著者
松永 久美 萩中 淳
出版者
武庫川女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

ニワトリ輸卵管より調製した卵白中の糖タンパク質であるα_1-酸性糖タンパク質(chickenα_1-AGP)遺伝子のクローニングを行い、chickenα_1-AGPのアミノ酸配列を明らかにした。chickenα_1-AGPタンパク質は、リシルエンドペプチダーゼ、トリプシンおよび臭化シアンを用いて、それぞれ特異的にペプチド結合を切断し、得られたペプチド断片の部分アミノ酸配列をもとに、BLASTホモロジー検索から4つの相同性のあるESTを得た。それらの配列から適切なプライマーを製作し、ニワトリ輸卵管のcDNAからPCRにより、chickenα_1-AGP遺伝子を得た。PCRで増幅した620bpのDNA配列中に、203残基のアミノ酸からなるORFが存在した。相同解析およびchickenα_1-AGPタンパク質のペプチド断片のN-末端アミノ酸分析結果から、卵白中のα_1-AGPは183残基のアミノ酸からなり、2個のS-S結合をもつことが明らかとなった。次に、MALDI-TOFMSによりchickenα_1-AGPのS-S結合および糖鎖結合位置を明らかにした。chickenα_1-AGPにEndo F/PNGase Fを作用させ、糖鎖を完全に水解したchickenα_1-AGP(cd-chickenα_1-AGP)を調製した。cd-chickenα_1-AGPを2 M ureaを含む100mM NH_4HCO_3緩衝液に溶解し変性後、トリプシン消化を行なった。得られたトリプシン消化物の分子量をMALDI-TOFMSを用いて測定し、S-S結合の位置を決定した。cd-chickenα_1-AGPを100mM NH_4HCO_3緩衝液に溶解し、10mM DTTおよび10mM CH_2ICONH_2で還元アルキル化後、トリプシン消化を行なったのち、MALDI-TOFMSおよびシークエンサーを用いて糖鎖結合位置を決定した。cd-chickenα_1-AGPの変性後のトリプシン消化物において、3037.3(ペプチド69-76,161-183)および3453.3(ペプチド69-80,161-183)の[M+H]^+イオンが検出されたことより、S-S結合の位置はCys6とCys146およびCys73とCys163であることがわかった。また、N-アセチルグルコサミンが付加したペプチド、AsnがAspに変換されたペプチドに由来するイオンが検出されたことから、糖鎖の結合位置はAsn16,62,70,77,87であることがわかった。また、62位の糖鎖が欠如したchickenα_1-AGPも存在することがわかった。
著者
長嶋 雲兵
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

化学物質の構造とその活性の間には線形で記述できないような複雑な因果関係があることが広く知られている。これを化学物質の構造活性相関という。従来これらの非線形的因果関係の解析には主に重回帰分析が用いられてきた。しかしながらもともとこの相関は非線形性が強いので、従来の線形の関連を期待する統計的手段を適用するには限界がある。本研究では生体の有する高度な情報処理プロセスをシミュレートするニューラルネットワークの特徴である非線形的な動作に注目し、その化学物質の構造活性相関への適用と展開を目的とする。平成8年度は、ニューラルネットワークシミュレータを本格的に構築した。用いたニューラルネットワークモデルはパーセプトロン型と呼ばれるものである。作成したシミュレータを用いて、ノルボルナン類の化合物の構造活性相関の研究を行なった。また再構築学習法を用いて、ノルボルナン類の化合物の構造活性相関の因果関係の解析を行なった。平成9年度はひき続き、ノルボルナン類の化合物の構造活性相関の因果関係の解析を行なった。加えてデータ間の距離を明示的に含む自己組織化の手法をニューラルネットに取り込み教師データ間の中間領域の予測精度を向上させ、学習方法によらない分類が可能となることを示した。さらに、化学分野に限らず広く振幅と周波数が同時に変化する時系列データの予想に対しても新たにニューラルネットワークを開発し、ニューラルネットワークが従来の線形回帰法に比べ精度の高い予測を行うことが明らかにした。
著者
江種 伸之
出版者
和歌山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

