著者
福井 一喜
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.1-13, 2019 (Released:2019-01-29)
参考文献数
19
被引用文献数
4

東京大都市圏に居住する若者の観光・レジャーにおけるSNS利用を,目的地による情報環境の差異と,SNS上での影響力の個人差に着目して分析した.観光・レジャーにおいてSNSを積極利用するのは,SNS上での影響力が大きい者であり,彼ら彼女らは情報探索時に自治体や観光協会のSNSアカウントよりも,企業のほか友人や知人などのSNSアカウントを参考にしている.それは彼ら彼女らが,SNS上で他者から凡庸と判断される情報の探索や発信を慎重に忌避したり,自身の観光・レジャー体験をより上質なものにしたりするために,目的地の情報の量や流通速度の差を認識しながら,SNSで拡充した個人的な社会関係を活用したためである.こうしたSNS利用は,若者たちが置かれる他者評価を重視せざるを得ない相互監視的な情報環境の中で,戦略的にICTを活用し観光・レジャーを効果的に実施しようとした結果だと解釈できる.
著者
埴淵 知哉 村中 亮夫 安藤 雅登
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.81-98, 2015-01-01 (Released:2015-10-08)
参考文献数
35
被引用文献数
7 14

社会調査環境の変化を受けて,廉価で迅速にデータを収集できるインターネット調査に注目が集まっている.本論文では,標本の代表性と測定の精度という二つの側面からインターネット調査の課題を整理するとともに,実際に行われた調査データを用いて,回答行動,回答内容,そして地理的特性について分析した.その結果,インターネット調査における標本の偏りや,「不良回答」が回答時間と関連していることを確認し,地理的特性がそれらと一定の関連をもつことを指摘した.さらに,地理学における今後のインターネット調査利用の課題と将来の利用可能性について考察した.
著者
伊藤 千尋
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.327-344, 2021 (Released:2021-10-20)
参考文献数
39
被引用文献数
1

「人種」は,一般に浸透している用語であるが,概念の定義を学ばなければ誤解しやすい.人種概念に対する誤った認識や,過去・現在の人種主義に対する理解の欠如は,国内外で生じている人種差別への理解を矮小化し,他者への差別・偏見を助長する土壌にもなりかねない.人種概念の理解に向けて地理教育も積極的な役割を担う必要がある.現行の高校地理教科書における「人種」および「黒人」に関する記述を分析した結果,すべての教科書において「人種」や「黒人」という語は使用されているが,概念の定義を説明している教科書は限定的であり,その説明にも不十分な点がみられた.「人種」や「黒人」という語を用いることでしか表せない現実も存在するため,使用を必要以上に避けるのではなく,注意を払って使用することが求められる.また,不必要に人種概念によって地域を表象することにより,単純な地域理解に生徒を導いてしまうことは避けなければならない.
著者
鈴木 晃志郎 于 燕楠
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.55-73, 2020
被引用文献数
3

<p>今日の地理学において,幽霊や妖怪を含む怪異は,専ら民俗学的な手法に依拠して検討されている.しかし隣接分野では,定量的な手法に基づいた知見が数多く存在し,客観性と厳密性を確保することによって学術的信頼性を高める試みが多くなされている.そこで本研究は富山県を対象とし,今からおよそ100年前(大正時代)の地元紙に連載された怪異譚と,ウェブ上に書き込まれた現代の怪異に関するうわさを内容分析し,(1) 怪異を類型化して出現頻度の有意差検定を行うとともに,(2) カーネル推定(検索半径8 km,出力セルサイズ300 m)とラスタ演算による差分の算出により,怪異の出没地点の時代変化を解析した.その結果,現代の怪異は大正時代に比して種類が画一化され,可視性が失われ,生活圏から離れた山間部に退いていることが示された.</p>
著者
尾方 隆幸 大坪 誠 伊藤 英之
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.44-54, 2020 (Released:2020-02-22)
参考文献数
22

