著者
清水 亮
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.72, no.3, pp.241-257, 2021 (Released:2022-12-31)
参考文献数
67

冷戦期にアメリカで確立した軍事社会学は同時代の軍隊・軍人・民軍関係などを中心的主題とし,軍事組織への積極的な社会調査を実行し,西側諸国を中心に国際的に普及した.これに対して日本では軍事社会学は長らく輸入されず,総力戦の社会的影響や経験・記憶の探究を中心に近年「戦争社会学」というかたちで学際的な研究が集積しつつある.しかし,日本にも社会学の軍隊研究は存在し,軍事社会学を参照した研究者も皆無ではない.本論の目的は,軍事社会学を参照した社会学者による軍隊研究の検討を通して,国際的に普及している軍事社会学と,日本社会学の軍隊研究との位置関係ならびに,ありえた接続可能性を明らかにすることにある.まずアメリカにおける軍事社会学の確立と各国における受容状況,日本の社会科学の隣接分野における軍事社会学との接点について検討した.そして冷戦期日本社会学における軍事社会学の参照状況として,従来から注目されてきた文化論的な戦争研究に加え,産業社会学からの組織・職業論の理論枠組みへの関心,ならびに教育社会学のエリート論からの実証研究の試みを明らかにした.それらは相互参照がなく孤立していた.しかし,軍事社会学の枠組みの直輸入でも,狭義の政軍関係論的展開でもなく,日本社会学との接続および戦後日本特有の実証的研究対象の発見によって,軍隊と社会の関係性に関するユニークな認識を生産しえたものだった.
著者
Takashi Maoka
出版者
The Mass Spectrometry Society of Japan
雑誌
Mass Spectrometry (ISSN:2187137X)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.A0133, 2023-11-01 (Released:2023-11-01)
参考文献数
35

Carotenoids are tetraterpene pigments that are present in photosynthetic bacteria, some species of archaea and fungi, algae, plants, and animals. Carotenoids are essential pigments in photosynthetic organs along with chlorophylls. Carotenoids also act as photo-protectors, antioxidants, color attractants, and precursors of plant hormones in plants. Carotenoids in animals play important roles, such as precursors of vitamin A, photo-protectors, antioxidants, enhancers of immunity, and contributors to reproduction. More than 850 kinds of carotenoids are present in nature. The structures are similar and all of them are labile. Analysis of natural carotenoids requires the establishment of reliable methods for analyzing them. Liquid chromatography–mass spectrometry (LC-MS) and mass spectrometry/mass spectrometry (MS/MS) coupled with photodiode array detector (DAD) is an important tool for analysis of natural carotenoids. Electrospray ionization and atmospheric pressure chemical ionization are commonly used for ionization of LC-MS of carotenoids. MS and MS/MS provide not only molecular weight information but also some structural information on carotenoids. Ultraviolet-visible spectra from DAD provide information on chromophore systems, which cannot be provided by MS spectral data. In the present review, I report the structural diversity and function of natural carotenoids, and also describe the techniques for analysis of natural carotenoids using the LC-DAD-MS and MS/MS system.
著者
宍戸 駿太郎
出版者
環太平洋産業連関分析学会
雑誌
産業連関 (ISSN:13419803)
巻号頁・発行日
vol.9, no.4, pp.10-17, 2000 (Released:2015-07-03)

日本経済の低迷は曇天模様のなかで続いている。計測によると部門別の稼働率は平均で65%で,これか四半世紀に及んだ慢性的「政策不況」の帰結である。このままでは失業と社会不安や円高圧力は中長期的に継続する。IT革命のみで、このギャップを埋めるには,あまりにも深刻で,いまや日本経済にはニューディール型の巨大なインパクトが不可欠である。21世紀初頭の長期戦略として,まず経済を5%台の回復軌道にのせ,デフレギャップを解決させつつ,次いで大胆な財政再建という長期2段階の再建方式を提案する。
著者
松島 立弥 渡辺 大地
出版者
一般社団法人 画像電子学会
雑誌
画像電子学会研究会講演予稿 画像電子学会第270回研究会講演予稿 (ISSN:02853957)
巻号頁・発行日
pp.63-66, 2014 (Released:2020-06-01)

