著者
仁井田 千絵
出版者
早稲田大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

研究目的:映画が無声映画からトーキーに移行すると、映画俳優はそれまで身体の動きと顔の表情を強調した演技から、舞台演劇と同じく台詞を含めた演技が求められるようになった。アメリカにおいては、映画のトーキー化に際し、舞台俳優が多く映画に出演するようになったが、さらに俳優によってはラジオ番組に出演し、ラジオ・ドラマという形で声のみによる演技を求められるようになった。ビジュアルな身体によって人気を獲得していた映画俳優が、ラジオ・ドラマにおいてはどのように評価されたのか、逆にラジオ・ドラマによって一般の観客に認識された俳優の声は、映画における演技にどのような影響をもたらしたのかを考察した。研究方法:映画俳優が出演した代表的なラジオ・ドラマである『ラックス・ラジオ・シアター』を対象に、映画とラジオにおける俳優の演技を検証した。具体的な作品として、メロドラマの傑作として名高い『ステラ・ダラス』(1937)の映画とラジオ・ドラマを比較し、両者のメディアにおける俳優の声について考察した。この際、資料としては、当時のラジオ・ドラマの録音に加え、ニューヨーク公共図書館が所蔵するラジオのファン雑誌『ラジオ・スター』にみられる映画の関連記事を取り上げた。研究成果:映画とラジオの産業間の提携が強まったことを契機とする映画俳優のラジオ番組への出演は、歌手でもコメディアンでもない、通常のドラマを演じる俳優が、いかに声のみによって説得力を持ったかを立証するものである。当時のファン雑誌の言説からは、観客を前にライヴ放送で行われるラジオ・ドラマが、映画俳優に舞台演劇の感覚を取り戻させるきっかけを与えた一方で、そこでの演技については、映画・舞台双方の俳優から様々な見解が持たれていたことが分かった。
著者
鈴木 哲也 関田 俊明
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

本研究の目的は,高齢無歯顎者における義歯装着状態の違いが摂食,嚥下機能に及ぼす影響を明らかにすることである.被験者には,無歯顎者,高齢有歯顎者,成人有歯顎者,偏食傾向の者の4群を選択し,5種類の半固形状食品および2mlの冷茶を摂食させた.無歯顎者には3種の義歯装着条件(上下顎義歯装着,下顎義歯撤去,上下顎義歯撤去)を設定し,顎二腹筋前腹筋電図,咬筋筋電図,下顎運動の測定を行った.統計処理には反復測定分散分析とscheffeの方法を用いた.以下に結果示す.1.高齢正常有歯顎者と若年正常有歯顎者では,高齢正常有歯顎者の方が咀嚼所要時間は長かった.2.高齢正常有歯顎者と全部床義歯装着者では,食品によっては,咀嚼所要時間には必ずしも有意差がみられなかった.3.全部床義歯装着者と若年正常有歯顎者では,上下顎義歯撤去時ではすべての食品で若年正常有歯顎者より咀嚼所要時間は長かった.しかし,上下顎義歯装着時では,はんぺん,試験用ゼリー(強度650),芋ようかんで有意差はみられなかった.4.義歯の装着状況で比較すると,上下顎義歯装着時と上下顎義歯撤去時では,上下顎義歯撤去時の咀嚼所要時間が短かった.5.下顎義歯撤去時と上下顎義歯撤去時では,下顎義歯撤去時の咀嚼所要時間が短かった.6.ゼリー,芋ようかん以外では,上下顎義歯装着時と下顎義歯撤去時の咀嚼所要時間に差はみられなかった.7.口腔内条件の違いよりも,食品の好き嫌いが咀嚼所要時間に最も大きく影響を与えた.以上の結果から,高齢者における全部床義歯の装着は,半固形状食品の円滑な咀嚼の遂行,維持に重要であることが示唆された.
著者
太田 静男
出版者
三重県立松阪工業高等学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2009

