著者
康永 秀生
出版者
医学書院
雑誌
公衆衛生 (ISSN:03685187)
巻号頁・発行日
vol.82, no.2, pp.100-104, 2018-02-15

はじめに 筆者は2017年1月4日から2017年1月13日まで,日本経済新聞の「やさしい経済学」欄に「予防医療で医療費は減らせるか?」という8回にわたるコラムを寄稿した.その中で筆者は,国民の健康寿命を延伸するために各種の予防対策を推進することの重要性を繰り返し強調した.それとともに,予防医療によって個人の生涯にかかる医療費を削減することは困難であり,長期的に見れば,予防対策は国民医療費を抑制するどころか,むしろ増加させる可能性があることを説いた.上記のコラムへの反響はなかなか大きかったようである.今回,大変ありがたいことに,「公衆衛生」誌の本特集への原稿執筆の依頼を受けた.これも,その反響の一つであろう. 本特集の企画書には,「都道府県の医療費適正化計画では,特定健診(いわゆるメタボ健診)の受診率向上の目標値が設定されるなど,健診による医療費抑制効果があることを前提とした計画策定が行われています.これに対して,医療経済学などの専門家からは批判的な意見も出ており,都道府県や市町村などの公衆衛生事業者には混乱があります」と書かれてある.日本経済新聞における拙論が,ひょっとすると,公的医療保険の実務に携わっておられる方や,公衆衛生の現場で予防対策の実務に尽力されている方には,いささか耳障りの良くない話であったかもしれない.現場の方々を混乱させているとすれば,大変申し訳ないことである. 本稿の依頼によって,筆者は,「予防対策は医療費を削減できない」とするところの論拠について,再度,丁寧な説明をさせていただける機会を得られたと考えている.まず冒頭に,筆者の立場を明らかにする.筆者は,特定健診もがん検診も無用,などと無責任な言辞を弄するつもりは毛頭ない.国民の健康寿命の延伸にとって予防対策は不可欠である.「特定健診の受診率の目標値が設定される」ことは受診率の向上に重要である.受診率を上げるべく,現場で実務に努められている方々には心から敬意を表したい. しかし,「健康寿命の延伸」と「医療費適正化」は分けて考える必要がある.予防対策で医療費削減は実現できない.医療費を削減したければ,他の方策を講じたほうがよい.
出版者
医学書院
雑誌
保健婦雑誌 (ISSN:00471844)
巻号頁・発行日
vol.14, no.9, pp.38, 1958-09-10

・解・説・ 子供の世話や,家事の雑用に追われている家庭の婦人達が,手近な集りで16ミリ映画で,明るくたのしい映画や,生活改善,保健衛生等の知識を得られる映画を楽しむ事が出来たら…という目的で全国のお母さん方が株主になつて母親プロが誕生したのは1955年の事であつた. この母親プロ桜映画社は,以来「さよなら蚊とハエさん」「百人の陽気な女房たち」「今どきの嫁」等の映画を作つて教育映画等で最高賞を受ける等のめざましい活躍をして来た.この「お姉さんといつしよ」は,このプロダクシヨンがはじめて作つた本格的な劇映画であり今度ベニス国際児童映画祭グランプリ受賞の栄誉をうけた作品である.
著者
原澤 純子
出版者
医学書院
雑誌
看護研究 (ISSN:00228370)
巻号頁・発行日
vol.47, no.7, pp.670-678, 2014-12-15

