著者
田嶋 稔樹
出版者
東京工業大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2007

プロトン性溶媒や基質であるカルボン酸と固体塩基の酸塩基反応に基づく共役酸塩基対を支持塩とする、見掛け上支持塩を必要としない環境調和型新規電解反応システムの開発に成功した。さらに、固体塩基を用いる本電解反応システムを電解フローセルやパラレル電解合成へと応用展開することに成功した。また、一連の研究課程において固体塩基が陽極で酸化を受けないことを見出し、固体に固定化された試薬や触媒は電解反応を受けないという"有機電解合成における活性点分離の概念"を提唱した。
著者
安藤 洋介
出版者
慶應義塾大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

1.新規リチウムイオン応答性変色蛍光色素の設計および合成とセンサーデバイス化昨年度合成を完了した新規リチウムイオン応答性変色蛍光色素を、シランカップリング剤を介してガラス基板に固定化することで、リチウムイオンセンシングデバイスを作製し、評価を行った。このデバイスは、水溶液中において、リチウムイオン濃度変化に応じて2つの蛍光極大波長における強度レシオ応答を示し、レシオメトリック測定によって10^<-4>~10^<-1>mol/Lの濃度範囲で再現性の高いリチウムイオン濃度の定量を達成した。さらに、水溶液のpHや妨害イオン種の影響を受けないこと、連続測定可能な高い耐久性も確認された。また、ヒト血清中の既知リチウムイオン濃度の定量測定結果より、タンパクやその他の血清成分の影響を受けないことが確認され、実用応用可能な性能を有することが示された。これらの成果は、公刊学術論文(Analyst,次頁参照)に発表された。本研究により、医療計測ニーズに合う、実用応用可能な高耐久性・高感度・簡便なリチウムイオンセンサーのモデルが確立された。2.新規pH応答性蛍光量子ドットの創製高輝度・高安定イオン応答性変色蛍光ナノ粒子モデルとして、pH応答性量子ドット(無機ナノ粒子蛍光体)の創製に取り組んだ。このモデルは、直径数nmの量子ドット表面にpH応答性を有する有機蛍光色素を修飾する。実験結果より、シリカ薄層でコーティングされた量子ドット表面に色素が修飾されたことを蛍光スペクトル測定によって確認した。この修飾方法の検討結果と、昨年度行った量子ドットの基板への固定化の成果から、pH応答性量子ドットの作製および基板への固定化による、高耐久性・高感度pHセンシングデバイスの作製に向けた基礎的知見が得られた。
著者
高井 まどか
出版者
東京大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2008-04-01

本研究では、材料表面へのタンパク質の吸着とそれを介した細胞接着を、様々な材料表面を用い、水晶振動子マイクロバランス(QCM-D)法を用いて評価することで、初期接着挙動を解析するデバイス創製を目的とした。QCM-Dを用いることで、タンパク質が材料の吸着し細胞が接着する一連のプロセスを同一パラメータで解析することができた。また細胞接着密度の異なる接着細胞数では、接着している細胞数が多いと、吸着と伸展の挙動は検出されるが、リモデリングは観察されないという差異をQCM-Dで解析することができた。細胞と材料表面の接着挙動を動的に解析するデバイスとしてQCM-Dが適応できることを明らかにした。
著者
縄田 栄治 樋口 浩和 坂本 正弘 中西 麻美 小坂 康之
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

現在、熱帯地域で急速に進行する経済発展とグローバリゼーションにより脅かされている、伝統的な植物資源利用を明らかにし、いくつかの植物資源をとりあげ、近年の分布域の変化、遺伝的多様性を明らかにすることを目的として4年間の研究を実施した。臨地調査により、伝統的な焼畑地では、休閑林の生態系が急速に変化しつつあること、ホームガーデンでは、種の多様性はある程度維持されているものの、利用に関する知識が失われつつあることが明らかになった。また、野生のマンゴーの利用は、東南アジア大陸部全域に広がり、今なお、多様な利用が見られるものの、地域差が大きいことが明らかとなった。
著者
吉井 和佳
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