河川の水量・水質に関する野外調査と分布型モデルを利用した水・物質負荷量解析を実施して,果樹栽培が盛んな紀の川流域における水環境を評価した.その結果,物質収支に基づいて既存情報から果樹園における栄養塩類の原単位を算出する方法を構築することができた.また,得られた原単位を利用したモデル解析により,果樹園が広く分布する支流域のTN濃度変化および本川中流部におけるTP濃度の大きな上昇の要因を明らかにすることができた.
著者
和田 修一 岡本 智周 熊本 博之 麦倉 泰子 丹治 恭子 大日方 純夫 大藪 大藪 竹本 友子 大平 章 笹野 悦子
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

後期近代社会としての日本社会は「リスク社会化」という社会構造の変動過程の文脈の中にあるが、こうした「リスク社会化」が生み出す社会環境のあり様にの下で「共生社会」という理念的枠組みを明らかにすることによって、「リスク社会」における「共生」問題の論理的構造を分析し、そのリスク回避へ向けての社会施策を考究するための理論の構築を目指した。この目的のために、初年度では従来の共生社会論の抱える問題点を摘出し、その理論的問題点を実証的に論じるための意識調査を二年度目に実行し、三年度目にそのデータ解析に基づく理論研究を行い、リスク社会における「共生」問題の理論的解明を行った。
著者
鈴木 一有 金山 尚裕 伊東 宏晃
出版者
浜松医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

研究代表者の鈴木一有らは、近赤外線分光法によるこれまで臨床症例において胎盤酸素濃度の測定を行い、胎盤酸素濃度が高かった症例の胎盤病理を詳細に検討した。その結果、chorangiosis(胎盤血管腫症)という胎盤の病態が、胎盤酸素濃度(TOI)の上昇と深く関連していることが判明した。つまり、chorangiosisのある胎盤TOIは75.3%であり、それがない胎盤TOIの68.6%よりも有意に高値であった。(Suzuki K et al, Chorangiosis and placental oxygenation, Congenit Anom. 49;71, 2009)またこれに引き続き、chorangiosis(胎盤血管腫症)という胎盤病理組織所見が臨床的にはFGRならびに臍帯卵膜付着などの臍帯異常と関連があることが判明したため、平成24年度の動物実験による研究をすすめた。 その結果、胎盤TOI上昇が、臍帯の血流不全と大きな関連があることが明らかになった。具体的には、妊娠中に臍帯血流を全圧迫遮断することにより胎盤TOIが上昇する病態を作成することに成功した。また、同時に測定した胎仔のTOIは低下することも確認された。(Suzuki K et al, Transient ligation of umbilical vessels elevates placental tissue oxygen index(TOI) values measure by near-infrared spectroscopy(NIRS) inclawn miniature pig animal model, Clin.Exp.Obstet.& Gyn.39;293,2012) この結果は、胎児の臍帯血流が、胎盤酸素濃度を規定する大きな因子である可能性があるという新しい発見である。
著者
大庭 一郎
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究の目的は、経営学の組織論と人的資源管理の理論を活用しながら、日米の公共図書館における専門的職務と非専門的職務の区分について分析・考察し、日本の公共図書館における新しい職員制度のあり方を解明することである。研究の結果、日米では労務管理と公務員制度に違いがあるが、図書館の専門的職務と非専門的職務を区分し、専門的職務とそれに必要な専門的知識を明確にし、図書館員が専門的職務に専念できる体制を整備する必要があること、が明らかになった。
著者
高橋 修 真山 茂樹 松岡 篤 竹村 明洋 真山 茂樹 松岡 篤 竹村 明洋
出版者
東京学芸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