I.はじめに 多くの看護場面では,「触れる」「握る」「さする」などといった行為が日常的に行なわれている。近年臨床において,タッチやマッサージなど,患者に触れることでリラクゼーションや心身の安寧を図る技術を取り入れる機会も増えてきた。しかし,手を使ったケアはこのような特別なタッチやマッサージに限らない。保清や体位変換などの日常生活援助や,注射や創傷処置などの診療の補助のような看護ケアの多くも,手によって生み出されている。ウィルソン(1998/藤野,古賀訳,2005)は,「われわれの生活は,じつに巧妙に静かに手が関係する日常的な経験にあふれすぎているので,現実にどれほど手に頼っているかをめったに考えることはない」と述べている。 手は日常の看護ケアのあらゆる場面ではたらいているが,巧妙に静かに,ケアに密着してはたらく手にかかわる経験について,常にはっきりと意識化しているわけではない。しかし,ふと触れた手によって,患者がなんとなく安心した様子になったり,苦痛が緩和したように感じたりということを経験的に感じることがある。このような手のはたらきは,状況に応じて直観的に差し出されるため,その効果のエビデンスが明らかにされているわけではない。 タッチやマッサージ,触れることに関する先行文献を概観してみると,これらが心身に及ぼす影響について,生理的・心理的指標を用いて検証を試みているものが多い(森下,池田,長尾,2000;松下,森下,2003;本江,高橋,杉山,田中,2012)。また,質的研究では,タッチのタイプや意義を明確化することを試みた研究(鳥谷,矢野,菊地,小島,菅原,2002;大沼,2011)がある。川西(2005)は,日常生活援助場面での「触れる」ことに焦点を当て,参加観察と看護師の面接により,触れることの意義をカテゴリ化している。患者の身体にはたらきかける際の両義性,相互性に着目しているところが意義深いが,依然意図して触れる部分についての言及にとどまっている。 一方,日常の看護場面に密着した手のはたらきに関する研究はまだ少ない。川原ら(2009)は,個別の状況において自然に行なわれている看護師の触れるケアを身体論的に分析し,触れるという行為はそれぞれの状況において即応的に,直観的に行なわれ,看護師と受け手の両者にとって深い感覚的・情緒的交流をもたらしていることを明らかにした。しかしながら,臨床における優先度は低い現状も指摘されており,今後も看護師や患者の経験を掘り起こし,共有していく必要性について述べられている。 現象学者である滝浦(1977)は,「足は外界に対するわれわれの立脚点として,まだわれわれ自身に属しているのに対して,手は,われわれの外界に対する実践的接点として,両者に共属している」と述べている。この考えに基づくと,看護の技術的側面だけを抽出して客観的に分析する方法では,自分と相手(外界)との間の実践的接点として手がはたらく場面を捉えきれない可能性がある。また,自分と外界の両者に共属している手のはたらきを改めて見つめ直そうとしても,客観的に捉えることは難しく,自らの経験や感情を抜きにして語ることはできない。さらに,状況に応じて差し出される手,看護師自身も意図しているかいないかのところではたらく手について,実験的環境を整えるのは困難である可能性も考えられる。これらから,看護師が自らの実践を振り返り,語り直すという過程の中で,その経験や触れる意味を捉え直していくことで,看護場面においてはたらく手に関する経験が浮かび上がってくるのではないかと考えた。 そこで,日常の看護場面ではたらく手について,看護師の経験の語りを通して明らかにすることを目的として本研究を行なった。そのことにより,看護ケアにおいてはたらく手について改めて問い直すきっかけとなるのではないかと考える。
著者
竹島 徹平 黒田 晋之介 湯村 寧
出版者
金原出版
雑誌
産婦人科の実際 (ISSN:05584728)
巻号頁・発行日
vol.66, no.13, pp.1839-1844, 2017-12-01

不妊の約半数に男性因子が関与しているにもかかわらず,無精子症の場合を除き男性不妊治療介入を経ずにART を導入されている例が少なくない。受精後,day 3 以後の胚発生には精子DNA の完全性が関与しており,断片化が生じると発生停止,着床障害,流産などの原因となる。精子DNA 断片化に対して,ラボにおける精子選別法以外にも,生活指導や採精指導,内服治療や手術に至るまで,ART 成績向上のための泌尿器科的に治療可能な取り組みが存在し,良好な治療成績が得られている。今後も治療エビデンスを確固たるものとし,ART 治療成績向上のため,婦人科医師と連携を図っていく必要がある。
著者
渡辺 邦太郎 徳嶺 譲芳
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
雑誌
LiSA (ISSN:13408836)
巻号頁・発行日
vol.24, no.8, pp.810-813, 2017-08-01

今回は,腕神経叢ブロック時に投与する局所麻酔薬にステロイドを添加することで作用が延長する効果について紹介する。本稿のようにステロイドを加えることで,単回の腕神経叢ブロックの効果を延長させることができる。これまで深夜にブロック効果が切れていたものが翌朝まで効果が得られることになり,臨床上の有用性は高い。一方で,その作用機序は明らかではなく,神経障害など副作用が生じる危険性もある。筆者の施設では,ステロイドは全身投与に留め,局所麻酔薬への添加は行っていない。適応外使用であることも含め,本稿の内容を臨床で応用する際には,リスクとベネフィットについてよく検討していただきたい(森本 康裕)
著者
石川 晴士
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
雑誌
LiSA (ISSN:13408836)
巻号頁・発行日
vol.21, no.11, pp.1032-1033, 2014-11-01

