著者
堤 定美 南部 敏之 玄 丞烋
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

スポーツによる脳震盪などの障害を予防する防具としてのマウスガードやヘッドギアなどについて、その安全性について生体力学的に評価し、新しい衝撃吸収用生体材料の開発研究を行った。衝撃解析には有限要素法とMADYMOを併用した。マウスガードの効果についてまとめると、下顎への打撃に対して緩衝する能力は十分に認められ、特に開口時における打撃に対して有効であった。この緩衝効果は5人のボランティアにおけるオトガイへの振子による打撃試験において、頬骨への加速度の伝播状態からも確認できた。PVAゲルは生体にとって安全であり、高含水率、高弾性率を有するが、水が飛散し易いので、保水性に優れた化合物を複合化すれば、耐久性に優れた高衝撃吸収性ゲルとなり、生態親和性に優れた防具として使用できる。有機溶媒を用いたPVAゲル化合成法を考案した。重合度8800、30wt%のPVAを水:DMSO=2:8に調整した有機溶媒を用いて冷凍してゲル化すると、均一でヤング率の高い材料を作ることができた。重合度の低い(1700)PVA試料は、エタノールによって有機溶媒を置換し、冷凍してゲル化を促進させた。重合度の高い(8800)試料は、140℃、数百気圧にて押し出し成型を行い、冷凍してゲル化を行った。この方法により、20〜40%の高濃度PVAゲルが得られた。別に、PVAを140℃にてDMSOに溶解させ、メタノール中に再沈殿させてDMSOを除いた。再沈して得た試料を真空乾燥後、140℃で5分間ホットプレスで成形した有機溶媒沈殿法試料のtanδの温度依存性は、0〜50℃にピークを持ち、前記の試料とブレンドすれば、tanδが低い温度領域を相互補完できる。このPVAゲルは大きなヤング率を持つにも関わらず100%以上の伸び率を示し、80%まで伸ばした後、除荷した履歴曲線は、強い衝撃に対する吸収特性を示した。
著者
佐々 恭二 山岸 宏光 福岡 浩 千木良 雅弘 丸井 英明
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

21世紀において地すべり危険度の軽減と人類の文化・自然遺産及びその他の脆弱な宝の保護の問題は重要性を増しており,そのための研究、調査の拡大・強化に向けた世界的な協力が緊要である.1999年12月,ユネスコ事務総長と京都大学防災研究所長の間で合意覚え書き「21世紀の最初の四半世紀における環境と持続できる開発のための鍵としての地すべり危険度軽減と文化・自然遺産保護のための研究の推進に関する協力」が交わされた.この合意を推進するため,以下の研究を実施した.1.岡山県高梁市の国史跡・備中松山城の変形し始めている基礎岩盤に差動トランス型伸縮計とクラック変位計を開発・設置し,岩盤変位の精密計測を開始した.2.ユネスコ世界遺産の中で最も著名で,大規模な岩盤崩壊の地形の真上に位置し,クラックや小崩壊などの危険な兆候を示しているペルーのマチュピチュ遺跡の調査と斜面変動の高精度計測のため簡易伸縮計を開発し,11月に現地に持ち込み設置した.3.日本学術会議において2001年1月15日〜19日にかけて,UNESCO/IGCP Symposium on Landslide Risk Mitigation and Protection of Cultural and Natural Heritageを開催し,19カ国,57名が参加し,研究発表・研究推進の打合わせを行った.国際的な地すべり研究の枠組み設立のための「2001年東京宣言:Geoscientists tame landslides」を採択した.佐々が報告したマチュピチュ遺跡の地すべり調査結果と伸縮計観測結果は英国BBC,米国CNN,ロイター通信社,読売新聞等で世界的に報じられ,地すべりの危機に晒される文化遺産に対する国際的な関心を高めることに寄与した.なお,同シンポで発表された論文の中で優れたものを編集しSpringer Verlagより単行本として出版予定である.
著者
手塚 太郎
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2003

