著者
水嶋 一憲
出版者
大阪産業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

本研究は、A・ネグリとM・ハートによる帝国論の新展開と人文・社会諸科学における情動論的転回が共有する意義と射程を明らかにしつつ、今日のグローバル資本主義の中で情動が果たす極めて重要な働きを分析した。特にネグリとハートの『コモンウェルス』を翻訳するとともに、メディア理論の最新の成果も取り入れつつ、(1)〈帝国〉の情動諸装置のメカニズム、(2)グローバルな制御社会における情動の流通と調整、(3)ソーシャル・メディアによる情動の捕獲等について、研究を進めることができた。これらの研究成果は、今日のグローバル化したネットワーク社会の中で情動の諸相を探究するためのプラットフォームを提供するものである。
著者
小粥 太郎 道垣内 弘人 沖野 眞己
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

研究代表者および研究分担者は、研究課題に掲げた諸問題について、現行法の内容・問題点・改正の要否を詳細に検討した上で、包括的に改正の提案をまとめ、公表した。また、検討過程および提案内容の詳細および背景については、2009年度中にその解説という形で公表される。この成果は、今後、本格化することが予想される民法(債権法)改正作業の基礎となることが期待されるものである。
著者
沢山 美果子
出版者
順正短期大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究の目的は、仙台藩領内に残された懐胎、出産をめぐる史料を手がかりに、近世民衆の生命観と身体観を明らかにすることにある。またその特色は、1)死胎、流産に関わる死胎披露書という個別の女性たちの妊娠、出産のプロセスにせまる事が出来る史料を手がかりに、女性たちの労働と身体観、そして胎児、赤子の生命観の内実にせまること、2)近年、各地域をフィールドに進展してきた生命観、身体観をめぐる研究に学びつつ、今まで収集した仙台藩東山地方の史料の読み直しも含めて、身体観、生命観を明らかにするという点にある。なお仙台藩の支藩である一関藩のことを含めた検討については別に発表した(研究発表、参照)ので、報告書では、仙台藩領内を中心に、近世民衆の生命観と身体観への接近を意図した。その結果明らかになったことは四点ある。一つは、仙台藩の赤子養育仕法、そして一関藩の育子仕法が人々にとって持った歴史的意味である。妊娠、出産について厳しく管理する懐胎・出産取締りの制度は、むしろ人々の出生コントロールへの意思を意識化させる側面を持っていたという点である。二つには妊娠・出産や堕胎・間引きをめぐる藩・共同体・家族と医者、産婆の関係、とくに人々の堕胎・間引きの要求に応じる民間の医者や産婆の存在が明らかとなった。三つには、流産、死胎、堕胎の方法に関する史料群を読み解くことで民衆の出生コントロールへの意思を明らかにすることができた。四つには、近世後期の診察記録や仙台藩領内に配布された薬を探るなかで、医者の診察記録は民衆の生命観、身体観を探る上での重要な手がかりがあることが明らかとなった。
著者
沢山 美果子
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究では、東北日本の一関藩をフィールドに、一関藩の「育子仕法」のなかで作成された史料群をおもな手がかりに、武士、農民家族の性と生殖について、妊娠、出産という具体的な局面に即して追究した。その結果、「家」の維持・存続と子どもの養育との矛盾のなかにあった農民と下級武士は、堕胎・間引きなどによって出生をコントロールしようとし、そのことが、死胎披露書に記された高い死産率の原因と考えられることなどが明らかとなった。
著者
亀山 佳明 西山 けい子 村澤 真保呂
出版者
龍谷大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