本研究は、夜間定時制高校に在籍している生徒のうち、非行歴や犯罪歴のある者へのさまざまな問題に接近しようとした研究である。高等学校では、不登校やいじめ経験をはじめとする不適応や何らかの病理や障害を抱えた生徒について、臨床心理学の専門的知見を用いたスクールカウンセラー等の支援によって、有効な手立てがなされつつある。一方、非行歴や犯罪歴のある生徒については、一般の高等学校では排除の対象であったりすることが多いのも事実である。カウンセリング領域においても、教育モデルというよりは司法矯正モデルであるべきという見方があるためか、必要とされる支援が不十分であるという現状でもあり、夜間定時制高校で学ぼうとする非行歴や犯罪歴のある生徒の情緒や行動の理解を促進するための研究を行うことには意義があると考えた。筆者は、在学中に医療少年院に措置された生徒との心理面接過程を通した研究を行なった。生徒は「妹に暴力をふるい逮捕されたが、逮捕された時期が近づくと胸が苦しくなってきて、気分が沈んだり、フラッシュバックが起きる」という主訴で来談した。生徒が卒業するまでの約6ヶ月間の50回の面接について実践的研究を進めた。面接は逐語録をつくり、精神分析的心理療法士とのスーパービジョンという形で議論を進め、この生徒の行動や情緒に関する理解を深めるとともに、そこでは生徒と筆者との間に生じた転移や逆転移をもとにした理解を進めた。精神分析的な理解や臨床心理学的な知見を用いて、指導にあたる教員が非行歴や犯罪歴のある生徒の情緒や行動を理解しようとしたことは、おそらく生徒にとっては受容された経験でもあったであろう。また、心理療法を通して、非行歴や犯罪歴のあるこの生徒が、自らも被虐待経験者であることもわかった。さらに、矯正施設としての医療少年院生活での経験の意義についても考えることができた。
著者
村中 孝史 西村 健一郎 水島 郁子 荒山 裕行 皆川 宏之 高畠 淳子 岩永 昌晃 木南 直之
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

労働法や社会保障法の分野においては、労働者又は国民の生活利益に着目した法規制が数多く見られ、そこでは労働者等が「家族」の一員であることから生じる様々な利益が考慮される。そのような考慮は社会保障法において顕著であるが、労働法においても近年は拡大傾向にある。しかしながら、家族の多様化は、そのような考慮に対し様々な問題を投げかけており、それに対して法が対応すべき分野が増加している。
著者
下村 一徳
出版者
市立池田病院
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2009

近年医療用注射剤の用法において抗悪性腫瘍剤のみならず、抗悪性腫瘍剤以外の注射剤においても週1回投与や3~4週間隔投与など日数単位での注射投与間隔が必要な注射剤が発売されている。また、血液検査値(赤血球数、白血球数、血小板数)によって抗悪性腫瘍剤は投与中止、延期、投与量の減量など投与をコントロールされているが、抗悪性腫瘍剤以外の注射剤においても血液検査値によって投与コントロールされなければならない。本研究の目的は抗悪性腫瘍剤以外の注射剤の投与間隔や血液検査値による投与基準を把握し、外来患者に対して注射剤投与時に投与間隔や血液検査値などの投与基準を満たしているかを新バーコード(GS1-Databar)を用いて監査する注射処方量監査システム構築である。まず、当院採用注射剤505品目における医薬品添付文書を調査したところ、用法に月単位(4週毎以上)での投与間隔が記載されていた薬品は20品目あり、隔日~1ヶ月未満の投与間隔が記載されていた薬品は112品目であった。また、抗悪性腫瘍剤(抗悪性腫瘍剤との併用療法に用いる注射剤を含む)を除くと投与間隔が記載されている注射剤は53品目であった。これらの注射剤のうち当院外来患者に使用頻度の高い週1回投与のペグイントロン注について注射剤の新バーコードと患者IDバーコードをバーコードリーダーで読み取ることにより投与間隔、血液検査値による投与基準を満たしているかを監査できるシステムを構築し、調査を行った。2010年3月1日~3月31日の1ヶ月間の調査では投与患者数34名、延べ136回の注射回数において、投与間隔7日未満の件数は19件あり、血液検査値が投与減量基準を下回っていた件数は延べ25件であった。新バーコードを利用するシステムを構築することにより、簡便に注射剤の適正使用を監査・管理し、医療過誤を防止することが可能であると考える。
著者
沈 煕燦 (2011) 沈 熙燦 (2009-2010)
出版者
立命館大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

