著者
山本 圭一郎 伊吹 友秀
出版者
医学書院
雑誌
臨床婦人科産科 (ISSN:03869865)
巻号頁・発行日
vol.71, no.5, pp.471-475, 2017-05-10

●ヒト受精胚を対象とするゲノム編集技術利用には,基礎研究,治療を目的とする臨床応用,エンハンスメント的な臨床応用の各段階で倫理的な課題がありうる. ●基礎研究の段階では,ゲノム編集研究に用いるヒト受精胚の入手のあり方,余剰胚利用の是非,ヒト受精胚への人為的操作などが倫理的課題となる. ●治療およびエンハンスメントの段階においては,安全性や有効性,責任の所在,優生思想ないし優生学,諸々の格差や差別の助長,世代や地域を越えた不可逆的な影響などに関する倫理的課題がありうると予想される.
著者
丸山 哲弘
出版者
医学書院
雑誌
総合診療 (ISSN:21888051)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.232-238, 2016-03-15

21世紀は「脳の世紀」といわれて久しく,現在多数の科学者により脳機能の解明に全力が注がれている.脳機能の解明とともに神経疾患の病態などの研究が進歩しており,最近の神経疾患の治療は目覚ましいものがある.“不治の病”といわれたParkinson病やAlzheimer病などの神経変性疾患においても病態解明が進み,症状緩和である対症療法から疾患そのものをターゲットにした根治治療に,大きな期待がかかっている.さらに将来的には,遺伝子操作のできる創薬が開発され,疾患撲滅につながることが期待される. しかしながら,現実に目を向ければ,現在悩んでいる患者をどのように治療してあげればよいのか目の当たりにし奮闘されているのは,現場の医療を支えているプライマリ・ケア医である.神経疾患を診療するなかで,現在使用可能な現代医療をもってしても治療困難を極める愁訴や症状がまだまだたくさんある.しかしたとえ神経難病であっても,プライマリ・ケア医は患者と向き合って,少しでもQOLを高めるために治療しなければならない.

1 0 0 0 抗痙縮剤

著者
安藤 一也
出版者
医学書院
雑誌
神経研究の進歩 (ISSN:00018724)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.142-147, 1982-01-10

抗痙縮剤は痙縮(spasticity)の軽減を目的として使用される薬剤で,薬理学的には筋弛緩剤(muscle relaxants)に属するものである。 1946年,Bergerらによりmephenesinが合成され,以後,methocarbamol,carisoprodol,phenprobamate,chlorzoxazone,chlormezanone,styramate,pridinolmethane sulfonateなどの薬剤が中枢性筋弛緩剤として開発され使用されてきた。しかし,これらの薬剤は臨床上,肩こり,腰背痛,頸腕症候群などの一時的な反射性の筋トーヌス異常には多少の効果はあっても,痙縮にはほとんど効果はなく,アメリカでは"unestablisheddrugs"として取り扱われている。
著者
宮北 英司
出版者
医学書院
雑誌
臨床泌尿器科 (ISSN:03852393)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.98-100, 2010-04-05

要旨 尿道ブジーは,尿道通過障害に対して,特に尿道炎,外傷や尿道になんらかの処置を受けた既往のあるものに対して,狭窄の計測ないしその拡張のために施行されてきた。軟性内視鏡の発達により種々の方法が開発されている。本稿では,尿道ブジーの種類,その手技のコツについて述べる。
著者
鵜飼 良
出版者
金原一郎記念医学医療振興財団
雑誌
生体の科学 (ISSN:03709531)
巻号頁・発行日
vol.45, no.5, pp.468-469, 1994-10-15