採用第3年度ではまず、開発した音楽推薦システムを実用化する上での重大な問題点を克服することに取り組んだ。また、音楽の内容として音色だけでなくリズムを考慮できるようにシステムを拡張した。さらに、ドラム音認識技術を音楽ロボット開発に応用することを試みた。これはホンダ・リサーチ・インスティテュート・ジャパンとの共同研究である。(1)ハイブリッド型楽曲推薦システム我々はこれまで、確率モデルを用いて楽曲評価と音響的特徴とを統合し、ユーザの嗜好にあった楽曲を精度良く選択できるシステムを開発した。しかし、データ変化に対する適応性やデータサイズに対するスケーラビリティが欠如していた。そこで、確率モデルをデータ変化に合わせて逐次的に更新可能にするインクリメンタル学習法を提案し、適応性の問題を解決した。さらに、インクリメンタル学習法をクラスタリング手法と統合することで、巨大なデータに対しても確率モデルを効率的に学習できる手法を提案した。この成果は音楽情報処理分野で最難関の会議であるISMIR2007にて発表し、好評を得た。(2)音楽ロボット開発本研究では、音楽を自らの耳で聴きながらリズムに合わせて自律的に足踏みできる二足歩行ロボット(ASIMO)の開発を行った。近年、テレビや博覧会で目にする音楽ロボットは一見音楽に合わせて動作しているように見えるが、実際はロボット自身が音楽を聞いているわけではなく、人間が事前にすべての動作および動作タイミングをプログラミングしている。我々は、頭部ヘッドフォンにより録音された音響信号中のビート時刻を検出・予測し、フィードバック制御に基づいて足踏みをコントロールするロボットを開発した。ビート検出・予測部は我々のドラム音検出術を応用して実装した。この成果はロボティクス分野で最難関の会議であるIROS2007にて発表した。ロボティクス分野ではこれまでハードウェア面での改良が主な興味であったが、ロボットの知的能力開発の重要性を指摘した我々の研究発表は多くの聴衆を集めた。
著者
清水 芳男
出版者
順天堂大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

(1)メチシリン抵抗性黄色ブドウ球菌(MRSA)感染後腎炎の原因候補抗原の組換え蛋白を作製し、培養メサンギウム細胞と反応させたところ、メサンギウムの増殖に関し、正・負の両者のシグナルをToll-likeレセプターを介して伝達することを見出した。(2)Fcα/μレセプター(Fcα/μR)は、IgA・IgMに対する高親和性Fcレセプターである。Fcα/μRトランスフェクタントにより、患者血清中の多量体IgAを捕捉し、ヒンジ部O-結合型糖鎖を標識レクチンで染色し、フローサイトメトリーにて解析する系を開発した。
著者
丸山 雅祥 成生 達彦 黄 リン 松井 建二 鄭 潤徹
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

近年の東アジア諸国(日本、中国、韓国、台湾、ベトナムなど)の流通革命の基本構造に関して理論的・実証的研究を行った。各地域において消費者行動に関する膨大なアンケート調査を実施し、店舗選択の基本要因(消費者の社会経済要因、小売店舗の要因、文化的要因など)に関する実証分析や、消費者側から見た伝統市場(在来市場)とスーパーに対する評価の実証分析を行うと共に、流通関係者(卸売業者、小売業者、流通政策の担当者)への聞き取り調査を実施した。研究成果は多数の国際学会で発表するとともに、国際的な学術専門誌から多数の論文を公刊し、広く成果を発信した。
著者
竹内 修
出版者
(社)北里研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2002

