著者
山本 芳美
出版者
都留文科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本課題では、19世紀末から20世紀初頭に、欧米や東南アジアに出稼ぎや移民した者を含めた日本人彫師の活動を研究した。各地の研究機関、大学、図書館、博物館などで、新聞や雑誌、古写真、公文書のデータベースや所蔵資料を調べ、香港、シンガポール、フィリピン、タイ、インド、イギリス、アメリカ、カナダで複数の日本人彫師が活動したことを解明した。本研究により、英米に渡った彫師Yoshisuke Horitoyo、香港の野間傳の足跡が判明した。また、船で渡航した当時、客を彫師のもとに効率よく送りこむ、ホテル、古美術商、写真師、彫師間のネットワークが横浜、神戸、長崎に形成されていた可能性も明らかとなった。
著者
井本 正人 土居 靖範
出版者
高知女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

規制緩和の流れの下で、市場原理の活用では対応困難な過疎地域の移動ニーズにどのように応えていくかは交通運輸分野での大きな課題である。過疎地域住民の生活様式と移動ニーズに対応した移動のナショナルミニマムを効率的に確保することは地域生活にとってますます重要となってきている。ここでは、国内事例として、過疎が進行し、過疎バス対策も比較的に進んでいる高知県下の3町村の取り組みについて分析し、また、スウェーデン、スイスにおける移動のナショナルミニマムの考え方とそのレベルアップの取り組み実態について検討することによって、より国際的な視野のもとに過疎地域におけるより普遍的な移動保障のあり方を明らかにした。具体的には、主に次の3点の検討を行う。1.各自治体は、地域のそれぞれの実情をふまえ、法的・財政的枠組みの中で移動手段の組み合わせによる住民満足度の高い効率的運行パターンをどのようにして実現してきているか、検討を行う。2.効率的な運行を実現し、改善していくための主体(自治体、住民、事業者)と財政・負担のあり方について検討を行う。3.我が国の特殊性を明らかにし、過疎バス運行システムに関するより普遍的な考え方と傾向を明らかにするため、EU内での事例を紹介しながら、比較検討を進めるその結果、移動のミニマムについては、朝、診療所等に行き、昼自宅に帰ると行った形での一往復が物理的なミニマムで、朝、昼、夕刻の運行が一般的なミニマムと考えられている。交通手段の組み合わせによる住民満足度の高い効率的運行パターンの具体化方法は国、地域によって異なるが、総じて、路線バスとスクールバスを中心とする複数の移動手段の連携と、様々な移動ニーズの路線バスへの統合といった方法があり、それらにおいて低料金あるいは乗車無料といった方向性が見られる。我が国の場合、いわゆる縦割り行政の下でこうした取り組みがダイナミックには取り組まれにくいといった事情もあるが、財政負担を伴う低(無料)料金での運行については、その効率性の確保と住民の支持が不可欠であると考えられることが明らかとなった。
著者
村瀬 敏之 大槻 公一
出版者
鳥取大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