本研究は、植民地朝鮮に設立された「朝鮮史編修会」という歴史編纂機関を取りあげて、近代史学の特質やその性格を明らかにすることを目的とする。とりわけ、「植民史学の総本山」として評されるのみであって、もっぱら否定と批判の対象としてしか取り扱われなかった「朝鮮史編修会」とその作業を、植民地朝鮮における「実証主義史学」、つまり「近代歴史学」の成立と展開という側面から分析することに力を注いできた。それは今日の日韓における歴史学全般の問題までをも視野におさめる格好の素材でもあると思われるからだ。そのような問題にとり組むため、活溌な史料調査を行った。なかんずく、韓国での現地調査をつうじていまや日韓友好の表象となっている「金忠善/沙也可」が、歴史学においてどのように語られてきたのかを、「朝鮮史編修会」の修史官であった中村栄孝の著作を中心として穿鑿した。また、朝鮮の三大天才とも呼ばれた崔南善の著作を中心として、被植民者が歴史学に託した抵抗の試みとその屈折を綿密に調べた。昨年度(2011年度)は、採用期間の最終年でもあったため、以上の研究成果を含む3年間の蓄積を文章化することに傾注した。とりわけ、いくつかの学会や研究会などで報告を行い、それらの成果を論文としてまとめた。また、昨年7月の『現代思想』の震災に関する臨時特集号に寄稿をも行った。なお、博士論文を年度末に提出し、審査を待っている状況である。
著者
東川 和夫 野口 潤次郎 古田 高士 渡辺 義之 清水 悟 児玉 秋雄
出版者
富山大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

当初の研究目的は、被覆写像に対して、両多様体の多様複素グリーン関数及び対応する不変計量に関する不等式がいつ等号になるか、例で調べてみること。等質有界領域のバーグマン計量に対する正則双断面曲率が非正であれば、擬対称領域かという問題に解答をつけること。この2点であったが、いずれも記述すべき進展が見られなかった。この問題に関連して、次の3つの新しい結果を得た。(1)上に伸びる連分数展開を考えることによって、閏年を4年に一度置き、それを32回に一度やめ、そのやめることを691回に一度やめ、それをやめることを、703回に一度やめれば、真の時間と暦上の時間との違いは、常に24時間以内であることを示した。(2)互いに素なAとBに対して、pはAの平方とBの平方の和であり、奇数であるとする。このとき、(i)直交する二つの位数pのラテン方陣で、それぞれが、対蹟的完備であるものが存在する。ここで、ラテン方陣が対蹟的完備であることは、すべての対蹟の関係にある位数がAの方陣と位数Bの方陣を合わせたものに文字の重複がないことである。(ii)位数pの魔方陣で、対蹟的完備であるものが存在する。ここで、魔方陣が対蹟的完備とは、すべての対蹟の関係にある位数がAの方陣と位数Bの方陣を合わせたものの数の和が定和になることである。(3)5以上の自然数Nに対して、合同変換群が位数Nの回転群でしかないような1つの平行6辺形による平面のタイル張りが存在することを示した。
著者
上村 靖司 関 嘉寛
出版者
長岡技術科学大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

