著者
宮崎 康
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.96-99, 2011-02-15

Case 1 「不眠,頭重,不安,イライラ」で来院した35歳の女性 35歳の女性が,「一日中頭が重くて疲れやすい,よく眠れず,イライラする」といって受診した.2カ月前頃,近医を受診し,育児ノイローゼと診断され,精神科受診を勧められたそうだ.当座処方された睡眠薬で一時落ち着いたが,最近は,何をするにも落ち着かず,不安感が強くなり,疲れやすく家事をする気にならないという.イライラして子どもを怒ってばかりいて,同居の母親にたしなめられることが多い.血圧は正常だが,脈拍が114回/分と速い.手指の震えがあり,手掌がしっとりしている.甲状腺はびまん性に腫大していて,眼球突出はないが,眼瞼攣縮がある.検査で,バセドウ病による甲状腺機能亢進症と診断した(表1).
著者
中川 照彦 土屋 正光 勝崎 耕世 小原 洋一 諏訪 清史 福田 修一 福島 芳宏
出版者
医学書院
雑誌
臨床整形外科 (ISSN:05570433)
巻号頁・発行日
vol.37, no.6, pp.685-692, 2002-06-25

1997年~2001年の5年間に,SLAP lesionに対し鏡視下上方関節唇修復術を行った野球選手の投球障害肩17例17肩を対象とした.全例男性で,手術時年齢は平均25.1歳(16~51歳)であった.ポジションは投手11例.野手6例.レベルはプロ野球3例,社会人野球3例,大学野球1例,高校野球5例,草野球5例であった.鏡視下上方関節唇修復術はSnyderの手技に準じて行い,後療法では特に術後3カ月以降の投球メニューについて詳述した.徒手検査ではcrank test,anterior apprehension肢位での疼痛,三森テスト.O'Brien testが有用であった.12カ月以上フォローアップできた13例中11例(85%)で完全復帰を果たした.術後復帰までの平均期間は.投手8.4カ月,野手6.8カ月であった.鏡視下上方関節唇修復術の手術成績は良好であり,上腕二頭筋長頭腱関節唇複合体の解剖学的修復という面からも,本術式は推奨できるものと考える.
著者
橋本 衛 池田 学
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.427-432, 2015-04-01

びまん性白質病変の精神症状を考察するうえで,皮質病変の影響を除外することは重要な問題である。特に高齢者ではアルツハイマー病(AD)を高頻度に合併するため,皮質下虚血性病変による症候と捉えていたものの中に皮質症状が混じっている可能性が十分ある。しかし,両者を厳密に分離することは困難であるので,本稿ではADと皮質下虚血性病変との相互作用,ADに皮質下病変を合併した際の臨床症候について考察する。虚血性白質病変やラクナ梗塞などの皮質下の小血管病変は,前頭葉を中心とした神経ネットワーク(前頭葉基底核視床回路)を障害し,高齢者においては認知機能低下,特に遂行機能障害を引き起こすことが報告されている。また,これらの病変がうつのリスクであることは繰り返し指摘されてきた。さらにこれらの皮質下虚血性病変がAD患者の妄想やせん妄などさまざまな精神症状のリスクとなる可能性も指摘されているが,研究は少なくそのメカニズムもいまだ不明な点が多い。
著者
太田 伸生
出版者
医学書院
雑誌
臨床検査 (ISSN:04851420)
巻号頁・発行日
vol.61, no.6, pp.770-771, 2017-06-15

世に金満家の話は珍しくないが,よい金持ちとイヤな金持ちがあるものだとは,私たち貧乏人のひがみも混じった感想である.ディケンズの『クリスマス・キャロル』に出てくるケチンボ経営者Scrooge氏がクリスマスの夜に幽霊に諭されてよい金持ちに変わる話には子ども心にも残った教訓である.よい金持ちというのはどんな人たちかと考えてみると,私財に固執せず,必要な場面で金離れよく寄付を惜しまないで,余計な口は挟まないのが理想の1つであろう.今回は,よい金持ちが1人の大寄生虫学者を育てた逸話を紹介したい. 私は母校の同窓会誌に時々,駄文を寄稿しているが,あるとき,山口左仲という寄生虫学者を紹介してみようと思った.基礎医学の人間は暇があることに加えて偏執狂の傾向があり,私も彼について資料を集め,また長野県の生家を訪ねて取材のまねごとまでやって山口左仲についての拙文を書き上げたのである.左仲という人は昭和20〜30年代にかけて活躍した寄生虫学者であり,地球上の動物の寄生虫をともかく調べまくって,詳細な図譜とともに寄生虫の大カタログを書き上げたすごい人である.たいがいの寄生虫は左仲の本に載っている.左仲は医者でありながら京都帝大の理学部で学位を取得した本格的な寄生虫学者であり,その記述はあくまでも科学的に精緻である.
著者
川越 雅弘
出版者
医学書院
雑誌
総合リハビリテーション (ISSN:03869822)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.305-311, 2019-04-10