目標 アニメックス法は,動物の自発運動を磁場の変化に変換して測定するものである。なお,アニメックスという名称はLKB Farad社が開発した装置名に由来する。普及型のアニメックスは平面的な自発運動のみを測定できるが,上級機種のアニメックスⅡと呼ばれる装置は平面的および垂直的自発運動の両者を検出できる。すなわち,アニメックスⅡでは,linear locomotion(連続的な直線走行),circling(回転行動),rearing(立ち上がり行動)およびgrooming(身づくろい行動)の同時測定が可能である1,2)。
著者
博田 節夫
出版者
医学書院
雑誌
総合リハビリテーション (ISSN:03869822)
巻号頁・発行日
vol.13, no.3, pp.163, 1985-03-10

リハビリテーション医学が紹介されて以来,リハビリテーションは治療法の一つであるとの誤解が医療スタッフの間にさえも存在する.わが国においては,リハビリテーションは機能訓練を意味するとの考えが支配的で,機能障害を治す手段として期待されて来た.ここでいう機能障害はimpairmentおよびdisabilityであるが,治療医学的立場からimpairmentのみを指していることも多く,第2次世界大戦以前の機能再建という考え方に逆行するものである.一方,作業療法および理学療法の専門書にリハビリテーチブ・アプローチという治療法が見られる.これはdisabilityに対するアプローチを意味している.このリハビリテーチブ・アプローチはdisabilityに注目するあまり治療法放棄につながるとの非難であり,これは警鐘として受け入れるとしても,リハビリテーションが作業療法あるいは理学療法の中の一治療手段であるという妄想にまで発展するに至っては,リハビリテーションという言葉に対しても嫌悪の念を抱かざるをえない. リハビリテーション医学の治療対象は,主として運動機能障害とそれによりもたらされる能力障害である.運動機能障害は神経系および末梢運動器系の異常を反映し,その治療手段として運動療法があり,能力障害に対しては広義のADL訓練がある.ADL訓練は能力障害に対する直接的アプローチであり,治療効果の判定は比較的容易といえる.運動療法は筋・腱,骨・関節に対しては直接的な治療手段であるが,神経系に対しては末梢運動器系を介した間接的治療法であるため,治療効果の判定は困難を窮める.そのため,中枢神経疾患においては適応を考慮することなく,有効性の不明な治療法を狂信する者が増加しつつある.
著者
大橋十也
出版者
医薬ジャーナル社
雑誌
血液フロンティア (ISSN:13446940)
巻号頁・発行日
vol.25, no.5, pp.613-623, 2015-04-30

遺伝性白質ジストロフィーは,大半の疾患は治療法がないが,先天代謝異常症でもあるKrabbe病,異染性白質変性症,副腎白質ジストロフィーでは,それらの中枢神経障害に造血幹細胞移植が効果がある。しかしながら,造血幹細胞移植はドナーを得られないことも多く,また同種移植であるため,生着のために強力な前処置を必要とする。造血幹細胞を標的とした遺伝子治療は,それらの問題を回避できる。最近は異染性白質変性症,副腎白質ジストロフィーで,レンチウイルスベクターを用いた造血幹細胞を標的とした遺伝子治療が良好な結果を得ている。
著者
佐藤 正之
出版者
医学書院
雑誌
BRAIN and NERVE-神経研究の進歩 (ISSN:18816096)
巻号頁・発行日
vol.69, no.6, pp.615-627, 2017-06-01

失音楽症(amusia)の報告はこれまでに100例足らずで,障害半球として左,右,両側が報告されており,言語機能のように側性化は明確でない。そのうち,音楽能力の選択的障害を生じた純粋失音楽症(pure amusia)は9例で,共通する責任病巣として右上・中側頭回が含まれる。症状との対比から同部位は,メロディの受容と表出に関与していると考えられる。脳の後天的障害により音楽の情動経験のみが障害された病態が存在し,2011年に筆者により音楽無感症(musical anhedonia)と命名された。音楽無感症は自験2例を含めこれまでに4例が報告されており,右側頭葉から頭頂葉にかけての皮質下が共通して障害されていた。音楽無感症の病態機序として,右側の聴覚連合野と島との離断が考えられた。音楽心理学の研究者から,健常者への検査結果に基づいた先天性失音楽症(congenital amusia)や先天性音楽無感症の報告が相次いでいる。用語や疾患としての妥当性を含め,さらなる検討が必要である。
著者
三羽 邦久
出版者
南江堂
雑誌
臨床雑誌内科 (ISSN:00221961)
巻号頁・発行日
vol.119, no.2, pp.345-352, 2017-02-01