本研究の目的は,越後雪かき道場の取組を通じて未経験外部支援者の関与による減災プロセスを分析し、雪に対する地域防災力向上手法を確立することである。2011年度からの3冬季に、新潟県,富山県、山形県の18か所で雪かき道場13回、命綱講習会22回を開催した。参加者と地域住民へのアンケートから「外部支援者との共同作業が安全に繋がる」、「外部者混在の講習会の方が心理的抵抗が少ない」など住民の防災意識啓発に有効であることが確認された。次に豪雪4県の雪害リスクの分析の結果、リスク水準が受容限度を超えていること、降雪量がリスクを支配し高齢化率や人口密度等の社会指標はほとんど寄与していないことを明らかにした。
著者
川合 由加
出版者
北海道大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

高山生態系では空間的に不均一な雪解けによって開花時期が異なる植物群集が非常に狭い地域に形成される。今回はこの雪解け時期の違いが作り出すフェノロジー構造の時間変化がマルハナバチを巡る植物間の競争に与える影響について景観スケールで評価することができた。また、これまで不明瞭であった高山生態系でのマルハナバチの活性動態についても、7~8月の約2ヶ月の間に出現カーストや活動数が大きく変動するといった強い季節性を持っていることを定量的に調べることができた。具体的には、開花時期が非常に早いエゾコザクラは主要訪花昆虫であるマルハナバチの季節活性を反映して雪解けの早い場所にある個体群では花粉制限が生じているが、雪解けの遅い場所の個体群では開花時期が重複する同群集内のツガザクラ類とマルハナバチを巡る競争が生じていた。一方で群集内での開花時期が中~後期のヨツバシオガマでは同群集内のツガザクラ類とは開花時期の重複を回避できているが、より雪解けの遅い群集のツガザクラ類とマルハナバチを巡る競争関係があった。本研究では、開花フェノロジーの時空間変化が訪花昆虫を巡る植物間競争に与える影響は種ごとに異なること、景観スケールで調べることで植物間の相互作用が群集内だけでなく群集間であることを明らかにすることができた。これは景観スケールでのフェノロジー構造が植物種間の競争関係を考えるのに重要であることを示している。
著者
藤田 大雪
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

平成21年度は、問答法の中でも特に「自己論駁」という議論形式に的を絞って考察を進めてきた。まずは、(i)プロタゴラスの人間尺度説が自己論駁に陥ることを示す『テアイテトス』169-171の有名な議論を取り上げ、証明の構造を再構成して議論の理解を深めることに努めた。次に、(ii)アリストテレスが矛盾律の疑いえなさを論証した『形而上学』Γ巻第3章の議論を取り上げ、従来の解釈に反して当該の箇所が自己論駁批判として読めることを示した。研究の結論は概ね以下のようなものである。(i)プラトンによって理解された人間尺度説は、いかなる現れも互いに矛盾することはないとするきわめてラジカルな相対主義だった。この尺度説の信奉者を名乗るプロタゴラスには、それゆえ、他の前提との矛盾を指摘するという通常の論駁方法は通用しない。尺度説にしたがえば、それらは実際には矛盾しないことになってしまうからである。ところで、他の前提によって尺度説の誤りを証明できないのなら、尺度説の肯定そのものからその否定を引き出すしかないだろう。もし尺度説を信じているなら尺度説を信じていない。このような論証方式は、それゆえ、ラジカルな尺度説を主張する論者に対してとりうる唯一可能な対処方法であったと推定できる。(ii)矛盾律の否定を信じるなら,矛盾律の肯定も信じなければならない。しかし,もし矛盾律の肯定を信じるのなら,その否定を同時に信じることは不可能となる。アリストテレスは、矛盾律の否定がこのように自己論駁へと帰着するために、矛盾律がそれ自体としてそれについて間違うことが不可能な原理であり、またもっとも強固な原理であると論定している。
著者
木越 俊介
出版者
山口県立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本替については、調査の過程で状況証拠となるものしか提示できないことが判明したので、上方読本と江戸読本との内容的な差異や類板の問題について考究した。その中で、従来、文政年間に刊行されたとされてきた武内確斎作『絵本室之八島』について注目し、研究史上初めて「文化五年」の刊記を有する早印本を発見し、作品研究を行った。その結果、上方読本の中でも極めて江戸読本の作法に近い作風であることが分かった。
著者
福田 靖子 新井 映子 熊澤 茂則 内田 浩二
出版者
静岡大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