サルモネラに感染した鶏は本菌に汚染された鶏卵を産出する可能性がある。産卵直後では卵黄よりも、菌の増殖には適当な環境ではない卵白内に菌が存在する場合が多いといわれているため、鶏卵内のサルモネラは、卵黄膜を介して卵黄内に侵入することによって増殖を開始すると考えられる。本研究では実験的汚染モデル卵を用いて、卵内におけるサルモネラの動態を各種血清型間で比較し、抗サルモネラ卵黄抗体の存在がサルモネラの動態に及ぼす影響を検討した。SPF鶏卵の卵黄膜上にサルモネラ(SE並びに血清型インファンティス(SI)及びモンテビデオ(SM))の生菌を100個接種し、25℃で6日間インキュべートしたところ、卵黄内への侵入率及び卵黄内菌数は血清型間で有意な差を認めなかった。また、本菌が卵白内を卵黄に向かって運動することはまれであるが、卵黄の近傍に存在することは増殖に好都合であることが示唆された。SM自然感染を認めるコマーシャル産卵鶏が産出した卵の抗サルモネラ卵黄抗体を検討したところ、断餌による換羽の誘導に伴い感染した鶏が増加した可能性が示唆された。供試卵からサルモネラは検出されなかった。不活化SEワクチンを接種したコマーシャル採卵鶏が産出した卵とSPF卵を用いて、汚染モデルによりSEの卵内動態を比較した。卵黄内への侵入性には両卵のあいだに差が認められなかった。しかし、卵黄にSEを直接接種し24時間後の生菌数は、SPF卵に比べワクチン接種鶏から得られた卵において有意に少なかった。したがって、卵黄内のSEの増殖が卵黄抗体により阻害される可能性が示唆された。
著者
大泰司 紀之 増田 隆一 中郡 翔太郎 須藤 健二 太子 夕佳
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究の目的である琉球列島ジュゴン復元対策として得た結論は;(1)沖縄島に常住する3~4頭について、詳しく調査を行ない、その保全対策を充実させる。(2)フィリピンルソン島北部の沿岸と島嶼についてフィリピンと共同調査・共同保全を行い、増加個体が八重山諸島に分散してくるのを待つ。しかしそれらによる個体群回復や分布復元の可能性は乏しいと言わざるをえない。(3)マレーシアなどのジュゴンが数百頭レベルで常住している地域において、捕獲個体による人工繁殖を行う。その成功を待って、西表島に佐渡のトキの場合のようにジュゴン保護センターを設置し、増やした個体を適地を選んで放す。
著者
佐伯 久美子
出版者
独立行政法人国立国際医療研究センター
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

ヒトES細胞において確立した独自の好中球分化誘導法を駆使してヒトiPS細胞からの血液細胞分化誘導を検討したところ、マクロファージ主体となってしまった。しかし、分化誘導初期には骨髄系の前駆細胞は存在し、これをマクロファージが貪食していると思われる所見を得た。このようなマクロファージによる血球貪食はヒトの疾患でも知られており、その培養系モデルとなる可能性を想定して分子機構の解析を試みた。I型インターフェロン(IFNα1、IFNα2、 IFNβ1)の発現をRT-PCR により解析したところ、ヒトES細胞では3株中1株のみで、ヒトi PS細胞では4株全てにおいて分化誘導に伴ってI型インターフェロンの発現が認められた。以上のように、ヒトiPS細胞からの血球分化においてI型インターフェロン産生が高頻度である傾向を認めた。しかしながら、ヒトiPS細胞の株数(さらには供給元)を増やし、培養条件を詳細に検討したところ、一部の細胞株において、低密度培養条件において好中球優位の分化が認められた。一方、ヒトES細胞でも細胞株数を増やして詳細に検討したところ、細胞株によってはマクロファージ優位の分化が認められた。以上より、ヒトiPS細胞における血球貪食による好中球分化不全には再現性が必ずしも無いことが明らかとなった。
著者
竹内 栄
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

ニワトリの雛や成鶏雌にみられる保護色パターン, 及び成鶏雄に特徴的な婚姻色パターンが, ASIP遺伝子の同一プロモーターの働きによって形成されることが明らかになった。これは, 体色における性差発現の分子機序に関する初めての成果である。また, ニワトリ視床下部におけるASIP発現は, 絶食負荷や高エネルギー食負荷により変動しないことから, 摂食制御以外の機能を持つか, 変異に起因する異所発現である可能性が示唆された。
著者
森田 利仁
出版者
千葉県立中央博物館
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

