著者
森山 千賀子
出版者
福祉社会学会
雑誌
福祉社会学研究 (ISSN:13493337)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.26-40, 2009-06-01 (Released:2019-10-10)
参考文献数
5

本稿の目的は,介護保険下における介護現場がかかえる課題の現状を把握し,介護労働のこれからの方向性の一端を検討することである.介護人材の資質向上策としては,介護の質の保障を目指して社会福祉士及び介護福祉士法が,約20年ぶり改正された.しかし,法改正の動向とは裏腹に介護保険法の改正以降の労働環境の変化は,労働条件の悪化や離職率の増加をもたらし,介護人材の量的確保が図れない事態をつくり出している.また,経済連携協定(以下, EPA) による外国人介護労働者の受け入れは,介護労働力として期待されている向きもあるが,一方で, EPAの配慮措置による准介護福祉士の創設が,新たな階層化や低賃金化を生み出すのではないかと危慎されている.介護労働がかかえる課題は,多岐にわたっている. しかし,介護の質の保障と人材の量的確保は重要な政策課題である.加えて,経済のグローバル化なかでは,外国人介護労働者の参入は避けて通れない道でもある.したがって,介護労働が社会的介護の役割を担い働きがいのある労働になるには,働き方の見直し,労働環境の整備と専門職性の醸成,そして,グローバル化に対応し得る国内での介護労働そのものの位置の確立が,必要かつ急務の課題であると考える.
著者
橋本 慎吾
出版者
岐阜大学
雑誌
岐阜大学留学生センター紀要
巻号頁・発行日
vol.2000, pp.17-24, 2001-02

本稿は,初級前半教科書である『みんなの日本語I」の各課別の語彙頻度を調査した。特殊モーラについて分析した結果,次の3点が明らかになった。(1)促音登場回数は撥音,長音より少ない。(2)促音は各課の文法項目に関連する語彙に多く現れ,いくつかの大きなグループにまとめることができる。(3)促音について詳しく見ると,促音を含む出現頻度の高い語彙は各課1つ程度である。この3点から,従来から難しい音とされている促音の導入及び音声特徴としての練習は,必ずしも初級前半から行なう必要はないことを主張する。この主張に関連して,音声教育における「音声の問題」と「規則の問題」についても説明する。
著者
山口幸洋著
出版者
秋山書店
巻号頁・発行日
1982
著者
山田 高敬 赤星 聖
出版者
名古屋大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2018-06-29

2021年度の主な研究実績は、以下の2点である。一つは、2020年5月にベルリン自由大学の研究チームと共同でオンライン開催した会議の際に提出した論文を加筆修正した。もう一つは、2022年3月に開催された米国国際政治学会で研究成果を報告したことである。前者に関しては、『国際政治』掲載の論文から得られたデータを新たな基準(特に方法論に関して記述的な研究と事例研究の違いに関する基準を明確化)で分析し直し、米国のInternational Studies Quarterly及びInternational Organization、ドイツのZeitschrift fur Internationale Beziehungeなど海外学術誌のデータとの比較可能性を向上させ、さらに日本の特徴である低理論依存性が日本における外交史研究や地域研究の優位性と強い相関があることを統計学的に示した。その上で、改めて日本の国際関係論がグローバルな国際関係論に統合するポテンシャルについてコペンハーゲン大学のクリステンセンの研究などを参考に多角的に検討した。後者に関しては、上記の研究成果をドイツ側の研究者と共有した上で、さらに発展させ、その成果を上述の米国国際政治学会で報告した。報告では、グローバルな国際関係論の「中心」の外郭に存在する日本とドイツの国際関係論がどの程度「中心」に統合されているのかを欧米の学術誌への投稿論文の数や海外博士号取得者の数などのデータを基に分析し、さらにそのような統合を妨げる要因についても検討した。分析の結果、日独の研究者の大部分が自国内で学位を取得していているため「中心」からの独立性が高いという点や、日本ではドイツよりも母国語での研究成果発表に重点が置かれている点、さらにはドイツと比較して英語を媒体とする海外専門誌における日本人研究者のプレゼンスが低い点などが明らかとなった。
著者
白戸 力弥
出版者
北海道文教大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2021-04-01

手首関節部の骨折である、橈骨遠位端骨折の手術後は、痛みや手関節の可動域制限により、安全な自動車運転操作が困難となる。本研究では自動車運転シミュレータを用いて、橈骨遠位端骨折手術後の上肢を使用した両上肢による運転能力を経時的に定量化し、安全な運転再開がいつから可能か、またそれに必要な手関節の機能を明らかにする。これらより、橈骨遠位端骨折手術後の安全な自動車運転再開に関する指標の確立を目指す。
著者
鈴木 貴大
出版者
日本経営倫理学会
雑誌
日本経営倫理学会誌 (ISSN:13436627)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.49-60, 2018-02-28 (Released:2018-04-13)

