著者
田渕 有美
出版者
大阪大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2021-08-30

本研究は、米国ケネディ政権における「平和のための宇宙(Space for Peace)」政策の展開を、従来看過されてきた科学者の役割に着目して解明するものである。先行研究では、冷戦期米国の平和目的の宇宙政策は米ソの戦略的考慮を覆い隠すレトリックや東西プロパガンダの副産物と見なされてきた。これに対して本研究は、1960年台前半のケネディ政権における宇宙政策決定過程を詳細に辿り、大統領科学諮問委員会(PSAC)が「兵器の存在しない、全人類にとって開かれた」宇宙を維持するという、今日に至る米国の「平和のための宇宙」政策の既定路線化を決定づけるうえで重要な役割を果たしたことを示す。
著者
韓 京子
出版者
青山学院大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2019-08-30

本研究は、植民地朝鮮・台湾・満州における文楽(義太夫)享受の諸相について考察するものである。近代、特に1930年代は、毎年といえるほど盛んに外地における興行・巡業が行われていた。本研究では、興行の実態や内地人の素義会の活動を具体的に調査しその全体像を明らかにし、また、外地に住む人々にとっての古典芸能(文楽)の意味を考察する。文楽が外地を巡業という形で興行が行われ、素義会も越境する形で活動が行われたことから、本研究は研究の軸を植民地朝鮮・台湾・満州に設定し、共時的な視点から文楽(義太夫)の享受について分析することで、近代文楽史を重層的で多面的なものにすることを目的とする。
著者
望月 昂
出版者
東京大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2019-04-01

被子植物の大多数は花粉運搬を動物に委ねており,系統の離れた植物にあっても,送粉者を共有する植物は色やにおい,形態など複数の類似した花形質:送粉シンドロームを持つ. 申請者による先行研究から,アオキをはじめとする,短い花糸を持ち皿状で暗赤色の5mm程度の花をつける5科の植物は,専らキノコバエ類に送粉されることが明らかになっており, 共有された花形質は送粉シンドロームであると予想されている. 本研究では, ニシキギ属植物をモデルとした送粉様式の進化過程の解明, および, 花のにおいの送粉者誘引における機能解明により, 被子植物における新規の送粉シンドロームのバイオロジーに関する統合的理解を得る.
著者
若林 嘉浩
出版者
国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2020-09-11

ヒツジやヤギなどの雄効果フェロモンは、雄から分泌されて雌の繁殖中枢を活性化させ、性腺刺激ホルモン放出ホルモン/黄体形成ホルモン分泌促進を介して卵巣活動を賦活化する作用をもつ。これまでにヤギ繁殖中枢の神経活動変化を指標としたフェロモン活性生物検定手法を用いて、このフェロモンの主要分子の同定と活性化される脳内の繁殖中枢が、弓状核キスペプチン神経系であることを明らかにした。本研究では、雄効果フェロモンをモデルとして、未だ詳細が不明であるフェロモンの受容部位、脳内での情報伝達経路、繁殖中枢における効果発現機構に焦点を当てて、反芻動物の繁殖機能亢進作用を持つフェロモンの作用機序の全貌を解明する。
著者
岩橋 崇
出版者
東京工業大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2015-08-28

電解液/電極界面は電気化学反応場を構築する重要なナノ領域であり、近年既存モデルで説明できないイオン吸着・脱離挙動の電位応答ヒステリシスが注目を集めている。本研究はイオン液体を電解液に用いて電気化学測定・赤外-可視和周波振動分光(IV-SFG)・光電子分光を相補的に活用し、ヒステリシス挙動とイオン-電極間相互作用の相関を解明することでヒステリシスを説明する新規概念モデル構築を目指す。27年度は下記に示す通り主に(1)膜厚制御可能なイオン液体薄膜成膜技術の確立、(2)光電子分光を用いたイオン液体/電極界面の電子構造の計測、(3)IV-SFGを用いたイオン液体/電極界面の吸着構造の計測を図った。(1)既存の蒸着装置にてイオン液体成膜を試みたが、真空槽内を汚染する問題が生じた。そこで、新規イオン液体蒸着槽の設計・開発を行い、現在組み立てを行っている。(2)イオン液体塗布基板の光電子分光計測を試み、電子構造評価が可能であることを確認した。今後は上記蒸着槽を用いて電極界面の電子準位接続及び界面双極子の評価を行う。(3)様々なイオン液体の電極界面における吸着構造を計測し、そのヒステリシス挙動はイオン種依存性を有することが分かった。また、希釈電解液系ではヒステリシス挙動の強い電解質濃度依存性を見出した。これは拡散層のイオン配列構造がイオン吸着構造に大きな影響を与えることを示唆する。今後はヒステリシス挙動のイオン種・電解質濃度依存性を精査し、既存モデルとの差異を検討することでヒステリシスを説明可能な新規モデル構築を試みる。上記において、(3)は様々な電気化学デバイスの機能性が図らずもヒステリシス挙動に影響されている可能性を示す重要な成果と考えられる。今後は電気化学測定・光電子分光からイオン-電極間相互作用の情報抽出を行い、より普遍的で自己無撞着なモデル構築を目指す。
著者
堀 大介
出版者
筑波大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2018-08-24