海棲巻貝サザエ約300個体について、殻の成長方向に障害物(シリコンゴム)を付着させる実験を行った結果、殻の成長に、次のような迂回反応が認められた。1.障害物が成長ルートの上部(殻頂側)に存在するとき、殻口は障害物に衝突する直前に下方(反殻頂)側に向き、障害物を下から迂回し、迂回後に再び上方に向かって成長する。2.障害物が成長ルートの下部(反殻頂側)に存在するとき、殻口は障害物に衝突後、一時前方への成長を停止し、その間殻口が外側に膨張する。その後、下方迂回をしつつ障害物を乗り越える。この二つの迂回パタンはともに、殻成長の方向を決定するのに、頭足塊が殻口の外に伸びる方向が強く関与していることを示唆している。このことを証明するために、あらかじめ内在的に決定されている付加殻の成長形が、頭足塊の伸び方向によって変形されるという、単純な数値計算上のモデルを立て、殻成長と障害物への反応をシミュレーションした。その結果、1.付加殻の成長形がたとえ巻き成長にあらかじめ決定されていなくても、頭足塊による変形によって、巻貝類が一般的に有する規則的な密巻き螺旋成長を生成できることが示された。2.この頭足塊による変形のみで生成された殻成長パタンは、障害物に対する下方迂回パタンを示すことも示された。以上の実験とシミュレーションの結果から、巻貝類の殻の巻き方には、殻口(直接的には殻を作り出す外套膜組織)に対する頭足塊の力学的な押し付け効果が、重要な影響を与えていることが明らかとなった。このことから、頭足塊と殻口との接触が避けられない生息姿勢で殻を成長させる巻貝類が、螺管どうしが重なる、密巻き型の巻き方しか有さないという形態進化のパタンを、古典的な適応進化の結果とする解釈ではなく、むしろ巻き方進化における発生上の制約として解釈することができる。
著者
竹内 栄
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

鳥類ではオスが派手な婚姻色を示し,雌は地味な保護色を示すことが広く知られている。しかし,この羽装色の性差を作り出す仕組みはわかっていなかった。本研究では,おかやま地どりを用い,この問題の解明を試みた。その結果,ニワトリの羽装色が,羽が形成される羽包内の局所ホルモン系(メラノコルチン系)により制御されていることが判明した。また,ニワトリの羽装色はオス型がデフォルトであり,メスでは卵巣由来のエストロジェンがASIP(アグーチシグナルタンパク)の産生を制御することでメス型の羽装色を作っている可能性が示唆された。さらに,本研究では羽形成の仕組みを解明するために重要と考えられる新規の遺伝子が同定された。
著者
日向 一雅
出版者
明治大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

平成7、8年度にわたり、奈良円成寺の「円成寺縁起」・「弥陀霊応伝」・「知恩院縁起」・「円成寺伽藍宝物略縁起」・「円成寺略言志」の調査と翻刻、内容の検討をおこなうとともに、中将姫説話の検討を行った。その成果は明治大学人文科学研究所紀要に発表するところである。「円成寺縁起」と「弥陀霊応伝」は内閣文庫と東京大学史料編纂所にそれぞれ明治期の写本があるが、内閣文庫本は漢字カタカナ交じり文に直され、特定の字を誤読しているが、東大史料編纂所本は大本の美麗な影写本である。「円成寺縁起」と「弥陀霊応伝」は同一人の筆跡であり、ともに慶長十七年(1612)直後の成立と見られる。内容は「円成寺縁起」が円成寺の正史というべきもので、鑑真に従って来朝した虚瀧和尚による創建から慶長十七年までの寺史を記す。「弥陀霊応伝」は円成寺の本尊阿弥陀如来に帰依した十六人の僧侶たちの深い信仰生活を記す。「知恩院縁起」は円成寺と知恩院の略史、並びに師命によって僧侶二人が文明十三、十四年(1481〜2)に朝鮮に渡り、大蔵経を請来した経緯を記す。この時の航海記録である二合船日記の残簡が存する。これらは従来その内容を紹介されることのなかった資料であり、近世における縁起として、また朝鮮との交流史料として特色のある貴重な資料であるといえる。中将姫説話については、これが『観無量寿経』の韋提希夫人の説話の翻案として成立し、後に継子譚と習合して独自な成長を遂げたことを検証した。この中将姫の極楽往生を演出するのが当麻寺の迎講であるが、円成寺においては十二世紀末に四天王寺から菩薩面などを譲り受けて、池上に橋を渡して迎講を行ったという。これは大変珍しい形式で「二河白道」との習合を示すとみられる。
著者
渡辺 輝夫 藤井 義明 播磨屋 敏生 福田 正己 川村 信人 宇井 忠英
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

