- 著者
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白石 太一郎
- 出版者
- 国立歴史民俗博物館
- 雑誌
- 国立歴史民俗博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Japanese History (ISSN:02867400)
- 巻号頁・発行日
- vol.108, pp.93-118, 2003-10-31
古墳時代前期から中期初めにかけての4世紀前後の古墳の埋葬例のうちには,特に多量の腕輪形石製品をともなうものがある。鍬形石・石釧・車輪石の三種の腕輪形石製品は,いづれも弥生時代に南海産の貝で作られていた貝輪に起源するもので,神をまつる職能を持った司祭者を象徴する遺物と捉えられている。したがって,こうした特に多量の腕輪形石製品を持った被葬者は,呪術的・宗教的な性格の首長と考えられる。小論は,古墳の一つの埋葬施設から多量の腕輪形石製品が出土した例を取り上げて検討するとともに,一つの古墳の中でそうした埋葬施設の占める位置を検証し,一代の首長権のなかでの政治的・軍事的首長権と呪術的・宗教的首長権の関係を考察したものである。まず,一つの埋葬施設で多量の腕輪形石製品を持つ例を検討すると,武器・武具をほとんど伴わないもの(A類)と,多量の武器・武具を伴うもの(B類)の二者に明確に分離できる。前者が呪術的・宗教的首長であり,後者が呪術的・宗教的性格をも併せもつ政治的・軍事的首長であることはいうまでもなかろう。前者の中には,奈良県川西町島の山古墳前方部粘土槨のように,その被葬者が女性である可能性がきわめて高いものもある。次に両者が一つの古墳のなかで占める位置関係をみると,古墳の中心的な埋葬施設が1基でそれがB類であるもの,一つの古墳にA類とB類の埋葬施設があり,両者がほぼ同格のもの,明らかにB類が優位に立つものなどがある。それらを総合すると,この時期には政治的・軍事的首長権と呪術的・宗教的首長権の組合せで一代の首長権が成り立つ聖俗二重首長制が決して特殊なものではなかったことは明らかである。また一人の人物が首長権を掌握している場合でも,その首長は大量の武器・武具とともに多量の腕輪形石製品をもち,司祭者的権能をも兼ね備えていたことが知られるのである。