労働者が強いストレスを感じている事柄で「対人関係」の問題は大きな割合を占めており、対策が求められている。職場で褒めて・褒められることは対人関係を円滑にするのみならず、モチベーション維持やパフォーマンス向上にも繋がる。脳機能イメージング技術によって、社会的報酬によって脳機能が活性化する機序が明らかにされつつあるが、多くの研究はシミュレーション環境で実施されている。本研究では職場の実際の対人関係の中で、褒められることによる脳機能の変化を、近赤外線分光法による計測で定量化する。そして、より良好なコミュニケーションや職場環境の形成に寄与したい。
著者
山崎 晶子
出版者
一橋大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2019-08-30

フランスにおいて、エリートの再生産が階層の固定化を促進していると言われている。しかし、研究代表者は中等教育未修了程度の学歴もしくは移民の親を持ちながら出身階層を乗り越えてエリートとなった人物(非再生産型エリート)と少なからず出会ってきた。親から継承する「資本」を持たない彼らはいかに階層を上昇することができたのだろうか。この問いの解明のために、本研究は、主に非再生産型エリートを対象とするライフストーリー・インタビューを実施する。この調査によって、従来型と言える再生産システムによるエリート形成との違いを示しながら、21世紀のフランスにおけるエリート形成過程の多様性と階層の乗り越え方を見いだす。
著者
名波 正義
出版者
兵庫医科大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2013-08-30

糖尿病性腎症(DN)の尿細管間質病変は腎予後と深く関連している。本研究ではDNの尿細管障害過程における細胞内鉄代謝の関与を検討した。2型DNモデルマウス(db/db)の近位尿細管において、鉄取り込み蛋白であるトランスフェリン受容体1(TfR1)、二価金属イオン輸送体1(DMT1)の発現亢進、ミトコンドリアにおける鉄シャペロン蛋白であるフラタキシンの発現抑制およびマンガンスーパーオキシドジスムターゼ(MnSOD)活性の低下が認められた。以上の結果から、DNでの近位尿細管における細胞内鉄輸送異常とミトコンドリアでの鉄代謝および酸化ストレス制御障害が尿細管障害過程に関与している可能性が示唆された。
著者
中野 知子
出版者
名古屋大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2015-08-28

周産期医療が発達しているにも関わらず、早産の合併症による新生児死亡や脳性麻痺の発生率も改善していない。早産の病態に炎症が関与すること、さらに酸化ストレスや炎症性サイトカインが児の予後に影響することが報告されている。今回我々は近年抗酸化作用や抗炎症作用があるといわれている分子状水素に着目し、炎症性早産モデルマウスにおける効果について検討した。その結果受傷前に50%飽和水素水を母獣に投与した群では妊娠期間の延長を認め、また子宮組織の炎症性サイトカインなどの早産に関わる因子の発現を有意差を持って抑制した。また50%飽和水素水母獣投与による胎仔催奇形性は認めず、安全に母体へ投与できることを証明した。
著者
小林 澄貴
出版者
北海道大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2014-08-29

研究デザインは、出生前向きコホート内症例対照研究である。2003-2007年に生まれた8歳児のうちADHD-RS得点が得られた3,263名のうち、児の性別と母の出産年齢でマッチングさせ1,491名抽出したところ、非喫煙群552名、受動喫煙群812名、喫煙群127名となった。ロジスティック回帰分析で検討したところ、非喫煙群と比較して、受動喫煙群から生まれた8歳児のADHD疑いになるオッズ比は1.17倍高かったものの有意ではなかった(95%CI; 0.84-1.63)。妊娠中の母の受動喫煙曝露が8歳児のADHDのリスク増加に影響を及ぼさず、そして遺伝環境交互作用も関与しないと考えられた。
著者
笠松 秀輔 杉野 修 植村 渉
出版者
東京大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2013-08-30

