著者
茨田 通俊 吉元 信行 田辺 和子
出版者
(財)東方研究会
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

タイ所伝Pannasajataka(五十本生話)中の物語のうち、第1話〜第39話は序列が明確であり、これらを中心に研究を進めて来た。このうち大谷大学図書館所蔵貝葉写本に含まれる25話の物語については、既にローマ字転写が終わっており、本研究では大谷貝葉には含まれない第1話〜第11話、第19話〜第21話について分担を決め、各自でローマ字転写、校訂、翻訳の作業を進めた。対照すべき資料として、研究分担者の田辺和子が将来したタイ国立図書館所蔵A、B、C、Dの貝葉写本、バンコクのWat Pho寺院所蔵の貝葉写本等を利用した。その結果補助金交付期間内に、約10話のローマ字転写を終えることができた。翻訳については新たに4話の訳出が完了し、第2話Sudhanakumarajatakaの校訂が田辺によってなされた。また大谷大学等において年度ごとに3〜4回の研究会を開き、研究者間で意見・情報の交換を行った。その中で、タイ所伝Pannasajatakaのローマ字転写、校訂本作成に当たってのガイドラインをまとめ、将来の出版に向けての布石を打った。補助金交付期間内に、国内外で調査を頻繁に実施した。海外へはタイを中心に赴き、現地の研究者から有益な情報を得ると共に、貴重資料の閲覧に成功した。国内では、大正大学図書館、金沢大学付属図書館の暁烏文庫において貝葉写本の調査を行い、横浜のアジア造形文化研究所を訪問した。思想研究としては、ビルマ版Zimme Pannasaや北タイ版Pannasajatakaとの比較によって、伝承した地域による内容の相違を検討することで、Pannasajatakaの起源に迫ることができた。また異なる物語間の関係の把握が、今後の課題として認識された。研究成果については、日本印度学仏教学会、パーリ学仏教文化学会等で、各自が口頭発表を行い、内外の学術雑誌、論文集に関係論文を掲載した。今後は、Pannasajatakaのうち第39話までの物語のローマ字転写を早急に完成させ、校訂と和訳を進める必要がある。さらに未着手の第40話以降のついても作業を始める予定である。
著者
深澤 裕
出版者
独立行政法人日本原子力研究開発機構
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

氷およびクラスレートハイドレートの水素原子の配置を中性子回折および散乱の実験で研究した。水素が秩序化する温度と圧力の条件を新たに明らかにした。また、結晶内部の拡散と秩序化の機構を原理的に解明した。これらの結果に基づき、宇宙に強誘電体の氷が広く存在するとの仮説を発表し、その実証に向けた実験と観測計画を提案した。
著者
神岡 理恵子
出版者
早稲田大学
雑誌
若手研究(スタートアップ)
巻号頁・発行日
2007

二年間の研究期間を通じ、ヴェネディクト・エロフェーエフという作家の創作初期から中期に該当する部分の資料収集と研究をとりわけ重点的に行なった。その成果の一部は二本の研究論文で発表済みである。またロシア国立図書館および作家の故郷にあるエロフェーエフ博物館での資料収集・閲覧と、関係者への聞き取り調査を実施し、今後の研究継続にも有効となるロシアの研究者たちとの研究協力体制を構築した点も大きな成果であった。
著者
今岡 克也
出版者
豊田工業高等専門学校
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