本研究は1996年2月10日午前8時頃,国道229号線の豊浜トンネル古平側(西側)坑口上部の急崖が崩落し,バスの乗員,乗客と自家用車の運転手20名が圧死した事故に関係する斜面崩落とその災害に関する調査研究である.地質,地形,地球物理,凍結岩盤の物性,気象などに関する研究がまとめられた.すでに1996年9月14日に,豊浜トンネル崩落事故調査委員会が調査報告書を北海道開発局局長に提出しているため,本研究は,その報告内容をふまえ,1996年10月以降に実施した.研究は,復旧工事との関係で今後永久に観察出来なくなる崩落斜面下部の観察を最重点として行なわれた.岩盤表層の凍結深度の変化と気象の関係を岩盤の凍結前から観察することも重点的に行なった.さらに,岩盤崩落の機構に関する考察を深めた.その結果,岩盤下部の表面構造は上部とは違っていることを明らかに出来た.また,崩落面下部では火山レキの破断が特徴的に見られたが,岩石圧裂引張実験から,6MPaで破断することが明らかとなった.これは,岩石上部に少なくとも300mは累重しなければ破断が生じない圧力である.したがって,レキの破断は特殊に応力がかかるか,地質時代にさかのぼる長い時間の出来事であると考えられる.研究はハイアロクラスタイト中の火山岩の全岩化学組成やスメクタイトの鉱物組成も明らかにした.岩石の応力解析の研究は,崖の鉛直面では粘着力の失われたある長さ以上の初期不連続面が不安定に成長すること,水平面では2次連続面が生じ,自由面に達することを明らかにした.凍結一融解の実験は調査地域の気象が岩石の脆弱化を招くことを明らかにした.地質の研究は,地質構造に規制された地下水の浸透面と枝わかれパイプ状の流路と地下水圧が崩落面の形成に関係し,過去の落石も同様の経過で崩落したものと推測された.
著者
小島 毅 横手 裕
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

この研究プロジェクトは、宋元時代における儒教と道教との関係について概要を提示することをめざして行われた。この目的を果たすため、わたしたちはある儒者による『老子』の注解を取り上げた。その著者林希逸は、宋代において『老子』に注をつけた唯一の道学者である。わたしたちは若い研究者数名と共同でその注釈全文を現代日本語に翻訳した。この作業を進めながら、林希逸が儒者としての視点から『老子』をどう扱ったかについて仔細に検討を加えた。林希逸は、老子が残した文言を内丹の修養のための手引きと見なす学者たちに対して異論を提起している。彼によれば、こうした見方とは対照的に、『老子』は政治的なテクストである。林希逸は老子がしばしば比喩的表現を用いているとする。『老子』に見えるそれらの文章が事実を述べたものとみなしてしまうと、真意を捉えることはできない。儒者として、林希逸はそうした比喩が政治に携わる者たちに深い真理を示唆したものだと解釈する。その点で、彼は道教の教説を天下太平実現のために役立つものとしていた。この態度は朱熹のような道学者たちとは異なるが、道学に属さない他の儒者たちと似た傾向を持っている。林希逸の見解はのちに多くの支持者を得ることとなり、彼の注解は東アジアで何百年間も読み継がれた。わたしたちは注解の詳細な情報を集め、データベースを作成し、日本語に訳した。この成果を活用し、より深い研究をめざして今後ともこのプロジェクトを継続するつもりである。
著者
小宮 正安
出版者
横浜国立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

19世紀半ば、オーストリア(またそれを中心としたハプスブルク帝国文化圏)においては「音楽国家オーストリア」というキャンペーンが盛んになり、その象徴的存在として注目を浴びたのがモーツァルトであった。またこの頃から、オーストリアの重要な政策の一つとして観光がクローズアップされ始め、モーツァルトはオーストリアの観光における中心となって現在に至っている。本研究では、このような「モーツァルト・ツーリズム」とでも呼ぶべきオーストリアの観光政策の歴史を文化史の側面から検証しつつ、そこから演繹されるモーツァルト・イメージ、オーストリア・イメージの形成、ならびに我が国のツーリズムへの応用の可能性を探った。
著者
尾里 建二郎 木村 稔
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

