著者
佐治 文隆 木村 正 大橋 一友 松崎 昇 鮫島 義弘 古山 将康
出版者
大阪大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1991

ヒト初期胚の着床過程において、初期絨毛と子宮内膜細胞の相互作用について検討した。(1)子宮内膜細胞における細胞外マトリックスとこれを分解するプロテアーゼ(MMP)子宮内膜細胞におけるMMPの発現を期質含有ポリアクリルアミド電気泳動法を用いて検討し、72KDと92KDゼラチナーゼの発現パターンが性周期によって変化していることを明らかにした。また異所性子宮内膜細胞はその伸展に従ってMMP産生が亢進したが、TIMP(インヒビター)産生は不変であった。(2)子宮内膜における細胞外マトリックスの分泌免疫組織学的検討により基底膜の細胞外マトリックス(ラミニン、IV型コラーゲン)は内膜腺上皮の基底膜と間質細胞周辺のマトリックスに存在した。間質の細胞外マトリックス(フィブロネクチン、ビトロネクチン)は子宮内膜の間質全体および内膜腺上皮の基底膜部分に局在した。(3)胎盤絨毛の増殖分化とサイトカイン胎盤絨毛ではIL-6とそのレセプターによるhCG産生系が存在し、この系はIL-1とTNF-αにより分泌亢進がみられ、TGF-βでは制御がみられた。しかし初期絨毛ならびに培養絨毛癌細胞系ではTNF-αによるhCG分泌阻害が観察された。また初期胎盤から得られた絨毛細胞はフィブロネクチンと特異的に接着することが判明し、着床過程におけるフィブロネクチンの関与が示唆された。
著者
瀬戸 浩二
出版者
島根大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

本研究では,南極宗谷海岸の露岩域に分布する湖沼を,主に湖水の起源に着目し,3つのタイプに分類した.さらにそれらは地理的特徴,流出口の有無(涵養量)によってそれぞれ2つのタイプに細分した.これらの特徴は,湖水の塩分や堆積物の特徴に反映される.本研究において,粒度分析,CNS元素分析,安定同位体(有機物のδ^<13>C)分析を行うことによって,定量的にそれらの関係を解明した.それらの基礎データをもとに,6つの湖沼について柱状試料の堆積物を分析し,古環境の変遷の解析を行った.湖水面の標高が低い3つの湖沼では,柱状試料の下部に海棲の貝あるいは有孔虫化石を含む海成堆積物が見られる.親指池(Type 3a)やぬるめ池(Type 3b)のような塩湖では,貝化石を含む海成堆積物から黒色有機質泥に移り変わっている.淡水湖の丸湾大池(Type 1a)では,有孔虫を含む海成堆積物から黒色のラン藻質堆積物を経てコケを含む氷河性堆積物に移り変わっている.海成堆積物からラン藻堆積物に移り変わる年代は,約3800年前で,海洋〓塩湖に移り変わったことを意味する.また,ラン藻堆積物が存在することは,当時氷床から涵養を受けていないことを示唆する.ラン藻堆積物から氷河性堆積物に移り変わるのは,約3100年前でその間に氷床が拡大したことを示している.すなわち,南極の氷床は約3100年より前が最大の後退を示し,現在はその時より氷床が大きいことを示唆している.これによりヤンガードライアス以降後退し続けていると考えられている南極氷床も実際には前進・後退を繰り返し,氷床後退最大期からそれほど変化していないことが明らかになった.これは,8000年以降急速に隆起し続けている地殻変動が,最近では観測されていないことに関連するものと考えられる.
著者
杉山 哲男 長井 孝一 久田 健一郎 上野 勝美
出版者
福岡大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1999