はじめに 団塊の世代が90歳台に入る2040年にかけて,85歳以上高齢者(以下,超高齢者)が急増する.超高齢者は,他の年齢層に比べ,医療や介護,生活支援に対するニーズが高い.また,入院や死亡に対するリスクも高い.さまざまな環境の変化の影響も受けやすく,状態変化も来しやすい.生活上の課題も多領域にわたるため,単一職種だけでは課題が解決できないことも多い.これら特性,特徴を有する超高齢者が,住み慣れた地域で,安全かつ安心な生活を送るためには,医療・介護・生活支援サービスの包括的提供体制の構築と多職種間の連携強化が必要となる.こうした背景のもと,厚生労働省は,さまざまな多職種連携策を推進しているが,これら施策の意図や内容を理解するためには,まずその背景を理解しておく必要がある. そこで,多職種連携が求められる背景について,人口構造の変化,高齢者の医療・介護ニーズの視点から整理を行う.次に,多職種連携の機能強化に関する制度改正/報酬改定のなかから,リハビリテーションに関する3つのテーマ(① 入退院・退所時の連携強化,② 入院中〜退院後の一貫したリハビリテーション提供の促進(同一職種間の縦の連携強化),③ 自立支援・重度化防止の推進)に焦点を当て,リハビリテーションの視点からみた制度改正/報酬改定のポイントとリハビリテーション職に期待される役割について解説する.最後に,同一職種および他の職種間との連携強化策について私見を述べる.
著者
木村 彰男
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.485-487, 1997-05-01

はじめに バイオフィードバックとは,通常ではヒトが意識することができない生体内で起こるさまざまな生理的現象を,なんらかの手段を用いて知覚できる信号に変換することにより,その情報を再び生体内に戻し,生理的現象の随意的操作がある程度可能になることと定義できる. バイオフィードバックは医学関係のみならず,心理学や医用工学などさまざまな分野から興味が持たれており,表に示すように,種々の方法によりアプローチされている.なかでも筋電図バイオフィードバック療法は,筋再教育・筋力増強訓練ないし筋緊張緩和に対し,手軽で効果も確実なために,リハビリテーション医学の分野で最も広く用いられている1,2).
著者
内藤 笑美子 出羽 厚二 山内 春夫
出版者
金原一郎記念医学医療振興財団
雑誌
生体の科学 (ISSN:03709531)
巻号頁・発行日
vol.46, no.6, pp.746-751, 1995-12-15

ヒトの性別は,通常性染色体により決められている。男性はX染色体とY染色体を各々1本ずつ,女性は2本のX染色体を有している。ヒト細胞の染色体数が46,XY(男性),46,XX(女性)であることが明らかになったのは1956年TjioとLevanによるものであった。DNA分析が盛んになるまでは,性別を判定するために染色体の核型分析(G染色やQバンド)法,あるいは女性のX染色体に由来するX-クロマチン(Barr body)1)やY染色体由来のY-クロマチン(Y-body F-body)2)を検出する方法が行われてきた。現在では,性染色体DNAの塩基配列も次々と解析され,性別判定に利用されている。1985年にPCR法3)が開発されてからは,もっぱらX染色体やY染色体に特異的であるDNA配列をマーカーとした種々のPCR法による性別判定法が行われている。これらの方法は,臨床では胎児の出生前診断4)や性染色体異常の診断5),また異性間で行われた骨髄移植のドナー細胞生着確認6)などに利用されている。法医学領域でも性別の判定は重要である。法医試料について,性別を知ることは個人を識別する上で重要な情報となる。なぜなら各個人の生前の性別はほとんどわかっているからである。特に男女の形態的特徴が欠けている場合,たとえば白骨の一部,バラバラ死体や焼死体などの身元確認に性別判定が役立っている。
著者
島田 和之
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
巻号頁・発行日
pp.352-356, 2015-04-01

