著者
平沢 達矢
出版者
独立行政法人理化学研究所
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

横隔膜は、哺乳類系統で独自に獲得された進化的新規形態であるが、その起源や初期進化については未解明のままであった。本研究では、基盤的単弓類をはじめとした化石骨格の調査とHox遺伝子発現パターンの観察を通じて、横隔膜は祖先動物の肩の筋から進化したという新しいシナリオの証拠を得た。また、胚発生における外側体壁の変形を解析し、羊膜類では心臓の位置が胸郭内部に移動する際に頚部レベルの外側体壁も同調して胸郭内部に引き込まれるが、哺乳類の横隔膜はこれを基盤として胸腔と腹腔を分ける構造として成立したと考えられた。
著者
幸田 正典
出版者
大阪市立大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2014-04-01

魚類における複数の社会的認知能力を解明し、脊椎動物の認知能力の起源について検討してきた。顔認識、自己鏡像認知、意図的騙しに関して研究を行ったなかで、顔認識については大きな進展があった。本研究で、さらに2種のカワスズメ科魚類で顔認識していることが明らかにできた。さらに、顔認識ができる魚種では出会った相手の顔を最初にかつ頻繁に見ることを独自の実験装置を用い実証検証を行った。これは、魚類ではじめての確認である。また倒立効果も既知個体の顔模様だけに確認された。このことは、顔認識の系統進化が魚類にまで遡り可能性を示唆しているし、さらにほ乳類で知られる「顔神経」が魚類にも存在するとの仮説を提案した。
著者
堀田 典裕
出版者
名古屋大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究は、1960年代初頭に建設された「伊勢湾台風復興住宅」の全容を解明し、その建築デザインについて史的考察を加えたものである。最初に、伊勢湾台風後の復興都市計画と公営住宅に関する資料の悉皆調査を行い、次に、現存住宅の実測調査を行った。前者では、自治体による都市計画のみならず黒川紀章や浅田孝による農村都市計画を、干拓地の復興計画という観点から再評価し、後者では、勝田千里(鍋田干拓・川口干拓・平坂干拓)や小菅百寿(城南干拓・水茎干拓)によるCB造住宅と、農林省(多芸輪中)によるRC造集合住宅について、同時代の都市住宅における建築計画と構法が応用された実験農村住宅として評価した。
著者
満倉 靖恵 神崎 晶 浜田 望
出版者
慶應義塾大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2012-04-01

耳鳴りの音を外部から推定することは困難である.耳鳴り患者は医師にその音を"キーン","ジイジイ"と鳴る,などの表現で伝えるが,医師にその音は判らない.これまではピッチマッチ法装置を用いて音の推定を行って来たが,ピッチマッチ法は病院のみで扱える特殊機械であり,音が日によって変化する耳鳴りを正確に知る方法としては相応しくなかった.そこで本研究課題では,簡易に計測できる脳波計を用いてスマートフォン上で取得した脳波を用いて耳鳴り音の特定を行うことを第一の目的とした.また,耳鳴り音として聞こえている周波数の逆位相を持つ音を出すことで,耳鳴りを軽減することができるかどうか,検証する事を第二の目的とした.
著者
中山 和弘 大坂 和可子
出版者
聖路加国際大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究は、患者が治療法や療養生活の選択において、エビデンスに関する情報を得られて、自分の価値観をつないで意思決定できるガイド(ディシジョン・エイド)を開発することを目的とした。難しい決定の1つである乳がんの術式選択に焦点をあてディシジョン・エイドを開発した。開発過程では、1)患者のニーズ把握、2)試案作成、3)体験者による内容評価、4)医師と看護師の確認、を行った。手術を受ける予定のある乳がん女性にディシジョン・エイドを提供し評価を行った結果、意思決定ガイドの提供により意思決定の葛藤の減少に効果があった。
著者
糸井 充穂 宇田川 誠一 田近 謙一 田代 健治 大竹 伸一 阿部 建之
出版者
日本大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究では、医学教育に必要でありながらカリキュラムの改正や削減で十分に時間を割くことができない理数系の基礎科目を一般教育で強化・充実をはかるために、物理学・数学及び生物学分野を融合した、視覚的・実質的な数理複合教材を開発した。具体的には、ハイスピードカメラを用いた物理学実験の試行やJAVAシミュレーションの視覚補助教材効果の検証と医学教育と関連した物理学実習項目の強化を行った。またこれらの教材の教育効果を追跡するため、研究期間を通してアンケート調査を行った。
著者
澤田 哲生
出版者
東京工業大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2012-04-01