This paper aims to examine the significance of business ethics research focusing on individuals in organization. In recent years, with the rapid progress of globalization and technological innovation, the influence of a human being is larger than before. In view of this point, it can be said that there is a limit in preventing organization scandals only by the conventional business ethics framework. Based on this understanding, this paper first conforms the contents of conventional norm ethics approach, in particular deontology and utilitarianism, and try to find these problems. In addition, by adding the viewpoint of virtue ethics, we will assert the importance of business ethics research focusing on acting entity rather than act.
著者
谷口 勇仁
出版者
北海道大学大学院経済学研究院
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.68, no.1, pp.25-33, 2018-06-14

企業事故・不祥事の発生原因については,倫理制度の不備,倫理風土の欠如など多くの要因が指摘されている。その中で,企業事故・不祥事発生の直接的な原因として指摘される要因が規則違反である。そこで,本稿は,インタビュー調査を基に,規則違反行動に至るプロセスについて探索を行なうことを目的とする。まず,規則の定義と類型,そして,規則違反の要因についての先行研究の整理を行った。先行研究においては,規則違反行動の要因として,個人的要因,組織的要因,ハードウェアの要因,規則に関連する要因が指摘されていた。次に,「これまで遵守してきた規則を違反する際の要因」に関して半構造化インタビューによる調査を行った。インタビュー調査の結果,これまで遵守してきた規則を違反するプロセスを構成する要因として,①解決困難な課題(解決が困難で,組織にとって重要だと認識されている課題),②上司の姿勢(上司による問題解決のプロセスに関する無関心の表明),③合理化(規則違反行動の正当化)という3つの要因が抽出された。
著者
水村 典弘
出版者
日本経営倫理学会
雑誌
日本経営倫理学会誌 (ISSN:13436627)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.221-233, 2020 (Released:2021-12-27)

Japanese companies are putting a great deal of energy into efforts to improve their ethicality and have established systems to promote corporate compliance program — installing codes of ethics, corporate ethics and legal compliance program, ethics helpline, and ethics training. Despite all this effort, observed illegal/unethical behavior in the workplace is on the rise. This paper focuses on “compliance training program for employees” conducted in the workplace and consists of the following three elements: (1)a comprehensive review of the literature on ethical decision-making models(2) behavioral business ethics approach to ethics training and(3)how to build an effective training program.
著者
南部 滋郎 田中 晋 南部 文子
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.22, no.4, pp.383-391, 2000-12-01 (Released:2017-04-11)
被引用文献数
4 1

アルテミア(属名, Artemia)は節足動物, 甲殻類に分類される動物で, 生態学的にも実験研究的にも大変興味深い存在である. 幼生を用いた実験は記載が多いが, 世代を繰り返し特定な系統を分離するような実験は報告がなく, 飼育法に関して書かれているものが見あたらない. 我々はアルテミアをモデル動物の1つとしてとらえ, 実験材料としてより有用にするため, その近交系株を樹立しつつある. そこで, その飼育法についての我々の実践および飼育成績を述べ, また近年唱えられているアルテミアの分類について記した.
著者
前田 薫 生駒 美穂
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.251-258, 2018-10-25 (Released:2018-11-07)
参考文献数
19

【目的】がん患者の痛みを緩和するために,オピオイドを漸増し,結果的に非常に高用量となる症例をしばしば経験する.今回,がん患者のオピオイド投与量に影響する因子について検討した.【方法】2009年1月1日から2014年12月31日までに新潟大学医歯学総合病院緩和ケアチームが関与した患者のうち,20歳以上で固形がんと診断され,オピオイドの処方を開始から死亡まで当院で行った症例について,電子カルテによる後ろ向き調査を行った.オピオイド徐放製剤の量に応じてA群(経口モルヒネ換算で120 mg/日未満),B群(同120 mg/日以上300 mg/日未満),C群(300 mg/日以上)の3群に分け,オピオイド量に影響する因子について検討した.【結果】対象は109名.A群は51名,B群は33名,C群は25名であった.C群では他群に比べ年齢が低く,オピオイドの投与期間が長く,増量幅が大きく,神経浸潤が多かった.【結論】がん患者において,若年,長いオピオイドの投与期間,オピオイドの増量幅が大きいこと,神経障害性痛の要素が,高用量のオピオイド投与に影響する可能性が示唆された.
著者
仲谷 政剛 大窪 伸太郎 野々川 舞
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム (ISSN:13487116)
巻号頁・発行日
vol.24, pp.159-167, 2018 (Released:2019-09-01)
参考文献数
18

