著者
松永 典之
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2011-04-01

我々の住む銀河系は、どのような姿をしているのであろうか。その正確な形状や星々の運動状態については最終的な結論が得られていない。本研究では、その構造と進化を探るために、距離や年齢などが正確に得られる脈動変光星の探査と詳細な観測を行う。例えば、銀河中心領域に対する南アフリカ天文台IRSF望遠鏡での観測では、世界ではじめてセファイド変光星を発見し、その領域での星形成史を調べることに成功した。また、東京大学木曽観測所シュミット望遠鏡での探査でも、北半球の銀河面領域で多くの変光星を発見している。さらに、発見した天体の分光観測も行い、それらの運動なども調査し、銀河系の進化についての研究を進めている。
著者
林 典生
出版者
南九州大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2008

手のひらを用いた園芸活動評価システム構築を目指すとともに、活動現場における園芸活動システム活用の可能性について検討した。その結果、園芸活動の効果を引き出すのは情報共有であることが明らかになり、園芸活動は利用者を中心として、様々な分野の人が関わるチームアプローチであり、その中でコミュニケーション、コラボレーション、コーディネーションの3つの視点が必要である。その視点がないと園芸活動評価システムを構築しても活用が難しいことが明らかになった。
著者
荒牧 英治
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2011-04-01

近年,電子カルテやインターネットに接続可能な健康器具により大量の医療データが利用可能になりつつあり,これらを活用することで,過去例を見ない大規模な統計的研究や,大規模データに基づいた医療支援システムを実現可能であるとして大きな期待がよせられています. しかし,現状では,電子化された言語データを処理する枠組みがないため,データは活用されるどころか,情報過多を起こし現場の医療者の負担をさらに増しているケースさえあります.以上の背景のもと,本プロジェクトでは, カルテ文章に記述される疾患表現の表記ゆれを吸収する技術を開発します.
著者
高橋 達
出版者
東海大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2004

今年度は、通風と天井扇により室内気流を促進させた二重屋根採冷システムの室内熱環境における快適感・温冷感の変化を定量的に把握するために、試験家屋を用いた被験者実験を行なった。昨年度と同様に東京都立川市にある試験家屋を実験に使用した。特に、天井扇による対流促進の実験のために、天井に扇風機(定格電力使用量43W/台、天井付近の平均風速2.65m/s)を2台設置し、天井表面に気流をあてて室空気を冷やし、室内気流を促進した。実験パターンは「夜間換気」「天井扇による対流促進」「通風」の3つであり、いずれも葦簾による日射遮蔽・天井散水・夜間換気(定格電力使用量4Wの換気扇で20:00〜翌6:00に50m^3/h)を実施しており、被験者はそれぞれ16人、15人、15人である。2006年8月1〜20日に被験者実験を行なった結果、以下のことが明らかになった。1)いずれの実験パターンにおいても相対湿度が50〜85%で高かったにも関わらず、MRTが低めに抑えられていたため、90%の申告割合で温度・湿度について「許容できる」という申告が得られた。2)「天井扇による対流促進」の実験では、外気温30℃以上のときに作用温度28℃未満で温冷感申告が「涼しい」側になり、快適感申告は「快適」側になった。「通風」の実験では、外気温30℃以上のときに温冷感申告が「涼しい」側と「暑い」側とでほぼ半々であり、快適感申告はほぼ「快適」側になった。
著者
飯島 慈裕
出版者
独立行政法人海洋研究開発機構
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2009

近年、東シベリアにおいて、気候の急速な湿潤化が進行している。本研究は、現地観測の展開によって、永久凍土地域の土壌水分量が増加し、同時に地温上昇・表層部の永久凍土融解(活動層厚増加)が顕著に進行し、さらに植生・地形の変化がもたらされた一連の凍土荒廃の物理・生態的プロセスを明らかにした。さらに、衛星データ解析から湿潤化による凍土環境荒廃状況について、その時空間分布の地図化手法の開発と検証を行った。
著者
佐藤 文博
出版者
東北大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2005

