著者
渡辺 優
出版者
東京大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2021-04-01

「神秘主義」は、「宗教とは何か」を問う宗教学にとって、最重要テーマのひとつであり続けてきた。この神秘主義の理解について、本研究を貫く問いは、これまで支配的であった「神秘体験」中心のそれとは異なる、別様の理解がありえたのではないか、ということである。この「ありえた別様の神秘主義の可能性」を求めて、本研究は、一方では、中近世の神秘主義的「経験」概念と近代神秘主義論における「体験」概念の相違と、前者から後者への変容の歴史的要因を問う。他方では、近代的体験概念とは異質な経験概念を核とする近世神秘主義の系譜が、近現代に消失してしまったのではないとすれば、どこに・どのように見いだせるかを探る。
著者
宮崎 弘安
出版者
日本電信電話株式会社NTTコミュニケーション科学基礎研究所
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2021-04-01

数論幾何では、整数や素数の性質を、代数多様体と呼ばれる図形(幾何学的対象)の性質に置き換えて研究する。多くの場合、代数多様体の構造は非常に複雑で、そのままでは調べるのが難しい。そこでコホモロジー理論を用いた「線形近似」を行うのが現代数学の常套手段である。数論幾何には様々な種類のコホモロジーが現れるが、それらは全てモチーフという理論によって結びつくと考えられている。これまでの研究では、モチーフ理論全体を一般化することにより、従来の理論が抱えていた原理的な制約を克服することに成功した。本研究ではこの新しいモチーフ理論を駆使し、従来の理論では捉えられなかった数論的現象を探求することを目指す。
著者
浅野 路子
出版者
東京大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2019-04-01

ASD児を対象とした研究では、子どもの向社会性の獲得には、母親だけではなく父親の応答や働きかけが重要であるとの報告があり、父親の子どもとのかかわりの重要性が示唆されている。しかしながら、父親の相互作用に関連する神経基盤を明らかにした研究は未だ無い。また、父親と母親では、子どもに対する評価に違いがあるとの報告があることから、相互作用に関連する神経基盤に違いがある可能性がある。本研究では、定型発達児の父母とASD児の父母を対象に、父子間および母子間の相互作用の質を評価し、その質と神経基盤との関係を明らかにする。さらに母親の神経基盤と父親の神経基盤の違いを明らかにする。
著者
松本 昇
出版者
信州大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2018-04-01

本プロジェクトは,自伝的記憶の概括化(OGM)が生じるメカニズムおよび記憶の特定性トレーニング(MeST)がOGMおよび抑うつに効果を発揮するメカニズムを明らかにすることを目的とした。いくつかの実験研究を通じて,ネガティブな手がかりに対するOGMの直接検索が抑うつに特に関連するメカニズムとして特定された。このことから,OGMに対するアクセシビリティを変容させる介入が重要であることが示唆された。MeSTによる治療データの二次分析では,OGMの直接検索が抑うつを予測する効果をMeSTが緩和させることが示された。OGMのアクセシビリティに焦点を当てた介入では,抑うつに対する大きな治療効果が示された。
著者
北村 啓
出版者
東京歯科大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2019-04-01

近年の超高齢化に伴い、老化による運動機能低下が誤嚥を惹起する原因として問題になっている。申請者は献体を対象とした研究から、喉頭蓋谷の粘膜下が舌筋と喉頭蓋軟骨、それらを接合する腱により構成されていることを見い出した。この結果から、『老化による舌筋の器質的な変化 → 舌筋の筋力 低下による喉頭蓋の後傾 → 喉頭蓋谷後壁の平坦化』 という安静時の誤嚥の新たな 発症機序を考えた。本申請課題の目的は、加齢による舌筋ー腱ー喉頭蓋軟骨の形態変化が嚥下機能に与える影響を解明することである。また、喉頭蓋谷の加齢変化を基礎医学的に 解明することで誤嚥防止に貢献をし、健康寿命の延長にも波及効果があると考える。
著者
山形 聡
出版者
弘前大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2019-04-01

副腎機能不全[糖質コルチコイド(GC)欠乏]は水利尿不全および低ナトリウム血症を引き起こす.抗利尿ホルモンであるバゾプレシン(AVP)の不適切分泌が病態に関与するとされるが,なぜGC欠乏ではAVPが不適切に分泌され続けるのか,そのメカニズムは明らかではない.AVPは主に視床下部室傍核(PVH)では大細胞から分泌されるが小細胞性コルチコトロピン放出因子(CRF)ニューロンからも分泌される.本課題では,「GC欠乏では負のフィードバックがはずれCRF/AVPニューロンが持続的に刺激された結果,AVPの不適切分泌が起こり,水利尿不全と低ナトリウム血症を引き起こす」という仮説の検証を行う.
著者
谷木 信仁
出版者
慶應義塾大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2018-04-01