一般に,生きている放散虫類は共生藻をもっている.それらは黄緑色ないし黄褐色の微小な球状で,そのサイズは3~10マイクロメータの大きさである.共生体を持っている現生の放散虫類の大部分が共生体から光合成によって固定された炭素の供給をうけ,貧栄養環境下でその共生関係を維持している.この研究では、Euchitonia elegans (Ehrenberg), Dictyocoryne truncatum (Ehrenberg),およびSpongaster tetras Ehrenbergの分子系統および超薄切片観察により,Dinoflagellates、chlorophytes、およびhaptophytesなどの藻類がこれらの放散虫に共生していることを特定した.そのうえ,これまで共生藻をもたないとされていたDictyocoryne profunda Ehrenbergの表面に,数多くのシアノバクテリアが共生していることを明らかにした.本研究の結果,異なった種の放散虫は異なった共生体を持ち,それらは強い特異性もつことを示した.もし,仮に同じ放散虫が異なった藻類を複数,共生体として持つならば,それは選択の柔軟性があることを示すかもしれない.しかしながら,現在の結果はこの仮説を否定する.これらの間の柔軟性の欠如は,放散虫に共生体の認識と選別ための一般的なメカニズムがある事を示すものと考える.
著者
福島 茂
出版者
名城大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

1980年代後半以降、クアラルンプル大都市圏とバンコク大都市圏の二つのアセアン大都市圏はグローバル経済と国内経済を結ぶ結節点となり、その産業経済構造と社会構造を大きく変容させていく。大都市圏郊外部では製造業集積、工場労働者や新中間層の拡大と核家族化、モータリーゼーション、郊外住宅開発や商業開発は一体的なダミナミズムのなかで生み出され、郊外都市社会とそのライフスタイルを形成してきた。急速な居住形態の変化は住宅需給構造の変化に起因している。就業構造のフォーマル化が居住形態のフォーマル化を促していった。就業構造のフォーマル化と教育水準の向上は若年層から起こり、しかも、都市圏人口の拡大はこうした若い世代を中核としている。これが住宅需要構造を一変させた最大の理由である。居住形態の急速な変化は量的に圧倒する若い世代の住宅需要とそれに対する住宅供給によるものである。一方、住宅需要の質的な側面に目をむけると、両都市圏とも学歴による職業・職階の階層化がなされており、これが世帯所得と住宅格差につながっている。クアラルンプル大都市圏では中学歴化が進んだ段階でグローバル経済化に接合したのに対して、バンコクでは初等教育水準の労働力が圧倒的に多かった。バンコクの低学歴層の賃金上昇は抑制され、低学歴層の住宅取得をより難しくした。所得格差を住宅格差に直裁的に結びつくことを抑制する、あるいは低所得者層の居住水準を向上させるメカニズムには、(1)公共住宅政策(補助政策)・住宅市場介入策(リンケージ政策)、(2)賃貸住宅市場、(3)住宅市場動向における購入のタイミング、(4)住宅ローンによる過去からの補助金、(5)コミュニティ改善という5つのシステムが確認される。クアラルンプルとバンコクではそれぞれメカニズム(1)(3)(4)、メカニズム(2)(4)(5)が働き、住宅水準の底上げに寄与している。
著者
山岡 健
出版者
大阪教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

1. 静岡県浜名郡雄踏町の青年団の創立は、明治43年2月11日である。村立雄踏実業補習学校卒業生と小学校卒業生を中心として、宇布見全体を統括した青年会が組織された。この青年団は昔から活動が活発で、現在(平成10年度)でも8支部ある。スキー教室・敬老会・浜名湖クリーン作戦・納涼祭・町内水泳大会・静岡県青年祭・三嶋神社祭典・町民体育祭・粗大ごみ回収・浜名郡青年学級などの行事を開催したり、参加したりしている。2. 長野県の上久堅村(現材の飯田市)の小野子青年会は、春(4月)と秋(10月)の神社(小野子諏訪社)の祭礼を取り仕切ることが、大事な仕事であった。それで、「祭事青年会」とか「お祭り青年」とも呼ばれた。青年会はステージを造って、男女一緒に芝居や舞踊などの余興をした。その池、盆踊りをしたり、集落の苗代田に消毒して回ったり、桑畑の手入れをしたりした。いわば、地域の奉仕活動をしたのである。3. 「若者組」は、伝統的文化に基礎づけられた独自のシステム特性が見出される。すなわち、若者集団の内部秩序は、「年輩序列」の原理により、厳しく統制されている。4. 「日本型システム」の特性、(1)日本型システムの人間的基盤は、「関係体」としての「間人」という新たな人間モデルに求められる。(2)「間人主義」の価値観は、「相互依存主義」、「相互信頼主義」、「対人関係の本質視」である。(3)日本社会の伝統的な基層をなす社会システムは、「間人」と呼ぶことが適切である「関係体」を成員とし、彼らに全面的な帰属と生活の場を提供する、高度に自律的・自立的な組織である。5. 「間人主義」の価値蜆が、「若者組」のシステム特性と、どのように関わるのか?このことについて、今後、分析・検討しなければならない。
著者
山崎 博子 本多 一郎 板井 章浩 白岩 裕隆
出版者
独立行政法人農業技術研究機構
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

