著者
木村 直弘
出版者
岩手大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

これまでの思想史的研究の成果をふまえ、Energetik的音楽理論が演奏実践へ及ぼした影響と当時の「線的志向」との相関関係にアプローチした。Energetikerの一人クルトの造語である「線的対位法」という術語は、最終的に、ロマン派的和声を克服するものとして「新音楽」あるいは「新即物主義」から重宝され、「線」という語は1920年代のスローガンにまでなったが、注意しなければならないのは、シェンカーら調性音楽に依拠したEnergetikerたちも、この「新即物主義者」の作曲家や演奏家たち同様「線への志向」=対位法的思考重視という結論に至ったことである。実はこうした対立関係は、調性音楽を擁護しシェンカーと逆にそれを否定したシェーンベルクの各々の『和声論』での論争にもみられるが、彼らは結局同根であった。それは、シェーンベルクに傾倒したグールドの演奏美学に、シェンカーの演奏技法論と通ずる点が多いことからもわかる。まさにシェーンベルクの12音技法の目的が結局調性音楽の完全否定ではなくその継承にあったのと同様に、グールドの演奏における対位法的志向は、ゲーテの有機体美学に根ざしたシェンカーに通底する、(シュナーベル経由の)非常に19世紀的な自律的音楽作品観へのオマージュになっている。同様に、「ロマン的解釈」の指揮者として語られることが多くシェンカーに熱心に師事していたフルトヴェングラーの演奏は生演奏で最大限の効果を発揮するので、演奏会を否定し録音した多数のテイクからの継ぎ接ぎをいとわなかったグールドのそれとは、まったく相容れないように思えるが、やはり楽曲の、「構造」に分析的に肉薄するという姿勢は通底しており、それは結局対位法的思考の重視へと必然的に帰結した。シェンカーやクルトの的音楽理論は戦後、音楽記号論へ大きな影響を及ぼしたが、音楽記号学者がグールドの演奏分析を好んで行うのも、実はここに一因があると言いうる。
著者
中尾 友香梨 日高 愛子 白石 良夫 大久保 順子 土屋 育子 沼尻 利通 亀井 森 三ツ松 誠 谷口 高志 田中 圭子 中尾 健一郎 村上 義明 二宮 愛理 脇山 真衣 河野 未弥 明石 麻里
出版者
佐賀大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究では、肥前小城藩の藩主家と藩校に伝わっていた蔵書群である小城鍋島文庫の典籍を調査し、具体例として当文庫所蔵の『十帖源氏』を輪読・翻字し、分析を加えた。主要なる成果物として、2017年5月に『小城鍋島文庫蔵書解題集(試行版)』を刊行し、また2018年3月に笠間書院より『佐賀大学附属図書館小城鍋島文庫蔵「十帖源氏」立圃自筆書入本 翻刻と解説』を出版した。
著者
土屋 隆裕
出版者
統計数理研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

率直には答えにくい内容を調査する間接質問法の一つであるItem Count法において、適切な推定値を得るため、Item Count法における回答特性である過少回答傾向の原因とその補正方法を研究した。Item Count法の従来の回答方法である「当てはまる項目の数」と同時に、「当てはまらない項目の数」も回答してもらう改良型の回答方法を採用することで、過少回答傾向は抑制されることが明らかとなった。
著者
藤原 義博 宍戸 和成 井上 昌士
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

知的障害特別支援学校の授業において、やりとり機会と協同的学習機会を創造するのに、以下の設定の有効性が示唆された。即ち、人や物が行動の手がかりとして機能する文脈の設定、活動に共通する具体物や発信や応答を強化する手掛かり教材の活用、集団随伴性の強化を理解させるための個別的支援、教師の役割の子どもへの移行、複数の子どもが同時に参加可能な役割の設定、発信者と受信者双方の同時並行的な参加の設定、であった。
著者
鶴木 隆
出版者
東京歯科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