本研究は,1997年3月16日愛知県東部地震(M:5.8)の際に調査したアンケート震度の中から,高層建物内に居た人の震度に着目して,建物-地盤系の微動測定に基づいて,地震時の建物の揺れ易さを評価するものである。初めに,1999年8月21日和歌山県中部地震(M:5.5)と2000年7月15日新島地震(M:5.9)で,地震波形が観測できた三重県と静岡県内の地震計設置地点で微動測定を実施し,地震波形の卓越周期や継続時間と微動特性との関係を明確にした。次に,アンケート震度か得られた高層建物の中から震度が大きかった16棟を選び出して,建物-地盤系の微動測定を行い,(1)地盤の卓越周期,(2)建物の固有周期,(3)建物最上階の増幅倍率などを算定した。さらに,微動の測定結果を利用して,愛知県東部地震で得られた既存の地震波形から建物直下の波形を推定し,地震時の建物応答を算定し,アンケート震度と比較した。以下に,本研究で得られた研究実績をまとめる。1.愛知・三重・静岡県内の約220地点で,微動の卓越周期とM5.5〜5.9の地震波形の卓越周期を比較した結果,微動の卓越時のH/V倍率が5倍以上の場合には,8割以上の地点が地震波形の卓越周期とほぼ一致することが判明した。さらに,両者の卓越周期がほぼ一致する場合では,微動の水平動とH/Vスペクトルの卓越周期もほぼ一致することが分かった。2.建物-地盤系の微動測定によって,建物の固有周期が地盤の卓越周期と近接している高層建物は,地震時に同じ周期で長く大きく揺れる共振現象が起きることが判明し,それによって建物内のアンケート震度が大きくなることが推定できた。
著者
羽金 重喜
出版者
北里大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1994

1、当科にて保有するいくつかの培養細胞株に対して、培養上清液におけるIL-8の濃度をricommbinat IL-8を用いたRIAにて測定した。結果は以下の通りであった。KTL-1:8400pg/ml TL5:700pg/ml TL2:400pg/mlSCC:2500pg/ml ECCA:3600pg/mlM-1/W:420pg/ml ISO-HAS:1700pg/mlMO-LAS:7300pg/ml(MEM他 培養液+10% FCS<100pg/ml)2、IL-8が各種皮膚腫瘍由来の培養細胞株の増殖にどのような影響を与えるかin vitroの組織培養の系で検討したが一定の検査結果は得られなかった。これは、IL-8の短い活性時間と本来の挿入増殖曲線(cell douling timeなど)との兼ね合いによると思われるが、今後、さらに検討する必要がある。3、また、今回、IL-8の生物活性を抑制するIL-8抗体の入手が困難であったため、IL-8抗体が、各培養細胞株の増殖にどのような影響をあたえるかについては、検討できなかった。4、また、K-TL-1細胞株のモルモットでのin vivo培養における病理組織所見において好酸球が多数浸潤していることによりK-TL-1細胞株でのIL-8を介する白血球の遊送作用は十分考えられたものの技術的な問題もあり、これをBoden chamber法により、in vitroでの好中球遊送能の確認は、残念ながら成功しなかった。5、K-TL-1細胞株においてはIL-8産生量は、IL-1,TNF,IFN-γにより亢進することがほぼ判明した。IL-6ではまだ、一定の実験結果が得られていない。また、各サイトカインを添加してからどの位の時間で産生量がピークに達するのか、これは今後の課題といえる。6、IL-8の産生をm-RNAレベルで検討するためのDNA Probeを用いたinsituhybridizatin法による検索は、今回、研究期間の関係もあり、今回はできなかった。これは今後、是非とも施行したいと考える。
著者
中沖 靖子 佐野 英彦 野田 守
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

カリエス治療に汎用されるレジン系充填材料は、健全歯質の保存という観点からその長期耐久性も重要と考えられる。申請者らは、この長期耐久性を阻害する接着界面のバイオデグラデーションの本態を解明するため、抗酸化剤の機能を有するプラチナナノコロイドを用い、劣化をとどめる方策を考えた。それに際し、接着界面の分子レベルでの超微細構造の情報を得るため、非常に高分解能であるが生体、特に軟組織観察に不向きとされてきた超高圧電子顕微鏡を、生体観察に応用する手技を確立した。
著者
脇谷 尚樹 鈴木 久男 篠崎 和夫 篠崎 和夫
出版者
静岡大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

強誘電体(BaTiO_3)と強磁性体(CoFe_2O_4またはNiFe_2O_4)を複合化させたエピタキシャル成長薄膜を作製し、強誘電性と強磁性の相互作用について検討を行った。複合薄膜の強誘電特性に及ぼす外部磁場の印加効果を調べたところ、磁場印加によって強誘電性が変調されることを見いだした。SrRuO_3/(La,Sr)MnO_3/CeO_2/YSZ/Si基板上に作製したBaTiO_3-NiFe_2O_4エピタキシャル成長複合薄膜の断面TEM観察結果より、作製した薄膜はともにナノ粒子状のBaTiO_3 とNiFe_2O_4がエピタキシャル成長関係を保ちながら分相している、0-0型の複合構造をしていることが明らかになった。
著者
脇谷 尚樹 鈴木 久男 坂元 尚紀 篠崎 和夫 符 徳勝
出版者
静岡大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