●換気血流比とはまず,一つの肺胞とそれを灌流する肺毛細血管の血流の組合せをイメージしてみよう。理想的な状態では,単位時間当たりに肺胞を出入り(換気)するガスの量と,肺毛細血管の血流量は一致し,換気血流比は1となる(図1A)。このとき,換気によって吸気時の肺胞内のガス組成は毛細血管内に比べて酸素分圧が高く,二酸化炭素分圧が低くなるため,圧勾配に従って二酸化炭素が毛細血管内から肺胞内に移動し,逆に酸素が肺胞内から毛細血管内に移動する。このガスの移動によって,一時的に肺胞内の二酸化炭素分圧は高く,酸素分圧は低くなるが,次の瞬間には換気が行われるので,肺胞内のガス組成は再びもとのレベルに戻る。このようにして換気が維持される限りは,肺胞内と毛細血管内のガス交換が続くことになる。 ところが,換気と血流の組合せは,このように理想的な状態にあるものばかりではない。例えば,気管支が血液や分泌物で閉塞すると,そこより末梢の肺胞では換気が行われなくなり,その結果,肺胞と毛細血管の間の圧勾配がなくなり(平衡状態)ガス交換が行われなくなる。これは血流が肺胞を素通りすることを意味しており,この状態を「シャント」と呼ぶ(図1B)。一方,換気は行われているにもかかわらず,何らかの理由で毛細血管の血流が途絶している状態を「死腔」と呼ぶ(図1C)。換気と血流の組合せのうち,シャントと死腔は最も極端な異常の例であり,それぞれ換気血流比はゼロと無限大の状態に相当する。
著者
村上 健司 小川 普久 小林 泰之 中島 康雄
出版者
学研メディカル秀潤社
雑誌
画像診断 (ISSN:02850524)
巻号頁・発行日
vol.35, no.9, pp.1059-1061, 2015-07-25

症例1 70 歳台,男性.突然の背部痛を自覚し,救急受診.精査目的に造影CT が施行された.
著者
村上 健司 小川 普久 小林 泰之 中島 康雄
出版者
学研メディカル秀潤社
雑誌
画像診断 (ISSN:02850524)
巻号頁・発行日
vol.35, no.9, pp.1062-1063, 2015-07-25

症例1 80 歳台,男性.背部痛の精査にて造影CT が施行された.
著者
塚田 実郎 奥田 茂男 中塚 誠之 陣崎 雅弘
出版者
学研メディカル秀潤社
雑誌
画像診断 (ISSN:02850524)
巻号頁・発行日
vol.35, no.9, pp.1096-1097, 2015-07-25

症例1 40 歳台,男性.健康診断で受けた腹部超音波検査で腹部大動脈解離を指摘された.さらに造影CT で,腎動脈分岐部レベルから左総腸骨動脈にかけて限局性大動脈解離が確認された.
著者
村上 健司 小川 普久 小林 泰之 中島 康雄
出版者
学研メディカル秀潤社
雑誌
画像診断 (ISSN:02850524)
巻号頁・発行日
vol.35, no.9, pp.1056-1058, 2015-07-25

症例1 70 歳台,男性.仕事中に突然の背部痛を自覚し救急搬送.原因精査のため造影CT が施行された.
著者
細貝 真弓 秋山 英雄 岸 章治
出版者
医学書院
雑誌
臨床眼科 (ISSN:03705579)
巻号頁・発行日
vol.62, no.4, pp.527-532, 2008-04-15

要約 目的:光干渉断層計(OCT)で経過を追ったPurtscher網膜症の1例の報告。症例:70歳男性が自動車を運転中に電柱に衝突し,多発性肋骨骨折を生じ,その翌日に受診した。矯正視力は右0.2,左0.02で,両眼の乳頭周囲に綿花様白斑があり,左眼は乳頭黄斑間に網膜の白濁があった。OCTで両眼に漿液性網膜剝離と左眼網膜内層に高反射があった。漿液性網膜剝離は1か月後に消失した。受傷から3か月後に矯正視力は右1.0,左0.7になったが,白濁部では網膜内層が菲薄化し,視細胞の内節と外節の接合部が消失し中心暗点が生じた。結論:Purtscher網膜症の急性期では網膜の白濁と綿花様白斑が混在し,漿液性網膜剝離があった。陳旧期では網膜内層が菲薄化し,視細胞の内節と外節の接合部が消失し,中心暗点の原因になった。
著者
岡本 紀夫 森本 壮 松下 賢治
出版者
金原出版
雑誌
眼科 (ISSN:00164488)
巻号頁・発行日
vol.61, no.9, pp.975-981, 2019-09-05