本期間においては,磁界を介したエネルギー伝送により複合型発熱素子の励磁加温を実現した.最終年度までの検討により,より実用化に近い励磁コイル形状として,平面型スパイラルコイルを用いて実験を行った.平面型スパイラルコイルは,素子の刺入を考えた場合の励磁方向への磁束の指向性の問題と平面型スパイラルコイルによる励磁での圧迫感の軽減や自由度の増加といった利点がある.これを用いて将来の生体応用を想定し,血流の存在するマウスにおいて,実際の腫瘍に対する効果の検証を行っている.動物実験に用いている腫瘍はB-16メラノーマである.このB-16メラノーマは細胞増殖が比較的早いことから選択した.マウスに植え込んだ腫瘍に素子を挿入してハイパーサーミアを行い1週間後の腫瘍のサイズとマウスの様子を確認した.何もしていないコントロールマウスと比べて,熱を加えたマウスは明らかに腫瘍サイズに差が生じた.温熱以外の作用は加えていない為,素子の発熱によって組織温度が上昇し,腫瘍組織を壊死させることが確認できたと考えられる.このように,複合型発熱素子の発熱による熱的効果によって腫瘍の縮退がみられ,ハイパーサーミアの有用性が実証できた.まとめにあたり,簡易自動治療システムの一連のプロトコルを考え,上記治療結果を得た事は大きな成果である.ハイパーサーミアは種々の方法で臨床応用されているが,どの方式が最適かというコンセンサスすら確立されていないのが現状である.そのため医師やがんで苦しむ患者に浸透していないのが現状である.上記成果より簡易的な治療法に一定の指針ができた事で,完全治癒可能なハイパーサーミアが現実に近いものになったと言える.
著者
松本 龍介
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2007

水素が材料の強度を劣化させる水素脆化はよく知られた現象である.水素エネルギーを安全に利用するためには,水素脆化のメカニズムの解明は非常に重要である.本研究では,水素と格子欠陥との相互作用に着目することで鋼材中での水素の役割に関する研究を行った.様々なシミュレーション手法を駆使した解析の結果,水素が格子欠陥を増殖し易くさせたり,運動性を大きく変化させることが明らかになった.
著者
松本 龍介
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2011-04-01

水素を安全に用いるためには,水素環境での金属材料の力学的挙動を正確に予測することが重要である.本研究では,材料/力学/環境的因子が金属の破壊形態に及ぼす影響を,解析と実験の両方から調べた.代表的な成果は以下の通りである.(a)境界条件によって支配的な水素の影響が変化する.(b)水素によって格子欠陥濃度が増大する機構を明らかにした.(c)水素が存在すると破壊直前に局所的な塑性ひずみ速度が急速に増大する.
著者
早川 竜馬
出版者
独立行政法人物質・材料研究機構
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2011-04-01

本研究では、機能性有機分子を量子ドットに用いた多機能単一電子メモリを開発することを目的としている。有機分子へ注入する単一電子トンネル電流を分子軌道によって制御することにより従来の無機材料量子ドットでは実現できない新しい機能を発現できる。初めに有機分子をゲート絶縁膜中に集積化する技術を確立し、分子へ注入するトンネル電流を分子軌道によって制御できることを明らかにした。上記の知見を基に異種分子によるトンネル電流の多値制御および光異性化分子による可逆的なトンネル電流の光制御に成功し、従来の無機材料では実現できない新規機能を発現できることを見出した。
著者
新里 貴之 中村 直子 竹中 正巳 高宮 広土 篠田 謙一 米田 穣 黒住 耐二 樋泉 岳二 宮島 宏 田村 朋美 庄田 慎矢 加藤 久佳 藤木 利之 角南 聡一郎 槇林 啓介 竹森 友子 小畑 弘己 中村 友昭 山野 ケン陽次郎 新田 栄治 寒川 朋枝 大屋 匡史 三辻 利一 大西 智和 鐘ヶ江 賢二 上村 俊雄 堂込 秀人 新東 晃一 池畑 耕一 横手 浩二郎 西園 勝彦 中山 清美 町 健次郎 鼎 丈太郎 榊原 えりこ 四本 延弘 伊藤 勝徳 新里 亮人 内山 五織 元田 順子 具志堅 亮 相美 伊久雄 鎌田 浩平 上原 静 三澤 佑太 折田 智美 土肥 直美 池田 榮史 後藤 雅彦 宮城 光平 岸本 義彦 片桐 千亜紀 山本 正昭 徳嶺 理江 小橋川 剛 福原 りお 名嘉 政修 中村 愿 西銘 章 島袋 綾野 安座間 充 宮城 弘樹 黒沢 健明 登 真知子 宮城 幸也 藤田 祐樹 山崎 真治
出版者
鹿児島大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2007