環境汚染中の有害物質であり,タバコの煙,自動車の排気ガスに含まれるアクロレイン(CH_2=CHCHO)等低分子不飽和アルデヒド類はフライ時に油の分解により生じる可能性が高い.大量調理における長時間におよぶフライ操作時には「油酔い」と言われている一過性のむかつき症状を経験するが,この要因物質としてアクロレイン等の反応性の高いアルデヒド類が推測される.内田らは生体内脂質過酸化過程で生じるアクロレイン等が生体タンパク質と結合し,細胞等に傷害をもたらすことを特異性の高いELISA法を用いて明らかにしている.フライ時の「油酔い」症状も生体傷害の一つと推測され,ELISA法によりアクロレイン生成量を検討した.H11年度は油加熱時に発生するアクロレインの捕集法を検討した.アクロレインは沸点が53℃で容易に気化すること,水に易溶(20g/100ml,20℃)であることから,油相のみならず気相中のアクロレインを捕集するため,加熱後の油を共栓ガラス器具およびシリコンチュウブを用いて,密閉系とし,水中に導き,BSA付加体とした.油の種類によるアクロレイン生成量の比較等を行ったところ油によりアクロレイン生成量に差があり,焙煎種子油が未焙煎種子油に比べてその生成を抑制していた.焙煎種子油のアクロレイン生成抑制要因を焙煎ゴマ油を用いて調べ,新たにセサミノールを同定し,このセサミノールが種子焙煎時にセサミノール配糖体から生成することが示唆された.生体内タンパク質のモデルとして脂質消化酵素(リパーゼ)を選び,アクロレイン添加によるリパーゼ活性阻害で調べ,顕著なリパーゼ活性の低下を認めた.酵素タンパク質がアクロレインにより修飾されたものと推定された.大量調理時の油の酸化防止剤(アクロレイン生成抑制剤)として,天然素材である竹炭が有用であることを竹の炭化温度との関係から明らかにした.
著者
井上 芳光 古賀 俊策 近藤 徳彦 上田 博之 石指 宏通 芝崎 学 近江 雅人
出版者
大阪国際大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

ヒトの環境適応能の老化機序を解明するため,全身協関的視点から検討した結果,以下のことが示された.体温調節機序は男女とも,入力系→効果器系→出力系→中枢系の順序で老化し,下肢の汗腺機能は下腿が大腿より,下肢の後面が前面より早期に老化する.老化に伴い非温熱性要因の複合的入力に対する反応が小さくなる.若年者でみられた熱放散反応の性差は老化によって小さくなる.高齢者の汗腺機能の夏へ向けての亢進が若年者より遅延し,また,暑熱下の起立耐性に影響する皮膚血流量調節の関与は高齢者では小さく,夏季における高齢者の血栓形成は若年者より促進される.体温調節機序の入力系や出力系に対して老化遅延策は見出せなかったが,効果器系では運動習慣の確立が有効である.
著者
高折 修二 赤池 昭紀 笹 征史
出版者
京都大学
雑誌
試験研究
巻号頁・発行日
1986