要 約目 的:長期経過観察できた外傷性視神経症の2例の光干渉断層計所見について報告する。対象および方法:急性期の外傷性視神経症1例と陳旧期の外傷性視神経症1例に対して,光干渉断層計で平均全網膜厚および黄斑部ganglion cell complex厚について経時的に計測を行った。結果および結論:既報と同じく黄斑部ganglion cell complex厚は受傷後早期から減少し,数か月後には減少傾向がプラトーに達した。一方の平均全網膜厚は1年以上経っても軽度であるが菲薄化が進行していた。陳旧期の外傷性視神経症の光干渉断層計所見は鑑別診断の一助になると考えられた。
著者
亀子 光明 北村 弘文
出版者
医学書院
雑誌
検査と技術 (ISSN:03012611)
巻号頁・発行日
vol.36, no.8, pp.764-766, 2008-08-01

はじめに 免疫学的方法を原理とする測定法では,被検血清中に存在する異好抗体(heterophile antibody,hAb)により偽陽性反応が起こり,測定結果が異常高値を示す場合がある.この作用機序は1986年Boscatoら1)により,ヒト絨毛性ゴナドトロピン(human chorionic gonadotropin,hCG)測定系において報告されており,その干渉に関与する因子をantibody-binding substancesと表現している. 現在では,マウス免疫グロブリンに結合するhAbをヒト抗マウス抗体(human antimouse antibody,HAMA)と呼んでいる. 初期の腫瘍特異的抗体療法では,腫瘍細胞に対するマウスモノクロナール抗体(monoclonal antibody,mAb)を患者に繰り返し投与すると,その抗体は,マウス由来の異種蛋白であるため,高頻度でHAMAが出現し,それが原因でアナフィラキシーが多発したことが報告されている2).また,その治療を受けた患者血清では,サンドイッチ法による癌胎児性抗原(carcinoembryonic antigen,CEA)測定において,偽高値となることも報告されている3,4).本稿においては,免疫反応に及ぼすHAMAの影響やその回避法について述べる5,6).
著者
高畑 圭輔 田渕 肇 三村 將
出版者
医学書院
雑誌
BRAIN and NERVE-神経研究の進歩 (ISSN:18816096)
巻号頁・発行日
vol.68, no.7, pp.849-857, 2016-07-01

頭部への打撃から数年〜数十年の年月を経て,認知機能低下や精神症状,運動症状などの症候が遅れて出現することがある。こうした遅発性の症候に,外傷を契機とする神経変性が関与していると考えられている。本総説では,頭部外傷によって引き起こされる遅発性後遺症について概説する。特に近年問題となっている慢性外傷性脳症,および頭部外傷に続発するアルツハイマー病について重点的に述べる。また早期診断法としてのタウ・アミロイドPETや予防的介入の可能性についても述べる。
著者
柳田 絵美衣
出版者
医学書院
雑誌
検査と技術 (ISSN:03012611)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.75, 2015-01-01

どうも,はじめまして.「検査と技術」の新コーナーが始まりましたよ! おぉ! 「突然おまえは誰なんだ!」という皆さまの心の声がビッシビッシ伝わってきています.そのツッコミ,待ってました! 記念すべき第1回目は自己紹介致しましょう! 私は,神戸大学医学部附属病院病理部の臨床検査技師「柳田絵美衣」と申します.職場の仲間から(教授からも……),「やなさん」と呼ばれております.「エミイちゃんが国家試験に受かったなんて……奇跡だぁ!」と学校中の先生に驚かれ早9年.卒業後は病理検査専門の会社に入り壮絶……な4年間を過ごした後に,現職場に入りました.趣味は仕事,車,絵画,カメラ,旅行,寺,プロレス観戦……片っ端から興味をもつ,好奇心旺盛の育ち盛り真っ盛りでございます.「柳田の血液型は何型だと思いますか?」と質問すると即「AB」と,誰もが高い正解率を誇るほどの典型的な変人AB型……だそうです(本人は普通の人間だと思ってますからね.本気で).
著者
赤松 浩彦
出版者
医学書院
雑誌
medicina (ISSN:00257699)
巻号頁・発行日
vol.40, no.6, pp.1006-1007, 2003-06-10