徳之島トマチン遺跡の発掘調査をもとに、南西諸島の先史時代葬墓制の精査・解明を行なった。その結果、サンゴ石灰岩を棺材として用い、仰臥伸展葬で埋葬し、同一墓坑内に重層的に埋葬することや、装身具や葬具にサンゴ礁環境で得られる貝製品を多用することが特徴と結論づけた。ただし、これは島という閉ざされた環境ではなく、遠隔地交易を通した情報の流れに連動して、葬墓制情報がアレンジされつつ営まれていると理解される。
著者
澁田 靖 エリオット ジェームズ
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2006

本研究ではカーボンナノチューブ生成・成長過程の理解を目的とし,第一原理計算から構築したポテンシャル関数を用いた古典分子動力学法により,孤立炭素原子が1nm程度の触媒金属微粒子を介して初期核(キャップ)構造を生成する過程及び,モンテカルロ法により初期核生成後の円筒構造の成長過程を検討し,触媒種の違い,炭素原子濃度等の条件により単層及び多層ナノチューブに成長する機構の違いを定性的に明らかにした.
著者
常松 展充
出版者
独立行政法人防災科学技術研究所
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2011-04-01

本研究で開発した「黄砂発生輸送モデル」を用いて、地球温暖化に伴う気候変化の情報を反映させた長期間シミュレーションを一部実施した。このシミュレーションでは、全球気候モデル「MIROC」によるSRES-A1Bシナリオ実験の結果から得られた気候予測データと、20世紀再現実験結果から得られた気候再現データをモデルに組み込んだ。具体的には、気温・比湿・ジオポテンシャル高度・風のuv成分・地表面温度について、将来(2080-2100年)と近年(1980-2000年)の差分(以下「温暖化差分」と呼ぶ)を、全球気候モデルの各グリッド毎に算出し、6時間毎の温暖化差分データを作成した。そして、作成した温暖化差分を、黄砂の発生と輸送のシミュレーション(水平解像度:20km)の初期・境界条件となる数値データに加算した。高解像度シミュレーションの初期・境界条件となる数値データに温暖化差分を加算する方法は「擬似温暖化法」と呼ばれ、それが、全球気候モデルのもつバイアスへの依存を低減させたダウンスケーリングを可能にする手法であることから、気候変化予測に関する多くの先行研究で用いられているものの、それを黄砂等の大気汚染物質動態の将来変化シミュレーションに応用した先行研究はない。これにより、本研究では、全球気候モデルのバイアスを低減させた上で黄砂発生輸送の将来変化をシミュレートした。地球温暖化の進行に伴う気候の将来変化が黄砂の発生と輸送に及ぼす影響を予測した研究は現在のところ希少であり、本研究で実施した数値シミュレーションの結果を解析することで、黄砂の発生・輸送の将来変化が量的・空間的に明らかになるとともに、黄砂等のミネラルダスト、あるいは他の大気汚染物質の動態の将来変化に関する今後の研究に資する知見が得られることが期待される。
著者
須藤 祐司
出版者
東北大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2006