第一原理計算とは、量子力学の原理をもとに、コンピュータ上で物質の振る舞いを再現するための計算手法の総称である。第一原理計算による「コンピュータ実験」を利用することで、物質・材料開発を加速することができると期待されている。実際には、量子力学の原理をそのまま用いようとすると計算量が世界最速のスーパーコンピュータ上でも扱えないほどに大きくなってしまうので、様々な近似手法が用いられるが、多くの場合で十分な精度で計算できていないのが現状である。そこで本研究では、データ解析の分野で着目されている「テンソル分解」を援用することで、高精度かつ適用範囲の広い第一原理計算手法を目指した開発を行った。
著者
齋藤 崇徳
出版者
独立行政法人大学改革支援・学位授与機構
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2016-08-26

第一に、新宗教系大学が設置された理由のパターンを見出した。それは教師養成と区別された信者への教育、宗教団体が深く関わる社会活動のための専門的職業教育、信者への教育と区別された学術研究である。第二に、組織・制度における多様性を明らかにした。目的規程、教学組織とカリキュラム、管理組織、財政的支援のそれぞれにおいて教団と高等教育との関係は多様であった。第三に、新宗教における宗教専門職の特質を明らかにした。その養成の制度は宗教専門職のあり方にたいし強く影響し、さらに専門職のあり方は、当該宗教団体の社会的性格、すなわち宗教団体がどのように社会と関係しているのかということを規定するということである。
著者
塚原 卓矢
出版者
京都薬科大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2015-08-28

GPR35の活性化は大腸上皮細胞の修復を促進し、さらに大腸炎を抑制することが判明した。その作用機序として、GiタンパクカップリングによるcAMP低下、フィブロネクチンおよびインテグリンα5発現亢進およびERK活性化作用を介すると推察された。一方、GPR40活性化はDSS誘起大腸炎の発生および治癒に対して保護作用を発揮することが判明した。この作用は、GLP-2産生の増大を介するものと推察される。これらの結果より、GPR35およびGPR40を代表とするGタンパク共役型脂質受容体は炎症性腸疾患の新規治療標的として有用であると考えられる。
著者
谷 幸太郎 栗原 治 金 ウンジュ 酒井 一夫 明石 真言
出版者
国立研究開発法人放射線医学総合研究所
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2014-08-29

原子力事故後の緊急作業等によって高線量の放射線被ばくを受けた場合には、個人データに基づく線量評価が必要となる。本研究では、甲状腺へ局所的な内部被ばくをもたらすI-131を対象として、人体を再現したボクセルファントムを使用した数値計算により、甲状腺前面の組織厚を考慮した甲状腺残留量の評価を可能とした。また、安定ヨウ素剤服用時の体内動態解析コードを開発し、個人の摂取シナリオを考慮した甲状腺線量の評価を可能とした。これらの手法について、福島第一原子力発電所事故への適用例を示し、有用性を確認した。本研究の成果は、I-131による高線量内部被ばく時の線量再構築に役立つものと期待される。
著者
滑川 亘希
出版者
独立行政法人物質・材料研究機構
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2012-08-31

本研究では、災害時などライフラインが寸断された緊急時においても、透析患者の応急処置が可能な尿毒素除去フィルターの開発を目的として、尿毒素を吸着するゼオライトを導入したスマートナノファイバーコンポジットを作製した。ファイバーのベースとなる高分子には血液適合性に優れる高分子(EVOH)を用い、電界紡糸法で製膜した。作製したファイバー内には製膜時に配合したゼオライトの90%以上が導入できた。尿毒素の一つであるクレアチニンを馬血清から除去することに成功した。このようなコンポジット材料は、血液浄化材料のほか、配合する吸着粒子を変えることで様々な分子を吸着する不織布として応用できる。
著者
平山 勉
出版者
首都大学東京
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2012-08-31

本研究では、高度成長期東京地区のプラスチック用金型産業の展開を、金型製造業者の企業行動の変化に注目しながら歴史的に実証した。従来の研究で、産業政策による産業育成という視点から分析対象となっていた金型産業について、それ自体の展開や発展の在り方を把握することで当該産業の発展要因の抽出を図った。その結果、高度成長期日本の金型産業では、社会的分業、工程間分業、企業間分業といった分業関係の深化と、それともなう「専門性」の向上が、産業発展を促した要因となったことが指摘される。