下顎前突症において、軽度〜中等度の上顎後退を合併する患者の数は多い。手術には下顎枝矢状分割法による下顎後退術単独(one jaw surgery)、あるいはLe Fort I型骨切り術による上顎前方移動を併用する場合(two jaw surgery)とがある。その選択の要因には、歯・骨格の変異度、機能的問題、顔貌の美的評価、手術侵襲、術者/患者の選択などがあり、適切な判断が必要とされる。これらの要因を考慮して治療されたone jaw群とtwo jaw群の長期顎位安定性について比較を行った。one jaw群13例、two jaw群12例について、術前(T1)、術直後(T2)、術後1年(T3)、術後2年以上経過(T4)の各々の時期の側面頭部X線規格写真を分析した。(結果)術前形態では、two jaw群がone jaw群より形態変異が有意に大きかった。手術変化では、B点の後方移動量はone jaw群:8.67mm、two jaw群:6.19mm(上顎前方移動量はANSで1.73mm、合計7.92mm)であり、one jaw群で有意に大きかった。長期変化で後戻り率をみるとSNBではone jaw群:11.6%、two jaw群:4.1%(SNAでは9.1%)であった。有意差がみられたのは、各群間でone jaw群のB点とover jet、two jaw群でover jetであった。両群間ではB点、U1、L1であった。(考察)術前形態はtwo jaw群の方が変異が大であった。B点でみるとone jaw群は手術移動量が大きく、また後戻り量も大きかった。しかし上顎の手術移動量を合算するとone jaw群とtwo jaw群で後戻りに差異はないと思われた。
著者
松島 俊也
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

鶏雛(ヒヨコ)を対象として実験心理学的に統制された行動実験を実施し、動物の採餌選択における文脈依存性に関して、以下の3点の知見を得た。1. ヒヨコはリスク感受性を示し、量のリスクを嫌う。2. 収益逓減の強さに応じて、餌パッチからの離脱を決定している。3. 競争採餌の条件は、異時点間選択における衝動性を亢進する。このように、ヒヨコは採餌状況の文脈に応じて採餌決定を適応的に変化させることが判明した。
著者
小谷 卓也 竹歳 賢一 長瀬 美子
出版者
大阪大谷大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究の成果の概要は、以下の通りである。[1]幼小一体型数理教育カリキュラムとして、「乳幼児期のかがく」のモデル保育を計15個、「低学年児童期のかがく」の生活科モデル授業を計16個開発することができた。[2]時系列エピソード記録の事例分析法による分析から、「数」と「自然の事物・現象」に対する認知発達の度合いを示す評価指標の開発の基本データとなる探索行動の特性として、(1)探索行動には3つの段階が存在すること、(2)「1回試行」で探索を終えずに同じ試行を何度も繰り返す傾向があること、(3)探索行動中のコミュニケーションには3つのパターンが存在するという仮説が導かれた。
著者
佐々木 睦 平井 博 加部 勇一郎 青木 美智子 上原 かおり
出版者
首都大学東京
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

三年にわたる研究で、中華民国期の児童雑誌、特に『児童画報』、『児童世界』、『小朋友』、についての調査を行った。この研究により、民国期の児童雑誌には、日本の児童雑誌『コドモ』、『幼年画報』、『少年画報』に掲載された漫画から転載された漫画や絵物語が多数あることが明らかになった。また、本研究により、商務印書館が出版した児童雑誌と中華書局が出版した児童雑誌の差異を明確にすることができた。
著者
本橋 洋一
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

