著者
野田 聖子 山田 麻子 中岡 加奈絵 五関‐曽根 正江
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.70, no.3, pp.101-108, 2017 (Released:2017-06-23)
参考文献数
36

アルカリホスファターゼ (ALP) はリン酸モノエステルを加水分解する酵素であり, 小腸に局在する小腸型ALPは脂質代謝との関係が示唆されているが, その生理機能は未だ不明な点が多い。本研究では, ヒト結腸癌由来細胞で, 培養後に小腸上皮様細胞に分化するCaco-2細胞を用いて, ビタミンK2の1種であるメナキノン-4 (MK-4) がALP発現へ及ぼす影響について検討を行った。コンフルエント後14日間培養し, Caco-2細胞にMK-4を添加 (MK-4濃度: 0, 1, 10 μM) した結果, MK-4濃度が1または10 μMのALP活性が0 μMと比べて, 有意に高値を示した。さらに, ヒト小腸型ALP遺伝子のmRNA発現量も, MK-4濃度1 μMで0 μMと比較し有意に高値を示した。本研究において, ヒト小腸上皮様細胞でのMK-4による小腸型ALP発現の増強作用について初めて示すことができた。今回の結果は, 小腸型ALP発現調節を介したビタミンK2の新たな生理機能の解明につながることが期待された。
著者
大浦 宏照 白幡 浩志
出版者
Japan Society for Atmospheric Environment
雑誌
大気汚染学会誌 (ISSN:03867064)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.151-161, 1994-05-10 (Released:2011-11-08)
参考文献数
27
被引用文献数
2

降雨・雪の主成分イオン濃度と気象要因との関係について考察する目的で, 多変量解析を実施した。1990年7月~1992年12月に西南北海道の室蘭および森野の2ヵ所で,「1降雨全量採取法」 により採取した湿性降下物試料に基づき, 大気汚染物質の中でも環境に対する影響が最も深刻である非海塩起源 (nss) SO42-と気象要因との関係について, 数量化理論第I類による解析を実施した。解析の結果, 各気象要因のnss SOSO42-濃度に対する寄与は, 季節, 風向, 流跡線, 降水量の順に大きくなることが明らかになった。また各流跡線毎の解析結果からに, nss SOSO42-の一部が中国南東部およびロシア東部の工業性排出物を起源とするものであると考えられた。さらに地表風向は湿性降下物の局地的汚染源の影響を示す指標として有効であることが示唆された。このように, 湿性降下物中のある特定のイオンと気象要因の関係について厳密に検討するには, 単一の要因に着目した手法に比べ多変量解析がより有効である。
著者
大場 博幸
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

図書館所蔵および貸出の新刊書籍市場への影響について検証する。2019年4月発行の一般書籍から層化抽出によって400~600タイトルを選んでサンプルとし、それらの全国小売書店での販売部数、全国公共図書館における月毎の所蔵数および貸出数のデータを得る。データの所得期間は、2019年5月から2021年10月の30ヶ月間とする。新刊の販売冊数を従属変数、図書館所蔵数および貸出数を独立変数とし、同時期の需要、価格、電子書籍版の有無、古書供給数などその他の変数を統制して重回帰分析にかけ、図書館の書籍市場への影響を測る。
著者
渡辺 敦史 田村 美帆 泉 湧一郎 山口 莉未 井城 泰一 田端 雅進
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.101, no.6, pp.298-304, 2019-12-01 (Released:2020-02-01)
参考文献数
36
被引用文献数
1

二つのDNAマーカー,EST-SSRマーカーとgenomic SSRマーカーを利用してウルシ林の多様性評価を行った。EST-SSRマーカーは次世代シーケンサーを利用して新たに開発した。得られたEST情報から2塩基または3塩基モチーフの一定繰り返し数以上を示した21領域にプライマーを設計した結果,最終的に8マーカーが利用可能であった。8 EST-SSRマーカーおよび7 genomic SSRマーカーを利用して,全国各地のウルシ林9集団から採取した377個体を対象として分析した。ウルシは,渡来種であり,クローン増殖が容易であることから遺伝的多様性の喪失が懸念されたが,遺伝的多様性は近縁種であるハゼノキよりもやや高く,著しい喪失は認められなかった。クラスター分析・主座標分析・STRUCTURE分析の結果は,集団によっては特異性が維持されていることを示す一方で,種苗が移動したことによる集団内の遺伝構造の存在を示していた。クローンの存在や小集団化に伴うボトルネックは限定的であり,現在のウルシ林を適切に保存すれば,ウルシ遺伝資源は維持できると考えられる。
著者
荒又 美陽 大城 直樹 山口 晋 小泉 諒 杉山 和明
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.273-295, 2018 (Released:2018-05-31)
参考文献数
34
被引用文献数
3