昨年度に引き続き、ウェブからの包括的な地域情報抽出の枠組みの開発を進めている。ウェブ文書から抽出されたランドマーク情報をカーナビゲーションシステムの地図表示に利用する研究を進めた。認知的に顕著なランドマークの情報の抽出し、地理情報システム(GIS)の情報と結合させることによって、既存のGISが持たなかった新しい情報を付け加えている。さらに、近年、利用が拡大しているウェブ上のローカル情報検索インタフェースにおける地図表示にランドマーク情報を統合し、より見やすい地図の表示を実現した。本年度はウェブからのランドマーク情報の抽出手法を発展させた他、取得されたデータに基づく実用的なアプリケーションの実装を行った。また、これらの成果を国際会議ならびに国内外のワークショップにて発表した。さらに、海外において関連する研究を進めている研究者グループと積極的な情報交換を行い、国際シンポジウムの開催に着手した。本研究の成果として、地域情報の受動的閲覧インタフェース「車窓」の開発を進めた。これは、従来、ユーザ側からの積極的な情報入力を必要としてきた既存のウェブ地域情報閲覧システムを発展させたものとして、最小限の操作で地域情報を閲覧できるようにしているシステムであり、幼少者やコンピュータ操作に不慣れなユーザ、あるいは娯楽として地域情報の閲覧を行いたいユーザの使用を想定している。このシステムを京都市内の小学校において、「総合的学習の時間」の授業に導入し、修学旅行のプラニングに使用した。
著者
中島 正愛 MCCORMICK Jason Paul
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

性能の明示を謳う性能耐震設計では、代表性能指標としてもっぱら最大層間変形角を使っているが、扉の開閉傷害に起因する避難経路の遮断、構造躯体の修復性、内装材、外装材等非構造部材の補修性等、地震終了時に建物が被る残留変形(角)も無視しえない性能評価指標となる。本課題では、鋼構造建物は、(A)大地震下でどれぐらいの残留変形を被るのか、(B)どこまでの残留変形が許容できるか、(C)残留変形をどのように制御できるかを、明らかにすることを目的とし、特に、(A)残留変形の実態調査、(B)非構造部材の損傷同定、(C)残留変形制御機構の開発、に取り組む。本研究の二年度である今年度では、上記(A)〜(C)のうち下記を実施した。(A、B)残留変形の実態調査と許容残留変形:建築後約40年を経た5階建て建物の残留変形を、床の傾斜と柱の傾斜という指標から調べ、その平均値はいずれの傾斜も1/500以下にとどまっていることを明らかにした。また当該建物への居住者へのヒアリングから、1/500程度の傾斜は生活や仕事に影響がないことも判明した。さらに心理学分野への文献調査とヒアリング結果等も踏まえ、1/200が、心理面、機能面、安全面いずれにおいても許容しうる残留変形(傾斜)であることを突き止めた。(C)残留変形の制御:残留変形最小化システムとして、柱脚部に原点復帰性を持たせる機構を考案し、それによって得られる残留変形低減効果を数値解析から明らかにした。また柱脚部原点復帰性を実現する具体的方法として、形状記憶合金をテンドンとして利用する方法と、鋼とコンクリートの間の摩擦係数が大きいことを利用した無緊結柱脚を用いる方法を提案し、後者についてはその妥当性を一連の振動台実験から検証した。
著者
池永 昌容
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

研究では,研究計画として3項目を設しそれぞれを並行して施している.3つの枠組みとは「セルフセンタリング柱脚(以下SC柱脚)の特性評価と設計法」,「新たなSC柱脚の開発」,「許容残留変形の定量化」であり,20年度は,19年度の研究経過を受けて前2項目に関して研究を実施した.研究状況は以下の通りである.1.SC柱脚の開発申請者が過去に実施したSC柱脚の開発,そして前年度に実施したSC柱脚の特性評価と設計法における研究成果をもとに,既存のSC柱脚の保有性能の増強と,多軸方向載荷への対応が可能となるように改良を加えたSC柱脚を開発した.そして2/3スケールの試験体を作成し,2軸同時載荷が可能な静的載荷装置を用いてその性能を確認した.その結果,保有性能の増強には成功し,また誤差20%未満で評価が可能な評価法を提案することができた.しかしながら,多軸方向載荷に対しては想定とは異なる挙動が見られるとともに改良点も明らかになり,今後の課題となった.2.SC柱脚の特性評価と設計法前年度の研究で明らかにした鋼とモルタル面の摩擦特性を利用した,「置くだけの柱脚」を利用した鋼構造骨組の特性を時刻歴応答解析で評価した.2層と3層の鋼構造骨組の側柱をSC柱脚,軸力変動がない中柱を「置くだけの柱脚」として,最大層間変形と残留層間変形を評価した.比較対象として,SC柱脚をすべての柱脚に用いた場合の,鋼構造骨組を考える.検討の結果,3層骨組では柱脚を併用することで,併用しない場合と比べて両応答ともに増大した.一方で2層骨組では,柱脚を併用しても,SC柱脚のみを使用した場合と同程度,もしくは最大層間変形は同程度であり残留層間変形は若干減少する傾向が見られた.この結果は,2層程度の鋼構造骨組では柱を基礎上に置くだけでも耐震上問題がないことを不しており,従来の柱脚工法と比べて施工性が格段にあがる新工法の可能性を示唆している.
著者
高田 時雄 BATTAGLINI M VITA Silvio 森賀 一恵 井波 陵一 MARINA Batta SILVIO Vita
出版者
京都大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1995

