- 著者
-
大山 修一
- 出版者
- 公益社団法人 日本地理学会
- 雑誌
- E-journal GEO (ISSN:18808107)
- 巻号頁・発行日
- vol.5, no.2, pp.87-124, 2011 (Released:2011-02-12)
- 参考文献数
- 41
- 被引用文献数
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4
2
2000年に開催された国連ミレニアム・サミットでは,世界中の政治家が「ミレニアム開発目標」を設定した.開発目標のひとつに1人・1日あたりの所得1ドルを貧困の基準に設定し,2015年までに貧困人口を半減させることが挙げられている.「1日1ドル未満の所得」というフレーズは,毎日食うに困って飢餓に恐れおののく人びとの姿を想起させる.サハラ以南アフリカの人口の6割は農村に居住しているが,アフリカの農村に住む人びとは飢餓に恐れおののき,衣食住に困っているのだろうか.ザンビア北西部州のカオンデ社会を事例に,焼畑と狩猟,採集,漁撈を組み合わせた多生業形態,世帯間での食料のやりとり,村長のライフヒストリーを検証し,自分たちの食料や生活資材を自分たちで獲得しようとする自給指向性の強さを明らかにした.アフリカ農村は孤立し,外部社会に対して閉鎖的では決してないが,自給指向性が強く,現金を多く介在させない社会であった.つまり1日1ドルの所得を必要としない,自給に根ざした生活様式がいまだ根強く残っているのである.1日1ドル未満の所得の人びとがすべて,飢餓に苦しみ,援助を必要とする人びとではないことを指摘した.現在,アフリカでは共同保有を基本とした慣習地の土地制度が改正され,土地の囲い込みや私有化が進んでいる.外資の導入や資源開発も進み,今後,アフリカは世界経済とも強くリンクし,農村も急激な変化に取り込まれていくであろう.そのとき,人びとが自給を維持できず,1ドル未満の所得しかない社会の最下層に位置づけられていくことを危惧する.