A/Dコンバーターを装備したミニ・コンピュータを用い中枢神経系における電気生理学的研究によってえられたデータを自動解析するためのソフトウェアを開発した. プログラムはUNI×オペレーティング・システムの下でC言語により記述したので, 実験の目的に応じてソフトウェアを容易に変えることができた. 三次元表示による監視システム, ならびに活動電位, 細胞内記録時の興奮性シナプス後電位(EPSP)およびパッチクランプ記録時の単一チャンネル電流のためのプログラムを作製し, データの迅速かつ正確な解析を行った. 局所刺激によってえられたEPSPはコンピューターに接続したA/Dコンバータを用いてデジタル化した. デジタル化したデータをグラフィック・ターミナル上に表示し, EPSP上昇相および下降相の各点の対数を時間軸に対しプロットした. データ解析用のこのコンピューター・システムを用いて, 次の実験を行った. 第1にラットの尾状核ニューロンに対するドーパミンの効果を, スライス標本において細胞内記録法を用いて検討した. 低濃度(1μM)のドーパミンによる水槽の灌流は脱分極をおこし, 自発性発火の増加と, 細胞内に与えた脱分極パルスにより誘発される活動電位数の増加を伴った. これに対し, 高濃度(100μM)のドーパミンは静止電位に明らかな効果をもたらすことなしに, 自発性および電流誘発による発火を抑制した. 次いで, 尾状核におけるコリン作動系の主要な役割を解明するために, コリン作動薬および拮抗薬の効果をラット尾状核のスライス標本を用いて研究した. その結果, 尾状核ニューロンのシナプス前およびシナプス後部に局在するムスカリン性受容体は, それぞれコリン作動性の抑制および興奮に関連していること, およびこのシナプス前抑制か興奮よりも優位であることを明らかにした.
著者
阿部 努
出版者
独立行政法人国立高等専門学校機構函館工業高等専門学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2011

研究目的:初めてバイトを旋盤の刃物台にハンドルで締付ける作業を行う時、学生は締付けの力加減が分からないため、近年締付けの弱い学生が多く見受けられるようになった。極端な場合は加工中に外れる可能性があるくらい締付けが弱く、外れたバイトや破損時の破片が飛ぶ等の危険性がある。締付けが弱い事の理由としては、(1)力加減の程度を説明しづらい("思い切り"や"ほどほどに"など抽象的な表現では伝わりにくく、特に学生は理解しづらい)。(2)締めたもののその力加減で良いか分からない。そのため締付けの力加減が理解しづらくなっている。本研究はバイト設置における緩み・外れの危険を防ぐために、締付け時のハンドルのトルク、締付け荷重を数値化し、抽象的な説明では伝わりにくい経験者の力加減を教示するシステムを開発する事により、教育実習を改善する事を目的とした。研究方法:刃物台にロードセルを設置し、締付けトルク計測用ハンドル(追加工品)でバイトの取付け状況を数値化し、確認できるようにした。経験者による適切な荷重とその時のトルクを計測し表示・体験できるシステムを開発した。経験的な力加減でのトルクと荷重を指標とし、未経験者に指標と同じ締付け状況となるようにバイトの締付けを行ってもらった。指標となる経験者の力加減を事前に体験し定量的に確認した後実際の取付けに臨む事により、適度な締付けを理解しやすくした。研究成果:経験者の力加減を表示・体験できるシステムにより、視覚的及び定量的に体験できるようになり、言葉による説明と比較してより理解しやすくなった。明確な基準が存在しそれに向けて力を加えることは「このくらいでよいのか?」という不安を軽減し、安心して実際の作業に臨むことが可能となった。現在まで加工中の緩みや破損は起こっておらず、本システムにより力加減を意識するようになり、学生への教育効果という点において大きな成果を得た。
著者
港 隆史
出版者
大阪大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