ドット絵はコンピュータグラフィックスの描写表現の 1 つである.低解像度でもキャラクターや物体の概要を視認可能な画像を指し,古い手法ながら近年でもビデオゲームなどに用いられている.タイルパターングラデーションは,独特のドット配置によって,少ない色数でグラデーションを再現する手法である.近年でも質感再現に用いられるなど,根強い人気から活用される機会も多い.しかし,作業の綿密さや困難さゆえに,制作には多大な労力と時間がかかってしまう.本研究では,ドット絵におけるタイルパターンの表現に着目し,自動でグラデーションを施す手法を提案する.
著者
木場 律志
出版者
日本ブリーフサイコセラピー学会
雑誌
ブリーフサイコセラピー研究 (ISSN:18805132)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.1-13, 2023-10-31 (Released:2023-10-31)
参考文献数
35

ナラティヴ・セラピーにおけるセラピスト(以下,Th)の姿勢について,事例を提示しながら「エイジェンシー」の観点から論じるとともに,エイジェンシーとブリーフサイコセラピーの関連について検討した。エイジェンシーとは,クライエント(以下,Cl)の好みを探索し理解し続けようとするThとClの間に生成されるものであり,常に更新されていくものだと考えられ,またこのエイジェンシーが生成され続けるようにClの好みを探索し理解し続けようとすることが,ナラティヴ・セラピーのThに求められる姿勢であることが示唆された。そして,エイジェンシーはブリーフサイコセラピーときわめて密接な関連があり,Thがエイジェンシーを生成し続けようとすることは,ブリーフサイコセラピーの実践においても不可欠であることが示された。
著者
脇山 徳雄
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.72, no.1, pp.53, 2017-01-05 (Released:2017-12-28)

追悼近角聰信先生を偲んで
著者
鈴木 萌々香 氏家 悠太 高橋 康介
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第19回大会
巻号頁・発行日
pp.15, 2022 (Released:2022-04-20)

複数の顔写真を周辺視野に次々に提示すると不気味さや歪みを感じる(FFDE)。本研究ではFFDE刺激として顔全体提示、上半分提示、目のみ提示、目非提示、輪郭非提示の5条件を用いて、顔の各部位がFFDEの強さに及ぼす影響を検討した。実験では250 msごとに写真を切り替えながらFFDE刺激を10秒間提示し、刺激観察中に歪み知覚が生じたらボタンを押すこと、刺激提示後に歪みと不気味さの主観的強度を7段階で回答することを求めた。実験の結果、提示する顔部位により歪みや不気味さの主観的強度が異なり、顔全体>輪郭非提示>上半分>目非提示>目のみ提示の順となった。また刺激観察中に歪みを知覚するまでの潜時も提示する顔部位により異なっていたが、主観的強度の順序とは乖離が見られた。以上の結果から顔の全体処理がFFDEの生起に関与すること、またFFDEの強度と潜時には異なる決定要因が存在することが示唆された。
著者
柴垣 奈佳子
出版者
公益社団法人 日本油化学会
雑誌
オレオサイエンス (ISSN:13458949)
巻号頁・発行日
vol.23, no.11, pp.569-574, 2023 (Released:2023-11-08)
参考文献数
65

敏感肌とは,通常は感じられない強さや種類の刺激によって不快な刺激を感じる肌のことを指す。世界中で敏感肌であると感じる人の数は非常に多く,敏感肌向けの製品も多いが,皮膚常在菌叢をターゲットにした製品は少ない。皮膚常在菌叢が皮膚バリアに与える影響の大きさを示唆する結果は多く,皮膚常在菌叢の敏感肌への関与は大いにあり得る。本稿では,敏感肌と皮膚常在菌叢に関する研究について総説する。
著者
松原 英隆 今村 弥生
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.106, no.7, pp.493-501, 2011 (Released:2017-02-15)
参考文献数
11
被引用文献数
2 2