血管内リンパ腫intravascular lymphomatosis(IVL)は,主として全身の血管内に腫瘍細胞が増殖する節外性リンパ腫の一型である。そのほとんどがB細胞性リンパ腫であることから,現行のWHO分類1)においては,血管内大細胞型B細胞リンパ腫intravascular large B cell lymphoma(IVLBCL)として記載されている。悪性リンパ腫の一般的特徴であるリンパ節腫脹を欠き,臨床症状も発熱や血球減少など非特異的なものに限られるため,疾患の認知度が向上した現在においても,しばしば診断に苦慮することが多い疾患である。 本稿では,特集テーマ“ICUで遭遇する血液疾患”に合わせて,本疾患の臨床症状,診断法,治療法について概説する。Summary●血管内リンパ腫には特異的な臨床症状はなく,診断に苦慮することが少なくない。●一方,正確な診断がつけば治癒を目指し得るため,本疾患の“知識”と“疑うこと”が大切である。●診断においては骨髄穿刺/生検が多く施行されているが,最近ではランダム皮膚生検,経気管支肺生検が注目されている。●我が国でR-CHOP+R-high-dose MTX療法の前向き試験が進行中であり,結果が待たれる。
著者
中川 尚志
出版者
医学書院
雑誌
耳鼻咽喉科・頭頸部外科 (ISSN:09143491)
巻号頁・発行日
vol.82, no.5, pp.145-148, 2010-04-30

Ⅰ アブミ骨筋反射の機序1,2) 大きな音で中耳内にあるアブミ骨筋が収縮する反射をアブミ骨筋反射(stapedius reflex:SR)と呼ぶ。SRは伝音系の振動を抑制し,内耳への音入力を調節する。反射弓は求心路が蝸牛神経(聴神経)で遠心路が顔面神経である。また同時に三叉神経を遠心路として鼓膜張筋も収縮する。これらの反射を合わせて音響性耳小骨筋反射(acoustic reflex:AR)という用語が使われている。ARの測定は音刺激によって生じる外耳道腔の静的コンプライアンスの減少をインピーダンス・オージオメトリーで記録したものである。インピーダンス・オージオメトリーは別章で述べられているので,詳細はそちらを参照いただきたい。ARで総称されているが,鼓膜張筋腱反射の閾値は高いため,実際に臨床で測定している反応は主にSRである。 図1にSRの経路および関係する場所を模式的に表した。SRの入力系は聴覚で,効果器はアブミ骨筋である。外耳と中耳からなる伝音系が音を蝸牛に伝え,蝸牛で音刺激が電気信号に変換される。音のラウドネスは蝸牛神経の発火数,神経インパルスで表現される。神経インパルスが閾値を超えると橋にある腹側蝸牛神経核に入力された信号が上オリーブ複合体を経由して,顔面神経核を刺激する。この結果,遠心路である顔面神経を通して,アブミ骨筋が収縮する。アブミ骨筋が収縮するとアブミ骨の可動性が低下し,アブミ骨に連続する耳小骨および鼓膜のスティフネスが増加する。外耳道腔の一部を形成する鼓膜のスティフネスが増加した結果,外耳道腔の静的インピーダンスが増加する。インピーダンスはスティフネスの逆数であるコンプライアンスで測定しているため,AR検査ではコンプライアンスの減少,下向きの変化として記録される。静的コンプライアンスは個人差が大きいため,AR検査は相対的なコンプライアンスの変化をみる質的な検査である。
著者
内藤 裕二 落合 淳 吉川 敏一
出版者
医学書院
雑誌
胃と腸 (ISSN:05362180)
巻号頁・発行日
vol.35, no.10, pp.1233-1238, 2000-09-25

要旨 食道アカラシアは食道体部一次蠕動波の消失,下部食道括約筋の弛緩障害を特徴とする機能的疾患である.末梢神経には抑制性の非アドレナリン非コリン(NANC)作動性神経が存在し,一酸化窒素(NO),血管作動性腸管ペプチド(VIP),カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)がNANC作動性神経のneurotransmitterとして筋弛緩や蠕動運動に関わっている.L-arginineからnNOS(神経型NO合成酵素)により合成されたNOは,直接平滑筋細胞に作用してcGMPを産生し平滑筋弛緩させ,VIPはVIPレセプターと結合してNOSを活性化し,あるいはcAMPを産生し筋弛緩を起こす.CGRPの作用機序についてはいまだ不明である.食道アカラシア症例において,nNOS含有神経細胞の減少が観察されており,NO pathwayの解明は新規治療法につながる可能性がある.
著者
野田 実香
出版者
医学書院
雑誌
臨床眼科 (ISSN:03705579)
巻号頁・発行日
vol.60, no.9, pp.1570-1575, 2006-09-15