肝疾患における治療介入の標的として腸肝臓軸が注目されている。本研究では、腸炎と肝炎のタンデムモデルを用いて、腸管粘膜バリア破綻状態では、続発する肝炎に対してIL-10産生マクロファージによる免疫寛容が誘導されることを示した。この免疫寛容は腸管除菌により消失することから、腸内細菌叢とその代謝産物がこのプロセスに必要であることが示唆された。免疫寛容を誘導する代謝産物の候補として1-methylnicotinamide(1-MNA)を同定し、1-MNAによる肝炎抑制効果も腸管除菌により消失することを示した。本研究の成果から、腸肝臓軸を介した肝臓免疫応答のバランス調節機構に関して新たな知見が得られた。
著者
今福 理博
出版者
武蔵野大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2019-04-01

内受容感覚とは,空腹,体温,心拍などの身体内部の状態を知覚することである。内受容感覚は,他者とかかわる上で必要となる社会的認知や,子どもの生存可能性を高める養育行動に寄与している可能性が議論されている。しかし,これまでの研究は成人対象のものがほとんどであり,発達初期において内受容感覚が社会的認知発達に果たす役割は明らかでない。本研究では,乳幼児を対象に,社会的認知発達における内受容感覚の役割を実証的に解明する。更に,養育者 (母親) の内受容感覚の個人差が,養育行動や育児ストレスに及ぼす影響を明らかにし,社会的認知発達をボトムアップ的に再考する。
著者
小貫 啓史
出版者
東京大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2021-04-01

量子計算機に耐性を持つ暗号(耐量子計算機暗号)の候補の1つである同種写像暗号の安全性を評価する。同種写像暗号は、耐量子計算機暗号の候補の中でも暗号通信で送信されるデータ量が小さいという特徴を持つことから注目を集めている。同種写像暗号の安全性は同種写像問題と呼ばれる問題の困難性を根拠としている。本研究では、超特異楕円曲線上の同種写像問題に対して、その自己準同型環の部分情報に基づいて困難性の解析を行う。
著者
津曲 俊太郎
出版者
地方独立行政法人神奈川県立病院機構神奈川県立こども医療センター(臨床研究所)
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2019-04-01

リンゴ、モモなどバラ科果物を中心とした果物アレルギーは自然寛解の可能性が低く現時点では確立した治療法がない。我々は先行研究でバラ科果物アレルギーに対するシラカバ花粉アレルゲンを用いた皮下免疫療法を実施し79%で臨床的有効性を示したが、治療効果を評価する経口負荷試験が煩雑で難しいことを実感した。本研究では、より生体の反応に近く食物アレルギー臨床症状と一致性の高い末梢血好塩基球活性化検査を利用して本治療法の有効性を客観的に評価するとともに、長期観察による寛解へのメカニズムの解明を目的とする。最終的には治療プロトコールを確立し本治療法がバラ科果物アレルギーの根治療法として今後普及することを目指す。
著者
稲田 健吾
出版者
国立研究開発法人理化学研究所
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2019-04-01

動物は本能的に攻撃性を持つ。しかし攻撃行動は多くのエネルギーを消費し、自身が傷つく可能性や社会的制裁を受けるリスクを負うことにもなる。そのため動物は不要な攻撃衝動を抑制する機構も併せ持つと考えられている。近年光遺伝学に代表される、高い時間・空間分解能で神経活動を人為的に操作する手法が登場したことで、オスマウスをモデルに攻撃行動を促進する視床下部領域の細胞構成について理解が進んだ。しかし攻撃性を抑制する神経回路メカニズムについてはほとんど解明されていない。本研究では内分泌ホルモンであるオキシトシンが、攻撃行動の制御中枢を抑制することで攻撃衝動を抑止しているのではないかと仮説を立て検証を行う。
著者
茂木 謙之介
出版者
東北大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2020-04-01

本研究は、戦後から現代の天皇・皇族・皇室の表象について、特にポップカルチャーにおけるイメージを中心的に検討し、その様相を明らかにすることを目的とする。特に2010年代以降、ポップカルチャーにおける天皇表象の数は増加傾向をたどっている。これらは時に皇室に関するオカルト的想像力を喚起し、また時に同時代の歴史認識問題を浮き彫りにするものであり、現在の皇室をめぐる状況を考察する上で欠かすことのできない。本研究では特に昭和天皇と皇族女子の表象を中心的に検討し、同時代の主要メディアや絵画・映画・文学における天皇・皇族・皇室表象と比較を試み、それらを通して従来の近現代天皇制研究を刷新する。
著者
竹内 健互
出版者
駿河台大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2021-04-01