労作後の極度の消耗,遷延する疲労感を特徴とし,多彩な症状を呈する慢性疲労症候群(chronic fatigue syndrome:CFS)の原因として,2011年,筋痛性脳脊髄炎(myalgic encephalomyelitis:ME)による中枢神経系の機能調節障害が国際委員会(International Consensus Panel)より提唱された.本症の成因に循環器的異常が密接に関連することが,近年明らかにされた.本症患者にはsmall heart例が多い.すなわち,やせ型の若年女性に多く,低血圧や起立性低血圧をしばしば認め,胸部X線像上,心胸郭比は小さい.心エコー検査でも左室拡張末期径が小さく,1回拍出量,心拍出量は低値となる.左室収縮性の指標の低下は認めない.強度の疲労,めまい,集中力低下,身震い,悪心などの症状により立位維持困難を訴える起立不耐症(orthostatic intolerance:OI)は,CFS患者の立位時症状としてもよくみられ,QOL,労働能力を低下させ,生活機能障害を規定する最重要因子となっている.公表された診断基準には,心血管系症状としてOIが含まれた.OIの病態生理は,立位時の脳血流不足であり,交感神経系の高度緊張も症状に関わる.CFS患者では循環血液量の減少から前負荷の低下による低心拍出量状態を認めるにもかかわらず,血漿レニン活性の上昇はなく,血漿アルドステロン系および抗利尿ホルモン(ADH)濃度は健常人より低値である.OIの病態には,レニン-アルドステロン系およびADH系の活性化不全も関係しているようである.前負荷の低下による低心拍出量状態を十分認識することが,本症患者の診療の重要な手助けになるとともに,本症研究の進展のbreakthroughになるであろう.
著者
津田 篤太郎
出版者
医学書院
雑誌
medicina (ISSN:00257699)
巻号頁・発行日
vol.52, no.11, pp.1916-1918, 2015-10-10

ポイント●抗原回避が困難で,薬物療法が効果不十分あるいは拒否される場合に,漢方治療が検討される.●アトピーは炎症軽減とバリア機能回復という2つの目標に,それぞれ異なった生薬を配する.●鼻炎では小(ショウ)青(セイ)竜(リュウ)湯(トウ)が代表的処方であるが,含有する麻黄の副作用に留意する.●気管支喘息では,心因性の要素が関与する咳嗽に漢方薬がしばしば用いられる.

1 0 0 0 脊髄梗塞

著者
佐藤 慶史郎 内山 剛
出版者
三輪書店
雑誌
脊椎脊髄ジャーナル (ISSN:09144412)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.103-106, 2016-02-25

はじめに 脊髄梗塞は,脊髄を支配する血管の血流障害により引き起こされる急性脊髄障害,脊髄実質の壊死である.急性脊髄障害の5〜8%,全脳卒中の1〜2%とまれな疾患である12).広い年齢層にみられるが,平均年齢は50〜60代とする報告が多い3,6,8〜11). 日常診療において出会う機会は多くはないが,その診断,治療には難渋することがあり,重篤な後遺症を残す場合もあるため,その病態,診断,治療に関して述べる.
著者
土屋 ふとし 滝沢 明利 岩崎 晧
出版者
医学書院
雑誌
臨床泌尿器科 (ISSN:03852393)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.299-300, 2011-04-05