Yersinia enterocolitica(エルシニア)の感染成立と宿主免疫応答には、病原性プラスミドが深く関与する。さらには、プラスミドにコードされ分泌される種々のYersinia Outermembrane Protein(Yop)は、宿主側に病原性をおこす因子であると同時に、Interferon-γ(IFN-γ)等のサイトカインを産生し、I型helper T細胞(Th1細胞)への分化、誘導する因子も担っていることが予想される。本研究は、エルシニアに対する宿主免疫応答と病原性プラスミドの関係についてサイトカイン誘導能、感染抵抗性の観点から研究を行うことを目的とした。本研究によって得られた新たな知見をまとめると、1、病原性プラスミド保有株(P+株)をマウスに生菌免疫(10^3 cfu)を行うと強いTh1が誘導される(死菌免疫では誘導されない)。2、プラスミドを保有していない株(P-株)をP+株と同じ菌数で生菌免疫した場合は、Th1の誘導は弱い。3、P+株もしくはP-株で生菌免疫したマウス脾細胞をin vitroにおいて加熱死菌抗原を用いて刺激し、培養上清中に分泌されるIFN-γの産生量と産生細胞数を測定すると、P+株で免疫した場合に大量の産生量と産生細胞数が見られた。4、3においての主要な免疫担当細胞を検討するため、フローサイトメトリーによる細胞内サイトカインの検出を行ったところ、P+株において誘導されるTh1は抗原特異的なCD4^+T細胞とNKもしくはNKT細胞が産生していることが明らかとなった。しかし、その他にも多数のIFN-γ産生陽性細胞の集団が確認された。最近、樹状細胞やマクロファージなどの抗原提示細胞(APC)が大量のIFN-γを産生するとの知見が得られているため、この陽性細胞集団もAPCの可能性が考えられ、今後明らかにしていく必要があると思われた。
著者
久保村 健二 小幡 正一 飯島 孝
出版者
金沢工業大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

3年間の本研究の目標は、モデルインフレータブル構造体を地上大気中で折り畳み、展開、熱硬化により展開形状を固定し、宇宙でのモデルインフレータブル構造実験を提案する事にある。初年度(平成16年度)は、直径2mモデルを試作し展開硬化実験に必要な装置試作のためのデーターを取得した。2年目はインフレータブルモデルを製造し、展開制御を行った。最終年度は展開制御,展開形状、熱特性を評価し、インフレータブル構造体の大型化と宇宙実験を提案することにあった。研究2年目は、紐状のスプリング組み込み展開抵抗を制御する方法で展開はスムーズに行えたが、折りたたみ形状が予想以上に大きくなった。研究最終年度は、ストラト部は一定内圧力でワイヤーが展開し、さらに内圧力を増加させるとリング部の固定が外れる方式を採用し、ストラト部展開後にリング部が展開する二段方式で、直径2mモデルの展開制御に成功した。折りたたみ形状も予定のサイズであった。、昨年度問題であった展開形状の歪は、接着方法の改良と展開形状の高精度化により解決できた。2mの展開制御モデルに未硬化CFRPを積層し、展開・硬化実験を行い、本方式による宇宙インフレータブル構造体の製造が可能であることを確認した。昨年度設計した循環加熱装置を試作し、装置の熱特性を測定し、2mモデルの硬化実験を行い大型インフレータブル構造の宇宙での熱硬化に必要な循環容量と熱容量を推定した。超大型インフレータブル構造の宇宙での熱硬化には、熱移動に必要な気体熱容量には予想外の大きな熱容量が必要であり、インフレータブル構造のチューブ壁に過大な応力が発生し、重量・体積が大きくなり大型化に制限があることが判明した。中型(直径20〜30m)程度の宇宙インフレータブル構造体の製造は可能であるが、100mクラスの製造は、本方式のみでは困難であるかもしれない。
著者
佐々木 重洋 和田 正平 井関 和代 慶田 勝彦 武内 進一 野元 美佐 和崎 春日
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2005