日本の原子力開発の黎明期(1950年代)から、2011年3月11日の東日本大震災・福島第一原子力発電所事故を経て今日に至るまで、原子力界の歴史と様々な変遷を湯川秀樹博士の遺した歴史資料などに基づいて分析した。その結果、「原子力ムラ」がどのようにして形成されて来たのかについて、その構造的仕組みを明らかにし、系統樹を作成した。また、同時に原子力ムラの癒着構造に関して、その原型を歴史資料の中から発見し、その意義を論じた。さらに、主に反原発・脱原発派との情報交換・情報共有および対話を通じて、原発の推進vs.反対という二項対立構造を乗り越えるための要件を見出した。
著者
川口 洋 出田 和久 加藤 常員
出版者
帝塚山大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究では、人文系データベース構築事例のポータルサイト・データベースを構築して、人文系データベース協議会ホームページ(http://www.jinbun-db.com)から一般公開した。さらに、本システムに人文系データベースの構築事例を登録申請するためのアンケート回答者用Webアプリケーション、管理者用Webアプリケーションを開発した。国立国会図書館からD-Naviデータの提供を受け、人文系データベース協議会会員や関連学会会員の協力により、Webアンケートを行った結果、本システムには約2万3千件のデータベースが登録されている。
著者
増田 知子 角田 篤泰 中村 誠 佐野 智也 小川 泰弘
出版者
名古屋大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究は「昭和天皇実録」を用い、情報の抽出・加工を行うことで、天皇を頂点とする権威的秩序と明治期から戦後まで続いた寡頭政の変遷を分析することを目的とする。(a)宮内庁から入手したデータからテキストデータを作成し、拝謁者等の氏名・肩書の抽出を行った。結果、44322種類の肩書と人名のセットを抽出できた。出現回数の多い肩書を見ると、親王、内大臣、宮内大臣が上位に来ることがわかった。また、1941-44年について、人物ごとに月ごとの拝謁回数をグラフ化したところ、歴史的事件との相関関係が見いだせる可能性が高いとわかった。(b)(a)に関連し、『法律新聞』のデータ整備を行い検索データベースを完成させた。
著者
水本 正晴
出版者
北見工業大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2008

本研究は計700人を超える小学校の児童を主に対象に、認識論における知識の分析で論じられてきたゲティアー例についての質問を行い、その答えと発達心理学における誤信念課題、および独自の信念変化課題の結果との相関を分析することで、子供の知識概念の発達過程を探求するものである。大学生を対象とした調査とも比較した結果、子供の知識概念は最初誤信念の認識能力と深く関係し、次に反事実的状況における信念変化へのsensitivityと関るようになり、その発達は小学校高学年で一応の完成を見るが、状況を想像する能力との関りなどにより成人の段階まで個人差が残るということが明らかになった(またその過程で、日本の子供の誤信念課題のパス率、間接的知識の承認などについて、独立の興味深い事実も明らかになった)。これは、認識論で議論の対象となっている大人の知識概念についての食い違いがどこにあるのかを明確に示すとともに、より「完成された」知識概念がどのようなものであるかについての有力なデータを提供するものである。そこで示唆される知識概念とは、「現実の状況においてどのような情報を得ても変化しない信念」としての知識であり、これは形式的には情報に対して単調な、あるいはsustainableな信念と分析でき、J・ヒンティカの認識論理における分析と結び付けることで形式的な信念変化の理論により真理概念や正当化概念を用いない形式的で厳密な知識の理論として構成できる。こうした経験的データと形式的分析を総合した結果は、A Theory of Knowledge and Belief Change-Formal and Experimental Perspective(Hokkaido University Press)として出版された。
著者
阿部 文雄 原田 知広
出版者
名古屋大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

