著者
吉田 光司 亀山 慶晃 根本 正之
出版者
東京農業大学
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.10-14, 2009 (Released:2011-07-26)

ナガミヒナゲシが日本国内で生育地を拡大している原因を解明するため、1961年に日本で初めて帰化が報告された東京都世田谷区と、1990年代以降急速に生育地が増加した東京都稲城市で生育地調査を行った。ナガミヒナゲシの生育地数は、世田谷地区と稲城地区の双方とも道路植桝で最も多く、次いで駐車場や道路に面した住宅地となり、自動車の通過する道路周辺に多いことが判明した。ナガミヒナゲシの生育地は道路植桝から周辺の駐車場へと自動車の移動に伴って拡大したと考えられる。この過程を検証するため、ナガミヒナゲシの在・不在データを応答変数として、道路植桝から駐車場までの距離と舗装の有無、それらの交互作用を説明変数とするロジスティック回帰分析を行った。AICによるモデル選択の結果、世田谷地区ではいずれの説明変数(距離、舗装の有無、それらの交互作用)も選択されなかったのに対し、稲城地区では距離(P=0.07)および距離と舗装の有無の交互作用(P=0.04)がナガミヒナゲシの存在に負の影響を及ぼしていた。これらの結果から、(1)帰化年代の古い世田谷地区では生育地拡大が完了しており、主要道路からの距離や舗装の有無とは無関係にナガミヒナゲシが生育していること、(2)稲城地区では生育地拡大の途上であり、その過程は道路植桝からの距離だけでなく、距離と舗装の有無との交互作用によって影響されることが示唆された。
著者
安西 徹郎 松本 直治
出版者
千葉県農業試験場
巻号頁・発行日
no.29, pp.93-104, 1988 (Released:2011-03-05)

時系列的に選定した38地点の休耕田の雑草の発生状況を調査し,あわせて休耕が土壌の理化学性に及ぼす影響を検討した。その結果は以下のとおりであった。1. 休耕田の雑草は沖積低地で1~4年でノビエ,ミズガヤツリなどの水田雑草が優占するが,2~3年でガマ,ヨシ,セイタカアワダチソウなどの大型多年生雑草が侵入し始め,5~10年で優占化した。山間谷津でも3~5年で大型多年生雑草がみられ,さらに山野草が繁茂した。2. 雑草の重量は休耕3年で38~74kg/aであり,この時点で稲ワラ全量還元を上回る集積量がみられた地点があった。3. 休耕田の土壌は水稲連作田に比べて湿田方向にある場合が多く,こうした変化は3年以降に認められた。4. 土壌の固相率,ち密度および透水性は土壌の乾湿状態をよく表しており,湿田方向にある地点では固相率が減少し,ち密度および透水性が低下した。5. 作土の全炭素,全窒素,交換性カリウム含量は休耕年数が増すにつれて概ね直線的に増加した。可給態窒素含量も5年までは概ね直線的に増加したが,その後は増加量が低下し,ほぼ一定量で経過した。6. 土壌の無機態窒素生成量は有機物集積層では高かったが,その直下層では水稲連作田と同等かそれ以下であった。このように土壌の化学性に対する休耕の影響は表層部に限られた。7. 休耕後の雑草の発生状況および土壌の変化からみて,放任状態の休耕田における休耕年数は3年を限度とすべきである。
著者
市原 実
出版者
養賢堂
巻号頁・発行日
vol.90, no.4, pp.413-424, 2015 (Released:2015-06-08)
著者
佐藤 恭子 米谷 民雄
出版者
[日本食品衛生学会]
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.73-76, 2003 (Released:2011-03-05)