脊椎動物における背腹構造の形成機構は発生学上の焦点の一つである。メダカDa(double analfin)変異体は、胴部、尾部において背側が腹側化している表現型を示す突然変異体である。本研究ではDa変異体原因遺伝子のポジショナルクローニング単離を行った。1)メダカ遺伝的連鎖地図の作成とDa遺伝子のマッピング:メダカ遺伝的連鎖地図を作成したところDa遺伝子は連鎖群VIIIにマップされた。Da遺伝子を挟む形で両側に存在するもっとも近いマーカーとDa遺伝子との物理的距離は144kb、及び360kbであった。これは染色体歩行を開始するにあたり十分近い距離であると考えられた。2)整列化コスミドライブラリーの作成:Da遺伝子近傍のマーカーから染色体歩行を開始し、物理的地図を作成するために、HNI系統を利用してメダカコスミドライブラリーを作成した。平均インサート長40.2kbのものが約12万クローン(メダカハプロイド6ゲノム分に相当)384穴マイクロタイタープレート上に整列化した。これらをスクリーニングしてDa遺伝子近傍の2個のマーカーを含むコスミドクローンを得ることに成功した。3)Da遺伝子近傍の物理的地図の作成:このコスミドクローンをプローブとして、メダカ間期核に対してFISHを行い、これらのマーカーが物理的にも近接して存在していることを顕微鏡下で明らかにした。そこで、これら2個のマーカーから染色体歩行を開始し、BACクローンとコスミドクローンを用いて、Da遺伝子を完全にカバーするコンティングマップを完成させ、Da変異を含む最小領域の決定を行った。その結果、70〜250kbの範囲内にDa変異が含まれていることが明らかになった。これによってDa遺伝子は、1個のBACクローンでカバーされることが期待された。
著者
山本 徹
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

脳血行動態が信号強度に反映する測定手段であるファンクショナルMRI(f MRI)と近赤外分光測定(NIRS)を同時に行うことで、脳神経活動に伴う脳血行動態の解釈をより確実にすることを目的とた。まず、(1)微細な脳血行動態測定のための高空間分解能f MRIにおけるアーチファクトの低減を目指した。次いで(2)f MRIとNIRSの同時測定を行い、2つの異なる情報から脳血行動態の解釈を行った。(1) f MRI画像における熱的ノイズ強度を基に画像ノイズを評価する指標を確立した。この指標により、アーチファクトの主な要因として考えられる体動・拍動・呼吸などの生理的揺動の影響を定量的に評価した。その結果、撮像後の画像処理で行われる動きの補正は画像空間分解能が粗いと不十分であり、十分な補正を行うためには1mm×1mm程度の空間分解能が必要であることが判明した。さらに、呼吸による影響は大部分が呼吸に連動した頭部の動きであることがわかり、不随意的な体動と共に動きの補正処理によりそれらの影響が低減することが確認された。(2) MRI装置に複数のNIRS用プローブを装荷し同時測定を行い、手指対立運動による脳活性化を測定した。f MRIで描出されるBOLD効果を反映した領域はNIRSで測定されるデオキシヘモグロビン(deoxyHb)変化と対応している傾向が認められた。NIRS測定ではオキシヘモグロビンとdeoxyHbの変化はover compensation的変化を示す部位が顕著であったが、夫々の変化が現れる部位は多少ずれる傾向があり、動脈と静脈の分布の違いを反映している。さらに、脳神経活動に伴う脳血行動態のさらなる精密測定を行うためには、NIRSの3次元的把握(画像化)によりf MRIでの描出領域との対応解釈を進めていくことが求められる。
著者
高橋 伸夫
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