ジベレリン(GA)およびGA生合成阻害剤(UCZ)処理がネギの分げつ発生に及ぼす影響を調査した結果、分げつの発生はGA処理で促進、UCZ処理で抑制され、UCZによる抑制効果はその後のGA処理によって打ち消された。分げつ性の異なる複数のネギ品種について、内生GA濃度、GA関連遺伝子の発現量およびGAに対する感受性を調査した結果、分げつ性と内生GA濃度との間には正の相関はなかったが、GA処理による分げつ促進作用は、分げつ性の強い品種ほど強く発現した。これらの結果から、GAに対する感受性の違いがネギ品種の分げつ性を決定する重要な要素となっている可能性が考えられた。
著者
小城 勝相 市 育代
出版者
放送大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

メタボリックシンドロームでは脂質代謝が重要であり、特にセラミドが重要な役割をもつことがわかった。シークワーシャーに含まれるノビレチンという物質が脂質代謝異常に関与するタンパク質の発現に影響を与え、メタボリックシンドロームを予防する可能性を見出したが、今後はこのような脂質代謝に影響を与える食品成分が重要であることがわかった。
著者
近藤 暁子 藤本 悦子 山口 知香枝 松田 麗子
出版者
東京女子医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

大腿骨近位部骨折で手術を受けた患者のアウトカムに影響している看護援助として、早期離床を促す声掛けを行っていた場合は合併症の発生率が低く、荷重の許可が出た後、荷重をかけることの必要性の説明や、荷重をかけるよう声掛けを行っていた場合は、退院時の歩行能力のみならず、術後 3 カ月後の歩行能力が高かった。看護師がリハビリテーションにかかわることで、患者のアウトカムを向上させることができる可能性が示唆された
著者
元木 靖
出版者
埼玉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

今日の「都市型社会」の形成は、農林業地域に対して労働力不足や生産者の高齢化、生産物価格等の面で深刻な問題を提起している。本研究では稲作以前からのわが国の土地利用型作物であるクリを事例として、その歴史的動向の整序と今日の実態解明をすすめた。(1)日本列島ではほぼ全国に自生するシバグリが、縄文時代以来高度経済成長期に入る頃まで、食糧や木材、薪炭材等に多面的に活用されてきた。一方、稲作導入以後畿内の古代都市周辺に大粒の丹波系クリの生産が萌芽し、藩政時代にはそれが関東周辺にも普及した。こうした丹波系のクリの栽培は、明治以降とくに昭和初期頃には果樹として注目され、戦後の高度経済成長期になると遠隔の中山間地域をはじめ全国的に増殖され、飛躍的な発展をみた。(2)しかし、高度成長終焉後の都市型社会が進展する過程で、クリ生産は一転して減少をみるようになり、今日ではその栽培地域も急速な縮小基調にある。ただし、クリ生産を持続している地域では、従来のクリ栽培のイメージを一新するような対応を取り始めていることが明らかになった。クリの低樹高栽培の技術が確立され、その方式が各地に普及したことが、大きいな特徴である。そこには、良質グリを求める実需者(菓子メーカー)の期待と生産者の課題を同時に解決する意味が込められている。(3)新しい経営の傾向として、地域により (a)低樹高のクリを機械管理する専業的クリ生産のタイプ、(b)実需者が独自にあるいは生産農家を支援するタイプ、(c)低樹高栽培を取り入れ、限界的な山間傾斜地の生産者が実需者と契約栽培するタイプ、等が見いだされた。これらのうち(c)は生産を期待されながらも、労働力流出間題が深刻で、発展は望めないかもしれない。しかし(a)と(b)の両タイプは将来の農業の展開を考える上で、重要な方向性を示唆しているように思われる。
著者
菊地 立 佐久間 政広 元木 靖 佐藤 信俊
出版者
東北学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