本研究は、従来仮想的な理論研究の対象でしかなかったワームホールを観測的に検証する手段の研究を行い、さらに実際に探索を実施してその存在量に制限を付けることを目指した。さらに、こうした探索の理論的意義や存在可能性など、ワームホール検証を前提とした研究を前進させることを目指した。このため、2回の研究会を実施し、さらに学会などの場を利用して理論・観測の研究者間の交流を深め、議論を行った。その結果、複数の方法が考案され、実際に存在量の上限を求めることに成功した。また、ワームホールの安定性など関連した研究も進展した。一般の人の関心も高く、講演会などを通じて一般社会人との交流ができたことも大きな成果である。
著者
上村 靖司
出版者
長岡技術科学大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究では,放射能汚染水における三重水素水T2Oを、純水H2Oとの融点の違いを使って分離/濃縮する技術の開発に取り組んだ.精密温度制御によってT2Oを模擬するD2O溶液からD2Oを除去/濃縮するために、低温循環水槽(範囲-20~80℃、0.01℃分解能)内に放射冷却ユニットおよび製氷水槽と温度安定用水槽を入れ,上部を断熱蓋で覆う装置を製作した.凍結濃縮と融解濃縮に取り組んだ結果、前者では恒温水槽温度が高くなるにつれて固相へのHDO濃縮度が高まる傾向があることがわかり,水槽温度1.5℃の場合に最大濃縮度40%となった.後者では1.4℃において固相への最大濃縮度13%という結果を得た.
著者
木山 博資
出版者
名古屋大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

慢性疲労症候群(CFS)や線維筋痛症(FM)などのモデル動物を用いて、病的疼痛の分子メカニズム、特にミクログリアの関与を明らかにすることをめざした。これらの慢性ストレスモデルでは末梢組織の明らかな炎症や損傷は見られないが、中枢の脊髄後角においてミクログリアの増殖と活性化が認められた。CFSモデルにおいてミクログリアの活性化を抑制すると病的な疼痛は抑制された。脊髄後角のミクログリア活性化の領域は固有感覚の入力部位に一致していること、抗重力筋や脊髄神経節の検索から、固有感覚の慢性的な過剰刺激がこれらの疾患の引金になっている可能性が示唆された。
著者
垣内 力 関水 和久
出版者
岡山大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

無脊椎動物を用いた細菌感染モデルは多数の個体数を扱うことが可能であるため、感染プロセスに関わる生体分子を探索する上で優れている。しかしながら、これまで無脊椎動物の感染モデルとして利用されてきた、カイコ、線虫、ショウジョウバエは、ヒトの体温である37度において長時間生存することができず、ヒトの感染症がおきる温度での病原性細菌の感染プロセスを明らかにするためには適当でない。本研究で我々は、熱帯性昆虫であるフタホシコオロギが37度におけるヒト病原体の感染モデルとして利用出来ることを見出した。さらに、本モデルを用いて、ヒト病原体による温度依存性の動物殺傷能に関わる遺伝子を同定した。
著者
伊藤 公紀 田中 博
出版者
横浜国立大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