ポイント ・副腎皮質ホルモンの全身投与により生ずる. ・投与2~3週後より発生することが多い. ・顔面および前胸部などに赤色丘疹,膿疱が認められる. ・副腎皮質ホルモンの投与中止により自然に消退する.
著者
佐藤 寛 下津 咲絵 石川 信一
出版者
医学書院
雑誌
精神医学 (ISSN:04881281)
巻号頁・発行日
vol.50, no.5, pp.439-448, 2008-05-15

抄録 本研究では,わが国の一般中学生におけるうつ病の有病率について検討を行った。中学1~2年生328名(平均年齢13.3±0.6歳)を対象に,大うつ病,気分変調症,および小うつ病に関する半構造化面接を実施した。その結果,うつ病の時点有病率は4.9%(男子2.2%,女子8.0%),生涯有病率は8.8%(男子6.2%,女子12.0%)であり,約20人に1人が面接の時点でうつ病の診断基準に該当し,約11人に1人がこれまでにうつ病に罹患した経験があることが示された。自殺念慮はうつ病群の31.3%,非うつ病群の2.6%でみられ,自殺企図の既往歴はうつ病群の18.8%,非うつ病群の1.9%において認められた。
著者
川村 正英 井上 一 花川 志郎 横山 良樹 長島 弘明
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1001-1003, 1990-08-25

抄録:全人工股関節置換術(THR)後抜去のやむなきに至り,Girdlestone関節形成術と同じ状態になった症例について,歩行機能を中心に評価した.1975年以来私たちが扱った.THR抜去症例,8例9関節を対象として,直接検診を行った.原疾患は慢性関節リウマチ(RA)4例5関節,変形性股関節症(OA)2例2関節,大腿骨頭壊死(AN)1例1関節,大腿骨頸部骨折1例1関節である.抜去原因は感染が7例8関節,著明なゆるみと骨折が1例あった.RA以外の4例は杖と補高装具を使用して少なくとも自宅周辺は歩行可能であり,うち3例は就労もしていた.しかしRAの4例は,調査時には全例車椅子生活か寝たきりであった.THR抜去を行った場合,杖が使える上肢機能があって他の関節障害が重篤でない症例では,術後の筋力増強訓練や補助具の使用により実用的な歩行が十分期待できる.
著者
藤井 隆太朗 向井 克容 細野 昇 坂浦 博伸 石井 崇大 岩崎 幹季 菅本 一臣 吉川 秀樹
出版者
医学書院
雑誌
臨床整形外科 (ISSN:05570433)
巻号頁・発行日
vol.40, no.7, pp.763-769, 2005-07-01

In vivoでの3次元腰椎回旋運動解析は,従来の方法では高精度な解析は困難であった.今回,われわれは3D-MR画像を用いた新しい非侵襲的3次元動態解析システムを使って,体幹回旋時の腰椎3次元運動を解析したので報告する.各椎間の平均回旋角度は片側1°~2°であった.腰椎の回旋運動はL1/2~L4/5において回旋と反対方向の側屈,T12/L1とL5/S1において回旋と同方向の側屈を伴っていた.また腰椎の回旋はL1/2~L5/S1で前屈を伴い,T12/L1で後屈を伴った.われわれの解析結果はin vivoでの2方向X線撮影を用いたPearcyらの報告と同じ傾向であったが,in vitroでの新鮮屍体を用いたPanjabiらは下位腰椎(L4/5,L5/S1)では回旋と同側方向への側屈を伴ったとしており,L4/5においてPanjabiらの結果とは異なっていた.
著者
平澤 勉 野際 陽子
出版者
日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.32, no.6, pp.536-546, 2013-12-15

要旨:本研究の目的は,うつ病患者に対する作業療法の気分改善効果や不快な思考低減効果と,入院期間の関係を検討することである.対象者は精神科病院に入院中のうつ病患者105名.入院日数90日以内の回復期群と91日以上の慢性期群に分け,作業療法前後の気分および不快な思考体験とその反応を比較し,満足度との関係を分析した.気分と不快な思考の改善効果は回復期群でより良好であり,対象者の満足度に影響を与えていた.入院うつ病患者に対する作業療法において,ポジティブな気分を促す活動,集中をもたらし不快な思考を低減できるような活動の有効性が示唆された.