東京は2020年にオリンピック・パラリンピック競技大会を開催することとなった.同メガイベントの招致は,1964年には高度成長を促進させたのに対し,今回はグローバル化に伴う脱工業化に合わせた都市改造となる可能性がある.本論文は,その流れを検討するために,1988年ソウル,1998年長野,2012年ロンドンのオリンピック大会の都市・地域開発,また伊勢志摩サミット開催地のセキュリティ面での対策とそれぞれの現在までのインパクトを,現地調査及び資料に基づいて分析するものである.明らかになったのは以下の点である.ソウルと長野の開発は,一方は経済成長,他方は財政状況悪化の象徴として扱われているが,いずれも現在まで残る都市基盤や地域産業の基礎を提供した.またロンドンは社会的剥奪の大きい地の再開発という一つの型を作り出したことに特徴があり,伊勢志摩では過剰な警備がその後の観光資源となるという意外な結果を生み出している.
著者
草柳 千早
出版者
[出版者不明]
巻号頁・発行日
2008

制度:新 ; 報告番号:乙2166号 ; 学位の種類:博士(文学) ; 授与年月日:2008/4/16 ; 早大学位記番号:新4823
著者
由谷 裕哉
出版者
国際日本文化研究センター
雑誌
日本研究 = NIHON KENKYŪ (ISSN:24343110)
巻号頁・発行日
vol.64, pp.199-222, 2022-03-31

本稿は、柳田國男(1875-1962)が主に戦時下で主張していた氏神合同論(本稿での仮称)を、彼の戦時言説として考察する。ここでの氏神合同論とは、柳田が『日本の祭』(1942年)や『神道と民俗学』(1943年)をはじめ、敗戦後しばらくまで主張していた氏神に関する議論で、異姓の家が共同して一つの氏神を祀ることを意味づけようとする理論である。柳田は氏神を氏の神と考え、それらが合同した(合併した、統合された)ことを複数の理由から説明したが、合同したとされる氏神の例は参照されず、各々の理由も帰納的に導かれたものではなかった。また、柳田のテキストを具体的な民俗事象との対応を気にせずに思想として読もうとする、いわゆる柳田研究においては、柳田のこの議論はほぼ等閑視されてきた。こうした柳田研究は柳田の戦争への関わりについても、彼が積極的に戦争協力をしなかったと捉えようとしていた。 それに対して本稿は、柳田の氏神合同論が提唱されるのを彼の戦時体制への協力姿勢が明確になる1942年と捉え、それ以前の彼の氏神論の検討から始める。柳田が氏神を祖霊と解釈しようとした始まりを1932年の「食物と心臓」であると捉え、2年後の1934年から3年間にわたり柳田の門下生を主な調査者として全国的に行われた通称・山村調査が、この仮説の検証を課題の一つとしたと考えられるとする。しかし、この検証は成功せず、さらに1936年頃から宗教学者の原田敏明が実証的な調査に基づき、氏神は地域的な性格を持ち、土地に即した存在であると主張した。 本稿は以上の1930年代における動向を踏まえ、1942年の『日本の祭』を端緒としたと考えられる氏神合同論を、個々のテキストの文脈に即して抽出し、柳田の戦時体制への対応とどう関わるかと併せて考察する。とくに氏神合同論と戦時体制への対応とが密接に結びつけられた言説として、『神道と民俗学』および長野県東筑摩郡での氏神調査に関わる1943年7月の講演に注目する。この講演以降の柳田の言説をも考慮し、氏神は戦時に軍神に続いて死ぬ人々の信仰を支える存在であるので、それが氏の神ではなく合同して産土(うぶすな)のようにローカルな神となったところに意味がある、と柳田が考えていたと導くことを結論とする。

12 0 0 0 放送教育

出版者
日本放送教育協会
巻号頁・発行日
vol.45(1), no.499, 1990-04
著者
田中 是 菊地 茂 大畑 敦 堤 剛 大木 雅文
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.118, no.11, pp.1301-1308, 2015-11-20 (Released:2015-12-11)
参考文献数
35
被引用文献数
5

急性喉頭蓋炎は急速に気道閉塞を引き起こし, 死に至る可能性がある感染症である. 呼吸困難がある症例では速やかに気道確保を行うことは言うまでもないが, 喉頭蓋や披裂部などの腫脹はみられるものの呼吸困難を生じていない症例に対して気道を確保すべきか判断に迷うことが多い. 1998年1月から2014年12月までの17年間に埼玉医科大学総合医療センター耳鼻咽喉科において入院加療を行った急性喉頭蓋炎285例 (男性180例, 女性105例, 平均年齢49.6±16.3歳) についてその臨床像を後方視的に解析した. 咽頭痛は全例にみられ, 呼吸困難感を訴えた症例は62例 (21.8%) であったが, 他覚的に高度な呼吸困難症状を呈した症例は17例 (6.0%) であった. 気道確保を行った症例は27例 (9.5%) であった. また, 喉頭蓋および披裂部の腫脹の程度によって, 急性喉頭蓋炎の重症度を1点から5点まで5段階に重症度スコアとして評価した結果, 他覚的に高度呼吸困難症状を認めた症例および気道確保を要した症例はすべて重症度スコアが4点以上であり, 今後前方視的な検討を要するものの, 重症度スコアは気道確保の適応を決定する上で有用と思われた. さらに, 気道確保を施行した群と施行しなかった群とを比較すると, 前者では有意に初診時の白血球数と体温が高く, 咽頭痛出現から初診までの日数が有意に短かったが, 初診時の血清 CRP 値は両群間で差はなかった.
著者
横川 卓矢 渡邊 恵太
雑誌
エンタテインメントコンピューティングシンポジウム2022論文集
巻号頁・発行日
vol.2022, pp.184-188, 2022-08-25