Q 精巣外傷の症例。出血はかなりの程度だったようだが,今は止まっている。保存的に様子をみてよいか。 [1]概 説 精巣外傷のうち最も多いのは挫傷である。受傷原因としては,喧嘩,スポーツ外傷,交通事故,落下事故などがある。 精索血管(精巣動脈,蔓状静脈叢など),陰囊に分布する血管が損傷することにより陰囊内出血をきたす。陰囊皮膚は薄く伸縮性があるため血腫,浮腫により大きく腫脹する。また出血が下腹部,陰茎,肛門にまで及んで変色を伴う場合もある。鈍的な精巣外傷は通常,局所の激しい疼痛,吐き気,嘔吐,下腹部痛などを伴いショック症状をきたす場合もある。 大きな外力が働いたり,恥骨,大腿骨に強く押しつけられた場合に,精巣白膜が損傷して,精巣実質が脱出した精巣破裂に至る。精巣の鈍的外傷の約48%に破裂が起こるとされ1),破裂後3日以内が手術のゴールデンタイムとする報告は多い。受傷後3日以内に手術を行うと精巣温存率は90%であるが,3日を過ぎると45%に激減するとの報告がある2)。 精巣破裂の診断に関して,超音波検査は簡便で損傷の概要をつかむには適している。精巣の輪郭の不整像,白膜の連続性の消失,実質内の低エコー領域の存在などを観察する。超音波検査の精巣破裂に対する診断の感度は64%,特異度は75%とする報告がある3)。MRI検査はT2強調画像もしくは造影T1強調画像が白膜の描出に優れている。MRI検査は超音波検査よりも高い診断率で再現性も高いが,検査時間が長く診断までの時間を要する。 血腫が存在すると画像的診断が難しくなり,精巣破裂は80%で血腫を伴うことから4),血腫の存在のみでも早期の手術が好ましいとの意見もある5)。血腫の大きさにより手術適応を決めるという意見もあるが,エビデンスはまだない。 血腫を伴う精巣破裂を保存的治療で経過観察することにより,感染,壊死,精巣の萎縮,精子形成能や内分泌機能の低下などの危険性が指摘されている。保存的治療により経過観察が可能であった報告例も散見されるが,いずれもretrospectiveなものにすぎず,その適応については決まったものはない。
著者
笹川 正二 古谷 達孝 佐藤 允康 花井 定彦 小田切 久夫 石原 文之 千木良 吉睦 鳥居 ユキ
出版者
医学書院
雑誌
臨床皮膚泌尿器科 (ISSN:21886156)
巻号頁・発行日
vol.13, no.12, pp.1287-1291, 1959-11-01

ハイドロコーチゾン軟膏が急性及び慢性湿疹,小児湿疹,アトピー性皮膚炎,接触皮膚炎等に優れた効果を示すことは周知の事実で,現在盛んに使われているが,これら疾患は何れも掻痒がはげしく,掻破により二次的化膿菌感染を伴い易く,殊に夏期は発汗と相侯つて膿痂疹性湿疹の状態を見ることは屡々である。又一方貨幣状湿疹,感染性湿疹様皮膚炎,耳後間擦疹,自家感作性皮膚炎乃至播種状細菌疹等は湿疹或はその類症でありながらブドー状球菌又は連鎖状球菌がその発生に原因的役割を演ずると解され,これら何れの場合にもハイドロコーチゾンの抗炎症作用の他に殺菌剤として抗生物質を加えることによつて治療の完壁が期待されるところである。かかる目的にかなつたものとして今回興和化学より強力レスタミンコーチゾンコーワ軟膏が新たにつくられ,提供され東大分院皮膚科外来患者に使用したので,その治療成績について報告する。 本軟膏の組成はその1g中に 酢酸ハイドロコーチゾン 10.0mg
著者
三浦 岱栄
出版者
医学書院
雑誌
精神医学 (ISSN:04881281)
巻号頁・発行日
vol.7, no.4, pp.297-307, 1965-04-15