地球温暖化防止を目指した京都議定書が2005年2月に発効した。我が国に科せられた二酸化炭素排出量の削減目標(1990年比-6%)を達成するための重要な施策として,植物の二酸化炭素吸収を組み入れ海外で植林活動を行っている。一方国内では,伝統的な屋敷林が継続的に減少しており,屋敷林が蓄積していた二酸化炭素が大気中に放出されている。この現状をふまえ,我が国の屋敷林中心地の一つである仙台平野中部を主たる対象地域として,以下のような現地調査を試みた。(1)現在の屋敷林の分布,規模,構成樹種(2)屋敷林の気候緩和機能の調査(3)屋敷林植生による大気浄化機能の調査(4)屋敷林の樹木が蓄積する二酸化炭素量の推定(5)屋敷林面積の減少(6)屋敷林を持つ農家の意識調査本研究の結果,仙台平野中部には多くの屋敷林が現存しているが,仙台市の拡大にともなう都市化の波により,過去40年間における屋敷林面積の減少が約40%に上ることが判明した。屋敷林は二酸化炭素の蓄積にとどまらず,気温や風に対する環境緩和効果および大気汚染の浄化機能も顕著であることが確認され,今後とも屋敷林を保護・育成することが重要であることは明らかであるが,住民の意識調査では高齢層は維持の方向,中年層は伐採と開発の方向と2極分化しており,今後の推移は楽観を許さない。何らかの体制的支援策が必要と思われる。
著者
藤田 幸一
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

1990年代以降、最近まで15~20年間のバングラデシュ農村経済の変容を、異なる地域の2つの農村の再調査によって明らかにした。変化を生み出した主な原動力は、管井戸普及による農業集約化、農村内および周辺地域における非農業部門(特に第3次産業)の発展と雇用吸収、ダッカなど都市への出稼ぎの増大、海外出稼ぎの増大などであった。こうした農村経済の発展に伴って所得分配は悪化した形跡があるが、貧困削減は着実に進み、最近の農村では労働力不足の兆候さえ見られるようになった。
著者
阿部 宏慈 中村 三春 大河内 昌 清塚 邦彦 阿部 成樹 中村 唯史
出版者
山形大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究は、日本、英米圏、フランス、ロシア(ソ連)等で蓄積されてきた記号論的分析の成果をもとに、視覚表象が優越する芸術諸ジャンル(絵画、写真、映画、マンガほか)とその周辺領域における「リアル」の意義と機能を明らかにすることを目的として実施された。その目的を達成するため、山形大学人文学部人間文化学科の、特に芸術、表象文化論、視覚表象の理論に関わる研究に携わっている6人の研究者がそれぞれの課題にしたがって分担しつつ、共同で研究をすすめた。その中で、阿部宏慈は主としてドキュメンタリー映画における表象不可能性の問題と「リアル」の概念をめぐる理論的研究と分析をおこなった。中村三春は、映画と文学における「リアル」の表象の問題をむしろフィクション映画を対象として研究した。大河内 昌は、英国十八世紀におけるピクチャレスクの美学とリアルの問題の理論的研究をおこなった。清塚邦彦は、写真における「リアル」の問題を、ウォルトンの哲学的分析を中心に研究した。阿部成樹は、ダヴィッドの「マラーの死」をはじめとする新古典主義絵画における「リアル」の表象を研究した。さらに、中村唯史はマンガにおける「リアル」の問題を、特に最新の理論的成果をもとに研究した。如上の研究を通じて、「リアル」の表象に対する基盤を異にするアプローチを突き合わせることによって、表象をめぐる学際的な研究の可能性が開かれたことが何よりも大きな成果である。表象文化論のアプローチを絶えず純理論的な枠組と芸術史に基づく正確な理解に照らしつつ検証することで、分析の精度を高めることができた。
著者
齋藤 和也
出版者
熊本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