この研究計画では、生態学的なシミュレーションを使って、さまざまな角度から組織現象の分析を試みている。まず、組織学習を組織内エコロジーとして定式化したJ.G.Marchのシミュレーション・モデルの欠陥と結論の誤りを指摘しつつ、これを再構築している。組織学習とは組織内エコロジーによる組織の適応プロセスであり、組織学習のパフォーマンス向上のためには、組織ルーチンの持続性がある程度必要なのである。同時に、主要研究を、組織学習とはどんな組織プロセスなのか、学習するのが個人ではなくて組織であるとは何を意味しているのかといった観点から整理を試み、組織ルーチンは、個人の手続的記憶を要素としたシステムで、この個人記憶が置き換えられても、要素間の関係パターンについては持続性が生き残り続けるような性質をもっていることを明らかにしている。さらに、複雑系(complexity)の分野を象徴するエージェント・ベースド・シミュレーション(agent-based simulation)を使った分析が試みられる。ここでいうエージェントとは、ユーザの設定したルールに基づいてコンピュータ上で行動する主体を指している。マルチ・エージェント型ではエージェントが複数いて、そのエージェント同士が互いに影響を与え合うことになるので、ルール自体は簡単なものでも、個別エージェントの行動を積み上げた全体では予測できない複雑な動きをすることになる。この研究では、エージェントがより多くの「アイデア」とコミュニケートできるようなポジションを求めて競争する「コミュニケーショイ競争モデル」を開発し、クラスターがどのように形成されるのかをシミュレーションで分析する。イノベーションの分野でよく言及されるT.Allenのゲートキーパーに対応した「大きな」エージェントの機能については特に詳しく調べている。
著者
中川 洋一
出版者
鶴見大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

ムチンは湿潤作用と防御作用をもち、その唾液における重要性は認識されているものの、臨床的な検討は必ずしも多くない。本研究の目的は、ドライマウス患者唾液におけるムチン濃度の測定ならびに、ムチン分泌量と口腔へのカンジダ定着との関連性を調べることである。検討結果から、ドライマウス患者における唾液ムチン量は少なく、また唾液中ムチンはカンジダ定着に抑制に働いている可能性が示唆された。
著者
小田 眞幸
出版者
玉川大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

