議で発表した。
著者
西山 学 金山 喜則
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

イチゴのように,同一種内で短日性と長日性の系統が利用されている植物は,生産上および学術上,貴重である.本研究では,2倍体のワイルドストロベリーをイチゴ属のモデル植物として供試した.四季成り性の系統を供試し,自家受粉や交雑して得られた実生の中には長日条件で開花に至った個体があり,これらの個体は四季成り性である可能性が示唆された.
著者
馮 忠剛 中村 孝夫 梅津 光生 小沢田 正 北嶋 龍雄
出版者
山形大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

本研究は、ES/iPS 細胞の心筋症治療の早期実現における二つの重要な課題:心筋細胞への効率的分化誘導と体外での再生組織の構築、を取り組んで、幹細胞工学、タンパク質工学及び細胞組織工学の融合により、新たな細胞分化培養基質支持層を開発し、この支持層上にマウスES 細胞の分化促進と心筋組織単層の作成を行い、多数単層の積層によって心筋再生組織を構築した。上記の実験研究により、ES 細胞の心筋細胞への分化誘導、培養基質の力学特性およびそのES 細胞の分化に及ぼす影響、並びに体外心筋再生組織構築における新知見を得、課題の更なる進展に関する重要な方法を示した。
著者
金田 重郎
出版者
同志社大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

近年,高齢者・子どもの「孤食」が注目されている.孤食を解決するためには,「何時,どのくらいの食事を摂っているか」を知る必要がある.そこで,本研究では,食事には毎回,特定の「箸」を使う日本の慣習に着目し,導電性箸を用いた,食事センシング手法を検討した.具体的には,箸と食物,あるいは,箸と腕,体がなす閉回路を利用して,食物を掴んだ,あるいは,口に運んだ,タイミングを検出した.箸プロトタイプを用いて実験を行った結果,食物を掴んでいる事,及び,口に食物を運んだ瞬間を,99%の確率で検出できた.更に,集団食事に導電性箸を適用すると,「話の輪」に入ってゆけない参加者を検出できることも確認できた.
著者
竹川 郁雄
出版者
愛媛大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

大人のいじめに対する意識がどのようなものか、地方都市の一般市民に郵送調査を実施した。有効な回答者は741人で回収率は35.3パーセントであった。また、養護教諭に自由回答形式の調査を実施した。その結果は次の通り。 1.いじめ被害者に対する責任意識を10年ごとの年代別に見た時、世代が若くなるにつれて、責任意識が強いという傾向が出ている。2.居住地密集している市街地に住んでいる人は、いじめの傍観者意識を強く持つ傾向がある。3.中学生に喫煙を注意できるかどうかの質問で、大洲市民の方が松山市民より注意できると回答している人が多かった。これは大洲市民の方が地域で子どもを見守る意識が強いためだと考察した。
著者
大曲 由起子 鍛治 致 稲葉 奈々子 樋口 直人 髙谷 幸
出版者
大阪経済法科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究では、国勢調査オーダーメイド集計を用いて、1980~2010年までの在日外国人の社会経済的地位の動態を分析した。その結果、在日コリアンに関して1950~60年代生まれコーホートに置いて職業ニッチの変化が生じていること、民族経済が脱産業化したという説は過大評価である可能性が高いことを明らかにした。同時に、ニューカマーについては進学格差が縮まりつつあるが、これはリーマンショックによる帰国の影響が強いことも示唆された。また、中国籍に関しては学歴の高い新中間層と技能実習生に分化しており、出生コーホートごとに日本への包摂様式がかなり異なる。
著者
小沢 一雅
出版者
大阪電気通信大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

昨今,邪馬台国時代に前方後円墳が築かれはじめたとする見解がマスコミを主流として喧伝されている。本研究は,こうした動きを支えている感覚的な理解のあり方の妥当性を数理的な分析によって検証する。まず,畿内を中心として各地に遺存する最古級前方後円墳(古墳時代草創期を画する)の全体から導かれる特性値を抽出する。一方,邪馬台国が記述されている魏志倭人伝の30ヶ国の人口から導かれる分布特性(べき乗則の特性)を抽出する。この2つの特性値を基礎にした比較分析,およびシミュレーション研究を通じて標記の見解に妥当性がないことが示唆される結果を得た。
著者
田中 敏幸
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

めまいはその原因が複雑かつ多岐に渡るため、正確な診断を行うためには専門的な知識と経験を持った医師の診断が必要であるが、現在めまいの専門医は非常に少ないのが現状である。本研究ではめまいに伴う異常眼球運動(眼振)を動画像処理に基づいて解析するめまいの診断支援システムの実現を目的とする。提案手法には、まばたきの検出、瞳孔位置の特定、回旋性眼球運動の回転角算出が含まれており、まばたきなどのノイズ強く、かつ水平・垂直・回旋の 3つの運動の解析を可能にしている。
著者
堀田 和彦
出版者
東京農業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

本研究の目的は農商工連携におけるナレッジマネジメントを活用した共創的関係構築の条件を解明することにあった。これまで、食品・外食企業と農業分野の連携は、継続性の乏しい不安定で未完成な連携からいかなる条件によって連携組織のすべてがwin-win の状態になる共創的・価値創造的な関係へと進化していったのか、その解明が十分なされているとはいい難い。本研究ではまず、はじめに、農業、食品・外食企業、消費者各々に内在する潜在的ニーズと現実とのミスマッチの実体と連携組織内での問題の解明方向を明らかにし、次に連携が未完成なものから共創的関係に進化する要因をナレッジマネジメント活用の視点から明らかにした。
著者
佐藤 容子
出版者
東京農工大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

アイルランドの詩人・劇作家・神秘家であるウィリアム・バトラー・イェイツの超自然演劇における表象構造を以下の観点から多角的に分析した。すなわち、イェイツが体系的に用いる頭韻によるサウンド・シンボリズム、アイルランドのフォークロアと溶け合ったスピリチュアリズムの要素、さらに日本の能狂言との接触という観点である。劇作としては、イェイツのクフーリンサイクルの最後の作品となる『クフーリンの死』を取り上げて論じるとともに、『鷹の泉』と『猫と月』について、能「養老」及び狂言「不聞座頭」との比較を行った。
著者
厳島 行雄
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

耳撃証(ear-witness)の記憶の正確さを検討するために、情動的覚醒が伴う事件等を考慮して、感情的には中立の刺激提示中における耳撃と恐怖の感情を喚起するような刺激干渉中の耳撃の正確さを比較検討した。相手の声を一週間後に6名のラインナップ(犯人が存在する)から識別するということを行った結果、恐怖という情動を喚起する操作を行った条件では、行わない条件に比較して半分以下の正識別であった。
著者
高橋 賢
出版者
広島市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

ISDB-Tディジタルテレビ放送局は、地震や津波の緊急時に特別な信号を送信することにより、そのテレビ受信機の電源を自動的にオンにできることになっている。しかし、この機能には受信機でのビット誤りによる頻繁な警報(誤警報)を発する課題があった。本研究課題では、この自動起動信号をより確実にキャッチするための技術的方法を扱った。誤り訂正のためのパリティを自動起動信号の高信頼受信のためのみに用いる提案法は、従来法と比較して誤警報を1/1000以下にできることを明らかにした。