成膜時に磁場印加が可能なPLD装置(ダイナミックオーロラPLD)を用いてNb-SrTiO3(001)単結晶上にエピタキシャル成長させたSr過剰組成のSrTiO3薄膜には基板の垂直方向に向かって自発的に超格子構造が生成する。この現象が生じるメカニズムとしてはスピノーダル分解であることが明らかになった。また、この薄膜では強誘電性が発現するが、その原因はスピノーダル分解によって生じた、組成の異なる層の界面におけるひずみのためであると考えられた。
著者
土谷 富士夫 松田 豊 辻 修
出版者
帯広畜産大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1994

寒冷・少雪の気象条件にある十勝地域では融雪期において、凍結した土壌が完全に融解するまでの期間、凍結層が土中に残存し不透水層となり、融雪水や降雨によって土壌浸食の発生が多く、問題となっている。本研究では、寒冷、少雪である十勝地域における農地造成地、草地造成地を主な対象として現地調査、人口降雨装置による土壌侵食実験、傾斜枠試験、降雨係数の算出解析等を通して、農用地造成圃場における侵食実態、凍結土壌の浸食メカニズム、侵食予測等について検討したものである。本研究で得られた主な知見をまとめると以下のようになる。融雪期間における造成農地の土壌侵食は、圃場面よりもそれに付帯する法面において侵食被害が多く発生していることが明らかとなった。また法面方向による土壌侵食の危険性は、北向き法面が南向き法面と比較して融解時期、法面土層中に凍結層の残存する期間が長く、かつ積雪も日陰のため多く残存し、その危険性の高いことが明らかとなった。人工降雨装置を使用した凍結融解繰り返し斜面の土壌浸食実験の結果より、凍結融解繰り返し斜面では、どの勾配においても凍結融解の繰り返し回数が増加するとともに流亡土量の増加が見られ、勾配が急になるほどこの傾向が強くなることが明らかとなった。傾斜侵食観測枠を設置し土壌侵食実験を行った結果、積雪期間における降雨係数の換算係数を求めると、北斜面で7.0、南斜面で10.2となった。これより十勝勝地域のような寒冷少雪であり、土壌凍結の深い地域の融雪期における土壌侵食の危険性が非常に高いことが明らかとなった。
著者
石井 吉之 小林 大二
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

(1)北海道北部の多雪山地流域では、精度の良い水文・気象観測が十数年間にわたり継続されている。これらのデータを用いて各年の流域水収支を計算し、流域貯留量の年々変動を調べた。また、気温を変数とした積雪・融雪ルーチンとタンクモデルを用いた流出・貯留ルーチンからなる流域水収支モデルを構築し、積雪貯留量の変動が流減水収支に及ぼす効果を検討した。近年、日本各地に暖冬少雪傾向があると言われるが、この地域ではそのような傾向が見られるのか、また、その場合には流減水循環にどのような影響が現れるのかを、このモデルを用いて考察した。モデル計算の結果、積雪貯留量の大きな年々変動は単に冬期降水量ばかりに依存するのではなく、積雪期や融雪期の気温にも大きく依存することが示された。また、積雪貯留量の大小が夏期渇水期の河川流出高に及ぼす影響は小さいことが明らかになった。(2)上と同じ流域において、全融雪期間にわたって流域内における水及び化学物質の収支を明らかにし、その上で地中での流出過程を考察した。融雪水・混ざり水・地下水から成る3成分モデルによってハイドログラフ分離を行なった結果、地下水の流出寄与分は全融雪期間にわたって約40%とほぼ一定に保たれ、このために、融雪期における流域内での化学物質収支は流出過多になることが明らかにされた。(3)隣接する2つの森林小流域において融雪期の流出特性を比較した。2つの流域は面積・形状・地質・植生・土壌特性がよく類似しているにもかかわらず、土壌層に顕著な違いがあるために流出特性にもその影響が明瞭に現れた。また、土壌層が特に厚い内部小流域が流出の非ソースエリアとなるため、見かけ上は同じ流域面積でも実質的には異なることが明らかにされた。
著者
西村 浩一 阿部 修 和泉 薫 納口 恭明 伊藤 陽一
出版者
名古屋大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