人間に酷似したアンドロイドの人間らしい動作を実現するために,まず前年度はモーションキャプチャシステムを用いて人間の姿勢を計測し,その姿勢をアンドロイドに写像する手法を開発した.本年度は連続的に与えられた姿勢から求められる関節角目標軌道に追従するための制御器の学習手法を開発した.アンドロイドの空気アクチュエータは強い非線形性を有するため,高精度の軌道追従制御を実現するための制御器の設計は困難である.そこで制御対象の逆モデルをニューラルネットワーク(NN)で学習し,フィードフォワード制御により軌道追従を実現する.この際,制御対象のアンドロイドのアクチュエータは従来研究で使用されているアクチュエータと比較して,むだ時間を含む大きな応答の遅れを有する.このため,既存のフィードバック誤差学習などでは,学習が不安定になる結果が得られた.これは逆モデルの誤差評価に応答の遅れを考慮していないためである.そこで本研究では,応答の遅れに対応するために未来の誤差の時系列平均を導入した学習手法を開発した.開発した手法により,腕の2自由度の目標軌道追従を行うための制御器を学習することに成功した.上記の手法で学習される制御器は,与えた目標軌道専用の学習器である.アンドロイドの動作をあらかじめ全て用意すること現実的ではないため,種々の動作を実現する制御器を学習するためには,逐次的に学習可能な手法が必要である.従来のNNでは逐次的に教師データを与えると以前の学習結果が破壊されることが知られている.そこで本研究では人間の記憶に関わる脳内プロセスであるConsolidationをモデル化した,オンライン運動学習とオフライン長期記憶学習の2つのNNを用いた学習システムを開発した.アンドロイドの腕の1自由度を用いて,4つの目標軌道を逐次的に学習させたところ,最終的に4つの目標軌道追従を実現する1つの制御器を学習することに成功した.次に人間の動作モデルとして,人間のある動作がその動作の意図を示す大きな動きとその動作の意図を示さない小さな動きの組み合わせからなる階層的モデルを考えた.動作の人間らしさは大きな動きの多様性のみならず,小さな動きの多様性にもあるという仮説を立て,それを検証する実験を行った.例としてリーチング動作では,人に触れる場合と物に触れる場合では手先の軌道がわずかに変化すると考えられる.この対象との社会的関係により変化する腕の小さな動きモデルを,実際の人間の動きをモーションキャプチャで計測することにより作成した.具体的にはリーチング動作において,腕を戻す時に対象の近身体空間で手先の軌道が異なるモデルを作成した.アンドロイドのリーチング動作において,このモデルの有無による動作の人間らしさを被験者に評価させる実験を行い,人間らしさに関わる評価項目で統計的有意差を確認した.小さな動作の多様性がロボットの動作の人間らしさに関わるという結果は,ロボットの人間らしい動作生成に役立つと考えられる.
著者
竹内 和雄
出版者
寝屋川市教育委員会
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2009

○研究目的携帯電話に過度に依存している子ども(以下「携帯依存症」)の心的特性を調査研究し、さらに「携帯依存症」への有効な対応方法・対策を考えることを目的とした。○研究方法月1回中学校教員等と「携帯ネットいじめ対策会議」で情報交換した。トラブルだけでなく、効果的な指導法も情報交換した。また、他の都道府県(長野県、東京都、福岡県等)の子ども及び教員から情報収集の機会を持った。予想以上に現場教員が状況把握をできていないことが明らかになったため、調査対象を弁護士に加えた。○研究成果5,000名規模のアンケート分析から「携帯依存症」の特性がわかった。日に30通以上メールする子どもを他と比べると、「睡眠時間が少ない」「親子の会話が少ない」「勉強に自信がない」「部活に参加しない」等がわかった(すべて0.1%水準で有意)。また、大阪を含む7都道府県で、子ども、教員及び弁護士へのインタビュー調査から「携帯依存症」の多くが「即レク(すぐに返信すること)」が、友達関係を維持するために必要だと話し、布団の中にも携帯電話を持ち込み、就寝後のメールにも対応していることがわかった。また、「携帯依存症」が有意に多く出会い系サイト等の犯罪サイトにアクセスしていることがわかった。「さびしい」「自分のことをわかってほしい」と強く思っており、その逃げ場に出会い系サイト等を利用していることがわかった。以上から、すべての大人の協力が必要だとわかった。特に子どもが安心できる居場所をどう作るかが、携帯電話対策の鍵であることがわかった。そのための授業づくりが必要だが、危険への対応方法等にとどまっているので、今後の課題である。また、効果的なのは、子ども同士の対応だとわかった。寝屋川市で全中学校生徒会執行部からなる「中学生サミット」がネットいじめのない学校づくりのために、いじめ撲滅劇を作成し、自分の問題として考え始めたことは意義深い。
著者
佐野 訓明
出版者
岡山大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

