著者
宇城 輝人
出版者
関西社会学会
雑誌
フォーラム現代社会学 (ISSN:13474057)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.54-63, 2015-06-25 (Released:2017-09-22)

本稿は、反レイシズムのありようが第2次大戦後に大きく変化したことをふまえ、その戦後反レイシズムの特質を理解するために、歴史的起源にさかのぼって、その政治的・理論的な含意を考察する。ふたつの対象の検討を試みる。第1に、戦後反レイシズムの強い動機となったナチズムに対抗する3つの対抗運動の試みを紹介し、その特質を考察する。(1)イグナツ・ゾルシャンの反レイシズム・ネットワークとシオニズム。(2)フランツ・ボアズが主導した「科学者たちの宣言」をきっかけに広がったアメリカの大学人世界と学会による公式見解を表明する運動。(3)左派の遺伝学者たちが優生学の立場からナチズムを批判した「遺伝学者たちの宣言」。第2に、戦後まもなくユネスコが開始した反レイシズム・キャンペーンの出発点であるふたつの声明(1950年、1951年)について考察する。そこには、人種の概念の大きな転換と、それに連動して人間集団にかかわる差異についての考えかたの変化があり、それが戦後反レイシズムの核をなしていることが理解される。戦後反レイシズムは、「人間と人間集団の差異を肯定するための普遍性」を支えるメタ政治的な制度として特徴づけることができる。そのような差異を肯定する普遍的なメタ政治への懐疑あるいは挑戦、その制度化されたメタ政治の綻びという視点から、現代のレイシズムを捉えることができるのではないか。
著者
鳥養 祐二 田内 広 趙 慶利 庄司 美樹
出版者
茨城大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

トリチウム処理水の海洋放出処分における、安全確認と安心のために、トリチウム水を用いてヒト細胞の培養を行い、その影響を調べた。その結果、①海洋放出するトリチウム処理水濃度と比較して、非常に高濃度なトリチウム環境下でしか細胞死は起きないこと、②モンテカルロ法により、細胞核にトリチウムのβ線のエネルギーを付与するためには、トリチウムは細胞核内に存在する必要があること、を明らかにした。また、③魚の自由水に含まれるトリチウムの濃度を迅速に測定できる手法の開発を行い、トリチウム処理水の海洋放出処分時の迅速な安全確認が行えるようにした。本研究は、トリチウム処理水の処分に大きく貢献する研究成果である。
著者
本田 優也 伊東 栄典
出版者
電気・情報関係学会九州支部連合大会委員会
雑誌
九州支部連合大会論文集
巻号頁・発行日
vol.2015, pp.167, 2015

近年CGMやUGCと呼ばれるコンテンツ投稿サイトが人気である。CGMサイトのコンテンツのほとんどは他愛の無いものであるが,一部には従来メディアで提供されていた元の同程度の品質を持つものもある。開始初期には多様なコンテンツが存在していたものの,現在のCGMサイトではコンテンツ多様性喪失が問題になっている。例えばニコニコ動画に投稿される楽曲の上位100位のうち90%かボーカロイド音楽である。同様に「小説家になろう」でも上位100位の多くが異世界転生ものになっており,多様性が喪失している。本研究では,小説家になろうを対象に,小説のキーワードの多様性を定量的に評価する。評価手法および結果について報告する。
著者
阿部 邦昭 岡田 正実
出版者
公益社団法人 日本地震学会
雑誌
地震 第2輯 (ISSN:00371114)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.25-34, 1993-06-24 (Released:2010-03-11)
参考文献数
9
被引用文献数
1 1

We succeeded in explaining a small tsunami on a vertical displacement field of a pure strike-slip fault. The Izu-Oshima Kinkai Earthquake (M=6.5) of February 20, 1990, being accompanied with a small tsunami, was modeled as a pure strike-slip fault on a focal mechanism solution and aftershock area. The sinistral strike slip fault with a plane of 15×12km2, dip of almost 90° and strike of N0°E was assumed at the epicenter.A numerical experiment on the vertical displacement field reproduced the observed tsunami fairly well. The computation was carried out on a linear framework using a mesh of 1km, time step of 1 sec and an additional fine mesh of 0.25km in the vicinity of tide stations. The assumed dislocation of 1m explained the observed amplitude at the nearest tide station. Comparison of waveforms between model and four observations supports the model.Furthermore, a spectral analysis was attempted to reveal predominant frequencies of the observed tsunami. The observed predominant frequencies were explained from wave lengthes characteristic to the pure stlike-slip fault. A strong azimuth dependence is one of the characteristic properties of the pure strike slip tsunami. An unexplainable predominant frequency was attributed to the reflected wave from the Izu Oshima Island.
著者
渡辺 茂
出版者
認知神経科学会
雑誌
認知神経科学 (ISSN:13444298)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.89-95, 2011 (Released:2017-04-12)