Riemann予想に関連してHilbertとPolyaはζ(s)となんらかの自己随伴作用素との関係に想到したことは周知のことである。近年、量子力学にmodelを求め、作用素論の立場からこの主題を論ずることが盛んである。しかし、そのような立場からは具体的な作用素とζ(s)との関係は今だ特定されてはいない。しかるに、本研究者は素数分布論からの要請である極めて古典的な主題「ζ(s)の量的解析」を探究する途上、上半平面に作用する双曲的Laplacianとζ(s)との極く明示的な関係を得た。函数ζ(s)と自己随伴作用素との具体的関係として始めての結果であった。また、それはHecke作用素とζ(s)との意外な関係をも明らかにした。上半平面や上半空間を代表とする双曲的空間にてLaplace作用素の数論的意味を論ずることは、なんらかのCasimir作用素に制限(表現論におけるK-trivial)を設定して議論することに相当する。勿論、この制限には意味がある。つまりそれによってζ(s)との関連は古典的とも言うべき程に鮮明になるのである。しかしながら、前回に採択された我々の基盤研究において,算術的離散群とζ(s)との関連を三次元双曲空間への拡張を通じて考察するなかで、制限K-trivialを再考すべき場面に遭遇した。つまり、これらの群について或る興味深い積分変換につきその逆変換を求める必要が起きたが、その解決は困難を極めunitary表現論を全面的に援用してようやくに成された,という経緯があった。また、それによってより精妙なζ(s)のスペクトル解析も得られることが判明した。この事実は、ζ(s)と一群のLie群との関連を示唆するものと我々は観た。ただし,この時点までの研究はKloosterman和のスペクトル理論を経由する煩雑な面があり,「ζ(s)と空間の直接の関係」に立脚したものとは言い難いものであった。[成果]本研究の目的は,第一義的にこのKloostermann和理論をゼータ函数論から排除し,Lie群の幾何構造のなかでζ(s)を把握することであった。主としてR.W.Bruggemanとの共同研究においてこの目的は達成された,と言える。つまり,「ζ(s)の4乗平均」を函数空間L^2(PSL_2(Z)\PSL_2(R))のなかに或るPoincare級数の特殊値として埋め込み,スペクトル解析を行うことに成功した。この研究により,ζ(s)とJacquet-Langlands局所函数等式との関係も明瞭となった。この事実はより高次元への拡張を視野に入れることを可能にするものであり,ゼータ函数論における基盤的な成果と言える。
著者
伊藤 正人
出版者
大阪市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

本研究は,ベイズ推論とその基礎となる個々の事象の確率値を経験を通して獲得する過程を扱ったものである.ベイズ推論とは,二つの異なる確率的情報から一つの結論(確率)を導き出す過程である.遅延見本合わせ課題における見本刺激の偏りを一つの確率的事象,正しい比較刺激の信頼度をもう一つの確率的事象とした手続きを用いた.遅延見本合わせ課題を訓練した後,見本刺激を提示せずに,情報刺激のみを提示する推論テストと見本刺激のどちらも提示しない確率値推定テストを行って,経験にもとづく確率値の推定とベイズ推論を検討した。ハトを被験体とした実験では,確率値の推定テストにおいて,見本刺激の偏りは,かなり正確に推定されることが示された.さらに,ベイズ推論テストにおいて,ハトの比較刺激の選択の仕方は,おおむねベイズの定理から予測される理論値に一致することが明らかなった.この事実は,ハトにおいても,経験を通して獲得した見本時間の偏りと情報刺激の信頼度に関する情報を新奇なテスト場面で利用できることを明かにしている.すなわち,経験にもとづくベイズ推論が可能なことを示していると考えることができる.このような行動が動物からヒトに共通する側面であるか否かについては,現在のところ,十分な結論を導き出すことはできないが,ある事象の確率的構造の性質は経験を通して明らかになるという観点を支持するものといえる.今後の課題としては,遅延見本合わせ手続きを用いた訓練法やテスト法の改良,異なる動物種での検討,ヒトの発達観点からの検討などが考えられる.
著者
松尾 智英 白藤 梨可
出版者
鹿児島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

魚類以外の脊椎動物に寄生し、大量吸血と共に幅広い病原微生物の媒介能を有するマダニ類が類い希な飢餓耐性を持つことから、その飢餓耐性を裏付ける能力としてオートファジーに着目して研究を行った。その結果、いくつかのオートファジー関連遺伝子がフタトゲチマダニを用いて同定され、それらは未吸血期および脱皮を行う変態期に発現していたことから、マダニ類の飢餓耐性に重要な役割を持つことが示された。
著者
布村 明彦 千葉 茂
出版者
旭川医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