十六世紀末葉から、イエズス会をはじめとするカトリック各会派は精力的に中国布教を開始した。ローマ及びイタリア各都市には彼ら宣教師によって中国からもたらされた、明清代の漢籍が数多く保存されている。しかしこれらはほとんど手つかずのまま放置されているのが実状である。これらの書物は、それ自身が東西文化交流史の貴重な財産であるばかりか、中には学術的価値の高い資料も含まれ、その調査は、中国学の各方面に新たな材料を提供するものであることは確実である。今回の国際学術研究のプロジェクトにおいては、主としてイタリアの公共図書館に所蔵される中国書を調査し、それを目録化するための基礎研究を行うことであった。ローマの国立中央図書館をはじめとして、全国に散在する中国書を徹底して調査するため、アンケート調査を行いつつ、カード採取を実施した。その結果、公共図書館の所蔵漢籍については、ほぼすべての調査を完了し、現在コンピュータ入力中である。その作業の終了を待って、冊子目録の刊行の運びとなる。調査によって明らかになった要点は以下のごとくである。(1)16世紀末あるいは17世紀初頭にヨーロッパにもたらされたと思われる明版本が少数ながら存在する。これらのほとんどが未報告の書物で、研究に資するところが大きい。(2)ローマ国立中央図書館には、義和団事件の時にイタリア軍によって持ち帰られた殿版が相当数存在することで、これも今まで知られなかった事柄である。(3)同じくローマの図書館には広東の曲本の古い刊本が大量に存在し、俗文学研究の上に貴重な資料を提供する。(4)古く伝来した書物の中には、宣教師による書き込みが見られ、ヨーロッパにおける中国学の発展史を知る上での参考となる。
著者
清野 純史 宮島 昌克 堀 宗朗 能島 暢呂 五十嵐 晃 小野 祐輔 豊岡 亮洋 古川 愛子
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

鉄道ネットワークを対象として,センシング技術を利用した災害発生時の迅速な機器制御により,被害を最小限に留めるような理論的な枠組みの構築と技術開発を行った.小型マイコンに加速度センサとワイヤレス伝送技術を実装し,これをセンサネットワークとして利用するためのハードおよびソフトの環境整備を行い,プロトタイプを作成した.さらにセンシングデータの大容量送受信が可能であるか等の検証を行うとともに,損傷判断や被害検知手法の開発を行った.
著者
岩瀬 正則 長谷川 将克
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

木質系バイオマスあるいは廃プラスチックと酸化鉄を混合・圧縮し、これを流量1000cc/minのアルゴン気流下、高周波誘導加熱炉内にてモリプデンサセプターを用いて1400〜1800℃の高温に加熱したマグネシアるつぼ内へ投入して、急熱した。なお[Pt-20Rh]-[Pt-40Rh]熱電対により温度を測定した。発生するガスは、これを捕集してガスクロマトグラフィーによりCO,CO2,CH4,H2を定量し、水蒸気発生量は重量測定によって求めた。いっぽう凝縮相は炭素、酸素、鉄をLECO炭素、酸素分析装置あるいは化学分析により定量した。以上より反応生成物の化学種、存在比、分圧比等を求めた。その結果、上記の条件下では、気相中の主成分は水素と一酸化炭素であり、炭酸ガスならびにメタンはほとんど生成しないこと、および凝縮相には金属鉄が生成することを明らかにした。以上の実験結果を不均一系熱力学を用いて解析し、気相と金属鉄については、ほぼ熱力学平衡が成立すること、および金属鉄中の炭素に関しては、生成する固体炭素の結晶性に依存し平衡には到達する場合と相でない場合があることを見出した。すなわち、木質系バイオマスでは、鉄中への浸炭が非常に迅速に進行するが、プラスチックでは、浸炭が遅れることを見出した。これらの結果を総合し、炭酸ガスおよびメタンを生成させず、一酸化炭素と水素を副産物として得ることのできる製鉄法の基礎学理を確立することができた。上記の目的を達成するための具体的条件をまとめれば以下のようである。1.混合圧縮体を急熱することが必要。2.温度は高温ほど望ましい。3.圧縮体中のC/Oモル比を1.1以上にする。
著者
福田 治久
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