琉球弧の最西端に位置する与那国島で,数値標高モデル(DEM)による地形解析と,露頭における地層・岩石と微地形の記載を行い,隣接する台湾島との関係も含めてジオサイトとしての価値を検討した.与那国島の表層地質は,主に八重山層群(新第三系中新統)と琉球層群(第四系更新統)からなり,地質条件によって異なる地形が形成されている.与那国島の代表的なジオサイトとして,ティンダバナ,久部良フリシ,サンニヌ台が挙げられる.ティンダバナでは,八重山層群と琉球層群の不整合が崖に露出し,地下水流出に伴うノッチが形成されている.久部良フリシでは,八重山層群の砂岩が波食棚を形成し,岩石海岸にはタフォニが発達する.サンニヌ台には正断層の露頭があり,断層と節理に支配された地形プロセスが認められる.与那国島のジオサイトは,外洋に囲まれた離島の自然環境や背弧海盆に近いテクトニクスを明瞭に示しており,将来的には台湾と連携したジオツーリズムやボーダーツーリズムに展開させうる可能性を秘めている.そのためにも,地球科学の複数分野を統合するような基礎的・応用的研究を継続することが必要である.
著者
柚洞 一央 新名 阿津子 梶原 宏之 目代 邦康
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.13-25, 2014-03-31 (Released:2014-04-23)
参考文献数
24
被引用文献数
2 6

ジオパークは,地形・地質遺産が主となって構成されるが,特に,これまで日本のジオパークでは地質公園的な側面が強く現れていた.Global Geoparks Networkのガイドラインでは,地形・地質のほか,生態系,考古,歴史,文化的価値を持つものの重要性も述べられている.それらは地理学的視点によって関連性を科学的に整理し理解することが重要である.地理学の成果にもとづいて,それぞれのジオパークのストーリー,ナラティブが構築されれば,その地域で発生している問題の解決の糸口を与えることになるだろう.そうすることにより,ジオパークの活動が持続可能な発展を目指すものとなる.
著者
牛垣 雄矢 久保 薫 坂本 律樹 関根 大器 近井 駿介 原田 怜於 松井 彩桜
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.285-306, 2020 (Released:2020-11-10)
参考文献数
34

アクアラインの通行料引下げの結果,高速バスによる東京都心部や川崎・横浜方面への通勤者が増加し,その中にはパーク&ライドを行う人も多い.東京大都市圏郊外としては相対的に地価も安いため,木更津市の人口は増加し,中心市街地から離れた郊外住宅地がその受け皿となっている.市や県など行政の協力・連携のもと,イオンモールなどのショッピングセンターが立地し,周辺ではチェーン店等が集積した.これにより木更津市の買物環境と商業中心性は向上したが,中心市街地の個人商店は厳しい状況にあり,スーパーやドラッグストアが少なく生活必需品が購入しづらい状況にある.その中でイオンによって無料送迎バスが運営され,高齢者の重要な移動手段となっている.木更津市の人口分布や商業は自家用車の利用を前提とした構造となり,イオンとの関わりや更なる高齢化が進展する中で,住民に対する買い物の機会や移動手段の確保が課題となっている.
著者
成瀬 厚
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.180-196, 2022 (Released:2022-07-01)
参考文献数
22

本稿は,東京2020五輪大会で実施されたホストタウンについて,登録自治体にアンケートを行い,回答を分析することでその全体像を把握したものである.世界中から集まる出場選手のために事前合宿の場所を日本全国から募るホストタウン政策は,国際交流を行う目的も有する.アンケートで集まった226件の回答では,事業の主目的として6割が事前合宿を,4割が国際交流を,それぞれ志向する結果となった.事業計画では,トレーニングが7割,スポーツによる交流事業が7割,レセプション・パーティも6割で,それぞれ計画されていた.選手団の国内での移動費や宿泊費は自治体が賄い,事業に伴う施設整備を行わない自治体が半数を占め,職員の再配置や研修を行う自治体は多くなかった.ホストタウンは相手国・地域の受け入れ競技選手の出場が決定する時期と前後して計画され,選手が競技に集中すべきところで交流事業を行わなければならないといういくつかの矛盾も確認できた.
著者
大島 英幹
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.145-151, 2016 (Released:2016-03-15)
参考文献数
17
被引用文献数
2