眼窩脂肪脱orbital fat prolapse(眼窩脂肪ヘルニアherniated orbital fatともいう)は,眼瞼皮下と結膜下に生じ得る。筋円錐外の脂肪織が眼窩隔膜の脆弱部から皮下にヘルニアを起こすと眼窩脂肪脱として認められ,筋円錐内の脂肪織がテノン囊の脆弱部から結膜下にヘルニアを起こすと結膜下脂肪脱として認められると考えられている1~3)。強膜の前に脱出した結膜下の脂肪は,CTなどの画像検査で筋円錐内の脂肪織と連続していることが確認されている1,3)。 結膜下脂肪脱の原因は主に加齢であるが,ほかに外傷,テノン囊下への注射4)が原因になることがある。鑑別診断として,脂肪腫,涙腺脱,リンパ腫が挙げられる。
著者
小田 雅也
出版者
医学書院
雑誌
神経研究の進歩 (ISSN:00018724)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.617-629, 1993-08-10

はじめに 今から30年ほど前には,肝脳相関する疾患の研究は大きなトピックであり,現在われわれの持っている知識の多くはその頃に発展した1)。その結果,治療の著しい進歩によって,最近ではこの種の疾患は激減し,患者の予後も好転するとともに,研究テーマとしてはやや古くなった感がなきにしもあらずだが,とくに“肝性グリア”と言われるように,アストロサイトの異常形態の多くが,肝性脳症をもととして明らかにされ,これらの研究を通して,神経系機能におけるグリアの重要性が認識される糸口となった。以下には肝疾患のグリア障害につき,著者自身の研究を中心として,形態的な側面から概観する。 定型的な肝性脳症の臨床・病理像の中核は,長期にわたって反復する意識障害のエピソードと,グリアと実質(ニューロン)の二本立ての脳障害である(表1)。これにいかにアストロサイトの異常が役割を演ずるかは,今なお未解決の課題である。最近では,アストロサイトの培養,免疫組織化学,生化学分析,電顕などを併用して,肝性脳症の発生機序に関するbiopathologicalな研究が発展しつつある。
著者
大田 貴弘
出版者
医学書院
雑誌
総合診療 (ISSN:21888051)
巻号頁・発行日
vol.29, no.5, pp.537, 2019-05-15

gestalt 暗い中、側臥位で片眼(例:右眼)を枕にうずめ、左眼だけでスマートフォン(スマホ)の明るい画面を見る状況(図1)を想定する。スマホを消し両眼視に戻ると、うずめた枕の暗さに適応していた右眼に比べ、明るい画面に適応していた左眼は暗順応に時間を要し、一時的に見えづらく感じる現象のことを指す1)。
著者
小柳 憲司
出版者
金原出版
巻号頁・発行日
pp.1019-1022, 2018-09-01

器質的・機能的にかかわらず,効果の高い治療法のない疾患は慢性に経過しやすく,心の影響を強く受けるため,心身症化しやすい。そのなかで思春期女子に多いものとして,起立性調節障害,過敏性腸症候群,慢性連日性頭痛,過換気症候群などがある。このような疾患の治療においては,原因を1つに限定するのではなく,身体面・心理面を含んだ心身医学的アプローチが重要となる。
著者
中野 美保
出版者
医学書院
雑誌
看護教育 (ISSN:00471895)
巻号頁・発行日
vol.51, no.8, pp.678-681, 2010-08-25

はじめに 高齢者は加齢による機能低下に加えて,何らかの原因で長期臥床した場合,急速に日常生活能力が低下する。その結果,自尊感情の低下が生じ,生きる目的や意味が見出せなくなり,生活全体が活動性の低い状態になる。そうした状態を改善するためには,活動性を高め回復意欲を向上させるための,日常生活動作(以下,ADL)の自立に向けた援助が肝要となる。 S氏は70歳代後半の老年期の女性で,膵炎の再燃と寛解を繰り返し,入院8か月目となっていた。受持ち時,リハビリテーション(以下,リハビリ)が再開されたが「何もできない」「思うように立てない」「リハビリが進んでいるように全然感じない」等,否定的な言動が多くみられた。 今回担当した患者に対して,ADLの拡大に向けて,患者が喜びや楽しさを実感することができ,手指の巧緻性を高める指導・援助を行うことが有効であろうと考えた。そこで,遊びを交えたリハビリを行うことで,患者の回復意欲の向上が図られ,効果的にADLを拡大できる指導援助に取り組んだ。 このような「遊びリテーション」(三好春樹氏が提唱している,リハビリに遊びの要素を取り入れたもの)を取り入れることで,高齢者の回復意欲を喚起し,ADLを拡大させるための有効な手段になるかを,実践を通して明らかにしたいと考え,本主題を設定した。
著者
上野 文昭
出版者
医学書院
雑誌
medicina (ISSN:00257699)
巻号頁・発行日
vol.26, no.6, pp.1066-1067, 1989-06-10