最近見出した太陽風パラメータと地表気温および北極振動との相関を手がかりとして、太陽磁気活動-気候相関のミッシングリンクに迫ることを目指した。成層圏気温と太陽風パラメータの相関を生む原因として、成層圏オゾンデータを利用した太陽風粒子降着についての検討が可能と判断された。そこでオゾン量の全球グリッドデータを用い、太陽風との相関を調査し、太陽風粒子が電離圏で生成するNOが成層圏に運ばれ、オゾンを減少させることにより、成層圏の気温を変調するという機構を提案した。
著者
久保 博子 木佐貫 美穂 金澤 麻梨子 川西 美和
出版者
奈良女子大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

硬さと弾性の異なるマットレス4種類を用い、短時間臥位実験、終夜睡眠実験、日常連続睡眠実験により、寝姿勢、体圧分布、睡眠解析、生理・心理反応をおこない 「寝転び心地」「眠り心地」 を検討した。その結果、短時間睡眠では、柔らかく反発弾性が小さい方が評価は良く、終夜睡眠実験では、寝姿勢や変換回数に差がみとめられたが、睡眠の質には有意な差は無かった。
著者
執行 正義
出版者
山口大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2014-04-01

植物工場における光源として利用が広がりつつある赤色LEDと青色LEDを用い,両者の交互照射により植物の育成を爆発的に高める新規植物育成法「Shigyo法」が開発されている.Shigyo法は簡単な光照射技術で植物の生育を早められるため実用化が先行しているが,その原理の解明が待たれている.本研究では,植物の光応答に着目し,主にシロイヌナズナを材料としてマイクロアレイ技術を駆使した遺伝子発現の網羅解析と時系列研究を組合せて行うことで,赤/青交互照射条件下における赤色光受容体および青色光受容体の挙動とそのシグナル経路の変化の状況把握を行った.
著者
河野 寛 坂本 静男 丸藤 祐子 小西 真幸
出版者
国士舘大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究は第一に,顔面を冷水に漬ける潜水反射に伴う徐脈について,概日リズムが存在するかどうかを検討した。その結果,朝に心拍数が低値を示したことから,潜水反射に伴う徐脈は概日リズムの影響を受けると考えられる。このことは,潜水反射試験を実施する際には,時間帯を考慮して実施すべきであることを示唆している。次に,潜水反射に伴う徐脈に加齢が影響するかどうかを検討した。その結果,若年者と比較して高齢者で潜水反射徐脈が鈍いことが明らかとなった。このことから,潜水反射試験は加齢の影響を受けることがわかる。したがって,潜水反射試験は循環器疾患のリスク指標になるかもしれない。
著者
加藤 隆弘
出版者
九州大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2012-04-01

精神疾患への脳内免疫細胞ミクログリアの関与が最近の研究により示唆されているが、詳細は解明されていない。本研究ではミクログリアがヒトの社会的意思決定プロセスにおいて重要な役割を果たしているのではないか?という仮説の元で、健常成人男性を対象としてミクログリア活性化抑制作用を有する抗生物質ミノサイクリン内服による社会的意思決定プロセスの変化を計るための社会的意思決定実験(信頼ゲーム)を行った。ミノサイクリンを4日間内服してもらい、自記式質問紙による心理社会的項目を測定するとともに、信頼ゲームを実施した。ミノサイクリン内服により、性格や欲動依存の行動パターンが変容することを見出すことが出来た。
著者
野田 岳志
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

インフルエンザは主としてA型およびB型インフルエンザウイルスを起因とする呼吸器疾患である。飛沫を介してヒトからヒトへと効率よく伝播することが最大の特徴であり、毎年、人口の5-10%がインフルエンザに罹患する。ヒトインフルエンザの研究においては様々な動物モデルが使用されているが、小型で効率の良い飛沫伝播を再現する動物モデルは存在しない。本研究ではインフルエンザの新たな飛沫伝播動物モデルを確立するため、ハムスターを用いた実験を行った。その結果、ウイルス株によって、飛沫伝播を起こすものと起こさないものが存在することが明らかになった。2009年に出現したH1N1ウイルスは、効率よく個体間を伝播した。