われわれの研究の主要な目的は、スポーツや芸能、ダンスなどの身体的パフォーマンスがリズムとどのように関係するかを調べることであった。この目的を達成するために、まず一方において、パフォーマンスとリズムに関する過去の研究や文献を渉猟し、それらを詳しく調べることによって理解することをめざした。また、もう一方において、特定のパフォーマンスを選定して、それらの現場に足を踏み入れ、調査することであった。ここで選定されたのは、スポーツ領域ではサッカー(びわこ成蹊スポーツ大を中心とした関西学生リーグの参与観察と監督・選手へのインタビュー調査)とボート(龍谷大学ボート部の朝日レガッタにおける活動の参与観察と選手へのインタビュー調査)、また芸能では能(金春康之氏の公演取材とインタヴュー取材)、さらにダンス(黒田育世氏の公演取材)などである。これら両者の活動を平成17年度から18年度にかけて並行して行いながら、考察のための基礎的なデータ収集に努めた。さらに、それらのデータと先の理論研究を相互につき合わせることによって、パフォーマンスとリズムとの関係についての探求のための研究会を重ねた。そして、平成19年にいたって、以上のような基礎的な作業にもとづいた、われわれの研究の成果を日本社会学会などいくつかの学会において発表するとともに、それらの一部を『龍谷大学大学院研究紀要』等に掲載してきた。パフォーマンスの研究は社会学の領域においては、いまだ確立されていない状況にあり、そこに、われわれは「リズム」という方法論からのアプローチを試みた。リズムという視点にこだわったのは、リズムを介してパフォーマーの身体が生成するという考え方に由来しており、この点から、パフォーマンスを「身体の社会学」として考察することが可能となるからであった。われわれの調査研究にもとづく身体の生成論的研究は社会学の領域に新しい知見をもたらすといえよう。
著者
高橋 美穂
出版者
東京海洋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

東京湾と相模湾の海水を採水し、シリカ化学種の変化から、シリカ(ケイ酸)の消費挙動を検討した。一般には春に相模湾で珪藻の栄養となるシリカ化学種が枯渇するが、2003年の冷夏では、春の時点で、東京湾、相模湾ともに、珪藻の栄養となるシリカ化学種が枯渇することなく余っていた。夏季の影響は秋季には通常の暑さの年と同じ、状況に回復していた。このことから、春にその年の夏の暑さについて珪藻のシリカの摂取のされ方から予測できると考えられる。また、淡水では、このシリカ化学種の測定が難しかった。そこで、まず、淡水に存在するシリカの調製を行った。また、この溶液を用いて、質量分析計によるイオン化方法を変え、測定方法によって生じるシリカの検出される化学種の比較を行った。
著者
齋藤 雅通 池田 伸 土居 靖範 近藤 宏一 谷口 知弘 棚山 研
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

調査に基づく共同研究の結果、研究論点として、ドイツの各都市でNPO法人によって推進されている都市マーケティング(Stadtmarketing)の重要性を析出した。また都市マーケティングは、都市型サービス産業が直面している課題の解決の一視点でもあると結論づけた。この点を具体的に明らかにするために2005年2月および9月に、マンハイム及びケルンの都市マーケティングNPO及び商工会議所、市役所(スポーツ局、文化局)、地域スポーツNPO等関連団体へのインタビューと資料収集を実施した。都市マーケティングのより深い究明については、今後も継続して研究する課題である。各メンバーによる研究としては、(1)齋藤雅通は、ドイツにおける都市型の小売商業集積であるパサージュの実態調査に基づいて理論的可能性と限界を明らかにした。(2)土居靖範は、ドイツのケルンおよびカールスルーエの都市交通経営体や運輸連合の調査を行い、財源調達のしくみを主に解明した。またLRTの国内への導入を、具体的にJR富山港線のLRT化の経緯と課題を調査研究した。(3)近藤宏一は、主にドイツにおける都市公共サービス、とりわけ文化・芸術関連サービス(オーケストラ、歌劇場、美術館)と観光および公共交通にかかわる組織の現状と課題について調査と資料収集を行った。(4)棚山研は、サッカーの日韓W杯開催時から開催地である新潟の継続調査と調査データの整理を行った。併せて、2度にわたるドイツのスポーツクラブの調査を通じて、日独のスポーツクラブの運営、生活文化への定着度についての比較を試みた。(5)池田伸は、現代都市における消費者研究およびそれに係わる調査方法論について、社会統計学や文化人類学などの周辺領域の成果を含めて検討した。その結果,現代都市のポストモダニティをマーケティング(消費者行動)の社会学として構想するにいたった。(6)谷口知弘は、京都市出町地域の取り組みの現地調査に基づいて、市民参加のまちづくりについて論究した。
著者
G・M McCrohan PAUL G. BATTEN
出版者
香川大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究はコミュニケーション方略の明示的指導が学習者の方略使用に与える影響を報告し、彼等の方略使用における変化を観察し、さらに方略使用に対する彼等の自信の変化を報告することをその目的とする。分析の結果3年間の調査期間中により多くの種類のコミュニケーション方略を使用するようになっていることが明らかになった。しかしながらあるタイプの方略 についてはその使用頻度が増えることはなかった。調査参加者はそれらの方略を自信を持って使用することができなかった。また、学習者は、対話者の上下関係に応じて、自分たちの発話言語を切り替えることができず、CSsの練習に合わせて語用論的能力の訓練も必要であることも分かった。
著者
岩崎 洋一郎
出版者
九州東海大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