慢性肝疾患は数ある慢性疾患の中でも最も経過の長い疾患の1つです.慢性非活動性肝炎はもちろんのこと,最も重篤とされている肝硬変症にしても突発的なことが起こらない限り長い経過をたどるのが普通です.腹水,黄疸,脳症を呈しているような非代償性肝硬変症にしても例外ではなく,適切なマネージメントがなされていれば,そうやたらに急変はしません.このような非代償性肝硬変症の患者が急速に悪化してきたようなとき,すなわち腹水が増加し,黄疸が増強し,意識レベルも低下し,肝機能検査も増悪してきた場合には,どのような原因が考えられるでしょうか.しばらく時間をさいて可能性のある原因を頭に思い浮かべて下さい.
著者
武部 恭一 石川 斉 広畑 和志
出版者
医学書院
雑誌
臨床整形外科 (ISSN:05570433)
巻号頁・発行日
vol.17, no.9, pp.957-962, 1982-09-25

ファベラは腓腹筋外側頭に存在する種子骨であり,本邦でもYano21),大井11),Kojima8)らによる解剖学的調査の報告が古くよりみられる.しかし一般には,その臨床的意義は小さいと考えられており,臨床上問題となることはまれである.1977年Weinerら20)はファベラにおける鋭い疼痛,限局した圧痛,膝伸展時痛の3症状がみられる症例をファベラ症候群として報告した. 我々も最近ファベラが膝部痛の原因となったと考えられ,彼らのいうファベラ症候群と思われる症例を経験したので,その臨床症状ならびに病態などにつき検討を加え報告する.
著者
唄 孝一
出版者
医学書院
雑誌
公衆衛生 (ISSN:03685187)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.10-14, 1973-01-15

健康権という概念を,独立の熟したことばとしては耳にしたことは必ずしも多くない.そして今,健康権を唱導することに私はたしかにある意欲と使命感とを感じている.しかし,それとともに,この新しいターミノロジーのもとにまた「××権」を一つ加えることに,ある種のシュプレヒコールにあるあの空しさ,とまではいわぬにしても,こういう問題のとり上げ方の必要性に多少の懐疑心をすてきれないこともまた事実である.この二つの,少なくとも外見的には矛盾する自己反応を,ともかくもじっとふりかえりみつめてみよう,そしてさらにこの心象風景を生み出す客観的条件の考究に着手してみよう,これが本稿の趣旨である. 端的にいって,健康権というとき,憲法25条を思い出さない人は少ないであろう.すなわちそれは「すべて国民は,健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」ことを明記しているからである.これは生存権的基本権として注目され,単に法学界だけでなく法律実務上でも,いや国民生活一般の上でかなり論議されまたそれなりに機能してきた規定である.
著者
佐藤 裕
出版者
医学書院
雑誌
臨床外科 (ISSN:03869857)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.466-468, 2004-04-20

1881年に行った胃癌切除手術があまりにも有名なため,Billrothが1873年に世界に先駆けて喉頭癌を切除したことは忘れられがちであるが,ヨーロッパではBillrothの業績を語るに際しては,むしろ胃癌より喉頭癌切除手術のほうが先に取り上げられる(以前「ビルロート余滴・4」で述べたように,ウィーン大学付属医学史博物館のBillroth顕彰文でもまず1873年に行われた喉頭全摘手術のことが先に述べられている:図1).言い換えれば,Billrothが「近代外科学のパイオニア」と賞せられるようになるきっかけはこの喉頭全摘手術であったと言える. 今回は,以前よりたびたび引用しているAbsolonの論文に基づいて,この歴史的手術の詳細を紹介していくことにする.
著者
荒木 徹 沖宗 正明 松元 鉄二
出版者
医学書院
雑誌
臨床泌尿器科 (ISSN:03852393)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.157-159, 1984-02-20

尿道下裂,Peyronie病,尿道狭窄などの原因がなく勃起時にだけ陰茎が弯曲する先天性陰茎彎曲症には通常Nesbitの手術1)が行われる。最近われわれも勃起時腹側に弯曲する本症の1例をNesbitの方法で治癒させえた。この際,矯正が満足できるものとなつたか否かを術中に人工勃起を作つて確かめ,また陰茎海綿体白膜上の血管と神経の損傷を防ぐために生食水を注入してこれらを遊離して手術を行い好結果を得たので報告する。