トポIIを標的とする複数の阻害剤がトポIIβの選択的な分解を引き起こす。トポIIβは分解に先立って1259番目のリジン残基がSUMO-2/3により修飾され、その修飾が起きない変異体(K1259R)では分解も起きなかった。一方、トポIIαは同様に阻害されるにも関わらず分解されない。強制発現実験やSUMO修飾部位の解析から、両者の阻害後の処理のされ方の違いは発現時期・局在の違いに依るのではなく、SUMO修飾部位の有無によると考えられる。
著者
中村 昭二 永原 邦茂
出版者
愛知学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

国際頭痛学会分類では,咬合異常が頭痛の発症因子である記載は見られない.しかし,咬合治療により頭痛が改善することは少なくない.そこで不正咬合と頭痛の関連について,歯科治療を目的として来院した患者の協力を得て調査を行った.前後的に正常被蓋,上顎前突,下顎前突の3タイプに分類し,同様に上下的に正常被蓋,過蓋咬合,開咬に分類した.頭痛の診断は国際頭痛学会分類(IHS)に従って神経内科医が行った.過去1年以内の頭痛経験者を頭痛ありとした.結果:1.調査対象者1401名の49.2%に頭痛が見られ,そのうち,片頭痛単独が30.2%,緊張型頭痛単独が27.6%,両者の混合性頭痛が36.6%,その他の頭痛が5.6%であった.2.(1)前後的不正咬合の分類;各不正咬合別頭痛発症率は,下顎前突が65.3%,上顎前突が57.5%,正常被蓋が45.1%の順であった.また正常被蓋と下顎前突は片頭痛が緊張型より多くみられ,上顎前突では逆であった.特に正常被蓋と上顎前突に差(P<0.001)がみられ,正常被蓋では偏頭痛が,上顎前突では緊張型頭痛が多く見られた.(2)上下的不正咬合の分類;各不正咬合別頭痛発症率は,開咬が73.9%,過蓋咬合が58.1%,正常被蓋が43.7%の順であった.また,正常被蓋と開咬では片頭痛が緊張型より多くみられ,過蓋咬合では逆であった.その有意差検定でも正常被蓋と過蓋咬合,過蓋咬合と開咬に差(P<0.001)がみられ同様の所見がみられた.総括:頭痛の病態に対する詳細はまだ知られていないが,今回の研究から不正咬合の分類と頭痛のタイプに関連があり,いわゆる「咬合関連性頭痛」があることが窺えた.今後の研究:さらに頭痛と病的咬合因子との関連性を求め,歯科的治療法を確立していく予定である.
著者
高橋 満 石井山 竜平 広森 直子 笹原 恵 槇石 多希子 朝岡 幸彦 千葉 悦子 大高 研道 宮崎 隆志 松本 大
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

日本の社会教育制度は、福祉国家的な施策として制度化がすすめられてきた。しかしながら、この制度や管理運営の在り方は、経済のグローバル化や、これへの政策的応答としての自由主義的改革のもとで機能不全に陥っている。本研究では、これに対して、ソーシャルガバナンスという「パートナーシップ型の統治」モデルを提案している。それは、行政とともに市場やNPOなどの多様な主体がステークフォルダーとして独自な役割を果たすものとして参入し、新しい公共性をつくりあげるものである。