交差点付近のビル屋上に設置したビデオカメラにて歩行者交通流を撮像し、その映像から画像処理によってある瞬間の横断歩道上に散開した歩行者の空間的な分布を得る。次に、その1コマの分布パターンをエントロピーによって定量化し、歩行者交通需要をマクロに推定する手法をこれまでに提案した。本研究では、そのエントロピーの変動に感応して歩行者青信号時間を調整する新たな歩行者交通信号制御方式を提案した。これは、エントロピーの値によって歩行者交通需要を推定し、毎サイクルその値に応じて歩行者青時間を最適に調整する制御方式である。本方式を適用することによって、不要な歩行者青時間を排除でき、特にスクランブル交差点ではそこを起点として延伸する自動車交通渋滞の緩和が期待できる。なお、歩行者交通需要が減少し青信号から青点滅信号へ切り替える際のエントロピー閾値について実画像処理結果およびシミュレーション実験結果を基に検討した。その結果、通常の横断歩道では2.5bits、スクランブル交差点では3.0bitsが最適なエントロピーの閾値であることが判明した。次に、交通信号制御の最小周期は1秒であることから、より処理時間の掛からない簡易な画像処理・エントロピー計測手法を提案した。その結果、PentiumIII600MHz程度のCPUを搭載したパーソナルコンピュータと画像処理ボードにて、画像処理およびエントロピー算出を1秒以内で完了できることが示された。さらに、画像処理によって歩行速度の極端に遅い歩行者(交通弱者)を検出し、歩行者交通需要が途絶え、エントロピーが減少した後も、その歩行者が安全に横断できるだけの時間を青点滅信号の延長によって確保する機能を付加した歩行者交通信号制御方式も提案した。
著者
本田 弘之 泉 文明
出版者
杏林大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

3年間にわたり、5回、のべ3ケ月にわたるフィールドワークをおこなった。フィールドとして選定したのは、中国黒龍江省および遼寧省である。他に対照地域として、吉林省、上海市などでも調査をおこなった。調査の内容は、日本語教育機関における参与観察と日本語教員に対するインタビューである。「満州国」時代、日本語教育は日本人によって、侵略政策の一環としておこなわれた。したがって、1945年以降、日本語教育は一度消滅する。しかし、文化大革命が終了した1980年代はじめ、中国で外国語教育が再開された。朝鮮族の民族中学では、1945年以前に日本語を学んだ人々が教師となり、ふたたび日本語を学びはじめた。日本語と朝鮮語は統語構造が類似しているため、朝鮮族にとって学びやすい言語である。そこで、朝鮮族の人々は、自分たちの民族教育を発展させるために、日本語教育を選択したのである。そして、その日本語教育は、時代とともに、大きく変容してきた。本研究により、いままで日本語教育史研究の空白となっていた、「満州国」における朝鮮人に対する日本語教育と、現在の中国朝鮮族の民族中学における日本語教育の関連性が、はじめて具体的に明らかになった。また、その日本語教育が、どのように変容し、自律していったかを、詳細に明らかにした。また、その調査にフィールドワークとライフヒストリー調査という質的研究法を用い、「学習者の立場から日本語教育史を考える」という新しい発想を具体化することができた。
著者
平川 守彦
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