本研究は、今日のアフリカ諸社会にける青少年に注目し、彼らがそれぞれどのように文化を継承、再創造、あるいは破壊しているのか、その実態を明らかにした。また、それぞれの地域社会において継承されてきた伝統的な成育システムや相互扶助組織、各種の結社等の調査研究を通じて得られた成果をもとに、今後グローバル化の一層の進展が予想されるアフリカにおいて、将来的に青少年の人権を保護し、彼らの生活上の安全を保障するとともに、彼らが文化の担い手としての役割を十全に発揮できるような環境づくりに寄与し得るような指針のいくつかを提供することができた。グローバル経済の急激な浸透に直面する今日のアフリカの青少年にとって、人間の安全保障や人間的発展などが提唱する「能力強化」は、法的権利の行使や政治的発言力の獲得、女性の地位向上と彼女たちによる自らの主体性への覚醒、グローバル経済にアクセスして相応の利益を獲得するうえで確かに重要であり、そのために読み書きや計算などの基礎教育を充実させることには一定の意義がある。ただし、それぞれの地域社会で継承されてきた伝統的な成育システムがもつ今日的意義は決して過小評価されるべきでない。基礎教育の普及は、しばしばこれら伝統的成育システムの否定に結びつきがちであるが、それぞれの地域社会の文脈において、こうした伝統的成育システムがもつ多面的意義を正確に理解し、それらへ基礎教育を巧みに接合させる方途を探求することが有効である。本研究におけるこれらの成果は、人類学やアフリカ地域研究のみならず、コミュニティ・べースの開発論があらためて脚光を浴びている開発・経済学の分野にも一定の貢献をなし得るものと考える。
著者
長藤 かおり
出版者
九州大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

バンド構造の本質的スペクトルを持つ1次元シュレディンガー作用素の固有値非存在範囲を精度保証付きで求める手法を開発し,検証数値例を与えた。本質的スペクトルのギャップにおける離散スペクトル(固有値)の存在・非存在は,半導体理論とも密接に関連する重要な問題である。本研究では,線形常微分方程式の基本解を計算機援用解析により厳密に求める手法をもとに,固有値が存在しない範囲を数学的に厳密に保証する方法を提案した。
著者
櫻井 捷海 三井 隆久
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1995

本研究は、半導体レーザー(LD)をヘリウム温度にまで冷却し、電子緩和時間が非常に長くなった状態での超低電流でのレーザー発振を実現し、発振スペクトル解析、端子電圧の解析、および、発振光自体をプローブ光として半導体レーザー媒体(主としてGaAs、AlGaAs,AlGaInP系)のLD発振現象と低温物性の研究を行うことを目的としている。ヘリウム温度下で量子構造半導体レーザーに磁場を加え、メゾスコピック物理系と光の相互作用系として極低温の磁場下での半導体レーザー発振を見直すことによって、新しい物理が開けることを期待した。極低温でLDのV-I,P-I特性の磁場効果などの多数のパラメータを同時測定できるコンピューター制御の計測システムを製作し、実験した。AlGaInPの量子井戸構造LDで、励起電流を一定して、出力光を内部フォトダイオード(PD)で測定しながら、磁場掃引したところ、多くのLDで出力の増加する共鳴ピークを0.3-0.4T付近に観測した。共鳴の幅は4Kで0.1-0.15Tであり、温度上昇ともに広がり、20K程度で共鳴は消失する。この共鳴の磁場ではサイクロトロン共鳴周波数とモード間ビ-ト周波数とが等しい。結晶の対称性よりモード間ビ-ト電場が接合面に平行となる。また、量子井戸構造のためにサイクロトロン運動は接合面に閉じこめられる。磁場と接合面とのなす角に対する共鳴の依存性がこれらの事実から予想される形を示したので、非線形効果によるモード間ビ-トとサイクロトロン共鳴とが結合したモード同期現象の1つであると結論づけた。しかし、この結論は、本年2月の最終のだめ押しの発振前の低励起のLD実験でこの現象が見つかっり、さらに外部から光励起された弱励起LDとPDでも見つかり、覆された。また、低電駆動のLDの端子電圧Vが磁場に関した部分dV/dBにも共鳴的な振る舞いが観測された。これらの原因は今のところ不明であるが、この新現象の解明の実験を行っている。
著者
西島 章次
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