共感は社会的認知の基礎的な機能であると考えられる。他者の情動とそれによって 惹起された自己の情動状態によって共感は4 つに分類できる。他者の不快が自分の不快にな る場合を負の共感、他者の快が自分の快になる場合を正の共感、他者の快が自分の不快にな る場合を逆共感、そして他者の快が自分の不快になる場合は慣習的にSchadenfreude と言わ れる。主としてマウスの研究から動物での共感を調べると負の共感、正の共感、逆共感は一 定に見られるもののSchadenfreude は認められない。Schadenfreude はかなり複雑な長期持続 的社会において形成された情動の形態であると考えられる。
著者
駒井 豊
出版者
一般社団法人 日本生体医工学会
雑誌
BME (ISSN:09137556)
巻号頁・発行日
vol.10, no.11, pp.19-28, 1996-11-10 (Released:2011-09-21)
参考文献数
16
著者
佐賀 香織
出版者
城西大学現代政策学部
雑誌
城西現代政策研究 (ISSN:18819001)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.47-60, 2015-03

The Junior Chamber International Japan (JCIJ) has contributed to the society ever since its foundation. It is said that the local activity of JCIJ has created the higher standard on the town planning and the urban development. It is an association which has its basis in local community for establishing the local democracy. The JCIJ's exercise in its local JCI activities has definitely changed Japanese local community. The activities consulted on the town development, the human resources development, the educational problem, and the environment problem. Is this Group a pressure group, or service organization? This article aims to clarify the biggest question of the time.In this paper, the focus is on the JCIJ role in a relationship between government and economy, i.e. the public sector and the private sector.
著者
甲斐 健太郎 池田 俊也 武藤 正樹
出版者
一般社団法人 日本薬剤疫学会
雑誌
薬剤疫学 (ISSN:13420445)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.75-86, 2013-02-20 (Released:2013-04-10)
参考文献数
70
被引用文献数
3 4

海外において,アセトアミノフェンは鎮痛剤の標準薬として広く活用されている.例えば,WHO はアセトアミノフェンをエッセンシャルドラッグとし,各国の様々なガイドラインも鎮痛の薬物療法の第一選択薬としている.この理由の一つとして,アセトアミノフェンの有効性と安全性が挙げられる.特に安全性について,アセトアミノフェンは同じ非オピオイド性鎮痛剤である非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)に対し,消化器系障害,腎障害,出血傾向,心血管障害等の副作用リスクが低いとされている.一方,本邦においては,現在 NSAIDs の使用が一般的であり,アセトアミノフェンの鎮痛目的利用は少ない状況にある.これは,これまでアセトアミノフェンの承認用量が諸外国に比し少なく,鎮痛効果を得づらかったことが主要な原因の一つと考えられる.しかしながら,2011 年 1 月にアセトアミノフェンの承認用量が海外同様の水準に拡大され,アセトアミノフェンによる鎮痛効果を得ることが以前より容易になった.今後は日本でもアセトアミノフェンの鎮痛目的利用が増える可能性がある.わが国で汎用されている NSAIDs においては,特に消化器系障害に対し,その予防のため,防御因子増強剤,H2ブロッカー,プロトンポンプインヒビター(PPI)等の消化性潰瘍用剤が併用されることも多い.一方,アセトアミノフェンはそのような副作用リスクが低いため,消化性潰瘍用剤も必要ない.アセトアミノフェンの鎮痛目的利用が拡大すれば,鎮痛における薬剤費の低減効果も期待できる. (薬剤疫学 2012; 17(2): 75-86)
著者
丸谷 宣子 白杉(片岡) 直子 岡本 裕子 谷口 智子 服部 美穂 中尾 百合子 津久田 貴子 早崎 華
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.51, no.6, pp.323-332, 1998-12-10 (Released:2009-12-10)
参考文献数
32
被引用文献数
2 3

抗酸化剤無添加の精製エゴマ油を180℃で10時間加熱し, 経時的に油のAV, POV, CV, p-An. V, Toc量と脂肪酸量の変化を調べた。対照試験としてダイズ油についても同様に測定し, 両者の熱安定性を比較した。また, コットンボールを用いて加熱時のモデル食品成分添加の影響を調べた。1) 180℃, 70分までの短時間加熱では, ダイズ油に比べてエゴマ油の劣化は若干進んでいたが, α-リノレン酸の残存率も90%以上であり, 栄養的にも食品衛生上も支障があるほどではなかった。2) 180℃, 10時間加熱においては, 加熱時間が長くなるにつれ, ダイズ油に比べてエゴマ油の劣化が著しく, CVが50を越えるのがダイズ油が10時間後であるのに対し, エゴマ油は約5時間後であった。エゴマ油は着色も著しく, 10時間後にはAVは0.20と低かったが, CVは131.0, p-An. Vは242.4に達した。3) コットンボールを用いて, エゴマ油とダイズ油の水添加加熱時の熱安定性を比較した結果, 1時間以内では, エゴマ油はダイズ油に比べAV, CV, p-An. V, POVともやや上昇したものの, 食品衛生上問題になるほど酸化は進まなかった。4) エゴマ油の熱酸化は第二塩化鉄により促進された。グルコースや水の添加によっては若干酸化が進んだ。逆に, グリシン添加時はPOV, CV, p-An. Vの値が減少した。これは, アミノ酸自身の抗酸化性と, アミノカルボニル反応によって, 油中に生成されたカルボニル化合物が消費されたこと, さらに生成されたメラノイジンが抗酸化性を示したことなどが考えられた。