著者
藤木 篤 杉原 桂太
出版者
名古屋工業大学技術倫理研究会
雑誌
技術倫理研究 (ISSN:13494805)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.23-71, 2010

本稿では、日米両国における工学倫理の教科書の変遷過程を概観し、その後のわが国に適した教科書を作成する上での課題について述べる。アメリカにおける近年の出版動向を確認すると、従来アメリカ式の工学倫理の特徴とされたプロフェッショナリズムはさらに強調され、同じく特徴として挙げられてきた個人主義的傾向は勢いを弱めつつあることが明らかになる。一方わが国の教科書は、アメリカに強く影響を受けているにもかかわらず、上記の点、すなわちプロフェッショナリズムを前提とする社会契約モデルを採用するか否か、また個人主義的傾向をとるか否かについて、執筆者ごとのスタンスの違いが表れるため、未だ標準化という方向へ向かっていない。こうした状況は、工学倫理導入当初からわが国において議論され続けてきた問題、すなわち「専門職概念をどのように受容するべきか」という問題へと帰着する。つまり、わが国で技術者が置かれている実際の立場と、社会契約モデルが前提とする技術者像の間に乖離があるために、両者の間に齟齬が生じ、結果的にこのような複雑な状況を生み出しているのである。したがって、われわれは今後、技術者の社会的地位とその責任について議論を行う必要がある。日本に適した工学倫理の教科書を作成するためには、我々はあらためてこの問題に向き合わねばならない。
著者
小藪 明生 濱野 強 藤澤 由和
出版者
新潟医療福祉大学
雑誌
新潟医療福祉学会誌 (ISSN:13468774)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.60-63, 2007

近年,われわれの生活の質や幸福感に影響を与える要因として社会的な要因に着目した観点の必要性が提唱されているなかで,地域の社会的要因であるソーシャル・キャピタルに関してその関心が高まっている。そこで本論においては,一般的信頼をソーシャル・キャピタルの代理変数として捉え,先行研究において用いられている一般的信頼に関する位置づけに関して網羅的な検討を行なうことを目的とした。その結果,一般的信頼を用いることの利点として,多様な手法によりある種のソーシャル・キャピタルの把握が可能になるとともに,地域間比較や経年的変化をも加味した研究デザインに基づく検証をも可能になることが考えられた。
著者
山本 洋子
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

アルミニウム(Al)イオンは、酸性土壌における主要な作物育成阻害因子と考えられており、土壌の酸性化に伴って溶出し、植物根の伸長阻害や壊死等を引き起こす。しかし、その分子機構はまだ明らかにはなっていない。本研究では、Al障害の一つとして脂質過酸化に着目し、Al毒性やAl耐性との関わりを、植物根と植物培養細胞を用いて解析した。タバコ培養細胞の系では、AlはFe-依存性の脂質過酸化を促進し、それが引き金となって、動物系で報告されているアポトーシス様の細胞死に至ることを明らかにした。さらに、このようなAl毒性に対して耐性を示す細胞株の解析から、Caffeoyl putoresineが脂質過酸化耐性に関わっていることと、動物系で主要な抗酸化酵素であるグルタチオンペルオキシダーゼ様の活性が植物細胞にも存在することを見いだした。一方、エンドウ幼植物を用いた解析では、Alによって脂質過酸化が促進されるが、培養細胞の系や人工膜の系と異なり、Fe-非依存性の脂質過酸化が促進されること、脂質過酸化の促進は初期応答反応であること、Alの集積とともに直ちに見られる根伸長阻害の原因ではないものの、Alを集積した根がAlの非存在下で再び増殖を開始するのを妨げる障害の一つであることを明らかにした。以上、Alによる脂質過酸化の促進は、培養細胞のみならず根においても、Al障害機構の一つであることが明らかになった。今後、その促進機構や耐性機構の解析が必要である。その際、本研究で行った様に、タバコ培養細胞を用いてAl耐性株を分離し、障害や耐性機構の詳細を分子レベルで解析すると共に、その情報を手がかりに根での現象を解析していくことは、大変有意義であると思われる。
著者
山本 圭
出版者
情報文化学会
雑誌
情報文化学会誌 (ISSN:13406531)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.37-44, 2008-08-01

本稿が目指すのは,今日「ヴァーチャル・コミュニティ」と名指されるオンライン上での人々の集まりを政治理論的観点から分析することである。そもそも人々の共生のあり方である「コミュニティ」はこれまで,政治学や社会科学の領野で議論されできたものであるが,そこで論じられてきたコミュニティは果たして,今日の「ヴァーチャル・コミュニティ」とどのような関連性を持つのであろうか。ヴァーチャル・コミュニティをそのような連関のなかで分析するとき,われわれはそれをめぐる言説の変化に気付かざるを得ない。すなわち,ヴァーチャル・コミュニティの登場ははじめ,理想のコミュニティを実現するものとして歓迎されたが,次第にそれが抱える限界が明らかになるにつれて,その期待は萎みつつあるということである。このようにヴァーチャル・コミュニティが変容するなかで,コミュニティとしてのどのような特質が失われたのかを政治哲学,特にハンナ・アーレントの権力概念に依拠しながら明らかにしたい。ヴァーチャル・コミュニティへの政治哲学からの眼差しは,これまで十分には検討されてこなかった問題を浮き彫りに出来ると考える。
著者
田原 佳代子 高橋 徹 森勢 将雅 坂野 秀樹 河原 英紀
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. SP, 音声 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.105, no.198, pp.19-24, 2005-07-14