日常生活における歩行は、 周囲の環境に応じて方向転換や歩行停止などに切り替えられる。本研究の目的はこの変換の神経機序を調べることによりパーキンソン氏病で観られる歩行障害の病態生理を解明することである。メダカ成魚において仮想遊泳中の脳活動を光計測することに成功した。また実験モデルとしてメダカ成魚の脳眼球脊髄摘出標本の作製も試みたが、網膜機能の低下などの課題が残った
著者
芹沢 昭示 功刀 資彰
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

内径20μ、25μ、50μ、80μ、100μのsilica tubeまたはquartz tubeを用いた空気-水系(一部蒸気-水系)気液二相流実験とその可視観察を行った。可視観察では倍率150倍の実体顕微鏡、テレビモニター及び高速ビデオカメラを用い(空間解像度0.4μ)、更に超精密レーザー変位計(空間解像度0.4μ程度)を用いた確認実験も行った。以下は得られた研究成果である。1)100μ径以下の超微細マイクロチャンネルを含むキャピラリー管内気液二相流に共通する流動様式として気泡流、スラグ流、液塊流、リング状液膜流、環状液膜流、噴霧流等を観察した。中でも、リング状液膜流れは本研究によって始めてその存在が観察・報告されたもので、従来の知見にない新しい発見であった。2)微細マイクロ流路内の気液二相流挙動が管内壁の表面状態(汚れや濡れ性)に大きく依存することを明らかにした。特に、物理的、化学的に清浄処理した場合には、幾つもの気体スラグがstem状の気体柱によって焼き鳥状に串刺しされた流れが観察された。これは、従来全く観察例が報告されておらず、本研究ではこれをskewered slug flowと命名した。3)20μ径マイクロチャンネルにおける二相流流動様式遷移を纏めて線図として提案した。4)気液二相流の管断面平均ボイド率及び圧力損失実験結果等を検討し、夫々Ahmandの式及び修正Chisholmで近似できることを示した。5)マイクロ気泡運動に関する数値シミュレーション及び実験観察を行い、気泡間干渉に係わる近距離力と遠距離力を考慮した気泡干渉モデルを提案した。
著者
吉村 光敏 白井 豊
出版者
千葉県立中央博物館
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

(目的)既存の干葉県・埼玉県・栃木県・群馬県・神奈川県等の道標データに新発見の神奈川県、茨城県、干葉県内データを加える。東京都の道標のデータベース化を行う。(作業内容)1。資料収集:東京都、神奈川県の道標所在調査データの収集を図書館等で行った。2。現地調査:特に千葉県・埼玉県内の道標につき、-部地域について道標の旧位置確認や銘文の不明瞭個所の再検討作業を行った。3。データベース入力:東京都を除く関東各都県(主に神奈川県)のデータ入力を行う。(データ処理)1。関東地方の都市交通圏図の作成を行いつつある。2。千葉県北東部の道路網図(近世中期、後期)を作成した。(結果)1。関東地方の都市の都市交通圏は径15-20キロの略円形の交通圏をもつ、地方中心都市の交通圏が併存していることが確かめられた。2。江戸の近傍には日帰り、1泊の参詣旅行ルートに対応した網の目状の交通路が近世後期に発展した。それに対し、より遠方では、主な街道沿いの通過交通を主とした交通網が形成された。この道路網の形態は単線状で、主要霊場あるいは湯治場を結ぶ道であった。この道に沿道の寺社霊地が組み込まれた交通網が形成されたらしい。3。収集したデータをもとに、処理作業中であり、図の完成には至っていない。
著者
飯田 恭
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

19 世紀前半のプロイセン農業改革の過程において、農民の領主に対する建築用木材の請求権の償却が重要な争点の一つになっていた、ということが本研究の第一の発見である。この発見を出発点としつつ、本研究は、領主の農民に対する建築用木材下付の史的展開を、17-19 世紀のより長期の歴史的展開の中で論じた。これは従来農業史的文脈のなかで論じられてきたグーツヘルシャフトの歴史を森林史的文脈において論ずる新しい試みである。また以上のプロイセン史に関する実証的知見をもとに、日本とプロイセンの近代林政史の類似性を強調する研究への若干の反論を行った。