平成12年度は、研究計画に従い、平成11年度の基礎的・理論的研究成果を踏まえ、政府と制度の市場補完的役割について、とくにラテンアメリカ諸国におけるネオリベラリズム(新経済自由主義)の進展のコンテキストのなかで、いくつかの問題を研究課題とした。まず、市場自由化の過程で生じた通貨危機の問題に対し、銀行システムへのプルーデンス規制などの政府の役割が重要であるとことを、「通貨危機と銀行システムの健全性」においてラテンアメリカとアジア諸国の通貨危機を比較しながら検討した。また、ブラジルでは通貨危機の後、変動相場制へと転換し、変動相場制下でのインフレ政策としてインフレーション・ターゲッティング政策が実施されたが、「ブラジルのインフレーション・ターゲッティング政策」において、中央銀行の政策能力とそれを強化する制度的枠組み、政府の財政政策に関する規律を高める制度の重要性を理論的に明らかとした。さらに、本プロジェクトの総括的研究として、ラテンアメリカにおける経済自由化の成果と問題点、また、経済自由化を一層成功裏に進めるための課題としての政府と制度の役割の重要性、さらには政府と制度能力の改善のための課題などを、「ラテンアメリカ経済-新経済自由主義の帰結と課題」「ラテンアメリカ-ネオリベラリズムの成果と課題」で公表している。いずれにおいても、市場を補完する政府と制度能力の改善のためには、政治的プロセスと経済民主化のプロセスが不可欠であり、また、ネオリベラリズムに基づく経済自由化自体がそのだめのインセンティブを作り出しつつあることを、ラテンアメリカ諸国の事例を用いて検証している。今後の課題として、政府能力と制度構築のための第二世代の政策改革へのインセンティブについて、より厳密な検証を、政治経済学的アプローチを用いて実施することが必要である。この問題は引き続き科学研究費を申請して研究を継続する予定である。
著者
棚澤 一郎 尾股 定夫 白樫 了
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2002

生体組織の凍結保存を成功させるには、凍結時に細胞の内外に生成する氷晶による致命的な損傷(凍害)を抑止する必要がある。そのだめ、凍結過程での冷却速度を最適に制御すると同時に、凍害防御剤の速切な選定によって氷核の生成・成長を抑制することが行われている。凍結保存の一連の過程を通じて、細胞の生存を支配する現象には、(1)浸透圧ストレス(細胞の過膨張・過収縮)、(2)細胞内凍結、(3)細胞外で生成した氷晶による力学的ストレス、(4)生化学毒性、などがある。理想的な凍害防御剤とは、これらすべてを回避できる勢力をもつものと考えられる。本研究の第一の目的は、上記(1)〜(4)を回避しうる凍害防御剤を選定し、さらに電場などを用いた能動的方法によって高濃度の凍害防御剤を速やかに細胞内に取り込み、緩慢冷却速度でのガラス化(非晶質状態での固化)を実現して、上記(2)の凍害を抑止することである。第二の目的はj凍結過程および凍結後の細胞の活性評価法(viability assessment)の確立である。本研究では、超音波を用いた組織・細胞の力学的特性の計測や、蛍光反応を利用した細胎内のアデノシン3燐酸(ATP)の定量などを試みた。これら2テーマに関する本年度の研究成果の概略は以下のとおりである。テーマ1について:上に述べた諸条件を満足する凍害防御剤を選定する目的で、これまで使用してきたグリセロール、ジメチルスルフォキシド(DMSO)に加えて、アルギン酸、トレハロースおよびとれらの混合物について実験を行った。試料細胞としては、取り扱いが容易であることから主としてヒト由来の浮遊細胞を用いた。実験の結果、アルギン酸は低濃度で高粘性であるため、細胞膜の形状を維持する機能があること、トレハロースは細胞外に微細な氷晶をつくり、細池内に取り込まれなくても細胎内凍結を抑制する効果をもつことがわかった。なお、電場印加による高濃度凍害防御剤の細胞内導入についての実験も行い、ある程度満足すべき結果を得たが、印加の最適条件な明らかにするには至っていない。テーマ2について:微小な生体組織の「やわらかさ」を測定することによって、組織の活性を評価する方法の確立を目指して、超音波パルス法による軟組織の力学的測定法を開発した。また、ルシフェリン・ルシフェラーゼ反応による発光強度の測定により、細胎内のATP量を測定して細胞の生存率を求める方法を開発した。
著者
三宅 弘恵
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2003

