- 著者
-
西村 秀雄
- 出版者
- 日本肺癌学会
- 雑誌
- 肺癌 (ISSN:03869628)
- 巻号頁・発行日
- vol.13, no.2, 1973-06-25
催奇形性と発癌性とは,その始発過程に細胞の増殖の異常が与かるとの点で共通している.両者の関連を示す事実として,第一に同一の個体に奇形と癌とが合併する事例がある(類表皮肺癌とLungculdeSaC;ウイルムス腫瘍と虹彩欠損及び半身肥大症:神経線維腫と過誤腫;白血病とダウン症候群).第二に催奇形性と発癌性とを共に有する幾多の要因として放射線,アルキル化剤,アゾ色素,カルバミン酸塩,女性ホルモンなどがあり,第三に胎生期に適用され,出生後に発癌をきたす若干の要因が知られてきた.即ちヒトでは放射線による白血病の頻度の上昇,合成女性ホルモンによる膣癌の発現,実験動物では胎生後半期に適用された1.2.5.6.-dibcmzan-thracene.benzopyrene.アゾ色素たる1.2.-diethyl-hydrazineなど,ウレタン,Nーニトロソ化合物などがある.このようにある種の発癌物質に対する胎児の感受性が高いという事実は,発癌性環境要因の場合にこのことが起こるとの懸念を抱かしめるものである.しかし一方発癌性と催奇形性との平行関係を示さない幾多の要因がある.例えば一定の多環炭化水素,メチルニトロザニリン,エチオニン,わらびは発癌性は示すが催奇形性は明確ではなく,一方発癌性をほとんど示さない催奇形物質として,サルドマイド・アミノプラリン・コルヒチン・ニコチン抗けいれん剤などがある.この点については催奇形性に個有であるとみられる次記が考慮されるべきであろう.第一に作用の標的部位が母体,胎膜及び胎児組織からなる母児複合体であって,より混み入った過程が起こりうること,第二に胎児の発生段階の関与が目立っていること,第三には奇形を始発させる代謝の変調が多くは(細胞遺伝学的異常に該当するものは除かれる)一過性に留まること,つまり異常な過程が起こつ続けている腫瘍細胞にあたるものは求め難いことである.