平成11年度,12年度で合計2回,延べ約50日間,雲南省西部で野外調査を実施し,多くの地質学的新知見を得るとともに,多数の化石,岩石試料を採集した。これまでに明らかになったことを要約すると,1)Baoshan地塊の上部古生界は,温暖な下部石炭系,氷河起源の異常礫(ダイアミタタイト)を含む寒冷な砕屑岩相と浅海-陸上噴出の玄武岩からなる下部ペルム系,温暖だが単純な動物相からなる中部ペルム系から構成されている。2)Baoshan地塊のゴンドワナからの分離は,Woniusi玄武岩の噴出時期に相当し,前期ペルム紀であることを化石によって確認した。3)Baoshan地塊の下部石炭系化石群は,中国南部や西欧の動物群と共通要素を持ち,下部ペルム系には小型単体サンゴなどからなる寒冷な環境に適応しうる動物群が産出する。また,中部ペルム系には温暖なTethys海要素と共通な化石群を含むが,東南アジアのSibumas地塊や東アジアのCimmerian陸塊と共通の化石も多く含まれている。4)これらを総合すると,石炭紀前期には温暖な陸棚浅海に位置していた同地塊は,石炭紀後期にゴンドワナ大陸とともに寒冷化,旋回南下し,ペルム紀前期に寒冷域でリフティングによってゴンドワナから分離北上を開始し,ペルム紀中期には中緯度付近まで北上していたというシナリオが,化石,堆積相からも強く示唆されることが明らかになった。5)西側に隣接するTengchong地塊の上部古生界についても,Baoshan地塊と共通要素を持っていることが明確になった。6)東隣のChangning-Menglian縫合帯には,海山型の炭酸塩buildupsが多数分布しており,今後詳細な検討が不可欠であることが明らかになった。
著者
千住 智信 浦崎 直光
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究では、先ずかご形誘導発電機の回転速度が一定であると仮定してかご形誘導発電機の故障電流、有効電力、無効電力、かご形誘導発電機端子電圧の過渡応答を求める理論式をもとめた。かご形誘導発電機から電力系統へ流れ込む電力潮流の有効・無効電力の解析式が得られれば、かご形誘導発電機の入力トルクと出力トルクが計算できるため、かご形誘導発電機の機械的運動方程式より過渡応答を表す理論式が得られることになる。次に得られた理論式の妥当性を数値シミュレーションで検証した。数値シミュレーションでは、入力トルクが急減・急増した場合のかご形誘導発電機の電流、有効・無効電力、端子電圧、回転速度の過渡応答を数値シミュレーションと理論式で得られた過渡応答と比較検証した。また、電力系統と風力発電設備を接続する連系線で故障が生じた場合のかご形誘導発電機の故障電流、有効・無効電力、端子電圧、回転速度についても導出された理論式の妥当性を数値シミュレーションで確認した。理論式の妥当性はシミュレーションで確認した。導出した理論式はシミュレーション結果とほぼ一致することが確認された。平成18年度は風力発電シミュレータを用いてかご形誘導発電機の過渡安定性に関する実験を行った。実験は連系線故障時のかご形誘導発電機の故障電流、有効・無効電力、端子電圧、ならびに回転速度の瞬時値を測定した。この実験で得られた瞬時値と前年度理論的に導出されたかご形誘導発電機の過渡応答波形と比較することにより、導出された理論式の妥当性を検証した。また、連系線故障時のかご形誘導発電機の過渡安定性を故障除去時間との関係から実験的に求めた。実験により得られた過渡安定性限界と前年度開発されたかご形誘導発電機の過渡安定度限界の理論値を比較することにより、開発された過渡安定性判別法の妥当性を検証した。
著者
桑谷 善之
出版者
九州大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1994

ベンゼンの炭素-炭素結合にsp炭素を2個ずつ挿入することによる設計される1,2,4,5,7,8,10,11,13,14,16,17-ドデカデヒドロ[18]アヌレン1は、等価な極限構造式の間の共鳴によりベンゼンと同じD_<6h>の対称性を持つと考えられ、分子軌道の縮退や芳香族性などの観点から興味が持たれる新奇な共役系化合物である。本研究では、対称的に置換基を持った誘導体を合成しその基本的性質を明らかにした。合成に当たっては、3,9,15位にフェニル基、6,12,18位に置換基Rを持った誘導体2を標的化合物として選択し、18員環骨格を構築した後にブタトリエン結合を還元的に導入するという方法による合成を検討した。具体的には4,10,16-トリメトキシ-4,10,16-トリフェニルシクロデカ-1,7,13-トリオン(3)を鍵中間体として合成し、そのカルボニル基に求核的に置換基を導入した後塩化スズを用いて還元することにより、ヘキサフェニル体(2a)をはじめ三種の誘導体(R=Ph,4-^tBuC_6H_4,^tBu)を得ることができた。驚くべきことにこれらはかなり安定な結晶として得られ、いずれも200℃以上の高い融点を示しその温度でもあまり分解しなかった。また、^1H NMRにおいて反磁性環電流による低磁場シフトが見られ、例えばフェニル基のオルト位のプロトンでは通常より約2ppmも低磁場に観測された。その他の分光学的データも、[18]アヌレン骨格が等価な極限構造式の間の共鳴によって良く表現されることを示しており、2が高い芳香族性を有することがわかった。さらに2aのX線結晶構造解析により、[18]アヌレン骨格がほぼD_<6h>の対称性を持つことが明らかとなった。化合物1は拡大されたベンゼンとして様々な応用が期待される。また本研究で用いた分子設計は非常に単純な考えに立脚しており、同様の方法で新しい化合物群が設計でき、今後それらに対する様々な展開も期待できる。
著者
本間 信
出版者
帝京大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1994