本研究では、全年度の知見を基に、Cu-Al-Mn系超弾性合金の高強度化およびその応用を目指し、本合金の低温時効硬化現象を詳細に調査し以下の知見を得た。[1.超弾性特性] Cu-Al-Mn-Ni合金において、集合組織および粒径ならびにベイナイト変態を適切に制御することにより、1000MPaの超弾性プラトー応力かつ4%程度の超弾性歪みを示す高強度超弾性合金のが得られる事が分かった。時効処理によりベイナイト変態した超弾性合金のマルテンサイト変態誘起応力の温度依存性dσ/dTは、焼入れまま材のそれよりも小さく、その値はクラジウス-クラペイロンの関係より予測される値と一致する。本合金のdσ/dTはTi-Niのそれに比べ、約1/3程度であり、温度が変化する環境にておいてもほぼ一定の超弾性回復応力が得られる。[2.疲労特性] 時効処理により高強度化したCu-Al-Mn系超弾性合金の疲労特性を引張サイクル試験により評価した所、従来合金に比し、疲労強度が極めて高く優れた疲労特性を示すことが分かった。これは、ベイナイト変態による析出硬化により母相が強化され転位が動きにくくなったためと考えられる。集合組織、粒径、析出硬化を適切に制御することによりTi-Niに匹敵する疲労特性を示す。[3.応用] 上記の知見を基に、加工熱処理による組織制御を駆使し、剛性傾斜型のガイドワイヤー(GW)の試作を試みた。本剛性傾斜型GWは、従来Ti-Ni超弾性GWに比し、優れた突き出し性、トルク伝達性を示し、操作性に優れる。また、高強度・高超弾性歪みを有する合金を用いた制震部材の開発を検討し特許出願を行った。
著者
田嶋 稔樹
出版者
東京工業大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2007

プロトン性溶媒や基質であるカルボン酸と固体塩基の酸塩基反応に基づく共役酸塩基対を支持塩とする、見掛け上支持塩を必要としない環境調和型新規電解反応システムの開発に成功した。さらに、固体塩基を用いる本電解反応システムを電解フローセルやパラレル電解合成へと応用展開することに成功した。また、一連の研究課程において固体塩基が陽極で酸化を受けないことを見出し、固体に固定化された試薬や触媒は電解反応を受けないという"有機電解合成における活性点分離の概念"を提唱した。
著者
明和 政子
出版者
滋賀県立大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2004

ヒトは、生後1年半から2年ごろに、鏡に映る自分の姿を「自分である」と認識するようになる。この結果は、ヒトが、自己を他者と区別して認識する能力が獲得された有力な証拠として位置づけられている。しかし、通常の鏡映像を理解できるはずの3歳児でも、2秒の遅延をはさんだ自己映像を見せると、それを自分であると認識することは困難となる(宮崎,2003)。つまり、自己映像を理解には、時間的随伴性という要因が大きく影響すると考えられる。鏡映像を理解できるのは、ヒトだけではない。チンパンジーをはじめとするヒト以外の大型類人猿も鏡に映った自分の像を、「自分である」と認識することができる。しかし、その他の霊長類については、そうした証拠は得られていない。本研究では、チンパンジー(Pan troglodytes)、フサオマキザル(Cebus apella)、ヒト乳児(Homo sapiens)を対象として、自己像を理解する能力の進化史的・発達的起源を探ること、その際、この能力の獲得を時間要因との関連において調べることを目的とした。実験条件として、(1)0.5、(2)1.0、(3)2.0秒遅延させた自己映像を、それぞれの個体に2分間、呈示した。各条件での像呈示の前後には、ベースラインとして通常の像をそれぞれ2分間呈示した。その結果、1)チンパンジーの成体は、身体の動きと自己映像が時間的に随伴しない状況でも、経験を積めば自己像であると認知する、2)フサオマキザルの成体は、モニターから遠ざかる、威嚇など激しい攻撃を加える、身体を頻繁にかきむしるなど、通常の鏡映像の場合よりも強い社会的反応を示す、3)ヒト乳児も通常の鏡映像と遅延する自己像を区別できており、遅延する自己像に微笑む、声をあげるなどより強い興味を示すこと、が明らかとなった。以上より、自己と他者の弁別能力の発達と進化においては、自己受容感覚-視覚間の時間的な同期性(随伴性)の認知が重要な要因であることが示唆された。
著者
細川 三郎
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2011-04-01