「亜熱帯における島嶼型アグロフォレストリーシステムに関する研究」の一環として下記の通りの成果を得た。本研究の実験現場は,今なお,大戦時の不発弾が多数存在するため機械による造成はひじょうに危険である。そのため蹄耕法(不耕起造成)により野草地を利用している。しかし,自生する野草は放牧牛にとって嗜好性が悪く,また,栄養価や再生力も劣るため改善する必要がある。その改善策として,短草型牧草であるセントオーガスチングラス(St.Augustine grass)の導入を試みた。方法は,(1)過放牧後(草高約5cm)(2)火入れ後(3)裸地(地際除草)の区画に30×40cmのセントオーガスチングラス張芝を植え,積算優占度,草量の推移を調査した。その結果,セントオーガスチングラスの積算優占度は,火入れ区において常に70%を維持していたのに対して,裸地区・過放牧区においては低く,20%であった。乾物重は火入れ区,裸地区,過放牧区の順に多かった。火入れ区以外は雑草の占める割合が高かった。以上のことから,火入れ後に張芝を植える方法が,雑草の侵入を防ぎ,セントオーガスチングラスの生育に良い効果をもたらすことがわかった。今後はセントオーガスチングラスの生育を長期間調査し,その牧草の導入が野草地の造成を可能にすることができるかどうかを調べる必要がある。また,アヒルと食肉鶏を利用したウコン畑の雑草防除を比較行動学的に調べた結果,両家禽ともウコンより雑草を好んで採食するため除草作業の一役を担うことがわかった。しかし,アヒルでは休息行動が多くみられ,踏み倒し行動による雑草防除,一方,食肉鶏では,探査行動が多く,つつきによる防除が認められた。
著者
齊藤 愼一
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

本研究の目的は、持久性運動後に低下した筋グリコーゲンの回復について、炭水化物摂取タイミングの栄養効果をヒトで明らかにすることに加えて、もっと簡便にその効果を知ることのできる方法の開発にある。平成9年度には、夕方の練習で低下した筋グリコーゲンを翌朝の早朝練習の前までに充分回復させるために、夕食のタイミング(練習終了後から夕食まで)のあり方に目標を絞って、以下の様に検討した。すなわち、健康な成人男子を用いて、1週間の間隔をとって2回、2日間づつの実験日を設けた。いずれの実験でも第一日の夕方に10キロメートルを負荷し、その直後にウエイトトレーニングを負荷した後に、調製した夕食を運動負荷終了後1時間以内と、3時間後の場合の2つに分けて実験を行った。いずれの実験でも一夜安静に休養させた後の翌朝の朝食前に大腿筋より筋サンプルを採取した。また、前日の運動直後にも大腿筋より筋サンプルを採取した。これらのサンプルの筋グリコーゲンを分析した。その結果、運動直後に夕食をとると翌朝の筋グリコーゲン量は高くなり有意に回復したが、運動3時間後に夕食をとると回復が不完全なものが認められた。したがって、夕方の練習で低下した筋グリコーゲンを、翌朝の朝練習前までに回復させるには確実性が高いことがわかった.平成10年度は、平成9年度とほぼ同じ実験をおこなった.第一日の夕方のトレーニング後に、調製した夕食を運動負荷終了2時間後にとる条件で、1つは運動直後に高糖質食のコーンフロステをとる場合ととらない場合の2つに分けて実験を行った。いずれの実験でも一夜安静に休養させた後の翌朝の朝食前に血液を採取し、その後に調整食をとらせ、その後15,30,60,90分に採血した。その結果、運動直後に高糖質の補食をとっても翌朝の朝食後の血糖反応に差はなかった。
著者
岩崎 竹彦
出版者
熊本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

現在、各地の地域博物館で行われている回想法について、博物館の関与の在り方から3タイプに分類し、それぞれの長所、短所を明らかにした上で望ましい実践方法を提言した。民具がなぜ高齢者の豊かな回想を引き出しうるのかを展覧会を開催することで広く社会に周知すると共に、民具の文化財価値の啓蒙普及に努めた。また、そうした活動を通して回想法は博物館振興につながることを明らかにした。さらに現代人の記憶から時々の社会・時代を象徴するモノが見えてくることを提言し、歴史博物館の現代史展示及び近現代の生活文化にかかる資料収集に有効な事例を収集した。
著者
森 あおい
出版者
広島女学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究では、メインストリーム社会から無視され、沈黙を強いられてきた人々の社会・文化表象を考察し、再評価することで、権威主義に対抗するマイノリティ・ディスコースの理論を構築することを目的とし、社会的に周縁化されてきた人々の存在を回復し、多様な価値観の上に成り立つ、他者を受け入れる寛容な社会を実現する可能性を明らかにした。
著者
本條 毅
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