医療界では安全水準を測定することが極めて困難であるために,安全活動の効果の検証もまた至難な状況下にある.本研究は,航空業界・化学業界・製造業界を対象にヒューマンエラーの未然防止の上で高い効果が期待できる安全活動についてヒアリングし,その活動を医療界に応用することを目的に調査を行った.その結果,インシデント報告に対する非懲罰化,報告の簡素化を進めることで報告件数が増加する傾向にあることが確認された.しかしながら,調査対象企業においては,安全活動の効果を検証可能な余地を認めたものの,定量的な実証には未だ至っておらず,今後さらなる研究を進めることの必要性が見出された.一方で,病院感染領域では,病院感染の発生を不安全な状態と捉え,感染による追加的治療コストの測定が可能である.また,当該コスト推計値は,感染対策の重要性を訴求する根拠として,さらに,感染防止方策の経済評価研究の参照値として活用可能なデータにもなりうる.しかしながら,当該コストの推計値は推計方法に大きく依存するという問題がある.そのため,第三者が活用する際には,報告された推計値の自施設・自国における外挿可能性を考慮する必要性が生じ,その検証には推計方法の正確性や推計結果の透明性の視点が不可欠となる.本研究は,2000年〜2006年に報告された英語原著論文を対象に,病院感染による治療コストを推計した論文を抽出し,平成19年度に開発したフレームワークに基づいて推計値の質を評価した.その結果,病院感染による追加的治療コストを推計した研究は50論文が確認され,そのうちわずか7報のみが,透明性・正確性を共に備えた推計値を報告していた.当該コスト研究は,感染対策に向けた資源配分の意思決定を大きく左右するために,第三者が転用可能な結果を報告することが極めて重要になる.本研究は,経済評価研究の新たな視点を呈示するものである.
著者
小林 優 間藤 徹
出版者
京都大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

ペクチンは植物細胞壁を構成する主要成分のひとつであり,荷電した親水性ゲルとしてプロトプラストを取り巻く微小環境の維持,外部環境からの養分吸収等に重要な役割を果たすと考えられている.本研究ではペクチンの生理機能をより詳しく理解するため,ペクチンの部分領域であるラムノガラクツロナンII(RG-II)に構造変異を導入しその表現型を解析することを試みた.変異導入部位としてRG-IIの特異的構成糖KDOに着目し,その生合成に必要な酵素CTP:KDOシチジル酸転移酵素(CKS)のT-DNA挿入変異株を探索したが,ホモ変異株は得られなかった.今年度はこの原因について解析を進めた結果,cks変異は花粉の形成・発芽には影響しない一方,花粉管伸長を著しく阻害することを明らかにした.In vitro発芽させた変異型花粉は花粉管が短く径方向に膨れていた.この結果は,通常の細胞分裂・伸長過程では変異型RG-IIでも致命的な機能欠損が起こらないが,花粉管のように急速に伸長する組織ではKDOを含む完全なRG-IIが必須であることを示唆し,生殖成長過程におけるペクチンの重要性が示された.ペクチンと結合する受容体型キナーゼの一種,細胞壁結合型キナーゼ(WAK)の機能研究を行った.タバコのWAKホモログNtWAKL1にアフィニティ精製タグを付した融合タンパク質をタバコ培養細胞で発現させ,界面活性剤で可溶化・アフィニティ精製した標品をblue native PAGEに供した.NtWAKL1の見掛けの分子量は500kD程度となり,複合体として可溶化されていることが示唆された.この標品を二次元電気泳動に供し検出されたスポット1種類の質量分析を行った結果,機能未知のタンパク質が検出された.今後より多くのスポットを分析することでWAKの相互作用分子が明らかとなり,機能に関する手がかりが得られると期待される.
著者
MORI James Jiro 伊藤 久男 柳谷 俊 松林 修 加納 靖之 木下 正高 MA Kou-fong
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