クチナシ赤色素(GR)およびクチナシ青色素(GB)は、製造工程中のメタノールの生成が懸念される。規格設定の際にメタノールについての検討が必要になるため、標準添加法を用いたヘッドスペース-GC(HS-GC)による定量法を検討した。HS-GCのためには粉末試料を水に溶解することが、水溶液ではGBからメタノールが生成することが知られているため、HS-GCにおけるバイアル加熱条件の違いによるメタノール定量値の比較を行った。バイアルを加熱しない(A)、50℃で20分間保持(B)あるいは80℃で20分間保持(C)の3条件のうち、条件AとBではメタノール含量は変わらなかった。条件Cで1.2倍となった。条件BでGR2検体およびGB3検体について分析を行ったところ、メタノール含量、GRで8および9μg/g、GBで25~34μg/gであった。
著者
杉山 慶太 菅野 紹雄 森下 昌三
出版者
園藝學會
巻号頁・発行日
vol.68, no.1, pp.108-116, 1999 (Released:2011-03-05)
著者
萩野 恭子 堀口 健雄 高野 義人 松岡 裕美
出版者
日本プランクトン学会
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.73-80, 2011 (Released:2012-12-03)
著者
藤原 隆広 吉岡 宏 熊倉 裕史
出版者
園芸学会
巻号頁・発行日
vol.1, no.3, pp.169-173, 2002 (Released:2011-03-05)

キャベツセル成型苗の育苗後期に、徒長抑制と順化を目的にNaCl処理を行う場合の処理濃度、処理開始時期および処理回数が苗質に及ぼす影響を調査した。1)NaCl濃度が高くなるほど、生育抑制効果は高く、NaCl濃度を1回処理で1.6%、5回処理で0.4%とすることで、草丈を対照区の80%程度に抑制することができた。2)5回処理区では、NaCl処理によって地上部の乾物率が高くなった。3)NaCl処理濃度が高くなるほど苗体内のNa含有率は増加した。4)NaCl処理による定植後の生育への影響は小さかった。5)苗の耐干性を評価するために断水処理を行った結果、苗の生存率は、NaCl処理によって大きく向上し、1回処理よりも5回処理で高かった。以上の結果、草丈20%減少を目的にNaCl処理を行う場合、液肥へのNaCl添加量は0.4%が好ましく、処理回数を1回とする場合は1.6%程度の濃度とすることで、0.4%を5回行った場合に準ずる苗質改善効果が得られることが明らかとなった。
著者
中野 明正 安 東赫
出版者
養賢堂
巻号頁・発行日
vol.85, no.11, pp.1071-1079, 2010 (Released:2011-05-27)
著者
鄒 金蘭 四方 康行 今井 辰也
出版者
富民協会
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.262-268, 2008 (Released:2011-07-26)
著者
上田 弘則 小山 信明
出版者
日本草地学会
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.255-260, 2007 (Released:2011-03-05)

放牧地のワラビ防除のためにアシュラム剤を散布すると、イノシシに掘り起こされることがある。このような掘り起こしは家畜の餌量を減少させ、雑草の侵入や定着を助長してしまうという問題がある。そこで、アシュラム剤散布と掘り起こしの因果関係を明らかにすると同時に、掘り起こしがワラビの根茎を目的としているのか、また根茎の貯蔵炭水化物含有量と関係があるのかについて野外試験を行った。2003年7月に野草地内のワラビが優占している場所にアシュラム剤散布区と無散布区を設定した。ワラビの地上部が枯死した9月にイノシシの掘り起こしが確認され、散布区で対照区よりも掘り起こし割合が高かった。また、イノシシはワラビの根茎を選択的に掘り起こしていたが、ワラビの根茎の貯蔵炭水化物含量率は散布区と対照区で差はみとめられなかった。
著者
小山 豊 山岸 淳 宍倉 豊光 深山 政治 武市 義雄
出版者
千葉県農業試験場
巻号頁・発行日
no.27, pp.169-183, 1986 (Released:2011-03-05)