高等学校の教員は,新しい学習指導要領に対応して,GISの活用を工夫することが求められている.そのため,GISの専門家は,設備や予算に見合ったGISサイト・ソフトの選択や教員の指導,GIS教材の開発などを通じて,教員を支援してきた.本稿では,これらのGISの専門家による支援の事例をレビューした.その結果,GISを用いた地図を作成するよりもGISの地図を閲覧するための支援が重要であり,そのためにはGISの操作を録画した動画の制作が有効であることが明らかになった.
著者
福井 一喜
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.221-246, 2023 (Released:2023-07-14)
参考文献数
98

「観光立国」や「観光まちづくり」の担い手は誰なのだろうか.本稿は観光政策論と英語圏のジェンダーの経済地理学の観点から,観光産業の雇用の地域的パターンを解明した.雇用者の半分以上を所得149万円以下の女性の非正規雇用者が占める県は36を数え,市区町村の2/3以上において非正規雇用者の女性率は70%を超える.正規雇用者は主に男性だが,相対的に低賃金な若手の高卒者が多く,非正規の男性や高齢者も増加している.先進諸国のサービス経済化や中間層の退潮,空間の価値上昇政策,それらを背景に地域へ経済的自立を求める観光政策の政治の論理,それを内面化する観光産業の資本の論理,経済活性化を優先する地域活性化論等によって,既存のジェンダー不平等が温存されている.観光産業の主な担い手は低賃金の非正規雇用者であり,それは女性,若年者,高齢者,非大卒者等,各地域の労働市場で高賃金を得にくい周縁化された人々である.
著者
山内 啓之 鶴岡 謙一 小倉 拓郎 田村 裕彦 早川 裕弌 飯塚 浩太郎 小口 高
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.169-179, 2022 (Released:2022-06-14)
参考文献数
25

近年,バーチャルリアリティ(VR)の技術が様々な分野の教育実践において注目されている.地理教育においてもVRを活用することで,対象者の地理的事象への関心や理解を向上できる可能性がある.そこで本研究では,仮想空間に再現した現実性の高い環境を観察したり,散策したりするVRのアプリケーションを構築した.対象は横浜市にある人工の横穴洞窟の「田谷の洞窟(田谷山瑜伽洞)」とした.アプリケーションは,田谷の洞窟保存実行委員会と研究者が連携して取得した洞窟内の三次元点群データと,筆者らが現地で撮影した全天球パノラマ画像,洞窟の小型模型,環境音を用いて構築した.アプリケーションの使用感と効果を評価するために,市民の交流イベントにおいてVRの体験会とアンケート調査を実施した.その結果,VRアプリケーションは,幅広い年代の利用者に体験の満足感や地理的事象に対する関心や理解を与えることが判明した.
著者
荒又 美陽 大城 直樹 山口 晋 小泉 諒 杉山 和明
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.273-295, 2018 (Released:2018-05-31)
参考文献数
34
被引用文献数
3

東京は2020年にオリンピック・パラリンピック競技大会を開催することとなった.同メガイベントの招致は,1964年には高度成長を促進させたのに対し,今回はグローバル化に伴う脱工業化に合わせた都市改造となる可能性がある.本論文は,その流れを検討するために,1988年ソウル,1998年長野,2012年ロンドンのオリンピック大会の都市・地域開発,また伊勢志摩サミット開催地のセキュリティ面での対策とそれぞれの現在までのインパクトを,現地調査及び資料に基づいて分析するものである.明らかになったのは以下の点である.ソウルと長野の開発は,一方は経済成長,他方は財政状況悪化の象徴として扱われているが,いずれも現在まで残る都市基盤や地域産業の基礎を提供した.またロンドンは社会的剥奪の大きい地の再開発という一つの型を作り出したことに特徴があり,伊勢志摩では過剰な警備がその後の観光資源となるという意外な結果を生み出している.
著者
箸本 健二 武者 忠彦 菊池 慶之 久木元 美琴 駒木 伸比古 佐藤 正志
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.33-47, 2021 (Released:2021-03-02)
参考文献数
21