本研究では報道資料や新聞記事、専門家の発言、一般市民へのネットへの投稿、さらに広告等の映像資料について批判的ディスコース(言説)分析を行った。分析の結果, 外国語(英語)教育に関する「パブリック・ディスコース」が一般の共通知識となり、個々の学習者の外国語学習観に影響を与えて行く過程において一定の規則性があることがわかった。これをもとに外国語教育政策が施行される際におこる諸問題を抽出し、学習者に対処法を提案する
著者
二宮 祥一 楠岡 成雄
出版者
東京工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本研究の目的は、拡散過程X(t)のと関数fが与えられた時に期待値E[f(X(T))]の値を数値的に求める問題(弱近似問題)を、楠岡近似と呼ばれる新しい近似手法によって解決する方法を確立することであった。楠岡の研究により楠岡近似は既存の近似手法である、Euler-丸山近似に比して非常に少ない次元の数値積分によって近似を実現することが可能であることが示されていた。積分次元はMonte Carlo法を用いる限りにおいては、計算量に対して中立的であるので劇的な高速化は期待出来ない。しかし、quasi-Monte Carlo法は積分次元が小さくなると非常に高速になることが知られている。これらの事実から楠岡近似をquasi-Monte Carlo法と組み合わせることにより計算の高速化が期待されるが、現実の問題に適用する為には以下の様な未解決の問題が在った。1.汎用的な楠岡近似オペレータの構成の困難2.楠岡近似にquasi-Monte Carlo法を適用する方法の確立3.現実の問題に適用しての実証例の不在本研究は全ての問題を解決することに成功した。1.に関しては、本研究の開始時点に於いては計算機による記号計算によりオペレータを記号的に求めてそれを計算機上のプログラムに変換するというアプローチを考えていたが本研究で記号計算を経ずに常微分方程式の数値解法を用いる方法が発見された。これにより、非常に汎用性の高いプログラムライブラリが可能となるので、楠岡近似の実用化については決定的な成果であると考えられる。更にこの方法は、高次元正規分布とBernoulli列によって実現されるのでquasi-Monte Carlo法が自然に適用可能である為、2.も同時に解決している。3.については、この新しいアルゴリズムをファイナンスの問題に適用し、800倍という驚異的な高速化を実現した。
著者
秋葉 昌樹 中根 真 熊谷 保宏
出版者
龍谷大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究は、補助金を得た2年間、次に掲げる研究目的により進めてきた。すなわちその目的は、演劇的手法及びエスノメソドロジー分析に基づき、教育・社会福祉領域における反省的実践家をコミュニケーション能力の観点力ら支援するための教育研修の方法論およびネットワーク実践の具体的なモデルを提示することにあった。今日、子ども、福祉援助対象者を取り巻く急激な社会的変化に伴い、教職及び福祉専門職の役割とあり方が問われるようになってきており、教職・福祉専門職のモデルとして反省的実践家モデルが注目されはじめている。しかし、反省的実践は、コミュニケーションプロセスに埋め込まれているがゆえに、その構造・機能・意味については、日常的実践のなかで実践家が「見て知っているが気づかないseen but unnoticed」(H.Garfinkel)ことも少なくないと考えられる。上述の観点から、本研究では、教育社会学(秋葉)、社会福祉学(中根)、応用演劇学/演劇教育学(熊谷)の専門家による学際的共同研究を軸に、実践家自らが日頃のコミュニケーションプロセスを演劇的手法を通じて再体験・再創造し,反省的実践の構造・機能・意味について方法論的アプローチする研修方法を開発するとともにその研修ネットワークを構築することを狙いとしてきた。本研究を進めるにあたっては、全体のコーディネートを秋葉が担当しつつも、具体的には、以下の体制で進められた。教育実践家を対象とする演劇ワークショップ(研修ネットワーク)については秋葉および熊谷が担当し、社会福祉実務家を対象とする研修については中根が担当した。熊谷はまた、演劇ワークショップの枠組を考案するとともに、様々なウェブベースのコミュニケーションツールの試行および開発にあたった。
著者
米林 甲陽 児玉 宏樹
出版者
京都府立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

水道水中に生じる「トリハロメタン」は、水中フミン物質を起源として水道水の前塩素処理や塩素殺菌によって生成するとされている。しかし、天然水中に存在する「フミン物質」は、生体成分とその分解成分から化学的、生物学的に合成された「難分解性有機物」である。また、天然水中にはフミン物質以外に多量の非フミン物質が共存しており、極めて多様な低分子有機物の混合物である。天然水の塩素処理によって生成するトリハロメタンは、難分解性有機物であるフミン物質ではなく、易分解性の非フミン物質から生成すると考えた方が妥当である。本研究は天然水から分離したフミン物質と、もとの天然水についてトリハロメタン生成能を比較して、トリハロメタンの前駆物質が非フミン物質であることを実証する。淀川水系の4河川(木津川、宇治川、桂川、淀川)の環境基準点において経時的に採水を行い、非イオン性樹脂DAX-8を用いる分画法で、疎水性酸(フミン物質)画分、疎水性中性画分、親水性画分に分離した。各画分と原水を、トリハロメタン生成能の測定条件で塩素処理し、ヘッドスペース法でGCMSを用いてトリハロメタン濃度を定量した。水中フミン物質の大部分はフルボ酸であった。各試水から生成したトリハロメタンの大部分はクロロホルムであった。淀川水系河川のクロロホルム生成能は13〜22μg/Lであった。原水とフルボ酸のクロロホルム生成能を比較した結果、フルボ酸の寄与率は15〜24%であった。フルボ酸は溶存有機物の13〜28%をしめることからフルボ酸からの寄与が選択的に高いとはいえない。しかし、クロロホルム生成能の大部分はフルボ酸以外の画分に起因しており、トリハロメタンの主要な前駆物質はフミン物質ではなく、非フミン物質であることが実証された。