I.はじめに 私は上記表題のもとにたびたび講演をしたり,また記事として雑誌にのせたことがあるが,その大部分は通俗講演であり,または宗教雑誌においてであつて,本来精神医学のくわしいことを知らぬ大衆を相手としたものであつた。多少アカデミックな論文としては,「精神医学最近の進歩1)」に寄せたものがあるだけである。これも与えられた紙数に制限があつたため,この重要なテーマについての単なる形式的の輪廓を示すに終つたいたつて不満足のものであり,肉づけの豊かな論文を書くことは他日にのこされたのであつた。たまたま本紙の展望欄に本題について執筆することになつたのは私にとつて光栄であるとともに欣快とするところであり,今回は"少しはましなもの"が書けるのではないかと思う。 ひるがえつて考えるに,このテーマの取り扱いかたもいろいろのパースペクチーブから可能であり,そのすべてをここで取り扱うことはできない。展望欄での執筆という制約を考えれば,鳥瞰図(Rundschau)的な,多くの著者らの記述を紹介あるいは批判するのがほんとうかもしれない。これは大変な労を必要とするのであるが,筆者の"性"には合わないし,また多くの文献を渉りようするだけの時間もない。いいわけめくが,これではやはり百科全書的な知識を読者に提供するにとどまり,著者本来の見解がうすくなることはやむをえない。したがつてまた,この後者の点に重点をおく論文もあつてよいと思うのだが,それでは"展望欄の記事"にはふさわしくないかもしれない。そこで私はこの両者の中間をゆくことに決心したが,重点はどうも"著者のパーソナルな見解"を前方におし進めるという方向におかれることになりそうだということをあらかじめお断わりしておく。
著者
笠原 諭 國井 泰人 丹羽 真一
出版者
医学書院
雑誌
臨床整形外科 (ISSN:05570433)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.76-79, 2017-01-25

なぜ慢性疼痛の治療は難しいのか 慢性疼痛は心理社会的要因がその発症や維持に関与していることが多く,患者の訴える痛みは器質的な要因での説明が困難で,鎮痛薬などの薬物療法だけで改善させることが一般的に難しい.また近年は,そのような慢性疼痛に対して認知行動療法の必要性が唱えられているが,それを実践していく際に,認知行動療法の技術的な問題以外にも慢性疼痛患者に特有の難しさがある.本稿では,なぜ慢性疼痛の治療は難しいのか,それにどう対処したらよいのか,これまでに報告されている知見と筆者らの臨床実践に基づいて述べてみたい.
著者
津金 亜貴子
出版者
医学書院
雑誌
看護教育 (ISSN:00471895)
巻号頁・発行日
vol.48, no.10, pp.861-863, 2007-10-25

日本全国をまわり,「老い」をテーマにお年寄りの写真を撮る人がいると聞いて会いに行った。山本宗補さんは1985年以来,フォトジャーナリストとしてミャンマー(当時ビルマ),イラク,フィリピンなど世界各地で不条理な死を見つめてきた。たった1枚のスチール写真が,何十万,何億人に語りかける。喜怒哀楽やさまざまな感情につつまれた人間の「生」を四角い枠に切り取るとき,そこに込める山本さんの思いを聞いてみたかった。待ち合わせ場所に現われた山本さんは,人懐っこそうな笑顔を見せた。
著者
功刀 浩
出版者
医学書院
雑誌
BRAIN and NERVE-神経研究の進歩 (ISSN:18816096)
巻号頁・発行日
vol.68, no.6, pp.641-646, 2016-06-01

うつ病は慢性ストレスを誘因として発症することが多いが,腸内細菌とストレス応答との間に双方向性の関連が示唆されている。動物実験によりプロバイオティクスがストレスに誘起されたうつ病様行動やそれに伴う脳内変化を緩和することが示唆されている。うつ病患者における腸内細菌に関するエビデンスはいまだに乏しいが,筆者らはうつ病患者において乳酸菌やビフィズス菌が減少している者が多いことを示唆する所見を得た。
著者
泉谷 一裕
出版者
医学書院
雑誌
臨床皮膚科 (ISSN:00214973)
巻号頁・発行日
vol.68, no.11, pp.851-856, 2014-10-01