本研究は、「地震と豪雪」の複合災害の中で、「冬に地震が発生」した際の雪崩災害危険度の評価手法を開発し、被害軽減に資することを目的とした。今年度は、主に地震時の積雪の破壊強度とその挙動を調べる目的で、防災科学研究所の雪氷防災実験棟において小型振動台を用いた積雪の破壊実験を実施した。実験にはロシアのAPATIT雪崩研究所殻からChernouss博士も参加し、共同で実施された。加速度計を埋め込んだ積雪ブロックを凍着させ、一定振幅のもとで2次元の振動数を増加し、積雪がせん断破壊した時点の加速度、上載荷重、断面積から、「新雪」、「しまり雪」、「しもざらめ雪」の「高歪速度領域の積雪破壊特性」とその密度依存性が求められた。また2次元振動に伴う、法線応力の効果についても議論を行った。さらにこの破壊特性を積雪変質モデル(Snowpack)に組み込んで、対象領域の地震発生時の雪崩発生危険度予測図を作成した。一方、こうした一連の取組みに対して、トルコの公共事業省災害監理局から共同研究と技術支援の依頼があり、研究協力者2名とともに現地視察を行ったほか、地震による雪崩発生の現況および危険度評価と災害防止手法開発に関する意見交換を実施した。現在、今後の共同研究策定に向けて調整を実施中である。
著者
泉 典洋 渦岡 良介 風間 聡
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

表面流によって侵食と堆積を受ける平坦な斜面上に,規則的な間隔で発生する水路群(ガリ群)の形成理論を提案するとともに,理論を任意形状の斜面に拡張し,形状に関わらず水深の1000倍程度の間隔で水路群が形成されることを示した.また水路分岐の物理モデルを提案し,周囲から集まる流量が減少すると,水路頭部は擾乱に対して不安定となり分岐することを明らかにした.この結果は宗谷丘陵における現地観測によって裏付けられ,水路形成には地下水や斜面崩落も重要であることが判った.浸透流によって斜面下流端に発生する水路群の形成過程を明らかにするために模型実験を行い,水路間隔を決定する要因は流量および斜面勾配,浸透層厚であり,それらが大きくなると水路間隔も大きくなることを明らかにした.地震で発生した斜面崩壊について現地調査および室内土質試験を実施し,地すべり発生時の地盤状況,崩壊土の物理的・力学的特性が明らかとなった.また,流体解析を用いて崩壊土砂の移動量を再現した.斜面のような不飽和地盤における3相系(土骨格・間隙水・間隙空気)の動的・大変形挙動を解析的に明らかにするために,多孔質・有限変形理論に基づいた有限要素解析手法を提案し,不飽和地盤の自重・圧密・浸透・動的解析を行い,不飽和地盤である斜面の外力による崩壊過程を明らかにした.Dev確率分布を用いて求めた極値降雨再現期間の空間分布から東北地方を例に斜面災害発生確率の空間分布を求めた.さらに土砂災害実績を利用して融雪に起因する土砂災害発生確率モデルおよびリスクモデルを構築するとともに結果を分布図として示し,実績と良好に整合することを示した.また多雪年および小雪年,温暖化の場合について,時系列的な融雪変化による土砂災害のリスク変化を示した.さらに,土砂崩壊発生確率モデルと経済損失額モデルを用いて,土砂災害リスクの地域分布を明らかにした.
著者
眞境名 達哉
出版者
室蘭工業大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