都市気候の形成による環境の悪化に対して、有効な対策は非常に少ない。特に日本の場合、夏期の冷房による電力消費の増大とそれによる気温の上昇は、深刻な都市問題の一つであり、地球温暖化の原因の一つでもある。都市内の緑地は、植物の蒸発散による潜熱放出が大きいため、高温乾燥化を緩和する機能を持つと考えられ、緑地の存在は、いわば、パッシブな冷房装置として、都市の高温化に対する数少ない対策の一つである。保水性のよい材質で、道路や壁面を覆うのも同等の効果が望まれる。都市緑地や保水性材料舗装面(以下まとめて緑地とよぶ)の微気象の測定は、気温、湿度分布の測定、熱収支の測定などが多く行われており、緑地などが低温であることや潜熱輸送量が大きいことが示されてきたが、緑地の影響がどの程度の範囲まで及ぶかや、緑地による冷却効果がどの程度などの、都市計画に必要な知識については、まだ不足している部分が多い。本研究では、従来の地上部を中心とした測定に加えて、従来測定例の少ない地下部の温度分布にも着目した。地温は深ければ深いほど、長期の地表面上温度を平均、平滑化した値となるため、長期の地上部での気温の影響を地温分布測定からある程度推定することが可能である。長期的な緑地による冷却効果も、緑地内外の地温分布から推定できる可能性がある。新宿御苑を対象として、緑地内外での気温、地温分布、風速、熱収支などの測定を行った。このような測定をもとに、都市緑地での地温分布の実態や、熱収支の推定を行った。
著者
柳井 重人
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究で,千葉市を対象に,(1)地区の環境特性に対応させた個別的なヒートアイランド対策のあり方,(2)ヒートアイランドが住民の屋外活動での快適感や健康に及ぼす影響,(3)ヒートアイランドが環境意識や生活行動に及ぼす影響を把握することを目的に実施した。第一に,土地利用や緑地分布等の環境特性と移動観測による気温分布に係わるデータをGIS上でデータベース化し,多変量解析の手法を用いて地区の類型化を行った。その結果,調査対象地域は7つに類型化され,それぞれの類型の地理的な分布はもとより,環境特性と気温分布との関連性に基づいた,地区スケールでのヒートアイランドの個別対策の方向性が示唆された。第二に,住宅地の街路や公園内の温熱環境を,不快指数(DI),SET*,WBGTの3種の指標に基づいて検討した。その結果,夏季日中の屋外空間は,総じて不快であり,熱中症予防の観点からは運動にも適していないこと,公園内の樹林地についてのみ夏服で胡座安静の状態であれば,不快のレベルには達しないという状況にあることなどが把握され,地域住民の野外活動において,蒸し暑さのような不快感や熱中症予防の面でのリスクが存在すること,緑陰の配置によりそれらが緩和される可能性があることが示唆された。第三に,臨海部よりの市街地中心部に位置し日中から夜間にかけてヒートアイランドが形成される地区と,郊外部に位置し夜間や早朝に低温域が形成される地区で住民意識調査を実施した。その結果,両地区間で,夏季の気象に係わる認識の程度,クーラーの使用時間,屋外行動の頻度などの差異が把握されたほか,ヒートアイランド対策に関しては,一般に,公園や街路樹の整備,木陰の創出,郊外部の樹林地の保全など,緑地の整備や保全を中心に認識が強いことが把握された。
著者
岩坪 美兼 太田 道人
出版者
富山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