われわれは、酸化ストレスやミトコンドリア異常がアルツハイマー病(AD)の病態に関連することを明らかにしたが、これらの変化がアポトーシスの引き金になり得ることは興味深い。βアミロイド(Aβ)の産生や分解の異常は、ADの病態において中心的役割を果たすと考えられているが、神経細胞内Aβ蓄積と種々のアポトーシス・シグナルとの関連性は明らかにされていない。本研究では、AD剖検脳[10例(年齢60〜87歳);海馬、海馬傍回、および後頭側頭回]を用いて、免疫細胞化学的に神経細胞内Aβ蓄積、酸化的傷害、および種々のアポトーシス・シグナルを検出した・アポトーシスのカスケードにおいて上流に位置するMAPキナーゼ(mitogen-activated protein kinase)ファミリー(ERK、JNK/SAPK、p38)については、錐体細胞でERK、JNK/SAPK、p38の順により広汎に出現していた。また、これらのシグナルの下流で活性化されるカスパーゼ群は、イニシエーター・カスパーゼであるカスパーゼ8および9の出現が錐体細胞で観察されたのに対して、より細胞死に直結したエフェクター・カスパーゼであるカスパーゼ3、6、および7の出現は認められなかった。一方、神経細胞内Aβの免疫反応、とくにAβ42C末端の特異的抗体に対する免疫反応は、いずれのアポトーシス・シグナルよりも広汎に認められ、神経細胞内RNAの酸化的傷害は、Aβ42よりもさらに広汎に認められた。以上のことから、AD脳では、酸化的傷害が引き金となって神経細胞内Aβ蓄積が生じ、その下流で種々のアポトーシス・シグナルの出現が認められるが、アポトーシスを完結に導く後期のシグナルの出現は乏しいことが推定される。AD死後脳で観察される残存神経細胞では、従来知られているアポトーシスの過程がabortiveな段階で停止している可能性がある。
著者
山口 義彦
出版者
長崎県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

女性の肥満の原因を明らかにするために、女性ホルモン(エストロゲン)が、重要な食欲抑制ホルモンである「レプチン」の働きにどのような影響を及ぼすか調べました。レプチンの働きがよくわかるように、レプチン受容体(レプチンを受け取るタンパク)の遺伝子を組み入れた細胞を用いました。その結果、女性ホルモンは、レプチンの働きを強める、すなわち、女性ホルモンが食欲を抑制することが推測されました。
著者
村井 良太 和田 純 井上 正也 中島 琢磨 村井 哲也 宮川 徹志
出版者
駒澤大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

民主政治下での長期政権のメカニズムと政策形成を、日本での最長政権である佐藤栄作政権(1964-1972)の歴史分析を通して考察した。分析には主として首席秘書官を務めた楠田實氏が所蔵していた未公刊資料を整理しつつ用い、また楠田氏自身を理解するために関係者への聞き取りを行った。分析は、佐藤政権の内政(官邸機能や大学紛争など)、外交(沖縄返還や中国問題など)、楠田氏自身に及び、それぞれ本や論文の中で成果をまとめるとともに日本政治学会でのパネル報告やNHKでのドキュメンタリー番組放映を通して発信した。
著者
佐藤 啓介 福島 清紀 奥田 太郎 森川 輝一 宮野 真生子 佐藤 実 新田 智通
出版者
南山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究では、幸福概念を思想史的・文化史的な重層性をふまえて考え直すことによって、幸福概念が、第一に、個人の主観的な幸福感には限定されない社会性・集団性を有した倫理的地平において考察されるべきものであることと、第二に、その幸福は、個人の次元を超えた社会的時間性や、ひいては形而上学的な世界の時間性にまで及ぶような多層的な時間論のなかで考えられるべき余地があることが明らかになった。以上の成果は、近年の社会心理学的な幸福論を補完し修正しうる意味を有していると思われる。
著者
村中 陽子 足立 みゆき 吉武 幸恵 鈴木 小百合
出版者
順天堂大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