動力学的な震源モデル(応力ベース)の特徴を生かした運動学的な震源モデル(すべり量ベース)の記述方法として「擬似動的震源モデル」が提案されている.擬似動的震源モデリングとは,震源における動的破壊計算で確認された理論式と経験式をもとに,最終すべり量・静的応力降下量・破壊エネルギー・破壊開始時刻・最大すべり速度・ライズタイム・強震動パルス幅といった断層破壊にかかわる一連のパラメータを,摩擦構成則にしたがう断層破壊の計算を行うことなく導出する方法である.平成16年度はM6.5,M7.0,M7.2の3つの地震規模に対して10ケースづつのシナリオ地震を想定し,擬似動的震源モデルの構築と広帯域強震動予測を行った.動的および擬似動的震源モデリングでは,破壊エネルギーの不均質性に基づいて断層パラメータが構築されるため,破壊開始点がアスペリティ内に位置する場合,大きなすべり速度と短いすべり継続時間を有する領域がアスペリティ端部に見られ,時に大振幅をもった鋭いパルス波が震源ごく近傍で生成される.このような地震波は,従来の運動学的震源モデルから想定される経験式を上回る偏差を示し,動的破壊過程に起因する極大地震動と考えることができる.本年度は,2004年新潟県中越地震や2003年イラン・バム地震などで得られた近年の大地震動成因の解明を目的として,極大地震動に関する研究に着手した.また,地震学的に興味深い現象として,Mw6.5-7.0クラスの断層から生成される地震動レベルは,Mw7.0-7.5クラスの断層から生成される地震動レベルよりも大きい(Somerville,2003)という,地震動パラドックスが挙げられる.本研究では,破壊エネルギーの地震モーメントのスケーリングにみられる地表断層地震と地中断層地震の違いに着目して,動力学的震源モデルに基づくすべり速度時間関数を構築し,地震動パラドックスを解明するための強震動予測手法のプロトタイプを提案した.
著者
恒川 邦夫
出版者
一橋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究ではフィールドワークを基本とし、現地の社会言語学的状況を、人々から直接的に情報収集することで、理論ではなく肌で感じ取ること、および、日本では入手至難な文献・映像・音声資料を収集することに努めた。モーリシャス共和国と仏海外県レユニオン島(2005年)、セーシェル共和国(2006年)、マダガスカル共和国とマルチニック島(2007年、最後の年にフランスのリモージュで開催された仏語圏研究国際評議会(C.I.E.F.)の世界大会に参加し、世界中かの研究者たちと意見交換した。
著者
矢澤 進 細川 宗孝
出版者
京都大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2003

セーシェル諸島で見いだしたトウガラシ(Capsicum chinense)‘Sy-2'は、トウガラシの生育適温である25℃付近に劇的な生育反応の変曲点があることを認めた。すなわち、24℃以下では縮葉を展開し、著しい生育遅延が認められるが、26℃以上では縮葉は全く認められなかった。また、縮葉のみならず花粉稔性、種子発達にも温度反応が認められることを明らかにした。本年度は縮葉反応に焦点を絞り、温度反応の形態学的・分子生物学的な研究を行った。縮葉は葉の表皮細胞や柵状細胞の形態異常が主な原因であることを明らかにし、また、縮葉ではクロロプラストが小さくトルイジンブルーによる染色性が低いことを認めた。また、24℃以下で育成した‘Sy-2'植物体の茎頂分裂組織には形態的な異常は認められなかったことから、分化した葉原基が温度反応をするものと推定された。そこで、‘Sy-2'植物体の茎頂部より抽出した全タンパク質を二次元電気泳動で分離したところ、28℃で育成した植物体にのみ強く発現するスポットを見いだした。このスポットを解析したところ、クロロフィルの形成と強く関係があるタバコのPsaHタンパク質と一致した。さらに、植物体の茎頂部より抽出・精製したRNAを鋳型としたディファレンシャルディスプレイ法を行ったところ、それぞれの温度で栽培した植物体に特異的な数本のバンドを認め、現在解析を進めている。本研究から、PsaHタンパクの発現量の低下が縮葉反応に関与していることが示唆された。今回の研究から、‘Sy-2'の生育適温でのわずかな温度差による劇的な生育変化のメカニズムが分子レベルで明らかになりつつあり、今後、園芸作物の温度管理に向けた新しい知見が得られるものと考える。
著者
菅原 敏
出版者
宮城教育大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