平成18年度も主に住宅地における除雪行為とコミュニティ形成との関連に着目し研究を行っている。具体的には札幌市と室蘭市において、除雪車による除雪の実態を道路の等級などの視点において把握を行った。また室蘭市母恋地区においては、狭隘街路における除雪の実態、特に私有地が連担し利用が図られている路地での除雪の実態について観察を行った。そこでは、必ずしもコミュニティ形成の要因は把握できないまでも、除雪行為がなんらか社会心理学的に近所間の心理的な紐帯に寄与している可能性が得られた。また集合住宅など住居集合の型による除雪の違いについても、室蘭市を対象に観察調査を行った(集合住宅4つ、住宅地2カ所)。ここでは集合住宅と戸建て住宅地での除雪方法の違いを調査している。集合住宅地における、ルールと規範については公共系の集合住宅と民間系集合住宅では若干異なることも類推された。これらと平行して、居住地の基本構成要素である寒冷地住宅の文献調査も行った。ここでは東北以北の住宅に焦点を絞り、伝統的な寒冷地住宅のあり方をイヌイットなどの北方狩猟系住宅なども視野に入れ横断的にまとめた。また北海道における高断熱高気密住宅の最新技術あるいは関連法規などまとめを行った。以上の考察結果は現時点ではまとまっていない。今後は室蘭市における集合住宅を対象に補足的な調査を行い、寒冷地における高密居住のあり方について提言的なまとめを行っていく。
著者
小南 靖弘 横山 宏太郎
出版者
独立行政法人農業技術研究機構
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

1.種々の雪質の積雪について音速および音響減衰係数の測定をおこない、雪の物性と音響特性との関係を検討した。用いた音は200Hzから1/3オクターブ刻みで8000Hzまでの正弦波である。その結果、以下のことがあきらかとなった。(1)間隙空気中を伝播する音の音速は伝播経路の屈曲度を反映している。これは積雪中のガス拡散係数における拡散経路の屈曲度と同様であるが、音の伝播は屈曲した間隙中の最短距離を通るのに対し、ガス拡散の場合は屈曲した間隙の平均的な距離を反映していることがわかった。(2)間隙空気中を伝播する音の減衰係数は粒径×気相率で求める間隙サイズ指標の二乗に反比例し、圧力変動によって生じる間隙内のマスフローの減衰と同様の現象であることが確認された。また、結合した雪粒子を伝播する音の減衰係数は積雪密度に反比例し、質量効果による遮音のメカニズムによるものと推測された。以上の結果より、音速および音響減衰係数の測定より、積雪のガス環境を決定するパラメタであるガス拡散係数や圧力変動に伴うマスフローの減衰度合いなどを推定できることがわかった。2.自然状態の積雪中の底部、内部および表面の二酸化炭素濃度の連続測定をおこない、表層近くの積雪の見かけ上のガス拡散係数が風によって増加する現象を確認した。さらに、その程度は風速の二乗と積雪表層の間隙サイズとに比例することをあきらかにした。
著者
西村 喜文 森谷 寛之 今村 友木子
出版者
西九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、健常な乳幼児から高齢者を対象に、コラージュ技法を用いて発達的集計調査を行った。具体的方法としては、2189名のコラージュ結果を収集し、形式分析(全体的表現特徴、切り方、貼り方などの表現特徴)、内容分析(表現された具体的内容)、印象評定分析(表現された作品の印象)を行い、乳幼児から高齢者までのコラージュ表現の発達的特徴を明らかにした。また、コラージュ技法のアセスメントとしての有効性について考察した。
著者
滿田 郁夫 竹内 栄美子 大塚 博 丸山 珪一 林 淑美 木村 幸雄 杉野 要吉 古江 研也 島村 輝
出版者
明治学院大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1997

中野重治は、その文学的出発にあたって「微小なるものへの関心」ということを言った文学者である。と同時に、石川啄木について論じて国家権力に敵対することを己に課した詩人である。以来、自分固有の世界、固有の視点を保ちながら、同時に「大きな物語」への鋭い関心を持ち続けた作家である。その人がその晩年に「戦後転換期」に際会して、世の変動に己の感性を全開して書き切ったのが長篇『甲乙丙丁』であるが、そこに至るまでに何を見、その心に何が生じ、同時代の政治・思想・文学とどう斬り結んだか、それを、残された日記・書簡などによって知ろうとした。平成九、十年度で日記の第一次読み合せと、粗ら打ち込みは終了し、十一年度は第二次読み合せと註付けに入った、しかし平成十二年度にはそれを一旦中断して、一九六三年日記と六四年日記との精密な読みと註付けの作業に入った、研究年度が終った平成十三年度にもその作業は続き、しかもなお、我々がここに提出するのは未完成の「テスト版」に過ぎない。一九六三、四年と言えば東京オリムピックを目掛けて、日本の社会が音を立てて変わって行った年々である。世界的には中ソ論争が起き、部分核停条約の評価を回って国内でも議論が始まり、新日本文学会第十一回大会は大いに揺れた。原水禁世界大会も分裂した。そうした事態に、全力を挙げて非妥協的に戦いつづけた中野重治は、自らが中央委員であった日本共産党を除名される。そしてその年末から『甲乙丙丁』が書き始められる。そうした重要な時期を扱って、我々の研究がどれだけ核心に迫りえたか。忸怩たるものがある。これは我々の到達点ではなく、出発点である、そんな風に思っている。
著者
澁谷 誠二 若山 吉弘
出版者
昭和大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