本研究においては、腸管ベーチェット病の大腸病変部位粘膜に浸潤するT細胞の性状について組織酵素抗体法を用いて定量的な解析を試みた。腸管ベーチェットでは、健常大腸粘膜および潰瘍性大腸炎・クローン病に比し、粘膜上皮細胞間のT細胞数は有意に上昇していた。これは主としてαβT細胞の増加によるものと考えられた。またこれら浸潤T細胞表面のCD11c分子の発現は亢進していた。さらに、粘膜上皮細胞間に浸潤するγδT細胞の割合は、腸管ベーチェットでは有意に低下していた。一方、粘膜固有層においては腸管ベーチェット・潰瘍性大腸炎・クローン病のいずれも健常大腸粘膜に比し、浸潤するT細胞数の有意な上昇を示し、これらはCD4陽性T細胞・CD8陽性T細胞・γδT細胞の全てのpopulationの増多によるものと考えられた。以上の結果より、粘膜固有層のT細胞浸潤は炎症に伴う非特異的な現象であると考えられた。これに対して、粘膜上皮間のT細胞浸潤は疾患特異的であると考えられた。すなわち、腸管ベーチェットにおいては、他の炎症性腸疾患とは異なり、主としてαβT細胞を中心としたリンパ球浸潤が見られたが、他の炎症性腸疾患においては粘膜上皮間のT細胞の浸潤増多は見られなかった。こうしたαβT細胞の粘膜上皮間への浸潤の機序を追求してゆくことが腸管ベーチェット病の発症機序の解明につながるだけでなく、他の炎症性腸疾患の病因解明の糸口となることが期待される。
著者
今井 昭二
出版者
徳島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本研究では、ファーネスアトマイゼーションの領域において黒鉛炉原子吸光法における原子化装置の中の電熱黒鉛炉の表面と分析元素の相互作用に関する基礎的成果を得た。更に、新規の分析法を提案した。(1)基礎的研究:溶液中において炭素材料に金属イオンを吸着させた場合、ある種の元素において炭素材料中の細孔に単原子状態で分散していることが分かった。この炭素材料の加熱によりイオンは原子に還元され、つづいて原子が脱離して原子蒸気の発生する。その発生する原子蒸気に関するデータから計算によって原子化の活性化パラメーターを求めることが可能となった。炭素材料の細孔の原子サイズレベルの表面の凹凸状態を示す指標の表面フラクタル次元とその原子化の活性化パラメーターに強い相関性があることが分かった。(2)新規の分析方法:本方法を用いて、炭素材料中の細孔の内壁表面の幾何学的構造を示す表面フラクタル次元を測定する新規な方法が見いだされた。表面フラクタル次元は、細孔の比表面積と関係式で結ばれ、本方法でこの表面フラクタル次元を求めることでサブナノメートルレベルの径をもつ微細孔の比表面積も求める方法が示唆された。(3)システム化:炉内での原子蒸気の発生およびそのときの温度の計測とデータ処理を最新のPCシステムを用い測定装置がシステム化された。自動分析も可能なシステムが完成した。(4)応用分析:表面のナノサイズでの制御は、分析元素の分散、共存物質の化学干渉、原子化装置表面への浸透および還元反応などを制御することで分析が困難であった環境有害微量元素のカドミウム、鉛およびヒ素の高感度分析を可能にした。(5)最近の動向:黒鉛炉原子吸光分析法における本体装置開発、関連装置開発、最新の分析方法、ナノテクノロジーおよびナノサイエンスの導入についての動向が明らかにされた。
著者
平田 政嗣
出版者
東北大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
2000

現在広く臨床応用されている人工歯根(インプラント)は、天然歯根と違いその周囲に歯根膜を有しないため、様々な問題が存在している。そこで、歯根膜由来培養細胞を用いて人工歯根周囲に歯根膜を再構築する必要がある。近年、付着依存型細胞の大量培養法としてマイクロキャリアー培養法が開発・応用されてきている。前年度の研究では、マイクロキャリア培養法が歯根膜線維芽細胞にも応用可能であり、その足場および移植担体(scaffold)としてコラーゲンゼラチン製の多孔性マイクロキャリアに関して適用可能であることが判明した。今回の研究では細胞を付着させたマイクロキャリアの生体内への応用および生体内での応答に関して、ラットおよびビーグル犬を用いて組織学的ならびに免疫組織化学的に検討した。歯根窩洞に細胞を付着させたマイクロキャリアおよびチタンを挿入し、歯周組織の反応を検索した結果、チタン周囲に新生骨様組織が形成されていた。また新生骨様組織とチタンとの間には一部線維が垂直に配列した歯根膜様軟組織が形成されていた。1.コラーゲンゼラチン製多孔性マイクロキャリア上で歯根膜由来線維芽細胞は付着伸展し、立体的な構造を呈することが判明した。3.ラットを用いたチタン埋入実験では、既存歯根膜組織が埋入チタン表面に伸展し、セメント質様構造物を伴った歯根膜様組織が再構築されることが判明した。またチタン表面に近接した組織ではアルカリホスファターゼ活性が上昇し、当部位での高い細胞活性と硬組織産生能が示唆された。以上の結果より、コラーゲンゼラチン製多孔性マイクロキャリアが歯根膜細胞の足場(scaffold)として応用可能であり、歯根膜および骨組織再生の可能性が示唆された。今後は、既存歯根膜組織に頼らない組織再構築の開発および培養・移植された細胞特性の詳細な解明が必要であると思われる。