オモダカの防除法確立のため,その生態的特性について検討を行った。1. 出芽特性 (1)塊茎には休眠性があり,休眠覚醒に対しては0℃の低温処理及び包皮除去処理の効果が認められた。(2)塊茎からの出芽深度は塊茎の大小により異なり,土中深い位置からの出芽歩合は塊茎が小さいほど低下した。1g以上の大きい塊茎は地表下20cmの深い層からも容易に出芽した。(3)土壌の還元程度が塊茎からの出芽に及ぼす影響は同じオモダカ科の中でも異なり,ウリカワに比べてオモダカは土壌の還元に対する適応力が大きかった。(4)塊茎は土壌水分が最大容水量の80%(対乾土60%)以上で出芽した。また,湛水深が15cmと深くても出芽は劣らず,水生雑草の特徴をよくあらわしている。2. 生育特性 (1)稲わらを施用した強還元条件でも生育はほとんど劣らず,塊茎形成量はかえって多くなった。(2)遮光処理により草丈,葉面積は大となったが,地上部乾物重は低下した。(3)本県産のオモダカには3種の種内変異が認められ,各々外観,出芽時期,塊茎形成量が異なった。(4)親塊茎の大小により生育及び塊茎形成量が異なった。生体重1gと2gとの間では明らかな差は認められなかったが,0.5g以下の小塊茎は他に比べ地上部生育量,塊茎形成量ともに少なかった。3. 塊茎形成に関する諸要因 (1)塊茎形成に入る時期の地上部の生育状態により塊茎形成数及び塊茎の大小,土中分布は著しく異なった。すなわち,地上部の生育量が大であるほど塊茎形成数,一個当り塊茎重量は大となり,形成される塊茎の土中分布も広い範囲にわたった。最高値は,塊茎形成数で180個/株,一個当り重量で1.7g,形成範囲は地表下30cmまで,水平距離で50cmまでであった。また,塊茎の重量は形成される深さが深いほど,株からの水平距離が遠いほど重くなった。(2)塊茎形成は短日処理により促進された。(3)遮光処理の時期・程度にかかわらず自然条件に比べ塊茎形成数が多くなり,ミズガヤツリ,クログワイと異なった反応を示した。
著者
三澤 知央
出版者
北海道立総合研究機構中央農業試験場
巻号頁・発行日
no.132, pp.1-90, 2012 (Released:2013-10-08)