平成16年度・17年度進行状況と本年度(平成18年度)成果平成16年度はMDXマウスへのゲンタマイシン薬物治療単独で、平成17年度はMDXマウスへの正常マウス臍帯血移植とG-CSF投与正常末梢血輸血を施行した。これらでは、治療群MDXマウスにおいて、一般筋病理組織像の変化はみられず、また、免疫染色標本による骨格筋ジストロフィン発現の解析においても、対照マウスと比較して明らかな変化はみいだせなかった。平成18年度は、ゲンタマイシン薬物治療と正常マウス臍帯血移植の併用療法を中心に、特に、マウス骨格筋のジストロフィン陽性線維の割合を治療群マウスと未治療群マウスにおいて統計的に比較検討した。生後1ヶ月および2ヶ月のmdxマウス各々6匹ずつにゲンタマイシンを投与し、投与終了4週後に免疫抑制剤(サンデユミン)で前処理した後、正常マウス臍帯血を尾静脈に静注し、静注後4週後の筋組織を解析した。その結果、治療群のmdxマウスでは未治療群のmdxマウスと比較して、その一般筋病理組織像に変化はみられなかった。一方、ジストロフィン免疫染色による解析において、未治療群のマウスでは1%以下のrevertant線維(ジストロフィン発現が明瞭な線維)が認められ、治療群のmdxマウスでの発現増加を期待したが未治療群のmdxマウスと違いは見られなかった(p>0.1、T検定)。ジストロフィン発現が明瞭な線維以外の筋線維のジストロフィン発現状態も観察したが、平成16年度と平成17年度の結果とどうように、ジストロフィンがごくわずかに発現していると思われる筋線維は治療群のmdxマウスで多いように思われたが、明らかな違いはみられなかった。
著者
脇谷 直子
出版者
広島修道大学
雑誌
若手研究(スタートアップ)
巻号頁・発行日
2006

本研究は、電子自治体構築のためのSOAを検討し、個別に開発が必要となる情報システムを限定させ、個々の自治体が情報システムの開発に投入すべき投資を限定できるような提案を行うことが目的であった。本年度は、海外における電子自治体の現状について、各地で取り上げられている課題や、その解決策の考え方と実際の取り組みを、現地調査を含む調査を実施することによって、明らかにすることに重点を置いた。主として、欧州の一例としての英国での電子自治体に関する会議における議論、米国での電子自治体に関する会議における議論および具体的事例報告の調査を行った。調査の結果、明らかとなったことは次のとおりである。米国においては、地方政府が調達に関する基本ポリシーを定めており、SOAのアーキテクチャが調達仕様として定められている例がある。英国で開催された会議では、電子自治体にとって住民の満足度を上げるサービスが重要である点が共通の認識であった。これらの調査結果から、次の点が成果として挙げられる。電子自治体がどのようなサービスをどのくらいの品質で提供すべきであるのか、利用者の視点にたって検討し、目標を設定すべきである。それに基づいて、アーキテクチャを含む実現方法を検討し、標準技術等に対する考え方が明確となるような仕様を、基本ポリシーの一部として公差すべきである。またそのポリシーを、基本調達仕様とすることが重要である。この調査結果および成果は、平成20年度内に論文執筆する予定である。今後の研究課題として、本成果を踏まえ、日本における電子自治体の実現に関する技術や標準への対応を検討し、より現実的で具体的な提案を行うことが重要となる。
著者
明和 政子
出版者
滋賀県立大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2004