要約 9〜65歳の男性4名,女性1名の足底に無症候性橙色色素斑が認められた.8mm大の色素斑を認めるもの,小さな色素斑を散在性に多数認められる症例があった.現症では炎症所見は認められなかった.皮膚に色素斑を生じ,春と秋に好発するため,臀部や頰部で報告されているカメムシ皮膚炎との関連性を推察した.しかしながら,これまでカメムシが及ぼす足底の変化を調べた報告は全くなかった.そこで,マルカメムシ,クサギカメムシの2種を足底で踏む皮膚試験を施行し,その皮膚の変化を観察した.クサギカメムシでは試験開始5分以内に自験例と同様の橙色色素斑が出現し,2週間で完全に消退した.試験経過中カメムシ皮膚炎とは異なり,炎症所見は全く認めなかった.以上より,自験例の色素斑はカメムシにより生じた足底橙色色素斑と判断した.治療は不要で2週間以内に自然消退する.
著者
小川 健比子
出版者
医学書院
雑誌
病院 (ISSN:03852377)
巻号頁・発行日
vol.30, no.11, pp.63-68, 1971-10-01

管内状況 通称茨城県医療連というのは,いわゆる厚生連と内容は同義である.ただし,‘協同病院’というのは茨城県独自のもので,水戸市に茨城県協同病院があって,県北農協の医療センターとなり,一方この新治協同病院が県南の基幹病院となっている.筑波学園都市25万の門戸として将来の発展を約束されている‘土浦’市に,名称を代替する案もあったが,‘新治’の市民や農民に対するイメージはきわめて強く,さたやみとなった. 設計中であった昭和43年6月現在の管内市町村人口および病院数および利川者調査の結果は,表1のとおりであるが,数量的に土浦市諸医療機関の中心的存在は決定的である.ただし土浦地区では,表2のように,新治協同病院が必ずしも中心的医療機関ではなく,他に国立霞ケ浦,東京医大霞ケ浦,東京医歯大付属霞ケ浦などの諸病院がある.それにもかかわらず,旧協同病院の位置が土浦駅の直前にあって,地域住民に親しまれていたが,特に病室などの老朽がはなはだしく,県南農民の基幹病院としての機の熟したのをみて,構想を新たにし,新敷地に一気に新築をみたものである.
著者
深町 建
出版者
医学書院
雑誌
精神医学 (ISSN:04881281)
巻号頁・発行日
vol.27, no.12, pp.1361-1369, 1985-12-15

I.はじめに 摂食異常症患者の心理療法の困難さの第一の理由は,その言語的表現の貧困さであり,第二の理由は治療意欲の乏しさである。本症患者の入院を引き受け,定期的面接の中で,その乏しい発言や入院中の行動を手がかりに,やせるという自分の肉体のコントロールを通してしか自分をコントロールできないと感じているその根底には,Bruck1)のいう無力感が存在していること,およびその無力感のゆえに家族の者や医療スタッフに一方で依存しながら,他方その相手を自分の思い通りに支配しようとし,その矛盾した周囲とのかかわり方が,その身体症状や異常行動となって現われていることなどを,何とか気付かせようと試みてきた。しかしそれらはいずれも徒労に終り,その治療過程の中で浮きぼりにされたものは,患老の無力感ではなく,治療者の無力感にほかならなかった2)。 その後当時摂食異常症患者に対してすぐれた治療効果が報告されていた行動療法4)にヒントを得て,患者を入院後一定の行動制限下において心理面接を行ってみた。その結果本症患者では,全面受容的な治療状況よりは,制限された一定の治療的枠組みの中で,より豊かな感情的,言語的表出がなされることが明らかになった3)。その後2,3の修正を加え,現在〈行動制限療法〉と称し患者の治療を行っているが,以下この技法の紹介と,その技法を用いた2症例の具体的な治療経過を報告し,最後に患者のもつ"枠"の病理について考察を加えたい。