我々は,車籠埔断層を横断する温度プロファイルを観測するために,深さ250mのボアホールを掘削した.この掘削場所は1999年集集地震による温度異常が2000年に観測された場所のごく近傍である.2008年と2010年の温度測定では,温度異常は観測されなかった.このことは,2000年に観測された温度シグナルが地震による摩擦発熱による真のシグナルであったことを示している.
著者
福西 悠一
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

1.マダイとクロダイにおける天然稚魚と飼育稚魚の黒色素胞の違い昨年度、マダイとクロダイにおいて天然稚魚と飼育稚魚の紫外線耐性を比較したところ、マダイでは両者の間に差はみられなかったが、クロダイは、飼育魚よりも天然魚の方が紫外線耐性が高いことが明らかになった。そこで、本年度は紫外線耐性に差が生じるメカニズムを明らかにするために、紫外線を吸収するメラニンを主成分とする黒色素胞の密度を天然魚と飼育魚で調べ、比較した。その結果、黒色素胞の密度は、マダイでは両者の間に差がなかったのに対し、クロダイでは天然魚の方が飼育魚よりも高いことがわかった。したがって、クロダイは、天然海域において後天的に黒色素胞を増加させることで、紫外線の強い浅い海域に適応していることが示唆された。2.3目6種(マダイ・クロダイ、ホシガレイ・ババガレイ、クサフグ・トラフグ)の黒色素胞の発達過程と紫外線耐性との関連昨年度は、紫外線耐性の個体発生を3目6種で調べ、近縁種間で比較した。その結果、紫外線耐性は生息域の紫外線レベルを反映しており、浅い所に棲息する種や発育段階ほど高い紫外線耐性を持つことが明らかになった。本年度は上記6種の黒色素胞の発達過程を調べ、紫外線耐性と黒色素胞との関連を探った。その結果、紫外線耐性の強いクロダイはマダイよりも頭部や腹部に多く黒色素胞を持つことがわかった。また、ホシガレイの紫外線耐性の個体発生は黒色素胞密度の発達と密接に対応していた。さらに、波打ち際に分布するクサフグの仔魚は頭部の黒色素胞が発達しているのに対し、深場に分布するトラフグの仔魚は黒色素胞がクサフグよりも少ないことがわかった。これまで海産魚類の黒色素胞の生態学的な意義としては、背景への隠蔽色としての働き等が考えられて来た。本年度の一連の結果より、黒色素胞は、紫外線への適応という役割もあることが示唆された。
著者
TRENSON Steven (2010) 西山 良平 (2008-2009) TRENSON Steven
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

平成22年度は、醍醐寺の龍神信仰の日本中世の宗教における意義についての研究をまとめる作業をした。本研究の主眼は、醍醐寺の龍神信仰の日本中世の宗教における重要性に光を当てることである。日本宗教史学では11世紀末~12世紀初めに真言密教思想を基層とする日本中世の宗教が確立したとされているが、この真言密教思想の内容と特徴が十分に理解されているとは限らない。というのは、中世の真言宗の神髄が宝珠信仰にあることはすでに先学の研究によって明らかにされたが、この宝珠信仰の内容、そしてその成立と展開については、なお検討する余地が多いのである。しかし、11世紀末~12世紀初めの醍醐寺(真言宗の主要寺院の一つ)では龍神信仰が発達し、その後、その信仰が醍醐寺を中心とする宗教ネットワークの中で広まった。それゆえに、龍神信仰が宝珠信仰と不可分であるので、日本中世の宗教の形成史と有様を解明するために、醍醐寺の龍神信仰とそれと直接にかかわると考えられる諸宗教形態(神道灌頂、玉女信仰、室生山や三輪山の龍神信仰、宇賀弁財天信仰など)について検討することにした。この研究の成果・意義として主に次の点があげられる。(1)真言宗の宝珠信仰(仏舎利と龍神の宝珠との同体説)が、まず真言宗の雨乞儀礼を背景に展開し、その後、醍醐寺の密教の根本教義として伝承されたという点。(2)中世の醍醐寺では、龍とその宝珠が、天地陰陽及び両部曼荼羅(胎蔵と金剛界)を一体化する霊物と見られたが、その化身がほとんど女性の密教の神(仏眼、愛染明王、ダキニ天)であるという点。(3)醍醐寺で葬られていた白河院の中宮賢子が"玉女"(女性として現れる宝珠)として崇敬され、その崇敬が宝珠を女性の神と見る観点を促した可能性。(4)神道・即位灌頂の本尊が宝珠の女性の化身であるという説、(4)醍醐寺の龍神・宝珠信仰が地方の霊場(伊勢神宮室、生山、三輪山)へ伝承され、この信仰こそがこれらの霊場と縁が深い両部神道の基盤となったと考えられる点である。
著者
片岡 大右
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

