著者
平尾 良光
出版者
一般社団法人日本地球化学会
雑誌
日本地球化学会年会要旨集
巻号頁・発行日
vol.59, 2012

1533年に灰吹き法という鉛を用いる銀製錬法が導入され、また1543年に火縄銃という武器がもたらされた。この2つの事実に共通する材料は鉛である。そこで、戦国時代に利用された鉛の産地を明らかにするために、発掘資料の中から、一般資料(分銅、キセル、簪など)やキリスト教用品、各地の戦跡から鉛玉などを得て、鉛同位体比を測定した。その結果、少なくともその40%は中国や東南アジア産などの外国産鉛であった。タイにおける現地調査で東南アジア産の鉛はタイ国カンチャナブリ県のソントー鉱山産(バンコクから北西約250km)であることが判明した。佐渡金銀鉱山や石見銀鉱山で利用された鉛は日本産材料であり、利用されたそれぞれの鉛鉱山が判ってきた。鉄砲玉と銀製錬に利用された鉛の産地が系統的に異なっていることは日本史の中で何を示唆しているのであろうか。
著者
越野 剛
出版者
日本スラヴ・東欧学会
雑誌
Japanese Slavic and East European studies (ISSN:03891186)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.43-56, 2001-03-31

ドストエフスキーの作品における人間の心理描写は、フロイト流の精神分析の視点からアプローチされることが多い。しかし作家と同時代の精神医学が創作に与えた影響の方が歴史的には重要である。F.A.メスメルを創始者とする動物磁気説(後の催眠術)は、19世紀にすでに人間の無意識の現象を発見しており、ロマン派の文学や自然哲学に大きな影響を与えた。ドストエフスキーはK.G.カールスの無意識論やホフマン、バルザック、グレチ、V.オドーエフスキー等の文学作品を通じてメスメルの説を知っていた。当時の文学作品に特徴的な催眠術のモチーフは、催眠状態における幻覚や無意識の行為、そして視線の持つ磁気的な力のふたつであった。その点でドストエフスキーの初期作品のひとつ、『主婦』は分析の対象として最もふさわしい。『主婦』のプロットの中心は、3人の主要登場人物、オルドゥイノフ、カテリーナ、ムーリンの間の視線による心理的闘争である。中でもムーリンは邪悪な眼差しの描写で際立っている。ムーリンが催眠術師の役割を担っているとするなら、無意識のままに行為し幻覚を見るオルドゥイノフは催眠をかけられやすいタイプといえる。ただし3 人の力関係は一方的なものではなく、しばしば逆転し、互いに催眠術をかけ合っていると見なすことができる。同じような構図は『白痴』のムイシュキン、ナスターシャ、ロゴージンの関係にも当てはまる。19世紀の中頃、催眠術はオカルト的な傾向を批判され、医学者からは敬遠された。ドストエフスキーは『主婦』や『白痴』の中で、そのモチーフは明かであるにもかかわらず、催眠術の用語を直接には使用していない。一方で『分身』や『虐げられた人々』ではそうした言葉が必ずコミカルな状況で用いられ、テキストにロマン主義文学のパロディーという性格を与えている。ドストエフスキーは催眠術(動物磁気説)のテーマを慎重に扱いつつも、実証主義的・唯物論的な同時代の医学では見逃されるような人間の深層心理を描写する手段として重視していたのである。
著者
榮 昭博 関崎 悦子
出版者
桐生短期大学
雑誌
桐生短期大学紀要 (ISSN:13424076)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.13-17, 2005-12-06

茶の抗肥満効果を検討するため,鶏膵臓から租酵素を調製し,これを用いてリパーゼ活性に及ぼす茶の影響を調べた.その結果,次のことがわかった.1.緑茶,ジャスミン茶は顕著にリパーゼ活性を阻害した(p<0.001).2.ウーロン茶はリパーゼ活性を阻害した(p<0.01).3.プアール茶はリパーゼ活性を高めた(186%).4.緑茶よるリパーゼ活性低下には濃度依存性が認められた.5.緑茶よるリパーゼ活性低下はショ糖,でんぷんの添加では影響を受けなかったが,卵アルブミンの添加によりリパーゼ活性低下が抑制された.また,カゼインの添加ではリパーゼ活性が逆に増加した.6.にがりは顕著にリパーゼ活性を阻害し(p<0.001),そのリパーゼ活性低下には濃度依存性が認められた.
著者
田淵 晉也
出版者
宝塚造形芸術大学
雑誌
宝塚造形芸術大学紀要 (ISSN:09147543)
巻号頁・発行日
no.15, pp.117-132, 2001