蒸留直後の芋焼酎にはガス臭成分が含まれている。製品焼酎の出荷時におけるガス臭の有無およびガス臭の強度は官能試験で評価されており,原因物質の特定には至っていなかった。したがって,機器分析によってガス臭物質を特定し,かつ,閾値濃度付近の非常に低濃度のガス臭物質を定量することは重要であると考えられた。著者らは,蒸留直後の芋焼酎には含硫化合物臭が感じられることから,ガス臭の原因物質としては硫化水素等の揮発性硫黄化合物の可能性が高いのではないかと考えた。そこで,芋焼酎の硫化水素,メチルメルカプタン,硫化ジメチルおよび二硫化ジメチルを分析するため,エタノール除去システムを組み込んだ高感度パージ&コールドトラップ-GC-MS法を開発した。本研究で開発した方法を用いてガス臭のある芋焼酎に含まれる揮発性硫黄化合物を分析したところ,硫化水素とメチルメルカプタンが硫化ジメチルや二硫化ジメチルに比較して高濃度に検出された。次に,硫化水素やメチルメルカプタンがガス臭の原因物質であることを調べるため,銅カラム処理によるこれら2成分の選択的除去を試みた。その結果,銅カラム処理によって硫化水素やメチルメルカプタンは完全に除去され,ガス臭もなくなることが分かった。ここで,メチルメルカプタンの閾値が硫化水素の閾値に比較して圧倒的に低濃度であったことから,ガス臭寄与率が最も高かったのはメチルメルカプタンであり,次が硫化水素であると推察された。
著者
清水 政行 川西 康友 出口 大輔 井手 一郎 村瀬 洋
出版者
公益社団法人 精密工学会
雑誌
精密工学会誌 (ISSN:09120289)
巻号頁・発行日
vol.87, no.5, pp.447-454, 2021-05-05 (Released:2021-05-05)
参考文献数
32

Estimation of translation between consecutive frames, i.e., odometry, plays an important role in autonomous navigation. This paper presents an odometry estimation method using sparse LiDAR points and image feature points. In case of sparse LiDAR measurements, it is difficult to accurately estimate depth at image feature points. Image feature points with low-accuracy depth cause misconvergence in odometry optimization. To improve the robustness to the misconvergence, a new method with a Gaussian process that estimates not only the depth at image feature points but also the variance is proposed. By using this variance, it estimates the residual of image features in the world coordinate with depth, or in the image coordinate without depth. This allows more accurate and robust estimation than conventional methods in case of sparse LiDAR points. In an experiment with simulated sparse LiDAR points from the KITTI dataset, the proposed method is confirmed to estimate the odometry more accurately than conventional methods.
著者
江草 宏
出版者
公益社団法人 日本補綴歯科学会
雑誌
日本補綴歯科学会誌 (ISSN:18834426)
巻号頁・発行日
vol.10, no.3, pp.202-208, 2018 (Released:2018-08-02)
参考文献数
25

本企画では,“歯周病患者に対する固定性補綴歯科治療”をテーマに,前号掲載された弘岡秀明先生および松井徳雄先生の各論文に代表される治療コンセプトを,それぞれ『スカンジナビア型』および『米国型』と分類し,論考を試みた.「絶対的に必要なこと以上のことは何もするな,しかし,絶対的に必要なことは怠ってはいけない」とのコンセプトに基づくスカンジナビア型治療と,「外科処置により,可能な限りの生理的な骨形態,浅い歯肉溝,付着歯肉の獲得」を治療目標に置く米国型治療との間には,アプローチはまったく異なるものの,目指す共通点も見えてくる.本企画を通じて,“歯周病に対する補綴歯科治療の専門性”を考える一助となれば幸いである.