本稿は,立地適正化計画の実施主体となる332市町村へのアンケート調査を通じて,立地適正化計画の導入意図,施策の概要,実施上の課題を分析・検討した.その結果,多くの地方自治体が,政策の理念や必要性には理解を示している一方で,主に経済的理由から都市機能の誘導は限定的な施策にとどまる.また,ローカルな政治的文脈への配慮から,都市機能の集約化や強制力を伴う居住誘導の導入にも慎重な姿勢を崩していない.立地適正化計画をコンパクトシティ実現の切り札と位置づける国と,さまざまな制約条件の下で実施可能な事業を優先せざるを得ない地方自治体との温度差は,現時点では大きいといわざるを得ない.
著者
埴淵 知哉 山内 昌和
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.14-29, 2019 (Released:2019-01-29)
参考文献数
28
被引用文献数
4 1

近年,国勢調査の「不詳」増加が懸念されている.本研究は,国勢調査の調査票未提出に関連する諸要因を明らかにし,データの補正や解釈,あるいは将来の調査改善に役立つ情報の獲得を目的とした.インターネット調査により収集された,国勢調査の回答状況を含む個票データの分析から,若年層や未婚者,単身世帯,短期居住者などが未提出になりやすく,特に年齢が未提出発生の基本的な関連要因であることが示された.また,大都市圏居住者において未提出が生じやすいこと,プライバシー意識は予想に反して未提出に結び付いていないこと,国勢調査の理解度が年齢とは独立して未提出に関連していることなども明らかになった.国勢調査データを地域分析に利用する際には,これらの偏りがもたらす疑似的な地域差・地域相関の可能性に留意するとともに,将来の国勢調査では,年齢層を問わず調査結果の利用・公開方法を広く周知していくことの重要性が指摘された.
著者
半澤 誠司
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.296-311, 2018 (Released:2018-05-31)
参考文献数
17
被引用文献数
2 1

本論文では,2020年東京五輪開催によって何が実現されようとしているのかを検討するための準備として,2016年のリオデジャネイロ五輪と2014年のサッカーワールドカップという二つのメガイベントを短期間に開催したリオデジャネイロ市で行われた都市開発について,文献と補完的な現地調査に基づき分析する.オリンピック関連投資資金の調達と使途に関しては,一部の民間企業への利益誘導のかたちで多額の公的資金が,オリンピックの主要地区であり住民に貧困層が少ないバーハ・ダ・チジューカに集中投下されていた.この投資による受益層が限られる一方,多数の貧困層がファベーラから追い出され,そうではないほとんどの住民も少なからず犠牲を強いられた.このような事態は,メガイベントを開催したからこそ引き起こされたというよりも,強度と範囲共に巨大な影響を各所に及ぼすメガイベントによって,既存の政治・経済力学が極端なかたちで露呈したものといえる.
著者
大山 修一
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.87-124, 2011 (Released:2011-02-12)
参考文献数
41
被引用文献数
4 2

2000年に開催された国連ミレニアム・サミットでは,世界中の政治家が「ミレニアム開発目標」を設定した.開発目標のひとつに1人・1日あたりの所得1ドルを貧困の基準に設定し,2015年までに貧困人口を半減させることが挙げられている.「1日1ドル未満の所得」というフレーズは,毎日食うに困って飢餓に恐れおののく人びとの姿を想起させる.サハラ以南アフリカの人口の6割は農村に居住しているが,アフリカの農村に住む人びとは飢餓に恐れおののき,衣食住に困っているのだろうか.ザンビア北西部州のカオンデ社会を事例に,焼畑と狩猟,採集,漁撈を組み合わせた多生業形態,世帯間での食料のやりとり,村長のライフヒストリーを検証し,自分たちの食料や生活資材を自分たちで獲得しようとする自給指向性の強さを明らかにした.アフリカ農村は孤立し,外部社会に対して閉鎖的では決してないが,自給指向性が強く,現金を多く介在させない社会であった.つまり1日1ドルの所得を必要としない,自給に根ざした生活様式がいまだ根強く残っているのである.1日1ドル未満の所得の人びとがすべて,飢餓に苦しみ,援助を必要とする人びとではないことを指摘した.現在,アフリカでは共同保有を基本とした慣習地の土地制度が改正され,土地の囲い込みや私有化が進んでいる.外資の導入や資源開発も進み,今後,アフリカは世界経済とも強くリンクし,農村も急激な変化に取り込まれていくであろう.そのとき,人びとが自給を維持できず,1ドル未満の所得しかない社会の最下層に位置づけられていくことを危惧する.
著者
新井 智一 福石 夕 原山 道子
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.125-137, 2011 (Released:2011-02-12)
参考文献数
15
被引用文献数
3 2