六方晶構造を有する希土類―鉄複合酸化物(h-REFeO3)は準安定相構造であるが故に,常法では合成が困難である.本研究では,共沈法および錯体重合法で得られた前駆体の結晶化過程を詳細に検討することで,h-REFeO3の効率的・選択的な合成を試みた.その結果,焼成時間を調整することで単相のh-REFeO3が得られることを見出した.飛躍的に高いC3H8燃焼活性を有する触媒開発を目指し,異種遷移金属で修飾したh-YbFeO3のソルボサーマル合成を検討した.Mn修飾h-YbFeO3は他の遷移金属を修飾したものより極めて高い活性を示し,貴金属触媒であるPd/Al2O3よりも高い活性を示すことを見出した.
著者
竹内 恒博
出版者
名古屋大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2005

エネルギー枯渇問題と,化石燃料消費による地球温暖化問題の観点から,廃熱や太陽熱を利用しエネルギー利用効率を高める技術の開発が急務である.熱を電気に変換できる熱電材料はこれらの諸問題を解決する機能性材料として注目を集めている.現在実用化されている熱電材料による熱電発電は変換効率が悪く,現状では大規模な熱電発電が行われる迄に至っていない.熱電材料の特性を向上により大規模熱電発電を実現することは,21世紀の材料研究者に課せられた最も重要な課題の一つである.申請者は,近年,様々な金属材料の異常な電子物性(電気伝導率,熱伝導率,熱電能,電子比熱係数,ホール係数)を電子構造と結晶構造を解析することにより解明する基礎研究を行ってきた.これらの基礎研究により得られた知見から,熱電材料に対して今までに提案されていない全く新しい材料設計指針を構築するに至った.本研究では,申請者が提案する熱電材料設計指針により高性能熱電材料を開発することを目的としている.平成19年度に行った研究では,電子構造に数k_BT程度のエネルギー幅の微細構造がある場合に,熱伝導度に異常が生じWiedemann-Franz則を適用することができなくなることを明らかにした.バンド計算と低温比熱の測定から求めた電子状態密度とBoltzmann輸送方程式を用いて電子熱伝導度を解析した結果,観測される異常な熱伝導度を完全に理解することに成功した.平成19年度に得た成果も含め,本課題研究により蓄積してきた研究成果により,全く新しく,かつ,極めて有効な熱電材料の設計指針を構築することができたと考えている.
著者
秋月 有紀
出版者
富山大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2005

首都圏および大阪都市圏で建設件数が急増している地下大規模空間に対する火災安全設計手法の開発が急がれている。そこで京都大学防災研究所田中哮義教授と共同研究を行い、昨年実験で収集したデータに基づき、火災時に発生する視環境の低下(停電や火災煙による視野輝度の減衰)を避難者の視力に換算し、取扱が容易な指数関数を用いて避難者の歩行速度および避難時心理状態を予測するモデル式を構築した。この成果はアジアオセアニア国際火災会議で報告し、平成20年度に国際火災学会(査読付論文)として対外報告することが決定した。さらにトンネルを模した実大実験空間において燃焼実験を行い、燃焼に伴う空間内温度・風速分布の測定に合わせて視野輝度分布の経時変化を測定した。トンネル内の温度分布実測値は、既存の二層ゾーンモデルを発展させた多層ゾーンモデルの予測値とよく対応したが、視野輝度分布は取扱が容易な二層ゾーンモデルで十分説明できることを確認した。関西大学原直也准教授および前出田中教授との共同研究において、閉空間の床面照度簡易予測モデルを構築し、実在する地下街駐車場での車両火災を例にシミュレーションを行った結果を、国際照明学会で報告した。また避難誘導灯や非常口サインなどの避難誘導ツールの実態把握を行うにあたり、前出田中教授・摂南大学岩田三千子教授・同志社女子大学奥田紫乃講師と共同研究を行い、効率的なサイン設置状況の把握方法について調査データに基づき検討し、成果を平成20年度建築学会(査読付論文)および国際色彩学会で報告する予定である。さらに照明学会屋外防災照明調査研究委員会の委員として東南海地震対策に熱心に取り組んでいる和歌山県・静岡県の夜間屋外照明の災害時対応について行政ヒアリングを行い、前年度に調査した四国の結果と合わせて年度末に開催されたシンポジウムで地方自治体の夜間避難対策の現状について報告した。
著者
堀田 昌英
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2005