衣服のメーカーや衣料品店は,衣服は着る目的以上にブランドのアイデンティティや世界観を伝えるため,衣服を表現メディアとして利用することがあり,さまざまなディスプレイ方法が試されている.本研究では,衣服を表現メディアとして捉え,衣服という人型の形状の特徴を利用し,衣服を操り人形のように制御する衣服展示フレームPuppetClothを提案する.本論文ではPuppetClothの試作について紹介,PuppetClothを用いた表現を例示する.
著者
Masahiro YUASA Koji KAWABETA Momoe UEMURA Kazunori KOBA Hiromi SAWAMURA Toshiaki WATANABE
出版者
Center for Academic Publications Japan
雑誌
Journal of Nutritional Science and Vitaminology (ISSN:03014800)
巻号頁・発行日
vol.68, no.4, pp.250-259, 2022-08-31 (Released:2022-08-31)
参考文献数
37

This study investigated the effects of dietary high-dose biotin intake on fat oxidation in rats using respiratory gas analysis, and evaluated fatty-acid oxidation-related enzyme activities and gene expressions in the liver. Five-week-old male Sprague–Dawley rats were fed a control diet and three biotin-supplemented diets (additive biotin concentration: 0.05%, 0.10%, and 0.20% of diet) for 3 wk. In 2 wk, fat oxidation in the 0.20% biotin-supplemented diet group was higher than that in the 0.05% biotin-supplemented diet group; however, the energy expenditure and carbohydrate oxidation were unchanged between the dietary groups. At the end of 3 wk, body weight and epididymal white adipose tissue weight reduced in the 0.20% biotin diet group, and hepatic triglyceride levels tended to decrease. Additionally, increased plasma adiponectin concentration and hepatic mitochondrial carnitine palmitoyltransferase activity as well as decreased hepatic acetyl-CoA carboxylase 2 gene expression were observed in the 0.20% biotin-supplemented diet group compared with those in the control group. These results provide strong evidence that dietary high-dose biotin intake activated fat oxidation due to the increase in hepatic β-oxidation, which may contribute to the decrease in hepatic triglyceride concentration and white adipose tissue weight.
著者
松岡 弘泰 松原 寛知 国光 多望 中島 博之
出版者
特定非営利活動法人 日本呼吸器外科学会
雑誌
日本呼吸器外科学会雑誌 (ISSN:09190945)
巻号頁・発行日
vol.36, no.5, pp.547-553, 2022-07-15 (Released:2022-07-15)
参考文献数
15

末梢挿入型中心静脈カテーテル(Peripherally inserted central catheter:以下PICC)は,中枢挿入型に比べて挿入が簡便で危険性が低い.両者に共通して,稀な合併症としてカテーテル先端の血管外穿破や膿瘍形成が知られている.当科で経験したPICCによると判断された縦隔炎の一例を報告する.症例は60歳男性で,下咽頭癌に対する化学療法中の発熱・食事摂取困難に対し,PICCが留置された.一時的な炎症所見改善の後に再増悪した.挿入後15日目にカテーテル閉塞のため抜去したが,同日のCTで縦隔炎を認めた.緊急で胸腔鏡下縦隔切開術を施行し,集中治療を要したが救命しえた.中心静脈カテーテルが原因と考えられる縦隔炎の報告は自験例を含めて9例あり,その内3例が感染による縦隔炎との判断から手術治療が行われた.抗癌剤や高カロリー輸液による化学性炎症であれば保存治療可能であるが,感染を疑った場合には速やかに手術に踏み切るべきである.
著者
冨岡 典子 太田 暁子 志垣 瞳 福本 タミ子 藤田 賞子 水谷 令子
出版者
一般社団法人 日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会誌 (ISSN:13411535)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.120-130, 2010 (Released:2014-10-24)
参考文献数
60
被引用文献数
2

日本においてエイの食習慣が形成された背景および地域性を明らかにすることを目的に,「平成15・16年度日本調理科学会特別研究―魚介類の調理」および『日本の食生活全集』を主な資料として検討した結果,以下のことが明らかになった。エイは,東北,近畿,中国地方の海から遠い内陸部や山間部地域の晴れ食には欠くことのできない食べ物として供されていた。エイの魚肉は尿素含量が高く,魚類としては腐敗しにくい特性を持ち,日持ちのする無塩もの(鮮魚)として調理できること,また,乾物にして保存し,利用できることなど,海から遠い地域でも利用できる条件を満たす海魚であった。エイは,肉,ひれ,骨のすべてが食用になり,軟骨特有のコリコリとした歯ごたえおよび煮もの調理によって形成されるゼラチン質の煮こごりなどの食感は,日本人の嗜好に合い,本草書に記されたエイの食品価値は,民間に伝わったアカエイの肝の薬効とともに高く評価されてエイの食習慣が定着した。