19世紀末の象徴主義運動から20世紀初頭の古典主義復興運動を経て1930年代に至るまでの文学状況を、当時の政治状況との絡み合いの中で把握する作業に取り組んだ。文学作品、批評、時事的文章を初めとする多様な文献を渉猟し、基本的な流れを再構成するとともに、注目に値する諸々のテクストの精緻な分析を心掛けながら。また前世紀末のフリードリヒ・ニーチェの仕事がフランスにおいて経験することとなった奇妙な運命にも注目した。公表された業績としては、第一に、日本フランス語フランス文学会秋季大会(於岩手大学)における学会発表「隠遁者、野生人、蛮人--シャトーブリアン『歴史研究』におけるギボンの活用」がある。本研究において重要な位置を占めるこのフランス作家は、19世紀的な文学的感受性の嚆矢とみなしうる。ここではその点が、上記三つの形象が彼の作品において果たす役割に即して論じられた。第二に、『人文学報』第98号に掲載の「「野生」の観念とその両義性--モンテーニュからシャトーブリアンまで」がある。こちらでは、同様の問題関心に立ちつつも、「野生人」あるいはその前提となる「野生的なもの」の観念それ自体に分析対象を絞りつつ、より広い歴史的パースペクティヴを獲得することが目指された。いずれの研究においても基底に横たわるのは、19世紀において勝ち誇ることとなる市民社会=文明に対する異質性の意識が、古典主義とロマン主義をめぐる議論の中でどのように表現されていたか、この点を究明しようとの意図にほかならない。
著者
丸山 敬
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

竜巻内の気流性状、および、建物に加わる空力特性を明らかにすることを目的に、竜巻状の回転流を作りだす数値トルネードシミュレーターを開発した。これにより、いくつかの形態を持った竜巻状の回転流を作り出し、渦内の気流性状を明らかにし、また、建物周りの気流・風圧性状を検討した。さらに、竜巻時の建物被害の主な原因である飛来物の飛散特性を明らかにするために、渦内に放出された物体の飛散運動を追跡する方法の検討も行った。
著者
大西 琢朗
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本年度は、主に「証明論的意味論」の概念枠組についての批判的検討を行った。証明論的意味論とは、形式的証明体系を形成するシンタクティカルな推論規則から、論理定項にかんする合成的意味論を抽出することを目指す試みである。その意味論的探求は、フレーゲの「文脈原理」と「合成原理」の現代的実現と見ることができる。このような背景のもと、大西は次のような研究を行った。証明論的意味論は、これまで主に、ダメットやプラウィッツといった、構成主義的傾向をもつ論者によって発展させられてきた。そのため、その概念枠組は、直観主義論理に特有の性質が念頭に置かれるなど、明瞭性と一般性にかける面がある。そこで大西は、シークエント算の体系として定式化される、部分構造論理の研究を参照し、従来の証明論的意味論の概念枠組の明瞭化、一般化を試みた。特に注目したのが、「基本論理」という論理体系である。その構築過程で持ち出される意味論的考察と、証明論的意味論の議論を比較することで、証明論的意味論の枠組は、直観主義論理のみに適用可能なものではなく、適当な修正を加えれば、さまざまな論理に適用可能な一般的な枠組になりうることを明らかにした。ただし、その一般的な枠組の詳細な構築は、今後の課題として残った。
著者
縄田 栄治 樋口 浩和 坂本 正弘 中西 麻美 小坂 康之
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

現在、熱帯地域で急速に進行する経済発展とグローバリゼーションにより脅かされている、伝統的な植物資源利用を明らかにし、いくつかの植物資源をとりあげ、近年の分布域の変化、遺伝的多様性を明らかにすることを目的として4年間の研究を実施した。臨地調査により、伝統的な焼畑地では、休閑林の生態系が急速に変化しつつあること、ホームガーデンでは、種の多様性はある程度維持されているものの、利用に関する知識が失われつつあることが明らかになった。また、野生のマンゴーの利用は、東南アジア大陸部全域に広がり、今なお、多様な利用が見られるものの、地域差が大きいことが明らかとなった。