本研究は,国際インフラストラクチャ整備におけるコンフリクト管理手法の構築を目的としている.本年度は,前年度に開発した集団支援システムを国際援助機関が直面している被援助国の利害調整に応用するため,本システムのプロトタイプの機能拡張を行った.実際に国際的なインフラストラクチャ整備をめぐるコンフリクト管理を担っている機関との協力関係を構築した.はじめに,本研究で開発した集団支援システムの適用可能性を検討するにあたり,前年度行った事例調査の結果を踏まえ,資源配分の利害調整に特化した情報共有システムの作成を行った.具体的には,スマトラ沖地震による津波で被災したタイ南部を対象に,救援物資・生活支援物資の配分の最適化モデルを構築した.現地の救済機関にこのシステムを実際に使用してもらい,実際の資源配分問題における有用性に対する評価が得られたとともに,汎用化に向けて改善すべき点が提示された.この結果を基に,社会基盤整備事業における交渉の関係国及び仲裁・調停機関が情報共有媒体として本システムを活用することを考慮し,前年度に作成した集団支援システムのプロトタイプの改良及び機能拡張を行った.具体的には,ジオコーディング精度の向上,議論内容に含まれる地点情報に基づき論点を地図上の該当位置に対応させる機能の付与である.今回のシステム改良により,主要な論点の空間的な分布と相互関係が視覚的に把握できるようになり,地理的文脈の強い国際コンフリクトへの活用に適したシステムとなった.また次年度より,本研究で開発した集団支援システムは国際協力機構と協力の上,バングラデシュ国パドマ橋建設事業及びインド国幹線貨物鉄道事業において環境社会配慮施策の策定支援に実際に用いられることが決定した.本研究を通じて,多国間の利害調整に貢献し得る問題構造化技術を提示し,新たなコンフリクト管理手法の枠組みを構築することができた.
著者
藤田 耕史
出版者
名古屋大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2004

本年度は前年度に引き続き、南極ドームふじにて採取した降雪中の安定同位体に関する解析を進めた。ドームふじの年間降水量は28mmと極めて乾燥しているが、そのほとんどの期間で少量ながらも降雪が観測された。日降水0.3mm上の日は1年間で18日、11イベントを数えたが、これらのイベント的降雪だけで年間降水量のほぼ半分がもたらされていた。これらの降雪イベントが生じる際には昇温が観測されており、このために降水量で重み付けをした気温が年平均気温よりも5℃程度暖かいという結果が得られた。降水試料の安定同位対比は分析の標準試料をはるかに下回る値を示していたため、検量線の直線性が問題となった。そこで、同研究科の阿部理助手の協力を得て実験をおこない、検量線の直線性を確認した。以上の結果をまとめ、Fujita and Abe(2006)として出版した。上記解析の結果は、アイスコア中の安定同位体から過去の気温復元をおこなう際に用いられる気温と同位体比の関係が、イベント頻度の多少に伴って大きく変化することを示唆している。そこで降雪イベントをもたらしている気圧場について、全球気候データを解析し、高気圧ブロッキングによって氷床内陸に水蒸気がもたらされていることを明らかにした。この気圧場が形成される頻度を解析したところ、ここ数十年という短い期間においても、気温と降水の同位体の関係は大きく変動していることがわかった。現在論文化に向けて最終的な解析を進めている。降雪の解析を進める一方、長岡雪氷研究所の協力を得て、雪の作成・昇華・温度勾配実験をおこなった。これは積雪内水蒸気輸送にともなう安定同位体の変化を明らかにするための実験である。これまでは昇華は一方的に雪粒子から水分子が失われる現象として理解されていたが、日本と南極の雪を同時に実験にかけた結果、昇華が進む間にも周辺の水蒸気の凝結と氷粒子からの昇華が生じていることが明らかになった。これらの現象を説明するために新しいアイデアのモデルを使い、両者の雪の同位体変化をうまく説明することができた。