本研究の目的は, 簡便に足部剛性を定量化する手法を提案すると共に, 走動作中の着地衝撃との関係を検討することである. 被験者は成人男性13名とし, 座位および立位における舟状骨高および鉛直方向地面反力を測定した. 両姿勢における荷重変化を舟状骨高変化率にて除した値を足部剛性とし, 体重の38.575% (足部および下腿部質量, ならびに大腿部質量および質量中心位置より算出) を舟状骨変化率で除した値を簡易足部剛性として, それぞれ算出した. その結果, 足部剛性と簡易足部剛性は良く一致することが確認できたと共に, 簡易足部剛性と着地衝撃との間に正の相関関係が確認できた (r=0.889, p<0.01). 本結果から, 足部の形状変化から得られる足部剛性の評価により, 走動作中の着地衝撃の大きさを予測可能であることが示された.
著者
成田 泰子
出版者
北海道大学大学院経済学研究科
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.57-68, 2004-03-09

1870年代以降、イギリス古典派経済学は衰退の様相を呈していた。その様な中でイギリス国内において、従来の古典派経済学の方法を激しく批判し、歴史的方法を採用すべきことを訴えたイギリス歴史学派が台頭してきた。彼らは、古典派に代わって主流派を形成するかのような勢いを示した。こうした状況の中で、ジョン・ネヴィル・ケインズ(John Neville Keynes)は、1891年、『経済学の領域と方法』を著し、理論派と歴史派との対立を理論派の立場から調停しようと試みた。本稿においては、『領域と方法』を、イギリス歴史学派による古典派批判に対するケインズからの回答の書として位置づける。なぜなら、ケインズが、イギリス歴史学派の活発な動きを非常に意識していたであろうことが容易に推察されるからである。こうして、従来ほとんど言及されることがなかったケインズとイギリス歴史学派との関係に着目し、イギリス歴史学派からの批判に対して、ケインズがどのような回答を与えたのかという点を、特に経済学の領域問題に焦点をあてて考察する。そして、ケインズがなした回答が経済学史上、いかなる意義持ったのかということを明確にする。
著者
近藤 明夫
出版者
一般社団法人 照明学会
雑誌
照明学会誌 (ISSN:00192341)
巻号頁・発行日
vol.71, no.11, pp.687-691, 1987-11-01 (Released:2011-07-19)
被引用文献数
1
著者
清藤 武暢
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.16, no.3, pp.196-204, 2023-01-01 (Released:2023-01-01)
参考文献数
30

近年, 異なる組織間でのデータ共有・活用を実現できるプラットホーム (クラウドやブロックチェーンなど) の構築や運用が進んでいる. こうした動きに伴い, 様々な分野において当該プラットホームを利用したデータ共有・活用による社内業務の効率化や新たな価値創出に関する検討が進められている. 特に, 当該業務/サービスにおいて機械学習を利用している組織などでは, こうしたデータ共有・活用により機械学習の性能向上が期待される連合学習 (Federated Learning) と呼ばれる技術が注目されている. 連合学習は, 学習対象のデータセットが複数の組織などで分散管理されている状況において, データセットそのものを当該組織間で共有することなく, 全てのデータセットの特性を反映させた機械学習のモデルを生成できる技術である. 最近では, マーケティングや社内業務の効率などを向上させることを目的とした当該技術の利用に関する検討も活発化している. そこで, 本稿では, 連合学習について概説するとともに, 当該技術に対する攻撃手法とその対策, および実装プラットホームに関する最近の動向について紹介する.
著者
吉村 千恵
出版者
京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科
雑誌
アジア・アフリカ地域研究 (ISSN:13462466)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.220-256, 2011-03-31 (Released:2018-12-05)
参考文献数
34
被引用文献数
1

By examining how care is practiced in the community in Thailand from the perspective of people with disabilities (PWDs), this paper attempts to trace how “disability” enhances communication between PWDs and people in the community, and how it organizes the human network towards formation of a new community that shares commonality and sociality.PWDs have needs for care which the public care system does not sufficiently support. The more severe their disability, the greater will be demand for care to meet their basic daily care needs. Therefore, most Thais with disabilities who live in a community depend on care given by family or neighbors. It is not uncommon in Thai society for family take care of a disabled member with the cooperation of a wider network of kin. In addition to family support, most PWDs can utilize inexpensive community services. Thus, PWDs live closely with people in the community.In my investigation in Thailand, however, the role of “care” is not only in providing services for PWDs. It also functions as a tool for building relationships between PWDs and people in the community, as well as among PWDs. Through the practice of care, PWDs construct new relationships and re-define what they can and can not do. This means that disability no longer depends solely on the physical condition of PWDs, but rather that it must be defined as being created in the social processes involving both the PWDs and the surrounding environment.Relationships among PWDs as well as between PWDs and non-PWDs are based on the fact of “disability.” Due to this common premise, PWDs and community members can have basic communication, and PWDs can gain care from them smoothly. In their community, PWDs manage their life and getting care by using disability as a skill of communication. Through cooperative activities of care, PWDs are creating a new community by sharing the common experience of disability and care, extending the practice of care into the public sphere.