歌唱音声のパラメタ(ピッチ, 音量, 音色)には, ランダムな揺らぎと系統的な変化が含まれている.本報告では音量により系統的に変化する音色の成分を明らかにすることを狙い, RWC研究用音楽データベース中の歌唱音声と新たに録音した男性歌手による歌唱音声素材の分析を行った.新たな録音では, RWC研究用音楽データベースに収録されていない連続的な音量変化の影響を調べるため, 一定音量の歌唱に加え, クレッシェンドとデクレッシェンド歌唱を収録した.これらの素材は, STRAIGHTにより分析された後, 1/3オクターブ毎のレベルに変換され主成分分析により直交する成分に分解された.音量を独立変数, 主成分得点を従属変数とする回帰分析の結果は, 第一主成分と音量との高い相関を示した.この結果に基づき, 本報告では, 第一主成分に対応する固有ベクトルを用いた音色制御法を提案した.予備実験の結果は, 合成歌唱によるクレッシェンドおよびデクレッシェンドの自然性が, 提案した方法を用いることにより改善されることを示した.
著者
福井 裕行
出版者
徳島大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

条件給餌ラットの給餌中止に伴うnose pokingに対して抗ヒスタミン薬の前処置は顕著な効果を示さなかった。一方我々は、弓状核尾側のc-Fos発現におけるPKCδの関与を示唆するデータを得た。以前、視床下部のPKCδを介する肝臓のglucose産生抑制が報告されていることから、我々は条件給餌ラットにおけるヒスタミン神経系を介する肝臓のglycogen代謝調節について検討した。条件給餌ラットにおいて給餌中止直後に対する、給餌中止4時間後の肝臓におけるグリコーゲン量を測定ところ、リン酸緩衝液を投与した対照群においてはあまり変化が見られなかったのに対し、抗ヒスタミン薬投与群においてはグリコーゲン量の有意な減少が見られた。このことから、ヒスタミンH1受容体(HIR)を介する肝臓のグリコーゲン分解抑制が示唆された。肝臓におけるHIRの発現は弱く、この変化は中枢のヒスタミン神経機能を反映していると考えられた。これまでに中枢ヒスタミン神経系による末梢エネルギー代謝調節機構はほとんど研究されておらず、本研究により弓状核尾側部位を介する中枢-末梢シグナル連関が初めて明らかとなることが期待される。さらに我々は、給餌中止により興奮するヒスタミン神経細胞群の同定を行った。ヒスタミン神経の細胞体が局在する結節乳頭核(TM)におけるc-Fosとヒスタミン合成酵素であるヒスチジンデカルボキシレース(HDC)との共発現について検討したところE3 subgroupのヒスタミン神経のみに顕著な興奮が見られた。本研究から、TMには各部位へと投射しその部位を介する特異な機能に関与する機能的にヘテロなヒスタミン神経細胞群が存在することが示唆された。
著者
石井 久雄
出版者
同志社大学
雑誌
同志社大学留学生別科紀要 (ISSN:13469789)
巻号頁・発行日
pp.3-16, 2001-12

現代の統制がとれた表記のもとでは,ひらがなは,表音文字であるにもかかわらず,特別の語・形態と関係することもあると予想される。それを確認すべく,2000年1年間の朝日新聞社説の全文にあたった。出現頻度がおおきいひらがな14字は,累積でひらがな延べ約398千字の73%,文字全体延べ約776千字の32%をしめる。その1/100を抽出して整理し,次の結果をえた。出現順位1位のひらがな「の」は82.4%が格助詞「の」を表し,以下,4位「に」は80.4%が格助詞「に」,5位「を」はすべてが格助詞「を」,7位「は」は95.9%が副助詞「は」,8位「た」は72.6%が助動詞「た」,10位「が」は90.1%が格助詞「が」,12位「て」は88.4%が接続助詞「て」を,それぞれ表している。文法的要素との関係がこいのが特徴的である。語・形態は,どのように設定するのが適切であるか,かなの観点からかんがえる必要もある。すなわち,語・形態の設定によって,次の結果もえられる。3位「る」はほとんどが動詞・助動詞活用語尾,その2/3は靡き,9位「と」は2/3が助詞,11位「し」は2/3以上が動詞の活用語尾,13位「で」ははとんどが文法的部分,その1/2は格助詞「で」を表す。特別の語・形態とはむすびつきがよわいものがある。2位「い」は1/5が補助動詞「いる」,2/5が形容詞系統活用語尾,6位「な」は1/3が形容詞・助動詞「ない」,1/4が形容動詞・助動詞「だ」活用語尾,14位「か」は1/4が助詞「から」,1/5が助詞「か」を,それぞれ表すが,他の語・形態はさらにすくない。
著者
上前田 直樹 橋田 浩一
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会研究報告デジタルドキュメント(DD) (ISSN:09196072)
巻号頁・発行日
vol.2005, no.54, pp.23-30, 2005-05-27