西欧文化圏における個人主義的世界観は消滅する傾向にあり,その後,「全体制」に立脚した世界観が,「危機にある資本主義の時代」である,1910〜45年頃を中心に形成されたと,ルシアン・ゴールドマンをはじめとして,一般に主張されてきた。しかしながら,時期を同じくして出現したアヴァンギャルド芸術の諸形態から見ると,かならずしも,そのような個人主義的世界観が消滅の方向に向かったのではなく,むしろ変貌したと考えられる。それは,ルネッサンス時代の,遠近法による技法によって示されているような,個人を世界の中心に固定させ,不動の位置に凝縮させ,そこから世界を把握することを理想とする世界観から一変して,個人を膨張させ世界に充満させること,つまり,個人を希薄化するが,ボーダレスに拡大するという方向からとらえる,世界観である。それらについて,キュビスム,イタリア未来派,ダダ,シュルレアリスムなどのアヴァンギャルド芸術を検証することで,具体的に示した。
著者
坂井 弘紀
出版者
和光大学表現学部
雑誌
表現学部紀要 (ISSN:13463470)
巻号頁・発行日
no.16, pp.41-60, 2015

日本の民話・伝承について考えるとき、これまで多くの研究者が指摘してきたように、中央ユーラシアの遊牧民の民間伝承を避けて通ることはできない。本稿では、ユーラシアのテュルク系民族に語り継がれてきた『アルパムス・バトゥル』、『ナンバトゥル』・『エメラルド色のアンカ鳥』、『勇士エディゲ』、『ジャルマウズ・ケンピル』、『大ブルガルのクブラトの遺訓』などを取り上げ、日本に、これら中央ユーラシアの伝承・民話とよく似た伝承・説話が存在することを具体的に提示した。これらの話は、中央ユーラシアと日本の民話・伝承の比較研究に大きな示唆を与える適例であるといえよう。古来、遊牧騎馬民が駆け巡った、アルタイ地方を中心とする中央ユーラシアの草原地帯に、日本の民間伝承の起源を解く鍵があるかもしれない。本稿は、それを解くための「たたき台」となるはずである。
著者
新田 孝行
出版者
日本音楽学会
雑誌
音楽学 (ISSN:00302597)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.86-100, 2017

現代オペラ演出は音楽学の新しい課題である。ドイツ語圏ではレジーテアター(演出演劇)がオペラ愛好家や理論家の間で議論を呼んできた。台本上の地理的・時代的設定や登場人物の役柄、プロットを変更する権限を演出家に認めるレジーテアターは、「作品への忠実さ」を尊重せず、こじつけ的解釈を好む演出家の横暴と批判されることも多い。しかし、これを擁護する側は、台本やスコアだけでなく上演もオペラに含まれるとする記号論的観点から、忠実さの要求が的外れにすぎないと主張する。<br> 現代オペラ演出は、1990年代のアメリカで発展したニュー・ミュジコロジーと比較することができる。いずれも学問的‐芸術的実践に属する。前者が音楽学的に再検討されたオペラ上演ならば、後者は研究者による主観的・修辞的音楽言説である。両者はまた音楽作品の意味を動かそうとする。演出家は音楽家ではないが、演出によってオペラのイメージをつくりかえることができる。同じ目的のためニュー・ミュジコロジストは、ある楽曲をそれに新たなものを付け加えるような言語によって解釈する。<br> 言い換えれば、現代オペラ演出とニュー・ミュジコロジーはともに解釈学的性格を有する。ドイツ文学者ゲアハルト・ノイマンは、それを通してオペラに秘められた矛盾した意味が明らかになる窓としてレジーテアターを定義した。似たような考えに基づいて、ニュー・ミュジコロジーを代表する一人のローレンス・クレイマーは、自らの音楽解釈学を「解釈学的窓」という観点から定義している(『文化的実践としての音楽』、1990年)。最終的に、現代オペラ演出はニュー・ミュジコロジーの演劇的で、より説得的なヴァージョンと言える。なぜなら、劇場では作品とその解釈を区別することができないからである。
著者
橋本 貴幸 櫻庭 景植
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48100032-48100032, 2013