本研究は,ローカルな環境改変の要因を大スケールの政治経済的コンテクストとミクロな政治との関わりという観点から解明するポリティカル・エコロジー研究を援用し,山梨県白州町(現北杜市)において多くの企業が地下水を大量に採取してきた要因を明らかにした.白州町議会では,企業による環境改変への懸念が表明されてきたものの,白州町の行政は企業に対する地下水採取規制に消極的であった.それは,白州町議会で保守系議員が圧倒的多数を占めてきたこと,企業誘致が順調に進まなかったこと,ミネラルウォーターの採取地であることが白州町の観光に寄与してきたこと,によると考えられる.
著者
高橋 昂輝
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.50-67, 2018 (Released:2018-03-16)
参考文献数
21
被引用文献数
3

本論は,鹿児島県奄美大島の瀬戸内町嘉鉄において,Iターン者の価値観と集落の機能に注目し,Iターン者を取り入れた集落の維持形態を明らかにした.1990年代末以降,嘉鉄には大都市圏からの移住者が継続的に流入している.彼らは島内の都市的地域を避け,選択的に嘉鉄に居住する.Iターン者が嘉鉄に住居を確保するには,住宅所有者の社会的ネットワークに参加することが求められる.また移住前,住民は会合を開き,移住希望者に対し集落行事への参加を確認する.閉鎖的な住宅市場と集落行事に関する合意形成は,地域社会に適合する人材を選別する役割を果たす.移住後,集落行事は従前の住民がIターン者を受け入れる場所となる.非都市的生活を希求するIターン者と彼らを選別して受け入れる集落の機能が結びつき,嘉鉄ではIターン者を空間的・社会的に取り入れた集落維持が行われている.本論は,限界集落論を反証する事例として位置づけられる.
著者
成瀬 厚
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.78-95, 2013 (Released:2013-09-13)
参考文献数
34

日本国内の航空旅客数は減少傾向にあり,国や地方自治体が管理する多くの空港は赤字経営が続いている.さまざまな空港利用促進事業が行われるなかで,近年は空港に愛称や通称をつける動きがある.本稿はこの動向を中心に地方空港の運営状態を地理学的に考察することを目的とする.本稿では,地理学における場所論と地名研究,場所のプロモーション研究を参照することで,空港を一つの場所としてとらえている.国内の政治的階層,地理的スケールにおいて中間の位置を占める地方自治体は,下位の地域住民から意見を集約し,決定した名称を上位の国家から公認を取得する形で公式化する.空港名の愛称化の目的は日本全体に対する地方空港の認知度や親しみやすさの向上であり,それに付随して空港で開催されるイベントの目的は地域住民に対するイメージの向上であると同時に空港施設の多目的利用化であるといえる.
著者
祖田 亮次 柚洞 一央
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.147-157, 2012-09-28 (Released:2012-09-28)
参考文献数
31
被引用文献数
2 4

1990年に建設省が各地方建設局に通達した「多自然型川づくり」の推進は,従来にない環境配慮型の川づくりを目指したものであった.この方針は1997年の改正河川法に取り入れられ,さらに2006年には「多自然川づくり」と改称され,現在にいたっている.この方針のもと,全国各地の河川でさまざまな人工構造物が設置されてきた.本稿では,過去20数年間に行われた環境配慮型河川改修の諸事例を分類・整理することで「多自然(型)川づくり」の実態を把握し,それらが河川関係者の間に大きな混乱をもたらした状況について,その背景を考察する.