医療に於いて、患者の安全は最優先課題である。しかし、ヒューマンエラーによる事故報告は後を絶たない。そこで、現実に起きた事故の分析結果を反映させた事例を作成して、危険予知能力の向上を目的としたe-learning用の教材を開発した。開発したシミュレーション型Web教材は、転倒のリスクが潜む患者2事例、メディケーション・エラーのリスクが潜む看護場面3事例から構成される。学習コースは次の特徴を持つ。(1)随所にリスクの判断を求め、判断内容を自ら入力させることにより主体的学習を促す。(2)解説は、学習者の判断の適切性や十分性を考えさせると共に、一般的知識に繋がるように提示している。(3)判断すべきリスクに対して、適切な対処方法を提示している。(4)危険予知に関するQ&Aにより、知識の強化を図っている。(5)最後に、学習を振り返り、その時点の自分のリスク感性についての評価を入力させることにより、その後の学習で自己のリスク感性の高まりを確認できるようにしている。次に、運用評価を新人ナースと看護学生を対象に行い、システム上の「アンケートに回答する」に入力された内容を分析し、その効果をみた。学習の結果、危険予知に関して知識・観察力が不足していることに気付いた、今後このような場面に遭遇したときの対応を考えることができた、危険がひそんでいるところを見逃していることに気づいた、学生の実習にも看護師の仕事にも生かせる教材だと思った、等の評価が得られた。本システムは新人ナースと看護学生の両者にとって効果的であることを確認した。その要因は、シミュレーションを通して、タイムリーなフィードバックが与えられ自己の傾向をリフレクションすることができるプログラム構成であることが大きいと考える。また、勤務シフトに影響されずに学習できるe-learning環境は主要なファクターであると言える。
著者
山下 浩平
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

好中球細胞外トラップ(NETs)は好中球の新たな細胞外殺菌機構として生体防御に寄与するが、強い傷害因子を細胞外へ放出するため、血栓症や炎症性・自己免疫性疾患などの病態形成に関与することが報告されている。本研究では主に以下の3点、①NETs形成機構に活性酸素の一種である一重項酸素が重要であること、②同種造血細胞移植後の重篤な合併症の一つである血栓性微小血管障害(TMA)の病態形成にNETsが深く関与し、血清NETs高値がTMA発症の予測因子になりうること、③高濃度の尿酸が活性酸素非依存性にNETs形成を誘導し、NETsが高尿酸血症による心血管障害に関連する可能性があること、を明らかにした。
著者
金沢 謙一 近藤 康生 神谷 隆宏
出版者
神奈川大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

中生代日本産ウニ類はすべて日本固有種からなり、大部分の属がテチス地中海地域と共通で北米との直接関係は疑わしい。白亜紀末へ向けてインド-マダガスカル地域との関連が強くなり、また日本固有の属が出現する。新生代になると始新世-漸新世イベントを経て北西太平洋温帯域に適応した属レベルで他に類を見ないウニ類フォーナが出現した。この独特のフォーナの成立には熱帯域における巻貝による捕食が深く関わっていると考えられる。中新世の温暖化と日本海の出現によってこのフォーナは縮小して一部が日本海に残存し、太平洋側には現世へと続く新たなフォーナが成立した。更新世の気候変動により日本海のフォーナは崩壊し、太平洋側のフォーナに置き換わった。
著者
梁 暁虹
出版者
南山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

この三年間、主に「三種音義」(『大般若経音義』(石山寺本)、『大般若経字抄』(石山寺本)、『大般若経音義』(無窮会本)の写本仏経音義)を資料として、漢字学、特に異体字比較研究の角度から研究してきた。その成果は、学術雑誌にて出版した論文が13篇、専著一冊、また国際学術会議で発表した論文が15点になる。その意義を特筆するとすれば、「三種音義」の学術的価値を国際的視野の下に仏教音義研究を位置づけつつ、その資料の重要性を広く学界に紹介することでもある。さらに、異体字研究を通して、漢字が東伝し、新羅や日本へ流入、発展、変遷した過程を跡付ける漢字の文化史を明らかにすることも兼ねる。
著者
児玉 聡
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究では「進化論は倫理に対してどのような含意を持つのか」というテーマについて、規範理論の一つである功利主義を擁護する論者のこのテーマへの取り組みという観点から検討を行った。具体的には、J.S.ミルやシジウィックといった19世紀イギリスの古典的功利主義者たちが進化論を受け入れなかった理由に関する歴史的、理論的な研究を行うと同時に、現代の功利主義者であるP.シンガーが進化論をどれだけ正確に理解し、自らの規範理論に組み込んでいるかを検討した。以上の研究成果について国内外の研究者と意見交換、討議を繰り返し行った。また進化倫理学の概要を日本語の読者に伝えるため入門書の日本語訳を出版した。