【目的】 我々は、第45回から47回日本理学療法学術大会において、足部内在屈筋を中心とした足趾把持筋力値の測定方法の確立、トレーニング方法の確立、トレーニングによる筋力値向上効果、アーチ形成効果を報告している。本研究の目的は、確立したトレーニング実施前後の運動パフォーマンスの効果について検証することである。【方法】 身体に際立った既往歴のない健常男性12名の左右それぞれ、計24足を対象とした。平均年齢は、29.3±4.6歳、平均身長172.5±7.3cm、平均体重64.9±12.8kgであった。 足部内在屈筋の筋力トレーニング方法は、第46回本学会報告内容同様とし、期間は8週間、頻度は週3回の1日1回、回数は200回、負荷量は3kgで実施した。 運動パフォーマンスの検査項目は、歩行以上の負荷がかかる動的運動を目的に、上方への跳躍力と左右両下肢の同時運動として垂直跳、左右それぞれの前方への跳躍力および推進力として片脚幅跳、疾走力および両下肢の交互運動として50mダッシュタイムの3項目を設定した。計測時は、靴下および運動靴を使用し、各2期測定時は同様のものを着用した。 垂直跳の測定は、測定値0.1cm毎に表示可能な竹井機器工業株式会社制ジャンプ-MD計測器を使用し数値化した。計測は、2回実施しその平均値を採用した。 片脚幅跳は、文部科学省新体力テスト立ち幅跳と同様の計測方法に準じて、計測下肢の爪先から踵までの距離をメジャーにて計測した。計測は、左右それぞれを交互に2回実施し、その平均値を採用した。 50mダッシュタイムの計測として、スタートの合図は、同一検者がスタートラインより掛け声と腕折で実施し、被検者はスタンディングポジションからスタートしゴールラインに胴が到達するまでに要した時間を同一検者がストップウォッチにてタイム計測した。計測回数は2回実施しその平均値を採用した。 統計処理は、トレーニング前後の値を、対応のあるt-testを用い検討した。なお、統計学的有意水準は危険率5%未満とし、統計処理には、SPSS;Version14.0(SPSS JAPAN Inc.)を使用した。【倫理的配慮、説明と同意】 順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科倫理委員会の承認(21-34号)を得たのち、全被検者に本研究の目的、内容について説明し、書面にて同意を得た。【結果】 垂直跳は、トレーニング前が平均54.6±7.3cm、トレーニング後が平均57.9±7.4cmとなり、トレーニング前後で有意な差(p<0.05)がみられた。 片脚幅跳において、左片脚幅跳は、トレーニング前が平均181.6±17.2cm、トレーニング後が平均196.1±13.9cmとなり、トレーニング前後で有意な差(p<0.01)がみられた。右片脚幅跳は、トレーニング前が平均178.7±15.8cm、トレーニング後が平均193.4±16.2cmとなり、トレーニング前後で有意な差(p<0.01)がみられた。 50mダッシュタイムは、トレーニング前が平均7.41±0.52sec、トレーニング後が平均7.08±0.45sec となり、トレーニング前後で有意な差(p<0.01)がみられた。【考察】 動的検査の3項目では、垂直跳高の増大、片脚幅跳距離の増大、50mダッシュタイムの短縮を認め、トレーニング後に運動パフォーマンスの向上が得られた。Rabitaらは、跳躍機能を高める要素は、筋腱構造と内在筋との硬さが重要であり、神経筋機能へのアプローチも重要と述べており、我々が報告している足部内在屈筋の足趾把持力値増大とアーチ形成に伴う足部の剛性を高められた結果であると推察された。Mannらは、全速力で走る場合、内在筋は体重負荷中常に活動していることを報告しており、負荷が高い条件下での足部内在屈筋活動性の向上が推察された。さらに、足関節底屈動作が頻繁に行われ負荷が高い・走、跳動作において、本トレーニングは底屈位での安定性とPIP・MP関節での駆出力を高められた結果、前方推進力および跳躍力の運動パフォーマンスが向上したと考えられた。【理学療法学研究としての意義】 足部内在屈筋は、着目すべき強化部位である。足部内在屈筋筋力トレーニングは、立位・歩行およびそれ以上の負荷の高い運動パフォーマンス向上に有用である。
著者
加藤 謙介
出版者
九州保健福祉大学
雑誌
九州保健福祉大学研究紀要 (ISSN:13455451)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.21-29, 2011-03

In this study, the relationship between pet animals and elderly residents in need of care was examined using a narrative approach. Semi-structured interviews were conducted with seven elderly residents of Nobeoka-city, Miyazaki, and with the social workers assigned to them. The author enquired about the relationship between the elderly individuals and their pets and focused on the benefits or difficulties associated with the animals in daily life. The analysis of narratives focused not only on the narrative content, but also on the manner in which the stories were narrated. The narratives fell into two general categories: (1) narratives including attachment and emotional bonding with the pet, based on a"model story"about the pet, and (2) narratives of the individuals own life story structured by their relationship with their pets. It is suggested that relationships with pet animals may contribute to the process of reconstructing the life story of elderly individuals.