ヒトは、生後1年半から2年ごろに、鏡に映る自分の姿を「自分である」と認識するようになる。この結果は、ヒトが、自己を他者と区別して認識する能力が獲得された有力な証拠として位置づけられている。しかし、通常の鏡映像を理解できるはずの3歳児でも、2秒の遅延をはさんだ自己映像を見せると、それを自分であると認識することは困難となる(宮崎,2003)。つまり、自己映像を理解には、時間的随伴性という要因が大きく影響すると考えられる。鏡映像を理解できるのは、ヒトだけではない。チンパンジーをはじめとするヒト以外の大型類人猿も鏡に映った自分の像を、「自分である」と認識することができる。しかし、その他の霊長類については、そうした証拠は得られていない。本研究では、チンパンジー(Pan troglodytes)、フサオマキザル(Cebus apella)、ヒト乳児(Homo sapiens)を対象として、自己像を理解する能力の進化史的・発達的起源を探ること、その際、この能力の獲得を時間要因との関連において調べることを目的とした。実験条件として、(1)0.5、(2)1.0、(3)2.0秒遅延させた自己映像を、それぞれの個体に2分間、呈示した。各条件での像呈示の前後には、ベースラインとして通常の像をそれぞれ2分間呈示した。その結果、1)チンパンジーの成体は、身体の動きと自己映像が時間的に随伴しない状況でも、経験を積めば自己像であると認知する、2)フサオマキザルの成体は、モニターから遠ざかる、威嚇など激しい攻撃を加える、身体を頻繁にかきむしるなど、通常の鏡映像の場合よりも強い社会的反応を示す、3)ヒト乳児も通常の鏡映像と遅延する自己像を区別できており、遅延する自己像に微笑む、声をあげるなどより強い興味を示すこと、が明らかとなった。以上より、自己と他者の弁別能力の発達と進化においては、自己受容感覚-視覚間の時間的な同期性(随伴性)の認知が重要な要因であることが示唆された。
著者
帆足 養右 平林 祐子 船橋 晴俊 寺田 良一 池田 寛二 高田 昭彦 鳥越 皓之 海野 道郎 関 礼子 藤川 賢
出版者
富士常葉大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

本プロジェクトでは、1)環境問題史および環境問題の社会調査史の整理、2)アジア・太平洋地域諸国における環境問題の歴史的展開と環境社会学的調査および研究動向の把握、3)わが国における環境社会学の形成・発展の過程の総合的検討、の3つの作業を行い、下記の成果をまとめた。(1)故飯島伸子・富士常葉大学教授が遺された、公害・環境問題の社会調査資料約6,000点の整理分類とデータベース作成作業を行い、それらを収めたCD(Ver.2)と文庫の概要を示すパンフレットを作成した。「飯島伸子文庫」は、環境社会学と社会調査についてのアーカイブとして完成し、一般に利用可能となった。(2)研究分担者らがそれぞれのテーマで、環境社会学の理論的、実証的研究を行い、26本の論文からなる報告書(全423頁)にまとめた。論文のテーマは、飯島伸子文庫と環境年表、日本の公害・労災問題、環境問題と環境運動、環境社会学理論と環境教育、地球とアジア・太平洋地位の環境、の5つに大別される。(3)飯島教授の代表的著作『公害・労災・職業病年表』(公害対策技術同友会,1977年)の索引付新版を出版し(すいれん社より2007年6月刊行)、さらにその「続編」に相当する(仮称)『環境総合年表(1976-2005)』のための準備資料として、『環境総合年表(1976-2005)準備資料1・統合年表』(全317頁)と、『環境総合年表(1976-2005)準備資料2・トピック別年表』(全166頁)を、本プロジェクトのメンバーらで分担・協力して作成した。これらは、主要な公害/環境問題について、分担者らがトピック別に重要事項を挙げた年表を作成する方式で編集され、全部で65のトピックを扱っている。今後更なるデータの吟味・追加が必要ではあるが、飯島教授の仕事を引き継ぎながら、環境問題および環境社会学と調査史について総合的に辿ることのできる資料となっている。