ネギの出荷部位である中心葉に発生する黄色斑紋症状は,外観品質を著しく低下させるため,ネギ栽培上の重要な問題となっている。本症状はネギ葉枯病との関係が指摘されているものの,発生原因は未解明である。また,ネギ葉枯病に関する研究知見はこれまでほとんどない。そこで本研究では,黄色斑紋症状の発生原因の解明ならびに同症状およびネギ葉枯病の発生実態,発生生態および防除に関する研究を行なった。1. 発生実態と被害 2007年に全道のネギ主産地32圃場において葉枯病(従来から発生が知られている褐色楕円形病斑)および黄色斑紋症状の発生実態を調査した結果,いずれの圃場でも褐色楕円形病斑および黄色斑紋症状の発生が確認された。また,両病斑は明確に区分でき,両者の中間的な病徴を示す病斑は認めらなかった。黄色斑紋症状の発病度は3.1~61.3であり,本症状による被害が全道的に発生している実態が明らかとなった。また,褐色楕円形病斑は,葉身先端部に発生する先枯れ病斑と葉身中央部に発生する斑点病斑の2種類に類別されることおよび同病斑と黒斑病は病徴が酷似し,病徴観察では識別できないことが明らかとなった。両病害を病斑上に形成した分生子の顕微鏡観察により識別した結果,先枯れ病斑では100%,斑点病斑では98.3%の病斑で葉枯病菌が確認され,道内のネギに発生している褐色で楕円形の病斑のほぼすべてが葉枯病であることが明らかとなった。2005~2007年に実施した発生推移調査の結果,先枯れ病斑は収穫期までに大半の圃場で発病株率70%以上に達した。斑点病斑は,べと病,さび病,黒斑病が発生したあとに二次的に葉枯病菌が感染して発生し,なかでもべと病発生の影響が大きかった。黄色斑紋症状は平均気温15~20℃で曇雨天時に発生が増加し,9月どり作型において9月中旬~10月上旬にもっとも発生が多くなった。また,収穫時期が遅れるほど発生が増加した。黄色斑紋症状が褐色楕円形病斑に変化することはなかった。斑点病斑は主に外葉に発生するため出荷葉にまで発生することは稀であった。また,葉枯病菌の単独感染による同病斑の発生により収量が減少することはなかった。黄色斑紋症状は,第1~3葉に発生するため,発病の大半が出荷部位であり,発生が即被害につながった。同症状が出荷前後の保存中に増加することはなかった。2. 病原菌の同定と病原性 分離菌の完全世代は,黒色・球形でくちばしを有する偽子のう殻,無色・棍棒状・二重壁の子のう,その内部に長楕円形~スリッパ形・黄褐色で縦横に隔壁を有する子のう胞子を8個形成した。これらの形態的特徴より分離菌をPleospora sp. と同定した。不完全世代は,分生子柄および分生子を形成した。分生子柄は先端が膨潤し,貫生により再伸長し,その先端には分生子を単生した。分生子は縦横に石垣状に隔壁を有した。分生子が長方形~長楕円形,縦横比が1.8~1,9,1~3個の横隔壁でくびれた菌株をStemphylium vesicarium (Wallroth) Simmons,分生子が俵形,縦横比が1.4,中央の横隔壁でくびれた菌株をS. botryosum Wallrothと同定した。黄色斑紋症状および褐色楕円形病斑よりそれぞれ分離したS. vesicariumをネギ葉に接種したところ,いずれの菌株も中心葉には黄色斑紋症状,外葉には褐色楕円形病斑を形成し,接種菌が再分離され,黄色斑紋症状がネギ葉枯病の一病徴であることが明らかとなった。そのため,本症状を黄色斑紋病斑と呼称することを提案した。北海道内のネギ主要産地の23圃場から採取した罹病葉より褐色楕円形病斑由来21菌株,黄色斑紋病斑由来23菌株の合計44菌株を得,同定した結果,41菌株がS. vesicarium,3菌株がS. botryosumであり,前者が優占種であった。3. 葉枯病菌の諸性質 ネギ,ニラ,アスパラガスから分離したS. botryosumおよびネギから分離したS. vesicariumは,いずれもネギ,タマネギ,アスパラガスに病原性を示し,寄生性の分化は認められなかった。ネギ葉枯病菌S. vesicariumおよびS. botryosum の培地上における生育適温は25℃であった。分生子の形成適温はS. vesicariumが15℃,S. botryosumが20℃であった。子のう胞子の形成適温は,両種とも10℃であった。4. 葉枯病菌の感染・発病好適条件と伝染環 褐色楕円形病斑の発生好適温度は10~15℃で生育ステージと発生程度の間に明瞭な関係は認められなかった。一方,黄色斑紋病斑の発生好適温度は15~20℃で生育が進んだ株ほど発病が多くなる傾向があった。褐色楕円形病斑の形成には6時間以上の葉の濡れ時間が必要であり,6~48時間の間では濡れ時間の増加にともなって発病程度も増加した。ネギ葉枯病菌をポット栽培ネギの全葉に接種したところ,第1~4葉に黄色斑紋病斑,第4~7葉に褐色楕円形病斑を形成した。ネギ葉枯病菌は噴霧接種法では発病が認められず,病原性は極めて弱かった。圃場観察,胞子トラップ,病原菌の分離等の手法により,ネギ葉枯病菌S. vesicariumの伝染環を調査した結果,ネギの生育期間中である7月~10月中旬は褐色楕円形病斑上に多量の分生子を形成し,二次伝染を繰り返した。これが中心葉に感染すると黄色斑紋病斑を形成した。偽子のう殻の形成は生育期間の終盤あるいは収穫終了直後にあたる10月下旬に始まった。葉枯病菌は,罹病葉上のみならず外観健全葉上にも偽子のう殻を形成し,土壌表面および土壌中で越冬した。偽子のう殻からは翌春の3月中旬~6月上旬に子のう胞子が飛散し,これが本病の一次伝染源になっていると考えられた。本病の伝染環はネギ圃場内だけで完結していると推察された。5. 防除対策 10薬剤の葉枯病,べと病およびさび病に対する防除効果を明らかにした。シメコナゾール・マンゼブ水和剤(×600)は,斑点病斑および黄色斑紋病斑に対して防除価87以上の高い防除効果を示した。同剤は,べと病およびさび病に対しても92~100の高い防除価を示した。TPNフロアブル(×1000)は,斑点病斑に対して48~62,黄色斑紋病斑に対して63~79の防除価を示したが,べと病およびさび病に対する防除効果は低かった。アゾキシストロビンフロアブル(×2000)は,斑点病斑に対して78~85,黄色斑紋病斑に対して37~62の防除価を示した。また,同剤はべと病に対して75~82,さび病に対して99~100の防除価を示した。いずれの薬剤も先枯れ病斑に対する防除効果は認められなかった。その他の7薬剤も斑点病斑および黄色斑紋病斑に対して防除効果を示した。シメコナゾール・マンゼブ水和剤,TPNフロアブル,アゾキシストロビンフロアブルを用いて葉枯病,べと病およびさび病の発生を抑制できる薬剤散布体系を確立した。すなわち,8月どり作型では6月中旬,9月どり作型では7月上旬,10月どり作型では8月中旬からシメコナゾール・マンゼブ水和剤を2週間間隔で3回散布したのち,9月どり作型では収穫3~2週間前にTPNフロアブルを2回,収穫1週間前にアゾキシストロビンフロアブルを1回,10月どり作型では収穫3~2週間前にアゾキシストロビンフロアブルを2回散布する薬剤散布体系を構築した。ネギ品種間の黄色斑紋病斑の発病差異を検討し,「北の匠」および「元蔵」では発生が多く,「白羽一本太」では中程度であり,「秀雅」で発生が少ないことを明らかにした。また,窒素の過剰施用および土壌pHの低下が,黄色斑紋病斑の発生を助長することを明らかにした。以上のように,本研究ではネギの中心葉に発生する黄色斑紋症状の発生原因,病原菌の諸性質,発病好適条件,病原菌の伝染環を解明するとともに,薬剤散布および耕種的防除対策を確立した。
著者
富樫 均 酒井 潤一 公文 富士夫
出版者
長野県自然保護研究所
巻号頁・発行日
vol.2, pp.33-41, 1999 (Released:2011-03-05)