刑罰論は従来、応報刑論と目的刑論の対立軸の中で争われてきたが、近時、刑罰のコミュニケーション的意味に着目する「表出的刑罰論」というアプローチが主張されている。そこで、本研究では、まず、 犯罪に対する非難や否認の表出を刑罰の本質と捉える表出的刑罰論において、害悪賦課としての「科刑」は必要か、非難表出の権限が「国家」に帰属する根拠は何か、刑罰の名宛人は誰かを解明することを通じて、表出的刑罰論のあり方と課題を詳らかにする。また、表出的刑罰論では、功績概念を用いるなど、応報刑論との類似性が見られることから、両者の関係を明らかにし、表出的刑罰論が「第三の刑罰理論」たり得るかについて解明する。
著者
ROTH Martin
出版者
立命館大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2022-04-01

遊びは、既存の枠組みに規定・制御されながらも、固定化されない逸脱的な側面を持つ行為として、デジタル化した社会・文化において重要である。本研究はその重要性を理解するために1遊びと日常生活との融合、2遊びの動画配信プラットフォームでの展開、3遊びがプラットフォームにおける共同体形成で果たす機能を問う。動画配信プラットフォームYouTubeで人気ゲーム『あつまれどうぶつの森』(任天堂2020)に関して日英韓中国語圏で共有される動画を対象に、各言語での動画を巡る遊びと共同体形成の関係を特定・比較し、デジタルプラットフォームでの遊びのための新たな分析方法を提案することを研究目的とする。
著者
勝又 竜
出版者
公益財団法人東京都医学総合研究所
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2019-04-01

筋萎縮性側索硬化症(ALS)は脊髄及び脳に存在する運動神経細胞が変性し、四肢の筋及び呼吸筋の筋萎縮をきたす疾患である。ALSは急速に症状が進行し、発症から死亡もしくは人工呼吸器などの侵襲的換気が必要になる期間は20-48ヶ月と予後が悪い。現在、ALSに対する根本的治療法は乏しく治療法の開発、あるいはその病態解明は急務である。本研究は、ALSの神経細胞内に確認される異常構造物でありながらその成り立ちが不明であるBunina小体に注目し、その構成蛋白を明らかにすることを目的とした。それによりALSの病態を深く理解することができる様になり、ひいては治療法や早期診断法の開発に寄与できると考えている。
著者
佐藤 洋介
出版者
東北福祉大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2020-04-01

腱・靭帯付着部症は,腱・靭帯が骨と結合している部位に誤った身体の使用を繰り返すことで過剰な負荷がかかり発症する炎症性疾患である.これまでに腱・靭帯付着部症の神経メカニズムについて検討した報告は少なく,有病者の運動時にどのような脳活動が生じているのか明らかになっていない.本申請課題では,腱・靭帯付着部症の有病者では健常人と異なる脳内神経回路が再構築されているという仮説のもと,代表的な疾患である上腕骨外側上顆炎の有病者を対象に申請者がこれまで使用してきた神経生理学的手法を用いて運動時の運動関連領野の活動量を計測し,健常者と比較して過剰な脳活動が生じているか明らかにする.
著者
土橋 祥平
出版者
順天堂大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2021-04-01

本研究では、成長期、特に発達早期の運動不足が将来的な認知機能に悪影響を及ぼす可能性について検討を行い、その対抗策の基盤となる分子メカニズムの解明を目指す。初年度は、生活習慣病に起因した認知機能低下を想定し,2型糖尿病を誘導するモデルラットを対象に、通常飼育群、活動制限による運動不足群を設定し、成長期の運動不足が成年期以降の認知機能に影響するか否かについて、エピジェネティック制御機構の観点から解明する。2年目以降は、成長期の中でも最も脳の可塑性が活発な発達早期における運動不足経験がその後の認知機能の変化に及ぼす否かについて実験動物を用いて検討する。
著者
秋山 隆太郎
出版者
奈良先端科学技術大学院大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2019-04-01

多細胞生物の器官は、その機能に応じた様々な3 次元構造をとるが、肺胞や腎臓のボーマン嚢にみられる球形もその基本構造の一つである。実際の生体内では、真球形をとるわけではなく、各組織での機能発現に適した半球や楕円体に調節されていると考えられるが、そのしくみはよくわかっていない。本研究では、ゼブラフィッシュの左右差決定器官クッペル胞の楕円体形成をモデルとして、器官の楕円体形成と機能(ノード流・左右差)を定量的に解析・理解することで、器官形成における3 次元構造と機能との相互作用を明らかにする。
著者
外山 喬士
出版者
東北大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2019-04-01

メチル水銀は魚介類の摂取を介して人体に蓄積し、中枢神経障害を惹起するが、その機構は不明である。最近申請者はメチル水銀を投与したマウスの大脳皮質において、脳内の免疫担当細胞であるミクログリアを活性化している可能性を見出した。これまで、活性化したミクログリアは 炎症性サイトカイン類の過剰産生を介して神経細胞死を誘導することで;、様々な神経疾患の発症に関わる可能性が示唆されている。そこで本研究では、1. メチル水銀による神経傷害へのミクログリア活性化の関与と、2. メチル水銀によるミクログリア活性化を介した神経傷害機構について解明を目指す。