わが国には、400品種以上のサクラ品種が知られている。わが国のサクラは,二,三,四倍体からなることが知られていたが,それらのほとんどが二倍体であることが判った。なお。シラユキ系里桜のウスズミ(薄墨),オキナザクラ(翁桜),カリギヌ(狩衣),それにシラユキ(白雪)は全て三倍体であった。また,松前に存在,もしくは松前で育成されたタカサゴ系のサトザクラは,チョウジザクラが片親になった雑種群として知られているが,これまでに染色体数が判明した品種は,タカサゴ(別名;ナデン,ムシャザクラ;高砂),ベニユタカ(マツマエベニユタカ;紅豊,松前紅豊),マツマエハヤザキ(ケチミャクザクラ;松前早咲,血脈桜)すべて三倍体であった。片親がシナミザクラ(四倍体)と考えられているマザクラ群のサトザクラのアマヤドリ(雨宿),アリアケ(有明),オオヂョウチン(大提灯),クルマドメ(車止),コマツナギ(駒繋),シロタエ(白妙),センリコウ(千里香),タイハク(太白),ダイミン(大明),マザクラ(真桜),マンゲツ(満月),ワシノオ(鷲の尾),それにカンヒザクラ群の染色体数が判明じたツバキカンザクラ(椿寒桜),ハツミヨザクラ(初御代桜),ミョウショウジ(明正寺),それにケイオウザクラ(敬翁桜)は,すべて三倍体であることが判明した。それに対してしかし,ヤマザクラ(オオヤマザクラを含む)群,カスミザクラ群,オオシマザクラの影響が認められるサトザクラ群,それにエド系のサトザクラ群には,三倍体が全く見つからなかった。シナミザクラを祖先とする三倍体グループを除いて,サクラの核群を比較すると,三倍体が多い群,僅かに存在する群,全く見つかっていない群が存在し,グループにより三倍体の出現率に違いが認められた。
著者
西村 英紀 高柴 正悟 苔口 進 江草 正彦 高橋 慶壮
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

(1)ダウン症患者の末梢血好中球機能:ダウン症患者の好中球走化能を走化因子としてFMLP,IL-8,C5aを用い評価した。その結果,ダウン症患者由来好中球は用いたいずれの走化因子に対しても濃度依存性に走化性を示した。また至適走化因子濃度における遊走細胞数は同年代の健常対照と同程度であり,機能低下はなかった。すなわち従来報告されているような好中球の走化能に機能低下はなかった。(2)in vitroにおける組織修復機能:ダウン症患者の体細胞は,健常者に比べ,より急激な速度で老化(replicative senescence)することが知られている。これは,細胞の老化マーカーであるテロメアの短縮速度が正常細胞に比べ速いことに起因する。また,静止期に達した細胞では増殖因子による刺激に対して細胞増殖に必須の転写因子であるc-fosの発現が低下することが知られている.そこで,ダウン症患者の体細胞モデルとして老年者由来細胞を用い,塩基性線維芽細胞増殖因子に対する走化能を若年者由来細胞と比較した。細胞には歯周組織の再構築に最も重要であるとされる歯根膜線維芽細胞を用いた。生体の老化に伴って,歯根膜線維芽細胞の遊走能が低下した。また,走化したすべての細包がc-fosを発現しているのに対し,遊走しない細胞では。c-fosを発現した細胞とそうでない細胞が混在していたことから,c-fosが細胞の遊走に関与すること,また老化細胞における走化活性の低下にc-fosの発現低下が深く関与することが示唆された。以上の結果から,ダウン症患者に見られる重度歯周炎の成因には,従来報告のある好中球の機能低下よりも,生体の急激な老化現象がもたらす歯根膜組織の修復能力の低下が関与する可能件が示された。
著者
小林 多寿子 桜井 厚 井出 裕久 小倉 康嗣
出版者
一橋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

1970年代末のライフストーリー法リバイバル期より蓄積されてきた質的調査データは今、歴史的価値を持ち始め、調査資料の管理保存や二次利用をめぐってその扱い方が問われている。そこで質的調査研究におけるデータ実態と問題点を明らかにし、今後の活用可能性を検討するために、<リサーチ・ヘリテージ(調査遺産)>とアーカイヴ化という視点から質的調査データの経験的研究に取り組んだ。3年の研究期間中、質的調査者へのアンケート調査、アーカイヴの事例調査、社会学者の質的調査資料群調査という3種類の調査を実施し、その成果はフォーラムや学会シンポジウムでの報告、学会誌での論文発表や報告書の作成という形で研究成果を示した。
著者
後藤 弘志
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

マルティン・ゼールの美学を、主としてその著『現出することの美学』(2000)におけるカント、シラー、ニーチェ、アドルノらとの対決に依拠して、客観的認識か主観的感情か、感性的認識かイデア的認識か、美的対象は実在か仮象か、自然美の優位か芸術美の優位かといった、従来の美学思想の分類項目をすべて包括する美学として美学思想史上に位置づけた。これによってよき生の枠内における美的要素の意義について再検討する基礎を確立した。