16年度には、前年度に完成した測定装置を用いて水素濃度の広域分布を明らかにするための観測を拡充した。さらに、標準ガスの整備や、極域雪氷中のフィルン空気などの解析を同時に進め、以下の項目が明らかとなった。★高精度分析の結果、これまでに用いてきた一次標準ガスが、長期的に濃度変化する現象が確認された。このため、比較的濃度が安定する体積の大きなシリンダーを用いて製造された作業用標準ガスを基準にして、一次標準ガスの濃度変動を推定しすると同時に、今後新たなシリンダー内面処理を施した標準ガス製造方法が必要であることがわかった。★航空機や船舶を用いた全球的な定期観測を継続し、観測領域を拡充した。その結果、水素濃度の季節変動や緯度方向の南北勾配などが見られた。また、北極や南極などでの空気採集を行っている国立極地研究所、東北大学と協力し、その試料空気を分析した結果、さらに広域的な緯度帯での分布が明らかになった。★南極や北極の極域表層のフィルン層で採取された過去の空気を分析した結果、金属容器内面における長期間にわたるサンプル空気の変質の影響のために、正しい過去の水素濃度の変遷の推定が難しいことが判明した。このため、フィルン空気のサンプリングをガラス容器で実施することや、サンプリングサイトにおいてフィルン空気の吸引中にリアルタイムで測定するなどの改善が必要であることがわかった。
著者
林 良嗣 加藤 博和 〓巻 峰夫 加河 茂美 村野 昭人 田畑 智博
出版者
名古屋大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

社会基盤整備プロジェクトのLCAにはSocial/Dynamic LCA概念の具体化が必要であることを示し、各社会システムに対してLCAを実施したところ、以下に示す成果を得た。1.交通・流通システム:1)道路改良事業の事業計画段階において、環境負荷削減効果を自動車走行への波及効果を含めて定量的・包括的に評価するための方法論を構築し、自動車走行状況に応じた削減効果の発現条件を明らかにした。2)航空路線を削減し新幹線輸送に転換させることの有効性について、LCAを導入して検証を行う方法を提案し、新幹線整備をCO_2排出量の観点から評価した。3)容器入り清涼飲料水の流通段階の環境負荷排出の内訳をLCAにより詳細に分析し、流通・販売形態によってLC-CO_2が大きく異なることを明らかにした。2. 廃棄物処理・上下水道システム:1)ごみ処理事業を対象とし、中長期視点から処理施設の維持・更新とごみ処理に係るLCC、LC-CO_2を算出することで、将来からみた現在のごみ処理施策の実施効果を評価するモデルを開発した。地方都市でのケーススタディでは、現在のごみ処理施策実施に伴うLCC、LC-CO_2を積算し、これらを削減するための処理政策を提案・評価した。2)生活排水処理システムについて、計画段階でLCAを適用のするために必要な原単位を整理・分析し、実際の計画へ適用したところ、排水処理技術の進展についても考慮が必要なことが明らかになった。3. 都市システム:1)地域施策や活動にLCAを適用する際の課題を整理し、地域性の表現、地域間相互依存の考慮といったLCAの手法面で検討が必要な項目を明らかにした。2)郊外型商業開発のLCAを用いた分析の枠組みを整理し、時系列的な変化を考慮することの必要性や統計データの精度に改善の余地があることを示した。なお、日本LCA学会誌Vol.5 No.1(2009年1月発行)において、研究分担者・加藤博和が幹事を務めた特集:「社会システムのLCA:Social/Dynamic LCAの確立を目指して」は、本研究の成果公表の一環として位置づけられている。
著者
齋藤 義夫 田中 智久 朱 疆
出版者
東京工業大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

複雑な三次元自由曲面形状の利用が増え、早い段階で設計情報と実際に加工された形状の確認が必要になっている。ところが、三次元の自由曲面形状はデータ量が多く、測定に時間がかかり、 実際の形状と目標形状の相違を把握することも難しいことから、加工と計測の融合が必要不可欠となってくる。そこで、CG分野で利用されている画像簡略化手法を適用し、加工と計測を結合 した発泡スチロール用加工システムの構築を試み、形状創成に関する新たな知見を得ることがで きた。