飯綱火山南東麓に位置する逆谷地湿原において堆積物の採取と分析をおこなった.逆谷地湿原は標高約934メートル,面積約4ヘクタールのミズゴケ湿原である.湿原内でのボーリングにより,約13mの厚さの湿原堆積物を採取し,堆積物の記載をおこなった.堆積物は大部分が連続する泥炭層からなり,泥炭層中には多数の薄い火山灰層が狭在する.この試料について,14C年代測定と火山灰層の対比をおこなった.その結果,広域火山灰層である阿蘇4火山灰(Aso-4)ならびに大山倉吉火山灰(DKP)が確認され,泥灰層の堆積の開始は約10万年前にまでさかのぼることが明らかになった.10万年の寿命をもつ生きている湿原の存在は非常にめずらしいものであり,この湿原に記録されている環境変遷史と生態系の成り立ちを明らかにするために,さらに詳細な分析が予定されている.
著者
富樫 均 内田 克 楠元 鉄也
出版者
長野県自然保護研究所
巻号頁・発行日
vol.2, pp.99-108, 1999 (Released:2011-03-05)

湿原の環境変遷史の解読を目的とした研究にとって,サンプリング計画の策定は基本的かつ重要な課題である.飯綱火山南東麓に位置する逆谷地湿原において,厚さ約13mにおよぶ泥炭層のサンプリングを行った.サンプリングには水圧式シンウォールサンプラーを用い,事前に弾性波探査によって掘削位置を選定した.本稿はサンプリング計画とその実際についての事例報告である.
著者
富樫 均 田中 義文 興津 昌宏
出版者
長野県自然保護研究所
巻号頁・発行日
vol.7, pp.1-16, 2004 (Released:2011-01-21)

長野市飯綱高原に位置する逆谷地湿原で得られたボーリングコアを試料として、完新世の堆積物の花粉分析、微粒炭分析、14C年代測定を行い、里山の環境変遷を考察した。その結果によれば、飯綱高原においては、約3000年前の縄文時代の後期から火入れをともなう人間活動が活発になり、森林植生への影響が顕著になった。また、約700年前の中世の時代には森林破壊が極大期に達し、森林が減少し草地が拡大した。その後、約400年前以降の近世になって火入れ行為が抑制され、森林が回復し、アカマツ林やスギ林が拡大した。このような人と自然の関わりと変遷の歴史は、現代の里山問題の前史と位置づけられ、里山という場への新たな認識をあたえるものである。