合議におけるキーパーソンを見出すことは、議論の流れを把握したり議論を活性化したりする上で重要であるが、従来は議論の意味内容に立ち入って解析するのが困難だった。本稿では、セマンティックオーサリングに基づく電子会議において、修辞関係と対話関係によって明示された議論の意味的な構造を用いて各参加者の貢献度を評価しキーパーソンを同定する方法を提案する。実際の合議の記録に関してそのような意味構造を用いて貢献度を計算し、この方法の妥当性を示す。It is important to detect key persons in a discussion in order to grasp the dicusssion flow and activate the discussion, but it has been difficult to analyze the semantic content of discussions. In this paper we propose a method to evaluate the participants' contributions and identify key persons by analyzing semantic structures of discussions explicitly represented in terms of discourse and dialogue relations in semantic-authoring-based discussions. This method is verified by calculating participants' contributions in the records of actual discussions.
著者
上前田 直樹 橋田 浩一
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会研究報告. DD, [デジタル・ドキュメント] (ISSN:09196072)
巻号頁・発行日
vol.50, pp.23-30, 2005-05-27
参考文献数
11

合議におけるキーパーソンを見出すことは、議論の流れを把握したり議論を活性化したりする上で重要であるが、従来は議論の意味内容に立ち入って解析するのが困難だった。本稿では、セマンティックオーサリングに基づく電子会議において、修辞関係と対話関係によって明示された議論の意味的な構造を用いて各参加者の貢献度を評価しキーパーソンを同定する方法を提案する。実際の合議の記録に関してそのような意味構造を用いて貢献度を計算し、この方法の妥当性を示す。
著者
竹内 幸一
出版者
一般社団法人映像情報メディア学会
雑誌
映像情報メディア学会技術報告 (ISSN:13426893)
巻号頁・発行日
vol.33, no.14, pp.25-26, 2009-03-11

2つのレンズで撮影する立体カメラは2つの画像の大きさや位置をあわせるのに大変な作業です。しかもその映像は自然な立体画像ではなく10分も見ていると強調立体で目が疲れてしまった。立体の要件を30年前から研究してくると、通常言われている立体撮影の鉄則である2台のカメラでなくても1台のカメラで撮影できた一つが、この横走り立体カメラ方式です。ベータムービーを開発しヨーロッパで発表したときにライン川の列車の中からベータムービーで撮影したのがこの横走り立体です。1982年頃です。例えば走っているバスの中から街の景色を撮影すると時間方向に隣り合った2コマを立体の左右の絵の代りに使えます。時速36キロでは秒速10メートル、60分の1秒の1コマでは15センチ相当になります。15センチ相当の視差のある左右2台の立体カメラの代用になる。また普通のテレビ1台でもそのまま立体がたのしめる。左眼に透過率30パーセントから50パーセントの黒フィルタの片眼サングラスメガネをかけると3D画像が楽しめる。左眼の視覚知覚が暗いために遅れて、遅れたカメラ画像が見える。つまりカメラ位置が10センチほど遅れた映像を見ている勘定になる。左右の画像があたかも10センチ離れた2台カメラの立体カメラの代用になる。
著者
福田 伊津子
出版者
神戸大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究は、食事性AhRリガンドであるフラボノイド類のうち、フラボン、フラボノール、フラバノン、カテキンの各サブクラスから数種の化合物を選定し、これらの化合物がAhRの活性化に関わる事象に対する影響と、投与形態がその体内動態に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。その結果、1.フラボン、フラボノール、フラバノンに属する化合物はAhRとアゴニストとの結合を競合的に阻害するのに対して、カテキンは阻害しないことが分かった。2.培養肝細胞においてダイオキシン類が誘導するAhRの核内移行に対しては、フラボンとフラボノールに属する化合物がこれを阻害した。3.(-)-エピガロカテキン-3-ガレート(EGCg)のみを投与したときの総EGCgが43nMであったのに対して、GTEを投与したときの総EGCgが427nMであった。同じ動物個体から得た血清を用いてマウス肝腫瘍由来Hepa-1c1c7細胞に処理したところ、4.2,3,7,8-四塩化ジベンゾ-p-ジオキシンによって誘導されるシトクロームP450 1A1の発現を有意に抑制した。
著者
林田 敏子
出版者
摂南大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

女性参政権獲得後、フェミニズム運動が分裂の危機におちいるなか、ファシズムに惹かれていったメアリ・アレンは、ファシスト組織British Union of Fascistsに入党したあとも、フェミニストとしての自己意識を失わなかった。彼女のような「フェミニスト・ファシスト」は、こうした特殊な状況下でこそ成立しうる概念であり、フェミニズム運動とファシズム運動の「共闘」は、戦間期イギリス社会のもっとも大きな特徴を表しているといえる。